バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
おまえの ポケモン しんだのか?
誰もが口を揃えて言っていた。
彼が最強だと、彼こそがこの世界の頂点だと。
皆がみな、そうであると思い。そうであると願っていた。
しかし、彼は決して最強ではなかった。
彼が最強だったのは、お前たちが導いたからだ。
彼がどれだけ強くても、お前たちは戦いを繰り返し、いずれ彼を越えてしまう。
それでもお前たちは、彼が最強であることを望んでいた。
その理由を探して、根拠を欲して。お前たちは、彼を最強の存在に仕立て上げたのだ。
そして同時に……。
彼という存在が居る理由を……。
「if」の彼という可能性を……考えてしまった。
もしかしたら、彼が死んでいる言う可能性を……。
無口なことをいいことに、彼が幽霊かもしれないと、思ってしまった……。
…… …… ……
…… …… ……
◆
ラティアスが倒される。
『ほら、もっと集中して。思考を止めない、新しい異常を見たらすぐに対処するんだ』
あっけなく、何が起きたのかも分からないまま「ひんし」にされる。
カミツルギが倒される。
『迷っちゃダメだよ。指示が一瞬遅れれば、不安がラティアスたちに伝わっちゃうんだから』
気づいたら罠に嵌められて、抵抗することもできずに「ひんし」にされる。
ウツロイドが倒される。
『だからと言って1手たりとも間違えちゃダメだ。1つ失敗すれば、その時点で君は敗北する』
強すぎる攻撃を受け流すことが出来ずに、そのまま押し切られて「ひんし」にされる。
届かない。縮まらない。追いつけない。
そのあまりにも圧倒的な力の差に、何度目か分からない敗北をする。
『はーい。ラティアスたちが回復するまで反省会だ』
俺が回復を促す為にラティアスたちをボールに戻すと、クロは呆れ混じりに話しかけてきた。
模擬戦を始めてからずっとコレだ。
バトルして、負けて、問題点を指摘されて修正。
バトルして、負けて、問題点を指摘されて修正。
確かにバトルをする時間は再戦するごとに伸びているが、ソレは微々たるものであり、未だ1体目のフシギバナを突破出来ていない。
レッドさんを倒すための特訓なのだからハードなのは分かっているが、正直あと何回バトルをすれば勝てるのか皆目見当がつかない。
『そりゃそうだよ。なんたって、不可能なことを成し遂げるための特訓なんだから』
相変わらず、こちらの考えていることは筒抜けらしい。そして、そんな風に頭を悩ませている俺に、さっさと気持ちを切り替えるように促してくる。
確かにクロが言っていたことが確かであれば、自分が敗北することは死ぬことなのだから手が抜けないのは分かる。
分かるが……心の中で不満を漏らすぐらいは見逃して欲しい。俺は自身はともかく、ラティアスたちが傷ついて倒れている姿を何度も見せられるのはツライのだ……。
だがそんなことを思えば、クロは飽きれるように首を振る。
『何度も言っているけど。今の『僕』は、フロンティアブレーンとして戦っていた並行世界のレッドさんを再現しているんだよ?』
そう言うクロの姿は、確かに黒ずんではいるモノのレッドさんと同じだった。
正直、レッドさんが言葉を発している姿は違和感しかないけど。
『確かにレッドさんは無口だけど……ソレ以前に、プレイヤーに干渉されている主人公は自分の意思で話せないんだから当たり前だよ』
その言葉を聞いて、俺はクロから聞かされたやたら長い説明を思い出す。
プレイヤーという名の『運命』に干渉された主人公は、操り人形のようにストーリーが終わるまで一切の自由を奪われるという話。
確かにゲームでは、主人公はプレイヤーが動かしているのだから、操り人形と言ってもおかしくはないが、現実で考えると恐ろしいどころの話じゃない。
この世界は現実ではあるが、ゲームとの辻褄合わせのように妙なルールが存在しているのは本当なのかもしれないのだ。なんせ、ポケモンという不思議な生き物が蔓延る世界。どんな常識外れの出来事が起きたとしても在り得ないとは言い切れないのである。
『って、そうじゃないよ。『僕』が言いたいのは、今の再現しているレッドさんは
分かる? 手加減している状態の再現なんだよ。こんなところで躓いている時間なんて無いの』
その言葉を聞いて、俺の気持ちは更に落ち込んでいく。
この場所に連れていた本人であるクロは、空間転移や読心など、明らかな超常の力を持った存在だ。そんなクロが今やっているのが、並行世界の存在に擬態して能力と手持ちのポケモンを再現するという。特訓相手としてこれ以上ない効率的な方法だった。
そしてクロが再現しているのが、並行世界でフロンティアブレーンとなったレッドさんだと言うことなのだ。
確かに、とんでもなく強い。それこそ、手加減しているレッドさん本人だと言われてもおかしくないくらいに強い。
何度戦ったところで勝てそうにないぐらい。その強さは、あまりにも理不尽過ぎた。
まず、決められた対策が立てられない。
バトルアリーナで、レッドさんとコゴミさんがバトルした時の話を覚えているだろうか?
レッドさん曰く。初めて目にしたZ技の
レッドさんは、長い訓練や、特別な境遇などによって、ようやく得られる技能や特異性を、ただ「やろう」と思って行動するだけで出来てしまう。主人公が持つ才能という名の暴力は、極まれば此処まで出来てしまうのだ。
異常どころの話ではない。
それは任意のタイミングで好きな特性を付与し、任意のタイミングで好きな技を使えるようなモノだ。
対策を立てれば、その対策を突破する特性や技をバトルの最中に与えられてしまう。これだと相性も何もあったモノじゃない……。
それに加えてクロが言っていた『運命』が敵になるという言葉の意味が、バトルをしていてよく分かった。
あらゆるランダム事象が、俺に不利になるように発生するのだ。
こちらが与えるダメージは必ず最低乱数になり、逆に受けるダメージは最大になる。混乱や麻痺になれば、行動することはできなくなり、こちらが不利になる追加効果は必ず発生する。一撃必殺の技だって使われれば当たり放題だ。ハッキリ言ってバトルにならない……。
『確かにレッドさん役をやっている『僕』も正直引くぐらい頭おかしいけど、この程度なら君のポテンシャルを引き出せさえすれば倒せるよ。さぁ、立った立った』
立つように促されるが、そもそも座っていないのに、そんなことを言われてもどうすればいいのやら……。
というか、本当に俺のポテンシャルを引き出すことで、この理不尽過ぎるレッドさんもどきに勝つことが出来るのだろうか?
不安とかではなく、クロの言葉自体が信じられない。
『できるよ。バトルパレスの銀シンボル戦で、カミツルギと繋がった感覚を思い出して。
アレはメガストーンを使わないでポケモンをメガシンカさせるのに必要な感覚。アレを思い出して自力でメガシンカをできるようにして、さらにメガシンカの先にあるキズナヘンゲを君のメンバー全員が出来るようになれば、銀シンボル戦のレッドさんぐらいなら倒せるんだから』
クロは一応、今の俺が目指すべき方向だけは教えてくれる。だが、そこから先は、バトルをしながら覚えろと言わんばかりに容赦がない。
大体、バトルパレスの時の感覚を思い出してと言われたから、記憶を辿って感覚を研ぎ澄ませているが。あの時は記憶を消されていたからできたらしく、今の状態で同じような感覚になっても上手く行かないのだ。
いや、メガストーンなしでのメガシンカが難しいのは当たり前だと分かっているし、メガシンカに『ポケモンと繋がる感覚』が必要なことは知っている。
だが、ここまで手こずっているソレが、ゴール地点ではなくスタート地点なのだ。それを理解すると、気力を持ち続けるのが難しくなる。
というか、そこまでやってようやく
『悪いけど、本気状態のレッドさんは『僕』だと再現できないよ。なんせレッドさんが本気になれば、本体のアルセウスに一撃入れられるぐらいだからね』
出された例えが異次元過ぎて理解できないんだけど……とりあえず、格が違うってことは分かった。
………いや、勝つとか無理だろ。誰が、そんなレッドさんの金シンボルをゲットできるんだよ。
『銀シンボルまでなら、各世代の主人公勢の何人かは手に入れたけど。金シンボルをゲットできたのは、その世界のプレイヤーだけだね』
………ちょっと待て。
その世界だとレッドさんはプレイヤーじゃないの?
だとしたら、俺の戦うレッドさんはプレイヤーだから、その世界のレッドさんより強いってことにならない?
『そうだよ。だから、落ち込んでいる暇なんてないんだよ。
一応、此処が精神世界だから時間の流れを遅らせることは出来るけど、それでも間に合うか分からないんだから、さっさと模擬戦続けるよ。
それとも―――諦める?』
「―――んな訳あるか」
不可能だろうが何だろうが、敗北が死である以上。諦める選択肢は存在しない。メガシンカだろうが、キズナヘンゲだろうが、それがレッドさんに勝つために必要だと言うのならやるしかないのだ。
そう気持ちを奮い立たせて、俺は回復して再び戦えるようになったラティアスたちのボールを投げた。
◆
「ガギャギャァッ…………」
耐えきれないダメージを受けて巨体が沈む。
ソレは空間の神と言われた『カミサマ』の分霊の1つ。
小さな神々の中でも特別強力な3つの内にある1柱。
だがその神は、自身の何分の1にも満たない小さな黄色のネズミの前に、呆気なく倒されてしまった。
『ははは……分かっていたとはいえ、こうやって目の前でまざまざと見せつけられると、笑いしか出てこないな……』
その声は、目の前で神が、他の何でもないただの1生物に手も足も出ずに敗北する様子を見せられたにも関わらず、ソレを当然と言わんばかりの諦めているような声音だった。
「……………」
それに対して、返答はない。
今、この場には2人の男が対峙するように向かい合っていた。
2人の男は、完全に同じ存在だった。一卵性の双子のように似ているのではなく、姿形だけでなく、服装も、声質も、何もかもが同じ。
強いてあげるとすれば、片方が苦笑いをしているのに対し、もう片方は完全な無表情なことぐらいだ。
空間の神が倒されたせいか、2人の周囲にある空間が揺らぐ。
その空間はまるで、どこかの洞窟のような場所だった。
周囲には日光が入るような穴が無いのに、何故か明るい不思議な洞窟の中。そんな場所で巨体が倒れたことで、剝き出しの岩肌の一部がボロボロと崩れていく。
『プレイヤーの有無以外に、力の差は無い筈なんだけどなぁ……ここまで一方的だと『俺』の存在って、いったい何のためにあるんだろうな……』
「……………」
無口な男は微動だにせず、苦笑いをしている男は、倒されたポケモンたちを真っ黒なボールにしまった。
『パルキアも、ラッタも、モンジャラも倒されて。バトルは『俺』の負けか……。
まぁ、最初から勝てるなんて思ってないし。敗者に文句を言う権利はない、ってことなのかね?』
そして苦笑いの男は、バトルで敗北した以上、無表情の男に道を譲る――――
『ふざけんなよ、おい』
譲らなかった。
『なぁ、プレイヤーさんよ。
どうせどっかから『俺』たちのこと、見てるんだろ?
だったら答えてくれよ……。
楽しかったか?
こんな狂った世界を見て、お前たちの所為で滅茶苦茶にされた様子を見て、ソレで満足なのか?』
「……………」
男は答えない。
『コイツが無口なのを良いことに、勝手に死んだことにされた『俺』を見て、少しぐらいは申し訳ないと思わないのか?』
「……………」
主人公は、答えない。
『お前たちが何を望んでいるのか『俺』には分からないんだよ……。
悲劇が見たいのか? 喜劇が見たいのか? ただ人の苦しむ姿が見たいのか? 逆境の中で立ち向かっていこうとする姿が見たいのか?
なぁ……そんな茶番劇に付き合わされる『俺』たちの気持ち、ほんの少しでも考えたことあんのか、って聞いてんだよッ!』
「……………」
プレイヤーは、答えない。
『なんとか言えよッ! 『俺』たちは、お前らを楽しませるための道具じゃないッ!
生きてるんだよ……生きてたんだよッ! なのに、お前らが「if」を創ったことで『俺』は本物の幽霊にされる始末だッ!』
「……………」
プレイヤーは……何も答えずに、ただ目の前にある
『…………そうかよ。結局、お前らは『俺』たちを、役割を持った駒としか見てくれないんだな………。
なら、もういいや……』
ようやく道を譲るのか、と思いきや……。
彼は、手にボールを持つような仕草をすると、そこにノイズの塊としか表現できないようなナニカが現れる。
『ルールなんて知るか。こんな世界、セーブデータごとぶっ壊れちまえ……』
「――ッ!?」
プレイヤーが、その出現した何かを見て、初めてリアクションを見せた。
それは今、プレイヤーにはノイズの『名前』が見えているからだった。
『けつばん』『ィ゛ゃゾ┘A』『アネ゛デパミ゛』『ベアビヲ9』『ム゛▼イ゛マ゛ゃ』『Aズケたジ』
それはモザイクや ゆうれい にしか見えないモノだけでなく、リザードン や ニドリーノ のように見えるナニカの『名前』だった。
一見すれば、ただのニックネームかもしれない。
だが、ソイツ等を知っているプレイヤーにとっては、この世界で何よりも恐ろしい存在かもしれなかった。
『こいつらで世界を壊せば、直してもらえないんだろ? 2度と此処に来れないようにしてやるよ』
だってこの世界は、バグってしまったのだから……。
読者の中で、初代を遊んだ人はどれだけいるのか……。