バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい   作:麦わらぼうし

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メリークリスマスです!(一日遅れ)
いや、本当は昨日のうちに投稿したかったんですよ……。
でも頑張って時間を捻出したんですが、間に合いませんでした。
非力な作者を許してくれ……。
という訳で番外編です……ちなみに長いよ。


【番外編】ガラルでの夢のような一日

 ガラル地方は寒い地域である。

 

 他の地方に何度も旅行した私が知った、ガラルに抱かれている印象の1つがコレだった。

 

 別に間違いではない。カンムリ雪原のように1年中、雪があるような場所があるのは確かだし、7月でも最高気温が20度を超えない肌寒い日があったりするので寒い地方であると思われても不思議なことではない。

 

 だが、長い間ガラルで過ごしてきた私からしたら、ガラル地方の特徴は曇りが多くて日照時間が少なく、雨が降りやすいという印象がある。もちろん晴れる日はあるし、晴れた日は爽やかでとても気持ちいい。

 

 ただ、北に行くほど雨の日は多いが、南東に行けばカントー地方やジョウト地方とあまり変わらないのだ。だが、雨の日数は同じぐらいでも降水量は半分もない。

 

 雨が降っても少量というのもガラルの特徴だ。

 

 なのでガラルの人はちょっとした雨だと傘を差さない。向こうで言うところの「ぬか雨」のような雨なので、傘があまり役に立たないのだ。

 

 なのでちょっとした雨ぐらいなら、ガラルの人は濡れるのを気にせずに傘なしで外を歩いている。流石に、ワイルドエリアの天候が「雷雨」の時はカッパなどを着た方が良いと思うが、あそこは天候そのものが不安定ですぐに晴れたりするのでそのまま走り抜ける人もいるらしい。

 

 ようするに、ガラルは日照時間が少なく曇りがちな日が多くて、四季の気温が不安定なのだ。そりゃ、カントーやジョウトに比べたら全体的に気温が低いのは事実だけどね。

 

 ここで過ごしてきた私からしたら、印象としては不安定なだけだ。

 

 驚くことかもしれないが、実はガラル地方には「衣替え」という習慣が存在しない。

 

 夏であっても肌寒い日が続くこともあれば、冬であっても屋内であれば暖かくて半袖で過ごすことも少なくない。外は流石に寒いと思うが、人によっては冬でも外を半袖で歩いている。

 

 私は見ているだけで寒くてたまらないから大体厚着だけど、夏にセーターを着たり、冬に半袖を着ていることを普通と思っていた私には、旅行先での気温の違いによるカルチャーショックは大きかった。これ、言葉の使い方あってる?

 

 なので、今日のようなガラル全体が一面の雪景色になったところで、ガラルの人は慌てることは無い。流石に、雪が積もる気温で半袖の人は居ないと思うけど、今日は寒いから暖かい服にしようぐらいの印象で、いつも通りの営みが行われている。

 

 そう。いつも通り……………私はメディア出演に追われて、この極寒の中であっちこっちに顔を出さなければならないのだ。

 

 スケジュール表を確認してみる。

 

 そこには分刻みに、どこに行って何をするのかが所狭しとビッシリと書かれている。

 

 それを再認識すると、私はため息を吐いた。ため息をすると幸せが逃げるらしいが、すでに逃げられた後なので、いくらしたところで変わらない。

 

 実は今日、ガラルに帰ってからようやく仕事が落ち着いてきたので、私は一緒にガラルまで来てくれたシロちゃんとお出かけしようと約束していたのだ。

 

 だというのに、今日の朝になってから突然、大量の仕事が舞い込んできてしまい。泣く泣くキャンセルすることになった。

 

 電話越しにシロちゃんは納得してくれたモノの、少し残念そうにしていたのを思い出すと心が痛い。

 

 たまたまその場に居合わせた幼馴染のホップが、勉強ばかりしているせいで少し休めと突然言われて手持ち無沙汰らしく、私の代わりにシロちゃんと出かけることになった。

 

 今頃、2人は街で買い物したり喫茶店でのんびりしているのかな……。

 

 そんな2人の姿を想像して………デートしているようにしか思えなかった。

 

 いや、シロちゃんは男の子だよ? でもね、女の子にも見えるんだ。

 

 バイタリティの化身のようなホップに比べると、比較的に落ち着いているシロちゃんが相対的に女の子に見えてしまう。それに私とお出かけする為か、電話に出たシロちゃんは寒くないようにモコモコした服を着ていて結構可愛いかった。

 

 美しい純白の髪に、虚ろではなくなったクリクリとした綺麗な瞳。小さな身体に対して少し大きめなコートと、首にマフラーを巻いて指が分かれていない手袋を着けている姿は、先輩としてすごい庇護欲を掻き立てられる光景だった。

 

 シロちゃんは、私との約束の為とか言っているけど、毎日すごく楽しそうにいろんな人と話したり遊んだりして仲良くし、その明るさからか結構人気者なんだとか。

 

 そんなシロちゃんとホップが一緒に居るところを想像してみると、2人が仲良く楽しそうにしている光景が簡単に浮かび上がる。

 

 いや、デートは言い過ぎかな? シロちゃんはちっちゃいから、どちらかというと歳の離れた兄弟だろうか?

 

 ホップはダンデさんとのことから、少しブラコンみたいなところがあるし、絶対にシロちゃんを可愛がるだろう。伊達に幼馴染はやってない、ホップの考えることや行動ならなんとなく予想が付く。

 

 約束を破っちゃったことは申し訳ないけど、ホップならシロちゃんを任せても大丈夫だろう。

 

 それに、いつまでも落ち込んでいたところで仕方ない。

 

 チャンピオンになってから出来るようになった素早い気持ちの切り替えで、私はいつもの「お仕事モード」になる。ここからはチャンピオンとしての私になり、いつもの笑顔を浮かべた。

 

 

 そうしないと、仕事が今日中に終わるか分からない。いつもみたいにバトルタワーで寝泊まりするにしても、せめて日付が変わる前にはベッドに就きたいのだ。

 

 

 よし。

 

 今日はもう、他のことは考えられないくらい全力で仕事に打ち込みますかッ!(ヤケクソ)

 

 

   ◆

 

 

 ところ変わって、ここはハロンタウンとブラッシータウンの間にある1番道路。

 

 本来なら、のどかで、ワイルドエリアとは違いポケモンも穏やかなために、よく野生ポケモンと子供たちが遊んでいるが、現在は雪の寒さで野生ポケモンが姿を消しているので、その光景を見ることは叶わない。

 

 この土地はそもそも街から離れていて観光客もほとんど来ないような場所だ。その代わりに現在は子供たちと1人の大人が道路を占拠して雪合戦をしていた。

 

「ソニアさん、隙アリですッ!」

 

「いや、隙とか以前に戦力差が酷いと思うんだけどッ!?」

 

 そう言ってソニアは飛んでくる雪玉をなんとか避けるが、雪玉を作る余裕がないので反撃することができないでいた。

 

 それというのも、チームの人数差が酷いからだ。

 

 ソニアがいるチームは、ソニアとホップと2人の手持ちの合計7体なのに対して、向こうはシロとハロンタウンとブラッシータウンの子供たち全員とシロの手持ち3体。

 

 不公平どころの話じゃない、もはや数の暴力によるイジメだ。

 

 いや、狙ってこうなった訳じゃない。

 

 そもそもの話、せっかく雪が積もっているのだから街に行かないで外で雪遊びをしようとシロが提案したことから、予定していたシュートシティではなくソニアの研究所に近い1番道路に向かったのだ。

 

 ちなみにソニアも居るのは、ホップと同じように祖母のマグノリアに研究のやり過ぎだからと休むように言われて、2人についてきたからだ。

 

 そして3人がやってきた時、すで雪合戦をしていた子供たちにシロが「い~れ~て~!」と子供たちの輪に混ぜてもらい、久しぶりに身体を思いっきり動かそうとホップが参戦、なし崩し的に保護者役のつもりのソニアも巻き込まれて全員で雪合戦をすることになった。

 

 

 そこまでは良かった、問題は此処からである。

 

 

 シロとホップが分かれて対戦することになり、他の人は好きな方のチームに入るようにした結果―――子供たち全員がシロの方に行ってしまったのだ。

 

 別にホップが嫌われている訳ではない。実年齢は違うが、シロと子供たちは見た目が同じぐらいなので普段から仲よく遊んでいる友達なのだ。それじゃあ、誰だってシロの方に行くだろう。

 

 そのことにホップは気落ちすることなく、兄であるダンデのように堂々と勝利宣言をしていたが、ここでソニアまでシロの方に行くのはあんまりなので、ソニアはホップの方に付いた。

 

 だが、それでも戦力差は歴然としている。どうしたものかと思っていた時、ボールから飛び出してきたのはソニアのワンパチだった。

 

 ワンパチは『こいぬポケモン』である。

 

 コーギーのような犬っぽいポケモンである。

 

 雪が降ると、犬は喜んで庭を駆け回るのである。

 

 ようするに、ワンパチも遊びたかったのだ。

 

 それを理解したホップは、自分のポケモンたちも遊びたいのかもしれないと思い手持ちのポケモンを出した。だからと言って、くさタイプのゴリランダーは出さない方が良かったかもしれないが……。

 

 ホップがポケモンも一緒に遊ばせようと言い出したことで、シロも手持ちを出したのだ。その所為でドラゴンタイプであるラティアスが寒そうにしていた。シロにマフラーを巻かれた途端に元気になったけど。

 

 ちなみに、子供たちはシロと違って見た目相応の年齢なのでトレーナー資格がなく、手持ちのポケモンは居なかった。

 

 そして始まった大雪合戦、なのだが……実質的にソニアは1人で戦っているのと変わらなかった。それはなぜか? 答えは少し離れた場所で行われているホップとその手持ちポケモン対、シロのポケモンの雪合戦が激し過ぎるからである。

 

 

 ウツロイドが『サイコキネシス』で周囲にある雪を集めて圧縮することで巨大な氷塊を作る。

 

 それをカミツルギが『せいなるつるぎ』で氷塊を拳ほどの大きさに切り分ける。

 

 最後にラティアスが『こごえるかぜ』で上空から降り注がせるという絨毯爆撃を行っていた。

 

 

 それに対し、ホップはザマゼンタの『ワイドガード』で守りを固めながら司令塔に徹する。

 

 指示を受けたバイウールーが『こうそくいどう』しながら地面に落ちた雪玉?を拾い集める。

 

 その雪玉?をカビゴンとゴリランダーが受け取って『ばかぢから』で投げ返す。

 

 バチンウニはインパクトの瞬間に的確に『つぼをつく』ことで2体の力を上げる。

 

 最後にアーマーガアが『おいかぜ』によって投げられた雪玉?を避けようとする相手に当たるように補助する。

 

 

 それは子供たちが巻き込まれないように離れたところでやっているが、ハッキリ言って地獄絵図である。絶対に巻き込まれたくない。

 

 ソニアは必死に、その光景を見ないようにしていた。

 

 ちなみにシロも見ていない。ラティアスたちを信頼している彼は、ホップたちの相手を任せろと彼女たちに言われたので、ソニアとの対戦に全神経を集中しているからだ。

 

 正直ソニアとしては、あっちをどうにかしてくれという思いで一杯である。

 

 

「流石だぞ! 雪合戦のやり方をバッチリ分かっているんだな!」

 

 

 そんな声がソニアの耳に聞こえてきた。

 

 ウッソだろお前オイッ!?

 

 あれが雪合戦であってたまるかッ!! イシツブテ合戦の方がまだ安全だわッ!!!

 

 そんなソニアの思いとは裏腹に、ホップは楽しそうにしていた。

 

 向こうはもうダメだ、居ないものとして戦うしかない。

 

 ところでソニアのポケモンであるワンパチはというと

 

「イヌヌワン!」

 

「あっ、拾ってきてくれたんですね。ありがとうございます」

 

 シロが投げて、ソニアが避けた雪玉を拾って渡していた。

 

「なんでアナタがそっちに居るのよッ!」

 

「?」

 

 ソニアのツッコミに、ワンパチは理解出来ないのか首を傾げるだけだった。

 

 だが、そもそもの話。ワンパチは遊びたいだけであり、特性である『たまひろい』で、投げた球を拾っているだけである。ソニアが雪玉を投げることができないでいるので、結果的にシロのチームに雪玉を届けているのだ。

 

 つまりこれは、ソニアが勝手に自分のチームだと思っていただけで、最初からワンパチは雪合戦そのモノをするつもりが無かったのである。

 

「こうなったら、とことんやってやるわよッ!」

 

「子供の遊びに本気になるなんて、大人げないって思わないんですかッ!?」

 

「ウガーッ!」

 

 シロの言葉を聞いてソニアが切れた。だが、これはシロの作戦による挑発だ。

 

 この直後、冷静さを欠いたソニアは子供たちの集中攻撃を受けて、雪の中に沈んだのだった。

 

 

   ◆

 

 

「ソニアさんどうぞ、暖かい紅茶です」

 

「………ありがとう」

 

 シロから渡された紅茶の入った紙コップを受け取ることで、冷え切っていた身体が少しづつ元の体温を取り戻していくように感じる。

 

 ここはソニアの研究所であり、雪によってビショビショに濡れてしまったソニアは新しい服に着替えて戻ると、そこにはホップとシロが手持ちのポケモンをタオルで拭いていた。

 

 そして戻ってきたソニアに気づいたシロは、最初から持ってきていたのかポットに入れた紅茶を紙コップに注いで渡してきたのだ。

 

 ちなみに、ラティアスたちには、すでに飲ませた後である。シロにとっての優先順位はソニアより手持ちのポケモンたちなのだ。

 

「すみません。作戦とはいえ、煽るようなことを言って……不愉快でしたよね」

 

 そう言って申し訳なさそうにするシロを見て、ソニアは一度息を吐くと気持ちを整えた。

 

「別にいいわよ、こういうのはダンデくんとジムチャレンジしていたとき慣れたから。それより、楽しかった?」

 

「はいっ! とっても楽しかったです!」

 

 そう元気いっぱいに言って笑うシロの顔を見て、これじゃあ怒れないじゃない、とやるせないような、仕方ないような複雑な気持ちをソニアは抱いた。

 

「それにラティアス達もホップ達も楽しんでくれたので良かったです」

 

「そう。今度やるときは、私は観戦することにするわ……」

 

 二度とこんな死を意識をするような雪合戦などやるモノか。

 

 ダンデといい、ホップといい。ソニアに負担を掛け過ぎである。

 

「あの、ソニアさん。これ……」

 

「? なにこれ?」

 

 シロが何かが入った封筒をソニアに手渡してくる。封筒といっても、市販品ではなくキレイな紙を折って作られた手作り感満載の封筒だ。

 

 派手と感じない程度にデコレーションされており、表面にはポケモン世界の言葉ではない文字が書かれているが、その文字が読めないソニアは単なる模様にしか見えなかった。

 

 自分への手紙らしいので取り合えず受け取るが、なんで目の前にいるのに手紙を渡すのか文字が読めなかったソニアには分からない。

 

 だが、きっと理由があるのだろうと思いソニアは、封筒を開けていいかと了承を取ると、中に入っていた一枚の紙切れを見て理由を理解した。

 

「えっと、時間は大丈夫そうですか?」

 

「まぁ、今日一日は暇だし大丈夫よ。でも、そっちこそ大丈夫なの? あの子、来れるか分からないわよ?」

 

「大丈夫です。だから、ソニアさんも来てくれると嬉しいです」

 

「はいはい。じゃあ、私にも準備を手伝わせてくれないかしら? 年長者として、子供に全部任せるのは忍びないわ」

 

「本当ですかッ!? ありがとうございますッ!」

 

 そう感謝してくるシロの頭をソニアは優しく撫でたのだった。

 

 

   ◆

 

 

 私は現在「そらとぶタクシー」を使って実家へと向かっている。

 

 やっと仕事が終わった。すでに日は落ちてしまったが、急な仕事だったこともあってか予定よりもずっと早く終わった。コレなら少し遅いけど、家に帰ることができる。

 

 本来、休みになる筈だった予定を潰したことで、配慮してくれたのか明日から2日間は休んでいいって言われたけど、シロちゃんに約束を破った分のお返し考えないとなぁ。

 

 とりあえず、今日はもう遅いから明日連絡を入れよう。

 

 今日はもう疲れた、家に着いたら泥のように眠りたい……。

 

 そんなことを思っていたら、いつの間にか寝ていたらしく。気が付いたら家の前に着いていた。タクシーから降りた記憶が無いのだが、もはや無意識で動いてしまうほど慣れてしまったのだろうか。

 

 家に明かりは点いていない。

 

 おかしいな? 遅いとは言っても、まだ9時だし、そもそもお母さんに帰ることを伝えたから明かりが無いのは変だ。

 

 だが、疲れからか眠気が限界に近く。もはや疑問を抱いたところで、そのことを考えることもせずに私は家の扉を開けて、電気を点ける。するとそこには

 

 

「先輩、お帰りなさいです!」

 

 

 天使がいた。

 

 訂正。

 

 天使と見まごうばかりの笑顔を浮かべたシロちゃんがそこに居た。

 

 どうやら私は限界のようだ。家にシロちゃんが居る筈が無いのに、こんな幻覚を見てしまうほど疲れてしまったらしい。

 

 あぁ、でもシロちゃんみたいな天使がお迎えに来てくれたなら身を任せてもいいや。

 

「シロちゃん。私はゴーストポケモンにならずにあの世へ行けるのかな?」

 

「はい?」

 

 なるほど、肯定ではあるが疑問形か……つまり、この天使さんは知らないということなのだろう。あんまり悪いことしたつもりはないけど……あっ、シロちゃんとの約束破っちゃったか……じゃあ、ゴーストポケモン行きかな。

 

 悪いことしたらゴーストポケモンとして、永遠にこの世を彷徨うことになるという言い伝えがあるけど、できればシロちゃんを見守っていたいなぁ……。

 

「いつまで寝ぼけてんのよ。さっさと起きなさいッ!」

 

 その言葉と共に、頭に軽い衝撃を受けて私は意識を取り戻した。

 

「えっ、ソニアさん? なんで居るんですか?」

 

「シロに招待されたからよ。ちなみに許可は、ユウリのお母さんにちゃんと取ってあるから安心しなさい」

 

 そう言われてもお母さんは微笑んだままで何も言わない、だけど何がなんだか分からない私は、電気が点いた部屋を改めて見まわした。

 

 するとそこには、シロちゃんとお母さんとソニアさんの他に、幼馴染のホップが居た。

 

 そして部屋全体が飾り付けされており、テーブルの上には所狭しと豪華な食事がズラリと並んでいる。

 

 えっと、なにこれ?

 

「ユウリがお仕事続きで疲れているみたいだから、お疲れ様パーティーをしたいってシロが準備したのよ? 私もちょっとは手伝ったんだからね」

 

 そういって、クスクスとソニアさんは笑っている。

 

 だが、それはおかしい。

 

「いやいやいやッ! おかしいですよねッ!? 私が帰る連絡をしたの、ついさっきですよッ!? とてもこんな準備できるような時間ありませんよねッ!?」

 

 そう。「そらとぶタクシー」を使って帰ってきたので、目の前にある手の込んだ料理を作れるような時間は無い筈だ。

 

 だが目の前にあるのは、どれもこれも手間の掛かる料理ばかり。明らかに作り終わるまで時間が足りない。

 

「そんなの、連絡が来る前から準備していたに決まっているでしょ? わざわざこんな招待状作るぐらい、最初から決めていたのよ」

 

 そう言ってソニアは手に持ったチケットを見せる。それはパーティーの招待状だった。

 

「いや、それこそおかしいですよねッ!? 私が帰って来なかったらどうしていたんですかッ!?」

 

「そんなことは在り得ない! こういうとき、ユウリは絶対に帰ってくるって俺は分かってたぞ!」

 

 そう自信満々に言ったのはホップだ。

 

 ……そうだった。私が、ホップがどう行動するか予想できるように、ホップも幼馴染である私の行動はある程度予想できる。

 

 だが

 

「仕事が終わらなかったらどうしてたのッ!?」

 

「…………考えてなかったッ!」

 

「ちょっとッ!?」

 

 少し抜けているところはダンデさんに似ているが、そこは抜けていいところじゃないッ!

 

「まぁまぁ。もともと、シロがユウリとお出かけが終わったらやるつもりだったらしいんだけど、今朝のキャンセルで取り止めにしたところで『ユウリなら絶対帰ってくるぞ!』てホップが言ったから、それなら「やろう」ってなったんだって」

 

 そう言ってソニアさんが、チケットを渡してくる。このチケットは、そもそもシロちゃんが私に上げるつもりだったらしい。

 

 お出かけが終わったら、チケットを渡して一度準備に戻って、ささやかなお祝いをするつもりだったのだとか。

 

 それが中止になったところで、どこかのタイミングで予定をホップに漏らしたことで、ホップがシロちゃんに私が帰ってくると予想したのだ。

 

 シロちゃんはホップにも懐いているし、自信満々に言うホップの言葉なら信じるだろう。それにもし私が帰れなかったとしても、食材を無駄にしたくないとか言って、3人にご馳走する筈だ。

 

 そして人数が増えたことで、お祝いからパーティーへと規模が拡大したということだろう。

 

「ふふふっ、ドッキリが成功したみたいで良かったわね」

 

 そう言ってお母さんは微笑んでいるだけだった。

 

 さっき電話をしたときは、そんな素振りは全く無かったので本当に驚いた。いつまでたっても、私はお母さんに勝てる気がしない……。

 

「先輩、これをどうぞ」

 

「えっと、これは?」

 

 シロちゃんがリボンのついた箱を私に渡してくるが、予想外の連続で私は思ったことをそのまま聞き返してしまった。

 

「プレゼントです。こっちでは、今日は特別な日という訳でもないですが、何でもない日でもお祝いしちゃいけないことでもないので、どうか受け取ってくれませんか?」

 

「ありがとう……開けていい?」

 

 シロちゃんからプレゼントを受け取った私は、それだけ了承を得ると、リボンを抜き取って箱を開けてみる。

 

 箱の中身は、手作りのマフラーだった。ついさっきまで寒空の下にいたので、すっごい嬉しい。

 

「先輩は寒いのが苦手ということなので、頑張って編んでみました」

 

 そういって笑うシロちゃんを見て、私は正気であるにもかかわらず、もう一度天使に会ったのではないかと思ってしまった。

 

「ちなみに俺も貰ったぞ!」

 

「私も貰ったわ」

 

「お母さんも貰っちゃった」

 

「私のお祝いに用意していたんじゃないのッ!?」

 

 チケットが1枚しかないことを見るに、シロちゃんが招待しようとしていたのは私だけの筈だ。だというのに、なんでお母さんたちにもプレゼントが用意されているのか。そんな私の疑問を察したシロちゃんが、おずおずと説明してくれた。

 

「えっと、違うんです。あれは、失敗作なんです……」

 

「失敗作?」

 

 見た限り、お母さんたちが持っているマフラーに変なところがあるようには見えない。

 

「はい。長くなり過ぎたり、短かったり、模様がズレたりしたモノなんです。とても人に渡せるものではないんですが、それでも欲しいと言われてお渡ししました」

 

「いや、要求レベルたっかッ!?」

 

 遠目で見比べてみても、長さも模様も同じにしか見えない。じっくり見れば分かるのかもしれないけど、どの辺が失敗作だというのか……私、女の子としてのプライドが砕け散りそうだよ。

 

「まだまだお返しには全然足りませんが、今の僕ができる精一杯のお返しです。どうか受け取ってください」

 

「―――――(ぎゅっ)」

 

「えっと……先輩?」

 

 私は無意識にシロちゃんを抱きしめた。

 

 なんなのこの子……ほんと、この子の先輩になれてよかった。

 

 シロちゃんは体温が高いのか、抱きしめているとすごいポカポカする。でもそれ以上に、心が満たされていくのを感じた。

 

 

―――バシンッ!

 

 

「あ痛ッ!?」

 

 そんな私の頭に強い衝撃が襲い掛かる。それに驚いてシロちゃんを手放してしまうと、私を叩いた犯人であるウツロイドにシロちゃんを奪われてしまった。

 いつの間に出てきた……。

 

「べのめのん!」

 

 以前のようにシロちゃんを拘束こそしていないが、その分私に対して敵意がむき出しである。

 

「ちょっ!? ウツロイドなにやってるのッ!?」

 

 どうやらシロちゃんも完全に予想外らしく、珍しくウツロイドに声を荒げる。

 

 そうだ。私は今回、一応パーティーの主役だ。いきなり叩いていい筈がない、しっかりと叱ってくれッ!

 

「じぇる……るっぷ……」

 

「あぁッ!? 違う、怒ってる訳じゃないんだよッ。だから落ち込まないでッ!?」

 

 知ってた。

 

 そもそもシロちゃんが手持ちのポケモンに怒ったことなんてない。どれだけ迷惑を受けたところで、それが手持ちのポケモンたちなら笑って許すような子だ。むしろ「ごめんね」って言いながら抱きしめてしまっている。

 

 それはそれとして、表情のないウツロイドが ほくそ笑んでいるように見えるのは気のせいだろうか……。

 

「ひゅああん!」

 

「ヤー! ターン!」

 

 そして当たり前のように出てくるラティアスとカミツルギに、シロちゃんの全身は覆われてしまった。

 

「はははっ。シロたちは仲良しだな!」

 

「やれやれ……」

 

「あらあら」

 

 三者三様に、その様子を見て声を漏らす。どうやらここに、私の味方は居ないようだ。

 

 シロちゃんが離れて再び寒くなってきたので、私はプレゼントのマフラーを巻いてみた。

 

「……あったかい」

 

 そのマフラーは、今まで着けてきたどの防寒着よりも暖かった気がした。

 

 このプレゼントを貰うことができたなら、今日まで仕事を頑張ってきて良かったと思えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、見たところラティアスたちもマフラーを着けてるけど、それは失敗作をおねだりされた物かな?

 

 それともラティアスたちに最初からあげるつもりだった物かな?

 

 いや、分かってる。どこまで行っても、結局シロちゃんの第一優先ってラティアスたちだもん。

 

 答えを聞くまでもないと思った私は、質問をすることなく、ラティアスたちに囲まれて幸せそうにしているシロちゃんを見守ることにした。

 

 本当にありがとう、シロちゃん

 




次に投稿できるのは、たぶん来年になると思います。
それでは皆様、よいお年を……(>_<)ノシ
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