バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
トレーナーは好きですか?
ゲームで遊ぶのは好きですか?
ポケモン世界におけるプレイヤーとは何か?
プレイヤーは、分かりやすく言えば主人公のことであるが、厳密に言えば少し意味合いが異なる。
プレイヤーとは、ゲームで遊んでいる人の総称。
だが、このポケモン世界はゲームのような世界ではあるが、ゲームではない。
ならば、ポケモン世界でのプレーヤーとは何を指す言葉なのか?
それをゲームでない世界の言葉で表すのに一番近い表現が『運命』なのである。
言い換えてれば『確定した未来への修正力』
もしくは『世界を正常に運営する為の抑止力』
そんな言葉でも間違いではないが、正直何を言っているのか分かりにくい。
要は、この世界そのものが持っている防御機能なのだ。
アルセウスが創った世界を壊さないためのルールは、人間の身体で例えるのならば『抗体を創る薬』という――要するに外付けの機能なのである。
対してプレイヤーとは、人間の身体が最初から持っている『免疫力』というのが最も近い表現だと言える。
それがプレイヤーの正体だ。
この世界そのものが持つ意思の代弁者であり、世界を回す中心であり起点。
ポケモン世界は、プレイヤーが存在することが前提の世界であり、その重要度で言えばアルセウスよりも上なのだ。
そんなプレイヤーに選ばれてしまった主人公は、正しく世界の操り人形という言葉が相応しいだろう……。
ポケモン世界のプレイヤーに敗北は存在しない。
なぜなら、プレイヤーの敗北はポケモン世界の崩壊と同義だからだ。
自らを蝕んでいく病原体に対処できなければ、いずれ
故に、プレイヤーが敵に回るということは、世界の全てと相対することであり、たとえ勝利したとしても世界が滅びるという負け
そう、これがクロが勝てる可能性が無いと断言した理由である。たとえレッドにバトルで勝利したとしても、それは世界の終焉を意味するのだ。
だと言うのにクロは、シロとレッドにバトルを行わせてシロに勝利させようとしている。
どうして?
そもそもプレイヤーの影響がない本気のレッドの強さを再現できないと言うのに、クロと模擬戦をしたところでシロに勝ち目があるのか?
現状、あまりにも穴だらけで、疑問点がいくつもあった。
だが、それはそれとして、ポケモントレーナーとして挑まれたバトルは模擬戦であったとしても受けるのが、このポケモン世界での礼儀である。
郷に入っては郷に従え、というものだろうか?
ポケモン世界と、自分が元いた世界では、世界の仕組み自体が違う。科学技術の発展具合が違う。人間の考え方が違う。
だからそこ、どんな理屈を教えられたとしても、それを在り得ないと否定してはならない。
もとの世界の理屈は、この世界では通用しない。
どんなことでも、シロにはやってみるしか確かめる方法が無いのだ。
自身が世界を滅ぼす災厄?
帰るか永住するかを決めると発狂?
それが本当かどうか分からないし、対処する方法が問題ないかを判断する材料が無い。
ならばやろう。今できる、自分のやれる最大限のことをやってみよう。
そんな風に考えてシロは、クロとの模擬戦を受け続けていた。いたのだが……。
◆
『あ~……頭が割れそうに痛い……』
なんとかレッドさんに手を放してもらったクロが、目の前で頭を片手で押さえながら、かなりグロッキーな状態になっていた。
「シロちゃん大丈夫? 本当、無事でよかった……」
そして先輩は、とても安心したような表情で自分を抱きしめてくれているが……少しでいいから加減をしてもらえないだろうか?
以前のバトルピラミッドの時に比べたら格段にマシだが、我が肉体は貧弱なのだ。このまま抱きしめられ続けて居れば、あと数分もしないうちに背骨がL字型に変形することになるだろう。
心配させたのはとても申し訳ないと思っているが、このままでは先輩に
まぁ、クロが言っていたことが本当ならば痛いだけで肉体が死ぬことは無いらしいが、それは実際に折られなければ確かめようがない。
「………………」
そしてレッドさんは――なんだろう……いつも通りの無口無表情で立ったまま動かないので、どうすればいいのか分からない。
「本当に心配したんだよ? 突然居なくなって……私だけだったら絶対に見つけられなかったし……」
「すみません……」
俺の意思で此処に来た訳ではないが、心配させた事実は変わらないので素直に謝る。だが、それはそれとして―――。
「なんで先輩、腕が折れているんですか?」
「え? ……あっ、そうだった」
俺が、明らかに折れているであろう腕のことを先輩に質問すると、先輩は今思い出したとばかりに振り子のように揺れる腕に目を向けた。
「よいしょ―――っと」
「まてまてまてまてッ――ちょっと待ってください……なんで掛け声で折れた腕が治るんです?」
そんな俺が思わずついてしまった言葉に、先輩は「……気合?」と言いながら首を傾げた。えぇ……。
やっぱりこの世界の人間は、自分の知っている人間とは違うんだ……。
『そこッ! イチャイチャしないッ!』
そんな俺と先輩の様子を見かねてクロが注意を入れてきた。
「…………………」
『な、なんだい? そんな風に睨まれたって、こここ恐くなんてないよッ!?』
無表情のように見えるが、どうやらレッドさんはクロを睨んでいるらしい。クロは明らかに声が震えており、強がりで威嚇しているが……声を出せているだけマシなのだろう。現に俺の後ろで隠れていたザシアンは恐怖の為か気絶してしまっているのだから……。
「先輩。とりあえず、一回離れて貰っていいですか? それとレッドさん、クロが怖がっているんでこっちに来てください」
いい加減、このカオスな状態を何とかしよう。そう思って俺は、全員に声を掛けた。
『怖がってないよッ!』
うるさい。お願いだからレッドさんを刺激するようなことを言うのは止めてくれ……。
その後、先輩と俺は状況を整理する為に、お互いの情報を共有し始めた(レッドさんは何も話さなかったので情報交換が出来なかった)
俺は、クロとアルセウスに連れてこられた理由と、ソレに関する教えられた世界の成り立ちとルール、そしてプレイヤーの存在など全部を話した。あんまり人に聞かせる内容じゃないことだったけど、現状を説明するには必然的に教える必要があったし、なにより先輩なら大丈夫だと思ったので話した。
俺が別世界からやってきた存在だと知った時は少し驚いていたが、そもそもポケモンでも別世界から来たとされる存在もいることから、それ自体はすんなりと受け入れられた。流石、なんでもありのポケモン世界である。非常識が非常識にならない。
そして先輩からの情報だが、こっちはこっちでとんでもない情報を教えられた。
ここに乱入してきた時に叫んでいたバトルと中止するように言っていた理由。それは先輩を足止めしていた『私』と名乗る残留思念から生まれた人格からの情報が原因だった。
その『私』いわく。クロは、俺とレッドさんを戦わせるという
……………いや、確かにそうなっていたけどさ。
レッドさんがアイアンクローという予想外の行動をしようとしなければ、なんかなし崩し的にそんな風になってバトルになりそうだったけどさ。
それ、なにか問題なのか? と思っていたら、その後に教えられた情報が大問題だった。
「……クロ。先輩が言っていることって、本当なの?」
正直、今日だけでも情報が多すぎて頭がパンクしそうなのに、ここから情報を更新および追加させれるのは勘弁してほしい。
『……………うん』
「……………そっか」
いろんな意味で消耗して、もはや取り繕うつもりが無いのか、それともこれさえ演技なのか分からないが、クロは否定しなかった。
◆
異世界からの来訪者――通称「シロ」と呼ばれている少年は、このポケモン世界で生まれると同時に、世界を滅ぼす災厄と定められた。
それは今までの存在したどの並行世界とも違う、まったく新しい災厄の形であった。
創造神アルセウスと同等の力を持って生まれた彼を打ち倒す為には、普通の
全世代の主人公の中でレッドがプレイヤーに選ばれ、それにより世界の全てはシロの敵となった。
アルセウスと同等の力を得てしまったシロを駆除する為に、プレイヤー側の戦力となるように世界の全てが改変された。
その結果。ある意味、この世界は平和になっていたのかもしれない。
1作目の悪の組織であるロケット団は、社会的な必要悪として活動するようになった。人を襲うようになったポケモンなどを駆除しなくてはいけない汚れ仕事を行う組織として今でも活動を続けており、そのボスであったサカキはトキワジムのジムリーダーとしても活躍していた。
本来、1作目の2年後になる筈の2作目では、そもそもロケット団関連のイベントが軒並み消滅。ヤドンたちは平和に暮らして、赤いギャラドスの発生も無ければ、シルバーがグレることもなかった。
3作目では、アクア団はポケモンの保護、マグマ団は人間が住めない土地の開拓などを行い。超古代ポケモンたちの目覚めは、彼らとは別の要因によるものになった。
4作目では、アカギとロトムが
5作目では、あのゲーチスがNに対して親バカになった。そして、ポケモンと話すことが出来るNからの助言により、ポケモン世界の法整備を行うようになった。具体的には、無理矢理ポケモンにタマゴを産ませて、気に入らなければ捨てるようなトレーナーの処罰だとか。人間側ではなく、ポケモン側に配慮する団体としてそれなりに支持を集めている。世界征服だとかの考えは完全になくなっていた。
6作目では、そもそもこの悪人すら善人になる世界では、フラダリが絶望することはなく、更に別地方の組織や有力者からも多くの助けを受けて、今でも貧しい者や、力なき人々を救済していた。
7作目では、並行世界が統合されると共に、ウルトラホールの先にある世界が軒並み消えたこともあり、ウルトラビーストたちはこの世界に生息するポケモンになり、環境の違いから生息数の少ない珍しいだけのポケモンとして扱われるようになった。ルザミーネとウツロイドが出会うこともなくなり一家の離散は起こらず、グズマと共に島巡りを達成できなかった者たちをエーテル財団に加えて本当の意味でのポケモン保護団体として活動している。
8作目では、ガラルの未来を憂いていたローズに、目を覚ませと言わんばかりにピオニーが殴りかかり、手段を選ばないのなら兄弟を頼るぐらいしろと大喧嘩。結果、ならばエネルギー問題をどうするのかと口論する中、ガラル全土の電気を賄えるという レジエレキ などの存在をユウリと遺跡の探索で知ったピオニーから伝えられ、多くのポケモンたちを調べ上げてガラルの新しい未来設計を始めている。
少なくとも、原作よりは平和な世界がソコにはあった。
世界のシナリオで倒されるべき存在はシロであり、その為に世界の全ての存在が協力できるような下地が生まれていたのだ。
この世の全ての悪はシロなのだ。
この世界で倒されるべき災厄は、シロだけなのだ。
そんな役割を持って生まれたのが、シロという存在である。
だが、その役割を担うのは本来、プレイヤーに選ばれなかった残留思念たちの役目だった。それを、苦しんでいる彼らの声を聞いてやってきたシロに、結果的とはいえ押し付けることになってしまった。
残留思念の者たちは、本来は主人公になるような善性の存在だ。罪悪感は並大抵のことではない。
精神が混ざってしまおうが知ったことか。シロを助けなくてはならない、この子を戦いから遠ざけなくてはならない。
さいわい、シロの持っている神様としての力の殆どは、残留思念たちの方が待っていた。
そして残留思念たちは、躊躇せずにその力を使い始めた。まずはシロから戦う力を奪った。このポケモン世界におけるポケモントレーナーとしての才能を根こそぎ切り落とした。
その上で、この世界の最上位の存在と同等の力を持つポケモンを護衛として、精神を安定させるのもかねて前世での愛用している3体と同じポケモンであるラティアス、カミツルギ、ウツロイドを創造した。
そして外部を彼女らに任せて、残留思念は内部でシロを何とかこのシナリオという名の地獄から解放させるために活動を始めた。
まずは、生まれた場所である「マボロシじま」から外に出さないように幻を見せて、プレイヤーに干渉されているレッドに会わないように島に留まらせた。他にも記憶を
シロの精神は無垢な状態のままでグチャグチャになり、幻覚や夢で精神を安定させる際は、その時の精神に合わせたものを見せるようにした。
そうして何とか、レッドがチャンピオンになるストーリーの終わりまで、島に留まらせ続けることができたのだ。
だが、その代償は決して安くは無かった。
シロから切り落とした要素が集まり、いつの間にかシロの中で残留思念とは違う別の人格が生まれてしまっていたのだ。
その別人格は『僕』と名乗った。のちに、主人格がユウリからシロと呼ばれるようになってからは、別人格はクロと名乗り始めた。
残留思念は、新しく生まれた別人格に対処する為に、同じように別の人格を創って2つになった。その時のクロは『僕』と名乗っていたため、2つの残留思念はそれぞれ『私』『俺』と名乗るようにし始めたのだ。
こうしてシロは、疑似的な4重人格になってしまった。
別の世界からやってきたシロ本人の人格。
残留思念の、
同じく残留思念の、主に女主人公の精神が寄り集まって生まれた『私』の人格。
そして、シロから削ぎ落された。本来ポケモン世界で得られる筈だった力が寄り集まって生まれた『僕』の人格であるクロ。
そんなグチャグチャな存在が彼だったのだ。
そして、この中で一番厄介な人格は――クロだった。
クロは生まれた瞬間、精神の中で残留思念に出会ってしまい、自身の生まれた理由などを全て理解してしまっていたのだ。
そしてクロは悩んだ。悩んで悩んで悩み続けて、そして一つの結論を出した。
シロが受けている役割を全部、シロから発生した別人格である自分に移して、シロを元の世界に帰らせることにしたのだ。
なぜなら、元の世界に対して執着している人格はシロだけだったからだ。この世界で生まれたクロには、記録はあるが記憶のような経験を
故にクロは、帰るか永住かを決めて発狂する対象を自分に移し、アルセウスに頼んでシロを元の世界に帰らせることを決意した。
まずはレッドをシロの精神世界に誘導して、自分を倒させる。
ここでルールの『災厄』の役割から外れるようになると同時に、肉体の生命維持機能が停止。そのまま残留思念たちの肉体の創造が始まる。
そして完全に死亡するまでの僅かな時間にアルセウスに頼んでシロの精神を元の世界に帰らせる。
その際に元の世界に帰る結論を出したことでクロの精神は発狂するが、シロの精神は無事だ。
これなら発狂しても暴走するほど肉体に時間は残されておらず、肉体は完全死亡して発狂したクロの精神も消滅する。
シロを無事に帰し、世界も滅ぶことなく、シナリオによって残留思念も完全復活して大団円で終わる。ラティアスたちはクロの精神が完全に消滅するまでの間に、以前の契約を通して、復活した残留思念の誰かに存在を固定してもらえば消滅することもない。
これがクロの出した結論であり、ここまでの計画だった。
『なのに、な~んでこうなっちゃのかな~』
思わずそんな声が漏れてしまう。
足りない頭なりに、一生懸命考えて皆が助かる最善策を選んだつもりだったのに、どうしても『私』も『俺』も納得してくれなかった。シロと違って『僕』は、本来居ない存在なんだから消滅しても問題ないのに、頑なに受け入れようとしてくれない。
そんな風に精神の中でどれだけ説得しても全然頷いてくれないからズルズルと時間が経って、もう時間的にどうでもならないとこまで来て。
それでも諦められないからと『俺』と『私』は、最後の賭けに出ることにした。
それはシナリオそのものを壊すことで、発狂する仕組み取り除き、クロを含めて新しい肉体で復活させると言う方法だ。
そして『俺』の方は、プレイヤーを直接倒すことでシナリオを破綻させようとしていたけど、予想通りレッドには勝てなかったんだろう……。
そして『私』の方は、別の主人公であるユウリを使って外からシナリオを破綻させようとしているみたいだけど、たかが歴代主人公1人の力でどうなるというのか……。
なに? ユウリに説得させて『僕』に計画を止めさせようとでもしているの?
バトルピラミッドの時に、明らかに必要のない説明をしていたのはソレが理由なの?
まぁ、確かに記憶を消されたぐらいじゃ主人公は止まらないし、一度情報を与えれば覚えてなくても『何となく』で助けに来ようとするのが主人公なんだけどさ……ホント、人間の最高存在だからって勘まで最高峰とか……。
「ねぇ、クロくん? 全部『私』さんから聞いたよ……」
そんな風にユウリが話しかけてくる。
「ずっとずっと、頑張ってきたんだね―――偉いよ」
そう言いながらこちらを抱きしめてくる。
「でも、自分を犠牲する方法なんてダメだよ。そんなの絶対、間違ってる」
そんなの知っている。シロにも言ったけど、主人公に倒されるのは「間違っている奴」なんだから……。
「なにか、他の方法を探そう? 絶対にナニカ、皆が助かる方法がある筈だから」
ありきたりな答えだ。
そんな方法はずっと考えていた。時間ギリギリまで、ずっと考えていた。それが無かったから、こんな手段を取っているんだ……。
元の世界の肉体が限界なのは事実だし、シナリオを壊すにはプレイヤーに干渉された主人公であるレッドを倒す以外に方法が無い。
そしてプレイヤーの敗北は、この世界の崩壊と同義だ。プレイヤーには、勝ってはいけないんだ。プレイヤーに倒されて『災厄』の役割を終わらせる、それでシロをこんな地獄から解放する。この方法以外に、どうしろって言うんだ……。
「先輩、少しどいて貰っていいですか?」
そんな言葉が聞こえると共に、ユウリが離れる。そして―――
「フンッ!」
―――――――ゴキャッ!
そんな掛け声と一緒に、シロにぶん殴られた。
「シロちゃんッ!?」
突然の行動に、ユウリが驚きの声を上げる。まぁ、当然の反応だ。かなり嫌な音がしたからね―――シロの腕から。
「やっぱこうなるよね……」
そう言ってシロは、少し前のユウリと似たような状態になった腕をブラブラと揺らしている。
『なにやってるの?』
思わず、そんな声が漏れた。
本当に何やっているんだ……。その身体は未完成で貧弱なことは話していただろ。それこそ発泡スチロールと競り合ったらギリギリのところで負けるぐらい ひ弱なんだぞ?
「ん? ムカついたから殴った、それだけだよ?」
腕が折れて激痛がしているのに、その程度の痛みには慣れ過ぎているシロは顔色一つ変えずにそんなことを言った。
「とりあえず、言いたいことだけ先に言うね?
なんていうか、さ。君は少し、考え過ぎなんじゃないの?」
「えっ――それって……」
そう言われて反応したのは、言われた『僕』ではなく。ユウリの方だった。
何故ならその言葉は、以前にバトルピラミッドでユウリがシロに言った言葉だったからだ。
「とりあえず今のやり取りを見て、君が僕の同一人物っていうのにすごく納得したよ。悩んでいたこと、まったく同じだったし」
『どこがだよ……』
シロが以前に悩んでいたのは、自分が存在していい理由だ。『僕』の悩みは、シロを無事にもとの世界に帰すこと。まったく内容が違うじゃないか。
「だってクロの悩み、って。要するに―――カッコつけたいだけでしょ?」
『―――はぁ?』
今度こそ、意味が分からなくて変な声が出た。
「色々難しく考えて、だけどどうにもならないから被害を最小限にしようと頑張っている。コレ、ずっと自分で生きる理由を探し続けていた僕と、何が違うの?」
『これはそんな程度の低い話じゃない。失敗すれば、その被害はポケモン世界が消滅するほどの大事だ。考え過ぎるぐらいが、ちょうどいいんだよ』
ぶっちゃけた話。シロが死ぬことによって起こる被害は、シナリオでレッドに倒されて消滅するシロだけにしかない。
だが、シロの助けるためにシナリオを破綻させようと行動して、万が一にもプレイヤーが敗北するなんてことになったら、世界が滅亡するのだ。
だから、シロと同一の存在である『僕』が死ぬ役目を代わることが、絶対的に確実で安全な解決策なのである。
だっていうのに―――
「そうだね。失敗すればみんな死んで、成功したらクロだけの犠牲で、これ以上の被害は起こらない。圧倒的なコストパフォーマンスだよ。でもさ、ソレを理解した上で言わせてもらうよ。
―――――ふざけんなッ!」
シロは、そう吠えた。
「もともと居なかった存在だから消えても大丈夫? だから自分が犠牲になればいい、って?
犠牲が出ている時点で、1も100も1000も全部一緒だろうがッ! 自己満足の為にカッコつけて、勝手に死のうとすんじゃねえッ!」
全然、大団円じゃない。あの長い説明を終えたあとに叫んだシロの言葉を思い出す。
「死ぬのもイヤ、死なせるのもイヤ、後悔するのもイヤ。だから、
失敗したらみんな死ぬけど、それでもイヤなんだッ! って、恥も外聞もなく助けを求めろよッ!
僕が以前、先輩に助けを求めた時みたいにさ……それだけの話でしょ?」
『……………………』
あまりに身勝手過ぎる言い分に、同一存在である『僕』は言葉を失っていた。
「言い方は乱暴だけど、シロちゃんの言う通りだと思うよ」
そして、呆然としている『僕』に、今度はユウリが賛同を示した。
「犠牲を
「そうですね。という訳で先輩、助けてください」
「すっごい無茶ぶりだねッ! もちろんOKだよッ!」
「―――だ、そうだけど? クロはどうするの? このまま意地張って、1人で計画続ける? 次はレッドさんのこと、止めないけど」
そんな脅し文句を言われて『僕』は思ってしまった。
あぁ、これはもう……『僕』の負けだ。『俺』や『私』と同じ主人公のユウリも、そしてそれに感化されたシロも、みんな大馬鹿だ。
誰1人犠牲を出さないハッピーエンドを、絶対に諦めない。妥協しない。こんな相手「間違っている奴」じゃ、どうやったって勝てやしない。
「って、それよりもシロちゃんッ! 腕折れてるッ! もっと身体を大事にしてッ!」
「先輩が、それを言います?」
そんな風に和気あいあいしている光景に、まじめに考えていた『僕』の方が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
でも、協力してもらったところでどうすんの?
シナリオが破綻する条件は、プレイヤーが敗北すること。でも、プレイヤーの敗北は世界の崩壊だから、どのみちバッドエンド。おまけに元の世界の肉体がそろそろ限界で、時間的な猶予はほぼ無し。
世界を崩壊させずに、シナリオを破綻させるって、そんな方法あるの?
―――――――ブヂッ
その時、何か頑丈な糸が切れるような音が空間に響いた。
「………………」
そして、その音の発生源の方に視線を向けると、そこにはレッドが身体に絡まった透明な糸を掴んで
―――――――ブヂヂヂヂヂヂヂッ
力任せに引き千切っている光景があった。
………………。
…………………………。
………………………………………。
『はぁあああああああああああああああああああッ!?』
あまりの想定外の事態に大声を上げてしまった。
レッドが引き千切っているのは、プレイヤーが干渉するための操り糸だったのだ。
いやいや待て待てッ!?
糸で操られる人形というのは比喩的な表現であって、本当に糸が繋がっている訳じゃないッ! プレイヤーからの干渉は概念的なモノだッ!
だと言うのに、レッドはどうやってソレを認識したッ!?
そしてどうやって概念を糸として物質化させたッ!?
ソレ、本体のアルセウスでも干渉できない
プレイヤーは影響力に関してはアルセウスより弱いが、ゲームで言う遊んでいる人のことであり、同じゲーム内の存在であるアルセウスと違ってこちらが側から干渉することは絶対に不可能な存在だ。それこそ、精々ジラーチがやったプレイヤーが進めるシナリオを弄るぐらいしか、こちらから出来ることなんてない。
存在する次元が違うんだ。二次元の存在が三次元の存在に干渉できないように、この世界の存在ではアルセウスでもプレイヤーには干渉どころか認識もできない筈なのに。
何をどうやったら、ソレを掴んで引き千切るなんてことができるんだッ!?
それに、そんなことしたらプレイヤーの干渉がなくなってシナリ…オ……が……。
………………
……………………………………………
…………………………………………………………………………あれ?
シナリオ破綻したぁああああああああああああッ!?
プレイヤーの干渉だけ切断して、世界が崩壊しないままシナリオそのものを壊したぁああああああああッ!?
『なんなんだよもぅ……』
ホントなんなんだよこの初代主人公……。
こっちは消滅する覚悟で、いろいろ計画立てて頑張ってきたのに……。
『僕』と『俺』と『私』で必死にどうにかする方法を探して見つからなくて、ソレでも諦められなくて足掻いてできなかったのに……。
なんで、そんな何でもないような顔でポンと解決しちゃうの……。
もうやだ……うわぁああああああんッ!!!
プレイヤーにシロを倒させる(シナリオ)
↓
レッドがプレイヤーからの干渉を切断(レッド以外できない)
↓
プレイヤーが居なくなって前提条件が成り立たなくなる
↓
シナリオ破綻