バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい   作:麦わらぼうし

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今度は長くなってしまった……。


欠陥品

 結構ガチめの命の危機を回避して、私と後輩ちゃんは次の階に向かうべく暗くてボロボロの通路を歩いていた。

 

 どうやらここには夜に関係する野生ポケモンが多くいるらしく、ダークライやルナアーラなどが居たのだが、その全ての野生ポケモンは『ひんし』の状態で床に転がっているので何も問題なく進むことができる。

 

 なんで、あのポケモンたちが『ひんし』になっているのか?

 

 その答えは簡単だ。

 

 後輩ちゃんのラティアスが、周囲にいるポケモン全てを蹴散らしていたからだよ。フロアがボロボロになっているのも、たぶんソレが原因。

 

 正直、1フロアの野生ポケモンを全て倒すのは、大変ではあるが不可能ではない。私も時間を掛ければ全滅させることは可能だしね。

 

 だが、それをやってまで安全を確保するリターンに対して、リスクとなる手間が大き過ぎる。それこそ、私のポケモンを全滅させた後輩ちゃんのラティアスぐらい圧倒的な力量差が無ければ、出会い次第にバトルして進んだ方が早いしポケモンも疲れない。

 

 だから、こんなふうに野生ポケモンのことを考えずに進むことができるのは、少し新鮮な気分だ。

 

「あの、先輩。カミツルギに護衛させないで、本当にいいんですか?」

 

 そう言って私に話しかけてくるのは、ウツロイドによって手足を巻き取られて身体を覆われている後輩ちゃんだった。

 

「うん、大丈夫だよ。今までの階だって、バトル以外では1人でどうにかしてたんだし」

 

―――だからカミツルギを出すのは勘弁してください、お願いします!

 

 外面では軽い口調で答えるが、私は内心、割と本気でその申し出を断る。

 

 それというのも、先ほど私が後輩ちゃんにお願いした時、後ろにいた カミツルギ から ラティアス と同じぐらいの殺気を感じたからだ。だが、カミツルギは意思を向けたい相手だけにその方向を制御できるらしく、その殺気を感じることができたのは私だけだった。

 

 その時、後輩ちゃんの側にいたウツロイドが、私に毒を打ちこんだことを謝り、そのすぐあとに私の後ろからカミツルギが出てきたことで、私は何とか命を拾った。

 

 だが、あのポケモンたちが私に何を言いたいのかは理解できた。

 

 

『死にたくなければ、余計なことは話すな』

 

 

 おそらく……いや間違いなく、コレだろう……。

 

 ウツロイドが私に毒を打ったのを、私に相談して了承したからだと、後輩ちゃんが思っていたのも、ウツロイドがそうだと後輩ちゃんに説明したからだ。

 

 長い間ポケモンと一緒に過ごしていれば、たとえポケモントレーナーでなくとも、お互いに言いたいことが何となく分かるようになる。

 

 後輩ちゃんとウツロイドたちは、どう見ても長い間一緒に居た関係だ。それぐらいは、ポケモントレーナーをやっていれば見ただけで分かる。

 

 もし私が、あのまま後輩ちゃんを泣かせるようなことをしたら、きっと私はカミツルギによって首を切り裂かれていたことだろう。

 

「そうですか? カミツルギが僕を助けてくれたお礼に、ぜひ護衛をさせてほしいって言っているんですけど……」

 

 遠慮しなくていいんですよ? と言いたそうな優しい顔で後輩ちゃんが言ってくる。

 

 違う。

 

 その子は護衛をするつもりじゃなくて、私が変なことを言わないように見張るつもりなだけだ。

 

 ラティアスも、ウツロイドも、カミツルギも、後輩ちゃんのことは大切に思っているが、それ以外に対しては一切の優しさなんてない。

 

 だが、それを言ったところでどうなる?

 

 後輩ちゃんは、この子たちを信じ切っている。それに私が異を唱えたところで、すぐには信じてくれないだろう。そして、そのあとに後輩ちゃんが少しでも目を離せば、私はこの暗闇に乗じて消されるのは確実。手持ちは全員が『ひんし』だし、時間稼ぎもできずに終わりだ。

 

 なので今は、私が遠慮しているという形で申し出を断ることが最善の選択な筈だ。

 

 あれ? 状況だけ考えると、今の私、割と詰んでない?

 

 正直、今まで突破してきたバトルフロンティアの施設なんかと違って命の危機を感じるよ?

 

 噂でバトルピラミッドが1番大変だって聞いてたけど、こういう事だったのかな? 絶対違うと思うけど……。

 

「本当に大丈夫だよ。それに、カミツルギには一番働いてもらったんだから、ボールに戻してちゃんと休んでもらった方が良い。どんな時でも、すぐに動けるポケモンを手持ちに置いておくことはトレーナーの基本だよ」

 

―――だから、その子は絶対にボールから出さないでね!

 

 見た目はアレだけど、ウツロイドは後輩ちゃんを守るために掛かり切りなので大丈夫。だけど、小さくて見づらいカミツルギがフリーになったら私はいつ死んでもおかしくはない。

 

「すみません。ラティアスが『ひんし』じゃなければ、『いやしのはどう』で先輩の手持ちを回復させることができるんですが……」

 

「それも気にしなくて大丈夫。どうせ一度『ひんし』状態になったら、ポケモンセンターに行くか、一日寝るぐらいしないと全快しないんだから。それに、この子たちを『ひんし』にしたのは私が未熟だからだよ。それを謝るようなことをされたら私だって怒るからね?」

 

 そう。そこだけは私だって許容できない。

 

 エースバーンたちが『ひんし』になったのは事実だし、その原因を作ったのは私の怠慢によるものだ。それに対して、倒してしまってごめんなさいなんて言われたら、それはエースバーンたちが弱いと言われているのと同じこと。

 

 私のことに関してはどう言われても構わない、事実として私は少し前まで腑抜けていたんだから。

 

 だけど、エースバーンたちを侮辱するようなことを言われたら我慢なんてできない。ずっと一緒に居てくれた大切な相棒と仲間たちなのだ。そんなことされたら、私もダークポケモンみたいに大暴れする自信がある。

 

 だからこそ、その子たちが後輩ちゃんを大切にしていることも分かるのだ。先輩として、多少のことには目をつむってあげるべきだろう。

 

「はい、ありがとうございます……やっぱり、先輩はすごいです」

 

「いやぁ、それほどでも~」

 

 素直に感謝されると照れると同時に、こそばゆく感じる。

 

 実際「先輩が後輩を守るモノ」うんぬんは、私がカントー地方に旅行した時、とあるジムリーダーから教えられたことなので、私の言葉じゃないからなぁ。

 

 とりあえず話題を変えよう。

 

「そういえば、君の ウツロイド と カミツルギ って、どこで見つけたの? 私も昔、一回だけ見たことあるけど、それ以外に見たことないから珍しいポケモンなの?」

 

 そういうと、後輩ちゃんが身体を固まらせた。そして、それと同時にウツロイドの視線が私に向けられる。

 

 

―――あれ? なんかマズイこと聞いちゃった?

 

 

「――あ。あぁ、はい。そうですね。ウツロイド も カミツルギ もあまり見かけるようなポケモンではないので、かなり珍しいポケモンだと思います」

 

「そ、そうなんだ。まぁ、11年前にも珍しいポケモンが大量発生して、今まで1体しかいないと思われていたポケモンもたくさん見つかったらしいし、そんなこともあるよね」

 

 ぎこちなく話す後輩ちゃんに、私はチャンピオンになってから得た知識を総動員して、珍しいポケモンを持っていても変なことではないというように話す。

 

 しかし、私の言葉を聞いた後輩ちゃんの反応は、私が予想したモノとは全く違うものだった。

 

 

「―――――はい? 今、何て言いました?」

 

 

「えっ?」

 

 後輩ちゃんがしたのは、私の言葉に同調するのではなく。何かとんでもないことを聞いてしまった、といったような驚愕だった。

 

「だから、何年前に、何が起きて、何が見つかったんですか?」

 

「……じゅ、11年前に、珍しいポケモンが大量発生して、1体しか居ないと思われていたポケモンが複数見つかったんだよ……です」

 

「…………他に11年前に、何か起きたことを知っていますか?」

 

 そう聞いている後輩ちゃんは、有無を言わさぬ迫力があり、本能的に私は怖気づいてしまった。

 

 答えなければならない。11年前に起きたことについて、知っていることを全部言わなければならない。

 

 それはもはや強迫観念に襲われているような感覚であり、どうやっても抗うことはできなかった。

 

 だが、如何せん11年前のことだ。当時の年齢で言えば、私は2歳。そんなときの記憶などある筈もなく、情報源となりそうなのはチャンピオンになってから得た知識だけだ。

 

 だが、私はデータベースでない。聞かれたからと言ってすぐに、それも11年前のことなど簡単に出てくる筈がない。

 

 それでも、私は後輩ちゃんの問いに答えなければならないと、全力で記憶の海をあさっていた。

 

 そして、もう1つだけ思い出した。珍しいポケモンの大量発生と同じぐらい、世間で話題になった出来事があったことを。

 

「た、確か。千年に一度だけ接近する『千年彗星』が観測されたことがありました!」

 

「……………………」

 

 私が叫ぶように そう答えると、後輩ちゃんは視線を私から外して俯いてしまう。

 

 そして、とんでもないほど真剣な表情で何かを思考し始めた。

 

「……生まれた………同じ…………1体…………と伝説………偶然? ………彗星…………としたら………ーチ………だけど……んで? ………もし……願いを……誰……」

 

 後輩ちゃんはブツブツと何かを呟いているが、声が小さくて所々しか聞こえない。

 

 そして、そんな状態の後輩ちゃんに話しかける勇気が私にはなく。浮遊しているウツロイドと並行して無言のまま歩く。

 

 き、気まずい……。

 

 後輩ちゃんはずっと何かを呟き続けているし、ウツロイドは何を考えているか分からない。薄暗い通路で一切会話のないままで歩いていく。

 

 どうにか空気を変えたいと思いながら話を切り出すタイミングを伺っていると、ようやく次の階に向かうための階段に辿り着いたので私は話しかけた。

 

「ね、ねぇ!? 階段見つかったから、考え事をするのは後にしない? 不注意でポケモンに狙われたら危ないからさ!」

 

「―――へ? あッ! す、すみませんッ! 考えるのに没頭していて気づきませんでしたッ!」

 

 ようやく思考の海から帰ってきてくれた後輩ちゃん。だが、そこに先程までの雰囲気は微塵もなく、少し慌てているぐらいにしか感じなかった。

 

「何を考えてたかは知らないけど、ここから先はポケモンがまだ残ってるはずだから、油断なくいこう?」

 

「はい、了解しました先輩ッ!」

 

 その言葉を聞いて、私達は階段を上り始める。私達とは言っても、後輩ちゃんはウツロイドに運ばれているけどね。

 

 そして会話も再開される。よっしゃあッ!!

 

「でも本当に、先輩はすごいです。先輩みたいな人がチャンピオンなら、ガラルは安心ですね」

 

「それほどでもあるよ~。でも流石にしばらく離れすぎだから、そろそろ戻らないといけないんだよねぇ~」

 

「――え」

 

 憂鬱だなぁ。と思って話していると、後輩ちゃんが小さく声を漏らした。

 

「先輩、もう帰っちゃうんですか?」

 

「え? あ、うん。流石に戻らないと、お仕事がね……」

 

「……そう、ですよね。チャンピオンなんですから、戻らないとダメですよね」

 

 そう言って納得するように後輩ちゃんが言っているが、その顔は明らかに落ち込んでいた。

 

 うーむ、どうしよう……とりあえず提案だけしてみる?

 

「ねぇ。君はバトルフロンティアで残っている施設、あと何個ある?」

 

「え? 残りの施設ですか? ここで最後ですけど」

 

「そっか……じゃあ、もしここをクリアした後の予定がないなら、一緒にガラルに来ない?」

 

 私がそういうと、後輩ちゃんは一度キョトンとした顔をすると、悩んでいるように表情を変える。

 

「……………えっと、野宿できるような場所はありますか?」

 

「いや、なんで野宿する前提なの? 普通にポケモンセンターもあるし、なんなら私の家に泊まってもいいよ?」

 

「いやダメですよッ!? チャンピオンの先輩が、家に男を連れ込むなんてしたら、とんでもないスキャンダルになりますよッ!」

 

「あっ、男の子だったの?」

 

「酷いッ!?」

 

 本気でショックを受けたような顔で落ち込む彼を見て、私はクスクスと笑う。

 

 少し前までと違って、コロコロと変わる表情を見ていると面白くて仕方ない。

 

「冗談だよ。いや、性別が分からなかったのは本当だけどね? 私の家って都会からかなり離れているから問題ないと思うよ、ご近所さんも皆顔見知りだし」

 

「それはもっと誤解されるのではッ!?」

 

 私の言葉に元気にツッコミを入れてくる彼に、私は幼馴染と会わせたら楽しそうだなと夢想した。

 

「というか、そもそも私達、お互いの事ほとんど知らないんだから、周りが騒いだところで先輩後輩以外の情報なんて出てこないでしょ?」

 

「いや、知らない相手を家に招くとかどういう神経しているんですかッ!? もっと危機意識をもってくださいッ!」

 

 そんなの知~らない。私のプライベートなんて、幼馴染がよく遊びに来る時点で無いも同然だったのだ。もっとも、流石に私だって見ず知らずの相手を招いたりするつもりはない。今回はガラルに誘っているのが私だから、泊まる場所ぐらいは用意してあげるつもりというだけだ。

 

「じゃあ、自己紹介しよう! よく考えたら、私達ちゃんと自己紹介したことなかったんだし」

 

「そ、そんなこと急に言われても……」

 

「じゃあ、私からね! 私はユウリ! 13歳の女の子にして、ガラル地方のチャンピオン! 伝説の災厄ブラックナイトことムゲンダイナをゲットした、ガラル地方最強のトレーナーだよ!」

 

「無視ですかッ!? えっと、あの……自己紹介と言われても、何を言えば……」

 

 パクパクと口を開閉させるも、何を言えばいいのか分からないと言葉が出てこない彼に、私は助け舟を出す。

 

 

―――だが、それは失敗だった。

 

 

「何でもいいんだよ。そうだね、まずは自己紹介の基本として、名前を教えて?」

 

 

「――――無いです」

 

 

「―――――え」

 

 一瞬、囁かれるように言われた言葉に、私は思考を止めてしまった。

 

 聞き間違いかと思った。いや、聞き間違いだったらどれほど良かったか。だが、その後に紡がれた言葉は残酷な現実だった。

 

「だから、無いんです。いえ、本当はあったんですけど。それは僕の名前では無くなってしまいました。それ以外に名前を貰ったことがないので、僕には名前が無いんです」

 

 そういう彼の言葉に、私の身体は全力で危険信号を出していた。

 

 

―――あっ、これ深く聞いたらダメな奴だ。

 

 

「じゃ、じゃあ好きな食べ物とかない? ないなら、一番よく食べていたモノでもいいよ?」

 

「好きな食べ物ですか? ……家を出るまでは『チイラのみ』と水だけで過ごしていたので、たぶんそれが一番好きなんだと思います」

 

「………………」

 

 ど、どうしよう……。

 

 話を聞けば聞くほど、とんでもない闇を知ってしまうような気がする。

 

 なにより、食べ物のことを話すときに、表情に一切の陰りが見えないのが更に嫌な予感をさせる。

 

 家を出るまで『チイラのみ』と水だけで過ごしていた? 料理じゃなくて『きのみ』だけなの? 両親は? 育児放棄?

 

 ……もしかして、虐待されていた?

 

 ラティアスたちが、この子に異常に過保護なのも、もしかしたらソレが原因?

 

 い、いけない。考えがどんどんヤバい方向に向かっている気がする。なにか、話を別の方向に向けないと!

 

「じゃ、じゃあ今までで一番楽しかったことは!? バトルして初めて勝ったこととか、友達とポケモンを見せ合ったこととか」

 

「楽しかったことですか? そうですね……野生のソーナノたちと遊んだことですかね? 両親は暗くなっても僕を無理に連れて帰ろうとしなかったので、一日中遊んで気がついたら朝になっていたこともありました」

 

 

「……………」

 

 

 …………………………………………………………。

 

 

「先輩?」

 

「………シロちゃん」

 

「はい?」

 

 私の呟きに後輩ちゃん、いやシロちゃんは首を傾げるて頭の上にはてなマークを浮かべた。だが、今の私にそんなことはどうでもよかった。

 

「君はッ! 私の大切な後輩でッ! 愛称はシロちゃんッ! これから私は、シロちゃんのことは『シロちゃん』って呼ぶからッ!」

 

「いや『シロちゃん』って、僕はペットですか?」

 

「違うッ! シロちゃんはペットなんかじゃないッ! ちょっと目が虚ろでッ! 考え方が硬くてッ! 戦い方に容赦ないだけのッ! 1人の優しい人間だよッ!」

 

「褒めてるんですか? けなしているんですか? というか落ち着いてください、急に何なんですか……」

 

 呆れたような目でシロちゃんが私を見て来るが、私の心はそれどころではなかった。

 

 詳しいことは分からない。だけどこの子はおそらく、とんでもないほどの闇を抱えているのは間違いない。なのに、本人はそれを全く自覚していないなんて、たぶんその闇の中が正常だと認識してしまっているんだ。

 

 なにが「笑わせることができた」だッ! 全然、笑えてなんていないッ! 本当の意味での笑顔を、この子が理解しているかどうかすらあやしいッ!

 

「シロちゃんッ! ガラルに来たら、いくらでも私の家に居ていいからッ! というか居てッ! 楽しいこと沢山教えてあげるしッ! 美味しいもの作ってあげるからッ!」

 

「聞き方によっては、とんでもないことを言っている自覚ありますかッ!? というか本当に落ち着いてください。剣幕すごすぎて、かなり怖いんですけどッ!」

 

 

―――バシンッ!

 

 

「あ痛ッ!?」

 

 まだまだ言いたいことはあったのだが、無意識にシロちゃんに詰め寄っていた私は、つい先程のようにウツロイドに頭を触手で叩かれた。

 

―――ぐぉおおおおおおおおおッ!?

 

 さっきのに比べて、頭が割れるように痛い。コレ、毒を打たれたのではないかと思うほど尋常ではない痛みだ。

 

 本気で声1つあげることができない私を見て、ようやく落ち着いたと思ったのか、シロちゃんは呆れ混じりな声で話しかけてきた。

 

「なんでいきなり興奮していたのかは分かりませんが、どうせバトルフロンティアが終わったら行く先なんて無いので、せっかくですからガラルに行かせてもらいますよ」

 

 そう言ってシロちゃんは、またあの小さな笑顔を浮かべる。だが、今の私には、その笑顔が本物がどうか分からなかった。

 

「でも、いいんですか? 僕みたいなポケモントレーナーとしての才能が皆無な人が会いに行ったら、きっと先輩のポケモンたちの居心地が悪くなりますよ?」

 

 その言葉を聞いて、私が真っ先に思ったのは「嫌味か」だった。

 

 今のところ、私はシロちゃんのラティアス1体すら倒すことができていない。

 

 それでポケモントレーナーとしての才能が無い? 私はガラルに居た頃は負けなしだったし、旅行で別の地方に行ってからも、あの赤い帽子の人たち以外には勝ったり負けたりしても、勝ち数の方が多かった。

 

 だから、ここに来てシロちゃんにあっけなく負けたときは、結構ショックだったのだ。

 

「信じられませんか? でも、これは パレスガーディアン の ウコンさんからも言われた事実なんです」

 

 そんなことを思っていた私の考えを察したように、シロちゃんは謙遜ではなく客観的な事実だと述べる。

 

―――そんな馬鹿な……。

 

 確かにウコンさんは、人の本質を見抜く目は確かだった。実際に私もバトルパレスで会っているので、ウコンさんが嘘やデタラメを言うような人でないことは理解している。

 

 だけど、それならシロちゃんがポケモントレーナーとして才能が無いなんて言われる理由とは、いったい……。

 

 そんなことを思った私の考えを、シロちゃんはやはり察したのか、言葉を続けた。

 

「ポケモントレーナーの才能の1つとして、トレーナーに得意なタイプがあることを知っていますか?」

 

 いきなり何の話だ。と思ったが、シロちゃんは私が話を聞いているのだと思っているのか話を続ける。

 

「エリートトレーナーより上の強さ。ジムリーダー以上のトレーナーは、必ず自分の得意なタイプが存在し、1つであれば『タイプ・トレーナー』2つ以上であれば『デュアル・トレーナー』と言われています」

 

 それは知っている。自慢ではないが、私やホップはその中でも珍しい『マルチ・トレーナー』というところに分類されていると、ダンデさんから教えられたからだ。

 

 だが『タイプ・トレーナー』というのは、あくまでポケモンとの相性が特に良いと言うだけであり『一般トレーナー』が『タイプ・トレーナー』より強いことも普通にある。

 

 トレーナーとしての才能が無いだけで、不愉快に思うほど、ポケモンは人間に利徳の感情で動いてなんていないのだ。

 

「このバトルフロンティアは、エニシダさんが強いトレーナーをスカウトして集められた場所です。フロンティアブレーンはもちろん、ここに居る全てのトレーナーがジムリーダー以上になれる『タイプ・トレーナー』以上の才能を持っています………僕という、たった1人の例外を除いて、ね……」

 

 そう言ってシロちゃんは、手持ちのボールに視線を移す。

 

「一応、僕も分類としては『タイプ・トレーナー』です。でも、僕に適性があるのは、今の手持ちの3体だけでした。他のポケモンに対する適性は、一切存在しません」

 

 それは、仕方のないことだろう……。

 

 どれだけ頑張ったところで、ポケモンとの相性と言うのは生まれついての性質による先天的なモノだ。どれだけ努力したところで、持っている性質を特化させるようなことはできるが、広げることはできない。

 

 残酷な話だが、ポケモンバトルで勝つためには才能は不可欠であり、絶対に埋めることのできない差というものが、生まれながらに存在しているのだ。

 

 だが、それがシロちゃんに才能が無いという理屈に繋がる理由が分からない。

 

 他のポケモンに適性が無くても、チャンピオンである私に勝てる実力はあるし、なによりシロちゃんもこのバトルフロンティアに招待されるほど、才能あるトレーナーであるのは確実な筈だ。

 

 だが、そう思っていた私の考えは、次に放たれたシロちゃんの言葉に凍り付いた。

 

「僕は『タイプ・トレーナー』です。そして、適性があるのは手持ちの3体だけでした。カミツルギ と ウツロイド を知っているのなら、この矛盾が分かりませんか?」

 

 そう言われて、私はその言葉の意味を理解して、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

 

 ラティアスは『ドラゴン・エスパー』タイプ

 

 カミツルギは『くさ・はがね』タイプ

 

 ウツロイドは『どく・いわ』タイプ

 

 共通するタイプは―――無い。

 

「少し話が逸れますが、先輩は『わるあがき』という技をご存じですか?」

 

 突然、会話が別の方向に変わったことで、私はその言葉の意図が分からなかった。

 

『わるあがき』という技は知っている。というより、つい先程までラティアスと戦っていた時は技を封じられて、ソレしかすることができなかったからだ。

 

 ポケモンが技を出すことができなくなるほど消耗した時、使うだけで大きく自傷してしまうほどの反動を受けてしまう、本当に技に分類されるのかハッキリしていない特殊な技。

 

『いしあたま』や『マジックガード』によるダメージを無効にする特性も『リベロ』や『へんげんじさい』によるタイプの変化も起きない、技の効果もタイプも使用限界数も詳細が一切不明な特殊な技。それが『わるあがき』だ。

 

 

 そこまで考えて、ようやく私は、シロちゃんが言いたいことを察することができた。

 

 

「ポケモンには、平均的なポケモンから大きく離れてしまった特異個体というポケモンが居ます。体が異常に大きかったり、小さかったり、色が違ったり…………そして、タイプが違ったりする特異な個体。僕の手持ちは、全員が特異個体なんです」

 

 そんな……。

 

 そんなまさか……。

 

 そんな残酷なことがあっていい筈がない。

 

 だが、その事実を、シロちゃんは当たり前のように、気にした様子もなく告げたのだ。

 

「僕は得意なタイプがない『タイプ・トレーナー』です。

 

 それは『一般トレーナー』のように、どのタイプにも適性がないということではなく。

 

『わるあがき』のような本来存在しないタイプ『なし』にしか適性を持たない、世界のはみ出し者。

 

 僕は、この世界のどのポケモンとも共に歩むことのできない、最悪の欠陥品なんですよ」

 

 

 そう言って、シロちゃんは笑っていたのだった。

 




大好きなポケモンが周りに居るのに、自分がこの世界に「いらない」とされていることに気づいたら、皆さんは耐えられますか?
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