【悲報】ワイ、転生したら百合の間に挟まる仮面ライダーだった【ゆるして】   作:イナバの書き置き

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書きたいと言う意思に体が付いて来ないねんな…



・感想、評価などありがとうございます。


第20話「君がいてくれた、ただそれだけで」

 マギの雪を、灰褐色の表皮ごと剣が裂く。

 曇天の空にあって尚一点の曇りも無く縦横無尽に瓦礫の大地を駆け巡る剣閃は、その軌道上に存在する敵──小型ヒュージを悉く両断して行った。

 正に刃の暴風。

 都庁に向けてただ1人進攻する仮面ライダーセイバーを押し留めるにも、数だけは一丁前な小型ヒュージ風情では役者不足の一言に尽きる。

 

「────はぁッ!」

 

 実際、火炎剣烈火と無銘剣虚無の2本を意のままに振るい出会う端からヒュージを斬り倒していく様は、その剣を模した角も相まって何も知らない者が見れば悪鬼羅刹か怪異の類いに映る事は間違いない。

 況してや変身者が普段物腰穏やかでお菓子作りを趣味としている美人リリィ等とは想像すらしないだろう。

 

 だが、これが現実だ。

 微笑みの裏側で幾つもの戦いを経験した歴戦のリリィが邪悪を祓う聖剣使いの資格を手にした時、彼女の才覚は新たな次元へと到達したのだ。

 それを証明するかのように右から左へと振り抜いた無銘剣が、並みのリリィであれば1対1でも苦戦は避けられないミドル級を3体纏めて斬り飛ばす。

 

「逃がさない……!」

 

 それ即ち、剣舞。

 レアスキル「ヘリオスフィア」によるマギ光帯バリアと磨き上げられた「勘」、加えてエモーショナルドラゴンワンダーライドブックから得られる圧倒的な量のマギが千香瑠の潜在能力を限界以上に引き出し、思わず舞踏と見間違えてしまう程の優美さを備えた身のこなしを異形どもに見せ付ける。

 そして故にこその一切鏖殺。

 何の目的も示さずただ人々を惨殺するヒュージに手加減など無用だと証明するかのように、念入りな殲滅を彼女は続けていた。

 

「此処から1歩も……いいえ、1体たりとも通さない!」

 

 少女の叫びは己への活。

 闘志を奮い起たせ、異形を討ち果たす使命の再確認。

 其処に一点の曇りも無し。

 

 だが、如何なセイバーの殲滅力を以てしても押し寄せるヒュージを根絶やしにする事は叶っていなかった。

 何せ眼前の都庁に「繭」を作った特型ヒュージが呼び寄せていると推測されるは、数えるのも億劫になるほど大量のケイヴ。

 空間に空いた「穴」からわらわらと湧いて出る異形の群れは今や津波となって仮面ライダーを襲っており──少女が仮面の下で険しい表情を作ってしまうのも当然だろう。

 それだけならまだしもCHARMの損耗が激しい鶴紗達が復帰するまでの時間を稼ぐ為単身先行した千香瑠は、孤立無援で疲労も蓄積しつつある中もう20分もこれを凌いでいるのだ。

 今は良くても、いずれ剣筋が鈍る。

 

「通さないって……言ってるでしょう!」

 

『 必 殺 読 破 』

『烈火抜刀!エモーショナル必殺撃!』

 

 ならば、と放った必殺の斬撃波はヒュージを撫で斬りにしついでとばかりに進路上のネストを1つ粉砕して消えたものの、直ぐ様それを埋めるように新たなケイヴが発生する。

 

「っ!ダメ……!ケイヴの発生に追い付けない!このままだと押し返される……!」

 

 事此処に至れば、どのような阿呆であっても1人での突破が不可能と悟るだろう。

 当然千香瑠も己の無謀に気付き、一瞬たたらを踏むが──

 

「だからって、ここで引き下がる訳にはいかないの!」

 

『 永 遠(とわ) の 大 神 獣 』

『 無 限 三 突 』

 

 1歩前に踏み出し、振り翳した左手の無銘剣が放つ黒いオーラで迫るスモール級を片っ端から灰塵に変える。

 そう、千香瑠は今立っているこの位置──即ち都庁から約120m程離れた路上から、1ミリだって後退するつもりはなかった。

 もしヒュージがこれを越えるとするならば、それは千香瑠が倒れる時。

 同時に仮面ライダーが敗れる時であり、リリィが使命を果たせなかった時である。

 

「……まだ。まだ戦える。皆が戦っているのに、私だけが膝を突いているなんて有り得ない」

 

 だから絶対に千香瑠は倒れない。

 近くに()()()()()()がいる限り、他地区の掃討が終らぬ限り、仮面ライダーセイバーは無敵でなければならないのだ。

 

「────!?」

 

 されど──何の前触れもなくガクンと膝が折れ、手からすっぽ抜けた無銘剣が幸運にも奇襲のチャンスを窺っていたスモール級の頭蓋に直撃する異常事態に、当事者である千香瑠は困惑した。

 そしてひくひくと痙攣しながら崩れ落ちる異形を見詰めながら、唖然とした表情で仮面の下の少女が呟く。

 

「……嘘。もう限界……?」

 

 そう、限界。

 何が──疲労が。

 エリアディフェンス崩壊直後の戦闘とファルシオンとの決闘を経て尚もヒュージと戦い続ける千香瑠の疲労は、当の昔にその許容量を突破していた。

 それもリリィとしてCHARMを振るっていたならまだしも、仮面ライダーとしての戦いである。

 明らかに人類を超越し肉体の限界性能を引き出すスーツと過剰なまでに供給されるエネルギーは、彼女を通常より早く消耗させる要素としてあまりにも充分過ぎた。

 

『■■■■■』

「……っ、囲まれた……!」

 

 当然ながら、この隙をヒュージが見逃す筈はない。

 異形の群れは瞬く間に火炎剣を杖にしてよろよろと立ち上がったセイバーを取り囲み、その光点としか呼べない瞳をぐるぐると忙しなく回転させている。

 圧倒的な物量での圧殺と同じように、これも彼らなりの戦略なのだろう。

 一点突破が無理なら一方向での制圧で、一方向での制圧が不可能ならば面で、それでも駄目なら()()()から────実に原始的だが、ヒュージは確実な対処法を実行してきた訳だ。

 

 正に絶体絶命。

 何処へ逃げたとて、何処を向いたとてヒュージの津波にぶち当たる定めにセイバーはあった。

 

『■■■■!』

「でも────」

 

 そして、今。

 千香瑠の眼前まで迫った球状のミドル級ヒュージが、その「足」を振り上げる。

 散々同胞を殺された仕返しと言わんばかりに、鋭く尖った外殻を見せ付け────

 

 

 

 

 

「……私()の勝ちね」

 

 

『パ ー フ ェ ク ト コ ン ク ル ー ジ ョ ン』

『 ラ ー ニ ン グ ・ ナ イ ン 』

 

 

 

 

 横合いから飛び込んできた赤黒い雷に触れた途端、周囲のヒュージ諸共内側から木っ端微塵に破裂する。

 そう、瞬時に体細胞を1つ残らず沸騰させられたヒュージの肉体はその形を保つ事が出来なくなってしまったのだ。

 そんな恐るべき雷は蛇のようにのたうち、青い水風船を路面にぶちまけアスファルトを砕きビルのガラスを融解させていたが──変身を解いた千香瑠は、自分だけを避けて暴れ回る稲妻の向こうに佇む「彼」に手を差し出して嫋やかに微笑む。

 

 

 

「……頼りになるわね、アルトくん」

「そう言われると照れるんですけど……」

 

 

 

 格好付けたつもりなのにどうにも締まらないし何でか千香瑠様には勝てる気がしない、とヒュージの体液を浴びながらアークワンは呟いた。

 

 

 

■■■

  20  

 

君がいてくれた、ただそれだけで

ᛏᚻᛖ ᚠᛖᚪᚱ ᛁᛋ ᚳᚩᛗᛁᚾᚷ ᛋᚩᚩᚾ

 

 

馬鹿が悪意でやってくる

──×──

"Malice learning ability."

■■■

 

 

 

35:ご機嫌よう名無し様 ID:kHAc65S/I

 バカヤロー!

 なんてヘタクソな戦い方だ!

 

36:ご機嫌よう名無し様 ID:NEreA7PGj

 リュウさんステイ

 

37:ご機嫌よう名無し様 ID:HXzL42dxG

 千香瑠様の安全確保が最優先だからセーフ

 いやセーフかこれ?

 

38:ご機嫌よう名無し様 ID:f5CAjD7N4

 千香瑠様が大切なのは分かるんだけどその為にビルがドロドロになってたり路面ぐちゃぐちゃになってたりで大惨事なんですがそれは……

 これ直すのめっちゃお金かかりそう

 

39:ご機嫌よう名無し様 ID:f5Hcabi2L

 しかも中途半端な壊し方してるのが質悪いわ

 壊すなら撤去しやすいようにちゃんと壊せ

 

40:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 いや

 止まらん

 

41:ご機嫌よう名無し様 ID:iNsE1v+tI

 は?

 

42:ご機嫌よう名無し様 ID:35ZDRz/zd

 もう制御出来てないんか?

 

43:ご機嫌よう名無し様 ID:teZsi051v

 あれだけ格好付けといてもう暴走とかダサ過ぎんだろ……

 

44:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 そうじゃなくて

 調子良すぎて止められん

 

45:ご機嫌よう名無し様 ID:q4XFDdMvc

 えぇ……

 

46:ご機嫌よう名無し様 ID:WPPW7sDFW

 その調子の良さをゼロツーに変身してる時に発揮してもろて

 

47:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 元鞘だからか何なのか分からないけど絶好調なんすわ

 マジこんな思った通りに動くの何年振りよ

 〔添付:アークワンが格闘だけで片っ端からヒュージを屠っていく動画〕

 

48:ご機嫌よう名無し様 ID:r+0rHTqmi

 無双ゲーかな?

 

49:ご機嫌よう名無し様 ID:UD5qb+ksb

 全く腰の入ってないふわっとしたパンチ1発で3体纏めて貫通してるの草

 ホント何やねんお前

 

50:ご機嫌よう名無し様 ID:tNNAV3py7

 明らかに普段より動きが大雑把なのに明らかに普段より強いやんけコイツ

 

51:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 こう……「死ね」って思った時に体が勝手に動き始めてるの楽で良いですね

 体の動かし方ミスってもアークワン特有の思考ネガティブ固定機能が「どうせ皆殺しにするからええやろ」って投げやりな方向に変えてくれるのも助かる

 

52:ご機嫌よう名無し様 ID:TuQ4/wcXd

 すげぇ何でもないように殺意マシマシな話し方するじゃん……こわ……

 

53:ご機嫌よう名無し様 ID:7Jk1Dqipg

 投げやりってかこれ開き直りじゃね……?

 1周回ってポジティブだろこんなん

 

54:ご機嫌よう名無し様 ID:WqAGNev16

 無理に論理的に戦おうとしていたから弱々だった可能性が微粒子レベルで存在している……?

 

55:ご機嫌よう名無し様 ID:RzRzSwUVl

 てか後ろで千香瑠様も中々訳の分からない動きしてて笑えるんだが

 何あの殺人ベイブレード

 

56:ご機嫌よう名無し様 ID:V3q/mbaqF

 めっちゃぐるぐる回転しながら正確にヘッドショットしてる……何あれ……

 

57:ご機嫌よう名無し様 ID:fCpIMWiTp

 セイバーに変身してなくても滅茶苦茶強いやんけ千香瑠様

 

58:情報ニキ ID:nGM0WRjAT

 当人が全く語ろうとしないけど御台場迎撃戦参加メンバーだからな……

 しかもあの第3部隊の

 

59:ご機嫌よう名無し様 ID:+Wg9VhEEx

 へぇ

 前から凄い凄いとは聞いてたけどそんななんだ

 

60:ご機嫌よう名無し様 ID:L2s5D8fk3

 普段はあんなおっとりしてるのにねぇ

 

61:情報ニキ ID:nGM0WRjAT

 夢結様が所属してて出会う端からギガント級を薙ぎ倒してった第1部隊とか主目標のアルトラ級を討伐した第2部隊に比べれば一見地味だけど遊撃部隊としてはこれ以上にない位完璧だからね

 しかも臨時編成で

 

62:ご機嫌よう名無し様 ID:ean56DZmx

 当人の配置が後ろだからあまり目立たないだけでバリア張ったり狙撃したりで援護の鬼感ある

 

63:ご機嫌よう名無し様 ID:adPlC2eoQ

 こんな強い人が何でエレンスゲの序列だと下の方に埋もれてるんですかね……

 

64:ご機嫌よう名無し様 ID:n3fIsfyVB

 校風と合ってないんじゃね?って話はあった

 百合ヶ丘に引き抜こうかみたいな事を依奈様も言ってたし

 

65:ご機嫌よう名無し様 ID:xolbjQ7cY

 ほーん

 大変なんだなぁ

 

66:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 何なんすかねあれ

 〔添付:瞬間移動を繰り返しながら都庁を駆け登るデュランダルと上空からゼロワンが繭に光線を照射している動画〕

 

67:ご機嫌よう名無し様 ID:6c2E7aEXx

 ……?

 

68:ご機嫌よう名無し様 ID:bUJILjHrX

 分からん……

 2人だけ別の世界に生きてる……

 

69:ご機嫌よう名無し様 ID:F9kTAQiWF

 社長はそこまで行くともう爆撃機なんよ

 

70:ご機嫌よう名無し様 ID:1VA5unHvJ

 繭もすげー頑張ってリフレクター展開してるのにオーソライズバスターで無理矢理抉じ開けられてるのホント可哀そう

 

71:ご機嫌よう名無し様 ID:AvHiEIZfh

 せめて中身にも出番あげたげてよぅ!

 

72:ご機嫌よう名無し様 ID:XIdUQ76Cc

 いやこれもうすぐ終わるでしょ

 社長は爆撃機兼解体職人と化してるしひめひめデュランダルはスタイリッシュアクション始めてるし間違いない

 

73:ご機嫌よう名無し様 ID:1FW0W15ue

 勝ったな風呂入ってくる

 

74:ご機嫌よう名無し様 ID:ezqgVw1H4

 いやぁ特型ヒュージは強敵でしたね

 

75:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 ……あのさぁ

 

76:ご機嫌よう名無し様 ID:les6mji6s

 はい

 

77:ご機嫌よう名無し様 ID:8cajlb8+U

 何ですか

 

78:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 お前らがフラグ立てまくるから中身出てきちゃったやんけー!

 〔添付:頭部だけの巨大な龍に似たヒュージが浮遊している画像〕

 

79:ご機嫌よう名無し様 ID:2llfX+jAW

 草

 

80:ご機嫌よう名無し様 ID:UnQWWuqks

 あーあー社長とひめひめも吹っ飛ばされてるし千香瑠様もこれ以上は無理そうじゃん

 どうすんのこれ

 

81:ご機嫌よう名無し様 ID:tf954/a7P

 都庁こわれる

 

82:ご機嫌よう名無し様 ID:QTrRokCBB

 直すのに何億かかるんやろな……

 

83:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 え、てかさ

 コレヤバくない?

 〔添付:特型ヒュージが口腔内にマギを蓄積させ始めている動画〕

 

84:ご機嫌よう名無し様 ID:RhNzmmNZ6

 ヤバいわよ!

 

85:ご機嫌よう名無し様 ID:ufKsBwO6I

 ビームのチャージとか明らかにヤバいですね☆

 

86:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 いややっぱダメだヤバいとか抜かしてる場合じゃない

 コイツ今すぐ殺す

 

87:ご機嫌よう名無し様 ID:FtN1dmqRD

 急にガチになってて草

 

88:ご機嫌よう名無し様 ID:JZIysipdt

 何?

 どしたん?

 

89:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 このクソ野郎梨璃ちゃん達のいるシェルター狙ってますねぇ!

 明らかにそっちに向けて口開けてる!

 

90:ご機嫌よう名無し様 ID:Z2mUnCN1Z

 は?

 許すな

 

91:ご機嫌よう名無し様 ID:RraAjklkM

 こんな所に書き込んでる暇があったら殺せ

 2度とそんなふざけた事出来ないように粉微塵にしろ

 

92:ご機嫌よう名無し様 ID:lYCsynJ7w

 イッチがいる限りヒュージ風情が百合の間に挟まれると思うなよ

 

93:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 言われずともそうするつもりだけど……

 コイツマギディヴァイダーで頭真っ二つにしても再生しよる

 ブーステッドスキルでも付いてんのかな

 

94:ご機嫌よう名無し様 ID:FnHcYFPo5

 えぇ……

 

95:ご機嫌よう名無し様 ID:MEQ+aWkJj

 ドウスッペ……

 

96:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 アークワンなら一撃で60%は確実に壊せるけどそもそも何割損壊すればコイツが死ぬのか分からない

 皆散り散りだからノインヴェルトも期待出来ない

 でも一撃で殺しきるしかない……とするとアレしかないかぁ

 

97:ご機嫌よう名無し様 ID:tN7JvV2GN

 アレ……?

 

98:ご機嫌よう名無し様 ID:egd+DLhti

 またロクでもなさそうな……

 

99:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+EDN

 ほんっっっっっとうに嫌だけど!

 エデンの計画に手を貸すのは心の底から癪だけど!

 ゼロツープログライズキーとマギディヴァイダーをリリースして、カモン──────

 

 

 

 

 

 

 

ヘルライジング!

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 少女の履く23.5センチのローファーが、砕けたアスファルトを更に蹴り砕く。

 彼女の持つ尋常ならざる身体能力が遺憾無く発揮されたシーンではあったが、薄紫色の長髪を二つ結びにした少女にとってそのような事は何ら重要ではない。

 

 加速、加速。

 1歩進む度に、靴底が地面を踏む度に一柳結梨は加速する。

 マギの作用でベクトルを逆方向に転換させ、それによって瞬間移動と錯覚する程の加速を可能にするレアスキル「縮地」とマギによって能力を強化したリリィが発揮する圧倒的な脚力は、彼女を一迅の風へと変貌させていた。

 

「────」

 

 足は──当然ながら、痛い。

 しっかりと路面を踏み締めているように見えても足取りは覚束ず、半ばつんのめるようにして結梨は走っている。

 本来一気に距離を詰めるとか緊急回避の際にほんの数瞬だけ使用するのが適切な使い方だと言うのに、それを5分間も連続で跳躍し続ければ誰だってこうもなろう。

 ただ、無理を承知でそれをせねばならない理由が結梨にはあった。

 

「────今度は私が、助けるの!」

 

 そう、特異過ぎる出自故に全てのレアスキルを使える少女は、精密な測量を可能とする「天の秤目」で都庁に発生した一部始終をしっかりと目視していたのだ。

 ただ1人でヒュージの群れに立ち向かうセイバーも、増援として駆け付けた仮面ライダー達も、何故かアークワンへの変身能力を取り戻していた少年も、そして彼の背中から生えた何者かの赤黒い腕がサウザンドジャッカーに「何か」を装填した瞬間も、何もかも。

 そして結梨は「何か」のおぞましさもまた目撃した。

 

 キーだった。

 結梨が恐れた「何か」とは、シャイニングアサルトホッパープログライズキーによく似た形状の、全く見覚えのない赤黒いキーだった。

 だが、分かる。

 何も知らずとも、一目見るだけで分かってしまう。

 

「だってあんなの……あんなの使ったらアルトが死んじゃう!」

 

 間違いなくあのキーは少年を殺す。

 明確な根拠など何一つとしてないけれど、結梨の勘は正確に彼の危険を察知していたのだ。

 だから走る。

 一心不乱に、呼び止めようとする神琳達の声さえ一瞬の内に置き去りにして、酷使に苦しむ肉体に尚も鞭打って、その果てに──少女は天を貫く赤い剣と、特型ヒュージの上でそれを掲げる少年の姿を見た。

 

 

 

 

 

『 T H O U S A N D R I S E 』

 

 

 

 

 

「……もう、止められないぞ」

「良いんですよ、これで。アンタに手を貸すのは癪だけど此処で梨璃ちゃん達が死ぬよりはずっとマシだ」

 

 曇天を引き裂きどこまでも真っ直ぐに伸びていく赤い光と、その周りに何重にも展開されつつある光輪を見上げながら少年と彼の背中から生えたエデン()は半ば投げやりな口調で言葉を交わす。

 少年は、決してリリィを信頼していなかった訳ではない。

 寧ろ見知った仲であろうと秘かに尊敬していたし、此方の異常を察知するや否や一斉に走り出したのをアークワンのセンサーは確かに捉えていた。

 

「二水ちゃんと紅巴ちゃんが此処に来るまでに109秒、鶴紗さん達が257秒、突出した梅様が146秒、神琳さん達が185秒、夢結様は──ダメか」

「特型が攻撃準備を整えるまでは?」

「残り103秒」

「間に合わないな」

「うん、どう考えても間に合わない」

 

 ただ、間に合わない。

 最早どうあっても足元の特型がチャージを完了させるまでに辿り着く事は無いからこそ、二川アルトは単独での一撃必殺を決定したのだ──それがエデンの計画に残された最後のピースだと知りながら。

 

「しかしこの特型……エヴォルヴだっけ?こんな大人しくしてるとは思いませんでした。一色さんは何でか分かります?」

「顔面を裂かれた時点で正面からでは勝てないと悟ったのだろう。その点一柳梨璃達を狙えばお前は必ず止めようとする。体を盾にするとか今こうしてヘルライズキーを使っているのもそうだが────」

「俺がビームを受け止めても自爆しても目的は達成されるって事ですか」

「そうだ。だからチャージを終えるか此方が何かアクションを起こすまでコイツは動かん」

 

 何でもないように2人は話しているが、気絶した梨璃達の守護と引き換えに少年は間違いなく死ぬだろう。

 何せサウザンドジャッカーから伸びる光の剣は「破壊」の概念そのもので、これを自分の足元に突き立てようものなら木っ端微塵になるのは確実だ。

 そしてフルチャージでなくともエヴォルヴの口腔でうねるマギの奔流を浴びせられれば染み1つ残らないのもまた当然の話。

 つまり特型は粛々と光線を発射すればそれで目的を達成出来るし、状況だけ見るならば少年は死ぬ為だけに此処に立っているとしか表現出来まい。

 

 ──尤も、前者に関してはそれが彼の狙いでもあったが。

 右手で掲げた黄金の剣を眺めながら、勝利の確信に至った笑みを少年は浮かべる。

 

「じゃあ()()が壊れるまで遠慮なくぶっぱなして良い訳だ」

「ああ。東京が消し飛ぶかお前が死ぬかの賭けになるが」

 

 そう、二川アルトの目的はサウザンドジャッカーの自壊にあった。

 と言うのも今しがた少年が発動した「サウザンドブレイク」は、特型ヒュージを細胞1つ残らず消し飛ばした程度では到底収まらぬ威力を秘めているのだ──具体的には、23区が纏めて瓦礫の山になるほど。

 それは彼もエデンも望んだ結末ではない。

 故に仮面ライダーアークワンは自らサウザンドブレイクに巻き込まれ、その威力でサウザンドジャッカーそのものを破壊する。

 幾ら少年が生成したヘルライズキーが世界を滅ぼす力を持っていようが、今回は()()()()()()()()()()()()()設定をされている訳でもないので出力装置さえ壊してしまえば無理矢理技を中断出来る──と言う訳だ。

 

 時間が無い中、即興で考え付いたにしては合理的。

 正に「悪くない」と言う評価が適切だが──

 

「……やはり、死ぬぞ?」

「死なないって」

「何故だ」

 

 やはり、死ぬ。

 どう考えても、何度計算しても少年は死ぬ。

 アークワンの装甲と生命維持装置ではサウザンドジャッカーの崩壊まで命を保護出来ないとエデンは推測していた。

 なのに彼はそうならないと言う。

 何か見落としがあるのか、或いは未知の要素があるのか。

 あまり時間は残されていないが、それが気になって仕方ない。

 

「来週は二水ちゃんとグリーンガーデンに行けなかった分の埋め合わせをする事になってんの。それに稽古も付けてもらうし鶴紗さんと珈琲店行く約束だってあるんだから死ねる訳ないだろ」

「はぁ」

「はぁって何だよはぁって」

「いや、何でもない」

 

 不満気な声音の少年を流しつつなるほど、とエデンは納得した。

 やりたい事、やるべき事があるならおちおち死んでもいられない。

 寧ろ特型などさっさと片付けて百合ヶ丘に帰ってしまいたいだろう。

 ならば──手を貸すのも、吝かではなかった。

 

 

 

「残り47秒。此処でしくじれば全て終わりだ、上手くやってくれ」

「勿論」

 

『 T H O U S A N D B R E A K 』

 

 

 

 補助の為に背部の装甲から形成したエデンの「腕」が掲げられたサウザンドジャッカーの柄を掴むと同時に、少年がトリガーを引き絞る。

 後はこれを突き立てれば全てが終わる。

 少年が死ぬにしろ死なないにしろエヴォルヴ(特型)は細胞片1つ残さずに終わるのだから、躊躇う理由は何1つ無い。

 故にこそ、切っ先を下に向け────

 

 

 

 

 

「ダメぇぇぇぇぇ────ッ!」

 

 

 

 

 

 横合いから弾丸の如きスピードで突っ込んで来た結梨もまたグングニルを投げ棄て両手でがっしりと柄を掴む。

 何をしようとしたのかと言われれば、勿論止めようとしたのだろう。

 或いはアルトを弾き飛ばして自分が身代わりになろうとしたか。

 ただ──どちらにせよ、少女の献身は本懐を遂げた。

 

「いたっ」

 

 無駄に勢いがあって、アークワンは結梨の想像以上にしっかりとヒュージの上に立っていたのだ。

 その結果──彼女はゴツン、と鈍い音を立てて戦士の胸板に頭をぶつけるだけに留まった。

 当然ながら、アークワンの動作を妨げる行動には何一つとして繋がっていない。

 

 しかし。

 しかしだ。

 

「結梨ちゃん……!?」

「……お前の計算よりずっと早くに着いたな」

 

 少年の想定よりも、ずっと早い。

 まだ1.5kmも離れた場所にいる筈の少女が、何故か此処にいる。

 これは──駄目だ。

 今サウザンドブレイクを放ってしまえば、何の装甲も纏っていない無防備な結梨を巻き込んでしまう。

 ならば、とばかりに彼女の手をサウザンドジャッカーから引き剥がそうとするが、まるで動かない。

 アークワンの腕力を以てしても全身全霊で剣にかじりつく結梨には全く敵わなかったのだ。

 

「結梨ちゃん離れて!」

「やだ!」

「危ないからホントに!」

「やだ!!」

「なんで!?」

 

 言葉ですら、通らない。

 何故なら一柳結梨の決意はこの場の誰よりも強固だからだ。

 特型だろうがエデンだろうがアークワンだろうが打ち砕けない位に強いそれに傷を付けるなど、何があろうと絶対に不可能なのだ。

 だって────

 

「もう絶対に独りにしないもん!」

 

 魂からの叫びに、少年は思わず口を噤んでしまう。

 そう、自身が「ヒュージ」ではなく「人」として認められたあの日、ノインヴェルト戦術を模倣したヒュージが出現したあの日、既に死にかかっていた彼がその身を差し出して結梨の手を引いたあの日、結梨の心には1つの後悔が残った。

 何故()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか、と。

 放り投げようとする少年の手を掴み返す事も出来た筈だ。

 後もう一踏ん張りすれば、自分もアルトも救われた筈だ。

 なのに、出来なかった。

 目の前で蒸発し、生命として1度完全に消滅してしまったのだ。

 

「1人で無茶するのなんて、絶対にダメ!」

「だから────」

「やるなら私も一緒にやる!」

「はぁ!?駄目だって!梨璃ちゃんが悲しむでしょ!」

「それならアルトは散々二水を悲しませてる!アルトが悪い子なら私も悪い子になる!」

「ぐ、ぬ……この分からず屋め!」

「どっちが!」

 

 だから放さないし離れない。

 是が非でも、例え両腕が引き裂かれようと結梨は少年にかじりつくつもりでいた。

 とは言え、特型のチャージは後十数秒で完了する。

 何をどうするにしたって、色々と手遅れでもある。

 

「……私がやるしかない、か」

 

 なので──ぎゃあぎゃあと喧嘩を始めた2人を他所に、腕だけのエデンは柄頭を押してサウザンドジャッカーをヒュージの頭頂に突き立てた。

 

「えっ」

「あっ」

 

 ぐい、と腕を引っ張られる感覚に少年少女が揃って凍り付くが、時既に遅し。

 一際強い光を放った赤いエネルギー流の切っ先が鞭のようにしなり、そして────

 

 

 

「多少は防いでやるから、後はお前達でどうにかしてくれ」

「裏切ったな一色さん!?」

「やったー!これで共犯?だよ、アルト!」

 

 

 

 満面の笑みを浮かべる少女と、無機質な仮面の下で冷や汗を垂れ流す少年に向かって降り注いだ。




◯二川アルト/仮面ライダーアークワン
悪意でやってくるタイプの馬鹿。
変身前から考えるより先に動き出すタイプだったけどアークワンへの変身後は考えるより先に手が出るようになる。
アークが悪意を学んだ結果変身時の精神汚染がBouquet編より深刻になり良く言っても大雑把、悪く言えば投げやりな精神状態。
ただ優先順位や目的を履き違えている訳ではなく、「後悔するなら目的を達成してからにしろ」と絶えず自分を責め立てているだけである。
同時に即断即決傾向が更に強まり、リリィ達が間に合わないと分かった瞬間ヘルライズキー製作を決定するレベルまで至った。
マギディヴァイダーは途中までぶんぶん振り回してたけど最終的に火力が足りなそうなのでヘルライズキーの素材にした。

◯一柳結梨
我らが無鉄砲少女。
アニメでの描写から今作では全てのレアスキルを使える事にしているけど実際どうなのか分からん。
百仮面ライダー合が目の前で蒸発したのはかなりのトラウマになっている。
基本的に良い子だったのに死に急ぎ野郎が死に急ぎ過ぎなので悪い子になってしまいました。
百仮面ライダー合のせいです。

◯仮面ライダーエデン/一色理人
アークワンに変身した百仮面ライダー合の治療担当。
(何やってんだコイツら…)と常に思っているし何か知らない仮面ライダーが活躍してるしで混乱気味。
挙げ句雑魚散らししていた時は割とほのぼの()していた百仮面ライダー合の思考がエヴォルヴ出現と同時に殺意一色になったのにドン引きしている。

◯エヴォルヴ
めっちゃ再生する特型くん(故)
どうせ死ぬし梨璃ちゃん狙えば百仮面ライダー合は絶対に盾になるから頭の上に乗られても動き出すギリギリまでチャージするぜー!してた。
なおサウザンドブレイクで消し飛んだ模様。
梨璃ちゃんのラプラス覚醒イベントをキャンセル出来たのが唯一の戦果。

◯ヘルライズキー
REAL×TIMEの時の製造法(ゼロツーキーをサウザンドジャッカーに差してから別のキーを改めて装填する)に加えマギディヴァイダーのジェネレーターをフル稼働させて製造した世界を滅ぼす例のアレ。
今回はカウントダウンする方のジャッカーではなく普通のジャッカーで作ったので(そう設定しなければ)60分後に世界が滅んだりはしない。







これでエデンが楽園への移行を行う為に必要な全ての条件が整った。

正直に言って戦闘無しで考えたら誰との絡みが見たい?(あくまで参考である事をご了承下さい)

  • 二水
  • 結梨&梨璃&夢結
  • ぐろっぴ&百由様
  • 一葉
  • 恋花&瑶
  • 千香瑠&藍
  • 灯莉
  • ひめひめ&灯莉&紅巴
  • 叶星&高嶺
  • その他一柳隊メンバーなど
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