バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい   作:麦わらぼうし

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注意:1つ前の話と同じく、後半部分は読まなくても問題ありません。

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   の記号で区切ってあるので、読みたい人だけ読んでください。


繭のまま茹でられる蚕の気持ちを考えたことはあるか?

 特異個体に対して、ゲームの知識を当て嵌めるのは危険だ。

 

 特異個体は、多くの人に「異常だ」と思わせる異常性を持っているから、特異個体と呼ばれるのだ。

 

 あるがままに現実で起きた事象を受け止めなければ、特異個体や特殊個体とのバトルは成立しない。

 

 バトルの間に、どんな意味不明な出来事が起きたとしても「そのポケモンは、そういう特異能力を持っている」とすぐさま飲み込まなければ、そこに発生する僅かな隙を突かれて敗北するだろう。

 

 故に、意味が分からなくても受け入れろ。

 

 理屈が欲しいというのなら、勝手に想像して自分を納得させろ。

 

 在り得ない、不可能だ。そんな言葉で思考を停止するな、バトルの需要な要素を棚上げにするな。

 

 その上で「こうなのではないか?」と仮定して、弱点を見抜け。

 

 相手の想定を上回って隙を作れ。

 

 バトルまでに相手の情報を収集しろ。

 

 作戦を何通りも考えろ。

 

 4つしかない技の枠に必要なのはどれか判断しろ。

 

 常識を基準に、非常識の現実を当て嵌めろ。

 

 

 それが、現実となったポケモンバトルと言うものだ。

 

 

「切り裂けッ!」

「舞い散らせッ!」

 

 合図などいらない。

 

 どちらかがポケモンに指示すれば、それがバトルの合図となる。

 

 カミツルギに「つばめがえし」を指示し、ウルガモスは羽ばたいて纏った炎を飛ばす。

 

 以前にジンダイさんのウルガモスが見せた異常は、ウインディと同じく3つ。

 

 1つ目は『ほのおのまい』を進化させた『クロスフレイム』という、これまた伝説の専用技。伝説特有のタイプ相性・特性の無視と、純粋な威力の上昇。

 

 1つ目はこれだけだが、これと同時に使う2つ目の異常が厄介なのだ。

 

 2つ目の異常は、この『クロスフレイム』となった『ほのおのまい』に『ちょうのまい』を合わせるという、技の同時使用だ。ウインディの時もだが、技を同時に使用させるのが、とれだけ高度な技術か分かっているのかッ!?

 

 ちなみに3つ目の異常は、これらとは関係ない。『いかりのこな』に『おにび』の効果を載せた。優先度の高い『おにび』を使うというだけだ。

 

 現実での優先度は、技を発動するまでの早さのことなので、優先度の高い技は非常に避け辛い。でも、すでに『やけど』状態のカミツルギには関係が無い。

 

 俺が今回、カミツルギに『つばめがえし』を覚えさせておいたのは、このウルガモスの為だ。

 

 俺のポケモンは『なし』タイプなので、技のタイプ一致による威力上昇がない。だからダメージを稼ぐためには、技のタイプで有利相性を取る必要がある。

 

 そして今は、カミツルギは『やけど』になっているモノの、ウインディを『ひんし』にしたことで、特性のビーストブーストが発動し『こうげき』が一段階上昇している。

 

 倒すことは絶対に出来ないが、当てれば体力を削れる筈だ。

 

『つばめがえし』は必中の技だけど、相手が見せていない特異能力があるだろう状態で、過信するのは禁物だ。下手に『ちょうのまい』で『すばやさ』を上げられる前に、1回は攻撃を当てさせてもらう。

 

 飛んでくる炎を掻い潜り、カミツルギは『つばめがえし』でウルガモスを切り裂く。

 

 そしてやはり、倒れはしなかった。

 

「(―――フッ)」

「ッ!?」

 

 そして、そのタイミングで、ジンダイさんが僅かにほくそ笑んだのを見て、俺は瞬間的に「なにかマズイッ!」と感じ取った。

 

「離れろッ!」

「もう遅いッ!」

 

 

 そして次の瞬間―――カミツルギが爆ぜた。

 

 

 謎の爆発を受けて煙に包まれたカミツルギは、ヒラヒラと床に落ちて『ひんし』となった。

 

「なッ!?」

 

 突然の事態に、俺は驚きの声を漏らす。

 

 が、すぐさま腰についているボールを掴んで、カミツルギをボールに回収した。

 

「お疲れ様、カミツルギ。ゆっくり休んでくれ」

 

 そう感謝の言葉を言って、俺はカミツルギのボールを懐にしまった。

 

 

―――さて、何が起きた?

 

 

 カミツルギが『つばめがえし』を当てた後、ウルガモスが技を使ったようには見えなかった。あのタイミングで何か起きるのなら、それは『さめはだ』や『てつのトゲ』のような、攻撃を受けたタイミングで発動するようなモノの筈――

 

 

―――ん? 攻撃を受けたタイミングで?

 

 

 俺は1つの仮説を思いついて、ウルガモスを注意深く観察する。

 

 

―――なるほど

 

 

 そして、何が起きたのかを理解した。

 

「鱗粉による「粉塵爆発」か……」

「正解だ」

 

 俺は小さく呟くが、その声が聞こえたらしく、ジンダイさんは俺の導き出した答えに肯定してくれた。別に返答されるとは思っていなかったけど、一応こちらは挑戦者の立場だし、今はポケモンの交換時間の範疇だ。それぐらいは会話をしてくれるのだろう。

 

 ウルガモスは「蛾」がモチーフのポケモンだ。その身体には鱗粉があり、孵化要員としての特性である『ほのおのからだ』はとても有名だ。

 

 おそらく『ほのおのからだ』によって高温になった、引火性の高い鱗粉を身に纏うようにしているのだろう。そして直接攻撃をしてきた相手には、その鱗粉が纏わりついて炎が着火することで疑似的な「粉塵爆発」を起こしていたのだ。

 

 理屈としてはこんなところだろうが、これも一種の特異能力だな。相手の特性は『ほのおのからだ』と『さめはだ』の2つを持っていると考えて動いた方が良さそうだ。

 

 だが、その起爆できる鱗粉が、今も周囲に舞っている鱗粉でも可能であるとしたらどうだろうか?

 

 

―――この為に覚えさせた訳じゃないけど、やってみるか

 

 

 俺は次に決めていた(・・・・・・・)ボールを掴んで、フィールドに投げた。

 

「撃ち落とせッ! ウツロイド!」

「べのめのん!」

 

 そして、出てくると同時に指示する。

 

「巻き起こせッ!」

「見事ッ!」

 

 その言葉によって、ウツロイドが『すなあらし』を発生させる。それによって周囲にある鱗粉を飛び散らせることができた。

 

 本来の『ひざしがとてもつよい』の天候を変えるには、『はじまりのうみ』や『デルタストーム』の特性でないと不可能だが、今の天候にしたウインディは既にフィールドには居ない。

 

 それなら普通の『ひでり』と同じように、何もしなければ永続で『ひざしがとてもつよい』が続くだけで、準伝説のウツロイドならば天候を変えることは可能だと判断して『すなあらし』を使わせたが、どうやら当たりのようだ。

 

 その方法を見たジンダイさんは感嘆の声を上げるが、ウルガモスは攻撃をせずに『ちょうのまい』を続けている。

 

 ウツロイドは『とくこう』で戦うポケモンだ。ウルガモスが『ちょうのまい』で『とくぼう』を上げていく現状、あまり長引かせるのはマズイ。

 

「だが、甘いッ!」

「ッ!? 右ッ!」

 

 咄嗟に俺は、ウツロイドに避ける方向を指示する。それによって避けたウツロイドが居た場所にソレが通り過ぎて、俺の後ろの壁で爆発が起きた。

 

 

―――あぁッ! そうだよなッ! 鱗粉で爆発できるなら『いかりのこな』で起爆することぐらいできるよなッ!?

 

 

 直接攻撃をしなければ大丈夫なんて、そんな油断をしていたら当たっているところだった。相手はフロンティアブレーン、慎重すぎるぐらいがちょうどいいんだ。

 

「撃てッ!」

「舞えッ!」

 

 ウツロイドに『パワージェム』を指示し、宝石のような光のエネルギー弾を飛ばす。しかしそれは、再びウルガモスの『ちょうのまい』によって上昇した『とくぼう』により、身体の回転で弾き飛ばされた。

 

「軸を狙えッ!」

「なッ!?」

 

 だが俺はウツロイドに、弾かれた『パワージェム』を操作させて、回転の軸に向けて飛ばさせる。

 

 一度、対処したエネルギー弾が再び襲ってきたことで、ジンダイさんは動揺して隙を見せた。

 

 そうだよな。エネルギー弾は時間の経過と一緒に、内包するエネルギーが下がっていく技なのだ。それを再利用しようなんて本来は無駄な行為、もう一度同じ技を使わせた方が威力が高いのは確実だ。おそらく、この『パワージェム』の威力は、本来の出力の半分以下になっているだろう。

 

 でも、ウルガモスの『ほのお・むし』タイプを考慮すれば、十分に狙う価値はある。

 

 弾かれた『パワージェム』が、ウルガモスを上下から撃ち抜いて回転を止めた。

 

「……サイコキネシスか」

 

 ジンダイさんの呟きが聞こえたが、俺は挑戦者の側なので答えるつもりはない。

 

「吹き飛ばせッ!」

「準備ッ!」

 

 突如として、強力な風が発生する。

 

 それはウルガモスを中心に発生した『ぼうふう』だった。

 

 だが、その『ぼうふう』は、周囲に撒き散らされていた炎と『すなあらし』による砂塵を飲み込んで、巨大な炎の竜巻を発生させた。

 

「ウツロイドッ!」

「ウルガモスッ!」

 

 俺はウツロイドに『メテオビーム』を指示する。それによって、ウツロイドは力を溜め始めた。

 

「まだ溜めてッ!」

 

 いつもならパワフルハーブを使って、すぐに撃たせる『メテオビーム』だが、今は竜巻によって相手の場所が見えない。

 

 故に、俺は竜巻の中に居るウルガモスの居場所を探す。

 

 

 炎の熱によって目が乾く

 

 小さな砂が目に入って痛い

 

 

 だが、それでも探す。

 

 

 砂と炎によって視界は最悪だが、その隙間を探し、ウルガモスの居場所を特定する。

 

 

 探す 探す 探す……………そして

 

 

「ッ! そこッ!」

「べのめのんッ!」

 

 俺の声を向けた方向に、ウツロイドは『メテオビーム』を放ち、竜巻を貫いた。

 

「ぷひぃ……ぷ」

 

 そして凄まじい轟音が響き終わると共に『メテオビーム』を撃った方向には、直撃して傷だらけになったウルガモスが居た。

 

 

 だが予想通り(・・・・)、まだ『ひんし』にはなっていない。

 

 

「やっぱり、きついな……」

「そんな気を抜いていていいのかい?」

 

 俺の呟きを聞いて、ジンダイさんが注意を促した。

 

 気を抜いているつもりはないが、そう言われたということは気を抜いていたのだろう。もしくは、粉塵爆発のように何かを仕掛けられたか……。

 

 そこまで考えて、突然 頭の上から危険を感じ取った。

 

「上ッ!?」

 

 そして、その直感に従って上を見上げると―――

 

「――ッ、やられた」

 

 

 そこには、太陽があった。

 

 

 それはウルガモスが『ほのおのまい』を進化させた数発分(・・・)の『クロスフレイム』による炎の塊があったのだ。

 

 少し前の指示を思い出す。

 

 俺がウツロイドに『メテオビーム』を指示した時、おそらく竜巻で姿を隠している間に、準備させていたのだろう。

 

 流石にあの大きさは避けられない。最大火力の『メテオビーム』でも押し潰されて、ウツロイドは『ひんし』になるだろう。

 

 これはジンダイさんの策を読めなかった俺の失敗だ、そう思って割り切ろうとする。

 

 

 だが、その時―――

 

 

「べー!」

 

 

 ウツロイドが俺の指示なしに『メテオビーム』の準備を始めた。

 

 

「のー!!」

 

 

―――あぁ、そうか

 

 

「めー!!!」

 

 

―――ウツロイド、お前は諦めてないんだな

 

 

「のー!!!!」

 

 

―――なら、お前のトレーナーである俺が諦める訳にはいかないッ!

 

 

「落とせッ! ウルガモス!」

「全て出し切れッ! ウツロイド!」

 

 

「んんんんんンンン―――――――――――――!!!!!!!!」

 

 

 空から落ちてくる、世界を焼き尽くす炎を集めた太陽に、ウツロイドの『メテオビーム』が衝突する。

 

 だが、やはり伝説の専用技が、数発分の威力で放たれる技を相殺できる筈もなく、どんどん『メテオビーム』は押されていく。

 

 

 そして

 

 

「じぇる……るっぷ」

「ありがとうウツロイド、ゆっくり休んで」

 

 最終的に『クロスフレイム』の威力を下げることはできたモノの、最後まで『メテオビーム』を放ち続けていたウツロイドは、そのまま直撃して崩れ落ち『ひんし』となった。

 

 それを見て俺は、ウツロイドをボールに戻して感謝を口にする。

 

 

―――本当にありがとう、ウツロイド。

 

 

「ぷひぃ……」

 

 

 僅かに遅れてから、ウルガモスが倒れて『ひんし』になったのを確認して、俺はここまでやってくれたウツロイドに改めて感謝した。

 

 

―――これで、道は繋がった。

 

 

「『すなあらし』によるダメージで、ウルガモスを削り切ったか……」

 

 ジンダイさんが、ウルガモスを倒した理由を理解して呟くと、ボールを手に取って回収した。

 

 そうだ。最初から、こうする為に『すなあらし』を覚えさせておいたのだ。

 

 ジンダイさんのポケモンは、全員が特異個体だ。

 

 だが、本当に恐ろしいのは、そいつらの特異能力じゃない(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 ジンダイさんと、ポケモンたちの絆だ。

 

 

 バトルパレスでやっていたウコンさんのように、ジンダイさんのポケモンは『なかよし度』によって攻撃を耐えてくるのだ。

 

 それも、ジンダイさんの掛け声なしで発動可能であり、何度でも(・・・・)確定で(・・・)、発動するのである。

 

 

 つまり、攻撃技では倒せない(・・・・・・・・・)

 

 

 当たり前だが、状態異常も絆によってすぐに治してくる。

 

 だから、ジンダイさんのポケモンを倒すには、反動ダメージ や スリップダメージ に頼るしかない。

 

 故に俺は、カミツルギに『ぼうぎょ』を上げさせて反動技を受けさせたり、『いわ』タイプを持たないウツロイドに『すなあらし』を覚えさせておいたのだ。

 

 一般ポケモンなのに、伝説のポケモンという規格外と戦えるような個体が、普通の方法で倒せる訳がない。

 

「本当に見事だ。だが、私もこのまま負けるつもりはない」

「それはこちらのセリフです」

 

 お互いに、最後の手持ちのボールを持つ。

 

 これで最後だ。

 

 この戦いで終わらせる。

 

 必ず、俺は勝つ。

 

 

―――あぁ、本当に……楽しいなぁ

 

 

 バトルフロンティアに来てから、本当に本当に楽しくて仕方ない。

 

 

 Lvによるゴリ押しができない。

 

 

 準伝説によるスペックの暴力が振るえない。

 

 

 努力値や個体値による育成の差だけでは足りない。

 

 

 なんてなんてなんて――

 

 

―――なんて理不尽で、楽しい場所なんだ!

 

 

 もっと、早く知りたかった。

 

 もっと早く、ポケモンバトルの楽しさに気づきたかった。

 

 もしそうだったら、俺もラティアスたちに、技の同時使用や強化を練習させることができたのに。

 

 バトルフロンティアに来てから、ようやく育成を始めた今では、まだ技の操作性の向上と、発動を遅らせる程度しかできていない。

 

 

―――なんで一般トレーナーは、伝説を持っていないんだッ!

 

 

―――世界中の全てのトレーナーが、フロンティアブレーンぐらい強ければ良かったのにッ!

 

 

 俺は、こんな楽しいことに気づくまで11年も掛かってしまったッ!

 

 

 でも、気づけたんだ。まだまだラティアスたちは強くなれる。負けるつもりなんてないけど、負けたところで先があるッ!

 

 

 Lv100(頭打ち)で終わりじゃないッ! トレーナーとして、育成することができるんだッ! ようやくこの世界に来てから、ラティアスたちの力になれることが分かったッ!

 

 

 だから、もう勝ち負けになんて固執しなくていいッ!

 

 

 最後までこのバトル、楽しませてもらうよッ!

 

 

「焼き尽くせッ! リザードン!」

「楽しもうッ! ラティアス!」

 

 お互いに最後のポケモンをボールから出す。

 

 ジンダイさんの操る、最後の特異個体―――リザードンが現れた。

 

 

 そして―――

 

 

「なにッ!?」

 

 

 リザードンが登場すると同時に、その周りにある『ステルスロック』が姿を現し、リザードンに襲い掛かった。

 

「いつの間に……」

 

 その呟きを聞いて、作戦が上手く行ったことに、俺は心の中でほくそ笑む。

 

 ジンダイさんが勘違いしてくれたおかげで、警戒されることなく『ステルスロック』を撒くことができた。俺はちゃんとウツロイドに指示していたよ? 「準備ッ!」って。

 

 ジンダイさんからすれば、ウツロイドが覚えている技は『すなあらし』『パワージェム』『サイコキネシス』『メテオビーム』となっている筈だ。

 

 トレーナーのポケモンがバトルで扱える技の数は4つが最大、それは俺だって変わらない。だから、4つの技を全て見れば他の技を考慮する必要はない。

 

 だからこそ、ジンダイさんは勘違いした。

 

 俺は『サイコキネシス』なんて覚えさせていない。

 

 弾かれた『パワージェム』を再利用させた方法は、単純にウツロイドに特訓させただけだ。

 

 他のポケモンが使った技ならともかく、自分で使った技を操るのに『サイコキネシス』なんて必要ない。

 

 それでも、弾かれて威力が減少した技を再利用するメリットは薄いし、放ったあとのエネルギー弾を再び操作するなんて難しい技術だけど、ウツロイドだって準伝説なのだ! 少し特訓すればできるようになるぐらいのスペックはある!

 

 それでも、撒いた『ステルスロック』が残っていたのは、ウツロイドが『メテオビーム』で『クロスフレイム』の威力を下げてくれたおかげだ。アレが無ければ『クロスフレイム』の熱で『ステルスロック』は溶解していただろう。

 

 

 持てる力の全てを使って、ウツロイドが繋いでくれたのだ。

 

 

「まんまと嵌められたよ……」

「ウルガモスにも使っていたら、対処されたでしょうからね」

 

 同じ戦法が2度も通じる相手ではない。

 

 ウルガモスを出した時に『ステルスロック』が発動していたら、リザードンを出すまでに跡形もなく燃やされていたことだろう。

 

「だが、勝負は此処からだッ!」

「そうでしょうねッ!」

 

 大ダメージを与えたところで、ジンダイさんのポケモンは絆によって何度でも耐える。それでも意味はあったが、これだけで勝負が決まるような相手じゃない。

 

「いくぞッ!」

「いくよッ!」

 

 

 才能の差は歴然

 

 

 育成状況は、向こうが一般ポケモンで伝説のポケモンに渡り合えるほどの特異個体にまでなっているのに対し、こちらはタイプが違うこと以外は、技の操作性(パワージェム)発動の遅延(メテオビーム)という、誰でもできる程度の特異能力とも呼べない差。

 

 

―――だが、それがなんだ?

 

 

 その程度は、俺が作戦で補ってやるよッ!

 

 

「リザードン!」

「ラティアス!」

 

 

 

メ ガ シ ン カ

 

 

 

 

   ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 毎日毎日、同じことを繰り返す日々だった。

 

 生まれてからずっと、吐いた糸をご飯と交換してもらうだけの代わり映えのしない毎日。

 

 部屋の中には自分と同じ種類の仲間が、同じようにせっせと糸を吐いていた。

 

 それでいいと思っていたし、それで十分だと満足していた……筈だった。

 

 人間に言われた。

 

 今の自分たちは幼虫であり、成虫になるまでは多くの外敵に狙われる存在なのだ、と。

 

 だから、成長するまで自分たちと一緒に暮らさないか? ただ食事を買う為に、君たちの糸を分けてくれないか、と。

 

 それが、生まれてからすぐに人間から提案された取引だった。

 

 自分を含めて仲間たちの多くは、その提案を受け入れた。

 

 極少数は、自分の力で生きていきたいと外の世界へ飛び出していったが、どうなったのかは分からない。

 

 馬鹿な奴らだ。と、当時はそう思った。

 

 自分たちの種族が吐く糸は上質で、毎日渡したところで苦にはならない。おいしいご飯、暖かい寝床、雨風をしのげる部屋。糸を吐くだけで、この全てを貰えるのに、どうして自分の力で生きていきたいなどと思ったのか、自分には分からなかった。

 

 だからこそ、逆に気になった。

 

 外の世界というのは、そんなに魅力的なのだろうか?

 

 この家の扉は、外に出ようと思えばいつでも出られるように、自分たちの力で開けられるようになっていた。

 

 取引を交わした人間は、自分たちを縛り付けるつもりはなく。ここに居るのが嫌だったら、いつでも自由に外で暮らして構わないと言っていた。

 

 でも、自分はその扉を潜るつもりは無かったのだ。だって、この家を出たら天敵に襲われるかもしれないのに、そんな危険を冒してまで外に行く必要があるとは思えなかったから。

 

 仲間だって皆そう言っている。

 

 ここはとても居心地がいい。人間も優しい。仲間もいっぱい居て寂しくない。

 

 だから、きっとそれは、ほんの少し魔が差しただけだったのだ。

 

 日が落ちて、人間も仲間も寝静まった夜に、自分は扉を開けて外に出掛けたのだ。

 

 仲間と人間しか知らなかった当時は、自分たちが寝ている夜なら、天敵もきっと寝ているから安全と勝手に思っていたのだ。

 

 夜の間に、ちょっとだけ出かけて、日が昇る前に戻る。

 

 当時の無知な自分にとっては、それは壮大な計画のつもりだった。

 

 そして決行した日の夜、真っ暗な森の中を歩いてみたが、特に何かある訳でもなく、つまらなかった。

 

 やっぱり、外で暮らすことの何がいいのか分からない。

 

 だが、その結論を出すのは早すぎるのではないかと思い直し。外でしかできない何かをしてみようと考えた結果、その森で一番背の高い木の天辺に登ってみようと決めた。

 

 ただ何となく決めた目的だった。

 

 だが、人間の家でぬくぬくと生きていた自分は体力が少なく。木の元については休み、登っている途中で疲れて落下し、枝によって真っ直ぐ登れない幹に悪戦苦闘しながら、なんとか登り切った。

 

 そして木の天辺から顔を出した時、森の中では見れなかった満点の星空を見て、思ったのだ。

 

 

 なんて綺麗なのだろう、と。

 

 

 木を登る途中で、何度も止めようかと思ったが、この光景が見れたのならば、頑張った価値があったと思った。

 

 どれくらい眺めていたのか分からないぐらい、その場で星の空を見ていた。

 

 その時だった。

 

 

 空と大地が炎に染まった

 

 

 そんな光景だった。

 

 生まれて初めて外に出た自分が、そうとしか思えない現実離れした景色だった。

 

 昼のような青空ではなく、夕方のようなオレンジ色でもない。

 

 

 炎の紅、火の赤、日の白

 

 

 上も下も、右も左も、前も後ろも、全てが燃えていた。

 

 

 何が起きたのか分からなかった。

 

 それもその筈だ。だってこれは、その森からは見ることができないほどの遥か遠くから放たれた、白い竜の世界を焼く炎だったのだから。

 

 そのあまりの恐ろしさに、自分は本能的に木の中に隠れた。

 

 この木の中ならば大丈夫。そんな根拠のない希望に祈りながら、自分はただひたすら外の炎が消えるのを木の中で震えながら縮こまっていた。

 

 自分がまるで炎の繭に包まれているような感覚だった。

 

 

 熱い 熱い 熱い

 

 

 それでも自分は震えて動けなかった。

 

 外は怖い。家から出なければよかった。これは軽い気持ちで外に出た自分への罰なのだろうか?

 

 そんなことを震えながらどれだけの時間を過ごしていたのか、もはやまともな精神状態ではない自分には分からなかった。

 

 そして、どれくらいの時間が経ったのか。

 

 ようやく、外からの熱を感じなくなったところで、自分は恐る恐る木の外に顔を出した。

 

 

 すべてが燃え尽きていた。

 

 

 森は焼け野原となり、山は冷え固まった溶岩が傾斜を作っているだけの、およそ生命が住めるような場所ではなくなっていた。当然、ここから見えていた筈の人間の家も、今は炭すら残っていなかった。

 

 あまりの景色の変容に、それを見て呆然としていた自分は、木から足を滑らせて落下しそうになる。

 

 この高い木の天辺から地面に落ちたら死ぬと思って目を閉じたが、いつまで経っても身体に衝撃は来なかった。

 

 どういうことかと思い。ゆっくりと目を開けると、なんと自分に6枚の羽が生えており、宙に浮いていたのだ。

 

 どうやら炎の繭に包まれていた間に、自分は成虫になって飛べるようになっていたらしい。

 

 とりあえず当面の危機は去ったが、これからどうしようと考えて、表面がむき出しになった山の洞窟で身を休めることにした。

 

 あまり広い場所には行きたくなかったのだ。外は……恐い。

 

 そうして洞窟での生活が始まった。住みやすくするために、糸を吐いて寝床を作り、火を使って壁を溶かして洞窟内を整える。できるだけ、あの人間の家のような綺麗な形にしたかった。

 

 食事は、あの背が高い木のなっている木の実を食べることにした。

 

 あの恐ろしい炎を耐えた、この巨大なピンクの木は大きな実が生るので、それを取ってきては洞窟に戻ることを繰り返していた。

 

 それ以外の時間は、洞窟を住みやすく改造することを繰り返していた。同じことを続けるのは得意だったし、何かやっていれば外に行こうとする気にならないと思ったからだ。

 

 その所為で、洞窟の中は迷路のように広くなり、その途中には何個も趣向を凝らした部屋を作っていた。何気に楽しんでいたのだ。

 

 そしてまた、ピンクの木に食料を取りに行こうとして外に出たある日。いつの間にか焼け野原となっていた森は、その姿を取り戻し………そして近くに人間が村を作っていたのを見つけた。

 

 

 それを知って自分は人間に―――距離を置いた。

 

 

 もう、自分は成虫だ。人間と共にいられる理由が無い。だから、人間が居てもいつも通りに過ごすことにしようと決めた。

 

 そうして住処に戻った自分は、少し眠ろうとして―――凄まじい轟音と共に叩き起こされた。

 

 

 何が起きたッ!?

 

 

 そう思ったが、同時に自分の身体が固まったように動かなくなった。

 

 あの日と同じ、自分は恐ろしいナニカを感じると体が動かなくなってしまうのだ。

 

 そして住処が揺れている間、自分は恐怖に震えて縮こまっていた。しばらくして揺れが収まったところで、何が起きたのかを確かめるために洞窟の外に向かった。

 

 すると外は、先程まで明るかった空が灰色になっていた。

 

 ここではない火山が噴火して、火山灰が空を覆っていたのだ。それを見て自分は、人間たちはどうなったのかと思い、村の方に様子を見に行った。

 

 そこでは、作りかけの家に入って火山灰をしのいでいる人間たちが居た。

 

 それを見て自分は、彼らを住処に案内したのだ。なんせ、自分の住処は無駄に改造を重ねたので、目の前の人間たちぐらいなら余裕で全員が入ることができる。

 

 そして彼らと接触し、洞窟まで案内した。

 

 太陽が火山灰で覆われてしまったせいで気温が下がったので、自分が炎を出してやったのだが、その所為で人間たちに「太陽の化身」とか言われるようになった。なんで?

 

 そうして、外に太陽が戻るまで人間たちと暮らすことになった………のだが、火山灰が無くなっても、人間が少し住処に残ることになった。

 

 まぁ、自分が幼虫だった時は、居たければ居ればいいし、外で暮らすのなら外に行けばいいと、居るかどうかは自分の意思で決めることにしていたので、別に構わない。ずっと仲間がいなくて自分だけだったから、ちょっと嬉しいし……。

 

 そして人間たちと長い時を過ごしていたが、少しずつその数は少なくなっていった。人間って、なんでこんなに寿命が短いんだろう?

 

 そしてまた、自分だけで洞窟に暮らす様になった。以前は何にも感じなかったけど、人間が居なくなってからは、住処が広く感じる。

 

 また、外から人間を呼んでこようかな? とも考えたが、あまり外には行きたくないので止めた。

 

 そして、いつものように寝床で休んでいると、唐突にソレは現れた。

 

 

「お前、モフモフだなッ! おいらの抱き枕になれッ!」

 

 

 その小さな生き物は、なんだろう? リングを持った精霊のような見た目で、人間のように言葉を話す悪戯小僧だった。

 

「うぉおうッ!? モフモフで暖かいとか、お前最強だなッ! おいらの次にッ!」

 

 なんだかよく分からないが、この悪戯小僧は自分を抱き枕 兼 椅子として使うつもりらしい。まぁ、重くもないし、そこまで迷惑とも思わないので好きにさせた。

 

 休んでいる自分を椅子にして、手に持ったリングを前に浮かべると、そのリングがいきなり大きくなって、外の景色を映し出した。

 

「ニシシ! どうだ、すごいだろ?」

 

 そう言って、悪戯小僧は自分にもリングの映像を見せてくれた。

 

 いろいろな景色があった。のどかな平原、白い砂浜、草木が生い茂るジャングル、雲の海から覗く山々、そして人間の街。

 

 その中で、自分の目を引いたのが、1人の人間と1体の蝶が、多くの人間の前で美しく舞って歓声を受けている光景だった。

 

 その姿に魅了された自分は、自己流で舞を踊ってみることにした。

 

「何してんだお前? 頭でも打ったのか?」

 

 失礼なクソガキだ……どうやらコレは、自分の舞の美しさが分からないらしい。

 

「いや。お前身体が太いから、あんまり綺麗には見えないぞ」

 

 ぶち〇すぞこの野郎ッ!? 乙女に向かって「太い」とは何だッ! そんなに言うなら、お前が手本を見せてみろッ!

 

「あっはっは! おいらの凄さを見たら、自信を無くすぞ?」

 

 そう言って、リングを自在に使って悪戯小僧は踊り出した。ちくしょう! 普通にうまい!

 

「どうだ? おいらの方が上手だろ? なんなら、おいらがプロデュース? してやるぞ」

 

 やってやろうじゃねえかッ!

 

 それから始まったのは、来る日も来る日も舞を踊る日々。正直、何日連続で踊っていたのか分からないくらい踊った。

 

 そしてついに、自分の舞が完成したのだ。

 

「まぁ……見れるぐらいには、なったんじゃないの? それで、踊りを覚えてどうするつもりなんだ?」

 

 ようやく自分の舞を認めた悪戯小僧に、そんなことを聞かれる。

 

 そう言えば、なんで舞を踊ろうと思ったのだったのだろうか? 練習に集中し過ぎて忘れてしまった。

 

「ん? あれ、なんか此処に人間が来てるぞ?」

 

 人間が? まぁ、別に誰が入ってきても自分は拒まないので構わない。しかし、せっかく舞が完成したので、ぜひ自分の成果を見せてやろうと思い、自分は人間が現れると舞を披露した。

 

 自分の踊る姿を静かに見る人間。ふふふ、どうやらこの人間は自分の舞うあまりにも美しい姿に魅了されたようだ。

 

「素晴らしい! 君が言い伝えの「太陽の化身」だな! やはり、この遺跡を住処にしていたのか」

 

 そうだろう そうだろう もっと褒めろ……って、あれ? なんか期待していた反応と違うような?

 

「む? どうかしたのか?」

 

 自分が困惑していることが分かったのか、人間が聞いてくる。ふむ……この自分でもよく分からない感覚は、どう伝えればいいのだろうか?

 

「そいつ、コミュ障だから話しかけても返事しないぞ?」

 

 

 だ れ が コミュ障だッ!? このクソガキがぁあああああああああッ!!!

 

 

「おいコラ、火を飛ばすなッ! お前の火って、あの白い奴と同じぐらい熱いんだよッ!」

 

 避けるなッ! リングを使うなッ! この完成した炎の舞う中で燃え尽きやがれッ!

 

 そう叫んで全力で炎を飛ばすが、悪戯小僧は小さいうえに機動力が高いので、炎を全て避けられてしまった。

 

「ふむ。取り込み中のところ悪いが、私と共に来ないかね? 君のような立派なウルガモスを見るのは初めてでね、ぜひ一緒に冒険をしたいんだ」

 

 え~。なんか人間に誘われたけど、それって外に行くってことだよね?

 

 ヤダよ。木の実を取ってくるのだって面倒なのに、外になんて行きたくない。外は怖いもん! そう、恐いから自分は此処から出ません。

 

「それに街には、君に会いたがっている者たちがたくさん居る。せめて、彼らにだけでも会ってみてはくれないかな?」

 

 

 行く!

 

 

 それって自分のファン? とかいう奴だよね! そいつらなら自分の舞を褒めてくれる筈だ!

 

「いや、変わり身早くねッ!?」

 

 クソガキが何か言っているが、そんなことはどうでもいい! さあ! 早く街まで案内しろ人間!

 

「おいおい、引っ張るな……それで、フーパ。どうせだから、君も一緒に来ないかい?」

 

「う~ん。まぁ、こいつとも長い付き合いだし、この枕が無いと寝にくいからな。おいらも行くよ」

 

「そうか。では、さっそく街へ向かうとしよう」

 

 レッツゴー!

 

 私の舞を多くの人間に見せる為の旅は、ここから始まったのだ。

 




名前:ウルガモス(特異個体)

性別:♀
性格:おくびょう
特性:ほのおのからだ
持ち物:サンのみ
技:クロスフレイム(ほのおのまい)
  ちょうのまい
  いかりのこな
  ぼうふう

特異能力
・『ほのおのまい』を訓練によって『クロスフレイム』として使えるようになった。
・『ちょうのまい』を使う時、他の技と同時に使用することができる。
・相手から直接攻撃を受けた時、相手のHPの1/8を減らす。
・『いかりのこな』が命中した時、相手を『やけど』状態にしてHPの1/8を減らす。
・『ぼうふう』を使う際、そのバトルフィールドで『ほのお』タイプの技を使用していたら威力が2倍になる。

詳細
 今より遥か昔に生まれた個体であり、好奇心が非常に旺盛。
 ある日、夜に人間の家を出て森の中に生えていた『ダイ木』に登るというよく分からない行動をしていたら、どこかの世界を燃やし尽くすことができる白い竜によって『ダイ木』の中で蒸し焼きにされた。
 なんだかよく分からないけど、炎の繭の中で強制的に進化し、近くの洞窟を住処として人間と共に暮らしていた。その時、人間から「太陽の化身」と言われるようになるが、そんな自覚も威厳も無い。
 今は人間がやっていた舞を真似て、踊るのがマイブームだが、その本当の理由は人肌の寂しさによるものだと気づいていない。
 本当の彼女は、臆病で寂しがり屋なのだが、持ち前の明るさで毎日を結構楽しんでいる。
 なので彼女の本質に気づいて優しくしたりすると、照れ隠しで『クロスフレイム』が飛んで来るので注意するように。
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