バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
色の三原色:シアン + マゼンタ + イエロ- = 黒
最強のポケモントレーナー。
レッドにとって、その賛辞は酷く空虚なモノだった。
いや、賛辞だけではない。レッドから見たら、世界の全ては灰色だったのだ。
それは心の問題なのか、単純に目の色覚異常によるモノなのかは分からないが。レッドにとって世界は、黒と白の2色のみで構成されており、その色の明暗が周りを判別する材料だった。
色のないモノクロの世界は、まるで現実味を感じなかった。
そして、ソレが異常なことであると気が付いたのは、故郷であるマサラタウンを出た時だ。
まるで自分が、次にどこに向かうべきか、何をするべきか。全て分かっているような感覚に囚われ、現実味のない世界がより客観的に見えるようになった。
自分がしている行動は、確かに自分で考えて選択した行動だった筈だ。だが、どうにも妙だった。まるで姿の見えない誰かが後押ししてくれているような違和感が常に付きまとっている。
自分という存在を、まるでテレビ画面の映像越しに操作しているように感じた。
いや、マサラタウンに居た時から、その感覚はしていた。
ただ、旅に出てからというもの、その違和感がより強く認識できるようになっただけのこと。
周りと話しても、ソレが用意された言葉のようにしか感じられなくなった。まるで、すでに1度その会話をしたような、もしくは会話の内容を予め知っていたような。そんな、どうしようもない違和感。
そんな感覚の中、気が付いたらレッドは新チャンピオンとなったライバルのグリーンを下していた。
そこからは、新しいチャンピオンとなって働き続ける毎日だった。
それと言うのも、このあらゆる出来事を予め知っているように感じる違和感は、自分が生きているという実感を失わさせるには十分だったからである。
レッドは、何かをやってみたいという思いが希薄だったのだ。
仕事の合間に、オーキド博士に頼まれたポケモン図鑑を完成させると、あとは変わり映えのしない日々を続けていった。
はたから見れば、無口無表情な子供が、一生懸命チャンピオンとしての務めを全うしているように見えていただろう。
だが実際は、レッドは無気力なまま生きていただけだった。
最強のポケモントレーナー
レッドは、始めから死んでいた。
死んだように、生きていたのである。
何をしても満たされたない。まるでナニカ、大切な用事をやり忘れているように、心の中が空っぽの人形、それがレッドの正体だった。
だが、そんな空っぽの筈のレッドが、チャンピオンの仕事を続けることができていたのには理由がある。
その理由は、この起こる出来事を予め知っているように感じる違和感が、ナニカが足りないと感じていることだった。
今の自分にはナニカが足りていない。
強さか? 道具か? 金銭か?
残念ながら、どれも違う。
レッドが感じているのは、自身が会わなくてはいけないダレカが居ないような感覚だった。
そのダレカには、既に会ってなくてはいけない。
だが、実際にはまだ会っていない。
そんなどうしようもない矛盾した感覚が、今までレッドを後押するような行動力を消してしまっていた。
ダレカは分からない。だが、いずれ会えるような気もする。
そう感じながら、チャンピオンという地位に居続けていた。なんとなく、その待っているダレカは、バトルをする相手だと思っていたから。
だが、待てど暮らせど、そのダレカは現れなかった。
時折来る挑戦者はもちろん。エキシビションだとかで戦う、他の地方のチャンピオンたちとのバトルをしても、なんとなく違うと感じた。
強い相手も、弱い相手もいた。だが、そうじゃない。レッドにとっての待ち人は、その誰とも違っていたのである。
「おい」
いったい、いつまで待てばいいのか……。
そもそも、本当に待っていればダレカは来るのか……。
そう思って。いい加減に、疲れてきた頃だった。
「おいッ! レッド、聞いてるのかッ!?」
「?」
そんな時に声を掛けてきたのは、何度目かのチャンピオンとジムリーダーによる、地方最強決定戦という番組でバトルした相手の
レッドにとってのライバルであるグリーンだった。
「お前、大丈夫かよ? ひでぇ顔してんぞ?」
そんなことを言われた。
レッドはこの時も無表情だった。だが幼馴染であるグリーンには、彼が疲れていることに気が付いていたのだ。
今までは、チャンピオンとしての仕事が忙しいのだろうと思って声を掛けないでいたが、日に日にヤツれていくレッドの様子を見るのに耐えかねて、バトル後の選手控え室に乗り込んできたのである。
「俺も
そう言ってくるグリーンの顔は、呆れ:5、心配:2、怒り:3といった表情だった。
だが言われた本人ではあるレッドは、先程バトルした
そして、そう考えていたことを見透かされた結果。レッドは、グリーンに怒鳴り散らされることになる。
「あぁもうッ! お前、今度の休みが取れたら俺に連絡しろッ! いいなッ!?」
「?(こくり)」
どうしてグリーンがイラついているのかレッドには分からなかったが、昔からこういう性格であると知っているので是と返す。
そこからレッドは、休みができるとグリーンと、たまにブルーも加えて旅行に連れていかれるようになった。旅行先でも、アローラでバトルツリーや、イッシュでPWTなどバトルを続けるレッドの姿にグリーンは呆れていたが……。
そんな時だ。
いつものように休みを取れたのでグリーンに連絡を入れると、グリーンもブルーも都合が取れないと言われ、今回は1人で旅行することにしたのだった。
本当はたまに取れる休みなのだから、そのまま家にでも帰って英気でも養っていれば良かったのかもしれない。だが、休みのたび旅行をしていた所為もあってジッとしているのが落ち着かなくなってしまっていた。
そして、どこに行こうか考えていると、だいぶ前に貰ったバトルフロンティアという場所からの招待状を思い出して向かうことにしたのである。
そして、そこでレッドは―――シロと出会った。
顔合わせた瞬間に予感したのだ。シロこそが、自身が会わなくてはいけないダレカであったことを。
そして初めて会ったバトルアリーナでバトルしたことで、その予感は確信に変わった。
いつも使っているチャンピオンとしてのメンバーではなく。最初は、育成のために連れてきたポケモンで様子を見ようとした。
実際、このバトルフロンティアで、ブレーン以外でメインのメンバーを使う必要は、今まで無かったから。
だが、レッドは彼に1体目のポケモンを倒された。
メインではないとしても、相手より先に自分のポケモンを倒されたのは、コレがレッドの
ならばと思い、2体目はメインメンバーであるリザードンを使ってみた。
レッドにとってメインメンバーは、全員が今まで1度として倒された経験が無い。チャンピオンの防衛戦でも、他の地方チャンピオンとのバトルでも、全て最初に出した1体目だけで勝利している。
だからこそ、この時に受けた衝撃は筆舌に尽くしがたかった。
立て続けに、しかもメインメンバーであるリザードンが倒された。
初めての経験だ。レッドが、自分が負けるかもしれないと思ったのは……。
その後、相棒でありエースであるピカチュウを使い。今まで感じたことが無いほどの興奮の中でバトルして、なんとか勝利することができた。
そして、バトルを終えてからレッドは思ったのである。
また、彼とバトルをしたい―――と。
モノクロだったレッドの世界が、いっきに色付き始めた瞬間だった。
バトルをしたい。本気のメンバーで、あんな弱り切った状態ではない万全の状態の彼とバトルし、そして勝ちたい。
もしかしたら、生まれて初めてレッドが抱いた欲求かもしれなかった。
だが、生憎とレッドは無口であり。ここにはレッドの意思を汲み取って代弁してくれる幼馴染たちがいない。
このままバトルフロンティアで対戦を続ければ、どこか別の場所でバトルすることが出来るかもしれないが、それでは確実にバトルできるとは限らない。
ならばどうするか?
考えた結果、レッドは新しいフロンティアブレーンになることを決めた。
浅慮な行動かもしれなかったが、その時のレッドにとってはシロと再びバトルすること以外はどうでもいいことだった。
そして、だからこそ―――レッドは、シロが攫われたという現状に、そしてその犯人に対して本気でキレていた。
◆
ゲームの世界、という名の現実。
まさに、自分が生きてきたこの世界は、そう表すのが相応しかった。
この世界は、自身が前世で遊んでいたゲームに非常に酷似している。そしてそれは、ポケモンという存在があることが前提となった世界である為か。もとの世界における常識的な考えが、彼らという存在によって捻じ曲げられている世界だった。
分かりやすい例を挙げれば……ポケモンの世界の科学技術は、もとの世界とは比較にならないほど進んでいる。
だと言うのに、技術力に比べて、人々の生活は原始的と言っていいほど自然に寄り添っていた。
それはポケモンという存在と共に歩むことを前提とした世界だからであり、ポケモンという存在のおかげで科学技術が発展していったことが理由だろう。
部分的に見れば環境に悪影響を与えているところもあるように見えるが、ポケモンの中には汚染された場所を好むようなモノもいる。
あらゆるポケモンと暮らせるように。その優れた科学技術は、危険な土地でも人が生きて行けるように進化したモノだった。
まるで、その為に創られたようなアンバランスなゲームの世界。それがポケモンの世界だった。
だが、ゲームの世界であると共に、ここが現実であると理解する理由は、他の何でもないこの世界で生きているポケモンと人々だった。
彼らは、しっかりと生きていた。
生きている生き物だった。
プログラムによって作られた存在ではなく。1つの意思を持ち、1つの考えを持ち、1つの生き物として、必死に生きている者たちだ。
この世界の誰もが、ポケモンたちを含めて、自由に動き回っている。故に、時には衝突することもあるし、逆にいがみ合いながらも協力することもある。
この世界には誰1人として、自分の意思を持たない人形は居ないと言うことだ。
だからこそ―――
『待って待って待ってッ! 潰れるッ! 頭が潰れちゃうッ!? 君はポケモントレーナでしょッ!? 正々堂々とポケモンでバトあだだだだだだだッ!?』
「………………………」
「レッドさんストップッ! ストップですッ! シロちゃんは無事だったんですから、その辺で止めてあげてくださいッ! 王様ッ、もっと出力上げてッ! ムゲンダイナッ、早くその子をレッドさんから引き離してッ!」
『いだだだだだだッ!? 千切れるッ! 千切れちゃうッ! 身体と頭がサヨナラばいばいしちゃうッ!』
目の前で俺をそっちのけにして騒いでいる クロ と レッドさん と 先輩 を、俺は誰に味方すればいいのか分からないまま、眺めているしかなかった。
目の前の光景をそのまま言葉にするのなら、クロ が レッドさん にアイアンクローをされており、それを先輩が ムゲンダイナ と バトレックス の力を借りて引き離そうとしている状態である。
「……くぅ~ん」
そして俺の後ろでは、ザシアンがへたり込んで怯えていた。
このカオスな状態になったのは少し前のことだ。
俺はつい先程までクロとの特訓を続けており、ようやく『ポケモンと繋がる感覚』というモノが何となく理解できるようになっていた時だった。
突然、バキャンッ! という甲高い音が鳴り響いた。
そして、その音の発生方向に目を向けると、そこにはレッドさんが立っていたのである。その様子にクロが―――
『えっ? なんで? いくらなんでも早すぎる。最低でも、あと10分は来れない筈なのに?』
そんなことを言っていた。ちなみに10分ぐらい誤差かと思うかもしれないが、それは現実世界での話である。
この精神世界では時間が引き延ばされており、現実での10分は、ここでの1ヶ月ぐらいになるらしい。
その期間をみっちり特訓してからレッドさんと対峙させる予定だとクロに聞かされたというのに。あまりに早いレッドさんの到着にクロは動揺したのだろう。
実際、今はまだキズナヘンゲどころか、普通のメガシンカもさせられない状況なのだ。準備がまるで足りない。
『あぁ~。どうしよう? レッドさんの力量を見誤ってたみたい。もうこうなったら『僕』が先にバトルしてできるだけ消耗させるしかない?』
「…………………」
何やら予想外の事態に悩んでいる様子のクロ。
そんなクロに、レッドさんは無言のまま―――
『へ?』
「え?」
気づいたら、いつの間にかレッドさんがクロの目の前まで移動していた。そして――
『ちょッ!? 痛い痛い痛い痛い痛いッ!? いだだだだだだだだッ!?』
「レッ、レッドさん?」
「……………………」
そのまま流れるような動作で、クロにアイアンクローを仕掛けた。
もはやそれは芸術と言っていいほど、一切の無駄なく。見えているのに、動いていることが違和感のない綺麗すぎる仕草の所為で、クロが痛みの声を上げるまで反応することが出来なかった。
そして、レッドさんの突然の行動に硬直していると。再びバキャンッ! という甲高い音が鳴り響く。
今度はなんだと、先程と同じように音の発生源の方に目を向けてみれば――
「レッドさんッ! 今すぐバトルを止めて―――――って何この状況ッ!?」
何やら慌てた様子の先輩が現れて、こちらのカオス具合を確認すると同時に悲鳴を上げていた。
もっとも、その疑問は俺も聞きたいところである。何がどうしてレッドさんはクロにアイアンクローをしているのだろうか?
その後、レッドさんとクロを引き剥がそうとするも、我が貧弱ボディではどうすることもできず、先輩が ザシアン と ムゲンダイナ と バトレックス まで使い必死に引き剝がそうとしているのである。
ちなみにザシアンが怯えているのは、アイアンクローをしている腕に飛びついて引きがそうとし、レッドさんと目を合わせてからである。
そのときザシアンはナニカ恐ろしいモノでも見てしまったのか、俺の居る方に走ってきて子犬のように震えながら隠れてしまったのだ。それでいいのか、ガラルの守護者……。
というわけで、結論。
誰かレッドさんを止められる人、今すぐ来てください。
伝説のポケモンであるバトレックスの念動力と、ムゲンダイマックスしたムゲンダイナの腕力?で引き剝がそうとしているのに、レッドさんの身体がピクリとも動きません。
このままではクロの頭が完全に潰れてしまいます。
この手に限る。