【悲報】ワイ、転生したら百合の間に挟まる仮面ライダーだった【ゆるして】   作:イナバの書き置き

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ラスバレがさぁ
色々やるってんだからさぁ!


第22話「溶けて、崩れて、溶け落ちて」

 天津垓と言う男は一色理人にとってどのような人物だったか。

 そう問われれば、彼は躊躇いなくこう答えるだろう。

 

「胡散臭くて自意識過剰で時々大活躍する男」

 

 と。

 事実、その一言は彼を評価するに於いて最も適切な言葉である。

 何せ理人が垓と初めて出会ったのはゼロワン計画発足に際し各企業の代表を集めてパーティーを行った時だが、ZAIAジャパンの社長として出席した彼は何故か膝の上に飛電製の犬型ロボットを載せて優雅にステーキを食べていたのだからもう筋金入りだろう。

 彼の奇行はそれだけに留まらず、フラッと開発室に現れてはいまいち役に立つのか立たないのか分からないようなアドバイスをしてみたり、都市の外れにあったバーで飛電或人と酒の飲み比べをして酔い潰れてみたりと自由奔放を地で行く男だったと思うのだ。

 

 ただ、理人は垓を本心から尊敬もしている。

 だって、ゼロワン計画に対して垓は誰よりも真摯だった。

 彼は本気で仮面ライダーが人々を救うと、或いは人々が自らの力でヒュージから身を守れるようになると信じて疑わなかった。

 着用すら出来なかったアークゼロがアークワンになり、フォースライザーを経て漸く完成したショットライザーを両手で掲げ、満面の笑みを浮かべて走り回っていたのを理人は今でもしっかりと覚えているのだ。

 だからこそ────

 

 

 

「久し振りですね、理人くん。また会えて嬉しいです」

「……私は、2度と会いたくありませんでしたが」

 

 

 

 デイブレイクと甲州撤退戦を経て尚胡散臭い笑みを絶やさないこの白スーツに会う事を、一色理人は心の底から忌避していた。

 しかし、彼を呼んだのは理人自身であり、頼らざるを得ない状況に持ち込んでしまったのも理人自身だ。

 悠々と道の向こうから歩いてきた時点でもう逃げ帰りたくなった己の意思を抑え込みながら理人は、話し掛ける。

 

「2年振り、ですね」

「ええ、2年振りです。世界は変わりましたが、貴方は変わらないようで何よりです」

「……何だって?」

 

 ほら、これだ。

 2年も顔を会わせていなかったと言うのに、口を開けば訳の分からない事を言い出す所も全く変わっちゃいない。

 見れば──いや、見ずとも分かるだろう。

 一色理人は変わった。

 人としての形を捨ててナノマシンの集合体に変わり果て、真っ当な人間としての感性を捨てて楽園の創造者になったと言うのに、この男は何を言うのか。

 

「おや、気に障りましたか?それは失敬。ですが貴方は何にも変わっていない」

「……」

「根っこの部分が2年前のままだと言っているんですよ。楽園の創造者を名乗ろうが貴方はただの一色理人だ」

 

 しかし、当然のように垓は持論を押し付けてくる。

 己の考えに1ミリだって疑いを持たず、それが正しいと心の底から信じている姿こそ寧ろ2年前から変わっていないと言えるだろう。

 2人の間に、変わった所があるとすればただ1つ────

 

「そう言う貴方は、変わりましたね。ZAIAジャパンの社長を務めたあの天津垓が、今では廃品回収業者ですか」

「ええ、秘書と二人三脚でサウザンインテリオンを立ち上げましたが……中々悪くない。無一文からの再起も味があるモノです。どうです、私と共に働いてみませんか?今ならそれなりの待遇も出来ますよ」

「お断りします。今は教祖をやっているので」

 

 随分と没落したものだ、と嘲笑するつもりがこれもまた通じない。

 全く以て、天津垓と言う男は言葉での駆け引きに於いて無敵そのものだった。

 これが理人はダメなのだ。

 何を言っても、何をしようとまるで太刀打ち出来ないこの男が一色理人は心底苦手だった。

 

「天津さん、貴方に依頼があります」

「何です?」

 

 しかし、やらねばならない。

 未来ある一柳結梨の為にも、勇敢が過ぎる二川アルトの為にも、理人は己に残っているかも分からない勇気を奮い立たせ──重々しく口を開いた。

 

 

 

 

 

「我々の研究所を、襲って欲しい」

 

 

 

■■■

  22  

 

溶けて、崩れて、溶け落ちて

ᚪᚱᛣ ᛉᛖᚱᚩ

 

 

アークそのもの

──×──

"ALL ZERO."

■■■

 

 

810:ご機嫌よう名無し様 ID:Ga/GpsEtp

 イッチ本当に大丈夫?

 目茶苦茶具合悪そうだけど

 

811:ご機嫌よう名無し様 ID:EqvsUaKYM

 見てる感じかなり辛そうだけど

 何か悪いモノでも食った?

 

812:ご機嫌よう名無し様 ID:Td8KH5EfR

 まぁあんなズタボロにされといてナノマシンで治したから安心!ってのは無理がある話だし……

 後から不調が来るって事もあるし大人しくしといた方が良いんじゃ……

 

813:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 >>810

 正直かなり辛い

 ぐらぐらするって言うかふわふわするって言うか、兎に角色々と安定しない

 横になってた方が良いかな

 

814:ご機嫌よう名無し様 ID:N6iIwNTHj

 そりゃそうよ!

 寧ろ体調悪いのになんで起き上がろうとしてるのイッチは

 

815:ご機嫌よう名無し様 ID:VGzutc8Ao

 そーそー

 二水ちゃん達には申し訳ないけど1日位脱出を遅らせたって問題はないだろうし今日はテレビでも見ながらゆっくりしとけ

 

816:ご機嫌よう名無し様 ID:FZlf2mY2X

 そりゃG.E.H.E.N.A.の研究施設で居心地が悪いのは分かるけど焦ったって仕方ないしな

 どうせ全部壊して帰るんだから明日でも変わらん

 養生せよ

 

817:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 わかった

 皆の言う通り今日は大人しくする

 

818:ご機嫌よう名無し様 ID:x0NM7ufFQ

 休日ヨシ!

 

819:ご機嫌よう名無し様 ID:QPlTq6t40

 お大事に!

 

820:ご機嫌よう名無し様 ID:whuhlPYhz

 しっかし……この世界でもシンクネットはシンクネットでしたねあのゴミカス共

 

821:ご機嫌よう名無し様 ID:waogEMVKm

 イッチだけなら兎も角結梨ちゃんに向ける目線がなぁ……

 ひょっとしてアイツらロリコンなんか?

 

822:ご機嫌よう名無し様 ID:O34zf8gs3

 いやどう考えたってヒュージ由来の細胞狙いでしょ

 この世界のシンクネットはG.E.H.E.N.A.の過激な研究員と信者が主体だから結梨ちゃん狙うのは分かるで

 

 まぁ百合の間に挟まるヤツはワイが許さんが

 

823:ご機嫌よう名無し様 ID:iNGMflgxE

 数が減った分悪質さがパワーアップしてないか?

 より濃縮されてる気がする

 

824:ご機嫌よう名無し様 ID:poJJm/ViE

 ただ選民思想拗らせてるだけならまだしも其処にヒュージ絡めてくるとかもう今必死に戦ってるリリィ全員を馬鹿にしてるんじゃないすかね

 まぁ今んとこ賛同してるリリィは見かけないけど

 

825:ご機嫌よう名無し様 ID:u8N1IaGLn

 それだけは本当に良かった

 リリィまで加担してたら……なぁ?

 やりきれないよマジで……

 

826:ご機嫌よう名無し様 ID:95RFba4at

 お辛い世界だし過激な方面に走る可能性はあるだろうに皆頑張ってて偉いよ……

 

827:ご機嫌よう名無し様 ID:n4g2544s0

 イッチだって百合の間に挟まる癖を除けばまぁ頑張ってる方だと思う

 俺がアークワンなんてクソオブクソ渡されてたら心折れる

 

828:ご機嫌よう名無し様 ID:l6CNMh5cT

 誰だって折れるんだよなぁ……イッチはようやっとるよホント

 

829:ご機嫌よう名無し様 ID:WRCltTHJO

 リリィが善性の塊だから浄化されてる側面、あると思います

 

830:ご機嫌よう名無し様 ID:tQbnj5bB9

 リリィがなぁ、ホントなぁ

 報われて欲しいよ……

 

831:ご機嫌よう名無し様 ID:kswGM9Ws8

 やっぱり平和が1番、ラブアンドピース!

 

832:ご機嫌よう名無し様 ID:ywfjg5PCs

 でも平和な世界に転生してるヤツ少なくないか?

 

833:ご機嫌よう名無し様 ID:Jl6+imNOH

 そもそも平和なら此処にスレ立てとかしないからな

 戦争中とか切羽詰まってる輩が意外と多い

 

834:ご機嫌よう名無し様 ID:vJXMagtXF

 まぁ……そうね……

 あーあ、俺もいい加減故郷に帰りたーい

 

835:ご機嫌よう名無し様 ID:hFKJMyslz

(故郷は焼かれたので)ないです

 

836:ご機嫌よう名無し様 ID:jjrZIv/oz

 悲惨自慢は他所でな

 兎に角今はイッチだ

 

837:ご機嫌よう名無し様 ID:/JZ4uF2WN

 せやね

 逃げるにしろ残るにしろイッチが健康じゃないとどうにもならん

 

838:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 あ、え、えぁ……?

 〔添付:ブレまくって判然としない病室の写真〕

 

839:ご機嫌よう名無し様 ID:/FgO2br/s

 イッチ!?

 

840:ご機嫌よう名無し様 ID:q2P2yqBjF

 どうした

 何かあったんか

 

841:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 やばい

 なにこれ

 おかしい

 

842:ご機嫌よう名無し様 ID:GjVLSI0WM

 しっかりしろイッチ!

 何がおかしいのさ

 

843:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 わからない

 うまくしゃべれない

 ぐらぐらしてきもちわるい

 

844:ご機嫌よう名無し様 ID:44ane9PFB

 どうなってんだ一体

 何があったんだ

 

845:ご機嫌よう名無し様 ID:g4pSMUhsW

 おい此処で死ぬとか洒落にならんぞ

 気をしっかり持て

 

846:ご機嫌よう名無し様 ID:7aruI41hH

 ……待てよ?

 おい待て、待て

 まさか

 

847:ご機嫌よう名無し様 ID:vBg74m24r

 どうした

 

848:ご機嫌よう名無し様 ID:KCtTIOSgi

 何や

 

849:ご機嫌よう名無し様 ID:N+XTlMrRc

 イッチ今すぐ点滴を外せ!

 無理矢理引き抜いても良いから!

 

850:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 てんてき?

 なんで?

 

851:ご機嫌よう名無し様 ID:XHQ00J2Y0

 お前何か変な薬投与されてるぞ多分!

 

852:ご機嫌よう名無し様 ID:EQH0ml5mi

 薬!?

 

853:ご機嫌よう名無し様 ID:GAYYpm202

 麻薬とかの類いって事か

 

854:ご機嫌よう名無し様 ID:uApHFog/u

 やったなシンクネット……!

 アイツら最初からイッチを薬漬けにして良いようにするつもりだったんだ!

 

855:ご機嫌よう名無し様 ID:fyOd3Dsvh

 は?

 

 は?

 

856:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 くすり

 くすりはだめだよな

 でも、ちからがはいらないんだが

 どうしよ

 

857:ご機嫌よう名無し様 ID:8mk1Zeay3

 おい……おい!

 しっかりしろ!

 頑張れ!

 

858:ご機嫌よう名無し様 ID:FLfSWxxLV

 ふざけんなよクソゲヘナ共が……!

 いくら何でもやっていい事と悪い事があるだろうがよ……!

 

859:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 あれ

 おそとがもえてる

 

860:ご機嫌よう名無し様 ID:TRWZp6QCW

 燃え……!?

 

861:ご機嫌よう名無し様 ID:LvPsvmSgg

 襲われてるのか!?

 だったら逃げるチャンスだけど……

 

862:ご機嫌よう名無し様 ID:NTPYGi/+Z

 イッチは動けないんだから無茶言うな!

 もうボロボロなんだから下手すりゃ死ぬぞ!

 

863:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 ゆりちゃん

 

864:ご機嫌よう名無し様 ID:0RuXxjfsc

 結梨ちゃんはエデンが付いてる筈だから一端考えるな!

 取り敢えずは自分が生き残る事だけ考えろ!

 

865:ご機嫌よう名無し様 ID:s9atwZe5Y

 って結梨ちゃん普段のイッチより強いだろーが!

 先ず自分の心配しろよ!

 

866:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 だれ

 あのひとたち

 〔添付:廊下を走る異形感のある装甲服を纏った兵士達〕

 

867:ご機嫌よう名無し様 ID:GrBKzrpad

 アバドン……!?

 今ある分だけ動かしたってか!?

 

868:ご機嫌よう名無し様 ID:43MU5rVaj

 どうなってんだよホントに!?

 

869:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 ゆりちゃん

 

870:ご機嫌よう名無し様 ID:63TYBIWKY

 待ておい

 今は動くな!

 

871:ご機嫌よう名無し様 ID:JfYj5Cpul

 無理だよそんな体で結梨ちゃんを探すなんて!

 死んじゃうよ!

 

872:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 まもらないと

 

873:ご機嫌よう名無し様 ID:ctZQVrVC7

 いいから大人しくしてろって!!!!!

 

874:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 みんなごめん

 でもいまなら…なんかいけるきがする

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 苦しい。

 何処が、ではなくどこもかしこも苦しくて堪らない。

 頭痛、眩暈、腹痛、関節痛、嘔吐感と言った思い付く限りありとあらゆる体調不良に襲われ、満足に立って歩く事すら叶わない。

 

 そうして壁に寄りかかりながらずるずると歩を進めるのも面倒な話だが、舌までイカれてしまったのはより不運と言えるだろう。

 あぇ、とかあぅ、とかそんな意味を持たない音しか出せないのは思った以上に不便で、元より10歳児の身とは言えまるで赤ちゃんに退行してしまったような気分だ。

 

 原因はもうハッキリしている。

 掲示板の彼らが言う通り、自分が入院してからずっと打たれていた(そしてベッドから()()()事で無理矢理引きちぎった)あの点滴には何か良からぬ作用をもたらす成分が入っていたのだろう。

 具体的には、麻薬とかそっち方面で危ないモノが。

 正直やられた、と思った。

 シンクネットが外道の集団である事は掲示板の忠告を聞いてよくよく把握していたつもりだが、よもや年端も行かぬガキ(それも両腕がぐちゃぐちゃ)を薬漬けの廃人にしようとは、想像以上におぞましい連中だ。

 

 この行為にエデン──一色さんは恐らく関与していないだろう。

 だって彼の目的と俺の廃人化は一致しない。

 或いは新宿で侵食してきたナノマシンから覗き見した一色理人の過去が実は全て捏造で、心の底から悪党であるならば無くはないだろうが、それを今更言った所で仕方ない。

 兎も角一色さんが悪ぶっているだけの善人と仮定するならば、薬剤の投与は信者による独断専行と言う事になる。

 つまり、一色さんにもシンクネットの統制は取れていないのだ。

 

 とすると、結梨ちゃんがマズい。

 ボロッボロで病棟にいるしかなかった俺と違って結梨ちゃんは健康そのものだから、ある程度自由に動き回れた筈で──この誰が襲ってきたのか分からない襲撃の中で、()()()()()()()()と言う可能性もなくはないのだ。

 それは絶対にダメだ。

 もしそんな事が起きてしまえば2度と梨璃ちゃんに顔向け出来ないし、何より自分自身が許せなくなる。

 一文字アルトが望んだ「世界で1番のヒーロー」はこう言う危機を防いでこそなのだ。

 

 なので────背後に向けて無理矢理左手を突き出す。

 

「おいお前!こんな所で何を──ぎぇっ!?」

 

 ノーモションで放った不可避のどす黒い波動は、狙いを寸分違わず薄緑色の下劣な「装甲服」──即ち仮面ライダーアバドンのバイザーを直撃し、その()()()をログアウトさせた。

 そう、アークドライバーが再び()()したからか体内で自然回復を促進しているナノマシンが何かしらに作用したのかは分からないが、今や変身せずともアークワンの能力をある程度行使する事が可能になったのだ。

 両目が360度の視界を確保し、両腕がスパイトネガの放出装置と化した以上、例え生身だとしてもアバドン風情に遅れを取るなど有り得ない。

 

 それに、一生分の不調が一遍に襲いかかってきていると錯覚してしまうレベルの苦痛にそこかしこを苛まれているのに思考だけはどんどん研ぎ澄まされていく。

 恐らくはアークシグナルワンの鎮静機能と、何かしらの薬剤によるトリップが予想外の集中を発揮させているのだろうが──それにしたって気持ちが良い。

 施設の被害、人の流れ、目的までの最短経路。

 今にも吐きそうだけど何もかもが見える。

 ここまで来ると逆に薬の効果が切れてしまった時が恐ろしく思える程だ。

 

『接敵』

 

 だから、ほら。

 一見壁から壁へとふらふらしてるように見えてもそれは全て意味のある行動なのだ。

 

「何だあれは……!早く鎮圧しな──ぎゃっ!」

「あんなのがいるなんて聞いてないぞ!鎮圧部隊は何をし──ぐげ」

 

 トントン、と軽く壁を叩いてスパイトネガを放てばそれだけで誰かが倒れる。

 漸く俺の異常性に気付き始めたらしいアバドンも、「襲撃犯」から逃げる真っ最中の研究員も、まだ作りかけらしい人造ヒュージinマギアも、皆等しく昏倒していく。

 同時に、脳内に流れ込んできた情報の精査も開始。

 スパイトネガが直撃したのならばそれはもうアークワンの制圧下にある事と同意義なのだから、もう彼らを尋問する必要だってない。

 ただその場に突っ立っていれば、「幻聴」が全部やってくれる。

 

『アクセス開始。情報の取得まで残り13秒……』

 

 先ほどから聞こえるこの「幻聴」、どうにも声音がアークドライバーに似ているような気がするし、そうだとするならばベルトは決まった音声しか出さない筈だし──まぁ、今はどうでも良い。

 一応役に立っている上に、幻聴なんかよりよっぽど腹立たしい存在が転がっているのだから。

 

「あばどん……」

 

 そう、アバドン。

 一目見た瞬間にあまりの醜悪さから顔を顰めてしまった。

 だって、コイツは仮面ライダーなんかじゃない。

 理念も信念も何にもない、空っぽの人形だ。

 

 掲示板の人々は「横流しされたZAIAの技術を元に作られた、仮面ライダーの名前が付いているだけのクソ雑魚ナノマシンロボット」と言っていたが、正にその通り。

 ショットライザーの技術を流用しているだけあって耐久性はそれなりのようだが、逆に言ってしまえばただそれだけ。

 ナノマシンで構成されたボディを「操縦者」が何処かで操作しているのならば、ハッキングして制御を奪ってしまえばそれで終わりだ。

 と言うかこれではCHARMさえ持っていればリリィでさえ容易に打ち倒せるし、ゼロワン計画の思想に何一つとして沿っていないとくれば「仮面ライダー」の名前を返上して欲しいと願うのも当然だろう。

 

『前提を書き換え、結論を予測──完了。目標への接触コースを網膜に投影』

 

 そんな事を考えていると、全ての計算が終わったらしくやたらダンディな声の「幻聴」が報告してくる。

 全てとは勿論施設のシステム掌握から「襲撃犯」の正体に至るまで一切合切の事であり──此処に留まっている必要はもう何処にもないのだ。

 動かねばならない。

 今すぐに、最速で、最短で、可能な限り一直線に。

 

 

『目標──一柳結梨が移動を開始。アバドンとの衝突により脱出に支障が発生している確率が99.97%と推測される』

「あぁりがとぅ……ていうかおまえだれ……?」

『私の事などどうでも良い。お前の使命を果たせ』

「あぁ、そう…はなすきないの…」

 

 だったら、進もう。

 1歩ずつでも確実に、守るべき仲間に向かって。

 全く知らないダンディボイスの幻聴を連れて。

 

 

 

■■■

 

 

 

 一柳結梨の行動は誰がどう見ても迅速で素晴らしいモノだった。

 警報が鳴ったその瞬間に一目散に駆け出し、監視を数秒の内に振り切って理人の部屋──即ち殺風景な()()()に置かれていた自身のCHARMを掴んで飛び出す様はリリィとして一人前と言える。

 目的も単純だ。

 アルトと研究員を得体の知れない襲撃者から守る、ただそれだけ。

 

 だが、見方を変えればそれは「いきなり監視対象が走っていったかと思えば武器を持って再び何処かへ走り去っていった」事になる。

 無論一般市民であれば、邪魔にならないよう退避しただろう。

 それどころかリリィであれば加勢すべく後を追っただろう。

 しかしこの研究所にいるのは、己とすがる偶像以外の全てを喪失した愚者(信者)達。

 よって──結梨は4人のアバドンに包囲されていた。

 

「どいて」

「何処へ行くつもりだ」

「襲われてるんでしょ?なら戦いに行く」

「嘘を言うな!逃げ出そうとしているに決まっているだろうが!」

「嘘じゃないよ……」

「黙れ!」

 

 暖簾に腕押し、と言う諺がさしもの結梨にも思い浮かんできそうな程に装甲服の信者達は話を聞こうとしない。

 その飛蝗を想起させる形状から辛うじて「仮面ライダー」に分類されると判別出来る仮面の下で、みっともなく吠え立てるだけだ。

 

「ど、どうする……?」

「どうするも何もコイツを確保して戻るだけだろう」

「だが、それでは施設の被害が拡大するぞ!何せアバドンは俺達を含めて43人しかいないんだからな!」

「分かってるんだったら早く動かないー?このままだと折角S様から預かった研究所が壊れちゃうよー」

 

 ……と言うより単純にアバドンの「操縦者」がド素人過ぎるのだ。

 成る程、確かにナノマシンで構成された駆体に全国各地の信者が()()()()する事で誰でもいつでも何処でも戦力になれるシステムは画期的だが、逆に言ってしまえば戦士としての質は格段に落ちると言う事。

 最低限の訓練はおろかネットゲーム感覚で操作している者すらいるのだから、非常時に連携等望める筈もない。

 だから、不意討ちにも弱い。

 

『 J A C K R I S E 』

『 J A C K I N G B R E A K 』

©️ZAIA エンタープライズ

 

「!?」

 

 少女を囲む4人のアバドンの背後から飛来した黄色い「毒針」が、その頭部を抵抗する暇さえ与えず射貫く。

 そして、一柳結梨はバタバタと倒れ伏す人形の向こう側にほんの数日前にも見た黄金の剣を携える、不審な白スーツの姿を認めた。

 

 そう、不審なのだその男は。

 研究所と言う施設にありながらジャケットから靴の先っぽまでアイボリーな出で立ちに始まり、何故かサウザンドジャッカーを持っている点も、世間一般に於ては間違いなく「イケメン」に分類されるのだろうにやたら胡散臭い顔も、何もかもがヘンだ。

 しかしながら自身の行動を阻むアバドンを倒してくれたのもまた事実。

 

「おじさん、だれ?」

「私かい?」

「うん」

 

 故に、結梨は問い掛けてみる事にした。

 取り敢えず訊いてみれば何かしら分かるだろうと言うワケだ。

 しかし──甘い。

 知らぬ事とは言え、結梨はこの男の変人具合をあまりにも低く見積もっている。

 

「先ず最初に訂正だが、私は『おじさん』ではない。『お兄さん』だ。それを覚えておくと良い」

「うん」

「そして私は1000%君の味方だ。特に賭けられる物はないが信用して欲しい」

「うん!ありがとう!」

「加えてこの施設を襲った張本人でもある」

「────?」

 

 突然浴びせられた言葉の洪水に、結梨の思考は完全に停止する。

 おじさんではない。

 君の味方。

 この施設を襲った張本人。

 突然与えられた情報が彼女から思考能力を奪い取っているのだ。

 

「ど、どういうこと……?」

「君達を助ける為にこの混乱を引き起こしたと言う事さ」

「あー、う、んん?」

「まさか、分からないのか?」

「……ごめんなさい」

「いや、君は悪くないだろう。人の善意しか教わっていないのにも問題はあるが……」

 

 とは言え、これは結梨だけに適応される事態だ。

 おじさん云々を除いてしまえば「結梨の味方である事」と「シンクネットの研究施設を襲った事」は何一つとして矛盾せず、男が結梨達の逃走をスムーズにする為に攻撃を加えた事は明白である。

 されど結梨には2つの関連性が見出せない。

 人間の善性が形を取ったような梨璃と共に過ごしてきたからこそ、施設の破壊を囮にする事まで発想が至らないのだ。

 そんな嚙み合わない会話に、男は驚いた様子こそあれど自信に満ちた表情を欠片たりとも動かさなかった。

 だって────常識外の本命はこれからだから。

 

「ふむ、話は後だな」

「え?」

「来るぞ」

 

 男──天津垓がそう呟くと同時に、倒れ伏していたアバドン達が()()()

 腕が、足が、頭が、胴がぐずぐずに崩れては床に──否、薄らと床を覆う黒い水流に溶けていく。

 

「────」

 

 そして、瞬き。

 つい先程結梨が駆け抜けてきた通路の向こうにチカチカと赤い「何か」が瞬いている。

 それの正体を見極めるべく、少女は暗闇に目を凝らして────

 

 

 

 

 

「みぃつけた」

 

 

 

 

 

 音もなく伸ばされた無数の手が、彼女を闇の中に引き摺り込んだ。




◯二川アルト
状態異常で弱らせたら逆に発狂するタイプ。
再び元の姿を取り戻したアークドライバーはその「アークドライバーに戻ってしまった」事実から人類を見限り二川アルトの肉体と一体化し、彼の神経網を巻き込んで融合した。
つまり死ぬほど邪悪なアマダムになっちゃったのである。
そのおかげでアルトは非変身時でもアークドライバーの能力を限定的に行使できるようになってしまった。
事実上のアークそのもの、人の形をしているだけのアークゼロ。
ただ薬剤のせいで呂律が回らない。

◯一柳結梨
百仮面ライダー合よりよっぽど主人公をしている。
襲われてると知ったら例え敵でも守ってしまう。
それだけの善性故に徹底的にアークと相容れない存在。
同時にアークが最も好意を抱く相手である。

◯天津垓
まだ変身しなければ余裕かなーって思ってる。
旧知の友(と思っている)の頼みなので取り敢えず施設ぶっ壊して結梨と百仮面ライダー合の救出に赴く。
特に悪事は働いていないし例にもよって滅茶苦茶強い。
理人には友人だが皮被ってるモードで話す。

◯一色理人
ストレスで胃が(ないけど)破壊されそうな人。
かわいそう。
掲示板民はいつでも結梨をガードしていると推測したけど襲撃をスムーズにするため席を外していた。

◯幻聴
ほんとぉ?
やったらイケボだけど一体何考えてるんでしょうね()

正直に言って戦闘無しで考えたら誰との絡みが見たい?(あくまで参考である事をご了承下さい)

  • 二水
  • 結梨&梨璃&夢結
  • ぐろっぴ&百由様
  • 一葉
  • 恋花&瑶
  • 千香瑠&藍
  • 灯莉
  • ひめひめ&灯莉&紅巴
  • 叶星&高嶺
  • その他一柳隊メンバーなど
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