バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
どうして最悪の可能性に対して、準備をしなかったの?
考えないようにしていたの?
それとも……
考えたく、なかったの?
その姿は、まさに神々しいの一言。
白い身体
灰色の顔
そして胴体に括り付けられているような黄色の輪
その体色は、現在のタイプが『ノーマル』であることを表している。
アルセウス
それが目の前に居るポケモンの名前であり、この世界の創造主―――神様だ。
そんなポケモンが、どうして此処に居るのだろうか?
いくらレッドさんが強いからって、アルセウスをゲットできるとは思えないんだけど……。
―――いや、可能なのか?
たぶんレッドさんは、この世界の頂点に位置するであろうトレーナーだ。
逆に考えてみる……。
レッドさん以外にアルセウスをゲットできる可能性のあるトレーナーが居るか?
―――いや、でも……いくらなんでもそれは……
『アルセウスをゲットすることなんて絶対に不可能だ』という考えと
『それでもレッドさんならば可能なのではないか?』という思いが、俺の中で渦巻く。
だが、たとえどちらが正解であったとしても、俺の前にアルセウスが居る事実は変わらない。
そして――
それを認識した途端、身体が「跪きたい」と訴えてきた。
この存在の前で膝をつき、頭を垂れなくてはならないと、意識ではなく本能が理解した。
勝手に姿を見てはならない。
勝手に名前を知ってはならない。
なに1つとして、この存在の許可なく行動することは許されない。
そんな圧倒的なまでの存在感は、もはや暴力だ。
この御方と比べたら、今まで対峙してきた伝説など、あまりにも小さすぎる。
存在そのものが大きすぎて、俺では分からないほどのスケールの違いは、一周回って俺に思考を止めさせなかった。
《私は誰のモノでもないよ。私が此処に居ることと、赤き者は無関係だ》
その言葉を聞いた途端、自身が話しかけられたと理解した途端、自分の心臓が跳ね上がったのを感じた。
それは音による空気の振動ではなく、魂に直接語り掛けてきたような感覚だ。
……いや
―――これは……テレパシー?
《その通りだ》
当たり前のようにこちらの考えていることを読まれて返答されたが、それが当然であると疑わせないような威厳が言葉の1つ1つに込められている。
思考は止まらないが、纏まることもない。
頭の中が空っぽになっているように、脳が理解するのを拒否している。
言葉を疑わせない。ただ受け入れることにしか、思考することができない。
それ以外の感覚が、意識が、酷く曖昧だ……。
《このままでは会話ができないな……………コレでどうだ?》
「ッ!? ―――ぷはぁッ!」
突如として、身体に掛かっていた重圧が消え去り、俺はいつの間にか止めていた呼吸が再開されて息を吐く。
存在を認識しただけで、俺は自身という存在が持つ何もかもが奪われていたようだった。
言葉を一つ掛けられるだけで魂が悲鳴を上げて、身体は重力が何十倍にもなったように動けなくなる。
これが創造神―――アルセウス
何もない場所から生まれ、この世界を創造した原初のポケモン。
いや、もはやポケモンと呼んでいい存在なのか?
《好きに呼ぶといい。そして心を落ち着かせるのだ》
その言葉を聞いて、俺は逆らう気も起きず、ゆっくりと呼吸を整える。
次第に身体は落ち着きを取り戻し、それを見計らって再びテレパシーが送られてきた。
《うむ。では、改めて名乗らせてもらおう。私はアルセウス、この世界を創造したポケモンだ。
もっとも、お前は私を知っているようだがな―――異世界からの来訪者よ》
異世界からの来訪者。
それは間違いなく、俺のことだろう……。
まぁ、創造神様にバレないとは思っていない。むしろ、事情を説明する手間が省けて好都合なぐらいだ。
………というか、さっきから思考が正常に働くようになっている。何をしたのかは分からないけど、先程の言葉を考えるに、会話を成立させるために力を抑えてくれたのだろうか?
認識しただけでダメになる存在とか、流石は創造神と言うべきか、なんというか……。
《言いたいことは色々あるだろうが、それは私とて同じことだ。その為にアバターを使って、お前を此処に呼び寄せた》
あぁ、思考が読まれているんだった……。
というか……アバター?
えっ? じゃあ、この目の前に居るアルセウスは、本物じゃないってこと?
本体はどれだけデタラメなのだろうか……?
会ってみたいような……会ってみたくないような……。
《残念だが、本体の私がこの世界に入ることは出来ない。そもそも、このアバターでさえ、今までのお前では立ち会うことができなかったのだ。故に安定したこのタイミングで、お前を呼ばせてもらった》
あっ、そうなんですか……ご配慮ありがとうございます。
いや、確かにピラミッド前までの精神的にヤバかった時だったら、最初に会った時点でショック死している自信がありますよ?
でもテレパシーができるなら、それで声を掛けてもらえれば―――って、認識した時点でアウトだった……。
マジでお気遣いありがとうございます!
「………ところで、此処どこですか?」
いろいろ言いたいことや、聞きたいことがありますけど――さっき『呼び寄せた』って言いましたよね?
いや、なんか洞窟にしては真っ黒な空間だなぁ……って思ってましたけど、話を聞く限り、たぶん『アトリエのあな』じゃありませんよね?
《此処は、この世界の中と外の狭間にある空間だ。どこにも存在しない場所であり、逆説的にどこにでも行くことのできる場所でもある。
……いや、お前にはこう言った方が分かりやすいか?
ここは『なぞのばしょ』だ》
はい? 『なぞのばしょ』って―――バグマップじゃんッ!?
えっ? この世界、そんな場所までゲームと一緒なの?
《……私の愛するモノたちを、ゲームと一緒にするのは止めてもらえないか》
「ッ! すみませんでしたぁあああああああああああああッ!!!!!」
俺は、全力で土下座した。
―――いや、本当にごめんなさいッ!
この世界を創ったアルセウスにも、この世界で生きている人にもポケモンにも、最大級の侮辱でしたッ!
《そこまでしなくてよい。それよりも、私はお前に問わなくてはならないことが在って此処に呼んだのだ。だから落ち着いて聞いて欲しい》
…………………………はいッ! 落ち着きましたッ!
《いや、落ち着けていないではないか……》
テレパシーによって、若干呆れたような雰囲気を感じる。
確かに完全に落ち着いたか? と言われたら、そうじゃないけどッ!
―――普通に考えてくださいッ! 創造神から話しかけられて、平静でいられる方がおかしいですよッ!?
《それもそうか……では、すぐに問うとしよう。
答えによっては世界が滅ぶことになるが……この場所なら問題も無い》
「……………………」
……………………。
すみませんッ! 聞くのがとても怖くなってきたんですがッ!?
えっ? なんで俺の答えによって世界が滅ぶなんてことになるの?
というか、俺を此処に呼んだのって、もしかして答えを間違えたら始末する為?
逃げられ……る訳ないよね、創造神から逃げるとか、普通に考えて無理だよ……。
さよなら、俺の人生……。
《何も怖がることは無い。万が一に備えて、お前のモンスターボールはロックしておいた。その者たちが暴れる心配もないだろう》
? ロックをした、って―――ラティアスたちのッ!?
その言葉を聞いて、俺はラティアスたちのモンスターボールを取り出して開閉ボタンを押すが、ボールが開く様子が無い。その代わり、全てのボールが激しく揺れていた。
《安心したか?》
めっちゃ不安になりましたッ!
マジで何を聞くつもりなんですかッ!?
というかボールのロックを外してくださいッ! お願いしますッ!
俺はどうなってもいいですからッ! この子たちだけは見逃してくださいッ!
《この問に答えるまでは駄目だ》
……じゃあ、もう変に焦らさないで早く言ってください。
気分はさながら、死刑宣告をされる囚人である。
逆らうことなんてできないし、何かあっても俺にできるのは許しを請うことだけ。
それでダメだったら……盾にでも何でもなって、ラティアスたちだけは逃がしてみせるッ!
もうヤケクソだッ!
死ぬ覚悟はできたッ! どんな問でも答えてやるッ!
さぁ、質問して来いッ!
《そうか………では、改めて問おう。異世界の来訪者よ》
《もとの世界に帰るつもりはあるか?》
「――――――っえ?」
その問いを聞いて、俺は言葉の意味をすぐに理解することが出来ず、そんな声を漏らしてしまった。
えっ? ちょっ――えっ? まっ―えっ? えっ?
……………えっ?
帰れるの?
もとの世界に?
本当に?
《今なら、まだ可能だ》
その言葉に、俺は「やっぱり」と納得する。
いや、そもそも「アルセウスなら可能ではないか?」と思っていたことなのだ。そのこと自体を疑うつもりはない。
だが、何のためにそんなことを聞いてきたんだ?
アルセウスが俺に、わざわざ聞きに来なくてはいけない理由なんてない筈……。
そして、なんでこの答えによって「世界が滅ぶかもしれない」なんて結果が生まれるんだ?
―――もしかして、俺がこの世界にとっての異物だから、ここに居るだけで世界に悪影響を与えてしまうのだろうか?
《それもあるが、それだけではない。コレを聞いて、お前が万が一 発狂してしまえば世界が滅ぶのだ》
その言葉を聞いて、俺は首を傾げる。
―――なんでコレを聞いて、俺が発狂するなんてことになる?
ずっとずっと「両親に会いたい」って思っていて、それが叶うのだから喜びはすれど、動揺する理由なんてない筈……。
そんな俺の考えは、次の言葉によって否定された。
《もとの世界に帰ることは出来る。
だが、その場合――
お前の仲間たちは、この世界から消滅することになる》
「…………………………ぇ?」
◆
「シロちゃんは、まだ見つからないんですかッ!?」
「うーん。全部の監視カメラを使って隈なく探している筈なんだけど……」
私の叫びに、エニシダさんが困ったように呟く。
今、私が居るのは『アトリエのあな』を監視するためのモニター室だ。
私が声を上げているのは、つい先程まで画面に映っていたシロちゃんが、何の前触れもなく見つからなくなってしまったからである。
監視カメラと言っても、1台で監視できる範囲はそこまで広くない。だからこそ、大量の監視カメラを設置して『アトリエのあな』全域を見渡せるようになっている。
だが、カメラとカメラの境目となる場所で、画面の端に歩いて行ったシロちゃんが、突如として見つからなくなってしまったのだ。
最初は、カメラの故障か、もしくは別の場所を映してしまっているんじゃないか、って思っていたけど、何度確認しても場所は合っている。
なのに、さっきまで映っていたシロちゃんの姿は見つからない。
「――ッ! シロちゃんッ!」
私は居ても立ってもいられず、ガラルから転送してもらった相棒たちが入っているボールを手に持って走り出そうとする。
こんなことになるなら、無理矢理にでも休んでいてもらうべきだった!
本人が平気だと言っていても、シロちゃんは病み上がりなのである。
身体を動かしたいからって1人で行動させるとか、私はバカかッ!?
私もテスターとして通ったから、って。
シロちゃんの保護者じゃないから行動を制限する権利は無い、って。
そんな軽い考えでシロちゃんに単独行動させたのが間違いだった!
「………」
「うわぁあああッ!?」
モニター室から飛び出そうと振り向いた先に、此処に居る筈のない人物が立っていて、私は思わず悲鳴を上げてしまった。
その人物は、この8番目の施設のフロンティアブレーンになる予定であるレッドさんである。
というか、以前にメガシンカの石をくれた人物そのひとである。
いや、あの時はレッドさんだって気づかなかったんだけど、それは仕方ないことだ。
だって、旅行していた時にレッドさんとは一度会っているけど、その時と雰囲気が全然違うんだもん。
無口なのは一緒だし、赤い帽子も同じだけど……旅行中に会った時と今だと、どこかが違う。
具体的にどこが違うのか? って聞かれたら言葉に出来ないけど、同一人物に見えなかったんだよ。
だからメガシンカの石を貰った時も「親切な人」としか思っていなかった。
「レッドくん? どうしてここに?」
「………」
エニシダさんが、レッドさんに気づいて声掛けるが、相変わらず無言だ。
だが、その疑問は私も思った。
レッドさんは本来、テスターをしているシロちゃんが来るのを待つために『アトリエのあな』の最奥に居る筈だ。
なのに、どうしてモニター室に来ているのか?
もしかして、監視カメラに映っていないだけで、向こうでは何かあったのか?
「………」
だが、レッドさんは何も言わない。
その代わり、鋭い目つきでモニター室にある画面の1つを見つめると、帽子を手でかぶり直して背を向けた。
「……もしかして、彼を見つけたのかい?」
「えッ!?」
エニシダさんの言葉を聞いて、私は思わず声を上げる。
そんな私の反応を気にすることなく、レッドさんは立ち止まると――
「………(こくり)」
一度だけ頷いて、再び歩き始めた。
「ッ! 待って! 私も―――」
その行動の意味を理解して、私はモニター室から出ていくレッドさんを追いかけた。
目を逸らしちゃダメだよ?
原因の全ては『主人公』――きみなんだ。
その子たちを殺したのは、きみなんだよ?