バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
瓜二つの別人が出会えばどうなるか、さて……。
そんな事実は無かった筈だ。
そんな可能性は無かった筈だ。
ソレでも……そんな彼女の「if」は存在してしまった。
お前たちが選んだくせに、お前たちが導いたくせに……。
勝ち過ぎた彼女は罪悪感を抱いている筈だと、在り得ざる未来をお前たちが生み出した。
彼女が恨みをぶつける相手は、他でもないお前たちの筈だ。
だが、主人公は所詮、プレイヤーのおもちゃでしかない……。
主人公に自由意志などない。
プレイヤーの設定どおりに、自身を恨む……
まだ彼女には、最後に1つだけ……守りたいものが残っているから。
◆
「長いよ! 長すぎるよッ! それでもって、どこが大団円なんだよッ!」
俺は色々な感情がごちゃ混ぜになりながらも、とりあえず一番に思った感想を目の前のクロにぶちまけた。
「いろんな世界を巻き込んで、エネルギーになって消滅したポケモンたちはッ!? その世界の人たちはッ!? 助かってるの別世界の主人公とリーフだけじゃんッ!? 全っ然、大団円じゃないよッ!」
『そこで、自分が消滅することに対して言及しない。ホント、そう言うところだよ君……』
叫ぶ俺とは対照的に、クロは溜息を吐くだけだった。
『まぁ、確かに大団円は言い過ぎたかもね? 世界を統合した時点で、消滅した人やポケモンは戻って来ない。精々が「ビターエンド」ってところかな? だからと言って『僕』たちじゃあどうにもできないけどね……』
「えぇ……」
指摘をアッサリと認められて、俺は拍子抜けしてしまった。
『実際『僕』もそう思ったよ? ナニカを救うためだからって、他のナニカを殺すなんて本末転倒もいいところだ。
でも『主人公』に倒されるのは、そう言う『間違った奴』の方が望ましいのさ。
自分が、この世全ての悪となって倒されることで、世界が一致団結して平和になる筈だッ! とか。そんな感じの奴がね?
元の世界では無理かもしれないけど、この世界のルールだと本当に出来てしまう分、
そんなことを言うクロくん。
よく見ればその顔は、いろいろな思いを顔に浮かべていた。
怒り、
鏡に映るたびに見てきた自分は、その表情をよく知っていた。
『それで? 『僕』が言いたいことは殆ど言い切ったけど、君はどうする?』
「いや、どうするって……なにが?」
質問をするのなら、主語を入れて欲しい……。
『アルセウスの質問に答えを出せば発狂する以上、それは後回しだ。でも、このままでいる訳にもいかない。それぐらいは分かるよね?』
「それは……そうだね」
アルセウスの質問に答えを出さなければ、この停滞した現状から抜け出すことは出来ない。だが、答えを出せば発狂の後に死ぬという。
本当か嘘かは分からないが、仮に本当だったとすればそんなのはゴメンだ。
『だからさ。現状を打破しなくちゃいけない、ソレをする覚悟はある?
無いのなら、君に待っているのは死だけだ。だからと言って、未来を掴み取るためのバクチに挑戦する覚悟が君にはあるかい?』
「……いや、ソレ選択肢無いよね?」
俺は苦笑いではあったモノの、どこか心が落ち着いていた。
以前までの俺ならば、そんな現状を教えられたところで立ち向かう勇気はなかっただろう。
失敗すれば死ぬ。
単純ではあるが、俺が何よりも恐れるもの。
死ぬのは怖い。
自分にしかできないことだとしても、目を背けて逃げ出してしまいたい。
でも今は……今は生きるために頑張ろうと思っているのだ。
先輩と出会って、約束してもらったんだ。
もう いい加減、逃げるのは疲れたんだよ……。
『あ、そう……。
まぁ『僕』としてはそっちの方が都合がいいけど……ホントどういう精神構造しているんだか』
何やら考えていることを読まれたうえで、呆れられてしまった。
「それで? 具体的には、どうすれば現状を打破できるの?」
『君が現状を打破する方法――それ自体は単純だよ? ……『運命』に打ち勝つ、これだけ』
おぉッ! なにやらカッコイイ響きッ!
『盛り上がっているところ悪いけど。今のままだと、可能性で言えば「
なんせ『運命』に勝つってことは、プレイヤーに干渉されている主人公――つまりレッドさんに勝たなきゃいけない、ってことなんだから………』
アバーッ!?
『君のポジションを「ポケットモンスター赤」で例えるのなら『サカキ』だよ。
少し前にバトルアリーナで戦ったのは、ゲームで言うところの「シルフカンパニー」でのバトルに該当するね?
そして君は、これからトキワジムで戦う『サカキ』の位置としてレッドさんとバトルしなくてはならない。
ゲームでは何度敗北しても、世界がリセットされて何度でも再戦できる。
それが、この世界ではどういう意味か分かるかい?
『運命』そのものが君を負けさせるように動いているということだ。
つまり、君以外の世界全てが敵になる。
トレーナーやポケモンだけじゃない、文字通り『世界』そのものが君の敵だ。
最後にもう一度だけ確認するけど、本当にバクチをする覚悟はある?』
「やらなきゃ死ぬんでしょ? だったら、やるよ……」
正直、世界が敵になるとか想像がつかない。でも、勝利条件がレッドさんにバトルで勝つこと、って言うのが絶望的な難易度なのは理解できる。
アレは無理だ。絶対に勝てない。強いとかそういう次元ではなく不可能。
そうとしか思えない存在だ。
でも……
―――それがなに?
それを理解した上で、かつての俺はレッドさんに勝つことを目標に置いていたんだ。そこに躊躇う理由なんて、何一つとしてありはしない筈だ。
『そうかい……まぁ、威勢はいいのは良いことだ』
そう言ってクロは、具体的な計画を話し始めた。
『とにかく君は、これからやってくるレッドさんにバトルを挑んで勝てばいい。
プレイヤーである以上、本来なら絶対に勝てない相手だけど。逆に言えば、勝つことさえできればシナリオは破綻する。
そうすれば、ジラーチが干渉した因果の影響が少なくなって『僕』が、その身体により干渉しやすくなるんだ。
あとはこっちの仕事。君の身体に仕掛けられている発狂のトリガーを解除して計画は完了だ。
あとはアルセウスの質問に答えて、もとの世界に戻るか、この世界に留まるか、好きに決めなよ』
「あっ、そっか……そっちもあるんだった」
俺は、そばにいるラティアスたちを見る。
結局そこだけは、俺が決めなければいけない。もとの世界か、ラティアスたちか、その結論だけは自分が決めなければいけないことなのだ。
『今、レッドさんがこの場所を目指して向かっている。
レッドさんとバトルをするのなら、今回を逃す手は無い。
それと言うのも、もとの世界にある君の身体が、そろそろ点滴だけだと限界なんだ。
もとの身体が死んでしまえば、魂の繋がりが途切れてアルセウスでも見つけられない。そうなれば君の選択肢が1つになって答えが出てしまう。つまり発狂してゲームオーバーだ。
選択肢を残したまま、現状を打破できるのは今が最初で最後のチャンス。
だから、レッドさんが此処に到着するまで『僕』が模擬戦相手として、君を限界まで鍛えるから、今すぐに準備して』
その言葉に俺は、いつでも問題ないという意味を込めて頷く。すると―――
―――ぐちゃッ
突然、そんな音と共にクロの姿が真っ黒に変色すると、泥のように崩れ落ちた。そして―――
『う~ん。流石に完全再現はできないか……』
「……は?」
もう一度、真っ黒な泥が地面から迫り上がってヒトのカタチに固まると、そこには少しだけ黒ずんだレッドさんの姿をしたクロがいた。
『あのバグチュウの再現は無理だけど、模擬戦ならコレで十分か……』
そう言ってクロは、いつの間にか持っていた真っ黒なモンスターボールを投げた。
「グォオオオオオオオオオッ!!!」
「ガメェエエエエエエエエッ!!!」
「バァアアアアアアアアナッ!!!」
そして、そのモンスターボールから、不自然な模様のついたリザードン、カメックス、フシギバナが姿を現し、咆哮を上げる。
いや、ちょっと待て………あの模様。
「コピーポケモンじゃねーかッ!?」
ソレは、ポケモン映画の第一作である『ミュウツーの逆襲』に登場した。リザードン、カメックス、フシギバナのコピーポケモンと同じ模様をしていた。
『あくまで再現だけどね? これは並行世界で、こんな手持ちを持っていたかもしれないッていうプレイヤーに創られた「if」のレッドさんの手持ちだよ』
そんなことを言われて、俺はその言葉の意味を考える。
プレイヤーに創られた
即ち妄想や憶測によって生まれた世界のことではないだろうか? と。
例えば第二世代で登場したレッドさんには、とても有名な都市伝説があった。もしかしたら、並行世界には実際にそういう世界があったのかもしれない。
おそらくクロが再現しているというのは、そんな風に何かがズレた並行世界でのレッドさん姿なのだろう。
『今、向こうで『俺』と『私』がレッドさんたちを足止めしているけど、正直どれくらい持つか分からない。
だから此処からは、ひたすら『僕』と模擬戦だ。
安心して? ここが『僕』たちの精神世界である以上「ひんし」になっても、すぐに回復できる。だから限界まで続けるよ。
でも―――模擬戦だからって油断しないでね?
なんたって今の『僕』の姿は、統合される前にあった1つの並行世界で、実際にバトルフロンティアのフロンティアブレーンをしていたレッドさんと同じモノなんだから。
さぁ、いくよ?』
その言葉と共に、レッドさんの姿をしたクロのポケモンたちは、メガシンカの光に包まれた。
◆
「レッドさーん! レッドさんどこですかー!」
私は真っ黒な空間の中で叫ぶように呼び掛ける。
しかし、その声に返事はなく。ただただ私の声が広い空間に響き渡るだけだった。
「いや。というかレッドさんだと、聞こえても返事しないか……」
そう思い直して、私は叫ぶのを止める。
レッドさんは無口だ。それも筋金入りと言っていいほど、何もしゃべらない。たまに喋ることがあっても「はい」か「いいえ」など、どこか機械的な反応ばかりで、正直本当に人間か分からなくなる時すらある。
「うぅ……まさか、遮蔽物もないこの空間で、はぐれることになるなんて……」
ここは真っ黒で、ただの広いだけの場所だった。それなのに行き先が分かるというレッドさんに、私はピッタリと後ろに着いて行った筈なのに、比喩ではなく本当に
「はぁ……もう自分で探そう……」
文句を言ったところで仕方ない為、私はこのまま真っ黒な空間を歩き続けることにした。しかし、どれだけ歩いても景色は変化せず、もはや自分が本当に進んでいるのか分からなくなってくる。
「なにか……少しでも手掛かりになりそうなものがあれば……」
そう思っていた時だった。
―――チクタク チクタク
そんな、まるで時計が秒針を刻むような音が
「?」
なんの音だろうと思う。そして、どういうことだろうか? 私の足は、まるで吸い寄せられるように、その音が鳴る方へ進んでいった。
一歩、二歩、三歩。
少しずつ。しかし、確かな足取りで。私は真っ暗な世界の中、前々へと進んでいく。
―――すると
「―――ッ!?」
突如として、世界が光に包まれた。そのあまりの眩しさに、私は腕を交差させて視界を塞ぐ。
「一体、なにが……」
しばらくすると、徐々に光が収まり始める。そして、ようやく目を開けらるほどの光量になると、そこは先程まで居た真っ黒な空間とは全く違う場所になっていた。
「大きな……時計?」
そこにあったのは巨大な時計だった。先程から聞こえていたチクタクという音は、この時計から鳴る音だったらしい。
そして周りはまるで、どこかの建物の屋上のように天井が無く、吹きさらしになっていた。
「………なんだっけ? 旅行先のどこかで、こういう建物があったような?」
巨大な時計の文字が反転し、秒針が本来の動きとは逆に回転していることで、まるで時間が巻き戻っているような錯覚に陥る。
…………いや、これは単純に時計を見る方向が逆なだけだ。ということは此処は
「時計塔?」
「メェ~」
「えっ?」
突然、私の耳にとても聞き馴染みのあるポケモンの鳴き声が聞こえた。その声がする方に目を向ける。するとそこには―――
「メェ?」
ポケモンのウールーが居た。
見たところ、レベルは3ぐらいだろうか? そして持ち物として「かわらずのいし」を持っている。
レベルとしては野生でもおかしくないが、このウールーは野生のポケモンではなさそうに見えた。
「メェ~!」
「あっ、まってッ!」
私が居たことに気づくと、ウールーは私が居るところから反対に向かって走り始めた。私は「まって」とは言いつつも、先に視線をウールーが走っていく方向に向ける。
すると、そこには先程までは確かに居なかった筈の人影があった。
「メェ~」
『よしよし』
「―――えっ?」
その人影は、甘えるように鳴くウールーを撫でると、優しく微笑んだ。
だが、私はその人物の姿を見た途端、予想外のあまりそんな声を漏らしてしまう。
「私?」
『いいえ『私』です』
そこに居たのは、私がチャンピオンとして仕事をしている時の姿をした私だった。
ユニフォームの上に、ガラル企業のロゴマークが刺繍されたマントを羽織っている。正直、はたからその自分の姿を見ると、似合ってない感が半端ないと思った。
『お久しぶりですねユウリさん。『私』のこと、覚えていますか?』
「えッ!? あっ、えっと……えぇ?」
突然、お久しぶりと言われて私は戸惑ってしまった。どうやら相手は私と面識があるらしいが、私には思い当たる人物が居なかった。
正直、瓜二つとしか言えない相手の姿に、親戚の誰かだろうか? と記憶を掘り起こすが、流石にここまで似ている人物は思い当たらない。
『あれ? もしかして……忘れてしまったんですか? 私が似ているから、って偽物扱いしたのに? それはちょっと、酷いですよユウリさん……』
「えぇッ!? ま、待ってッ! ごめんなさいッ! でも本当に覚えがないんですッ!」
『当然です。ユウリさんの記憶は『私』たちが消したんですから』
「――――はぃ?」
慌てて謝ると、予想外の返答にそんな返事をしてしまう。
『まぁ、そんなどうでもいいことは置いといて』
「どうでもよくないよッ!?」
なんか、とんでもないことをサラッと言われ、更にどうでもいい発言されたために思わずツッコミを入れる。
『どうでもいいことですよ。だってユウリさんには、ここから退場していただくのですから』
「―――ッ!?」
その言葉共に、この場における空気が変わった。
それはまるで、あのバトルピラミッドでダークポケモンになっていたラティアスと対峙していた時のような感覚だ。
すなわち、殺気。
あの時のように膝をつくほどの殺意ではないけど、それでも空気が重く感じるような空間だった。
『ふふっ……どうしてこんなに殺気を向けられているのか? あなたには、理解できないでしょうね………』
私の姿をしたダレカは、こちらに視線を向けることもなく。ただ淡々とした口調で、言葉を紡いでいった。
『幽霊のようになり、誰にも触ることも、話すこともできない状況というのは……』
『自分の「おかあさん」が。自分と同じ姿をした、知らないダレカと話している光景は……』
『幼馴染が、友達が、ポケモンが。ずっと一緒に居た仲間に無視されるのは……』
『自分の居場所が無いことを見ているしかないのは……』
『最後には、自分が自分だと分からなくなるような恐怖が……貴女には、分からないんでしょうね』
「いっ……たい………な…んの」
はなしだ―――そう言おうとした。
だが、そこまで声を出したところで、さらに殺気が強くなり、私は強制的に口を閉じてしまう。
『……ええ、理解してもらおうなどとは思っていません。どうせ、何を言ったところで只の八つ当たりですからね』
腕を振る動作に、羽織っていたマントが広がる。
『この姿になったのも、そういう「if」の『私』が混ざった結果』
それは、ガラル地方チャンピオンとして申し分ない威風堂々とした姿だった。
『もう『私』たちには、あの子しかいない。あの子以外に、もう何1つとして残っていない』
だが、同時にその姿は―――
『それなのに……貴女たちは、そんな『私』たちの最後の希望を……』
あまりにも―――痛々しくもあった。
『世界で……ただ1人だけ『私』たちに気づいてくれたあの子を奪おうとしている』
淡々と話していた声が、徐々に震え始める。
『分かってる……分かってるんです……『私』たちと一緒に居たら、あの子は幸せになれない』
瞳から涙がこぼれ落ちる。何粒も、何粒も……。
『でも……言わずにはいられない』
充血する目から、それでも怒りが抑えきれないとばかりに
『叫ばずには………いられないんですッ!』
泣いていた――――――――悔しくて堪らないとばかりに
『もう……『私』たちに関わらないでッ!』
まるで、子供の癇癪だった。
『あの子には
「グギュグバァッ!!!」
『いらないイラナイ要らないッ!
そんな叫びと共に、どこかから現れた時間の神であるディアルガが咆哮を上げる。
『消えてよッ! こっちに来ないでよッ! お願いだからッ! これ以上『私』たちから奪わないでよッ!』
まるで、その小さな身体にナニカ――
1人では抱えきれないほどの大きなナニカを背負わされ、全てを失った――
『消えちゃえ消えちゃえ消えちゃえッ! オマエたちなんか、みんな消えちゃえッ!!』
幼い少女が泣きじゃくる姿が、そこにはあった……。
『
世界が暗闇に包まれる。
巨大な腕が、姿を現す。
『ムゲンダイナァァァァァァァァァァァッ!!!』
ブラックナイトが始まった。
■■■■■■の 「」ウリが
勝負を しかけてきた!