バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
色々ありましたが、なんとか戻ってきました。
本日より投稿再開します。
前回までのあらすじ
バトルフロンティア 7つ目の施設であるバトルピラミッドを突破し、先輩と慕うガラル地方チャンピオンの提案からホウエンの地を後にすることを決める。
だが、フロンティアブレーンとの激しいバトルによって熱中症で倒れてしまった間に、俺は1日1回の定期便を逃してしまった。
そして1日手持ち無沙汰になってしまった俺は、エニシダさんの頼みにより新しくバトルフロンティアに造られる8つ目の施設のテスターを行うことに……。
それは新たなフロンティアブレーンとなる予定のレッドさんの対策の為、そしてバトルフロンティアに招待してくれたエニシダさんへの恩返しの為だった。
そして新たな施設の建築予定地であるバトルフロンティア地下にある洞窟『アトリエのあな』を進んでいると、不意にポケモン世界の創造主である アルセウス からの招待(拉致)により『なぞのばしょ』に飛ばされることになる。
そして アルセウス から迫られる究極の2択
『もとの世界に帰る』か『このままポケモンの世界で生きて行く』か……。
もとの世界に帰れば、ラティアスたちは消滅する。
このままポケモンの世界で生きて行けば、目覚めを待っている両親には2度と会うことは出来ない。
どちらかしか選ぶことは出来ない。
だが、どちらかを選ぶということは――もう片方を諦めるということ。
その選択は、他の誰でもない俺が決めなくてはならないという、今世で最大のターニングポイントだった。
「だったんだけど、なぁ……」
『過去回想で状況を理解しようとしているところ良いかな?』
そう俺に話しかけてくる相手は、ニコニコと笑っていた。
「状況が2転3転して正直、訳わかんないだけど……というか、きみ誰?」
そう俺が尋ねるが、聞かれた当人は笑顔のままこちらを見つめるだけで返事をしない。
その相手と自分の立ち位置は、ちょうど先程まで対面していたアルセウスとの距離と同じぐらいだった。
そんな相手は、笑顔のままで此方を見ているが、こちらは状況が突然変わったために脳の理解が追い付かない。
だから、見たままの事実を伝えることにする。
その相手の顔は、良く知っていた。
だって――――その顔は、今世の自分と同じ顔なのだから。
白髪の自分と違い、相手は黒髪ではあったが、それ以外には違いらしい違いが無い。先程から発している声音も自分と全く同じである。まるで格闘ゲームの2Pカラーのようだ。
そんな色違いの自分が、こちらに笑いかけているのである。恐いとか以前に、理解ができない。
「さっきまで此処に居たアルセウスが、気が付いたら消えていて……代わりに君が現れた――――できれば、状況を説明してほいんだけど?」
俺は、自身と同じ姿をした目の前に居る謎の人物に話しかける。説明口調になっているのは、未だ混乱している自分を落ち着ける為だ。
本当に先程まで、目の前にアルセウスが居たのだ。
だと言うのに、気が付いたらアルセウスの姿は忽然と消えており、代わりにこの色違いの自分が立っていたのである。
少なくとも、目の前に居る人物が無関係ということは無いだろう。聞いたところで、答えが返ってくるとは思わなかったが―――その予想は裏切られた。
『ん~? あのまま、あの場所に居るのは危険だったからね。こっちに呼び寄せることにしたんだ。まぁ、了承も得ずに連れてきたことは謝るよ。ごめんね?』
ようやく返事をしたと思ったら、そんなことを話し始める色違いの自分。一応、謝罪をしてくれているようだが、その笑顔は一切崩れることが無いため、ソレが本心か建前かは分からなかった。
『そして『僕』が誰か、だっけ? う~ん……『僕』も君と同じで名前が無いから、名乗れないんだ。
まぁ、君は「シロちゃん」って呼ばれているんだから、『僕』は「クロくん」とでも呼んでよ』
「そんな安直な……」
答える気が有るのか無いのか、中途半端な回答に思わずそんな言葉が漏れてしまう。
『そうかい? まぁ、呼び方なんて好きにすればいいさ。
とにかく『僕』は、君に死なれたりすると困るから、あの『なぞのばしょ』から君を此処に連れてきたんだ』
「…………ちょっと待って? その言い方だと、此処は『なぞのばしょ』じゃないの?」
視線だけ動かして周りを見るが、どこに視線を向けても黒一色である。どう見ても、此処は『なぞのばしょ』としか思えない。だが、目の前の人物はそんな俺の疑問にあっさりと答えた。
『そうだよ? 『なぞのばしょ』は、どこにも存在しない場所であり、逆説的にどこにでも行くことができる場所だ。ってアルセウスに言われたでしょ?
だから『僕』は、その性質を利用して君をこっちに呼び寄せたんだ』
そんなことを言われた。
空間転移という人外の行為を、目の前にいる人物は何でもないかのような軽い調子で答えたのだ。少なくとも、自分が相対しているのは、そういうレベルの存在のようである。
見た目は人間に見えるが、実際には人間よりも上の存在なのだろう。
アルセウスといい、コイツといい。短時間で何度も空間移動させるなどという超常現象を起こされるこちらの身として堪ったものではないが……。
『ちなみに今頃向こうは、文字通りの地獄絵図になっているよ』
「………はい?」
新しくもたらされた情報に、俺は再び疑問符を浮かべてしまった。
『さっき言ったでしょ? あの場所が危険だから君を呼び寄せたんだよ。今頃向こうは『伝説』『準伝説』『幻』のポケモンたちによる大乱闘になっているんじゃないかな?
…………………。
いやいやいやッ!
待て待て待てッ!!
いろいろ言いたいが……この世界に『伝説』や『幻』が複数居るのは知っているけど、アルセウスが複数居るのはどう考えてもおかしいだろッ!?
第一ここに来る前にアルセウスから聞いていた説明だと、アルセウス クラスのポケモンは誕生しないんじゃなかったのかッ!?
『それは
あっ、そうなんだ……。
と言うか、アナタも当たり前のように俺の考えていることを読めるんですね……。
『まぁ、『僕』は君だからね』
………………………。
………そうですか。なら困惑しまくっている俺が今、疑問に思っていることにも答えていただけませんかね?
あなたはどういう存在なんですか? そして『なぞのばしょ』じゃないなら、真っ黒な此処はいったい何処なんですかね?
『質問が多いね。少しは自分で考えてほしいんだけど……少なくとも、君は何度もこの空間には来たことがあるだろ?』
は?
此処に何度も来たことがある?
いや、こんな真っ黒な空間を『なぞのばしょ』以外で見覚えなんて……………。
―――――ッ!?
「えっ? いや、まさか……」
相手の言葉を聞いて記憶を掘り起こしてみると、確かに此処と似たような空間の存在に思い当たる場所がある。
―――だがッ!
そんなことが……ありえるのか?
『そうだよ。君が考えていることで正解だ。
ここは、君の精神世界さ。
夢で何度も来ているだろう? たしかに見た目は『なぞのばしょ』と似ているけど、ここは間違いなく君が夢で見ていた精神世界だよ。
そして、夢の中で自分と同じ声をしている。自分じゃない誰かに心当たりは、あるんじゃない?』
「―――まさかッ!?」
俺は、その言葉を聞いて目を見開いた。
それは、つい最近見た夢の内容であり。目覚められない暗闇の中で、現実に戻るための道標をしてくれていた存在。
「あの、真っ白な画面から話しかけてきた謎の声ッ!?」
『せいか~い♪
まぁ、正確には『僕』じゃなくて『私』なんだけど……たいした違いじゃないね。
ご褒美に君のボールに掛けられた封印を解いてあげるよう』
突然そんなことを言うと同時に、パンッ! と小さな音を立てて両手を合わせるように叩く。すると、俺の持っていた3つのモンスターボールが同時に開き、ラティアスたちが現れた。
「ひゅあん!」
「ヤー!」
「べのめのん!」
「ラティアス! カミツルギ! ウツロイド! よかった……」
ボールから出てきて抱き着いてきた3匹に、俺も抱きしめ返す。
ほんと……アルセウス にボールをロックした、って聞かされた時は心配で仕方なかった。でも、こうしてちゃんと出てきてくれて本当に良かった。
……………………………………………ちょっと待て
「ねぇ? 謎の声さん」
『なんだい? 可哀想な泣き虫さん』
夢の中での呼び方をしたら、相手も同じように夢の中での呼び方で答える。だが、思考を読める相手にそんなことは気にするだけ無駄だ。
「ここって俺の精神世界なんだよね? ………なんでラティアスたちが居るの?」
仮に、この真っ黒の空間が夢で見ていた精神世界だったとしたら、現実に居る筈のラティアスたちまで此処居るのは変だ。
そんな明らかにおかしい矛盾に気づいて薄ら寒いものを感じ、問いかけてみる。
『いや『僕』の話を聞いてた? 『なぞのばしょ』は
当然、個人の精神世界にだって繋がっているんだ。現実の肉体ごと連れてくることぐらい何の問題も無いよ』
だが、俺の疑問は呆れ顔をした謎の声さんにあっさりと返された。
「あぁ、そうなんだ……」
その答えに、どうやら真面目に考えるだけ無駄になるような非常識の世界にいることを知り、俺はそう言うしかなかった。
「とりあえず、ラティアスたちに掛けられたロックを解いてくれてありがとう」
『どういたしまして♪』
そうニコニコを笑っている謎の声さん……もとい『クロくん』は、満足げな返事をしたのだった。
『さて、それじゃあアルセウスがしていた話の続きをしようか?』
「はい?」
そして仕切り直しと言わんばかりに話を進めようとするクロくんの言葉に、俺は呆けた声を漏らした。
『いや『僕』が会話の途中で君を連れてきちゃった訳だし……ソレにぶっちゃけて言うと、アルセウスの説明は抽象的過ぎて分かりにくかったでしょ?
君と違って『僕』は君の事情を知っているからさ、アルセウスの代わりに『僕』が説明してあげるよ。少なくとも向こうは、そんなことできる状況じゃないしね』
「ナニソレ……」
そんな言葉しか出てこない。
確かにアルセウスの説明は分かりにくかったというどころか、なんとなくしか理解することは出来なかったが……それでどうしてクロくんが代わりに説明することになるのだろうか?
いや、というか……
「さっきからアルセウスが居る『なぞのばしょ』が地獄絵図になっている、って言ってるけど、なんでそんなことになっているの?」
『それはアルセウスが言っていた世界が滅ぶ
とは言っても、こっちも結構長い話になるから落ち着いて聞いてね?』
「あっ、はい……」
取りあえず、自分の置かれている状況を正しく把握する為に、俺は話を聞くことに注力することにした。
◆
その頃、何もない空間の筈である『なぞのばしょ』では世界の終焉のような地獄が広がっていた。
原始の生命のコピーが念動力によって空間を揺さぶる。
海の神が羽ばたくたびに、止むことのない嵐を巻き起こす。
虹色の鳥が途絶えることのないエネルギーを他のモノたちに供給し続けている。
大海の王が吠えることで、水一滴なかった筈の『なぞのばしょ』に津波が起こる。
大陸の帝が足踏みすることで、存在しない太陽の光が降り注ぎ、黒い地面が土に変化して地割れが起こる。
裂空の覇者が叫びをあげることで、黒い空が蒼く染まり、無数の流星がアルセウスに目掛けて襲い掛かる。
時間と空間と反骨を率いた創造神が、壊れそうになる『なぞのばしょ』の空間が崩壊しないように維持・修復しながら、絶対にアルセウスを逃がさないように空間の支配を進めている。
真実と理想の龍を取り込んだ虚無の龍が『なぞのばしょ』そのものを凍らせようとしている。
生命の鹿が森を生み出し、破壊の鳥が石化の光を放ち、秩序の蛇がアルセウスを地へ落そうとする。
太陽と月の化身を共に吸収した光の龍は、天を焦がす滅亡の光を放つ。
巨大な黒い腕が空から閃光を放ち、剣を咥えた犬が切りかかり、盾をなった犬が突撃してくる。
2匹の馬を手綱で操る豊穣の王が、氷と霊体のランスを飛ばしてくる。
そんなモノたちの陰に隠れて、他にも存在する無数のポケモンたちが全力で戦闘することで、まさに『なぞのばしょ』は地獄となっていた。
本来相容れないモノ同士も居た。だが、今この場ではシロと話をしていたアルセウス以外の全てが同じ思いの元に背中を預けて団結していた。
その理由は―――怒りだ
怒り怒り怒り
それは止まることのない憤怒であり、静まることない恩讐の炎
許さない許さない許さない―――貴様だけは絶対に許さないッ!
アルセウスゥゥウウウウウウウウッ!!!
彼らは怒り狂っていた。
この世界を生み出したアルセウスに、消えることのない怒りを内に秘めて彼らは襲い掛かっていく。
《お前たちの怒りは正当なモノだ……これは私が引き起こした事態であり、お前たちに何一つとして落ち度はない》
そんな怒り狂う彼らを見て、アルセウスは唯々事実を告げる。
そして―――
《いくらでも私を恨むがいい。憎むがいい。怒りをぶつけてくるがいい。
それでも―――この世界の為に、死んでくれ》
その宣告と共に、アルセウスの頭上にエネルギーが集まり、そして―――
《裁きを受けるがいいッ!》
集まったエネルギーは一度空へ打ちあがると、隕石のごとくアルセウス以外の全てのポケモンに降り注ぐ。
そんな
だが―――
《さて。全てを終わらせるまで、このアバターは持つだろうか?》
今の一撃で、技の届く範囲のいた殆どのポケモンが殲滅された。
しかし、その奥には未だに無数の『伝説』が『準伝説』が『幻』が、アルセウスを睨んでいる。その総数は間違いなく、億は下らないだろう。
圧倒的な力を見た筈だ。
姿は同じアルセウスであったとしても、こちらのアルセウスは世界の外側に居る本体のアルセウスからバックアップを受けており、アバターのアルセウスにすら届かない彼らでは勝ち目がない。
このアルセウスに挑むことは自殺と同義であると、この場に居る全てのポケモンたちが理解している。
だが、そんなことは関係ないッ!
たとえ端末であろうが、分霊であろうが、アバターであろうが、この世界を創造したアルセウスに一矢でも報いなければ、腹の虫が収まらない。
彼らが抱いているのは、怒りだ。その事実を、アバターであるアルセウスは理解している。
アルセウスは、その理由を知っているから。
彼らがどういう存在で、なぜ自身に怒りを向けてくるのか知っている。
故に、己が決着を付けなくてはならない。
そう思って、もう一度「さばきのつぶて」のエネルギーを集めようとしたところで―――
―――バキャアアアアアアアアアンッ!!!
まるで頑丈なガラスが砕けるような音と共に、空間が割れた。
「キャアアアアアアアッ!?」
「………」
そして、その空間の割れ目から1組の人間の男女が落ちてきた。
「うべッ!?」
「………(スタッ)」
そして落ちてきた人間の内、女の方は顔面から地面に落下し、男の方は何事もないように着地した。
「ちょっとレッドさんッ! いきなり空間を砕かないでくださいッ!?」
「………」
そして全身を強打した筈の女が何でもないかのように起き上がると、男の方に抗議をし始めた。
「というかッ! ポケモンを使わないで殴って空間を壊すって、どういう腕力しているんですかッ!? 知り合いから人外扱いを良くされる私でも無理ですよッ!?」
「………」
女の方はいろいろ言っているが、男の方は無口無表情のままで何一つ反応を示さなかった。
「まったくッ! それで、いったい此処はど……こ…」
「………」
ようやく周りを確認し始めた女が、周囲を意識し始めると、その怒りを向けてくる無数のポケモンたちに気づいて、言葉を詰まらせる。
「あ、あれ? これってもしかして……いわゆる
「………」
女は冷や汗を流しながら顔を引きつらせるが、男の方はまったく変わることなく涼しげな表情をしていた……いや、やっぱり無表情だ。
そして想定外の乱入者が現れたことで、アルセウスは困惑し始めるのだった。
―――どうしよう? こいつら……
男の方はともかく、女の方は完全に足手まといだった。
謎の声さんのこと覚えている人いるかな?