【悲報】ワイ、転生したら百合の間に挟まる仮面ライダーだった【ゆるして】 作:イナバの書き置き
私立ルドビコ女学院の守備地域から流れてきた無数のヒュージの内、凡そ8割5分はどことなくアノマロカリスを彷彿とさせるミドル級──後に「スプリットF」と命名される個体で構成されていた。
スプリットFに戦闘能力で注目すべき点は無い。
軽自動車位の体格の癖にちょろちょろとすばしっこいがこれと言って特別な攻撃手段は持たず、ただ体当たりを仕掛けてくるだけ。
冷静に対処すれば1人でも複数体を相手取る事も難しくはないだろう。
しかし、後に都内で相対したルドビコのリリィ達はこの個体群に非常に梃子摺らせられる羽目になる。
それは何故か。
「増殖?いや、分裂か」
うわ厄介
20:ご機嫌よう名無し様 ID:QUsI6jlzj
キモ……
手刀で正面から突っ込んできた個体を2つに裂いたアークワンがポツリと呟き──その背後で、今真っ二つになった筈の
そう、スプリットFの特異性は最早増殖とも形容出来る程の分裂能力にある。
殴っても、蹴っても、撃っても、斬っても、生半可な火力では被撃部位から分裂してしまうのだ。
しかも分裂回数の上限は不明。
仮にも生物である以上は殺し続ければ何れは死ぬだろうが、それを待っている間は増えた個体が襲ってくる。
リリィのみならずヒュージにすら嬉々として実験を行うG.E.H.E.N.A.のラボから脱走しただけあって、厄介極まりない性質を備えた個体だった。
火で死ね
27:ご機嫌よう名無し様 ID:kfIUmsIK4
街の事考えないなら、そりゃあこれで済むよな
だが、
ビームエクイッパーから投射された光が無数のサウザンドジャッカーを描き出し、無造作に手を振ると同時に剣の雨となって降り注ぎ────彼らの平坦な肉体を射貫くや否や黄金の刀身から放射された爆炎が焼き尽くす。
2つや4つに切り裂いた所で死なないと言うのなら、1800度の高熱で塵になるまで焼き払えば済む話だった。
「ヒュージの癖に、余計な手間を掛けさせるんじゃねぇよ」
決して油断はしない。
センサーから取り込まれる情報と毎秒数億回に及ぶシミュレーション結果を照合し、悪鬼は自身は1歩も動かず戦況の分析に務め続ける。
その間に流体金属の津波が荒れ狂い、炎上する建物ごと異形を呑み込んで押し潰していく。
焼かれ、砕かれ、元が何であったかも分からない肉塊まで圧縮され、百合ヶ丘のレギオンであっても苦戦は免れぬ程圧倒的な優位を保持していた筈の群れは、瞬く間に壊滅へと追い込まれていった。
無論、こんな虐殺を繰り広げていれば大型個体は黙っていないのだが。
「お前」
背後から
憎悪をエネルギーに変えるシステムが、全身に張り巡らされた動力ケーブルが少年に無尽蔵の力を与えているのだ。
高々ラージ級の質量攻撃程度で危害を加えるなど不可能に近い。
「馬鹿にしてるのか」
再度振り下ろされた触腕を掴み、地面に引きずり下ろして殴る。
殴る。殴る。殴る。
ひたすらに、八つ当たりをするかのように1発54.2トンの拳を5倍の大きさはあろうかと言う異形に打ち付ける。
ただそれだけで、ぐしゃりと外殻がひしゃげる。
既存の生物とは根本から異なる構成の内臓が破裂する。
「■■■!」
残された触腕全てを、振り下ろすのではなく槍のように突き出す。
面での打撃ではなく、点での刺突。
だが、起死回生の一撃をアークドライバーから直接生えるようにして生成したアタッシュカリバーが無慈悲に切り払う。
そんな情けない足掻きに少年が抱いたのは、僅かな苛立ち。
「今まで戦った大型の中で1番弱い」
アークワンの正体が露見したあの戦いで討伐した個体は、二水と2人での協力があればこそ。
梨璃を害したあの忌々しい個体は、逃げ足と姑息さだけは他に類を見ない。
百合ヶ丘を狙撃せんとしたあのギガント級は、少年の命と引き換えでどうにか。
ガトリングを接合させられた異形の天使は、リリィ全員との共同戦線でようやっと。
エヴォルヴに至ってはヘルライズキーの使用に踏み切らねばならなかった程だ。
それに比べて、たった1人でも力量を批評する余裕すらあるメイルストロムの何と貧弱な事か。
何やら必死にマギリフレクターを展開しようとしているが、このような雑魚は人類の守護者たるリリィに相手をさせる事すら烏滸がましいと少年は心中で嘯く。
「やる気が無いならさっさと死ね」
まるでサッカーボールにでもするような、軽く助走をつけた蹴撃。
しかしそれで手近なビルにメイルストロムをめり込ませたアークワンの手には、先程生成したアタッシュカリバーがもう握られていた。
縦に一閃。
流体金属によって延長された刃がバターのようにビルごと、そして障壁ごとヒュージを両断し、1拍遅れて吹き出した青い血液がアークワンの濁った白い装甲を汚していく。
尤も、ヒュージを殺す機械の一部と化した少年にとっては心底どうでもいい事柄だったが。
「……次」
アークワンの視覚センサーは生命反応を喪った骸など捉えておらず、既に離散し始めたヒュージの群れだけをただ無機質に見詰めていた。
あぁ、これでハッキリした。
いや、正確に言うのならば随分と前からハッキリしていたけれど今回の1件で改めて再認識させられた。
この世界に降りかかる厄災の一端は俺に──俺が持つアークワンの力にある。
自惚れていたつもりはない。
甘ったれた気分でいたつもりでもない。
だが、やはりどうあっても原因は自分自身だろう。
……もっと早く、この事実を受け入れるべきだった。
鶴紗さんを傷付けたのは俺だ。
スパイトネガで夢結様を精神汚染したのは俺だ。
百由様に要らぬ苦労を掛けさせたのは俺だ。
ミリアムさんに余計な事を考えさせたのは俺だ。
神琳さんと雨嘉さんに散々迷惑を掛けたのは俺だ。
梅先輩を怒らせたのは俺だ。
楓さんを呆れさせたのは俺だ。
梨璃ちゃんに余計な心配をさせたのは俺だ。
結梨ちゃんがまた死地に来る羽目になったのは俺のせいだ。
そして、二水ちゃんに。
あんなにも優しくて、時々毒も吐くけど純粋でひたむきな
「俺だ……」
何もかも俺が悪い。
俺がこの世界に転生さえしなければ、こんな事にはならなかった。
俺がアークワンをさっさと処分しなかったから、人が死んだ。
で、それを理解していながら未だに変身して戦っている訳だ。
あまりの情けなさに思わず頭を掻き毟りそうになったが、装甲に覆われた爪は仮面をガリガリと削るだけだった。
「ああ、クソ……!」
しかし今は、自身の責任どうこうよりもやるべき事がある。
いや、正確には
流体金属の津波はこうして突っ立っている間もヒュージの群れを押し流して圧殺し続けている。
「絶対に、逃がさない……!」
そう、ヒュージだ。
兎に角ヒュージは殺す。
梨璃ちゃんと初めて出会った時、たった2匹の脱走個体を追撃する為だけに多くのリリィが駆り出されていた。
それにエヴォルヴを消滅させてエリアディフェンスが復旧してからも都内ではヒュージの出現が絶えないのは、新たなケイブが開通しているのではなく討ち漏らしが徘徊しているからだ。
それだけヒュージは脅威なのだ。
だから、これと同じ状況を鎌倉府に引き起こしてはならない為にも1匹残らず潰して、砕いて、塵殺して、リリィ達の安息を取り戻さねばならない。
とは言え、ヒュージ達は存外積極性が無い。
先程の大した事が無いラージ級を殺した瞬間から蜘蛛の子を散らしたように離散を始め、既にセンサーの探知圏内から脱出しかけている個体も何体か確認出来る。
良くない事だ。
ああ、本当に、非常に良くない。
リリィを取り巻く事情は複雑怪奇。
人類が一致団結して挑まなければならない時勢なのに、ガーデン同士での縄張り争いみたいな事をしている。
任務の際、互いの守備地域に1歩でも足を踏み入れるなら必ず外征申請をするのだから筋金入りだ。
いや、別に要らぬトラブルを避けるのは全然問題でも何でも無い。
しかしG.E.H.E.N.A.云々によるイデオロギーがどうこうは全く無関係で、寧ろ親密とも言える間柄のガーデン間でさえこの原則が徹底させるのはちょっと「お堅い」が過ぎると言えるだろう。
まぁ、俺はそれを今から破るのだが。
「……止めとくか」
そんな風に過熱しかかっていた思考が、アークワンシグナルワンによって強制的に鎮静化させられる。
便利な機能だ。
本来優先すべき事柄から思考が逸れていても、無理矢理引き戻してくれる。
良い感情も一緒に鎮めるせいで気分は最低になるけど、まぁそれも正気を保つ為の代償と思えばやり過ごせない事もない。
それにほら、よくよく考えてみれば今回の群れは何処から来たのか知らんが1匹残らず特型とか言う異常の化身みたいな集団だ。
何故そんな事態が発生しているか研究する必要があるのに、流石に全部ミンチにしたら大問題だろう。
うん、ひょっとしたら特型の発生原因が判明するかもしれないと言うのに人類の大損失を招く所だった。
危ない危ない。
なので、取り敢えず。
「百合ヶ丘の方に行く奴だけ殺しとくか……ってあれ?」
えいえいむん、と覚悟を決めた瞬間遠くの方から小さな破裂音が何重にも重なって響いてくる。
「……終わっちゃったよ」
百合ヶ丘方面に向かっていたヒュージの反応が一斉に消失した事から考えるに、どうやら気合いの注入に反応して体内に穿孔させた流体金属が膨張して体組織を食い破ってしまったようだ。
回収を行うリリィの皆様には本当に申し訳ない事をしてしまった。
だって、彼女らが目撃するのは内側から爆裂した結果ちょっと目も当てられないレベルでグロ死したヒュージの死骸なのだから。
しかし、そうするとだ。
「……どうしよ」
ドウスッペ……
53:ご機嫌よう名無し様 ID:CxYnREGJR
どうしよじゃねぇよ早く百合ヶ丘に帰れアホ!
いや、困った。
本当に困った。
次は一体何をすれば良いのか、何にも思い浮かばない。
鎌倉府に最早ヒュージは存在せず、他ガーデン守備地域に流す予定の連中もハッキングした衛星の監視下で必死の逃走を開始している。
よって、やる事が無い。
想像の何倍もあっさりと、俺達を地獄へと突き落とした外道は駆逐されてしまったのだ。
「帰る、か」
それならば、掲示板の連中が言う通り百合ヶ丘に帰るのが適切だろう。
きっと皆を心配させているだろうし、置いてきてしまった鶴紗さんも心配だ。
散々無茶をしていた側からの意見としては、大丈夫だって強がっていたけれどあれはどう見ても大丈夫ではない。
ただ────
「帰りたくないなぁ……」
今は百合ヶ丘に帰りたくない。
別に居心地が悪いとか鶴紗さんや結梨ちゃんに引っ捕らえた件がどうこうと言う訳ではなく、単純にアークワンである自分が百合ヶ丘にいて皆に安全が無いのだ。
これは状況からの単なる推測でしかないのだが、どうも神様とやらが与えてくれた転生特典はヒュージやシンクネットを引き寄せているように思える。
だって、そうだろう。
幾らガーデンにマギを持つリリィを集め、ヒュージを誘引する目的が含まれているのだとしてもこの頻度と規模はおかしい。
都内にだって、横浜にだってリリィはいる。
なのに何故それらを全て無視して百合ヶ丘を襲った。
お前さぁ……
疲れてんだよ
129:ご機嫌よう名無し様 ID:DIk0JID9n
仮に考えてる通りだとして百合ヶ丘に帰らない理由にはならないしそもそもお前百合ヶ丘の外でやっていける程メンタルとかその他諸々強くないやん
「……かもな」
考えすぎだ。
ヒュージの襲来は異常だが、それ以上でもそれ以下でもない。
どうあっても来るモノが来たから迎え撃つ、ただそれだけであって由比ヶ浜ネストとも無関係な個体がアークワンに誘き寄せられる筈が無いのだ。
戦闘の疲労からナンセンスな妄想を作り上げていると判断するのが正解だった。
だが、誘引されるのがヒュージだけとは限らない。
「……よし。シンクネット潰しに行くか」
シンクネット。
あの破滅主義者兼選民主義者を集めた、邪悪の化身。
リリィや軍人が必死になって守ってきた世界を下らないエゴの為に消そうとする腐れ外道共。
そして最終的に一色理人の手で粛清される予定の烏合の衆。
アレらは戦闘データの収集と楽園創造のデモンストレーション等と言うふざけきった動機で1度は百合ヶ丘を襲った連中だ、2度目が無いとは断言出来ないだろう。
だから潰す。
これ以上被害が拡大する前に、身勝手な理由で世界を滅ぼされる前に。
え
今から?
136:ご機嫌よう名無し様 ID:Z02iQxfEX
止めとけよー絶対ロクな事にならないぞー
137:ご機嫌よう名無し様 ID:kT2pEb+3U
まぁアークワンならエデンに勝つ見込みだってあるだろうけど鶴紗ちゃんどうすんのさ
「それは……百合ヶ丘の皆に任せるさ。綾音様や
例外ばかりな世界だが、鶴紗さんの救出に関して例外はない。
百合ヶ丘の中でも地域第一主義を掲げる専任のLGシュヴェルトライテが、その隊長である隈綾音様や補佐を務める多田紫恵楽様が傷付いたリリィを見過ごすなど絶対に有り得ない。
彼女達が出動すれば鶴紗さんは100%救われる。
ならば、リリィが己の使命を果たすように俺も俺の使命を──否、責任を果たすべきだ。
いややっぱ疲れてるよお前……
帰って寝た方が良いよ絶対……
145:ご機嫌よう名無し様 ID:p39McmMFW
最近色々あったから思い詰めるのは分かるよ
相談出来るのも基本煽るか茶化すかしかしない此処だけで抱えちゃうのも
でもマジで考えすぎだって
もうちょっと肩の力抜こうぜ……?
146:ご機嫌よう名無し様 ID:a+VYo3FBQ
俺転生者でこんな苦しそうにしてるヤツ初めて見たわ
無茶はしない、約束だから。
ヒーローになる、約束だから。
でもその前に持ち込んだ火種は消す。
ただでさえ過酷なこの世界に「人工知能アーク」を持ち込んでしまった責任を、それによって引き起こされた数多の悲劇の責任を、アークのせいでこれから起こり得る事件の責任を、全て清算してから改めて約束を果たす。
肩の力を抜きたいのは山々だが、それもやはり全部終わらせてからだ。
そう、
「シンクネットを潰して、アークの影響受けてそうな特型も殺して、最後にアークワンを壊して全部終わりだ。これでマイナスをゼロに戻すどころかプラスにも出来る」
アークワンの存在は害だ。
けれど、アークワンが持ち込まれた事によって「仮面ライダーゼロワン」の概念が流入したのはこの世界の人間にとってプラスと断言出来る。
或人さんは、不破さんは、刃さんは、天津さんは、滅亡迅雷は、仮面ライダーはきっと人々を救ってくれる。
今はまだ表立って活動出来ないのだとしても、何れ皆の声援を受けて戦える日がきっと来る。
夢に向かって、彼らは飛び立つのだ。
だから。
だから、その為に。
「終わらせるんだ、俺の手で」
自分の不始末は、自分で解決する。
これだけは百合ヶ丘も他の誰かも頼らない。
ただでさえ酷い目に遭わせてばかりなのに、これ以上二水ちゃん達に過酷な運命を背負わせたりするものか。
「振り返るな」
決意を胸に、百合ヶ丘に背を向ける。
どれ位掛かるのかは分からないが、暫く──当面は戻れないだろう。
名残惜しくはあるが、決して振り向かない。
「振り、返るな」
1歩踏み出して、瓦礫に足を取られる。
やはり、掲示板の人々が言う通り疲れているのかもしれない。
全部終わらせたら、思い切り休もう。
生活リズムに厳しい夢結様は怒るかもしれないけど、深夜までゲームした後昼前まで爆睡するのだってたまには悪くない。
何も考えずに、馬鹿みたいに遊ぶんだ。
「振り返るな────」
2歩。
未練を断ち切る為に駆け出そうとして────
「どこに行こうとしてるの?」
この場で絶対に聞く筈の無い、舌足らずな少女の声が背後から響いてきた。
「……参ったな」
そう瓦礫の上で呟いた悪鬼は、藍達の方を振り向こうともしなかった。
ただ黒煙の先を見詰め、少女達に背中を向けていた。
そしてそれは実際、少年にとってまるで予想だにしなかった事態なのである。
「どうしてここに?」
「二水のおとうさんがたい焼きをたべさせてくれるから、いこうかなって」
「俗に言う試食ってヤツ。まぁ市街地がこんなになっちゃったら食べてる場合じゃないけどね」
「はは、そりゃそうだ……」
無邪気に腕を振る藍と普段通りの笑みを絶やさない恋花の姿に、悪鬼も軽く笑って肩の力を抜く。
試食──それならば何の問題も無い。
何かと胡散臭いエレンスゲ女学園の生徒である彼女らが百合ヶ丘の地に現れた事から、良からぬ事件が発生したのかとつい疑ってしまった。
勿論ヘルヴォルの皆が陰謀に一枚噛んでいる等とは微塵も思わないが、知らず知らずの内に謀略に巻き込まれている可能性だって否定は出来ないのだ。
(流石に、ねぇ?)
だが、しかし、まぁ。
たい焼きの試食は謀略とは無関係だろう。
もしこれが何か壮大な計画の一部なのだとしたら、いよいよ世界の全部を信用出来なくなってしまう。
だから「今日は残念だったけれど、後日改めて食べさせて貰えば良い」──そんな投げ遣りすぎる事を考えながら、少年は改めて決別への1歩を踏み出して。
「だから、何処に行くつもりなの」
「……!」
瑶の問い掛けに、再び足を縫い止められる。
「何処って、そりゃ百合ヶ丘ですよ。救助活動を手伝いたいのは山々だけど今は一旦──」
「嘘。そっちは百合ヶ丘じゃない」
「だよねぇ。どこ行くつもり?」
その場凌ぎの生半可な嘘など瑤と恋花には通用しない。
そして見詰めると言うにはあまりに鋭く、またあまりに思い遣りを感じる視線を背中に受けた悪鬼は閉口するしかなかった。
「百合ヶ丘に、帰ろう」
「……」
「何を抱えているのかは分からないけど、早まった真似はしない方が良い」
「そうそう!帰って寝ればスッキリするって!」
「……」
そうかも、しれない。
その方が確率は高い。
二川アルトは疲労のあまりに突拍子も無い事を考えていると判断する方が明らかに正しい。
しかし、その正しさを選んだ事で誰かが傷付いてしまうとしたら。
もしリリィが──
最早考えるだけで胸が張り裂けんばかりの苦痛を与える最悪の発想に至ってしまったなのならば。
無茶でも何でも、動かずにはいられなかった。
「……アルト?」
「ちょっ、ちょっと何処行くのさ!」
自分の心の脆さを理解しているからこそ、少年はこれ以上一言たりとも恋花達と会話を続けるつもりはない。
話してしまえば、留まってしまえば瞬く間に絆されるのは目に見えていたのだ。
ただ、これだけ心配させているのに完全に無視するのはあまりにも不義理であるように少年には思え──数秒悩んだ末、結局少年は少女達の方を振り返らずに感謝の一言を述べてから姿を眩ます事にした。
「──えっと、その、ありがとうございました」
「え」
言うが早いか、アークワンキュイスを起動して斥力を操作した悪鬼が宙へと浮かび上がる。
リリィが幾ら超人的な身体能力を発揮出来るのだとしても、所詮は人。
翼が生えている訳でもないのだから、飛んでしまえば相手がエレンスゲでも指折りの精鋭だろうと振り切るなど造作もない。
「あーっ!言うだけ言って逃げるつもり!?」
「卑怯だと思う」
猛然と駆け寄ってきた恋花と瑤をひらりと躱し、アークワンは上昇を始める。
見えなくなってしまえば、聞こえなくなってしまえば惑わされる事はない。
迷う事なく目的を果たせると言う少年の杜撰な目論見は、アークワンの横暴過ぎる性能の力によって今、成立しようとしていた。
たった1つの誤算を除いては。
「待って」
「……?」
手が。
いつの間にか恋花も瑤も追い越して、尋常ならざるスパートから跳躍した佐々木藍の小さな手が、アークワンの腕を掴んでいる。
宙ぶらりんになったまま、悪鬼と一緒に空中遊覧を決め込んでいる。
これには、如何な少年とて唖然とする以外の選択肢は用意されていなかった。
「……藍ちゃん?」
「らんだよ」
そう、これこそがたった1つにして最大の誤算。
少年は藍の瞬発力を見誤った。
その外見や言動の幼さからしばしば幼子のように扱われているが藍は歴としたリリィであり、しかも強化リリィ──ヒュージの攻撃に斃れ、しかしヒュージの血を受けて蘇生し、それ故にヒュージから狙われ辛いと言う特異な体質を持つ前代未聞の超問題児リリィなのである。
よって、実験によって強化された身体能力は並大抵ではない。
「え、嘘だろ。此処地上30メートルだよ?」
「すごいでしょー。えっへん」
確かに、全体的に見れば他のリリィとそう変わらない部分もある。
しかし、瞬発力ならば。
誰よりも真っ先に飛び出し、ヒュージと遊ぶ為に発揮される爆発力ならば佐々木藍は誰にも負けない。
故に、逃げる態勢に入ったアークワンを捉えるのもまた必然。
「いや、いやいやいや!危ないから放してくれよ!」
「えー、今おっこちたほうが危ないと思う」
「そりゃそうだ……じゃなくて!何考えてんのホントに!」
「ナイス藍!そのまま地上まで引き摺り下ろしちゃえ!」
「……ファイト」
「恋花様も瑤様も何煽ってんですか!?」
やいのやいのと騒ぐ内に、じりじりとアークワンの高度が下がり出す。
藍を気遣ったからなのか、はたまた何か別の理由があるのか。
それは少年自身にすら分からなかったが、何はどうあれまるで磁石に引き寄せられるかのようにアークワンは地上に降下を始めていたのである。
そしてこの好機を逃すヘルヴォルではない。
「とりゃ!」
「え」
「えい」
「えぇ……?」
そこそこの高度まで降りてきた所で藍が掴んでいるのとは反対の腕に恋花が飛び掛かり、一気に地上付近まで落下してきたのを見計らって更に瑤が足を掴んで引き摺り下ろす。
相手がリリィであるが故に全く抵抗出来ず、ものの十数秒で仮面ライダーアークワンは無様にも取り押さえられる羽目になってしまったのだ。
「……何するんです」
「いやぁ、ねぇ?女の子の顔を見るなり逃げ出すってちょっと酷くない?あたし傷付いちゃったかも」
「別に逃げ出した訳じゃ……!」
「いろいろ終わったら、たい焼きたべにいこ?」
「折角鎌倉まで来たんだから食べたいのはよく分かるけど流石に二川さんも避難してると思うな……!」
「兎に角百合ヶ丘に行く」
「え、ちょっ──痛い痛い!引っ張らないで!今恋花様が乗っかってるんだから引っ張ったってうごかな──あ、いや、何でもないです!」
挙げ句、3人の少女にいいようにされている。
この上なく無様で、滑稽で──けれど不快ではない。
大して関わりの無い、知り合い以上友人未満の関係だからこそ可能な気安さとも言える。
これが百合ヶ丘のリリィだったら死に物狂いで、人によっては半狂乱になってでも止めようとした筈であり、そう言う意味ではすっかり砕け散った少年の精神的にも彼女らの「じゃれつき」は心地好く感じていた。
だが、心地好く感じると言う事は。
気が緩むと言う事は、つまり。
機能の一部を装着者の精神状態に委ねているアークワンは、変身を維持できない。
「あ────」
少年の身を覆っていた装甲が、黒い泥となって瞬く間に溶け落ちる。
心の弱さを隠していた鎧が、剥がれてしまう。
「アルト、だいじょうぶ?」
「な、泣いてる……!?ゴメン、あたし何か嫌な事しちゃったかな!?」
「恋花……ちゃんと謝った方が良いと思う」
「2人も共犯でしょ!?」
違う。
それは断じて違う。
嫌な事なんて少年は1度だってされていない。
寧ろその逆だ。
「────ぅ」
「え?」
「ありがとう、ございます……!」
ぼろぼろと大粒の涙を流し、蹲りながら少年は嗚咽する。
こんなにも情けない自分を心配してくれる、何か力になれないかと手を差し伸べてくれる、その優しさに二川アルトは外見通りの子供のように泣きじゃくった。
「?感謝されるような事はしてないよ」
「……!」
「きっとアルトは疲れてる、だから休もう?」
少女達からしてみれば、それは何でもない事だった。
リリィとして逸る仲間を制止するのは当たり前の事であるし、一葉と言う時々猪突猛進な隊長を持っていればまぁまぁ慣れた話だ。
ただ、少年からすればどうしようもない己を救おうと身を投げ出してくれた事実には変わりない。
純粋な心配から、ロクな会話もせずに遁走しようとした相手を説得しようと試みているのだ。
「疲れてなんか、ない」
「この、分からず屋……!」
「無茶も、してない……!」
しかし、それでも。
この責任だけは誰の手も借りず、自身の手で果たさなければならないと頑なに思いこんでいる少年は抵抗を止めない。
優しさが伝われば尚更だ。
「アルト」
そんな、自己犠牲を止めたのは。
言葉少なに少年の足を掴んでいた、あの少女。
「もう、いいよ」
「────」
「もう頑張らなくて、いい」
背中に乗っていた恋花を跳ね除け上体を起こした少年を、初鹿野瑤が背後から抱き留める。
動きを止めるために強く、されど決して傷付けぬよう優しく。
「その、上手くは言えないけど」
「────」
「アルトは十分頑張ったから、少し休んだ方が良い」
「でも────」
「戻ってくるまでは私がやるから」
何を言っているのだ、と少年は絶句した。
ただ自分を止めるのみならず、
それが何を意味しているのか瑤は理解していないのだ。
彼女は殆ど何の関わりもない他人の為に、全く無関係な咎と夢を背負うと言ってしまったのだ。
ただでさえ年頃の少女が背負うには重すぎる責任を背負っていると言うのに、その上他人のモノまで引き受けるつもりなのである。
「もうアルトがそんなベルトを付ける必要なんてない」
「────!」
「元気になるまでは私が預かる」
いつの間にかベルトに添えられていた瑤の手を少年は掴む。
渾身の力を籠めて、悪意の器から引き剥がそうと試みる。
けれど、動かない。
滅茶苦茶に揺さぶろうが爪を立てようが、ただ置かれているだけの手を引き剥がす事が出来ない。
「っ、クソ……!」
「ほら、疲れてる」
苦闘する少年の様子を見て、瑤は夢結以上の鉄面皮を僅かに緩めた。
全て彼女の予想通りだ。
端から見ていても既に明白ではあったが──やはり、少年は疲れている。
肉体的にも、精神的にも、己を酷使した結果限界まで磨り減ってしまっているのだ。
そしてそれでも尚一柳隊の前では元気に振る舞っていた。
いや、元気そのものだった。
きっと百合ヶ丘だけが彼の支えであったが故に、それ以外の殆ど全てが彼に重圧としてのし掛かっていたのだろう。
「無茶したら、ダメだよ」
「……っ!」
で、あれば。
百合ヶ丘以外の僅かな例外である自分達が彼を救う──少女は鎌倉府に行く事になった瞬間からそう決めていた。
それがリリィのあるべき姿であり、一見寡黙に見えても人一倍優しい初鹿野瑤の性なのだから。
「……絶対に、大丈夫だから。私も無茶はしないから、安心して」
「ぃ、嫌だ……!」
少年の声が、僅かに震える。
瑶にほんの少し語りかけられただけで、鋼の決意が砕けようとしている。
それだけ二川アルトの心は弱っているのだ。
苦痛の汚泥をのたうち回って、底まで沈められて、それでも尚抗い続けているからこそ沼の底に飛び込んできた少女の言葉が突き刺さった。
「アークワンだけは渡せない……!」
「どうして?」
「これを渡してしまったら、瑤様が不幸になる……!」
それでも。
それでも、アークワンだけは引き渡せない。
アークワンは百合ヶ丘との出会いをもたらしたが、同時に数多の不幸と動乱をも百合ヶ丘に呼び込んだのだ。
その責任がアークワンの装着者である自分1人に収束するならばまだしも、他の誰かが負う事になるなど少年は断じて容認出来ない。
「かもね」
「だったら……!」
「でもね」
しかし、初鹿野瑶は─────
初鹿野瑤は、どうしようもない位に
人々を守護する盾であり、異形を討ち滅ぼす剣だった。
彼女の使命は単に人々の命を守るだけでなく、生活や安心をも保護する事にあるのだ。
そして──彼女が守るべき人々の内に、少年はしっかりと含まれていた。
「ごめんね。こればっかりは譲れない」
「……」
「例えそれがきみの意思を踏みにじる事になってしまうのだとしても、私はきみを守りたい。ほんの少しだけでも、きみを休ませてあげたい」
瑤は強く少年を抱き締める。
孤独に震える時は最早過ぎ去った。
少年が「誰か」から引き継いできた正義がまた誰かに引き継がれる、その瞬間が訪れたのだ。
ただ、彼の想像よりずっと早かっただけ。
途切れる訳でも、停滞する訳でもない。
二川アルトが守り抜いた「正義の系譜」は、今この瞬間だって確かに彼の心に息づいている。
「どう、しても……?」
「どうしても」
これが、正真正銘最後の問答だった。
「そんなに言うのなら仕方ない、かなぁ……」
呆れたような、少しだけ笑いを含んだ声音。
少女の指先に力が籠り、少年の血に塗れた指先から力が抜ける。
──それだけで、初鹿野瑤に少年の全てが引き継がれた。
「……ごめん。恋花、藍」
「ううん、気にしないで。瑤がやらなかったら、きっと私がやってた」
「藍も、アルトには休んでほしかった」
「……そっか。そう、だよね」
「……ねぇ、アルト」
「私も、やっときみと同じ景色が見えるようになったよ」
「だから……」
「────あの青空が、見える?」
◯二川アルト/仮面ライダーアークワン
責任感で精神ボロボロ
鶴紗の負傷で更に精神ボロボロ
仮面ライダーの夢を叶えたいのに実力が全く伴ってなくてもっと精神ボロボロ
挙げ句自分が転生したせいで惨事が発生しててトドメに精神ボロボロ
おまけにシンクネットの投薬で肉体もボロボロ
何もかもボロボロ過ぎて限界を迎えた元百仮面ライダー合。
本編ではアルバイトのお陰で余計な事を考えずに済んでいるが一歩間違えたらすぐこうなる位まで追い込まれている。
一時的とは言え仮面ライダーの責任を放棄してしまったと言う意味ではバッドエンド。
仮面ライダーと言うその身に余る重荷から解き放たれたと考えればハッピーエンド。
なので総合すればビターエンドなのだと考えられる。
このルートでは長期間の昏睡状態に陥り何か良い感じのタイミングで何か良い感じに復活する。
◯初鹿野瑤/仮面ライダーアークワン
滅茶苦茶優しいアークの正統後継者。
ただしアークドライバーには百仮面ライダー合が尋常じゃないレベルのプロテクトと罠を仕掛けておりこれ以後アークドライバーを介さない精神への物理的な攻撃(機械による精神操作、拷問、投薬等。言葉責めは有効)は一切無効化され、下手な事をしようものならアークが即座にハッキングを開始する。
後ちょこちょこイマジナリー百仮面ライダー合が見えるようになる。
次回は…次回は分からん…
普通に本編に戻るかもしれないし「【誰か】ワイ、転生したら序列2位に愛され過ぎて死にそう【助けて】」とか書いている可能性もある。
分からん…
正直に言って戦闘無しで考えたら誰との絡みが見たい?(あくまで参考である事をご了承下さい)
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二水
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結梨&梨璃&夢結
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ぐろっぴ&百由様
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一葉
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恋花&瑶
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千香瑠&藍
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灯莉
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ひめひめ&灯莉&紅巴
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叶星&高嶺
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その他一柳隊メンバーなど