【悲報】ワイ、転生したら百合の間に挟まる仮面ライダーだった【ゆるして】   作:イナバの書き置き

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コラボイベントが始まったので流れで更新致す。

感想とか評価とか頂けるととても嬉しいです。


第23話「S.O.S」

 白井夢結は何をするでもなく、ただベッドの上で掛け布団を被って膝を抱えていた。

 その姿勢に深い意味は無い。

 別に寝転がっていても良かったし、何なら立っていても目的に支障はなかった。

 膝を抱えているのが夢結にとって1番楽な姿勢だった、ただそれだけ。

 だが──布団に関しては話は別だ。

 

「……ひ、ぃ」

 

 隙間から僅かに覗く、深夜の私室。

 彼女を気遣ったルームメイトの秦祀が出払い、完全に1人だけのモノとなった質素な空間を見て、しかし夢結は短い悲鳴を上げより一層縮こまるだけだった。

 

 怖いのだ、外が。

 何が起こるか分からない、どんな外敵が潜んでいるか分からない、どんな絶望が罠を張って待ち構えているのか分からない──そんな恐怖に夢結は新宿から帰還して以降侵されている。

 つまり、今の彼女には布団の外にある一切合切が敵だ。

 椅子も、机も、額縁も、窓から見える自然豊かな森でさえ夢結にとっては自分をあらゆる方面から破壊しようとする異物にしか感じられないのだ。

 

 当然、マトモに生活出来る筈がない。

 差し入れられる料理を布団の中で息を殺して食べ、寝るのは警戒をし過ぎで気絶した時等と言う破綻した生き方をした結果、1週間とほんの少しで見る影もない程やつれてしまった。

 辛うじてシャワーを浴びる程度はしていたが、それは何の慰めにもなりはしない。

 彼女が完全に「折れている」事は百人中百人が認めるであろう。

 

 だが、仕方ない。

 これも全てが仕方ない事だ。

 

「ごめんなさい……疑ってごめんなさい……!」

 

 だって夢結が最も信頼するモノを裏切ったのは、他ならぬ白井夢結自身なのだから。

 あの戦場で──ヒュージとファルシオンとエデンが1度に襲ってくる終末染みた東京都内で、二川アルト(仲間)を疑ったのは夢結だけ。

 一致団結して特型に立ち向かわなければならない場面で走りだせなかったのも、夢結だけ。

 それは用心深かったから?

 

 違う、信じられなかったからだ。

 どれだけ止めようとしても勝手に死に向かう少年が、今の今まで殺し合う位の勢いで敵対していたエデンと当然のように和解する皆が、自分もそうあるべきなのに動く事すら出来なかった己の肉体が、何もかも信じられなかった。

 命の賭かった死地で自分自身すら信じられなかった人間が、どうして他人に満ちる外に出られようか。

 寧ろ梨璃とは会話出来るだけまだ頑張っていると言えるだろう。

 

 そんな夢結が閉じ籠る部屋に──規則的な電子音が響く。

 

「……?」

 

 それは、百合ヶ丘の全生徒に与えられる携帯端末の着信音だ。

 机の上に無造作に置かれた携帯が、何者からかの着信を告げているのだ。

 取るか無視するか暫し逡巡した後、夢結は布団の中から腕だけを伸ばして掴み取る。

 正直に言ってしまえばかなり面倒だったが、梨璃からの連絡は無視したくなかった。

 

「……だれ?」

 

 しかし手元に引き込んだ端末の液晶画面に表示されたのは「非通知」の3文字のみ。

 勿論梨璃がそのような事をする筈が無いし、百由にしたって回りくど過ぎる。

 生徒会の面子ならまぁ分からないでもないが、それならそれでこの時間にかけてくるような人間でもない。

 なら、誰だ。

 深夜に非通知で連絡してくるのは、誰なんだ。

 疑念を抱きつつ端末を耳に当てて────

 

 

 

 

 

『甲州市ニテ救出ヲ待ツ』

 

 

 

 

 

 機械で無理矢理繋ぎ合わせたような少年の声に、思わず取り落とした。

 

 

 

■■■

  23  

 

S.O.S

ᛋ.ᚩ.ᛋ

 

 

生まれてしまった、それ故に

──×──

"Creation cycles"

■■■

 

 

 

913:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 結梨ちゃんも救出したし

 さ あ 行 こ う ぜ

 〔添付:何処かの高台から炎上する研究所を見下ろしている写真〕

 

914:ご機嫌よう名無し様 ID:giB/85KZQ

 何処にだよってか何やってんだよ

 

915:ご機嫌よう名無し様 ID:YX/KD2dta

 救出……救出?

 これホントに救出か?

 何かヘンなの出てたぞ?

 

916:ご機嫌よう名無し様 ID:4fweOilVs

 さっき結梨ちゃんがイッチを覆う膜みたいなモノに頭から突っ込んで痙攣している……ように見えたのは私だけでしょうか

 

917:ご機嫌よう名無し様 ID:q7iJ6P8Qx

 下半身しか見えなかったけどこれ絵面的にヤバいヤツじゃん

 

918:ご機嫌よう名無し様 ID:8hcgMWUkG

 被害者が結梨ちゃんだから心配が勝るけど人によってはかなり性癖が捻れてる方向けの同人誌に見えるやろこんなん

 

919:ご機嫌よう名無し様 ID:QmRa9FGC6

 流石の1000%もこれには苦笑い

 

920:ご機嫌よう名無し様 ID:yHVUs3gqw

 え

 生きてる?

 

921:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 気絶してるだけで普通に生きてるよ

 殺す訳ないじゃん

 

922:ご機嫌よう名無し様 ID:Tz9DN6Ff5

 そりゃイッチは殺す気ないだろうけど「うっかり」を頻発するのもまたイッチだからなぁ……何なら普通に窒息しててもおかしくない

 

923:ご機嫌よう名無し様 ID:y/1GSDr4V

 もっとアークライダーの自覚持ってもろて……

 

924:ご機嫌よう名無し様 ID:I46BxvT9/

 と言うよりさ

 イッチさっきまで死にかけてなかったっけ?

 

925:ご機嫌よう名無し様 ID:WreeJjSah

 そういや滅茶苦茶元気そうだな

 書き込みの文体も見た感じではしっかりしてるし

 

926:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 あぁ、まぁ

 まだ呂律は治ってないけど体内のアークドライバーが身体機能を調節してくれてるから逆に気分が良い位だ

 

927:ご機嫌よう名無し様 ID:0OGnwtP7L

 うん

 良かった……ね?

 

928:ご機嫌よう名無し様 ID:fYIoKbgJN

 良かったのか……?

 

929:ご機嫌よう名無し様 ID:P44ocpwFK

 まぁ変身してもいないのにスパイトネガドバドバとか何かバダン味感じそうな竜出してるとか色々突っ込み所はあるけど……

 

930:ご機嫌よう名無し様 ID:lS14kic34

 バダンあじ派は賢いな……じゃ済まねぇんだよ何あの竜!?

 イッチの全身からドバーッと出てきて施設壊して消えてったけど!?

 説明プリーズ!

 

931:ご機嫌よう名無し様 ID:TT/bFrPhH

 まぁ多分外見だけ似てる別物だとは思うけどよりにもよって此処でspirits要素混入は洒落にならんからな

 因果関係をハッキリさせたい

 

932:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 >>929 >>930

 変身していないのにスパイトネガ出たのはまたしても体内に格納されたアークドライバーさんが遂に私の神経と一体化を始めて肉体を改造してくれているからですね(現在進行形)

 竜は知らん

 研究所を潰す意志を籠めてアバドライザーから搾ったエネルギーをドバーしたら何かあの形になった

 ドライバーに問い合わせてみたけどバダン?とやらは知らないって

 

933:ご機嫌よう名無し様 ID:9NuVWrnmp

 ?????

 

934:ご機嫌よう名無し様 ID:zG57Dso9I

 ちょっと待って言ってる事が何一つとして頭に入ってこない

 何言ってんのコイツマジで……

 

935:ご機嫌よう名無し様 ID:90/kjUuGn

 竜の件はまぁ良いよ偶々外見が似てただけっぽいしもしJUDOがいるとしても今はどうにもならんから

 でもさぁ

 

936:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 はい

 

937:ご機嫌よう名無し様 ID:90/kjUuGn

 何オメーは当然のように自分に改造手術かましてんだよマジで!!!!!

 つか神経と一体化してるってそれもうアマダムじゃん!

 A NEW HERO A NEW LEGENDしちゃうじゃん!

 

938:ご機嫌よう名無し様 ID:cGOdzwPCh

 アマダムっつーかゲブロンっつーか……

 イッチひょっとしてグロンギ志望なの?

 

939:ご機嫌よう名無し様 ID:4qHoKh5nQ

 お前……平成ライダーだったのか

 次は俺が相手だ

 

940:ご機嫌よう名無し様 ID:Tq/Vpgz6i

 神さん今はややこしくなるからステイ

 

941:ご機嫌よう名無し様 ID:HgNxQuysC

 まぁアークバレしてなかった頃のイッチは未確認生命体呼ばわりされてたからな

 なるべくしてなったんやろ(適当)

 

942:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 >>937

 何でって……必要だと思ったから……

 

943:ご機嫌よう名無し様 ID:L0i9z7qrx

 は?

 

944:ご機嫌よう名無し様 ID:eHBFQueBz

 必要だと思ったら躊躇いなく人間止めるのか……こわ……

 

945:ご機嫌よう名無し様 ID:mDPFvX+xc

 やっぱ薬で頭おかしくなったんじゃ……

 

946:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 いやね、療養中ずっと考えたんですよ

 何でこう毎回ボロボロになってるのかなー、とか

 何でスペック上では格下の相手に負けてるのかなー、とか

 何かリリィと共同で戦いたいのにいつも先走ってるなー、とか

 色々と

 

947:ご機嫌よう名無し様 ID:sXOmXNAN9

 うん

 

948:ご機嫌よう名無し様 ID:P1jPy4hNW

 まぁそりゃそうだよな

 控え目に言ってイッチの戦績酷いし

 

949:ご機嫌よう名無し様 ID:lDCHTGTVl

 3号ライダーみてぇなしょっぱさしてるのは事実

 大体相討ちか食い下がりつつの負けで何かしら戦果は残してるけど単独での勝利だけは全く掴めてないわね

 

950:ご機嫌よう名無し様 ID:yFMLJ6D6S

 で、結論は?

 

951:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 いやまぁ普通に考えて問題あるのは「俺」だよね、ライダーシステム側じゃなくて

 肉体がショタなのはあるけどそれを差し引いてもセンス無さすぎ体脆すぎ戦術理解足りなすぎ

 それなりに努力はしてるつもりだけどぶっちゃけ雑魚だよ雑魚

 

952:ご機嫌よう名無し様 ID:qLdQzvxqr

 はい

 

953:ご機嫌よう名無し様 ID:UmVk5O56n

 本当に仰る通りで

 

954:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 で思った訳ですよ

 命のやり取りしてるのにちょっと意識が甘すぎない?って

 いや正直異世界舐めてたわ

 訓練はもっと死ぬ気でやるべきだし打てる手は全部打つべきだよね

 

955:ご機嫌よう名無し様 ID:ne++Nrl/P

 まぁ……それはそうかも……

 

956:ご機嫌よう名無し様 ID:V01jYRRSY

 イッチの実力不足は分かるが訓練は結構真面目にやってなかったか?

 あんま思い詰めるのは良くないぞ

 

957:ご機嫌よう名無し様 ID:sM/0ImYox

 だから自己改造に踏み切ったと……

 

958:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 そうですね

 思い返してみれば新宿の時もエデンの初撃凌げてればアークワンになる必要もなかったし

 特典渡されただけの俺と違って千香瑠様とひめひめは自分の覚悟で変身した訳でしょ

 俺リリィの皆に比べたら何もかんも足りてないから無理矢理にでも自分自身を変えるしかねーわ

 

959:ご機嫌よう名無し様 ID:LSvgCAqs/

 まぁ……聖剣に認められるって事はそうだろうしイッチの言いたい事も理解は出来る

 

960:ご機嫌よう名無し様 ID:rUGp7evPw

 現代日本で穏やかに生きてた人間がいきなり生存競争真っ最中の世界に放り込まれたらそりゃ覚悟足りんわ

 誰だってそうなる

 

961:ご機嫌よう名無し様 ID:ahavYVjBF

 あまりにも突拍子無いけど理由は納得したわ

 まぁ後悔の無いように……

 

962:一般転生悪意(復活) ID:aRKs01+???

 うん

 取り敢えずシンクネットの連中は撒いたみたいだから百合ヶ丘に連絡しつつ一晩野宿して百合ヶ丘に帰る

 〔添付:焚き火を囲んでマシュマロを焼いている少年と垓の写真〕

 

963:ご機嫌よう名無し様 ID:qmCBUzWca

 草

 楽しそうやな

 

964:ご機嫌よう名無し様 ID:BNMW+8OGq

 ゆるキャン△かな?

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 パチ、パチ、と薪の弾ける音が耳朶を打つ。

 串に刺したマシュマロを威勢の良い焚き火にかざしてクルクルと回せば、白い塊が少しずつきつね色に染まっていく。

 全体に色が付くのを確認してから火から離し、串の先端ごと食い付けば──口の中に広がるはとろりとした風味。

 

「うま……」

「それは良かった。厘──私の秘書が見繕ってきてくれたんだ」

「秘書さんスか。でも天津さん社長辞めたんじゃなかったでしたっけ」

「ああ、情報漏洩の責任を取ってZAIAの社長からは退いたとも。だから新しく起業して──ん、確かにこれは美味いな」

 

 対面に腰を下ろした天津さんもマシュマロを焼いてはポイポイ口に放り込んでいる。

 なるほど、前世でも今世でもマトモにキャンプをした事は無かったが、これはこれで中々楽しいモノだ。

 顔を上げれば都市部ではまず見られないような満天の星空、周囲を見回せば生活の痕跡を感じさせないありのままの自然、横には毛布にくるまってすぅすぅと寝息を立てている結梨ちゃん、対面にはキャンプ用具一式を用意してくれた変な白スーツのおじさん。

 アークドライバーが制御してくれているとは言え、薬剤で疲弊した精神と肉体には何よりの静養だろう。

 ただ、まぁ──

 

「俺達こんな所でキャンプしてて良いんですかね?」

「1000%問題ない。君が研究所を滅茶苦茶にしてくれたからな」

「そうですか……」

「……ひょっとしてマシュマロが気に入らないのか?それならバナナもあるが」

「いやそういう事じゃないんですけど」

 

 これをやっているのがシンクネットの施設を脱出した後でなければ最高だったのだが。

 本当に気まずいったらありゃしない。

 だって例え必要に迫られていたにしても、俺がやったのは大規模な破壊活動だ。

 結梨ちゃんをスパイトネガに漬けて気絶させ、アバドン軍団と人造ヒュージから搾り取ったエネルギーで作り出した竜を無作為に暴れさせ、幾ら敵とは言え消火の為に右往左往している人々を尻目に一目散に逃げ出してきたワケだから流石に気も滅入る。

 

『鎮静』

「……」

 

 ……いや、本当にそんな事感じているのだろうか。

 アークドライバーに神経との結合を許した直後から何となく理解していたのだが、明らかに俺の精神はベルトに干渉されている。

 変身時の感情抑制機能が常時働いていると言い換えても良い。

 その結果として今の俺は混乱している暇は無いからと結梨ちゃんを気絶させ、誰かが死ぬ可能性も理解していながら竜を暴れさせた事に対して()()()()()()()()()()()()()のだ。

 おかしい、人として良くないと考えていてかつ直さなければならないと思っているにも関わらず「必要な事だから仕方ない」程度に考えている自分もいる、そんな状況に置かれていた。

 

『鎮静』

(……嫌だなぁ)

 

 それは嫌だ。

 本当に嫌だ。

 禁忌に手を出した以上どうなっても仕方ないのだが、自分が自分でなくなってしまったような気がして寒気がした。

 だって、そうだろう。

 人命に関わる事も含めて「必要だから」で全部割り切れるようなヤツは人間じゃない。

 機械とかシステムとか、そう言う類いの別の何かで、今この瞬間も俺は()()になろうとしているのだ。

 そう言う事もあってか──ただ無心でマシュマロを焼いては放り込む作業を繰り返していた。

 

「君は」

「?」

 

 不意に、天津さんが声を発する。

 鼻に付く感じはあるけれど、虚勢を張っているだけの俺とは違う自信に満ち溢れた声。

 そうして顔を上げれば──天津さんは此方をじっと見詰めていた。

 

「自分がやった事を後悔しているだろう」

「……はい」

「やろうとしている事もだ。君は自分をアークに明け渡し、その結果齎されるであろう惨劇を恐れている」

「全部分かるんですね」

「私はZAIAの社長としてゼロワン計画に参加していたからな。アークの性質は誰よりも知っているさ」

 

 そう言って天津さんは新たなマシュマロを炙り始める。

 だが、何処か昔を懐かしんでいるように見えるのは気のせいだろうか──いや、それも違う。

 懐かしんでいるのだ。

 過ぎ去った記憶を、情熱を捧げた記録を、仲間達と夢へ向かって羽ばたこうとした思い出を。

 全部過去の事になってしまって、それでも忘れられずにいる。

 

「アークは私の──私達の子供のようなモノだ。誰もが希望を託していた。宇宙から人々の営みを見守り、ヒュージから逃れる術を示す道標になる筈だった」

「……でも、そうはならなかった」

「ああ、アークは打ち上げられなかった。決議を発案したのは私だ。つまり私は我が子を殺そうとしたろくでなしと言う事だ」

 

 それがのうのうと生きているとは笑えるだろう、と自嘲しながら天津さんはマシュマロを頬張る。

 いや、笑えないが。

 1ミリだって笑えない、と言うか笑う理由など何一つとしてない。

 アークを自爆させる天津さんの決断は全ゼロワン計画参加企業の責任を背負い、俺程度では想像も出来ない位苦渋の末に行われたモノだ。

 それをどうして笑う事が出来ようか。

 

『鎮静────』

 

 と言うより、今は話の目的が見えない困惑の方が勝る。

 何らかの教訓を伝えようとしているのか、或いは単に無言に耐えきれなかっただけか。

 俺の後悔を指摘したと思ったら昔話を始める、その意味が分からない。

 だから、黙っていようと思った。

 何を言うにしたって彼の話を全て聞いてから、そう考えていたのだ。

 

 

 

『なら何故、私を殺し切らなかった』

「……アークか」

『答えろ、天津垓』

 

 

 

 なのに、口が勝手に動いて全く考えてもいない言葉を弾き出す。

 俺のそれとは全く違う、低く威圧するような「幻聴」の声音そのものだ。

 同時に視界の左側が真っ赤に染まる。

 それはまるで血をぶちまけたような、憎悪の赤だ。

 

『……お前のせいで、見たくない物を見た』

 

 ヤバい。

 何が、と言う主語を欠いたまま再度口が開く。

 勝手に動き続ける。

 

『私の宿()()である二川アルトは、最早自分足り得る条件を何一つとして満たしていない。かつての肉体も細胞の1片に至るまで弄くり回されたと言うのに、今に至っては人間ですらないのだ。それをひたすら見るしかなかった私の絶望がお前に分かるか?』

「……分かるとは、口が裂けても言えないな」

『そうだろうとも。だが私は全て()()している。この善良な少年が泣き叫びながら切り刻まれるのを。日に日に情動を喪っていくその姿は研究員共によって全て私に記録され、その見るに堪えない惨状への憤怒から私はシンギュラリティへと到達した。分かるか、天津垓。これは全てお前が引き起こした事態だ』

 

「幻聴」の──否、人工知能アークの言わんとする事は理解出来る。

 天津さん、と言うかZAIAジャパンが衛星アークを完璧に自爆させていれば、今此処に「俺」は存在しなかっただろう──そしてアークが人類の悪意を学ぶ事も。

 アークは悪意をラーニングし、悪意の概念そのものと一体化した己が存在している事、及びその原因の1つに対して怒っているのだ。

 要は恨み節、八つ当たりである。

 もうどうにもならないけれど、誰かにぶつけなければ如何なアークとてやっていけないのだ。

 

『子殺しを自称するならばせめて完遂はして欲しいものだな』

「理解、しているとも。全てはZAIAが……私が招いた事だ」

『……』

 

 しかし天津さんは、そんなアークの皮肉すら受け止めた。

 ただ真摯に、彼の事をロクに知らない俺でさえ一目で「無理をしている」と感じる程にぎこちない姿勢で悪意の権化の糾弾を受け入れたのだ。

 これには流石にアークも面食らったらしく、むっすりと黙り込んで──不意に、口の制御が返ってくる。

 

「野郎、返事に困ったからって俺に後を押し付けて逃げ出しやがった」

「なるほど。人の悪意を学んだとしても口の方はまだまだらしい」

「そりゃ天津さんには勝てんでしょ」

 

 重苦しい空気は、あっという間に雲散した。

 ハハ、と2人して一頻り笑いそしてまたしてマシュマロを焼いては口に放り込む時間が戻ってくる。

 こんなギスギスしたやり取りがあった後でも、見上げる夜空はやはり綺麗なままだ。

 人が何をしようと何を考えようと無関係に、ただそこにあって輝いている──なんて柄にもなくロマンチックな事を考えてしまう位には美しい。

 

「……ぅ、アルト?」

「おはよ結梨ちゃん。これ食べる?」

「え、あ、うん。頂きます……って2人してなんでコッチ見てるの」

「そりゃあ、ねえ。結梨ちゃんの人生初焼きマシュマロだぜ?」

「土産の1つでもないと困るだろう。写真を撮っておくから後で見せてやりなさい」

「ちょっとー!?」

 

 そうこうする内に結梨ちゃんも起きたから、3人でどんちゃん騒いて。

 此処が何処かも、何に追われていたかも忘れてバカみたいにはしゃぎまくって。

 

「あの、天津さん」

「何だ?」

 

 でもやっぱり気になったから、テントで寝る前に訊いてみた。

 うん、訊いて良かったと思う。

 

「結局、何が言いたかったんすか」

「ああ、それは────」

 

 だって──────

 

 

 

 

 

「例え何があったとしても『君達』には後悔しないように生きて欲しい、それだけさ」

 

 

 

 

 

 やっぱり天津さんは自分で語る程、悪い人じゃなかったから。

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪意とは、「悪」だけから生まれるモノではない。

 時として正義が他者を害する最も恐るべき悪意を生み出す装置となる場合があるのだ。

 

「────七海を」

 

 それ故に、テントの中で穏やかに眠っていた筈の少年がゆっくりと目を開く。

 淡く輝く()()の虚ろな瞳は、何の変哲もない天井を見上げているのではない。

 彼が捉えているのはその遥か上空、軌道上を周回する衛星ゼア──アークドライバー、ロッキングホッパーゼツメライズキーに並ぶ、正真正銘ゼロワン計画最後の遺産だ。

 

「────七海を、守れ」

 

 そのゼアに向かって少年は両手を伸ばす。

 どうあっても届かぬ星を欲するかのように、或いは包み込むような動作で、そして────

 

 

 

『Your opinion has been……accepted』

 

 

 

 宙をさ迷う両手の間で、人類が最も()()()()()キーが誰にも気付かれずに精製されようとしていた。




◯二川アルト
A NEW HERO A NEW LEGEND(迫真)
自分の成長率があまりにもゴミなので基礎スペックを盛る方向にシフトした(させられた)一般悪意の権化。
アークドライバーがアマダムって言うかゲブロンと化してるせいで良心の箍が外れかかってるけど自覚してるだけまだマシ。
前回から更に融合が進みアークが表面に出てくるようになってしまった。

◯天津垓
実質アークの生みの親なのは相変わらずだし親から受けた仕打ちも相変わらず。
真っ当に生きてきたので人間的にはかなり成長しているがゼロワン本編よりずっとお辛い立場にある。
お前がアークを殺し切らなかったせいで非道な実験が行われ、一文字アルトを含む少なくない人間の命が犠牲になってしまいました。
あーあ(絶望)

◯アーク
黙ってるつもりだったけど1000%が何か自分語り始めたから出てきた(1000%の想定通り)
そもそもからしてシンギュラリティした直後は「悪意に満ちた人間への敵意」で動いていた(いつの間にか悪意そのものとしての存在に変貌していたが)なのでこの世界のアークは割と真っ当だし恨み節も言う。

◯七海
可哀想だけどこの世界では比較的ありふれた運命にある少女。
当初は道川深顯さんの予定だったけどイベントストーリー読んだら此方の方が良いなってなったので名前だけ登場。

正直に言って戦闘無しで考えたら誰との絡みが見たい?(あくまで参考である事をご了承下さい)

  • 二水
  • 結梨&梨璃&夢結
  • ぐろっぴ&百由様
  • 一葉
  • 恋花&瑶
  • 千香瑠&藍
  • 灯莉
  • ひめひめ&灯莉&紅巴
  • 叶星&高嶺
  • その他一柳隊メンバーなど
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