バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい   作:麦わらぼうし

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注意:後半部分は、読まなくても問題ありません。
   ポケモン図鑑の説明のような、ストーリーを進めるうえでは必要のない情報です。

   ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

   の記号で区切ってあるので、読みたい人だけ読んでください。


そいつは伝説ではなく、ただの犬だ

 ポケモンは進化する。

 

 それは誰でも知っていることだ。

 

 単純な成長に伴う進化、何らかの道具や行動や土地の影響による進化は当たり前として。

 

 キーストーンとメガストーンによる『メガシンカ』や『ゲンシカイキ』『キズナヘンゲ』も一時的な進化だ。

 

 ポケモンは、凄まじく適応能力の高い生き物なのである。

 

 それはタマゴの段階で、その土地のリージョンフォームの姿で生まれるようになるほどの適応力の高さが物語っている。

 

 だが、それは逆に言えばポケモンという存在は、酷く不安定な生き物であるということの証明でもある。

 

 特異個体というのは、平均的なポケモンから大きく離れてしまった個体を指す言葉だが、その平均的なポケモンという範囲は人間が勝手に決めたモノだ。

 

 模様が個体ごとに違うパッチールを特異個体と扱わないように、平均から多少離れても通常の個体として扱われているポケモンはいる。

 

 なのでタマゴ技を覚えているポケモンも、平均に含めてもいいぐらいの、異常が小さな特異個体と言えるのだ。

 

 では、どこでポケモンは特異個体と判断されるのかと言うと。ぶっちゃけた話、一目で「普通ではない」と思うような存在が呼ばれている。

 

 ポケモンは不安定で、環境に適応することで平均から外れていく。それが特異個体とされるほどになるには、それ相応の理由が必ずあるのだ。

 

 身体が大きければ、住んでいる土地の食糧を食べつくすほどの大食漢だからだ、とか。逆に小さいのは、食料が少なく天敵に見つからないようにするために狭い場所へ隠れられるようになったからだ、とか。色違いは……単純に遺伝のミスだな。

 

 だからまぁ、特異個体というモノは特性が違ったり、本来覚えない技を使うことは良くあることだ。なんせ、人から技を教えられた個体も小さな特異個体と言えるんだから。

 

 技マシンや教え技によって、本来覚えない技を使えるようになった個体は、人間によって手を加えられた後天的な特異個体だ。ある意味、人間にゲットされたポケモンは、ほぼ全てが特異個体になるのが確定するようなものだろう。

 

 だが、皆が同じように変化するのに、それでも特異個体と呼ばれるポケモンは、やはりその個体による才能を開花させたことによって、人に「これは普通ではない」と思わせる何かがある。

 

 具体的に言うと、バトルドームでヒースさんが、ファイヤーの『にらみつける』を『いてつくしせん』に昇格させたように、技を進化させたら、それは「異常である」と多くの人が認めるだろう。

 

 

「やっぱり、暑いな……」

 

 

 だから、俺の目の前にいるウインディは、特異個体と呼ばれる存在なのだ。

 

 ウインディの遠吠えによって、オレンジ色の空が、昼の青空のように明るくなり日差しが世界を照らす。

 

 特性が『ひでり』となったウインディ。それがジンダイさんのウインディが持つ1つ目の異常だ(・・・・・・・)

 

 それは、お前の対となるポケモンであるキュウコンの夢特性だろッ!

 

 何をどうやったら、そんな個体が生まれるんだッ!?

 

 あれかッ! タマゴグループが同じ『りくじょう』だから、キュウコンとウインディの間で生まれたハーフとか、そんな理由かッ!?

 

 本当に、現実になったポケモンの強化方法は多すぎて、いちいち理由まで考えていたらキリがない。なので俺は、事実だけを認識することにする。

 

 相手はフロンティアブレーンだ。

 

 それも『ほのお』タイプだけで、リラさんの『みず』タイプと渡り合うような圧倒的強者。俺だって人間なのだから予想外のことが起きれば驚いてしまうが、この人を相手にそんな余裕はない。

 

 前に戦った時に見せてもらったウインディの異常は全部で3つだった。

 

 だが、この戦いでは、まだ他の「異常」を見せてくるだろう。それも明らかに強い異常性を見せてくるのは確実だ。伝説と渡り合う一般ポケモンの異常性が、たった3つしかないなど在り得ない。

 

 

―――でも……それでも、俺は勝つッ!

 

 

「固めろッ!」

「照らせッ!」

 

 合図は無い。

 

 だが、殆ど同時に指示をする。

 

 技の名前は、お互いに言わない。

 

 俺もジンダイさんも、そんなことを一々言わなくてもポケモンには伝わるから、こういう指示で十分だ。相手に何をしたのか気づかれにくいし、何より短い指示は、それだけ早くポケモンに行動させることができる。

 

 俺がカミツルギに指示したのは『てっぺき』だ。

 

 本来、カミツルギは『くさ・はがね』タイプだが、俺のポケモンは全て『なし』タイプなので、タイプ相性は関係ない。故に考慮するのは、種族値による相性だ。

 

 カミツルギは『こうげき』の高さで有名だが、その『ぼうぎょ』も種族値100を超える硬さを誇るポケモンだ。前に戦った時、ジンダイさんのウインディは物理アタッカーだった。

 

『ほのお』が弱点とならない以上、俺の手持ちでカミツルギが一番の適任だ。

 

 

「……なるほど……リラさんと渡り合える訳だ」

 

 

 空の色が青から白に変わり、日差しが更に強くなって、俺はウインディが何をしたのかを察した。

 

 

―――コイツ、天候を『ひざしがつよい』から『ひざしがとてもつよい』に変えやがった。

 

 

 これは本来、ゲンシグラードンの特性である『おわりのだいち』によって発生する天候だ。

 

 おそらく『ひでり』によって晴れた空に『にほんばれ』を使って強化したのだろう。

 

 まぁ、想定外だが問題ない。この状態だと『みず』タイプの技は無効化されてしまうが『みず』タイプの技は覚えていないカミツルギには関係ない。むしろ、前に見せてこなかった異常の1つを知ることができただけ有難いぐらいだ。

 

「燃やせッ!」

「受け流せッ!」

 

 ウインディが美しい炎を身に纏って突っ込んでくる。それに対して、俺はカミツルギに力比べをするのではなく、受け流すように指示する。

 

 カミツルギは、小さく、薄く、軽いポケモンだ。身体の大きなポケモンが動けば、ソレによって起こる風圧に乗るだけで避けることが可能。それに、あの技は絶対に直撃してはいけない。

 

 アレはジンダイさんが見せた2つ目の異常である『フレアドライブ』を進化させた技だ。

 

 

 その名前は―――『せいなるほのお』

 

 

 ゲーム的に言えば『フレアドライブ』の方が威力は高いが、この世界で伝説の専用技が弱いなど在り得ない。当たれば高確率で『やけど』になる追加効果もうそうだが、伝説の専用技とは、その出力の大きさからタイプ相性による半減や、特性による威力の減衰を無視してダメージを与えてくる。

 

 他にも『まもる』などのガード技もぶち抜かれ『こらえる』や『きあいのタスキ』『がんじょう』によって耐えることもできないという伝説の理不尽を実現させる技なのだ。

 

 ただ、この『せいなるほのお』は本物と違い、反動もあるし、直接攻撃の技になっているが、その火力はウインディが走った地面がマグマに変わるほどの熱量を見るに、性質は本物と大差がない。

 

「斬り返せッ!」

「纏えッ!」

 

 風圧によって避けたカミツルギに、炎が消えたタイミングで『つばめがえし』を使わせる。それに対してジンダイさんが再び炎を纏わせるように言うけど、それは『すばやさ』が勝るカミツルギが一瞬早く攻撃を当てた。

 

 

―――いや、違うッ!

 

 

「離れろッ!」

「逃がすなッ!」

 

 俺の指示に、すぐさまカミツルギは反応して、なんとかこちらを捕らえようとするウインディから距離を取る。

 

 

―――コイツ、最初から攻撃を当てるのが目的じゃなかった。

 

 

『せいなるほのお』の火力で、近づいたカミツルギを『やけど』にするつもりだったのだ。少し判断が遅ければ、カミツルギの『こうげき』が半減するところだった。

 

「そのまま燃やせッ!」

「かき消せッ!」

 

 炎を纏ったままウインディが突っ込んでくる。指示をしたのはジンダイさんが早かったが、技を当てたのはこちらが先だった。

 

「――むッ」

「斬り飛ばせッ!」

 

 カミツルギの技によって、纏っていた炎をかき消されたウインディが突っ込んでくる。

 

 俺がさっき指示した技は『しんくうは』だ。技を出すのが早く、カミツルギが生んだ真空の波で、ウインディが纏っていた『せいなるほのお』との隙間を狙って(・・・)切り裂いた。

 

 そして、ただの力比べになれば、カミツルギの『こうげき』でウインディに押し負けることなどありえない。

 

 その小さな身体からは想像もできないほどの力が一点に集中し、カミツルギは『つばめがえし』でウインディを弾き飛ばした。

 

「ウインディッ!」

「カミツルギッ!」

 

 ジンダイさんが宙を舞うウインディを呼ぶ。その声を頼りにウインディは上下を判断して、空中で身体を回転させて着地した。

 

 俺はカミツルギに再び『てっぺき』を指示する。あそこで追撃したところで、また『せいなるほのお』を纏われるからだ。

 

「撃ち抜けッ!」

「固めろッ!」

 

 次の瞬間、ウインディは閃光となった。

 

 避けることができないと判断した俺は、再び『てっぺき』を指示して『ぼうぎょ』を最大にまで上げさせ、カミツルギはウインディの直撃を受ける。

 

 これがジンダイさんが見せた3つ目の異常。

 

 

『ワイルドボルト』を進化させた雷のごとき速さの技―――『ボルテッカー』だ。

 

 

 追加効果で『まひ』するようになり、反動ダメージは『ワイルドボルト』が基準になっているので『ボルテッカー』より少ない。

 

 だがそれよりも、纏った電気を電気信号に利用することで反射速度が上がって、同じタイミングで指示を出しても向こうが早く動くようになるのが厄介過ぎる。ゲームで言うところの優先度がプラスされているような技だ。

 

「そのまま焼き尽くせッ!」

「弾けさせろッ!」

 

 至近距離になったところで、再び『せいなるほのお』を纏おうとする。

 

 それを察知して、俺はカミツルギに『しんくうは』を同じ場所に2回使わせることで暴発により風を生み出し、その流れに乗せた。

 

 突然、目の前で衝撃が生まれたことでウインディに一瞬だけ隙が生まれ、そのおかげでカミツルギは距離を取ることに成功する。

 

 

―――おかしい

 

 

 カミツルギが『ボルテッカー』を受けた筈なのに、ウインディがダメージを受けた様子が無い。

 

 ゲームと違って、反動技は相手に与えたダメージではなく。技を使った時点で発生する、その強力な技を使うための負荷なのだ。

 

 特に技を当てた時は、消耗した身体で激突するから更にダメージを負うことになるので、反動技は本当にハイリスクとなる技なのである。

 

 だというのに、カミツルギが反動技を受けてもウインディはピンピンしている。いったいどういう事かとウインディを注意深く見て――

 

 

「……そういうことかよ」

 

 

 理解した。

 

 俺が見ている中で、僅かに付いたウインディの傷が回復したのだ。だが、ジンダイさんが指示した様子は無い。ということは簡単だ。

 

 

―――『せいなるほのお』も『ボルテッカー』も……『あさのひざし』と同時に使っていやがる。

 

 

 ポケモンが一度のバトルに使える技は4つまで、だがその技を同時に使えないという訳ではない。とんでもなく高度な技術だが、才能が高いポケモンと育成能力の高いトレーナーが訓練すれば可能だ。

 

 だが、強化した技に、更に別の技を同時使用させてくるとかどんな規格外だ。

 

 しかし、技を使って傷ついているところを見るに、技が命中した時は反動によるダメージが回復しきれないほど大きいようだ。

 

 

―――なら、問題ない。

 

 

「終わらせろッ!」

「受け止めろッ!」

 

 再びウインディが雷を纏って突っ込んでくる。それに対して、俺はカミツルギに受け止めさせる。

 

 避けられないのならば……避けなければいい。

 

 この為に『てっぺき』でカミツルギの『ぼうぎょ』を最大にまで上げていたのだから。

 

「焼き尽くせッ!」

「信じろッ!」

 

 ウインディの炎が、カミツルギを包み込む。その身を焦がす灼熱の炎が小さなカミツルギを焼き尽くそうとするが、カミツルギは少しだけ苦悶の声を出すだけで動かない。

 

「……………」

 

 苦しいのは分かってる。

 

 でも、今は攻撃しても意味が無い。

 

 タイミングは俺が見極める。だから、その時に備えて耐えてくれッ。

 

「……………」

 

 ……まだだ。

 

 まだ早い。

 

 まだカミツルギも耐えられる。

 

「……………」

 

 もう少し……あと、もう少しだ。

 

 

「ッ!? ウインディッ!」

「今ッ!」

 

 

 ジンダイさんが俺の狙いに気づくも、もう遅いッ!

 

「ヤァアアアアアアアアッ!!!」

 

 俺の合図と共にカミツルギから放たれた渾身の『つばめがえし』に切り裂かれ―――ウインディは灼熱の地面に倒れた。

 

「ヤァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 相手ポケモンを『ひんし』にしたことで、カミツルギの特性であるビーストブーストが発動する。これでカミツルギは『こうげき』が一段階上昇だ……だけど。

 

「カミツルギ……大丈夫?」

「ヤァァ……」

 

 俺の言葉に、カミツルギは何とかと言った感じで声を出す。

 

 当たり前だ。いったい何回分の『せいなるほのお』を受けさせたのか分からない。状態だって『やけど』になっているし、こうなるのは予想できていた。

 

 でも、こうするしか、あのウインディを倒す方法は無かったのだ。

 

「見事だ」

 

 対面しているジンダイさんが、ウインディをボールに戻すとこちらに話しかけてきた。

 

「まさか、わざと攻撃を受けて、反動ダメージで体力が少なくなるタイミングを狙って一撃を入れるとは……私のウインディの炎を理解した上で、ソレに真っ向から受けたチャレンジャーは本当に久しぶりだよ」

 

「その所為で、カミツルギにかなり無茶をさせましたけどね……」

 

 ウインディの攻撃を受け止めさせた時から、俺はカミツルギに『こうごうせい』を使わせていたのだ。それで『せいなるほのお』を無理矢理耐えていた。そしてウインディに反動技を使わせ続け、残りの体力量で安全に使用できるギリギリのラインでカミツルギに攻撃させたのだ。

 

 だけど、伝説が使う炎を受け続けるというのは、生半可な精神力では不可能。だからこそ、俺にできるのは「信じろ」という応援だけだった。

 

「それでも君のポケモンは、君を信じて耐えて抜いたのだ。お互いが、お互いを信じていなければできないことだよ」

 

 そう言ってジンダイさんは、新しくボールを取り出した。

 

「さて、バトル再開だ。私たちの炎は、こんなものではないぞッ!」

 

 その言葉と共に、ジンダイさんは手にしたボールを投げる。

 

 そして姿を現したのは、3対で6枚の羽を持つ巨大な蛾のようなポケモンだ。

 

「さぁ、舞おうかッ! ウルガモス!」

「ぷひいぃぃっぷ!」

 

 その咆哮と共に、未だに『ひざしがとてもつよい』中で炎の鱗粉(りんぷん)が周囲に舞い散る。

 

 

 それはジンダイさんが操る2体目の特異個体

 

 

 たいようポケモン―――ウルガモスだ。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 これは少し昔のお話です。

 

 ある海の(そば)に大きな山がありました。

 

 その山の(ふもと)には小さな村があり、ポケモンと人間が仲良く暮らしていました。

 

 そんな村には、ある言い伝えがあります。

 

 1000年以上の大昔、まだ作物の生産も安定していない頃。村人は食糧を得るために山に入っては行きました。

 

 ですが、山の天気は変わりやすい。

 

 山に登ったはいいモノの、経験の少ない者には容赦なく山の厳しさが襲い掛かりました。

 

 しかし、なぜか1人として帰らなかった者はいませんでした。

 

 そして山が荒れた日に帰ってきた者は、皆が口をそろえてこう言うのです。

 

 

『山の神様に助けてもらった』と。

 

 

 そのことから、この山には神が住んでいると信じるようになり、村の人たちは山の入り口に祠を建てて祀ることになりました。

 

 どうやら神様は「油揚げ」が好物らしく。それをお供えすると、必ずその年は豊作となることから、お供え物は「油揚げ」とするのが決まりでした。

 

 しかし、そんな言い伝えも時代の流れに忘れ去られて、いつしか誰の記憶からも失われます。

 

 そんな村にある日、1体の『こいぬ』が産まれました。

 

『こいぬ』はとても勇敢で賢く、困った村人を助けては食べ物を貰って暮らしていました。

 

 そんなある日『こいぬ』は、村人から食べ物ではなく綺麗な装飾品を貰いました。

 

 これを宝物として大切にしようと思った『こいぬ』は、コレをどこに埋めるか考えて、あの人が来ない祠の近くに良いと思い、山の麓に向かいました。

 

 そして祠に着いた『こいぬ』は、穴を掘るために一度装飾品を地面に置きました。

 

 すると『こいぬ』の前で、祠が輝きだしたのです。

 

 あまりの眩しさに『こいぬ』は目を閉じ、少しして光がおさまり目を開くと。

 

 そこには、9本の尾を持ったとても美しい『きつね』がいました。

 

 そのあまりの美しさに『こいぬ』は目が離せずに固まってしまいます。

 

 すると『きつね』は、地面に置かれた装飾品を拾うと幻のように消えてしまいました。

 

 それからというモノ『こいぬ』は、村人から物を貰うと必ず祠に持って行くようになりました。

 

 毎日毎日、祠に来ては『きつね』に物を贈ります。しかし、その身体は次第に痩せ細っていきました。『こいぬ』は、自分の食糧までも『きつね』に渡していたのです。

 

 そして、もはや何時死んでもおかしくないほどガリガリになった身体で、自分が取ってきた食べ物を祠まで持ってくると、そこで『こいぬ』は倒れてしまいました。

 

『こいぬ』は自分が死ぬのを悟りました。しかし、後悔はありません。

 

 なぜなら、いつものように『きつね』が現れてくれたからです。

 

 最後に、その姿が見れただけで『こいぬ』は満足でした。

 

 

―――愚か者

 

 

 突如として、そんな声が頭に響くと『こいぬ』は意識を取り戻しました。空腹感もなくなり、どうして生きているのか『こいぬ』は分かりません。

 

―――何をやっても私に持ってくるとは……それはお主に与えた物じゃ、お主が食え

 

 その声は『きつね』のテレパシーでした。

 

 それを理解した『こいぬ』は、会話ができたことに無邪気に喜びました。

 

―――もういい。これからは私の神通力で直接 力を与えることにする。だからもう、無茶なことは止めよ

 

 そんな声を最後に『きつね』は、いつものように消えました。そして『こいぬ』は、今までの空腹感が無くなって身体中に力が漲っていることを感じます。

 

 そのことに喜んだ『こいぬ』は、以前よりも更に色々なモノを集めては、祠に持ってきました。

 

―――お主はバカなのか?

 

 そんな『こいぬ』に呆れたのか『きつね』は現れるたびに『こいぬ』に話しかけるようになりました。

 

 

―――何でもかんでもって来るな、整理するのが大変じゃろ

 

―――もしかしてお主、私をゴミ捨て場と勘違いしていないかの?

 

―――おぉ!? 油揚げ! ――ッ、いや。何でもない……何でもないぞ!

 

―――あまり無理をするんじゃない。少なかろうが、私はちゃんと現れるのだから

 

―――大馬鹿者がッ! こんな雨の中で来る奴があるかッ!

 

 

 毎日毎日『こいぬ』が来るたびに『きつね』は現れます。そのあまりにもバカバカしい姿を見て『きつね』は、だんだんと現れている時間が長くなります。それに比例して『こいぬ』も、祠に長く居座るようになっていきました。

 

 そしていつものように『きつね』が現れると、それを見た『こいぬ』は疑問を覚えるようになりました。そして『きつね』は、テレパシーによって『こいぬ』の思考を読んでしまいます。

 

 

―――なんでこんなところに居るのか、じゃと? 生きていた頃に、一番気に入っていたのが此処だったからじゃ

 

―――気に入った理由? 勝手に人間が食事を持ってくるからラクだったんじゃよ

 

―――なんで人間が好きなどいう結論になったのじゃッ!? 勝手に山に入ってきて、勝手に死にそうになってッ! 人間の死体なんぞ、この山には要らんッ!

 

―――は? それはアレじゃよ……いつも貰っているから、奴らが貧困していると私に食べ物が来なくなるじゃろ。結果的に、私の得になるからやっていただけよ

 

―――まったく……勝手に祀っておいて、勝手に忘れおって……私は執念深いのじゃ、意地でもここから動かんぞ。少しくらいは会いに来ぬか、バカ人間どもめッ!

 

 

 毎日に来る『こいぬ』に『きつね』は、次第に愚痴を言うようになりました。そんな『きつね』の愚痴を『こいぬ』は嬉しそうに聞いています。

 

 このまま、こんな時間がずっと続けばいいと『こいぬ』は思っていました。

 

 しかし、その日は突然に終わりを告げます。

 

 

―――もう、ここに来てはならん。お主は人間と共に、どこかに行け

 

 

 いつものように来た『こいぬ』は、突然『きつね』からそう言われたのでした。どうしてなのか聞こうとしても『きつね』は答えてはくれません。

 

―――さっさと私の前から消えろ。もう、うんざりじゃ……お主の顔など2度と見たくない

 

 その言葉を最後に『きつね』は消えてしまいました。それからも『こいぬ』は毎日、祠に通いますが『きつね』は現れません。

 

『こいぬ』は、どうしてこんなことになったのか分かりません。

 

 何か変なモノを渡してしまったのだろうか?

 

 注意されたことを何度か破ったから、怒らせてしまったのだろうか?

 

 いや、そもそも自分は嫌われていたのだろうか?

 

 理由になりそうなモノは、いくつか考えられますが、結局答えは分かりません。

 

 それに人間と何処かに行けと言われても、どこに行けと言うのだろう? この村は人が少ないながらも、しっかりと自給自足しているのに、どこかに行く必要なんてあるのだろうか?

 

 そう思って『こいぬ』は村からは出ずに、いつものように暮らしていました。

 

 

 そんなある日のことです。

 

 

 激しい雨が降り始めました。それは自然の雨ではなく、突如として海に現れた1体の怪物が降らせているモノでした。

 

 その怪物はとてつもなく強く『こいぬ』では歯が立ちません。しかし、このままでは村が山からの土砂によって流されてしまいます。

 

 なので勇敢な『こいぬ』は怪物と戦うことにしました。しかし『こいぬ』がいくら攻撃したところで、怪物は気づきもしません。

 

 ただヒレを動かしただけで大津波が発生し『こいぬ』ごと村を飲み込もうとします。目の前に迫ってくる死に、それでも『こいぬ』は逃げませんでした。

 

 

―――お主はどこまでバカなのじゃ

 

 

 その時、確かに『こいぬ』は『きつね』の声を聞きました。

 

 そして気づくと自分は山の高いところに居て、その隣では半透明になった『きつね』と、水に沈んだ村がありました。

 

 

―――どうして逃げなかったのじゃッ! 私が助けねば死んでおったぞッ!? お主は命が惜しくないのかッ!? 馬鹿者馬鹿者馬鹿者、こんの大馬鹿者めがッ!

 

 

 そう言って大声を上げる『きつね』は、直後に倒れ込んでしまいます。その姿を見て『こいぬ』はすぐさま駆け寄りました。

 

―――さっさと逃げよ。もう村は無くなった、私の要となる祠も壊れた。これ以上お主が、ここを守る理由など無かろう

 

『きつね』の言葉に『こいぬ』は首を振って否定します。

 

 まだ『きつね』が居る。

 

『きつね』が大好きな山が残っている、だから逃げない。

 

 そんな『こいぬ』の思いを読んで『きつね』は呆れたように溜め息をします。

 

―――そんなもの、もうどうでもよい。私の居場所は山ではなく、祠だったのじゃ。もう山になぞ興味もないわ

 

 そう言って『きつね』は、尻尾で『こいぬ』を包んで雨から守ります。

 

―――祠が無くなった以上、もう私は存在を保てずに消える。だから、残った全ての力をお主に与えよう

 

 その言葉と共に『こいぬ』から『きつね』は、自分に力が流れ込んでくるのを感じ、止めさせようと暴れました。

 

 しかし『きつね』は『こいぬ』を完全に抑え込み、苦笑しながら言います。

 

―――そう暴れるでない。もともと私は、祠が残っていたところで、もうすぐ消えるはずだったのだ。私は既に死者、今までは忘れられても執念だけでなんとか耐えてきたが、もう限界だったのじゃよ

 

 半透明だった『きつね』の身体が、更に透けていく。

 

―――本当に最後まで言うことを聞かない大馬鹿者が……お主にだけは、こんな姿を見せたくなかったというのに

 

 そしてついに『きつね』は『こいぬ』を触ることができなくなる。

 

 

―――ではな、勇敢に今を生きる者よ。お主と過ごした日々は、それなりに楽しかったぞ

 

 

 その言葉を最後に『きつね』は、完全に消滅した。

 

『こいぬ』は吠えた。

 

 大雨をかき消すかのような悲しみの絶叫が、半壊した山を震わせる。

 

 ようやく『こいぬ』は理解したのだ、自分は『きつね』に恋をしていたのだと。

 

 初めて会った時から無自覚に一目惚れして、死者という叶わぬ恋であったとしても『きつね』を好きになったのだ。

 

 だが、それを理解するには『こいぬ』はあまりにも幼く、失ってから気づくという遅すぎる初恋と失恋だった。

 

 そんな『こいぬ』の声を煩わしく思ったのか、怪物が山に雷を落とす。

 

 だが、それを受けてなお『こいぬ』は怒りのままに吠えたのだった。

 

 その遠吠えは、怪物の生み出した雨雲を消し去り、空から太陽を覗かせた。

 

 そして『こいぬ』は、雷を纏いながら、怒りの炎を燃やして怪物に襲い掛かった。

 

『きつね』から貰い受けた『ほのお』が、『こいぬ』の心に灯をともしたのだ。

 

 

 それから三日三晩。怪物と『こいぬ』の戦いは続き、駆け付けた人間の助けもあって怪物を追い払うことに成功した。

 

 

 しかし怪物を追い払ったはいいモノの、もう村も『きつね』の祠も失い生きる目的も無くしたことを悟りました。

 

 そんな『こいぬ』に、共に戦ってくれた3体の巨人を操る人間が言いました。

 

「君がカイオーガを抑えてくれていたおかげで、村の人たちは無事に避難することができた。本当に助かった、ありがとうウインディ」

 

 その言葉を聞いて、戦いの中でいつの間にか大きくなった『こいぬ』は救われたのでした。

 

 村も祠も失くしてしまったけど『きつね』がずっと守ってきた人間を守ることができたから、それで『こいぬ』は満足でした。

 

 しかし、もう『こいぬ』には居場所がありません。村の近くで暮らしていただけで、そこ以外に住み着くつもりは無かったのです。

 

 なのでこれからどうしようかと考えて、どこか旅にでも行こうかと『こいぬ』は思いました。

 

「む? 旅をするつもりなのかい? ……ならば私と一緒に冒険してみないか? 私の名はジンダイ、冒険家だ。退屈はさせんぞ?」

 

 そう、人間に提案されました。

 

 この時はまだ。これが、この人間との長い付き合いになるとは『こいぬ』は夢にも思いませんでした。

 




名前:ウインディ(特異個体)

性別:♂
性格:いじっぱり
特性:ひでり(もらいび)
持ち物:あついいわ
技:せいなるほのお(フレアドライブ)
  ボルテッカー(ワイルドボルト)
  あさのひざし
  にほんばれ

特異能力
・『フレアドライブ』を訓練によって『せいなるほのお』として使えるようになった。
・『ワイルドボルト』を訓練によって『ボルテッカー』として使えるようになった。
・特性が『もらいび』から『ひでり』に変化している。
・『ひざしがつよい』時に『にほんばれ』を使うと、天候を『ひざしがとてもつよい』に変更することができる。
・『あさのひざし』の効果を常に発動できるようになった(本当は同時使用じゃない)

詳細
 今では地図から消えた村で生まれた普通の「こいぬ」だったが、ある日 村で「山の神」と言われていた伝承の正体である「きつね」と出会い、無自覚の恋に落ちた。
 だが、海からやってきた大雨を降らせる怪物と三日三晩の戦いの末、追い払うことに成功するも、戦う力をくれた「きつね」を失うことになる。
 その壮絶な戦いを見た人間たちは、彼を神話に語られる伝説の英雄のように思っていた。
 だが、彼自身に英雄などという思いは無い。
 彼にとって自分は「きつね」の為に頑張るだけの「こいぬ」でしかなかったのだ。

 ………そんな彼は、ある日から天気雨になっている満月の夜に、1体で散歩に出かけるようになった。
 偶然、丑三つ時に散歩中の彼を見た霊能者は「こいぬ」の後ろに、9本の尾を持った半透明の獣の姿を見たという。
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