バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
「……まぁ、いっか」
「所詮、ゲームだし……」
どれだけ時間が経ったのだろう?
その言葉の意味を飲み込むのに、俺はどれだけの時間 呆けた顔を晒していたのか……。
周りの景色は真っ黒なままで変化が無い為、時間の感覚は自身の意識でしか判断することは出来ない。
そもそも『なぞのばしょ』に時間という概念が存在するのかどうかすら分からないが、それでも少なくない時間、俺は呆然と佇んでいたのは間違いなかった。
「……仲間、っていうのは……ラティアスたちのこと、ですよね?」
そんな中で、ようやく絞り出せたのは、そんな言葉だった。
俺にとっての「仲間」に分類される存在は、手持ちのポケモンである3体のみである(先輩は「先輩」なので「仲間」ではない)
だからこそ、その言葉を口に出すのがどれほど苦しかったか……。
だって、その質問の答えは分かり切っているから。そして、その答えを明確に知ってしまったら認めるしかなくなるから。それが嫌だから、言葉にするために時間が掛かってしまった。
《そうだ》
だが、そんな俺に、アルセウスは簡潔に答えた。
それはきっと、慈悲だったのだろう。俺が間違った解釈をしないように、現実逃避をさせない。創造神としての言葉の圧力が、否が応でも事実を認識させるための宣告だった。
「……そっ……か」
それを聞いて、俺は心のどこかで諦めたような気持ちになる。そして全身に力が入らなくなり、真っ黒な地面に座り込んでしまった。
どうして、このタイミングで、そんなことを言うのだろうか……。
………………いや、理由は既に言われていた。
この世界に生まれてからずっと、俺がアルセウスの声を聞けるような精神状態じゃなかったからだ、って……。
―――でも、だからって……。
11年間、ずっとラティアスたちに助けられながら過ごしてきた。
生きているだけで頭がおかしくなりそうな日々の中、この子たちだけが俺にとっての唯一の救いだった。
前世との繋がりであると同時に、何があっても俺を守ってくれた絶対の味方。
俺にとって心も体も守り続けてくれる、この世界で唯一の大切な子たち。
だけど……もとの世界に帰ると言うことは、この子たちとお別れをしなくてはならない、ということだ。だってもとの世界に、ポケモンは実在しないのだから。
いや、もしかしたら一緒に連れて帰ることができるかもしれない、なんて都合の良い考えがあったことは否定できない。
ラティアスも、カミツルギも、ウツロイドも、そこまで大きなポケモンではないから、広い家を持つことが出来れば一緒に暮らしていけるかもしれない、なんて思っていたのは事実だ。
だけど、それはきっと良くないことだろう……だってそれ、ただの俺の我儘じゃないか。
ポケモンであるラティアスたちが、向こうの世界で生きて行くのは息苦し過ぎる。だからと言って、一生閉じ込めて置くなんてできないし、したくない……。
そんな窮屈な思いをさせるのなら、いっそこの世界に逃がすべきだ。全員、準伝説なのだから、それなりに自由に生きて行ける筈である。
《落ち着くのだ。ことはそう単純な話ではない、泣くのを止めて話を聞いてくれ》
「………ぇ?」
そう言われて、座り込んでいた俺が顔を上げると、何かの液体が頬を伝って手の甲に落ちた。それは涙だった。ラティアスたちと別れる、それを理解しただけで、いつの間にか泣いていたらしい。
《やはり、理解できていないようだな。もう一度言うぞ? もとの世界に戻る場合、お前の仲間たちは
「消……滅……?」
お別れじゃなくて……消滅?
どういう、こと……?
《お前は今まで、疑問に思わなかったのか? お前の仲間たちは、お前の世界では架空の存在だ。
お前がこちらで転生しただけならともかく。どうして空想の存在が、本物の生物となって現実に現れることになる?》
「それは……」
答えようとして、言葉が詰まる。
転生という、非現実的な事象が理解できなかった為に、そのことについて何度考えても答えが出ない現状に、そちらの疑問についても考えることを放棄していた。
ラティアスたちは、自分の言う事を聞いてくれる。
だから、この子たちは前世で俺が育てた子たちなのだと思って、勝手に納得していた。
だが、改めて考えてみればおかしな話だ。
仮に自分が死んだとして、その魂がポケモンの世界で生まれ直したとして、どうして前世で実在しなかったラティアスたちが、ゲームと同じ状態でこの世界に居るのか?
転生の時点で理解できない出来事だった為に、そちらの事象も理解できないモノだと決めつけていた。
《お前の仲間たち―――そのモノたちは、お前が生み出した存在なのだよ》
「は?」
そのあまりに意味不明な説明に、思わず声を漏らした。
《とても長い話になる。だが、私の言葉を全て鵜吞みにして、思考を放棄してはならん。全てを聞いたうえで、考えて答えを出さなければ、お前は必ず後悔するぞ》
「それはいったい……どういうことですか?」
その言葉を皮切りに、アルセウスは語り始める。
そこから聞かされたのは、とんでもないモノだった。
俺がこの世界に生まれることになった真実、それによって起きた世界の異常。
その全てを、俺は知ることになった。
◆
かつて『神様』は、自身の力と世界のバランスを保つために、小さな神様たちを創りました。
小さな神様は世界の理を司る要でしたが、それだけではバランスを取ることが出来ません。なので、今度は弱い代わりに沢山の増える生き物を創りました。
それでも『神様』の力とは釣り合いません、しかし世界の容量は既に満杯寸前です。
そこで『神様』は『人間』を創りました。
『人間』の役割は、小さな神様 と 生き物たちを強化させることでした。彼らが共に生きて行くことで、世界は安定するようになったのです。
しかし、安定したからと言って油断してはいけません。
世界が安定している間に、この世界が壊れる可能性のある危険を防止する必要がありました。
その危険とは、増える生き物たちから突然変異が生まれることでした。生物である以上、誕生の際に不具合が発生して、『神様』が設計した規格を逸脱してしまう個体が生まれる可能性があります。
もちろん、ある程度までは世界に余裕がありました。それこそ『時間』や『空間』や『反骨』ぐらいまでの存在までなら、世界は壊れません。
しかし、もし『神様』と同等クラスの存在が生まれてしまえばどうなるか?
確実に世界は許容量を超えて、壊れてしまうでしょう。
なので『神様』は、世界に新しいルールを創りました。
《この世界で新たな命が生まれる為には、“おや”が必要である》
《『神様』は、何もない「無」から生まれて来る存在である》
この相反する2つのルールを創ることで、世界に『神様』クラスの存在が誕生しないようにしました。
ですが、世界を壊す危険はこれだけではありません。
それは、小さな神様が、なんらかの誤作動を起こしてしまう可能性でした。
この世界の理を司っている小さな神様たちは、世界を安定させる要です。それが暴走したら、やはり世界は壊れてしまうでしょう。
しかし、暴走する理由は膨大に存在し、その全てにルールを創れるほどの余裕は世界にありません。
なので『神様』は、あえて小さな神様を暴走させるルールを創りました。
《『人間』の中で『
これは、世界を滅ぼす災厄が発生するのを、それを対処できる存在が出現することに結び付けるルールでした。
このルールによって、それ以外の時は世界に危険が発生しなくなり、結果的に危険を防止することになります。
そして『神様』は、この『優れたる操り人』に分類されるための条件を、とても厳しくしました。
世界を滅ぼす災厄を、なるべく発生させないように。
仮に発生してしまった時に、確実に対処できる力を持った存在であるように。
『神様』が設計した『人間』の規格において、その全てが最高峰であることは最低条件。さらに、小さな神様に確実に出会えるような、運命的な因果を持っていることを条件としました。
そして『神様』は小さな神様たちを2つに分けて、世界を滅ぼす災厄となる方を『伝説』とし、もう1つを「運命的な因果が無ければ出会うことが出来ない」という『幻』としました。
他にも『神様』は危険性を思いつきますが、世界の容量をギリギリまで使い切っても、予防させるのはここまでが限界です。
そして、このルールは正しく機能しました。
世界に危機は何度も訪れましたが、それは『優れたる操り人』たちの手によって必ず解決し、それ以外に破滅の要素は起こりません。
そんな世界を『神様』は嬉しそうに眺めていました。
ですが……
ある年、とんでもないことが起きました。
なんと、世界のあちこちに『優れたる操り人』に分類されるような『人間』が一斉に生まれたのです。
それ自体は、別に問題ありませんでした。
しかし、その『優れたる操り人』たちは『神様』ですら理解できない「おかしさ」があったのです。
その「おかしさ」とは――その『優れたる操り人』たちは、性別が異なる2つの可能性のうちの片方だけが生まれたのです。
そして、もう片方の可能性は、
生まれなかった彼ら彼女らは「
生まれることできていない以上、ソレらは死んだ訳ではないので『ゴースト』タイプにもなれません。
魂すらない、霧散するだけのナニカでしかありませんでした。
しかし、ソレらは『優れたる操り人』となる条件を満たしていました。そしてソレらの持つ『幻』との因果が存在を証明することとなり、霧散することを許しません。
消えることもできず、生まれることもできないソレら、自然と『人間』が存在しない場所を目指すようになりました。
その結果、ソレらは1つの無人島で出会います。
そしてその時、ソレらの持つ『幻』との因果が合わさり、本来この世界で出会う筈だった者のもとではなく、ソレらのもとに『願い事』が現れたのです。
『願い事』は、3つまでなら願いを叶えることが出来る力を持っていました。
なので『願い事』は1つ目の願いとして、ソレらの「生まれたい」という願いを叶えたのでした。
いつかの後書きで作者は
『自分がこの世界に「いらない」とされていることに気づいたら、皆さんは耐えられますか?』
と書きました。
では「いらない」としたモノは、いったい誰だったのでしょう?