バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい   作:麦わらぼうし

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感想がウインディのことで大人気だ。
流石、でんせつポケモンだぜ!


迷子

 金シンボルを手に入れるためのバトルピラミッド2回目の挑戦。

 

 前半部分でさえジンダイさんの情報がまともに集まらないほど突破人数の少ない施設であるというのに、その残り半分の迷路が簡単ではないということは予想していた。

 

―――だが、だからと言って限度と言うものがあると思う。

 

「―――ぷはぁッ! ゲホッゴホッ! ――ゼェハァッ! ゼェハァッ!」

 

 ようやく新鮮な空気を取り込むことができた俺は、ずぶ濡れのまま床に倒れ込んで荒い呼吸を繰り返す。

 

―――死んじゃう……本当に、死んじゃう……。

 

 まさか1フロア全部が水で満たされた階があるとか、いくらなんでも想定外だ。

 

 階段を上って新しい階に着いたと思ったら、どういう理屈か分からないが、いきなり水中に叩きこまれた……。

 

 直前まで立っていた場所はどこに行ったの? 予兆とか何も無かったら、落ちた時に驚いて空気全部を吐き出して、肺の中が水でいっぱいだよッ!

 

 最低でも呼吸する分の空気ぐらいは残しておいてよッ!? 人間は酸素がないと死んじゃうんだよッ!?

 

 閉鎖空間で正確な時間は分からないけど、1フロアを突破するのって体感で3時間以上は掛かるんだからッ! 冗談抜きで溺れて死んじゃうよッ!

 

 ずっと酸欠状態だったから、頭はガンガンするし視界は霞んでいるし、水中に長時間居たせいか低体温症みたいに身体が震えて、意識が少し朦朧としている。

 

 でも、今は意識を落としてはいけない。

 

 周囲の安全性が確保されていない状況で野生ポケモンにあったら、今度こそ終わりだ。

 

 ついさっきまで居た場所だって、カイオーガ や ルギア や マナフィが複数体泳いでいる場所だったのだ。ここバトルタワーじゃなくて、バトルピラミッドだろッ!?

 

 他にもポケモンが居たのかもしれないが、ほとんど意識がないままラティアスに運んでもらっていたので分からない。

 

 一度ラティアスをボールに戻して、カミツルギに護衛を変わってもらおう、いくら何でも働かせすぎだ……。

 って、あぁ……腕が痙攣してうまく動かない。持っていたボールにラティアスを戻して仕舞おうとしたら、床に落として拾いに行くこともできないほど、身体が言うことを聞かない……。

 

 最初の階からマグマの津波に襲われるわ、自然現象の方の かまいたち が吹き荒れるフィールドとか、フロア全体に即死クラスの高圧電流が流れているところもあるし、マイナス100度よりも気温が低い吹雪の場所もあった。

 

 殺意が高いとか、そんなレベルじゃない……。

 

 まぁ、殺意が高いと言えばジンダイさんの使ってきたポケモンも似たようなものだけど、ここを突破することが出来たら、手加減していた時でさえ強いあのポケモンたちがさらに強くなるとか、もう思い出すのもヤダ……。

 

 ジンダイさんは、俺と同じようなことをしているトレーナーだった。

 

 それと言うのも、ジンダイさんは分類的に「マルチ・トレーナー」だ。特に不得意なタイプは存在しなく、伝説を含めた全てのポケモンに適性を持っている主人公クラスの才能を持った存在。

 

 それが、俺がここまで勝ち続けて来れた方法と同じ方法を使っていた。

 

 バトルパレスでのウコンさんとの会話を覚えているだろうか?

 

 あの時の言葉の意味がようやく分かった、だからこそ俺にはポケモントレーナーとしての才能が絶望的にないことを理解している、それこそ生まれたての赤ちゃんに劣るほどに。

 

 どういう理由か不明だが、前世で使っていた3体が居なければ、おそらくタマゴから生まれたてのポケモンにすらバトルで勝つことができないだろう。それぐらい、俺には手持ちの3体以外に対する適性が無いのだ。

 

 だが適性が無いからと言って一切育てることができない訳ではない。

 

 いくらポケモントレーナーとしての才能がないからと言って、進化の石を使っても進化させることができないなんてことは在り得ないのだ。

 

 だが、実際に俺が手持ちに入れていた間は、進化させることができなかった。

 

 それは俺が無意識にやっていたこと、才能というリソースを手持ちの3体にのみ限定させていたからだったのだ。

 

 それこそ、ほんの僅かな、なつき度を1つも上げることができない程度しかない残った才能のリソースの全てを手持ちの3体に限定化した結果。

 

 俺は他のポケモンを育てられない代わりに、準伝説である手持ちの3体だけで、今までのバトルフロンティアの施設を突破できるほどに、この子たちを強くすることができた。

 

 

 だが。

 

 

 ここのジンダイさんは、俺と同じような手段を使ってポケモンを強化している。

 

「マルチ・トレーナー」という主人公クラスの才能を持っているジンダイさんが、その才能のほぼ全てを、あの3体の「ほのお」ポケモンに限定化させているのだ。

 

 正直、勝ち目が見えない……。

 

 レッドさんのような理解不能な強さではなく、理屈で分かる圧倒的な格の差。

 

 唯一救いがあるとすれば、ジンダイさんが使っているポケモン全てが一般ポケモンであり、元々のスペックでは準伝説である俺の手持ちの方が上ということぐらいだ。

 

 それでも、俺には本気のジンダイさんに勝てるイメージをすることはできなかった。

 

 そう考えていると、酸欠で痺れていた身体の主導権が少しづつ戻ってきた。霞んでいた視界も少しずつ明瞭になってきたので、周囲を見渡してみるが、フロア全体が暗くてよく分からない。

 

 暗闇に関係するフロアなのだろうか?

 

 そんなことを思いながら、先ほど落として転がってしまったラティアスのボールを見つけようと視線を彷徨わせていると、不意に青い瞳と目が合った。

 

 その瞳の持ち主は、頭部に白い髪のようなモノがあり、赤いギザギザのマフラーのようなものがある、死神を思わせるようなポケモン。

 

「ダー……クラ…ィ」

 

 低体温症によって、まだ言葉をうまく発音することができない俺に構うことなく。ダークライは、その手に闇色の球体を生成して、こちらに投げつけてくる。それは映画やアニメで見たダークライの専用技『ダークホール』だった。

 

 まともに動くことのできない今の俺に回避することなど出来る筈もなく、『ダークホール』に直撃した俺は抗う術もなく、意識を暗闇の中に落としていった。

 

 

 

   ◆◆◆

 

 

 

「ぷはぁ! やっと出られたぁ~」

 

 先ほどまで水浸しだった迷路を泳いでいた私は、ようやく次の階に辿り着いたことで2時間ぶりに呼吸を再開する。

 

 あーあー、服が濡れてビチョビチョだよ~。チャンピオンとして稼いだお金がある今では大した金額じゃないけど、当時は頑張っておこづかいを溜めて買ったお気に入りなのに……。

 

 流石に脱ぐ訳にもいかないので、着たままで水を搾り取る。シワになっちゃいそうだけど仕方ない。

 

 暑かったり、風が強かったり、少しピリピリしたり、寒かったり、風邪でも引いたらどうしてくれるんだ。

 

 まぁ、私の方から挑んでいるんだから文句言っても仕方ないんだけど。

 

「さてと、ここはどんなところかな?」

 

 そんなことを言いながら、私は周囲を見渡してみるが、フロア全体が暗くてよく見えない。

 

 なので目が暗闇に慣れるまで待っていると、少しずつフロアの様子が見えるようになってきた。

 

 なんていうか、さっきまでの場所に比べてすごいボロボロだ。この階には気性の荒い野生ポケモンが多いのかな?

 

 正直、珍しいポケモンがすごく多いからゲットしてみたいんだけど、そういうのは禁止されているしなぁ……。

 

 あぁ……さっき見つけた色違いのキュレム、すごく欲しかった。コレクターって訳じゃないけど、せっかく見つけて倒したんだからゲットしたくて仕方なかったよ。

 

 こんなことを考えられるぐらいには、私もバトルフロンティアに慣れてきたのかな?

 

 流石にそろそろガラルに戻らないと、溜まっている仕事が大変なことになるから、今回の挑戦を終えたら一度帰らないとなぁ……。

 

 あ、でもその前に一度あの子に会ってお礼を言っておきたいな。

 

 それは私が、このバトルフロンティアに来た初日にアドバイスをしてくれた優しい子のことだ。

 

 あの時は、肩の荷が下りたような気分でスッキリしていたら、いつの間にか居なくなっていてお礼もお別れも言えなかったんだよね……。

 

 その姿は今でも簡単に思い出せる。

 

 オニオンくんよりも小さく、肩に掛かるくらいの純白の髪と、性別が分からないほど幼い体格に、瞳が虚ろであっても女の私が「かわいい」と断言できるような顔だった。

 

 そういえばあの子、性別はどっちなのだろう?

 

 男と言われれば男の子に見えるし、女と言えば女の子にも見える中性的な顔だったなぁ。

 

 なんていうか。すごく神秘的で、思わず触りたくなるような温かさがあるけど、少しでも触れたらそのまま壊れちゃいそうな儚さもあった。

 

 不思議な子だ。

 

『まどろみのもり』で初めてザシアンと会った時よりも、なんと言うか不思議な感じがしたのだ。

 

 もっとも、あの時はウールーを探すのに必死で、困惑よりも驚愕していた割合の方が多かったけど。

 

 この場所とは真逆の真っ白な霧の中で突然現れたんだよね。視界が悪い中、その存在だけがひどく目立っているような感じで、ちょうど今、目の前に見える白いヒトガタみたいに輪郭だけが見えるぐらいから徐々に姿がハッキリ見えてきて……。

 

「ん?」

 

 ようやく暗闇に目が完全に慣れた私の視界に、とても見覚えのある人影が見えた。

 

 こちらに背を向けて何もない壁を見上げている小さな人影。それはつい先程、会ってお礼を言いたいと思っていた人物と同じ特徴をしていた。

 

 思わず私は名前を呼ぼうとして、そういえば名前を聞いていなかったことに気づいて、大声で話しかけてみる。

 

「お―――――――い!!」

 

 そんな私の大声に驚いたのか「ヒッ!?」という声と一緒に身体をビクッと跳ね上がらせたその子は、ゆっくりとこちらに振り向いてくれた。

 

 やはりあの子だった。不思議で、私にアドバイスしてくれた幼いトレーナー。

 

 話をしようと私はそのまま近づいて

 

 

「来ないでッ!!!」

 

 

 近づこうとして、そんな言葉を浴びせられて私は足を止めてしまった。

 

 そんな私の様子を見て「あっ……」と、その子は小さく声を漏らすと、尻もちをついて震え出したのだった。

 

 

「違うんですごめんなさいすみません許してください僕が悪かったです調子乗ってましたイジメないで叩かないで殴らないで痛いことしないで石投げないで捨てないで何でも言うこと聞くから良い子になるから我が儘言わないから1人にしないで痛いのヤダ怖いのヤダ寂しいのヤダやだヤダやだヤダやだヤダやだヤダやだヤダやだ…………もうこんな世界やだよぉ……」

 

 

 両手で頭を押さえて、ただでさえ小さい体をさらに縮こませながら、その子は明確に恐怖の色を瞳に浮かべて泣いていた。その様子はまるで、親とはぐれてしまった迷子の幼子のようだった。

 

 よく見れば、私と同じように濡れている服は、ところどころ肌が見えるほどボロボロになっており、そこから覗かせる肌には小さな傷がいくつも見られた。

 

 何があったのかは分からない。だが、確実にナニカがあった。

 

 それを認識した途端、私は一切躊躇せずに足を踏み出して

 

 

―――次の瞬間に壁に叩きつけられた。

 

 

「■■■■■■■■■■■■―――――――ッ!!!!!!」

 

 

 そして次に聞こえてくるのは、凄まじいまでの怒気を孕んだ轟音。

 

 未だに痛む身体を無視して、音の発生源の方に目を向けると、そこにはあの子のラティアスが、以前にバトルした時とは全く違う状態で、あの子を庇うような立ち位置で、こちらを睨みつけていた。

 

 その姿から感じられるのは、敵意どころか、明確な殺意だ。

 

 旅行していた時に、聞いたことがある。ポケモンが悪意などによって心を閉ざしてしまい、戦闘マシーンのようになってしまう現象があるという。そのポケモンは身体を黒く染め上げ、凄まじい凶暴性を発現させる状態。

 

 

 ダークポケモン。

 

 

 あの子のラティアスは、そんな特徴と一致していた。

 




ダークライ「やっちゃったぜ♪」

ラティアス「ブッコ〇ス!!!」

ガラル主人公「ワタシ、ダークライ、チガウ……」
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