バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
「おいおい。久しぶりに御曹司様に会って家に招待されて来てみれば、なんでお前がここに居るんだ? マツブサ」
「アオギリか……」
ここはトクサネシティのダイゴの家。
そこでは、この世界で伝説のポケモンを捕獲することに成功した2人が予想外と言った様子で相手の名を呼んだ。
「まあまあ、両方とも落ち着いて」
そんな2人の間に立って仲介するのは、彼らを集めた張本人であるデボンコーポレーションの御曹司、ダイゴだ。
「いや、別に問題を起こすつもりはねえよ。ただ、意外だったと言うか、なんと言うか……」
ガシガシと豪快に頭を掻くアオギリに、マツブサもなんとも言えない表情をしていた。
「その通りだな。私のことを知っているお前からすれば、元チャンピオンであるダイゴくんと私が一緒に居るのは、どう考えても不自然だ」
アオギリの言葉を当然であると認め、気持ちを整えるかのようにマツブサは眼鏡に指をあてる。
その様子を見て、アオギリは「あ~」と何か言葉を選ぶように間の抜けた声を出すと、改めてマツブサに視線を向けた。
「まだ、お前は
「……………あぁ」
アオギリの言葉に、マツブサは静かに肯定した。
「11年前のあの日。若かった頃の私は、あの強大なポケモンたちに恐怖した。強大過ぎる生命を前にして、私は人類の滅亡を見たような恐怖に囚われた」
「あぁ……コイツを捕獲した時から、俺も何度も思ったぜ……「よく今日まで、世界は滅びなかったな」ってな……」
そう言って、アオギリは自身の懐にあるマスターボールに視線を向ける。
するとマツブサは、同じように懐にあるマスターボールを取り出して、なんとも言えない視線を向けた。
「私は、ポケモンが怖かった……人間とポケモンは、絶対に共に生きてくことができない存在であると思い込み。それでもなお、その力を持って「人類にとっての理想の世界」を手に入れるために、無謀にもグラードンに戦いを挑んだ」
「そうだ。マグマ団を率いてお前がグラードンを捕獲したことで、俺たちアクア団は万が一のことを考えてカイオーガを捕獲したんだ。正直、捕獲した時は喜びよりも疲労と安堵感でぶっ倒れそうだったぜ……」
そう言ってアオギリも、マスターボールを取り出して疲れたような視線を向ける。
「だが、たった1体捕まえたところで、何が出来る?
お前のカイオーガ、現チャンピオンのカイオーガ、グラードン、レックウザ。聞けばバトルフロンティアなるところでも カイオーガ も グラードン も レックウザ も所持しているトレーナーが居るという。
確かにグラードンは強力なポケモンだ。それこそ、ゲンシカイキさせれば世界を滅ぼせるほどの力がある。だが、この世界にはグラードンにならぶ強大なポケモンが多すぎる。
たった1体捕獲する為に、長い時間と労力をかける必要があった私には、どう考えても目的の達成は不可能であると実感したよ……」
「ある意味、強力なポケモンが大量発生したことでバランスが取れていたんだろうな……それにコイツらは、ただ生きていただけで人間を敵視していた訳ではない、ということも大きい。
それと、少なくとも俺にとっての理想の世界には、コイツらが居ることが大前提だ。ポケモンが苦しんで、人間だけが幸せになるなんて俺はゴメンだぜ。
人もポケモンも共に生きていく、それこそが俺の理想の世界だ」
そう言って、2人はお互いを見る。
方や、強大なポケモンに恐怖し、そのポケモンを利用しようとした者。
方や、多くのポケモンを愛し、人を含めてポケモンを守ろうとした者。
目的は違えど、伝説と呼ばれる強大なポケモンを捕獲することに成功した、この世界での強者たち。
だが、彼らの中にあるのは真逆の思い。
ポケモンと人間は、共に居ることはできない。
ポケモンと人間は、共に居るべきである。
根本的な思想が違うので、彼らは互いを敵視こそしないモノの、絶対に相容れない者同士だ。
「とりあえずお茶でも出すから、席に座ってくれるかい?」
が、そんな因縁はダイゴには関係ないことなので、軽い調子で2人にテーブルに着くように勧めると、キッチンの方に向かった。
特に断ることでもないので大人しく従うアオギリとマツブサだが、2人が並んで座っている光景を彼らの部下が見たらどんな反応をするだろうか……。
そして少しすると、ダイゴがトレーに3人分のお茶を載せて戻り、それぞれの前に置く。地味に最高級のお茶なので香りが良い。
「さて、変に改まって挨拶するほどの間柄でもないし、早速本題に入ってもいいかい?」
そういうダイゴの言葉に、2人は頷く。
少し前、封印されていたカイオーガとグラードンが同時に目を覚まして大暴れしたことがあった。目を覚ました原因は不明だが、有力な説では同種のポケモンが現れたことで、互いが共鳴して封印が解けたのではないか、と言われている。
実際に、カイオーガとグラードンを捕獲した2人からすれば、在り得ないことではないと思った。
伝説のポケモンは恐ろしいほどに強い。なにか1つでも切っ掛けがあれば、どのような封印をされていたとしても自力でソレを破って出てくるような規格外ばかりだ。
そして大暴れする2体を止めるため、ダイゴとミクリが『そらのはしら』までレックウザを呼ぶまで、彼らは手持ちの伝説を使って命懸けの時間稼ぎをした。
彼ら2人の奮闘もあって、奇跡的に人的被害が無かったこともあり、ダイゴとミクリは2人にかなり気を許しているのだ。
2人とも大人であり、敵意もない相手に噛みつくつもりもない。仲良くしたいというのなら、拒むことでもなかった。
もっとも、相手が大企業の御曹司とジムリーダー・コンテストマスターなどの肩書を持つ有力者たちだ、何かあったときの為にパイプを持っていた方が絶対に良いという打算的な考えもある。
「今日2人を集めた理由は、少し相談したいことがあったからだ。この写真を見てくれないか?」
そう言ってダイゴが彼らに見せたのは、1人の子供と 3つの短冊が付いた星のような頭部を持った小さなポケモンが映った写真だった。
「なんだ、これ?」
アオギリは写真を見るが、
「ッ!? ダイゴくんッ! この写真は、一体どこで撮られたんだッ!?」
だが反対にマツブサの方は写真を見るなり、普段の冷静さが嘘のように取り乱す。もっとも、すぐに眼鏡に手を当てて落ち着くと、立ち上がってしまった椅子にゆっくりを座り直した。
「マツブサ、お前はこのポケモンとガキンチョを知ってんのか?」
「……生憎、子供の方に心当たりはない。だがポケモンは、私が見つけたいと思っていたジラーチと言うポケモンだ」
「ジラーチ? ……
「だろうな。なんせ「1000年のうち7日間しか目覚めない」と言われるポケモンだ」
「そいつは……なんとも、寝坊助なポケモンだな……」
あまりのスケールの大きさに、アオギリはそんな感想を言うことしかできない。
「これは昔、人工衛星から『マボロシじま』を見つけようとして撮られた写真です。この写真に写っているポケモンが、以前にマツブサさんから聞いた特徴に似ていたので、もしやと思って持ってきました」
「……たしかに、この写真に写っているのはジラーチで間違いない……そうか、すでに目覚めた個体がいたのか」
そう言って、少し落ち込んだ様子を見せるマツブサに、アオギリはなんとも言えない気持ちになる。
1000年に7日間しか目覚めないということは、すでに再び眠りについているということだろう。少なくとも、マツブサが会える可能性のあるジラーチが1体無くなったということだ。
「そんなに落ち込むなよ、探せば他にも目覚めそうな個体が居るかもしれないだろ?」
そんなアオギリの言葉に、マツブサは それもそうだな と気持ちを切り替える。多くの部下がいる以上、こういう気持ちを切り替えるのは基本技能なのだ。
とりあえずマツブサが区切りをつけたと判断したアオギリは、しかし今度は別の疑問が湧いてくる。
「つーか。ポケモンを恐怖しているお前が見つけたがっているとか、このポケモンには何かあるのか?」
「……………あぁ」
一瞬、マツブサは教えてもいいか悩む素振りを見せるが、アオギリなら大丈夫だろうと教えることにする。相容れないと思うぐらいには、彼らは互いの事を知っている。ポケモンを愛しているアオギリなら、ジラーチを利用しようとすることはない筈だ。
「このジラーチというポケモンは、どんな願いでも叶えることができるという幻のポケモンだ」
「…………はぁ? どんな願いでも?」
なんだその無茶苦茶な力は? どんな願いでも叶えられるなど、もはや伝説のポケモン以上の規格外じゃないか? だが、マツブサが嘘を言うような奴ではないということはアオギリも理解している。故に、彼がジラーチを見つけようとする理由を、すぐさま思い当たる。
「お前、まさかポケモンを世界から消すように願うつもりかッ!?」
そんなアオギリの言葉に、マツブサはクツクツと笑うと軽い調子で答える。
「それこそまさかだ、すでにポケモンは人間の生活に欠かせない存在になっている。ポケモンが居なくなれば、それこそ人類は滅びるだろうな」
だからこそ、マツブサはポケモンが怖いにも関わらず、ポケモンを使うという矛盾した方法を選んだのだ。最初から、ポケモンを絶滅させるつもりなんてない。マツブサがやろうとしていたことは、簡単に言えば人類が伝説のポケモンなどに対抗できる戦力を持てるようにすることなのだから。
「なら、どんな願いがあるってんだ?」
それ以外に、地位も権力もあるマツブサが求める願いが特に思いつかなかったアオギリは疑問をぶつける。すると、マツブサは真剣な声音で答えた。
「お前は、気にならないか? どうしてカイオーガやグラードンなどの伝説のポケモンが大量発生したのかを」
「ッ! それは――」
マツブサの問いに、アオギリは目を見開く。確かに、気にならないと言えば嘘になる。
「グラードンを捕まえて分かったことがある。グラードンには、多くのポケモンにある繁殖能力が無い」
「あぁ……その通りだ。カイオーガもグラードンも、そしてレックウザも、おそらく特殊個体だ」
特殊個体。それは、平均から大きく外れてしまったポケモンの中でも、殊更に特別な個体の総称。
特異個体という、平均から外れても後天的に変化させられるようなモノや、遺伝的に起こりうる人間でのアルビノのような理屈のある先天的な異常ではない。
完全なる突然変異個体
無理矢理遺伝子を弄ることなどをしなければ、意図的に作り出すことのできない、世界で唯一のオリジナル個体だ。
「彼らに繁殖能力は無い。もちろん例外は存在するが、少なくともグラードンもカイオーガも、大量発生するなんてことは在り得ない」
……そうだ。完全なる突然変異個体と同じ存在が何体も生まれることもそうだが、そもそも封印されていた2体がどうやって数を増やすというのだ。
「様々な学者が論文を上げているが、確証性のあるモノは未だに出ていない。だから私は、自身のトラウマとなったあの大量発生の理由を知りたいのだよ」
「……なるほどな」
ポケモンに恐怖するようになった理由の原因。それを知っておけば、何か対策することができるかもしれない。マツブサのやり方は、ポケモンに対抗できる力を人類に身に着けさせること、理由を知っているのと知らないのでは大違いだ。
「それで御曹司様。あんたが俺らを呼んだのは、このガキンチョを探してほしいからか?」
「その呼び方は止めてくれないかな? もちろんそれもあるけど、僕も大量発生したという理由を知りたいからね。
それと、なんでもジラーチは「目覚めるときは自分を見守る役目として、素直な心を持った少年をパートナーに選ぶ」らしいから、アオギリさんなら会えるんじゃないかな。と思って」
「おい。俺は「少年」って言う年齢じゃねえぞ……」
「心は少年と変わらないくらい素直で、ポケモンにも好かれてるじゃないか」
「脳筋って言いたいのか? 喧嘩なら買うぞ、ん?」
笑顔のままメンチを切るアオギリに、ダイゴは冷や汗を流しながら笑う。
もし筋肉ムキムキのアオギリが殴れば、ダイゴは一撃で『ひんし』になるだろう。
「まぁ、とにかく。ジラーチは、見つけられたらいいなぁ程度に気に留めておいてくれ。正直『はがね』タイプらしいからゲットしたい気持ちもあるけど、絶対に面倒ごとに巻き込まれるから今回は諦めるつもりだよ」
「そうしておけ……それでダイゴくん。この写真は昔のものだと言っていたが、具体的には何年前の物なのだ?」
「この写真は、今から11年前に撮られたものです」
「「は?」」
ダイゴの言葉に2人の声が重なった。当たり前だ、11年前とは大量発生が起こった年だ。これは偶然か? それとも、この幻のポケモンであるジラーチも大量発生によるモノか?
「そうなる気持ちは分かります。そして、それを含めてのお願いです。デボンコーポレーションとしてでも、元チャンピオンとしてでもなく、個人的なお願いとしてここに呼んだのはその為です。このことは、あまり外部に漏らしていいことではないでしょう?」
その言葉を聞いて、2人は納得する。余計なことを勘繰られて、騒ぎにでもなったら捜索が難航するかもしれない。ダイゴの依頼を受け、2人は写真のコピーを貰った。
「この写真が11年前ってことは、今はこのガキンチョは17歳ぐらいってことか……まぁ、すぐに見つかるだろ」
「いえ、それがそうとも言い切れません」
ジラーチはともかく、人を探すのならそこまで時間も掛からないと楽観視していたアオギリに、ダイゴがそんなこと言う。
「それはどういう事かね?」
「先程、この写真は『マボロシじま』を見つけようとして衛星から撮ったものだと説明しました。それは『マボロシじま』が正確な場所の分からない
「はぁ? 無人島?」
「えぇ……他の写真を見ましたが、家などの人が生活している形跡はありませんでした。ですが、この子供はしっかりと服を着ています。だけど旅をしているような服ではないし、かと言って6歳ぐらいの子供が1人でここに居るのも変でしょう?」
そう言われれば確かに変だ。無人島である以上、もしかしたらこの少年は未だに『マボロシじま』に居るかもしれない。
いや、下手に病気や怪我でもして倒れれば病院もない無人島では、そのまま死んでいる可能性すらある。
「それで『マボロシじま』への行き方は、未だ見つかっていないのか?」
その言葉にダイゴは、半ば2人の予想通りに首を縦に振った。
「分かった。俺らは海を中心に探してみる、だからあんたは『マボロシじま』の場所が判明次第、俺に連絡してくれ」
「私も様々な土地にいる団員たちに声を掛けてみよう。それでも『マボロシじま』の場所の特定は絶対事項だ。唯一判明している子供がいた場所を調べない手はない」
「もちろんです。それと、これは少ないですが、ほんの気持ちとして受け取っておいてください」
そう言ってダイゴに渡された小切手に記載されている「0」の数を見て、マツブサとアオギリは、元チャンピオンである大企業の御曹司の財力に戦慄したのだった。
◆
「流石ですね、どこで気づきましたか? 似せているつもりはありませんでしたが、だからと言って断定するには早いと思うのですが」
そんなことを笑顔のまま言っているのは、自分がシロちゃんではないことを否定する様子もない誰か。
一度だけ驚いたようだけど、それ以上は動揺した様子も見せず、むしろ私が別のナニカであると断定した理由を聞いてきた。
「口調ですか? 一人称ですか? それとも呼び方ですか? 何をもって、ユウリさんは私を、この子ではないと判断したのですか?」
「お前がシロちゃんじゃない。理由なんて、それだけで十分だよッ!」
これでも人を見る目はあるつもりだ。例え口調が同じだろうが、一人称が同じだろうが、呼び方が同じだろうが、それで大切な後輩を見間違えるほど、私は耄碌なんてしていないッ!
「………素晴らしい。素晴らしいです、流石です、お見事です。
正直、先程のどれかで判断していたら殺すつもりでした。
やはり選ばれた存在である あなたは、それを成せるだけの力がある。
本当に、素晴らしい人間だ」
そう言って、感情は一切無いのに、彼は顔の笑みを深める。形だけの喜びを魅せるソレは、もはや人間であることすら疑わしいほど、私に理解できない精神性を見せていた。
「ずっと――ずっとずっとずっと見ていました。
あなたをッ!
あなた達 人間をッ!
小さな神々に、矮小な人間が挑み勝利する姿をッ!
あぁッ!!
妬ましいッ! 羨ましいッ!
あなた達を見ていると、頭がどうにかなりそうですッ!
いいなイイナ良いな好いな善いな
いいなぁッ!?
どうして私じゃなかったのッ!?
どうして僕じゃなかったのッ!?
どうして俺じゃなかったのッ!?
どうしてドウシテどうしてドウシテどうして?
なんにも悪いことなんてして無いのにッ!
皆みんな大好きなのに、愛しているのにッ!
どうしてみんな、私達のことに気づいてくれないのッ!?」
狂うように叫ぶソレは、もはや言っていることが支離滅裂で理解できる範疇を越えていた。
「―――っと、失礼。取り乱しました」
そして、何かスイッチが切れたように唐突に安定した。
「それで、私が誰かでしたっけ? 申し訳ないですが、名前すら貰ったこともないので名乗れないんですよねぇ……まぁ「ナナシ」とでも呼んでください。どうせすぐに忘れるので、意味はありませんが」
そう言って、ナナシと名乗る誰かは、コンタクトレンズを持つように指を目の前で上に向けると、その指の上に闇色の球体が現れる。
「ユウリさんには、この子を助けてもらったお礼に、あと1つだけ質問に答えてあげます。あぁ、声に出さなくても結構ですよ? もう意識を保つのもつらいでしょう? 考えていることぐらい読めますので、思うだけで十分です」
そう傲慢に、身勝手に、絶対なる強者としての立場から見下ろすナナシに、私は再び恐怖に縛られ呼吸すらできなくなる。
「ひゅあん!」
「ヤー!」
「べのめのん!」
その代わりに声を上げたのは、ボロボロのラティアスたちだった。
「……なんですか? 会話をしている最中に入ってくるんじゃありません。心配しなくても、あとでちゃんと回復させますよ。そうしないと、約束を守れないですからね」
感情は見えないモノの、どこか呆れたような視線をナナシはラティアスたちに向ける。
彼女たちは、ナナシのことを知っているのだろうか? それに約束って、いったい何のことだ?
「ふむ、それが質問ですね?」
―――なッ!? 違うッ!
そう思ったところで、ナナシは私の疑問に答え始めてしまった。
「彼女たちとの約束とは、一種の取引・契約です。
彼女たちの願いを叶える代わりに、あまり表に出てこない私たちに代わって、この子を守ること。
彼女たちは全員が、同じことを願いました。
『この子と一緒に生きていきたい』
その願いを叶えたことで、決して絆を切れさせないように。
寿命による離別をしないように、肉体の変化を遅くし。
肉体と精神のバランスを保つために、心の変化を阻害しました。
なので、この子は11年前から一切成長していません。
肉体も精神も、正真正銘の6歳の子供です」
そう言ってナナシは、視線をラティアスたちの方に向ける。
「私とウツロイドが精神を。俺とカミツルギが記憶を。僕とラティアスが肉体を守ることで、この子は何とか安定しています。
なのでこの子の気分が高揚すれば俺に近くなり。安定すれば僕に近くなる。そして私は冷徹になると現れる。
この土地に来てから、この子はずっと楽しそうだった。ラティアスの特性を「ふしぎなまもり」にするだけで勝ててしまう程度の相手しかいなかったから、ラティアスたちのトレーナーとして釣り合うか不安だったのでしょうね。
それが、この土地では思考を巡らし、作戦を練ってポケモンバトルを楽しんでいた。
なのに、少し前にあのお爺さんの所為で、また精神が不安定になって、元に戻すのが大変でしたよホント……」
そこまで言って、ナナシは指の上に浮かぶ闇色の球体を、倒れて動くことが出来ない私に飛ばした。
「お話は終わりです。起きた頃には、このことは悪い夢として全て忘れているでしょう。ここは夢と冒険の世界です、つらいことは悪い夢として全部無かったことにすればいいんですよ。それがきっと、みんな幸せなんです」
そう言うナナシの言葉を最後に、私は意識が落ちそうになる。
―――ダメッ! 今、眠ったらとにかくダメだッ!
だが、そんな私の意思をあざ笑うかのように、私の意識は闇の中に落ちていった。
◆
「―――いッ! 先輩ッ!」
とても聞き覚えのある声が聞こえて私は目を覚ます。
すると倒れている私の隣には、大粒の涙を流したシロちゃんが、その小さな手で私の手を掴んでいた。
「……シロちゃん?」
「ッ! 先輩ッ! 良かった、生きてて……本当に良かった」
そう言ってシロちゃんは、私に縋りついて更に泣き始めた。
「ごめんなさい……先輩に注意されたのに、僕の不注意で先輩に怪我をさせて……」
そう言うシロちゃんの言葉を聞いて、私は倒れる前のことを思い出す。
―――そうだ。確か私は、
でも、そのぐらいで気絶するかな? もしかしたら、疲れていたのかも……。
「死んじゃったかと思いました……先輩が死んだら、僕はどうすればいいんですか……こんなことなら、僕が受ければ良かったんです。僕なんかより、先輩の方がずっとずっと大事な人間なのに……」
その言葉を聞いて、少しムカついた私はシロちゃんの頭を抱き寄せる。
「………せん、ぱい」
「そんなこと言わないの。私の代わりは誰もいないけど、それはシロちゃんだって同じだよ。私の後輩のシロちゃんは、あなただけ。シロちゃんが無事なら、私には十二分過ぎる報酬だよ。だからさ、そんな泣いてないで笑った顔を見せて?」
「……先輩は、優し過ぎます」
そう言いながらシロちゃんは、涙をボロボロと流しながらを笑顔を作る。
うん。やっぱり、シロちゃんは笑っている方が良い。この笑顔を失わなかったのなら、私は満足だ。
―――――今、私の前に居るシロちゃんは、本当にシロちゃんか?
その時、疑う余地もない筈の疑問が、私の頭に浮かんだ。
「? どうしたんですか先輩――」
私の様子が変なことに気づいたシロちゃんが不安そうな声で話しかけてくる。
「――なにか悪い夢でも見ていたんですか?」
次回
「離せッ! シロちゃんを返してッ!」
「悪いが用があるのは、このガキンチョだけなんでな」
「その通りだ。関係のない君には、これ以上首を突っ込まないでもらおう」
突如として現れた伝説を操る2人組の男たちに、成す術もなく後輩を奪われ己の無力さに歯噛みする
「素直に答えてくれた方が、こっちも面倒が無くていいんだがな」
「そうだな。時間はいくらでもあるが、無駄に消費する意味もない」
「(………たすけて、せんぱい)」
助けを呼ぶも、その声は届かず
「駄目だよ。そんな言い方じゃ、怖がっているじゃないか」
「っ!? そんな、どうしてあなたが……」
「おや? 僕を知っているのかい? それは光栄だ。何を隠そう、彼らに頼んで君を呼んだのは僕だからだよ」
あまりに予想外の黒幕
「お前は、そこまでしてジラーチが欲しいのッ!?」
「いや、ジラーチはおまけだよ。本命はあの子自身さ」
地方を跨いで衝突するチャンピオンと 元チャンピオン
「あの子は原石だ。磨けば光るのに、道端の石として捨てられているなんて、あまりにも もったいないだろう?」
「シロちゃんは、石ころなんかじゃないッ!」
「石ころの何が悪いんだい? 宝石だって価値の分からない者が見れば石と変わらないじゃないか。まぁ、僕からすれば石ころだって十分に魅力的だけどね」
あまりの価値観の相違
「あなたは夢で、ずっと僕を守ろうとしてくれていたの?」
「…… …… ……」
ついに明かされる衝撃の真実
―――を、やりません。
前書きでも言ったように、嘘予告です。
(そもそも敵対する理由が無い)