バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
バトルフロンティアの施設が、通常のポケモンバトルとは異なる特殊なルールを設けているのは、ここで戦う誰もが知っている事実だろう。
その中でも、この施設の特異性は群を抜いていると思う。
バトルパレス。心を試す施設であり、ポケモンに一切の指示を行うことができない場所だ。トレーナーが行えるのは、せいぜい手持ちのポケモンとの交代だけである。
だが、それは実機の話の場合の話だ。
バトルパレスの戦いは、簡単に説明するとバトルロイヤル形式である。
アニメでダーテングとジュカインが、森を縦横無尽に走り回って戦う姿を見たことはあるだろうか?
バトルパレスは、とにかく施設の中が広く、そして自然豊かな森になっている。正直、パルキアか何かが空間を弄っているんじゃないかというほど広い。
後から聞いた話だが、純粋な技術によって空間を拡張しているということだ。
パソコンを使ったモンスターボールの物質転送技術や、ポケモンの生命エネルギーを最終兵器の燃料にするなど、この部分的なオーバーテクノロジーは何なのだろうか……。
まぁ、それはどうでもいい。
その肝心のバトルパレスだが、ポケモンに指示を出してはいけないというルールと、出会った場合は必ずバトルを行わなければならないルールを伝えられると、その広大な森に予約参加者全員が転送されて、生き残りのサバイバルが行われるのだ。
登録した3体の手持ちポケモンが全て『ひんし』になると脱落となり、次に開催されるまで足止めされるという、最も時間のかかる施設。それが、このバトルパレスである。
ポケモンの回復? 野生の木に生っている『きのみ』を見つけて回復しろ、ってさ。
そして、参加者の人数が残り1人になると、パレスガーディアンのウコンさんが森に参戦してくるのだ。
心を試す施設というだけあり、ウコンさんはポケモンとの絆を非常に重んじている。バトルをしている時も対戦相手によく話しかけ、その絆の強さを測ってくるのだ。
まぁ、その所為でレッドさんのピカチュウがキズナヘンゲできるようになっちゃったんだけどなッ!
あの本当にピカチュウなのかと疑う奴を、さらに強化するとか、なんてことしてくれてんだッ!?
え? キズナヘンゲしてなければ勝てるのか、って?
勝てる訳ねぇだろッ! バーカ!バーカ!
ヒースさんの死したモノを生き返らせるほどの生命力を与えるホウオウの力で、より強靭になったイベルタルをホウオウと一緒に一撃で『ひんし』にするピカチュウだぞッ!?
勝負になんかなるかッ!?
あの2体、とんでもない耐久特化性能だからなッ!?
ホウオウが居る限り、減ったHPは即時に全快して状態異常にならないし、イベルタルは繭としての能力を利用して、『ゴースト』タイプが使った『のろい』以上の早さでこちらのHPが減少していくんだからなッ!?
本来は、この布陣をどのように攻略するのかと戦略を試す場所なのに
『じゃあ、一撃で両方倒そう』
と実行して実際に倒したのが、あのピカチュウだからなッ!?
この説明をしているから察せるかもしれないが、キズナヘンゲしていない状態のピカチュウでソレだからなッ!? 勝てる訳ねぇだろッ!?
あぁ……止めやめ、考えるだけ無駄だわ。この話、終了。
それでなんの話だっけ?
……そうだ。ウコンさんの戦い方の話だ。
心を試す戦い。絆を重んじる戦い。
それがウコンさんが、この施設で挑戦者に課すモノなのだ。
だからこそ、俺が最も苦戦する場所は此処だろうと思っていた。
そして実際に戦った時、心を試すために何をしてくるのかを予想できなかったからこそ俺は、あんな無様を晒したのだ。
◆
目の前で起きている出来事に、俺は自身が、どうしてこんなにも動揺しているのか分からなかった。
1つずつ情報を整理してみる。
俺はバトルパレスに挑戦して、他の参加者を全て倒した。そして、パレスガーディアンのウコンさんと遭遇し、1回目のバトルを始めたんだ。
だが、1体目を倒したところで違和感があったのだ。まるで自身の中にあるナニカ大切なモノが抜け落ちてしまったような感覚だった。
そして2体目のポケモンを追い詰めたとき、そのポケモンが強い閃光と爆音を響かせて、こちらと相打ちになったのだ。
絆を重んじるウコンさんが『そんなことをするのか』と思ったが、ウコンさんは実際には何も指示していない。それは2体目のポケモンが、自らの意思で行ったことなのだろう。
だが、ここで違和感を強く認識したのだ。
自分のポケモンが『ひんし』にされたというのに、俺はどこか他人事のように呆然としてボールに戻そうともしなかったのだ。
すでにウコンさんは3体目のポケモンを出しているというのに、俺は次のポケモンを出そうともしない。
自身がどうして、こんな状態になっているのか分からない。
俺は自分のポケモンを傷つけられて、なんとも思わないような薄情者だったのか?
………ちょっと待て
さっきから俺は、目の前に倒れているのが『自分のポケモン』と思っているが、
それにウコンさんのポケモンもだ。さっきから1体目2体目と数えていたポケモンは何て名前のポケモンだった?
姿は思い出せる。今、目の前に居る3体目のポケモンと同じように全部がイカ腹な体形に、先端がカエデの葉のようになっている2つの尻尾と、頭に赤い宝石のようなモノが付いているピンクと青と黄色のポケモンだ。
だが、名前が分からない。知っているはずなのに、思い出せない。
最初のピンクのポケモンも、爆発した青のポケモンも、目の前に居る黄色のポケモンも分からない。
そこまで考えて、俺は1つの仮説に辿り着いた。
おそらく俺は、ポケモンに関する記憶の一部を消されたのだ。
あくまで仮説であるが、このバトルパレスは心を試す場所であることを考えると納得がいく。
おそらく『自分のポケモンのことを忘れてしまっていても、絆を持って戦えるか』ということを試されてるのだろう。
もう一度言うが、あくまで仮説だ。だが、俺の直感がコレであると訴えている。
俺は、自分の倒れているポケモンをボールに戻さずに近寄って怪我の具合を見てみる。
とても酷い状態だ。至近距離での爆発を受けて、身体のあちこちが『やけど』状態のように怪我だらけである。
だがそんな姿を見ても、俺は何も感じることは無かった。
何故だ何故だ何故だ。
何故、俺は何とも思わないッ。
自分のポケモンが怪我をしているんだぞッ。
それとも、このポケモンのことを覚えていないだけで、俺は怒ることも悲しむこともしないほどの薄情者だったのかッ。
そう考えても、俺の心は動いてはくれなかった。
水面のような心は、一切の
そして、そんな俺の非情さにすら、俺は怒りも悲しみも感じなかった。
「ひゅあん……」
そんな俺を頬を、その傷だらけのポケモンが、そっと撫でた。
「えっ?」
そうされて俺は、初めて自分が泣いていることに気が付いたのだった。
悲しくも痛くもないのに、かってに両目からボロボロと涙が溢れていたのだ。
「ひゅああん」
そんな呆然とする俺に、その傷だらけのポケモンは優しく微笑んだ。
だが、それをされた俺には困惑しかない。
どうして、お前はそんなに優しい目を、俺に向けてくれるんだ?
俺は、お前のことを何1つ覚えていないのに……。
そんな俺の顔を見たポケモンは、少しだけ悲しそうな顔をして、力尽きたように倒れ伏したのだった。
「ッ」
それを見た途端、すぐさまに森で手に入れた『オボンの実』を取り出すと、傷だらけのポケモンの状態を見て
『オボンの実』を口の中で噛み砕いて、その子の口に押し入れた。
「なるほどのぅ」
なにやらウコンさんが納得しているが、どうでもいい。
回復アイテムを、すでに『ひんし』のポケモンに与えたところで、すでにこの子が戦える力はない。
こんなのはアイテムの無駄使いでしかなく、控えのポケモンに持たせれば、この後のバトルを有利に展開できるだろう。
でも、傷ついているこの子を、先ほどの姿を見た俺の身体は無意識のうちに動いていた。
そして俺は、この子の身体の下に手を回して持ち上げると、少し離れた木の根元に降ろしてタオルをかけてウコンさんに再び向き合う。
相変わらず感情は動かないが、そうしなければならないと感じ、俺はウコンさんを睨みつけたのだった。
「さぁ、君たちの絆を見せてみなさい」
そう言ってウコンさんは、俺に次のポケモンを出すように促す。
そこで俺は考える。
残りの2体のポケモンも、俺は分からない。
姿は分かる。だが、どのようなポケモンか分からない。
目の前に居る3体目のポケモンに有効なのはどちらか、判断がつかないのだ。
だが、俺の意思とは関係なく、俺の右手は1つのモンスターボールを掴んでいた。
分からない。が、何かピンチを切り抜ける、塞がった活路を切り開きたいと思った俺は、無意識のうちに手に持ったボールを投げた。
「………」
そのポケモンは出てきても声を出さなかった。
しかし、それが俺を逆に安心させる。まるで、こいつが寡黙であることを
「ふむ。見たことのないポケモンじゃの」
俺のポケモンを見て、ウコンさんはそんな言葉を漏らす。
「さぁ、バトル再開じゃ」
そんなウコンさんの声を合図に、互いのポケモンは動き出した。
ここはバトルパレス。ポケモンに対して指示はできない。だが、自分のポケモンと、自身の中でナニカが繋がっているように感じる。
俺の為に戦ってくれているポケモンの思いが、何となく伝わる。
そう
―――ただ、斬ればいい。
目の前に居る敵を、立ちはだかる壁を、友を脅かす脅威を。
―――ただ、ひたすらに斬ればいい。
斬って斬って斬り続ける。その心は不動であり、唯々それは主の為に。
この身は一振りの刀身であり、主の意思のもとにのみ振るわれる剣である。
そんな思いが伝わってくる。
あぁ、お前も、俺を覚えているのか……。
俺はお前を覚えていないのに、そんな俺の為に、お前は戦ってくれるのか。
ならば、俺はそれに応えなくてならない。
お前が俺のポケモンであるならば、俺はお前のトレーナーでなければならない。
お前が俺の剣であるならば、俺はお前の鞘となろう。
俺が、お前の居場所だッ!
だからこそ、分かる。
お前の太刀筋に迷いが、不安があるのが俺には分かる。
だから、俺はお前に応えようッ!
俺は口を開く
―――それでも名前は分からない。
喉を震わせ、声を響かせる
―――それでも名前は分からない。
お前のことは、何1つとして分からない。
―――それでも、俺はお前を知っているッ!
「行けぇええええええええッ!!!」
「カミツルギィィイイイイイイイイッ!!!!!」
「!!!」
「……ヤァアアアアアアアアッ!!!」
「タァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!」
その迷いなき斬撃は
世界を構成する要素の1つを司るモノを
確かに切り裂いたのだった
◆
ぁあああぁぁあああぁぁあああああぁあああッ!!!
俺は施設の森の中で、ウコンさんの前であるにも関わらず、盛大に転げまわっていた。
いっそ殺せぇええええええええええええええッ!!!
何やってんだよ俺ッ! いくら アグノム と ユクシー と エムリット に記憶と感情と意思を消されていたとはいえ、ホントに何やってんだよバカァアアアアアアッ!
なんでラティアスをボールに戻さないのッ!? 回復させたとしてもボールの中の方が安全だし、生命維持に関する機能がボールにあるの知ってるだろッ!?
何で『オボンの実』を口移しであげたんだよッ! あの子のファーストキスは、俺ごときが奪っていいモノじゃないんだよバカァアアアアアッ!!!
あああぁぁあぁぁあぁあああぁあぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁッ!!!!!
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。随分と元気だのぅ」
半分は、あんたの所為だよ。ふざけんなぁああああああああッ!
心を試す為だって言えば許されると思っているんだったら大間違いだクソッタレ!
つーかこんなことしている場合じゃない。早くラティアスをボールに戻さなくてはッ!
「少し落ち着きなさい」
「あブッ!?」
突然、ウコンさんから何を投げつけられた俺は変な声を上げる。よく見ると投げられたものはバトルパレスを1回クリアした証であるスピリットシンボルだった。
「君とポケモンの絆は確かに強かった。今までに会ってきたトレーナーの中でも、特に素晴らしい」
そこまで言ってウコンさんは「しかし」と続ける。
「君が自身のポケモンに向けるこだわりは、少し常軌を逸している。おそらくだが、君はその子たちだけで育てるのが限界だと思っていないかの?」
その言葉に、俺は動きを止めてしまった。
「残酷なことだが、君はポケモントレーナーとしての才能は皆無だ。それこそ、生まれたての赤子より下だろう。
だが、だからと言ってその子たち以外を全く育てられないというのは在り得ん。だというのに、現状がそうなってしまっているのは、偏に君がその子たちのみにこだわった結果じゃ。
これから会う可能性のある全てのポケモンよりも、君はその子たちを選び、そしてその子たちは君に応えた。ここまでポケモンに想われたトレーナーを見たのは本当に久しぶりじゃ。
それこそ、君を失えば世界を越えてでも探し出そうとするほど、君は愛されている」
その言葉を聞いて、俺は自身の全てを見透かされたような感覚に、目を見開いた。
「なに…が、言い……たいんで、す?」
ウマク、コエガ、デナイ
「……愛してやりなさい。今の君は、失ったナニカを補うために、その子たちに依存しているようにも見える。君が本当の意味で、その子たちのトレーナーになりたいのなら」
ウコンさんが、そこまで言うと、森の奥からガサゴソと音がして3体のポケモンが姿を現した。
「む? 珍しいの、おぬしたちが自分から姿を現すとは……この子に何か感じたのかの?」
3体のポケモンが俺に視線を向ける。その視線は、まるで俺を品定めしているようだった。
「どうやらこの子たちは、早く君と戦ってみたいようじゃな。少し早い紹介じゃが、彼らが次に戦う時の手持ちポケモン。儂の『兄弟』たちじゃ」
そのポケモンたちを、俺は知っている。
―――ミュウツー、ゲノセクト、マギアナ
人によって作られたポケモンたちだ。
それをウコンさんは、確かに『兄弟』と言い切ったのだ。
「次戦う時は、純粋なる絆の勝負となる。儂らの絆に、見事打ち勝って見せるがいい」
今、俺の前に居るのは
前世のことを未だに引きずっている俺が、最も苦戦すると思った場所
心を試すバトルパレスのフロンティアブレーン
パレスガーディアンのウコンである。
すみません。リアルが忙しくて、毎日更新ができなくなりそうです……。
書き溜めも、プロットも考えずにやるからこうなるんだ……。