バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
初夢は「大晦日から元日」「元日から2日」「2日から3日」など、いくつか説があるようですね。
良い夢だったら「正夢」とし、悪い夢だったら「逆夢」としましょう。
何もない、真っ暗な場所に居た。
本当に何もない、空っぽの無の空間。
そこには誰もいない。
人も、ポケモンも、何もいなかった。
だが、そこに1つだけ存在するモノがあった。
生まれたての、真っ白な『神様』だ。
『神様』が呼吸をすると『時間』と『空間』と『反骨』が生まれた。
そして『時間』が祈ると時間がまわり始めた。
さらに『空間』が祈ると空間が広がり始めた。
新しい世界が生まれた。
だが、生まれたての世界は支えが無くて不安定だった。
そこで『反骨』が祈ると、世界を支える裏側ができた。
そして『神様』たちは、真っ暗な空間から、新しく生まれた世界に入ろうとした。
だが『神様』だけは、入ることができなかった。
『神様』の力が強すぎたからです。
『神様』は 『時間』と『空間』と『反骨』だけで入るように命じ、自身は真っ暗な場所に残ることにした。
『時間』と『空間』は、大人しく従った。
だが『反骨』だけは、大暴れした。
『神様』が尋ねた。
「どうして、そんなに暴れているのか?」
『反骨』は答えた。
「世界を壊せば『神様』も一緒に入れるかもしれない」
『神様』は「それは無理だ」と言うと、暴れる『反骨』を止めた。
そして『反骨』は落ち着くと「世界を壊してしまったから」と、治すために裏側に行くと言いました。
それを見て『時間』と『空間』は、世界が早く治せるように祈ると、沢山の「もの」が生まれた。
そうして新しい世界に『時間』と『空間』と『反骨』は入っていきました。
しかし、それでは世界の外に居る『神様』が強すぎて、新しい世界が潰れてしまいます。
なので『神様』は、3つの『命』を生み出した。
そして3つの『命』が祈ると「心」が生まれた。
『神様』は、小さな神様をたくさん創って「心」を入れていきました。
しかし、それでは足りません。
なので神様は、弱い代わりに沢山の増える生き物を創りました。
世界を壊さないように、いろんな生き物を創って世界を回せるようにしました。
しかし、それでも足りません。
『神様』は悩みました。
あと創れる生き物は1種類だけ、それ以上は世界の容量を超えてしまいます。
なので『神様』は、最後の生き物を 他の生き物 や 小さな神様 の力を増やせるような存在として創り、特別な役割を持つことから『人間』という別枠としました。
そうしてようやく、新しい世界は安定したのでした。
でも『神様』は、この世界には「いらない」ので入れません。
なので『神様』は、真っ暗な場所から世界の景色を「ひとりぼっち」で眺めています。
『神様』の前では、3人の人間が楽しそうにしている光景が映っていました。
「……………」
「ちょっとグリーン! なんで私の指示を無視するのよッ!?」
「うるせえッ! ブルーが嘘つくからに決まってるだろッ! おい、レッド! 黙ってないで指示しろよッ! スイカの場所 分かんねぇじゃねぇかッ!」
「だから『後ろ』って言ってるでしょッ!」
「後ろから、じいさんの声が聞こえてるんだよッ! お前は俺に、何を叩かせるつもりだッ!?」
わいわいガヤガヤ。3人の人間は、楽しそうに遊んでいました。
それを見て『神様』は 『時間』と『空間』と『反骨』のことを思い出します。
みんなで居た時は、楽しかったなぁ……やんちゃで、喧嘩ばかりしていたけど、良い子たちだった。
あれが―――『家族』って、言うモノなのかなぁ?
―――会いに……行きたいなぁ……。
そして『神様』は、また3人の人間を見ました。
弱いのに、仲間が居て、家族が居る人間を見て思いました。
―――自分も……人間と同じぐらい弱くなれたら、家族に会いに行くことは、できないかなぁ……。
と
それでも『神様』は祈りませんでした。
祈らなければ、願いは生まれません。
なので『願い事』は、願いを求めて彷徨うことになりました。
―――ねえ?
―――俺は
―――僕は
―――私は
―――いったい、誰なの?
気にしないでおこう
忘れてしまおう
だってココは、夢と冒険の世界なんだから
夢のことなんて深く考える必要はないよ
―――「まぁ、いっか」
これでいいんだよ
―――「なんの話だっけ?」
楽しい夢に疑問なんて持っても意味ないよ
だからさ
落ち込んだら、気持ちを立て直させてあげる
悪い夢は、みんな忘れさせてあげる
嫌なことは、こっちで全部まとめてポイッしてあげる
そして、家族で仲良く楽しく生きていこうよ
◆
私は、ガラルのチャンピオンである。
未熟で、分不相応ではあると分かっていても、託されたチャンピオンとして立場に応えようと今まで必死に頑張ってきた。
沢山のポケモンと出会い、多くの人と巡り会ってきた。
そのおかげか、ポケモンを見れば、そのポケモンの本質が何となく分かる。
そして、それはポケモンだけではなく、人間に対しても言えることだった。
スタジアムでは多くの人の視線を受けながら自身を魅せ、メディア出演では相手が求めていることを察して対応する。技術的な意味では、小さな仕草を見て判断していることだけど、数を重ねた結果、それが初対面の相手であったとしても、なんとなく相手がどんな人か分かるようになっていた。
そんな私が、初めてシロちゃんに会った時、抱いた印象は「白」だった。
何もない。なにかを諦めてしまったような空白が、大切なナニカを求めて探しているような、真っ白な子供。
それでいてなお、人も、ポケモンも大好きな。親が子供に向けるような、一種の慈愛のようなモノが見えていた。
自分でも、抽象的な表現であるということは分かっている。だが、少なくともシロちゃんが良い子であるということは間違いないと思った。
だからこそ、私は今の状況を理解できない。
いや
―――
「どうしたんですかユウリさん? 私の顔に、何か付いていますか? って、あぁ……そういえば血塗れでしたね」
私とは少し離れた場所で、そんなことを言いながら、パンッ! と小さな音を立てて両手を合わせるように叩くと、つい先程まで血塗れだった筈の身体から血の跡が無くなり、さらにボロボロだった筈の服までもが新品同然にまで綺麗になった。
「こんな感じですかね。まったく、伝説や幻は周囲に被害を出し過ぎです。たいして強くないくせに、プライドだけは高いとか本当に面倒くさい」
そう言って溜め息をついている姿は、言葉の丁寧さとは裏腹に、冷徹そのものだった。
そして、その冷たい視線を向けられているのは、つい先程 彼に倒されて目を回しているフーパと、リングから現れたセレビィとザルードだった。
「それとマーシャドー、いい加減に影の中から出てきたらどうですか?」
そう言って彼は、自身の影に呆れたような目を向ける。
確かにその影には、先程フーパのリングから現れた影のようなポケモンが飛び込んだように見えた。だが、呼びかけても影のポケモンは姿を現す様子を見せない。
「黙っていれば、やり過ごせると思っていますか? 1度だけ忠告します、私が優しい間に出てきなさい」
そう言って影から出てくるのを待つが、そのポケモンが出てくる様子はない。
すると彼は、またしても呆れたように溜め息をすると
――――――――――――――ッ!!!!!
私には理解できないような訳の分からない音と衝撃を出して、小さく土煙が舞った。
「…………」
そして、その土煙が晴れると、そこには影の中に入った筈のポケモンが『ひんし』になって倒れていた。どうやったかは分からないが、彼は自身の影に潜んでいたポケモンを自力で叩き出して倒したのだ。
そして
「死ね」
一切の容赦なく。ただただ冷徹に。その言葉を浴びせると共に、マーシャドーに手のひらを向ける。彼は先程、フーパたちを倒した時も同じようなことをして、3体をまとめて吹き飛ばしていた。要するに、この行為は攻撃することを意味している筈だ。
―――マズイッ!
その姿を見て、その行為の意味を理解して、私はとっさに止めるように叫ぼうとしたが、今の消耗しきった私にそんな力がある筈もなく。顔面から地面にダイブしてしまった。
「ッ! と、いけませんいけません。それはダメです。危うく一線を越えるところでした……」
だが、その甲斐あってか。私の倒れた音を聞いて、マーシャドーに向けられた手を下ろすと、彼は視線を別の方に向ける。
「………………」
そこには、フォルムチェンジをした巨大なフーパが声を発さずに彼を睨んでいた。
「……まだやる気ですか? アナタたち伝説や幻は、タイプの相性 や 特性の障害を無視するので面倒なんですよ――って、会話する気すら無いみたいですね」
話をする彼の周りに、突如としてフーパの持っていたリングが彼を取り囲むように現れると、次にフーパの6つの腕が消える。そして次の瞬間、消えたはずの6つの腕がリングからミサイルのように放たれた。
だが
「必中の技を使ったところで、弱ければ意味ありませんよ」
避けることのできない6つの腕による連撃は、攻撃を受けた筈の彼をよろけさせることすらできなかった。
「攻撃とは、こうやるんです」
そう言って彼は、フーパに向けて指を差す。
すると次の瞬間、指の先から闇色の流星が放たれた。
――――――――――――――ッ!!!!!
そして、またしても訳の分からない音と衝撃を出して、流星の命中したフーパの周りに小さく土煙が舞う。
「……………」
その土煙が晴れると、先程まで巨大だったフーパが小さな姿に戻り、完全な『ひんし』状態で倒れていた。
「あれ? わざわざ『ダーク技』にして使いましたけど、過剰威力でしたかね?」
そんなことを呟くも、彼は特に気にした様子もなく。フーパから視線を外すと、今度はこちらに近づいてきた。
そして、倒れている私を見下ろすその姿は、凍えるような冷たさを纏っている。
「ありがとうございます、ユウリさん。適切な治療の指示でした、流石に選ばれた存在だけのことはあります。あなたは、やはりこの世界に必要な存在でした」
そう、上から目線で言ってくる彼の言葉は、聞いているだけで震えるほどの威圧感があった。
生物として、存在としての、格の違いを感じる。
彼は、本当にシロちゃんなのか?
あまりにも、今までのシロちゃんと違い過ぎる。
優しい子。守ってあげたい子。そんなことをシロちゃんに対して思っていた私は。
今は、ただ純粋な恐怖しかない。
今すぐ、ここから逃げ出したい。
自分が今、生きているのは目の前のナニカの気まぐれでしかないという感覚が、本能的に理解する、させられてしまう。
「ラティアスも、カミツルギも、ウツロイドも、よく頑張ってくれました。
まぁ、手を離したウツロイドに関しては、正直蹴り飛ばしたい衝動もありますが、私がやると殺してしまいかねませんし、その後は頑張ってくれたので今回は不問にしましょう」
そう言って視線をラティアスたちに逸らしたことで、恐怖という重圧が少しだけ薄れる。
このまま何も言わなければ、こちらに視線は向けられないかもしれない。あの恐ろしい感覚を、味わわなくて済むかもしれない。
「……れ……だ」
だが、私の口は、私の意思を無視して、枯れてしまった筈の声を絞り出した。
「? どうしました、ユウリさん? 何か、
そんな私の声を聞いて、再び彼がこちらに視線を向ける。
―――怖い
怖い恐いコワイ怖いコワイ怖い恐い怖いコワイ恐いコワイ怖い恐い
だけど
「頑張ったんだから、疲れているんですよ。1回眠って、悪い夢の事なんて忘れてしまいましょう? そしてまた、先輩として頑張ってください」
その言葉を聞いて、私の枯れた筈の声は、無意識のうちに叫びをあげた。
「……お前がッ!! シロちゃんを、私の大切な後輩を語るなッ!!!」
「……ッ!?」
叫ぶと同時に湧き上がってきた凄まじいまでの怒りが、恐怖に震えていた自分にその言葉を吐かせた。
絶対に、シロちゃんではない。
論理的なモノではなく、直感的なモノで分かる、絶対的な確信があった。
だからこそ、コレが、コイツが、私を先輩と呼ぶことが、シロちゃんに成り済ましていることに、私は声を抑えることができなかった。
「お前は、シロちゃんじゃないッ!! お前は――お前はいったい、誰だッ!!!」
そう叫ぶ私の声を聞いて、目の前に居る彼は、一度驚いたような顔をすると、微笑みを浮かべる。
そのシロちゃんの顔で浮かべる笑みは愛らしく、そして一切の感情が籠っていない空っぽの笑顔だった。
ポケモンの世界は、沢山の「祈り」によって生まれました。
でも『神様』だけは祈りませんでした。