バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
死にたい……。
割と本気で自殺したほうが良いのではないかと思っている。
私の目の前にいる白い子が、いつもとは違い 申し訳なさと心配そうな瞳をこちらに向けている事実を認識するたびに、先ほどまで邪な考えをしていた自分を消し去りたくてたまらない。
「あの、本当にごめんなさい。悪いのは全部、この子たちの持ち主である僕ですから。それに、あの状態だったら意識を落とす方が確実でした。ですから、気に病まないでください」
違う、そっちじゃない。
私が落ち込んでいるのは、助ける筈の相手にとんでもない邪念を抱いたことだ。
私は、かわいいモノが割と好きな方である。最近はチャンピオンとしてしっかりした姿を見せないといけなかったので、あまり表立って見せることは無かったけど、裏ではファンシーなぬいぐるみや小物を集めていたりぐらいには、かわいいモノ好きである。
だが、先ほどこの子に抱いていた感情は人として最低のモノだ。
人に対する恋や愛などではなく、ペットに対するような愛玩と独占欲。
それだけが、先ほどまでの私を満たしていたものだ。自己嫌悪するなと言う方が無理な話である。
「それに、力加減ができなかったのも仕方ないです。ウツロイドにドーピングされて力がすごく強くなっていたんですから、むしろそんなことまでさせてしまって本当に申し訳ありません」
だから違うんだって……。
それは私が知っていてやったことではなく。そのウツロイドというポケモンが、君を助けさせるために私にやったことだ。流石に、神経毒を打たれたと聞いたときは驚いたが、本来は動くことができなくなるほど衰弱してしまう強力な毒だと聞かされて、その子があくまでドーピングとして毒を打ったのは後から知ったことだ。
本来なら、そのことに対して文句を言うべきなのだろうけど、そんなことを言える状態じゃない。
というか、下手に強く言ったら壊れちゃいそうなほど、白い子が罪悪感と後悔と絶望を混ぜ合わせたような表情で謝ってきているというのに、怒るとか無理。
精々、今後に同じようなことを起こさないように注意して置くぐらいが妥当だろう。
「代わりになるかは分かりませんが、何でも言ってください。どんなことでも、僕のできる全力で恩返しさせてもらいます。一生奴隷になれというのなら、それでも構いません」
「ストップストップ!? 話が変な方向に行ってるよッ! 私、そんな大したことしてないからッ!?」
だから、そんな変に覚悟を決めた目で奴隷宣言とかしないでッ!
君からは私を挟んでいるから見えないんだろうけど、私の後ろで、君がカミツルギと呼んでいたポケモンが、首に冷たくて薄いモノを押し付けているんだよッ!
「そんなことはありません。緊急連絡用の通信機も壊されて助けも呼べず、あまつさえ貴方のポケモンを殺しかけました。だと言うのに、あなたを利用して助けられたんです。なら、今度はあなたが僕を利用したところで何も問題ではありません」
「………なんていうか、さ。君は少し、考え過ぎなんじゃないの?」
「………はい?」
あまりにも思いつめた顔で謝る白い子に、私は正直な感想を述べた。すると、白い子は言葉の意味が分からないと言うように困惑の表情を浮かべる。
「あのね。私は別に、君からの見返りが欲しくて助けた訳じゃないの。確かに危なかったし、毒で変になったのは事実だけどね。だからって、泣いて助けを求める子供を放っておくほど、私は薄情者になったつもりはないよ」
「………意味が分かりません。ここは死んでも自己責任になる場所です、泣いても助けを求めても自力で乗り越えさせるのが、ここで試されていること。それを、子供だったからって助けるんですか?」
そういう事じゃないんだけどなぁ……。
確かに、このバトルピラミッドで死んでも自己責任だと説明されたのは事実だけど、だからって助けてはいけないなんて言われてないもん。
「ねぇ、君は何歳?」
「え? ……なんでいきなりそんなことを?」
「いいから!」
「……11歳です」
質問を質問で返されたので、少し強めの口調で話すと、白い子は答えてくれた。
「えッ!? 私の2つ下なのッ!? 6歳くらいかと思ってた……」
「……小さいのは自覚してます」
なにか諦めたように答えられる。
いや、年下だとは思っていたし、トレーナーだから10歳は超えているのだろうとは考えていたけど、その見た目で2歳しか変わらないと言われて反応しないのは無理だ。でも、それならやはり――
「じゃあ、君は私の後輩ってことだよねッ!」
「……はい?」
私の言葉に、今度こそ意味が分からないという完全な困惑顔をみせる白い子。
だけど私は、そんなことお構いなしに言葉を続ける。
「私は君よりも、2年も早くトレーナーになって活躍してきた大先輩なのッ! そんな私が、後輩のトレーナーである君が困っていたのが分かったんだから、助けるのは当たり前のことなんだよッ!」
「………僕たち、少し前に会って話しただけですよ? その理論だと、会話した年下のトレーナーは全員が後輩ってことになりますけど」
確かにそうだろう。とくにポケモントレーナーなんて、10歳になれば誰もが一度はなるものだ。会話をした相手だけに限定しても、とんでもない数になる。
だが、そんな数がどうした。こちとらチャンピオンとして、1地方の人間全ての命を背負っているんだ。
「それで十分なんだよ。困っている人を助ける理由なんて、一度会話して友達になればそれ以上必要ないの。困った人を助けて、困ったことになったら誰かに助けてもらう。まぁ、私はチャンピオンになってから助けられてばかりだけどね」
「―――」
「だからさぁ、君も助けてもらったから~、とか難しく考えないで、良かったって笑う方が良いに決まってるんだよ。そういう笑顔を守りたいから、私は苦しくてもチャンピオンを続けてきたんだし、ほら笑ってみて?」
「えっ、と……こうですか?」
そう言って白い子は笑みを浮かべる。それは、とても笑えているとは、お世辞にも言えないほど無理に作った笑顔だった。
「うーん、30点!」
「……作り笑顔には自信あったんですけど、厳しいですね」
だが、いつものような虚ろな瞳で何かを諦めたような顔と比べれば、満面の笑みと言えるほどに柔らかな表情だった。
「じゃあ、次は作り笑顔じゃなくて、本物の笑顔を見せられるようにしておいてね。そして、私が困っていたり、危ないことになっていたら、こんどは君が私を助けてよ」
「……あはは。先輩は後輩をみんな助けるのに、僕が助けるのは先輩だけなんですね」
そう言ってようやく、白い子は作り笑顔ではない、小さな本当の笑顔を見せた。
「当然だね。だって私、チャンピオンだもん! ガラルで私より強い人なんて、だ~れも居ないんだから、そんな私を助けられたらガラルのひと全員を救ったことになるんだよ? それって、すごいことだって思わない?」
「はい、先輩はすごいです」
そうでしょうそうでしょう。
そんなふうに思って頷いていると、白い子は一度姿勢を正して呼吸を整える。そして、いつもとは違う、喜びが隠し切れないような瞳と笑顔をする。
「ありがとうございます、先輩。ラティアスを止めてくれて。ウツロイドの無茶に応えてくれて。僕を、助けてくれて、本当にありがとうございます」
……うん。この笑顔が見れたなら、毒を打たれたことなんてどうでもいいや。
ダンデさんも、こんな気持ちでチャンピオンをやってたのかなぁ。
何年もチャンピオンとして沢山の人を魅せてきたダンデさんに比べて、私が笑わせることができたのはたった1人だけ、それも手持ちも私自身もボロボロになってようやく、だ。
ダメダメで未熟なチャンピオンだなぁ。
「とにかく、今後は気を付けるように。特に毒を打ってドーピングさせるなんて、私じゃなかったら大問題になってもおかしくないんだからね!」
それはそれとして、しっかりと注意はしておく。後輩が失敗したんだから、先輩として叱るのは当然のことだ。
「わかりました。今後は、無許可で先輩以外にドーピングの毒は打たせないようにします!」
「違う、そうじゃない」
思わず私はツッコミを入れるが、笑いながら言っているので本気ではないのだろう。
……ないよね?
あぁ、それともう一つあった。
「ところで今、私さっそく困っているんだけど、助けてくれないかな?」
「はい、もちろんです! 何でも言ってください、後輩として初めての手助け、精一杯頑張らせてもらいます!」
白い子は笑顔で、私の言葉に頷いてくれた。
良かった。割と一刻を争うぐらいの緊急の用件だから、素直に返事をしてくれて助かる。ではさっそく―――
「殺さないで?」
私の後ろから、首に鋼の腕を押し付けている君のカミツルギを止めてください。
たすけて
ガラル主人公、命乞い。