雲一つ無く風も穏やかな午後、鎮守府の出撃港にて二人の艦娘が睨み合っていた。
「今日こそ一航戦ぶっ潰す!!」
「やってみなさい五航戦。」
しばらく睨み合って後に、両者とも艤装を装着して静かに海へと繰り出してゆく。その背中は譲れないものを守る為、欲するものを手に入れる為に相手を倒すという覚悟を決めたものだった。見送る者達も何も言わず、ただ二人の健闘を祈ることしか出来なかった。
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「さあ、皆さんお待たせ致しました!!これより一航戦加賀さんVS五航戦瑞鶴さんのケッコンカッコカリの指輪をかけた演習を開始します!!実況は私青葉が務めさせて頂きます。そして解説にはこの方をお呼びしました!!」
「軽空母の龍驤やで!ばっちり解説したるわ、皆楽しんでな!!」
「はい、ということで今回は鳳翔さんに断られてしまいましたので、龍驤さんをお呼びしてのお送りとなります。」
「ちょっと待てや!!その情報いらんやろ!?なんか鳳翔さんに断られて仕方なくうちを呼んだみたいな感じやん!?」
「ええ、実際には鳳翔さん、提督、赤城さん、翔鶴さんに断られたので龍驤さんの出番になりました。」
「なんやそれ!?なんやそれ!?めっちゃたらい回しになっとるやん!?」
「えっと、鳳翔さんはこういう放送で喋るのはちょっとと断られ、提督は演習を公平な視点で見守る義務があると断られ、赤城さんと翔鶴さんには公平な判断が出来ないからと断られてしまいました。」
「それは分かったけどなぁ!その情報なんで今出したんや!?うちこれに呼ばれるのめっちや楽しみにしとったんやで!?」
「まあまあ、ここは歴戦の空母の一人として解説お願いしますよ~。龍驤さんの解説楽しみにしてる娘達も居るんですから。」
「はぁ、なら最初からテンション下がる事言わんとって欲しいわぁ・・・まあええよ、とりあえず話進めてや。」
「はぁ~い。今回の演習は空母同士の一対一での真っ向勝負となりまして、勝った方が提督からケッコンカッコカリの指輪を貰うという、分かりやすい話ですね。」
「まあ、そうやなぁ。やっぱり一番に指輪貰いたいもんなぁ・・・うちも欲しかったけど、あの二人の本当に鬼気迫る頑張りを見せられたらかなわんなぁ。せやけど今提督の手にある指輪は一つだけやし、後腐れ無いように決闘でけり着けるんは悪く無い話かもなぁ。」
「お互いに競い合うように練度を高めてましたからねぇ。その二人が決闘となるとやはり注目も集まりましたから、今日非番の娘達はほとんど集まって戦いを見に来てますね。」
「そりゃ気になるやろなぁ。せやからこんな実況放送なんて遊びを始めた訳やからな。」
「それでは龍驤さん、今回の演習のポイントはどこでしょうか?」
「せやなぁ・・・能力だけで言えば瑞鶴が有利なんやけどなぁ。装甲空母やから中破しても戦えるんは明確な強みやな。せやけどこれまでに二人でやりあった時は加賀が全部勝っとるからなぁ。やっぱり加賀は上手いで。その加賀を瑞鶴がどうやって攻略するかが見ものやな。」
「ふーむ、流石は一航戦ですね。しかし今までの演習でもギリギリの勝負が多かったですし、どっちが勝ってもおかしくありません。さあ、そろそろ演習開始の合図ですね!!いったいどのような戦いを見せてくれるのでしょうか!?」
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心を落ち着けて演習開始の合図を待つ。相手は私達一航戦を目標にと頑張って来た五航戦の娘。一航戦の誇りにかけて負けないように努力をしてきたが、彼女は諦めずにここまで食らいついて来て、お互いに練度98となって今日を迎えた。一人の先輩として彼女の努力が報われて欲しいという気持ちもあるが、一生懸命な彼女に対して手を抜くなんて論外だし、今日だけは絶対に譲れない。提督の信頼に応えて絆を深め、今見えている限界を超える更なら高みを目指す為には、ケッコンカッコカリの指輪がどうしても必要です。だから今まで通りに全力で潰しますから覚悟していて下さいね。
「加賀、瑞鶴、所定の位置についたか?」
「ええ、準備出来ています。」
「こっちもいつでもやれるわ!!」
「では演習を開始しよう。二人の健闘を祈る。では始め!!」
提督の合図と共に艦載機の発艦を開始する。さぁ、全力でかかって来なさい!!
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「おおっと開幕速攻!!瑞鶴さん噴式戦闘爆撃機を繰り出しました!!」
「ほほう!?これはいきなり勝負を決めに来とるでぇ!!あの強力な攻撃で一気に中破まで持ってくつもりやで!!あのスピードには加賀の装備では対抗出来へんでぇ!!」
「今回加賀さんは噴式戦闘爆撃機を積んでいませんから、これは厳しい戦いになりそうですね。」
「いや、まだわからんでぇ。噴式戦闘爆撃機は強力な装備やけど、最新の装備やけ他の艦載機より扱いが難しいはずや。せやからここを耐えれば加賀が一気に有利になるでぇ!!」
「しかしこれは激しい爆撃が加賀さんを襲っています!!これはどうでしょう!?決まってしまったかぁ!?」
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演習の様子を妖精さんが撮影してくれている映像で観ているが、なかなかハイレベルな戦いだ。隣で一緒に観ている大淀も、真剣な表情で演習を見守っている。本当ならば二人ともにケッコンカッコカリの指輪を渡して、更なる高みを目指して欲しいところだが、今は指輪が一つしか無いのが悔やまれる。
「ほう、あの猛攻撃の中で直撃をきっちり避けるか。流石は一航戦と言ったところか。」
「ええ、対空砲も使用して瑞鶴さんの噴式戦闘爆撃機を削ってましたからね。それに航行術も見事なものです。」
「そうだな。駆逐艦達を盾にしない為に必死で身に付けた航行術だからな。あれを仕留めるのは至難の技だろう。」
「しかし直撃を避けたとは言っても、あと少しで中破でしょう。まだまだ勝負は分かりません。」
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「さあ、瑞鶴さんの先制攻撃をしのいだ加賀さんですが、受けた損傷は軽くはないです!!」
「せやけどさっきの攻撃の時に瑞鶴の噴式戦闘爆撃機はかなり削られとるからな。ここからの制空権争いは加賀が有利やで!!しかも加賀は艦戦多めの構成やから、あれを抜くのはなかなか難しいはずや!!」
「対して瑞鶴さんは爆撃機多めの構成ですね。加賀さんの守りを強引に突破する気ですね。」
「せやな、加賀もあと一発まともに貰ったら中破やから、ほんまにミスが許されん綱渡りや!!そんな状況なのに冷静な表情なんは流石やな。」
「今両者の艦載機が激しい攻防を繰り広げております!!高練度の艦載機同士の戦いで、青葉は目が回ってしまいそうです!!」
「けどやっぱり加賀が優勢やけど・・・瑞鶴の艦載機が少し抜けたで!!」
「おお!!加賀さんこれはピンチだぁ!!瑞鶴さんの爆撃機が今爆弾を投下し・・・加賀さんが爆煙に包まれた!!これは決まったかぁ!!」
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演習を終えた加賀と瑞鶴が帰投したので、二人を出迎える。演習とは言え高レベルな戦いを本気でやりあった為か、両者ともに疲弊していた。
「二人とも演習お疲れ様、二人とも見事な戦いだったそれと瑞鶴・・・惜しかったな。」
「はい・・・」
最後の瑞鶴の攻撃は確かに加賀に当たったのだが、そこで油断してしまった瑞鶴は加賀が放っていた艦載機の攻撃を受けてしまう。結果は加賀が大破判定、瑞鶴が轟沈判定となり僅かな差ではあったが加賀の勝利が決定した。
「今回は加賀に負けたが、かなりの接戦だったからあまり気を落とすな。今は指輪が一つしか無いから渡せないが、また手に入ったら優先的に瑞鶴に渡すつもりだから、今後も精進するように。」
「ええ・・・分かったわ・・・」
普段勝ち気な瑞鶴だが、流石にこの敗戦は思うところがあるか。だがこの敗北をバネに更に強く成長して欲しいものだ。瑞鶴がとぼとぼ歩きながら翔鶴に連れて行かれるのを見送りながらそう願う。
「んんっ!!」
いつも通り姿勢を正した加賀の咳払いで意識を加賀に向ける。せっかく勝利したのにいつまでも放っておくのは悪かったな。
「加賀、ここまでよく頑張ったな。先程の演習も積み重ねて来た努力の賜物だろう。」
「いえ、一航戦として当然の事をしてきたまでです。ですが提督のご期待に応えられたのであれば光栄です。」
「そうか。そう思って貰えるのは悪くないな。」
そう言ってポケットに入れた指輪を取り出して加賀に渡そうとすると・・・
「ちょっと待って下さい!!加賀さん、青葉に指輪を渡すところを撮影させて下さい!!明日の艦娘新聞の一面記事にしたいんです!!なんせこの鎮守府初のケッコン艦の誕生なんですよ!?」
案の定というか青葉が騒ぎだしたか・・・確かにこの鎮守府の記念すべき日かも知れないが、もう少し空気を読んで欲しいものだ。まあ、昔に無許可で撮影する事を禁止したのを律儀に守っているところは褒めてやりたいがな。そして今日非番だった艦娘達が、この状況を期待の眼差しで見守っている。
「ええ、構いませんよ。」
「ありがとうございます!!では、提督、指輪の授与をお願いします!!指輪は薬指にはめるものですからね?」
「いくら私でもそれくらいは知っている。騒がしいから下がっていろ。」
指輪は箱ごと渡すつもりだったが、加賀の指にはめるのが良いのだろうか?
「では改めて。加賀、まずは練度99到達おめでとう。これも加賀が少しでも強くなろうと努力をしてきた結果だ。今後も私の元で更なる高みを目指し、私を支えて欲しい。受け取ってくれるか?」
「はい、一航戦の誇りにかけて、提督への忠誠と今後も鍛練を重ねる事を誓います。」
「ありがとう。では指輪を受け取ってくれ。」
少し顔を赤らめた加賀伸ばして来た手を取り、薬指に指輪をはめる。これでケッコンカッコカリは無事に完了だ。その瞬間シャッターを連写する青葉と、大盛り上がりの艦娘達の歓声で祝福される。まあ、こういうのも悪くはないな。
「では、今後も頼むぞ。」
「はい、お任せ下さい。」
「いやいやいや!!なんかもっと感想とか無いんですか!?提督も加賀さんも普段とあまり変わらない感じじゃないですか!?」
また青葉が余計な事を言い始めたか・・・
「あ、いえ、その・・・私、これでも今・・・とっても幸せなのですけれど・・・」
「ならもっと幸せそうに笑いましょうよ~ほらほら笑顔ですよ!笑顔!!」
「青葉、あまり加賀を困らせるな。」
注意してもなお絡んでくる青葉をシッシと軽く追い払うと、少し頬を赤く染めた加賀が近づいてくる。
「そ、その・・・提督、あの・・・今晩・・・期待していますから・・・」
その瞬間艦娘達の喧騒が一気に静まった。今晩期待する?・・・ああ、祝勝会のご馳走か。加賀は冷静な顔をしていても、赤城と並ぶ大食艦だからな。あらかじめ間宮に豪勢な食事を用意して貰っているから問題ないな。
「ああ、期待しておけ。」
自分がそう伝えると艦娘達がキャーキャーと大盛り上がりした。加賀の表情も心なしか嬉しそうな感じだな。やはり美味い食事は皆が楽しみにしているものだな。
その日の夜の出来事はまた別のお話で。
次回のタイトルは?
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青葉If
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曙If
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加賀If
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川内If
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瑞鶴After