バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
ポケモンが一度に覚えて置ける技は4つまでという原則、これはポケモントレーナーが知っておく基本にして常識だ。
しかしこの知識は、間違いではないが細かい意味では、そうとも言い切れない。
正確に言うと、一度のバトルで咄嗟に使用できる数は4つまでが適切である、というのが正しい意味だ。
それは野生のポケモンでも本能的に分かっているらしく。野生のポケモンも、そのほぼ全てが、覚えられる技の内、4つの技を選んで使っている。
実際、ポケモンバトルという常に状況が変化するフィールドで、トレーナーも選択肢が多すぎれば判断が遅れて間違った指示をする確率が高くなる。
なので、ポケモンが咄嗟に出せる技の限界数と、トレーナーが瞬時に判断できる選択肢の適切な技の数が4つなので、ポケモンバトルに置いて技の数は4つが原則とされているのだ。
だが、原則があれば当然、例外も存在する。
それは所謂、規格外とされる個体。分類的には、特殊個体と呼ばれるものかな?
基本的に、伝説のポケモンは特殊個体とされている。そして伝説のポケモンが一度のバトルに置いて使う技の数が、4つを越えるのは普通のことである。
それは、伝説とされるほどのスペックの高さによるモノが理由だ。人間や一般ポケモンが咄嗟に判断して技を使う速度は、伝説にとっては忘れた技を思い出して使う速度と大差がない。
実際、人間よりも遥かに知能が高いとされている一般ポケモンであっても、一度忘れた技を思い出すには、かなりの時間が必要だ。そして思い出したからと言って、4つを越えれば人間もポケモンも扱いきれないので、最終的には技を取捨選択して4つに絞ることになる。
なので、伝説のポケモンというのは例えゲットできても、人間が4つまでしか扱えないことから弱体化するのだ。伝説のポケモンは基本的に、野生の方が強い。
まぁ、このバトルフロンティアのフロンティアブレーンは、それ以外の方法で強化していることで、何とか野生の時の強さと張り合えるぐらいにはなれているけど、それはフロンティアブレーンが世界最高峰のトレーナーであるからできることだ。
伝説のポケモンは、たとえゲットしても育てる才能が異常なほど高くなければ弱体化は免れない。それでも一般ポケモンを問答無用で倒せるぐらいには強いが、それではポケモントレーナーがいる意味がない。
ボールから出して、あとは指示せずに判断をポケモンに任せていた方が強いというのは、もうそれは野生のバトルと変わらないだろう。伝説のポケモンを手に入れたところで、トレーナーに才能が無ければ、そんなの宝の持ち腐れだ。
私の持っているムゲンダイナも、もともと使えていた技は4つより多かったが、チャンピオンである私でも咄嗟に判断できる選択肢は4つが限界である。
故に、伝説のポケモンに認められるというのは生半可なことではない。一緒に戦えば弱体化するのに、プライドが特に高い伝説のポケモンがトレーナーを認めるというのは、よほど相性が良いか、伝説を納得させられるほど育成する才能が高いことと本人のカリスマ性が必要だ。
私の場合は……多分相性が良かったんだろう。
育成をサボっていても言うことを聞いてくれるぐらいには、懐いてくれているんだし。
でも、このままムゲンダイナを強くできないのなら。それは『ゲット』ではなく『捕獲』しただけだ。
なんか話がかなり逸れた気がするけど、要するに私が言いたいのは、トレーナーはポケモンを育成して力を伸ばし、常にポケモンが全力で戦えるようにして置かなければならない。
そうしなければ、ポケモンによっては愛想を尽かされて指示を聞かなくなって逃げだすか、最悪の場合はトレーナーを攻撃して野生に戻ろうとすることもある。
ポケモンは基本的に、バトルすることが好きなのだ。弱くなり、仲の悪いトレーナーと一緒に居ようとは思わないし、負け続ければ、懐かなくなることは珍しいことではない。
ポケモンを良く知り、自身の持てる全てを使ってポケモンに歩み寄る。
向こうはこちらに歩み寄ろうとしているのに、こっちが上から目線で使おうとしたところで、最終的には弱いままだろうね。
時々、野生の同じポケモンを沢山捕まえて、強い個体だけを選んで他を逃がすトレーナーもいるけど、そういうトレーナーは必ずどこかで躓くことになる。
ポケモンだって人間を試している部分があるのだ。そんなふうに互いを見定めているぐらいなら、さっさと対等な関係として仲良くなり、一緒に頑張る方が強くなる近道だというのに、それを理解できないトレーナーは一定数いる。
確かに、強い個体だけを厳選して勝ち上がるトレーナーは居るが、それは仲良くする必要が無いほどに才能が飛び抜けて高い場合のみだ。
そして、そういうトレーナーは、伝説のポケモンにも同じように強い個体だからと捕まえようとして、返り討ちに合う場合が殆どである。
仮に、その才能が伝説のポケモンを捕まえられるほどあったところで、伝説のポケモンを上から目線で扱おうとすれば言うことなんて聞かない。だって、基本的なスペックで人間が伝説のポケモンに勝てる訳ないんだから。
そして最後は、同じように伝説のポケモンをゲットして育成することができた才能あるトレーナーに敗北するだろう。ポケモントレーナーには才能が必要だが、才能だけでは絶対に限界が来るのだ。上を見れば、天井知らずな世界だしね。
まぁ、才能だけで伝説のポケモンを捕まえられる人なんて早々いないから、普通はジムでバトルを繰り返していくうちに分かってくるんだけど。逆に才能があり過ぎて高く昇ってから挫折して、心が折れるトレーナーも居るんだよねぇ……。
そこで己を見つめ直せるか、諦めるかはその人次第だ。
そして、そういう時に一番の助けになるのは、結局そこまで共に歩んでくれたポケモンたちなんだよね。
どれだけポケモンに寄り添えるか。それ自体は簡単なことなのに、失敗を恐れて勝つことに力を入れ過ぎて、ポケモンを見れないトレーナーは一定数存在する。
そういう問題のあるトレーナーを導くのが、ジムリーダーなり、チャンピオンである私などの先輩トレーナーの役目だ、って教えられたときは感動したなぁ……また話が逸れた。
つまり、ポケモントレーナーはバトルをする前から、ポケモンを最高の状態に保って置くことが重要なのだ。だから、これからバトルをするというのなら、ボールの中に戻して休ませておく方が絶対に良い。
「あ、あの先輩ッ! ラティアスたちをボールに戻しておく理由は分かりましたけど、どうして僕たちは手を繋いでいるのでしょうかッ!?」
「それはね。また危ない場面に出くわした時、とっさにシロちゃんを守れるようにだよ」
私の隣には、私に手を引かれて、先程まで泣いていたのが嘘のように困惑しつつも慌てたような様子を見せるシロちゃんが居た。
つい先程、ポケモンに奇襲を受けてシロちゃんを庇った時は、咄嗟の事だったので押し出す形になって、結果的に私が攻撃を受けることになったのだ。
昔から私は身体が頑丈なこともあったので問題なかったけど、少しでも気づくのが遅かったらシロちゃんは死んでもおかしくなかった。
「いやでもッ! ラティアスたちが、この階に居る野生ポケモンは全員倒してくれたんですしッ! そこまで警戒しなくてもいいのではッ!?」
「討ち漏らしが居るかもしれないでしょ? それに倒したとしても、ここに居るポケモンって伝説や幻のポケモンだよ? 少し時間が経てば復活するぐらい治癒力が高いんだから、警戒するに越したことは無いよ」
幻のポケモンも回復するのは早いけど、それ以上に伝説のポケモンの回復能力は半端じゃない。一般ポケモンが『ひんし』になれば、まる1日は休まないと回復しないのに、伝説のポケモンは10分も休めば全快するような規格外だ。
……そういえば、シロちゃんのポケモンって、みんな伝説のポケモンぐらいのスペックがあるように見えるんだけど、なんでだろ?
ラティアスは何度も見ているし、以前にカンムリ雪原で見かけたウツロイドやカミツルギは皆ここまでのスペックは無かったはず……精々が、伝説のポケモンに準ずる強さを持っていることから、一般ポケモンと伝説のポケモンの間ぐらいにいる「準伝説」とか呼ばれることがあるポケモンクラスだ。
回復能力だって『ひんし』になったら1時間ぐらい休まないといけないし、技の制限だってバトル中は無理でも、少し時間を掛ければ使えるという、一般ポケモンより強いぐらいのスペックだったはず……。
でもシロちゃんのラティアスたちは、みんな伝説のポケモンと同じか、それ以上に強いように見えるんだよねぇ……ほんと、なんでなんだろう?
……タイプが『なし』の特異個体なのが関係しているのかな?
その地方によって違うタイプを持つリージョンフォームみたいに、タイプによる違いは分類上は特異個体なんだけど、もしかしたらシロちゃんのポケモンって特殊個体よりなのかも?
伝説のポケモンが特殊個体に分類されているだけで、特殊個体だからって伝説のポケモンってことじゃないけど、もしかして伝説のポケモンに近づいたことで本来のタイプを失った個体とかなのかな?
「それは……そうですけど」
「あれ? 本当にそうなの?」
「はい? ……先輩が言ったんですよね」
私が言った?
………………。
って、あぁそうだった……。
今はシロちゃんと手を繋いでいる理由を説明していたんだった。
シロちゃんって、洞察力が高くて、こっちが考えていることを普通に読んでくるから、私の考えていることに答えたのかと思っちゃった。
「ゴメンゴメン。そうだったね、ちょっと考え事してたから変なこと言っちゃったんだ。とにかく、この階が終わるまでは手を繋いでもらうことに納得してくれないかな?」
「いや、あの……僕は構わないんですが、先輩は良いんですか? 先輩がここに居るのって、通信機が壊れてリタイアすることができないから僕が外に出るまで連れている、という本来は僕が守る立場なんですよ?」
……そう言えば、そんな状況だったっけ? なんかなし崩し的に一緒に来たけど、本来は手持ち全員が『ひんし』になった時点で、私はリタイアしなければならない。でも通信機がないから、とりあえずフロンティアブレーンの居る場所まで進むことにして、シロちゃんと一緒に来たんだった。
別に私だけでも進めるけど、私の手持ちを全滅させたのってラティアスだから、シロちゃんとしては負い目があっても仕方ないか……私は気にしてないのに。
「そんなの気にしないの。いざとなったら、もう回復しているムゲンダイナを出せばいいし……またシロちゃんが泣いたら あやすのが大変だしね」
「あぅ……あのことは忘れてください」
シロちゃんの顔が少し赤くなった……それを見て、私の中に少しのいたずら心が湧いた。
「『良かった、生きてて……本当に良かった』だっけ? いや~、あんなに心配されると先輩として嬉し―――」
「わぁー!? わぁー!? わぁー!? わぁー!?」
シロちゃんは顔をリンゴみたいに真っ赤にして私の口を塞ごうとするが、身長が足りないのでピョンピョンと跳ねる。それでも手が届かないことを理解したのか、私に恨み言を始めた。
「先輩のバカー! アホー! レパルダスー! メガガルーラ!」
「うん。前半はともかく、なんで悪口にポケモンの名前を使ったの?」
「えっとえと……オニゴーリ! クレッフィー! グライオンー!」
「もうそれ、悪口でもなんでも無いよね? ……まぁ、どうしても嫌だ って言うなら離すけどさ」
「――ッ!?」
私がそう言って手を離そうとすると、シロちゃんが両手で思いっきり離そうとした手を握りしめてきた。
それを見た私は、思わずニヤニヤしてシロちゃんを見てしまう。すると、こちらの視線に気づいたシロちゃんが顔を真っ赤にしたままプルプルと震えて涙目になった、
「もー! もー! 先輩のいじわるー!」
そう言ってシロちゃんは頬を膨らませると、片手は私の手を掴んだまま、もう片方の手で私の腕をポカポカと叩いてきた。でも力が弱くて、ぜんぜん痛くない。
………どうしよう、なんかすごい楽しい。
「あはは。ごめんごめん、機嫌直して?」
流石に悪ふざけしすぎたので、謝りながらもう片方の手でシロちゃんの頭を優しくなでた。
すると最初はふくれっ面だったシロちゃんが、次第に「にへら~」といった感じに表情を崩す……なんというチョロさだ、私はシロちゃんの今後が心配だよ。変な人に騙されなければいいけど……ラティアスたちが居るから大丈夫かな?
そんな感じで撫でている間はシロちゃんが大人しくなるので、そのまま進むことにする。だけどこれ、地味に歩きづらいな……。
そして、なんとなくこっちじゃないかな~? って感じで進んでいくと、割とすぐに頂上に繋がる階段を見つけた。
流石に、こんな状態で階段を上るのは危険なので私は撫でるのを止める。
私の手が離れたことで、シロちゃんは一瞬だけポカンとした顔をすると、次第に状況を理解したのか再び顔を赤くし、慌てて私の手を離した。
「階段が見つかったんですしッ! もう手を離してもいいですよねッ!? ……よし、よし! 最後のバトル頑張りますよー!」
シロちゃんは必要以上に大声を出す……まだ顔が赤いけど、これ以上は本当に喧嘩になりそうなので止めておこう。
「ねえ? シロちゃん、1つお願いしてもいいかな?」
「はい? お願いですか? なんでしょう?」
若干顔が赤いまま、不思議そうな顔でこちらを見る。まぁ、大したことじゃないんだけどね。
「バトルを見学させてもらえないかな? 今度来たときの為にも、本気のジンダイさんのバトルがどんなものか知っておきたいから」
「そんなことなら全然構いませんよ! まぁ、僕がジンダイさんの手持ちを全員出すことができるか分かりませんけど」
そう言ってシロちゃんは、少しだけ自信なさげな顔をする。
「それでもだよ。それに負けたって何度でも挑めるんだから、楽しんだらこっちの勝ちだよ。だからさ――」
◆
頂上に足を踏み入れると、そこは空間拡張によってまったく別の場所に見えるほど広大になった1つの世界があった。
同じ場所の筈なのに、以前とは印象が全然違う。
ここは終点だ
このバトルピラミッドという世界の果てであり、トレーナーを試す最後の門。
長い冒険の果てに、ようやく辿り着いた報酬のように、美しくも壮大な光景が、この宝物のような景色を手に入れて見せろと言っているように、嵐の前の静けさを思わせる。
その中央にあるバトルフィールドでは、以前と同じようにこちらを背を向けて立っているジンダイさんが居た。
屋内だというのに、彼の向いている先には夕日があり、周りはオレンジ色に染まっている。
こちらがバトルフィールドに立つと、それに気づいた彼が振り返った。そして、こちらの顔を見て、少し驚いたような顔をする。
「……いい顔になったじゃないか。以前に来た時よりも、いい目をしている。何かいいことでもあったのかな?」
「えぇ……最高にいいことがありました」
こちらがそう言うと、ジンダイさんは「そうか……」とだけ呟く。そして腰につけているボールを掴んで、こちらに掲げた。
「今の君を見ていると、若き日の私を思い出すよ」
「……………」
「熱く!! 危険で!! 苦しい!! あの命懸けの冒険の日々が蘇ってくる」
「……………」
「全力だ……全力で君に私をぶつけよう!」
「……………」
「だから君も全力でぶつかって来い! 君の全て! 私が受け止めようじゃないか!!」
「……えぇ、そうさせてもらいます」
―――不思議だ。
少し前までは、勝てる光景なんて思い浮かばなかったのに。
今は本人を目の前にしても、不安なんて微塵も感じない。
「でも、今は負ける気がしないんです」
今なら何でもできるような、一種の全能感がある。
戦う前からこんなにも気持ちが昂っているのは初めてだ。
「……だから」
だって……初めてだったから。
―――――頑張って! 応援してるよ、シロちゃん!
誰かに応援されることが、こんなにも勇気を貰えることなんて、知らなかった。
「止められるモノならッ! 全力で止めて見せろッ! フロンティアブレーン!」
―――俺たちの本気、そう簡単に受け止められるなんて思うなッ!!
「駆け抜けろッ! ウィンディ!」
「切り裂けッ! カミツルギ!」
同時にボールを投げる。
現れるのは巨大な獅子と、薄く小さい折り紙のポケモン。
まるでトレーナーとして才能の差が、そのまま反映されているような大きさの違い。
でも、俺にはその小さな後ろ姿が負ける光景など、まったく思い浮かばない。
とても大きく、強く、頼もしい背中だ。
「ガァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ヤァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
2体の咆哮に空間が震える
それを肌で感じて、俺は笑う
そんな俺を見て、相手も笑う
―――あぁ、そうだ
俺を見ろ
今、お前の前に居るのは、このバトルフロンティアに王手をかけている男だ
少しでも気を抜いたら、次の瞬間には負けると思え
今の俺は、今までで一番強いぞ?
―――さぁ、全力だ!!!
今回はバトル描写をカットはしません。