スカンジナビアの宇宙ステーション『ヴァルハラ』
そしてオーブの宇宙ステーション『アメノミハシラ』はかつて無いほどの緊張感に包まれていた。
ステーション前では次々と部隊が編成され、出撃準備を開始している。
しかし出撃したのが全部隊という訳ではない。
当然各ステーション防衛の為の戦力も残してある。
この機に乗じたザフトの奇襲を警戒しなければならない。
特にヴァルハラにはザフトの部隊が近づいて来ているという情報も入ってきているからだ。
その為、物々しい雰囲気が宙域を包み、戦艦に乗り込んでいる全てのクルーにも伝染して異様な緊迫感を生み出していた。
もちろんそれは彼らが赴く戦場は紛れも無く死地であるという事も関係しているだろう。
確実にこの中の何割かは生きて戻れない。
それだけの激戦になる事は誰も口にしないだけで皆が理解しているからだ。
そんな緊張感漂う宙域に集まった艦隊はアークエンジェル、ドミニオン、オーディンの三隻を中心として、それぞれ別方向に移動を開始した。
こちらに向かってくるコロニーを破壊する為に。
確認されたコロニーの数は四つ。
その内の一つは地球軍が担当すると事前に確認している。
そして最終的に止められないと判断された場合は―――核を使う事もだ。
もちろんその時は連合側から連絡が入る事になっている。
その件に関しては反対する声も上がった。
だが地球に落とされては元も子もないと主張されては何も言えない。
皆『ブレイク・ザ・ワールド』の惨状を忘れた訳ではない。
あんな事の二の舞は誰であろうと御免だという事だ。
しかしコロニーに対し軍を動かしていたのは同盟や連合だけではない。
防衛と迎撃の為にザフトもまた部隊を展開していた。
◇
時同じくしてザフト機動要塞メサイアからも一騎当千の猛者達が出撃しようとしていた。
メサイアの格納庫は喧騒に満ちていた。
整備班も慌ただしく動き回り、各機の調整に追われている。
これからいよいよ最後の戦いが始まるのだ。
皆気合いが入るのも頷ける。
そんな喧騒の中、出撃しようと機体に乗り込こもうとする者達がいた。
ヴィートとリースの二人である。
彼らには理由がある。決して退けない訳が。
「おい、ヴィート、リース、待て!」
ハイネが無重力の中を上から二人を飛び越える様に降り立つと諌めるように声を掛けた。
リースはいつも通り、興味なさそうにこちらを見てくるだけだったが、ヴィートは違う。
抉られた左目を眼帯で覆い、残った右目でこちらを睨みつけてくる。
その瞳には怒りと激しいまでの憎悪が漲っている。
彼の眼は思った以上に傷が深く、今回の戦いまでに傷の治療は不可能と判断されていた。
最初はデュルクからも出撃や戦闘行為を控える様に言われたのだが、彼は頑として首を縦には振らなかった。
この傷をつけた男にそれ相応の礼をする為である。
「邪魔するな、ハイネ。この戦いアスト・サガミだけじゃない。必ずあいつが―――アオイ・ミナトが来る。奴らは俺がこの手で!」
「私も……必ずあの女共を殺す。……後ヴィート、アレンに手を出したら許さないって言ったよね?」
「ふん、安心しろ。俺のとりあえずの目標はアオイ・ミナトだ。この左目の借りは返す」
ヴィートは左目を押え、怨嗟の声を上げる。
気持ちは分からなくもない。
ザフトを裏切ったアストや特務隊として言い渡された任務を尽く退け、ヴィートを負傷させたアオイ・ミナト。
これまでの事から考えてもヴィートが彼らを憎むのも当然であろう。
しかしだからといって勝手な行動を許す訳にはいかない。
「俺達はメサイアで待機しているように命令が出ているだろう。勝手な事は―――」
「ハイネ、行かせてやれ」
声が掛けられた方向に目を向けるとステラを伴ったデュルクが格納庫に入ってくるのが見える。
「デュルク隊長」
「議長の許可は貰っている。メサイアの防衛にはジェイル達を残らせる。ハイネ、お前も出撃準備だ」
「俺も?」
予想外の命令に困惑するハイネとは対照的にヴィートはニヤリと笑みを浮かべた。
彼にとっては渡りに船と言える命令である。
内心歓喜に満ちていた。
「隊長、ありがとうごさいます!」
「ただし、勝手な行動は許可しない。あくまでも状況の把握が最優先だ。撤退命令があれば何があっても即座に後退する事を厳命しておく」
「「了解!!」」
正直なところ、彼らがその命令を聞くかは怪しいものである。
とはいえ命令が下った以上はハイネも彼らを気にしている余裕はない。
何と言っても相手はあの同盟軍なのだ。
何度も交戦してきたからこそ分かる。
彼らと戦うとなれば間違いなく命を掛ける事になる。
ハイネはデュルクの背後に控えているステラに目を向けた。
「隊長、彼女も出撃なのでしょうか?」
彼の疑問にデュルクが口を開く前にステラがいつも通り冷静な口調で質問に答えた。
「そうだ。許可も貰っている」
デュルクとしてはステラはメサイアの守りに残したかった。
だが死に物狂いで攻めてくる同盟や連合の事を考えれば戦力は一機でも多い方が良いのも確かだ。
テタルトスも警戒しなければならないが、彼らはあくまでもアポカリプスの方を狙ってくるだろう。
なら当面は正面から来る連合と同盟を迎撃するのを優先すべきである。
「良し、全員出撃準備。相手は同盟とアオイ・ミナトだ。油断するなよ」
「「「了解!」」」
敬礼を取り、機体に乗り込むと戦場に向け、飛び出していく。
各自それぞれ目的を持ち―――これまでの因縁を払拭せんが為に。
◇
デュルク達特務隊がメサイアから出撃していくのと同じ頃。
ヘレンはフォルトゥナの各部チェックを終え、メサイアに存在する特別な格納庫を訪れていた。
ここに立ち入る事が許されているのは、一部の者たちだけ。
それだけ特別な場所である。
この格納庫ではラボやアトリエで行われていた研究や新型の開発などが引き継がれて行われているのだ。
ヘレンが格納庫の扉を潜ると強化型シグーディバイドが所狭しと並んでいるのが見える。
さらに奥に進んでいくとそこには一機のモビルスーツが佇んでいた。
その下には白衣の研究者達が集まっている。
ヘレンの姿に気がついた研究者達は全員が作業の手を止め、敬礼してきた。
「状況は?」
「はい、ラナシリーズの調整は完了しました。すでに何人かはクロードと共にコロニーに向かわせてあります」
「スカージは?」
「そちらも問題なく順調です」
渡されたデータに目を通すとヘレンは満足そうに頷いた。
切れる手札は多い方が良い。
何といっても相手にするのはプラントを除くすべての勢力である。
いかに戦争で戦力を疲弊しているとはいえ、侮る事は出来ない。
ここで負ける事は、議長を失う訳にはいかないのである。
ヘレンは奥にあるベットに視線を移した。
そこにはピンク色の髪を持った少女が眠っている。
「彼女の調整も急がせなさい」
「了解」
幾つかの指示を飛ばすとベットに眠る少女を氷のように冷たい視線で一瞥する。
だが何も言葉を発する事無く、歩み去った。
◇
ステーションに集まった同盟の艦隊はそれぞれ目的のコロニーがある方向に加速し前進していく。
その艦隊より先行するモビルスーツがいた。
スレイプニルを装着したエースパイロット達の機体である。
彼らもまた三つの方向に分かれ、それぞれのコロニーに向っていた。
理由は簡単だ。
要するに艦隊が到着する前に少しでも防衛部隊の戦力を削り、速やかにコロニーに対する攻撃に移りやすくする為である。
時間が経ち、最終的に艦隊による攻撃での破壊が難しいとなれば核による攻撃で破壊しなくてはならなくなる。
出来るだけそれは避けたい。
アストの駆るクルセイドイノセントもスラスターを噴射しながら、キラのストライクフリーダムと共にコロニーに向け加速していた。
スレイプニルを装着したクルセイドイノセントの横に並び、移動しているストライクフリーダムには黒い装甲が装着されている。
ZGMF-X20Ab 『ストライクフリーダム・セーブル』
ストライクフリーダムにレギンレイヴの装甲を装備させた高機動形態である。
この装備はスカージによって破壊され、数が足りなくなったスレイプニルの代わりとして考案されたものだ。
今回の作戦には火力と機動力は必須。
その為の緊急措置である。
二機が先行してしばらく進んでいると、目標であるコロニーと敵部隊の姿が見えてきた。
向うも準備万端とばかりに展開を済ませているようだ。
「キラ!」
「了解!」
躊躇う事は無い。
自分達は敵戦力を排除する為に先行してきたのだから。
ストライクフリーダムがドラグーンを射出、同時に全砲門を前方に向け展開するとターゲットをロックし、一斉に撃ち出した。
「いけぇぇぇぇ!!」
放たれた砲撃が展開している敵部隊に突き刺さり、撃ち抜かれた機体は例外なく吹き飛ばされていく。
フルバーストによって敵部隊の防衛線に穴が空く。
アストはそれを見逃す事無く一気に加速する。
同時に両手に近接用ブレードを構えて斬り込んだ。
振るわれた長剣を受け止めようとしたザクはシールドごと両断され、攻撃を仕掛けたグフの脚部を斬り飛ばす。
近接攻撃用ブレードはその長さゆえに若干速度が落ちてしまうが、威力は折り紙つきだ。
防御しようとしてもその上から切断できる。
「くっ、全機、距離を取れ!」
「了解!」
隊長の指示に従い、全機が四方に散っていく。
しかしそれは完全な悪手であった。
元々火力が明らかに違うのだから。
「そこだ!」
クルセイドイノセントはスレイプニルのビーム砲と対艦ミサイル、追加武装であるビームガトリング砲を一斉に放出する。
ビームとミサイルがザクやグフに襲いかかり、砲撃を逃れた者もガトリング砲によってハチの巣にされていく。
「怯むな! 撃ち落とせ!!」
味方の惨状を目の当たりにした隊長機が激昂しつつ出した命令に従いオルトロスを構えたザク部隊が砲撃を開始する。
並の部隊であれば損害は免れないだろう砲撃。
だが次の瞬間誰もが眼を見開いた。
「当たらない!?」
あれほどの砲撃すらも駆け抜ける二機には通用しない。
ストライクフリーダムはすり抜けるかのように閃光を潜り抜け、腹部のカリドゥスで敵機を狙い撃つ。
砲撃体勢で防御もままならないザクは直撃を受け、大きな光となって消え失せた。
「くそ、フリーダムめ!」
「速すぎる!」
キラの動きに翻弄された部隊を狙い撃つように、側面に回り込んだアストがブレードから高エネルギー収束ライフル『アガートラム』に持ち替え、トリガーを引く。
撃ち出された閃光が敵数機諸共に消し去ると陣形が崩れた。
その間に今度はバズーカ砲を両手に構えると、ミサイルと共に一斉発射した。
「全機、迎撃を―――」
「対応が遅い!」
撃ち出された砲撃が敵部隊を一網打尽にして薙ぎ払った。
二機の圧倒的な火力によって容赦なく撃破され、成す術も無い。
「そこをどけぇぇ!!」
「邪魔をするなぁぁ!!」
アストとキラは連携を取りつつ敵陣を突っ切り、順調に敵戦力を削りながらコロニーを目指していく。
敵部隊は完全に浮足立っている。
このままなら自分達だけで先にコロニーを攻撃する事も可能だろう。
さらにそのまま敵陣に深く斬り込もうとした瞬間―――アストの全身に悪寒が走った。
「ッ!?」
咄嗟に操縦桿を引き、スラスターを逆噴射して機体を後退させると一条の閃光がイノセントのいた空間を薙いでいく。
それだけでは終わらない。
イノセントの回避先を的確に読んで次々と正確にビームライフルを撃ち込んでくる。
「アスト―――ッ!?」
援護に向かおうとしたキラにも悪寒が走ると同時に四方からのビームが襲いかかった。
ドラグーンだ。
ストライクフリーダムの周りに配置された砲塔が機体を撃ち抜かんと閃光を連続で放ってきた。
「これは!?」
キラは機体を巧みに動かし、ビームを回避しつつ敵機の姿を確認する。
モノアイの頭部を持ち、全身が赤色に染まった機体―――サタナエルだった。
背中のスラスターユニットを噴射させ、急速に距離を詰めてくる。
「クロード!!」
接近してくるサタナエルに向けてストライクフリーダムはフルバーストで迎撃する。
何条もの閃光と砲弾が迫る中、最低限の動きだけで回避したクロードはニヤリと笑った。
「さて、しばらく君達には私の相手をしてもらおう」
クロードは視線を滑らせ二機の姿を観察すると即座にイノセントの方へ狙いを絞る。
その理由は考えるまでも無い。
クルセイドイノセントが装備しているスレイプニルの事は月での戦闘や前大戦でクロードも知っていた。
あれの火力は十分に脅威だ。
余計な事をされる前に、ここで破壊させてもらうのみ。
「お前に構っている暇など!!」
ビームライフルを放ちながらサーベルを構えるサタナエルに対艦ミサイルを撃ち込んで迎撃する。
「甘いな」
しかしそれらの攻撃にも怯む事無くクロードは回避運動を取りながら機関砲でミサイルを撃ち落とし、複列位相砲『サルガタナス』を撃ち出した。
ただのビームであればそのまま回避すればいい。
しかし放たれたビームは直線でなく拡散し、広がりながらイノセントに襲いかかる。
「拡散した!?」
「避け切れない!?」
アストはビームシールドを展開して、サルガタナスを防御する。
だが拡散したビームの雨はシールドではすべてを防ぎきれずスレイプニルの側面に直撃。
衝撃と共にイノセントを震わせた。
「ぐっ!」
スレイプニルはモビルスーツの強化を念頭に企画、開発された装備だ。
並のモビルスーツであればその火力と加速性で十分に対応可能である。
しかしクロードには通用しない。
前大戦においても彼はスレイプニルを装着したジャスティスを戦闘不能に追い込んでいるのだ。
これが単純な戦闘であれば、スレイプニルをパージするという選択も取れた。
だが今回の作戦目的を考えれば破壊されるのも、迂闊に捨てるのも無理である。
つまりこのまま切り抜けるしかないのだ。
「この程度かな」
「舐めるな!」
アストは機体を襲った衝撃を噛み殺し、動き回るサタナエルに狙いをつけてビーム砲のトリガーを引いた。
スレイプニルの砲口から光が迸り、一直線に進んでいく。
クロードは迫るビームの奔流を機体をバレルロールして回避、ビームサーベルをクルセイドイノセントに叩きつけた。
眼前に振るわれた光刃をアストは近接戦用ブレードで受け止めると激しい火花を散らしながらも鍔迫合う。
「久しいな、アレン、いやアスト・サガミ君」
「何!?」
眩い光がモニターを照らす中、聞こえてきたのはデュランダルのものと全く同じ声。
「貴方は……クロードか」
キラから話は聞いている。
アストとは三年前に一度会ったきりだ。
だが前大戦においてキラやレティシア達が彼によって手酷い被害を受けた事は聞いている。
これまでの攻防からも彼の技量が卓越している事に疑いの余地はない。
だが気になるのはクロードはアレンと呼んだ。
その名で呼ぶのはザフトにいた時に接した事がある者だけの筈。
「貴方は何者だ? 何故俺をアレンと呼ぶ?」
「私はただの影であり、手足だよ。それに君とは何度も会って話をした事がある」
何度も話した事がある?
そこでアストも気がついた。
彼の容姿を考えればすぐに思い至る事―――
「……まさか」
「言っただろう、私は影だと。何度か彼の影武者を務め、君と接していたのだよ」
サタナエルはビームサーベルを押し込み、シールド内蔵のロングビームサーベルを展開。
イノセントに振り抜いた。
二つの光刃が同時に叩きつけられ、近接用ブレードは徐々に浸食され抉られていく。
このままではブレードが真っ二つに斬り裂かれてしまう。
「チッ!」
これ以上押し込まれる前にサーベルを上に弾き飛ばすと、もう一方のブレードを下段から振り上げる。
しかし下からの斬撃にも機体を横に半回転させ回避したクロードは蹴りを入れてイノセントを吹き飛ばした。
「ぐぅ!」
「そんな邪魔な重りを付けたままでこのまま戦う気かな?」
強い。
キラが追い込まれたというのも頷ける。
クロードはこちらの砲撃を物ともせず、軽やかな動きで反撃に転じてきた。
「アスト!」
周りに配置されたドラグーンを撃ち落とし、ビームライフルでサタナエルを引き離そうとキラはトリガーを引いた。
銃口から放たれたビームがサタナエルに向かっていく。
しかしそこで射線上に割り込む機影があった。
三機のシグーディバイドである。
サタナエルを守るように巨大なビームシールドを展開して立ちふさがったのだ。
ビームライフルはシグーディバイドが持っている見た事も無い盾のような装備によって弾かれてしまった。
「あれは新装備か」
シグーディバイドの腕に装備されている盾は『オハン』と呼ばれる武装。
元々はシグーディバイド強化案の一つで、防御力向上の為に考案された装備である。
片手にしか装備されていなかったソリドゥス・フルゴールビームシールド発生装置を補うために開発されたものである。
キラは距離を取りつつ何度か攻撃を加えるが、すべてオハンによって弾かれてしまう。
距離を取っての攻撃では埒が明かない。
「なら!」
接近戦に切り替える事に決めたキラはライフルからビームサーベルに持ち替え、シグーディバイドに斬り込んだ。
しかし敵は応じる様子はない。
距離を取り、ガトリング砲を撃ってくるだけである。
まるで斬り合うつもりがないかのような―――
そこにクロードの声が聞こえてきた。
「彼らには君の足止めを命じてある。オハンを装備した彼らはいかに君でもそう簡単にはやれまい」
「なっ」
さらに言ってしまえば彼らはすでにI.S.システムを発動していた。
クロードの言う通り、いかにキラでも彼らを簡単には突破できない。
ガトリング砲の射撃をバレルロールしながら潜り抜け、シグーディバイドに接近しようと試みる。
「それはさせないよ、キラ君」
クルセイドイノセントをビームライフルで牽制しながら、ストライクフリーダムにシールドに取り付けてある追加武装のバズーカ砲を撃ち出した。
キラがバズーカ砲を迎撃しようとライフルを掲げた瞬間、砲弾が四方に勢い良く弾けて拡散する。
拡散された細かい弾が黒い装甲に直撃、機体のバランスを崩されてしまった。
「ぐぅぅ!」
その隙を突くようにシグーディバイドが襲いかかる。
「キラ!?」
「君の相手は私だ」
クルセイドイノセントの前に立ちふさがるようにサタナエルが回り込みサーベルを振り抜いてくる。
振るわれた斬撃をナーゲルリングで受け止め弾き返す。
そして負けじと腰からサーベルを逆手で抜き放った。
これにはクロードも虚をつかれ、シールドを前に出して防御に回った。
「アスト、不味い。もうすぐ艦隊が来る。もう少し敵の数を減らさないと!」
防御を優先するシグーディバイドに足止めを食いながら、キラが叫んだ。
敵の数は未だに多く、これでは艦隊はコロニー迎撃に集中できない。
「分かってる!」
それはアストも十分に承知している。
だが目の前にいるクロードは手強い相手だ。
彼の相手をしながら、他の機体を相手にするのは難しい。
シグーディバイドに囲まれ、攻撃されているキラもまた同様だ。
防戦に徹する敵を捉えられずにいる。
「こいつら!」
シグーディバイドはI.S.システムを作動させている所為か、的確にこちらに向けて砲撃を繰り出してくる。
キラは放ったミサイルを敵がガトリング砲で迎撃する隙を見計らい、懐に飛び込んだ。
「これで!」
振り抜いた光刃は確実にシグーディバイドを捉えた筈だった。
だがその斬撃さえもシグーディバイドは直前で持っていたビームランチャーを盾として防いで見せた。
「チッ」
斬られたビームランチャーの爆煙から現れた敵機の姿にキラは思わず舌打ちする。
損傷は贔屓目に見ても軽微と言ったところだろう。
レール砲を連続で叩き込み、再び接近戦に持ち込む為に前に出た。
しかし再びクロードからバズーカ砲での援護が入り、シールドを展開しつつ距離を取らざる得なくなる。
アストはクロードと斬り結びながら近くで戦闘しているストライクフリーダムの姿を横目で確認した。
キラは三機のシグーディバイドによって押えられている。
押し込んではいるが、的確なタイミングでクロードが援護している為に均衡を崩せずにいた。
ならば先にサタナエルを落とすか、引き離すしかない。
アストは再び振るわれたビームサーベルをナーゲルリングで押し返しながら叫んだ。
「そこをどけ!」
「断る。通さないと言っておこう」
「ならば、力づくで押し通る!!」
サタナエルにブレードでシールドの上から斬りつけ吹き飛ばすと距離を取ってビーム砲を撃ち込んだ。
それすらも読んでいたかのようにサタナエルは回避してみせる。
だがそれはアストも予想していた事だ。
サタナエルの回避先にブレードを思いっきり投げつけ、クロードが横に避けた所を見計って、斬艦刀バルムンクで斬り払った。
回避は難しいと判断したクロードはビームシールドを展開して斬艦刀を受け止める。
刃をシールドで止めた事で、光が激しく飛び散っていく。
「流石にやる」
「この先に行かせてもらう!」
刃と盾を構え、どちらからともなく弾け飛ぶとライフルを構えて撃ち出す。
閃光が交わり、二機が交錯する度に光が弾けた。
◇
アスト達が激闘を繰り広げる中、遅れて追随していた艦隊が戦場に到着する。
中心にいるドミニオンのブリッジで状況を確認したナタルは思わず歯噛みした。
「思った以上に敵の数が多いか」
先行したクルセイドイノセントとストライクフリーダムは敵によって押さえ込まれているらしい。
簡単にいくとは思っていなかったが、現実に直面すると頭を抱えたくなる。
ナタルは各艦に向けて通信を繋ぐと淀みなく言葉を紡いだ。
「全艦に告げる。対艦、対モビルスーツ戦闘用意。モビルスーツ出撃後、各艦は作戦通りに対応し、配置につけ。目標はあくまでもコロニー、余計な敵は無視しろ。ただしザフトが何か仕掛けてくるかも知れない。警戒を怠るな!」
「「「了解!!」」」
ナタルの指示に従い、各艦もまたコロニーに向け、攻撃を開始した。
◇
アスト達がコロニーを守る部隊やクロードと激闘を繰り広げていた頃。
オーディンの部隊から先行する形で進んでいたレティシアとラクスもスレイプニルで戦場を駆け抜けていた。
「ラクス、右側面の部隊を!」
「はい!」
ターゲットをロックし、ビーム砲と対艦ミサイルを一斉に撃ち出す。
ミサイルの直撃によって、破壊された敵モビルスーツの爆発に紛れ、レティシアはブレードで残った敵に斬り込んでいく。
「遅い!」
右のブレードで袈裟懸けにザクを斬り裂き、左のブレードを横薙ぎに振るう。
長剣がグフの腹部を抉り、破壊した。
スレイプニルの攻撃で薙ぎ払われた敵の残骸が宇宙に浮かび、それを突っ切るように加速するとレティシア達はコロニーに向かって進んでいく。
そんな二機の速度と火力に対応できない防衛隊はただ浮足立つばかりだ。
しかしそれを気にする程お人よしでもなければ、余裕がある訳でもない。
その証拠に二人の表情は固い。
彼女達は理解しているのである。
今は先手を取れた事で、一時的に優勢になっただけに過ぎないという事を。
だがこの好機を見逃す手は無い。
艦隊が来る前に出来る限り、数を減らす。
レティシアが再びターゲットをロックし、トリガーを引こうとした時―――正面から強力なビームが撃ち込まれてきた。
「レティシア!?」
「くっ!?」
ヴァナディスはアイギスドラグーンを射出して、前面に防御フィールドを展開するとギリギリのタイミングでビームを弾き飛ばす事に成功した。
そして目の前に来た存在に気がついたレティシアは深くため息をつく。
予想はしていた。
しかし出来る限り関わり合いになりたくない。
もう二度と出会いたくないと思っていたのだが―――
「結局貴方が来る訳ですか」
ヴァナディスとインフィニットジャスティスの前に立ちふさがったのは、禍々しい外見で一対の翼を持った機体。
「リース・シベリウス」
レティシアは近づいてくるベルゼビュートを鋭い視線で睨みつけた。
機体紹介3更新しました。
ストライクフリーダムセーブルは刹那さんのアイディア、シグーディバイドの追加装備『オハン』は刀鍛冶さんのアイディアを参考にして使わせてもらいました。ありがとうございました。
おかしなところは後日加筆修正します。