バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
今度は何とか書き上げるのが間に合いました。
これからも時間が空いてしまうかもしれませんが、できる限り早く更新できるように頑張らせていただきますので、今後もよろしくお願いします!
何もない、真っ暗な場所に居た。
本当に何もない、空っぽの無の空間。
そこには僕以外に誰もいない。
人も、ポケモンも、何もいなかった。
それを認識すると同時に、僕はここが何処なのかを理解する。
―――いつもの夢だ……。
バトルフロンティアに来てからは見なくなったが、それまでは頻繁に見ていた夢がコレなのだ。少なくともここは、現実の世界ではない。
意識がハッキリしているのに、身体は鉛のように重く、動こうと思うことすら億劫である。
―――自分は、おそらく死んだのだろう。
アレを受けて生きているとは思えない。となると、ここは死後の世界だろうか? それにしては「夢の中と同じだ」と思ってしまう。走馬灯で、夢のことを思い出しているのだろうか?
いつも見ている僕の夢。
いつも見ている―――悪夢だ。
少し前にも、ダークライによって見せられた悪夢で、同じような光景を見た。
―――この後に起こることは知っている、
真っ暗な空間に、真っ白な画面が現れる。
画面の中には、腕に点滴が繋がれた僕が白いベッドで目を瞑っていた。
そんな僕の前に居るのは、その白い部屋と同じような白い人と……僕の両親。
今度は音が聞こえてくる。もう聞くことが出来る筈のなかった、母親の必死に叫ぶような声が、白い人に縋りつきながら聞こえてくる。
「先生ッ! どうか、どうか娘の目を覚ましてくださいッ! お金ならいくらでも払いますッ! 足りないと言うのなら、どんなに時間が掛かっても必ず用意しますッ! だから、だから娘を助けてくださいッ!」
そう泣き叫ぶ母親に、白い人は無言のまま首を横に振った。
その意味を理解した母親は膝から崩れ落ち、それを後ろから支えた父親に抱き着いて大声で泣き始めた。
父親は声を出さないが、母親を強く抱きしめなら唇を噛んで泣いている。
そんな、
画面が切り替わる。
少し顔がやつれた父親が、眠っている僕に話しかけている。
「お前は俺の息子だ。世界でたった1人の大切な、俺の宝物なんだ。だから絶対に死なせない、死なせてなんてたまるか。俺はこれから忙しくなるからあまり来れなくなるが、俺もあいつも、お前を愛している。だから、早く目を覚ますんだ」
そう言って父親は、僕のベッドの側にある空きスペースに、一台のゲーム機を置いた。
「目を覚ましたら、お前が大好きだったコレでもやりながら、迎えに行くのを待っていてくれ……また来る」
そう言って父親は白い部屋から出て行った。
画面が切り替わる。
化粧で目の下のクマを隠した母親が、カーテンを引いて窓の外にある星空を見ている。
「今日は流れ星が見えるんですって。お願いすれば、目を覚ましてくれるかしら? なんで3回もしないといけないんでしょうね。すぐ消えちゃうのに、考えた人は絶対に意地悪よ」
そう言って母親は、痩せ細ってしまった僕の手を握って優しく笑いかけてくれた。
「目が覚めたら、食べたいもの何でも作ってあげる。休みの日は一緒にお出かけして、勉強で分からないところは教えてあげる………だから、だから……」
泣いていた。化粧が涙で落ちて酷い顔になるのも構わず、母親は泣いていた。
画面が切り替わる。
何度も何度も切り替わっては、その白い部屋で寝ている僕と両親の光景が映し出される。
―――それを見ても、僕は動かない。
―――だって、分かっているから。
初めてこの夢を見た時は「僕はここに居るよッ!」と叫んで、画面に手を伸ばした。
だけど腕が画面に触れた途端、この画面は消えてしまったのだ。
そして目を覚ますまで、この真っ黒な空間に取り残されてしまう。
―――この真っ暗な中で1人ぼっちになるのだけは……やだ……。
何度も見た夢だ。どうすれば、何が起こるかなんて、もう分かり切っている。
いつも見ている悪夢。
悲しむ両親を見たくなくて目をそらしたい、耳を塞ぎたい。
だけど、少しでも2人の姿が見たくて、声が聞きたくて、画面を消すことはできない。
幸福と絶望
天国と地獄
もう、諦めることにすら心が疲れてしまったのか、意識することを止めてしまうほど喜び尽くしたのか……。
自分でも、よく分からない感情で、いつもこの夢を見ていた。
大好きだった筈の両親を見ても、もう何も感じない……。
そうなるほどに、この夢には慣れてしまったのかもしれない……。
また、画面が切り替わる。
多くの光景を見せられて、最後は必ずこの画面が映る。
その画面だけは、白が無い。
その画面の中では、一緒にテレビを見ている僕と家族が居る。
テレビに映っているのは、光の三原色である赤と青と緑だけ。
テレビが赤になったと思ったら青に変わり、青になったと思ったら緑が現れる。
そして、それを見ていた僕は、突然倒れて動かなくなって……それで、おしまい。
だけど、目を覚まさない僕は、悪夢の続きを見る。少し前にダークライに見せられたから、何が映るのかは分かっている。
画面が切り替わる。
その画面には、起きている僕と両親が映っていた。
「なんでこんなことも分からないのッ!?」「お前のせいで俺が恥をかいたじゃないかッ!」「叩いたぐらいで泣いてんじゃないわよッ! 男の子でしょッ!」「気持ち悪いんだよッ! 触るなッ!」「何にもできないくせに迷惑ばかりかけてッ!」「お前だって女だろッ! 飯ぐらい自分で作れッ!」「なんでこんな時に笑ってるのッ!?」「ちゃんと泳げるように練習しろッ!」「できないなら、できるまでやりなさいッ!」「お前がイジメられて怪我をしたせいで、俺が暴力を振るったと疑われたじゃないかッ!」「留守番もまともにできないのッ!?」「俺は忙しいんだ、1人でなんとかしろッ!」
殴られ、蹴られ、罵倒され、物を投げられ、沈められ
そしてボロボロになった僕を見て、2人は言うのだ。
―――捨てられる。
そして画面が最初に戻る。
これがダークライに見せられていた悪夢と同じなら、
大好きな両親からの拒絶は、まさしく僕にとって最悪の夢だった。
だが
僕の記憶には、
こんな夢を見たのだって、ダークライに眠らされた前回だけだ。故に、これが事実無根の夢であるのは確実な筈なのだ。
だけど、それなら……
白い部屋に居る僕は眠っていた。だというのに、それを僕が知っていることは矛盾する。
つまりそれは、今まで見ていた悪夢は「僕がこうであって欲しいと思っていた捏造された記憶でしかない」ということだ。
所詮は夢、深い意味なんて無いのかもしれない。
それでも、この悪夢は、僕を行動させるための原動力になっていたのだ。良い意味では決してなかったが、それでも毎日見ているうちに、いつか絶対に生きて両親のもとに帰るんだと死の誘惑に抗い続けることができた。
でも、それが全て僕が妄想していた都合の良い夢だとしたら……。
―――だったら、
僕は画面に手を伸ばす。
不思議と、つらいとも悲しいとも思わない……。
身体が重く、動きは酷く緩慢だが……ゆっくりと、確実に、画面に腕が近づいていく。
いつもの夢なら、テレビを見てる僕が倒れたところで目を覚ます。
ダークライに眠らされた時は、ダークホールの効果が切れたところで目を覚ました。
でも今回は、もう二度と目を覚ますことはできないかもしれない……
この画面を消したら、この真っ暗な場所に永遠に取り残されてしまうかもしれない……
いや、もしかしたら死を完全に受け入れて、自分という存在そのモノが消えてしまうかもしれない……
―――それでも、もう、こんなモノ、見ていたくない。
もう少しで腕が画面に触れる。それで終わりだ。
腕が触れれば、画面は光の粒子に変わって霧散する。そして夢と同じならば、真っ暗なここに自分だけが残ることになる。
もし自分の存在が消えなくても、永遠に1人ぼっちになり、自分の精神はいつか耐えられなくなるだろう。
消えてしまえば、そのままおしまい。僕としては、この空間にいるのは怖いから、そっちの方が良いけど、もうそんな望みをする気もない……。
どっちにしても、画面に触れてしまえば終わり。
そんな、自分が消えるかもしれない直前で、僕は自分の中に、ほんの少しだけ心残りがあることを思い出した。
―――やっと、生きて行きたいと思えたんだけどなぁ……。
―――結局、先輩になんにもお返しすること、できなかったや……。
そうして伸ばした腕は画面に触れる。
すると、白い画面はいつものように光の粒子となって霧散し――
『シロちゃんッ!』
「―――えっ?」
聞き覚えのある声と一緒に、その霧散する筈だった光が僕の手を取って、真っ暗なここから、白い世界へ引っ張られたのだった。
―――せん、ぱい?
◆
「ひゅあん!」
「ヤー!」
「べのめのん!」
「シロちゃんッ!」
空に突き飛ばされたシロちゃんに私が叫ぶよりも早く、彼のモンスターボールから勝手にラティアスとカミツルギが飛び出てくる。
ウツロイドが『ストーンエッジ』を使ったピンクのポケモン――ミュウに
「―――――ッ」
その板の上にウツロイドが優しく下ろしたシロちゃんを見て、私は絶句する。
全身が血塗れになっているのとは対照的に、その顔は寝ているように酷く穏やかだった……だが、その胸の中心に空いた穴は背中まで貫通しており、心臓がある筈の位置が空洞になってる。
―――即死
そんな絶望的な言葉が脳裏をよぎるが―――即座に否定する。
幸か不幸か、頭は無事だ。血液が止まっても、脳が活動を停止するまでには3~5分までの猶予がある。それまでに血流を再び流れるようにすれば、まだ蘇生できる可能性がある。
……だが、それでは今なおラティアスがシロちゃんに掛けている『いやしのはどう』だけでは間に合わない。
「みんなッ! シロちゃんを助けるために力を貸してッ!」
そう言って彼女たちに叫んだ私に、ウツロイドとカミツルギは「なんのつもりだ」と言わんばかりの怒りを見せる。ラティアスに至っては見向きもしてくれない。
分かっている……間接的とはいえ、シロちゃんがこんなことになる原因を作ったのは私の不注意からだ。ただでさえ、この子たちからしたら私は信用できるような存在ではないというのに、この状況で助力をお願いするなど「ふざけるなッ!」もいいところだろう。
―――だけど
「このままだとシロちゃんは助からないッ! でも全員で力を合わせれば、まだ間に合うッ! 絶対に間に合わせてみせるッ! だからお願いッ! 力を貸してッ!」
そんな私の叫びを聞くと、ひとまず怒りを収めたウツロイドとカミツルギは互いを見合わせて、悩んだ様子を見せる。
信用できないのは分かる。でも、今はその時間すら惜しいのにッ。
「ひゅあん!」
「「ッ!」」
そんな私たちを前にして、ラティアスが『いやしのはどう』を使いながら大きく鳴き声を上げた。
その声を聞いたウツロイドとカミツルギは、一度頷くと触手で『〇』のマークを見せてくる。
おそらく、彼女たちも分かっているのだ。このままだと、シロちゃんが死んでしまうということを。だから、助けられるなら私が信用できなかろうが協力すると決めてくれたんだろう。
「―――ッ。ありがとうッ!」
そうと決まれば、すぐさま行動に移す。
緊急連絡用の通信機が使えない現状、助けを呼ぶことは不可能。
故に、ラティアスたちの技を使って治療する。
その為に指示を、私はする。
「ラティアス! 『マジックルーム』で、
「ひゅああん!」
自分でも明らかに意味不明な指示をした自覚はある。だが、ラティアスは「簡単だ」と言わんばかりに『マジックルーム』を展開し、私の予想通り、空間を隔離することができた。
『マジックルーム』は、本来展開している範囲内で『どうぐ』が効力を失うという効果であり、空間を隔離させる力はない。
特殊な空間を作るという意味では、現実とは異なる空間を作って隔離しているとも言えなくはないが、範囲から出てしまえば影響を及ぼすことができないために、バトルでもあまり使われることのない技だ。
だが、ラティアスの使った『マジックルーム』は、範囲内と外を分ける境目が壁のように侵入を防ぐ結界のようになっていた。
―――やはりそうだ……。
初めて会っていた時から、なんとなく感じていた違和感があった。
実は、私はこのラティアスが通常の個体ではないことは、以前にポケモンセンターでバトルした時から、なんとなく分かっていたのだ。
チャンピオンとして多くのトレーナーとバトルしていれば、自身の知らないポケモンとバトルすることもあれば、普通から外れた特異個体や特殊個体と対峙することは何度か経験するものなのだ。
現に、私は ウツロイド や カミツルギ については、そこまで詳しくはない。カンムリ雪原で一度だけ見かけたことはあるが、それだけだ。
だが、チャンピオンとして多くのポケモンを見てきた私からしたら、初めて見るポケモンであっても、そのポケモンを見ればタイプや特性、覚えられる技などは何となく分かる。
だからこそ、私は2体の本来のタイプが『どく・いわ』タイプと『くさ・はがね』タイプだと知っていたのだ。
流石に、姿を見ただけではポケモンの名前までは分からない。新しいポケモンが見つかれば、発見者が種族名を決めることになっているので、最初の人が考えたニックネームを把握しろというのは無理だ。
それでも、ラティアスが特異個体か特殊個体であるというのは初めて会った時に察することができた。流石に『なし』タイプだとは思わなかったが、とにかく「普通ではない」ということは理解できたのだ。
だが、2回目のバトルを終えて、私はその考えを改めた。
―――
ラティアスも、ウツロイドも、カミツルギも、シロちゃんのポケモンたちは、
それはダークタイプ化していたからだとか、トレーナーであるシロちゃんによって育成されたからだとか、
もっと根本的な、存在としてのスペックが
特にラティアスとは、このバトルフロンティアに来てから、何度かシロちゃん以外のトレーナーとバトルする時に、使用してくる人は何人か居た。
―――だが、ハッキリ言って彼らのラティアスは、
少なくとも、シロちゃんとバトルした時のムゲンダイナの ダイマックスほう を、サイコキネシスで跳ね返せるような圧倒的な差の出力があるようなラティアスは1体もいなかった。
そしてカンムリ雪原で目撃した普通に見えるウツロイドとカミツルギも、彼らのラティアスより少し弱い程度しかスペックに違いはなかった。
だが
シロちゃんのポケモンは全員が、私のムゲンダイナのような神話や昔話・伝説などに登場するようなポケモンと同等か、それ以上のオーバースペックだ。
このホウエン地方で言うところのカイオーガやグラードンのように、存在するだけで止まない雨を降らし、また雲1つない日照りを作り出すという自然現象を、己が身1つで起こすことが可能な圧倒的な力を持ったポケモンと同じなのだ。
理不尽の権化
世界の
どうしてシロちゃんのポケモンたちが、そこまで強いのかは分からない。
でも、今はその力を使う。そうしないと、シロちゃんは助けられないッ!
「ウツロイド! 『ワンダールーム』と『トリックルーム』で、この空間内で
「べのめのん!」
私の言葉を聞いて、ウツロイドはすぐさま『ワンダールーム』と『トリックルーム』を
これも本来なら在り得ない。たとえ2つでも、異なる技を同時に使うように訓練すれば、とんでもない時間と才能が必要な技術だ。それを、あらかじめ訓練していたならともかく、私がこの場で指示したからといって、即座に出来る筈がない。
だが、ウツロイドは当たり前のように『ワンダールーム』と『トリックルーム』を同時に展開し、指示した通り『ワンダールーム』の『ぼうぎょ』と『とくぼう』を生命力と定義し、『トリックルーム』の逆転させる対象を『すばやさ』から生命活動に置き換えた。
なんとなく可能だと感じて指示したのは私だが、理屈は全く分からない。
―――でも、今はそんなことはどうでもいい。
「―――――カハッ」
不意に、私は肺にある空気を全て吐き出した。
そうだ。今、この空間は生命の維持方法が逆転しているのだ。
健常者は衰弱し、重傷者は回復していく空間。怪我をしていない私が居れば、呼吸をするなと空気を身体から追い出し、体内に流れる血流を止めようとする筈だ。
―――だが、それでは指示ができない。
故に私は、身体全体から発せられる危険信号を全て無視して、思いっきり息を吸い込む。
「カミツルギ! 『こうごうせい』で体力を! 『つるぎのまい』でエネルギーを! 『てっぺき』で抵抗力を! 『めいそう』で精神力を増やしてッ!」
「ヤー! ターン!」
想像を絶する息苦しさを無視して指示した私の言葉を聞き、カミツルギは暴れるように
2つ同時でも、とんでもない技術と才能が要るというのに、その倍の数を同時に使う難易度なんて在り得ないどころの話ではない。
だが、それ以上に凄まじいのはカミツルギの執念だった。
今、ここは生命維持をする方法が逆転している空間だ。
そんな空間で、体力、エネルギー、抵抗力、精神力を増やそうとすれば、どれだけの苦しみが襲い掛かるのか、一呼吸しただけで意識が飛びそうになった私には想像することもできない。
それでもなお、カミツルギは技を止めない。どれだけ身体が傷つこうと、行動を止めることは無かった。
「ラティアスは『ガードシェア』! ウツロイドは『パワーシェア』と『いたみわけ』で カミツルギが増やした分をシロちゃんに送って!」
「ひゅああん!」
「べのめのん!」
「ヤー! ターン!」
私の言葉に、3体は一切の躊躇も無く、増やした分の力を『ひんし』のシロちゃんに分け与える。
今、この空間で下手に回復技を使えば逆にダメージを受けてしまう以上、こうして力を分け与えるやり方が正しい筈だ。『こうごうせい』をさせたカミツルギには、傷ついた上に力を失わせるという拷問以上の苦しみを受ける筈だが、カミツルギ自身を含め、誰1人として躊躇なんてしない。
「シロちゃんッ! シロちゃんッ!」
私は、あまりにも小さいシロちゃんの手を取って呼びかけ続ける。
声を出すたびに、この逆転した空間で呼吸が息苦しさを訴え、身体を動かすたびに全身から血液を失うような寒気に襲われる。
それでも、私はシロちゃんに呼びかけるのを止めてはいけない。シロちゃんが少しでも意識を取り戻させやすくするため、私は呼びかけるのを止めてはならない。
―――絶対にシロちゃんを助ける!
この場に居る全員が、心を1つにしていた。
◆
どれほど、時間が経っただろうか……。
もはや自分が本当に手を取っているのか分からないほど、身体の感覚が無い……。
だが、そのおかげでシロちゃんの胸に空いていた大穴は完全に塞がった。
生憎と表情は、最初から穏やかな顔だったので、良くなったのか分からないが、あと少しで峠を越えることができるまでには回復することはできた。
なのでこれ以上、この空間を維持すれば、またシロちゃんを死に追いやることになる。
「ウツロイド……『ワンダールーム』と『トリックルーム』を解いて……」
指示を出そうとするが、私も呼びかけ続けたせいか、スムーズに言葉を出すことができない。それでも、ウツロイドは指示通りに技の展開を解除すると、床に崩れ落ちる。それと同時に、逆転空間で無理に動き続けていたカミツルギも床に落下した。
そして、まだなんとか無事なラティアスに、私は最後の指示をする。
「ラティアス……『いやしのねがい』」
それは、この『ひんし』のシロちゃんを救う最後の一手。
もともと、ラティアスは少し前にダークタイプ化を解除する為に『ひんし』状態にしたことから、無理矢理ボールから出てきた時点でボロボロの『ひんし』寸前だったのだ。
それが先程まで居た逆転の空間では、遥かに早く回復とダメージの境界線に到達して、生と死の狭間を行き来していた筈である。
この空間で一番苦痛を味わっていたのは、間違いなくラティアスだ。
そのラティアスに、いつ『ひんし』になってもおかしくないボロボロのラティアスに『いやしのねがい』という絶好調の時に使っても『ひんし』になるほど体力を使う技を指示する。
どう考えても危険な行為だ。
だが、ラティアスは躊躇うことなくシロちゃんに『いやしのねがい』を発動する。
大丈夫。
ラティアスがダメージを受けるギリギリの判定となるタイミングまで逆転空間に回復をさせた時に、ウツロイドに逆転空間を解除させたのだ。普通の個体ならともかく、このラティアスなら『ひんし』にはなっても、死ぬことは無い。
『いやしのねがい』を使い終えると、光り輝いていたラティアスは元の明るさに戻ると同時に『マジックルーム』が解除され、床に倒れ込んだ。
―――みんな、よく頑張ってくれた。
―――あとは、私が頑張る番だ。
「シロちゃんッ……シロ、ちゃん……」
私がやることは、呼びかけ続けること。
もう空間は元の状態に戻ったが、逆転空間の中でずっと呼びかけを続けていたこともあり、長い言葉を出すことができない。
「シロ、ちゃ……ん……シ、ロちゃん……」
1文字ごとに、死ぬ気で声を絞り出し、私は呼びかけ続ける。
ラティアスたちだって頑張っていたのだ。この程度で、私が弱音を吐くわけにはいかないッ!
「シ………ロ………ちゃ……ん……」
声がかすれる……喉がカラカラで音を上手く出すことができない……。
―――それでも、呼びかけることは絶対にやめないッ
本当はもっと、沢山のことを呼び掛けたい。
そんな死を受け入れたような顔をなんてしちゃダメッ! 生きることを諦めるなんて許さないッ! 約束が必要なら、いくらでもしてあげるッ!
―――だから、お願いッ!!!
「帰ってきてッ! シロちゃんッ!」
本当に最後の体力を振り絞って、私はその言葉を最後に声が出せなくなった。
もう……口を開く力すらない……。
それでも、私はシロちゃんが起きるように祈り続ける。
―――お願い……お願い……目を覚まして……。
―――――――――――――――――――――――
「………
「ッ!?」
不意に聞こえたその声に、私は目を見開く。
するとそこには、私が握った手を見て不思議そうな顔をしているシロちゃんが、こちらを見ていた。
―――よかった……本当に、よかった……。
そう思って、全身の力が抜けそうになった。
だが、その時
「ニシシシシッ! オ~デ~マ~シ~!」
そんな声と共に、宙に浮く精霊のようなポケモンが現れ、その手に持っていた2つのリングを上空に投げたのだった。
ガラル主人公「そのポケモンを見れば、タイプも特性も覚える技も、なんとなく分かるよね?」
他の主人公勢「「「「「分かる」」」」」
一般トレーナー「んなわけあるかぁッ!?」