【悲報】ワイ、転生したら百合の間に挟まる仮面ライダーだった【ゆるして】 作:イナバの書き置き
戦闘描写が死ぬ程苦手なので滅茶苦茶難産でした。
※内容に齟齬が見られたので9話の一部を修正しました。
そちらを先に読んで頂けると助かります。
「ぐっ……ぁ……!」
もう本当に、何1つとして残されていなかった。
アークワンの装甲は度重なる砲撃で半ば融解し、変身を維持する為に守り抜いたベルトとそのシルエットがかろうじて彼が仮面ライダーである事を証明していた。
それだけ、敵が強大なのだ。
アークワンの機能を全力で用いても完全には捌ききれない程、ギガント級は人を殺す能力に長けている。
────だが、それでも仮面ライダーの闘志は燃え尽きない。
「あッ……がッ、ぎィッ……!」
また1つ赤黒い華が鎌倉の海に咲き、ぐちゃぐちゃに引き裂かれたドローン状の生命体が海に墜ちる。
アークワンの活躍は、それはもう凄まじいモノだった。
洋上から百合ヶ丘を脅かすギガント級ヒュージは既に半壊し、莫大な量のマギを投射する端末も既に残りは2つとなっている。
これをリリィがしようとすれば、幾人もの死傷者と莫大な損害だけが結果として返ってくるだろう。
そもそもからして、リリィは海上での戦闘に不向きなのだ。
マギを足場にして海面に立ったり、多少の跳躍したりと言った事は出来るものの、結局そこ止まりなのである。
それはあまりにも致命的な弱点だ。
どれだけ強力な武器を持っていても、超人的な身体能力が活かせなければヒュージに対抗する事は出来ない。
安全な場所から圧倒的な火力で一方的に嬲り殺しにすれば良い、反撃されないのだからどれだけ巨大でも、無防備に端末を浮遊させても問題ない──そう言う訳だ。
リリィが相手なら、この上なく有効な戦術だった。
────リリィが相手なら、の話だが
「ごッお……ぐ、ぎィあぁぁッ!」
「■■■!?」
意味を持たない咆哮と共に、中空に浮遊していたアークワンが突如として赤黒い稲妻に変貌し──否、そう錯覚してしまう程のスピードまで一瞬の内に加速した。
途端に、今の今まで正確無比に狙いを定めていた筈の端末が困ったように右往左往する。
ヒュージの反応速度では高速移動するアークワンに追い付けないのだ。
『動き続ければ、勝機はある』
それは戦技競技会の時に、結梨にかけられた声援の1つだ。
例えどんな相手でも、どれだけ強力な力を持っていたとしても、当たらなければチャンスはある。
チャンスを逃さなければ、勝利を掴む事が出来る。
どれだけ追い込まれても、どれだけボロボロでも
二川アルトも、偉大な先達の教えに従っていた。
「ぐ、ぅ、いぎィ……ぎぃぃッ!」
だが、それもそう長続きするモノではない。
アークワンプログライズキーを奪取する為に致命傷を負った今の少年では、もう体が耐えられないのだ。
拳を振り上げる度に気絶しそうになる程の激痛に襲われ、蹴撃を繰り出す度に全身が砕け散るような衝撃が脳天まで突き抜ける。
「うあ……がッ、ひゅ……ぇあ……」
全身を絶え間無く苛む激痛に、白い仮面の下で少年は泣いていた。
全身の至る所から漏れ出す血で真っ赤になった顔を歪めて、ボロボロと涙を流していた。
普通は──いや、誰であっても無理なのだ。
今にも暴走しそうな悪意とバラバラになりそうな痛みに耐えながら戦える人間など、この世界の何処にもいやしない。
「──負ける、もんか」
だから泣く。
堪えられなくなった部分が、涙として溢れ出る。
屈しそうになる己を、苦痛に膝を折りそうになる己を涙と一緒に流して捨てる。
泣いて、泣いて──それでまた奮い立つ。
「負ける、もんかぁッ!」
血で濁った雄叫びと共に、仮面ライダーが更に加速する。
アークワンのセンサーを以てしても補いきれなくなった視界が、
それでも、二川アルトは止まらない。
止まる事だけは、あってはならない。
──自分の背後に何がある。
百合ヶ丘女学院だ。
「二川アルト」にとって何より守るべき、帰るべき日溜まりがある。
──自分の背後に誰がいる。
リリィだ。
「二川アルト」を見守ってくれた、何より尊ぶべき人々をアークワンは背負っている。
だから、例え
もし本当に砕け散るのだとしても、アルトに百合ヶ丘を脅かす敵を残すつもりはなかった。
だが、隙はまだ生まれていない。
ヤケクソみたいに全身から光弾を放つ、ヒュージの本体が邪魔をする。
「行けぇ!」
音すら置き去りにする程加速しても決定的な隙が生まれないのなら、己の力で作るまで。
虚空から精製された無数のアタッシュカリバーが号令と共に雨となって降り注ぎ、アークワン自身も両手に構えて突撃する。
「────獲った!」
2機の端末とヒュージ本体が即座にマギ光弾の弾幕を展開するが、その全てを撃ち落とすには至らない。
ホバリングする端末に2本、3本と剣が突き刺さり──ふらついた所を止めとばかりにアークワンに切り裂かれた1機が墜落する。
「残り1つ───!?」
ヒュージネストから供給されるマギを投射する端末さえ破壊してしまえば、マギの中継地点に過ぎない本体などただの木偶の坊だ。
撤退すらままならない位移動速度は遅い、光弾の威力も見た目程大した事はない、極め付きにバカみたいにデカいのだから、ミサイルでもノインヴェルトでも好きなだけ的にすれば良い。
つまり端末さえ──あと1つとなった端末さえ落としきれれば、それでアークワンの使命は果たされる。
完全無欠の大勝利が目前に迫っている。
だと言うのに────
「げ、ぎぇッ……!?ごおっ、ごぼぉッ!?」
突然せりあがった血の塊が堪えようとする少年の意思を無視してマスクの中に吐き出され、アークワンの動きが止まる。
それはほんの1秒にも満たない、隙とも呼べない一瞬だったが──端末から放たれた光線が直撃する。
「があッ……!?ちく、しょ──ぎィあッ!?」
1度捕まってしまえば、後は早かった。
自身を基点とした全方位への電撃で仕切り直そうとするアークワンに、光弾の津波が押し寄せる。
それでもまだスパイトネガが使えれば、この場から離脱する事位は出来ただろう。
逃げ出せれば、チャンスはあるのだ。
しかし、今の二川アルトが戦う理由に悪意は無い。
純然たる「守りたい」と言う意思が彼の原動力である以上、
「ぅ、あ──────」
アークワンの装甲は強固だが、衝撃まで完全に防げる訳ではない。
故に次々と飛来する光弾が少年の手足を、胴を、頭を滅茶苦茶に打ち据えた。
逃げ出す事すら叶わず弾き飛ばされ、打ち上げられ、削り取られ、そして────
『ぶえっくしょい!』
ほんの数日前まで、一柳結梨は「一柳結梨」だった。
決して「人間の」でも「リリィの」でもなく、「ただの一柳結梨」だ。
彼女は、それ以外に己を表現する言葉を持たなかったのである。
『りり────!』
だが、それは当然の事だ。
普段から自分が何者であるかを絶えず思索している人間など殆どいないだろうし、況してや結梨は記憶喪失だ。
七里ヶ浜海岸で梨璃にすがりついてからの、1ヶ月にも満たない僅かな時間が彼女の全てである。
謂わば、少女の姿をした赤子なのだ。
赤子が自分の生まれてきた意味を考えるなどある筈もないのだから、全て致し方ない事だった。
『梨璃、私────!』
それは百合ヶ丘に保護されてからも同じだ。
異様なまでの学習能力で言葉を覚え論理的な思考が出来るようになったものの、人の根っこがそんな早々に変わる訳はない。
梨璃達が彼女に不安を抱かせないよう伝える情報を絞っていた事もあって、結梨は何一つとして不自由なく好奇心の赴くままに生きていた。
何も悪い話ではない。
記憶を失った少女が健やかに、それでいて緩やかに新しい「自分」を作り上げようとしていた。
ただそれだけだ。
『梨璃、私────』
そんな彼女の思考を一変させたのが、つい昨日発令された
生徒会から申し渡された指令には結梨にとって──いや、百合ヶ丘の全リリィにとって驚くべき真実があった。
『私、人間じゃないのかな────』
どうも、一柳結梨は
曰く、自分は非道な科学者集団「G.E.H.E.N.A」が造り出した実験体だと。
曰く、元々の自分はヒュージから抽出した幹細胞を用いた「人の素」であり、ヒュージネストのマギを受ける事で初めて人の形を取ったのだと。
曰く、自分は記憶喪失ですらなく人の形をしたヒュージなのだと。
耳を塞いだって仕方無いのに、幼い少女は全て受け入れてしまったのだ。
するとどうなる。
────自分が、分からなくなる。
結梨は未完成のアイデンティティを、時間をかけて成熟させていく筈のそれを木っ端微塵に打ち砕かれてしまったのだ。
一柳結梨が「一柳結梨」である為の全てを、一瞬で失ってしまった。
「何かの間違いだよ」と梨璃は言う。
だが、こうなってしまえば最早何も分からない。
自分は人間だと思っていたのに、実際は人間じゃなかった。
ヒュージは敵だと教わったのに、自分がそのヒュージだった。
仮に──仮にその全てが質の悪い冗談だったとしても、少女の根幹を揺さぶるには充分だったのだ。
『結梨ちゃん……結梨ちゃんは、どうしたい?』
『私は────』
故にこそ、結梨は生きていたいと願った。
自分が何の為に人の形を持って生まれ、何の為に今まで生きてきたのか知るまでは死にたくなかったのだ。
だって、自分の生を無価値だと決め付けてしまったら「皆との思い出」まで無価値なモノへと貶してしまうから。
梨璃やアルトと過ごした入院生活も、始めての成功経験だった戦技競技会も、何もかも意味が無かった事になってしまうのだ。
自分が何者であったとしても、それだけは嫌だった。
『理事長代行と百由が政府を説得してくれたわ。結梨はリリィで人間と認められた。だから──だから、帰りましょう』
それだけに、一晩経って現れた夢結の言葉は何より嬉しかった。
一柳隊の皆が迎えに来てくれた時は、本当に泣きそうにすらなった。
仲間がいる事の心強さを、幼い少女は初めて知った。
梨璃と、夢結と、二水と、楓と、梅と、神琳と、雨嘉と、鶴紗と、ミリアムと────一柳隊の皆で、アルトが待つ
『─────っ!』
『待って!結梨ちゃんにまだ実戦は無理だよっ!』
だから、突然海上に現れた巨大なヒュージが百合ヶ丘に砲撃を始めた時、梨璃が制止するより速く結梨は飛び出していた。
──一柳結梨は何だ。
「百合ヶ丘のリリィ」だ。
──百合ヶ丘のリリィが果たすべき使命は何だ。
人類を脅かすヒュージを倒す事だ。
──ヒュージは何を攻撃した。
百合ヶ丘だ。よりにもよって
結梨が駆け出すには、この3つだけで充分だった。
そして、今。
「あ──────」
海上を駆け抜けギガント級に肉薄した結梨の、その眼前で撃墜された仮面ライダーアークワンが水飛沫と共に海中へと沈んでいった。
伸ばした手が届く前に、気付かれる前にアークワンは墜ちてしまったのだ。
だが、それも致し方無い話である。
結梨がヒュージの周囲を縦横無尽に飛び回るその人影に気付いた時には、既に満身創痍だったのだから。
偶々結梨が到着するタイミングまで「持った」だけであり、本来ならとうの昔に力尽きている事は間違いない。
「あっ、あ────!」
しかし、それを少女が納得するかはまた別の話だ。
少女はアークワンの変身者が誰なのか──いや、そもそもアークワンが何なのかすら知らない。
梨璃は結梨が混乱するのを避ける為アークワンについて一切言及しなかったし、アルト自身も「聞かれなければ答えない」タイプだったからアークワンに触れる事は無かった。
つまり結梨にとってアークワンは「見知らぬ装甲服を着た人」であり、守るべき人類の1人だったのである。
しかしそれが、守れなかった。
もっと頑張れば届いたかもしれない手が、ついぞ彼に触れる事は無かった。
客観的な事実がどうあれ、彼女は
「────あああああああッ!」
気が付けば、結梨は我を忘れて突貫していた。
「縮地」で加速しながら「フェイズトランセンデンス」で常時マギの足場を作り続ける──
「やあぁぁッ!」
それは正しく鎧袖一触。
元からアークワンの攻撃に幾らか被弾した事でボロボロになっていた端末が、アクションを起こす前に
そう、今や結梨のグングニルは極光を纏い圧倒的な火力で敵を断罪する必殺剣と化していた。
そんな事をすれば、普通のリリィは即座にマギが枯渇して倒れてしまうだろう。
例えフェイズトランセンデンスを用いたとしても一瞬しか持続しない筈なのに────今の彼女には限界が無い。
それは何故か。
(凄い、どんどん力が湧いてくる────)
ヒュージネストだ。
洋上のヒュージに接近した事でネストにも近付いてしまった結梨は、知らず知らずの内にその主であるアルトラ級からマギを横取りしているのだ。
勿論普通のリリィではそんな事が出来る筈もない。
結梨がこの「七号由比ヶ浜ネスト」に由来するヒュージの因子を持つからこそ実現している、謂わば裏技だった。
──そして、残る敵は「本体」だけ。
滞空する結梨の眼下で、端末を全て破壊されアークワンによって散々に痛め付けられた死に体のヒュージがじりじりと後退を始めている。
もうここまで追い詰めてしまえば、防衛軍の攻撃でも撃破は十分に可能だろう。
「────逃がさない!」
しかし、大上段に振りかぶった必殺剣が一瞬で少女の何倍もの長さに
結梨は、このヒュージに一瞬の逃走すら許すつもりはなかった。
確かに、後は防衛軍に任せても良い。
百合ヶ丘に帰還しつつあるリリィ達のノインヴェルト戦術に委ねればより確実だ。
────けど、それで失敗したら?
もし、万が一このヒュージをネストに帰してしまえば、次はもっと強力になってやって来る。
ノインヴェルトの対策をして、アークワンの対策をして、今度こそ百合ヶ丘を焼いてしまうだろう。
それは結梨にとって何より大切な、リリィ達との思い出が焼き払われる事と同意義だ。
「守れなかった……!守れなかったから、私────!」
それだけではない。
今、結梨の瞳には意識を喪失し弛緩したアークワンが落下していく光景が焼き付いている。
それはどれだけ拭ったとしても、絶対に消え去る事は無い「後悔」の記憶だった。
救えた筈の、助けられた筈の人間に手が届かなかった──そんな結梨の「後悔」が必殺剣を更に巨大で分厚い刃に変えるのだ。
────だから、絶対に逃がさない。
先に倒れた戦士に報いる為にも、百合ヶ丘を守る為にも今、この場で塵一つ残さず完全に消滅させると結梨は決意していたのだ。
「やぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「■■■■──────」
今、一刀の下にヒュージが切り伏せられ、あまりにもアッサリと戦いの幕が下りた。
先の戦闘でヒュージがそれだけ弱っていたとも言える。
そうしてこれと言った抵抗を見せる事なく七耀の光の中に歪なオブジェが消え─────
「──────あ」
グングニルの鍔に埋め込まれたマギクリスタルコアが、粉々に砕け散った。
羽根のような軽さを失いただの鉄塊と化したチャームの重さが、結梨の両手にのしかかる。
だが、それも当然の話だ。
尋常ではない量のマギを継続的に流し込まれればマギをCHARMに行き渡らせ、管理するマギクリスタルコアと言えど負荷に耐えられる訳が無いのだ。
寧ろここまで良く持ったと言うべきだろう。
「梨璃、アルト、皆────」
それ故、結梨はもう動けない。
奪い取ったマギを、そして己が秘めていたマギを全て放出してしまい身動きが取れない少女は、成す術も無く攻撃の反動にその身を焼かれる事になる。
「私────」
しかし、彼女の顔には一片の悔いも無い。
寧ろ晴れやかな表情を浮かべてすらいた。
満足しているのだ。
短い──一か月にも満たないあまりにも短い人生の中で、一柳結梨は様々な体験をした。
沢山学んで、沢山食べて、沢山触れ合った。
掛け替えの無い仲間が出来た。
そして一柳結梨は、得たもの全てを守れたのだ。
「出来たよ──────」
だから、後悔は無い。
胸いっぱいの充足感を抱えながら、爆発的に広がる光に呑まれて────
「結梨ちゃんは、こっち」
「──────え」
半壊状態で海中に没した筈の戦士が、結梨の肩を掴んで引き戻す。
その声に、その仕草に、その優しさに、全てに見覚えがある。
「大丈夫。結梨ちゃんはもう、一人じゃないから──」
「待って──────」
ただ一言で少女は知った。
ポイ、と放り投げられた少女の視界で、血塗れの二川アルトが柔らかく微笑み────音すら立てずに蒸発した。
◯仮面ライダーアークワン/二川アルト
百合の間に挟まった罪を完全に精算した。
純粋に学院を守ろうと戦っていたからアークワンの能力が全然活かせずこれまでで一番弱いし、ラーニングエンドも使えない。
本編でもやってなかったからラーニング6~9は普通に捏造です。
◯一柳結梨
超好き。
とんでもなく好き。
命令が撤回されるまでがダイジェストなのは仕様です。
皆も9話、見よう!
1人で突撃しちゃう理由はよく分かるし、誰も止められないのが分かっているからこそ辛い。
後今更分かりきった話だと思うんですけど、私は結梨ちゃんの救済がしたくて当作を書き始めました(自分語り)
正直に言って戦闘無しで考えたら誰との絡みが見たい?(あくまで参考である事をご了承下さい)
-
二水
-
結梨&梨璃&夢結
-
ぐろっぴ&百由様
-
一葉
-
恋花&瑶
-
千香瑠&藍
-
灯莉
-
ひめひめ&灯莉&紅巴
-
叶星&高嶺
-
その他一柳隊メンバーなど