【悲報】ワイ、転生したら百合の間に挟まる仮面ライダーだった【ゆるして】   作:イナバの書き置き

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お久し振りです…


第3話「東京圏防衛構想会議」

 電車に乗っていると、訳もなくノスタルジックな気分になる。

 それが古い車輌であったりだとか、窓の外に見える景色が夕焼けだったり良い感じの下町とかだったりすれば尚更だ。

 何故郷愁を感じるのかは分からない。

 転生する前からずっとそうだったし、きっと子供の頃に見ていたアニメとか特撮とかの影響なのだろうが──それについて深く考えた事はなかった。

 

 と言うより、そもそもからして「考える」と言う行為が苦手なのだろう。

 思い返してみれば、前世の自分は酷く単純な人間だった。

 何となく時代の流れに乗って大学まで進学し、それなりの会社に就職し、当たり障りのない毎日を過ごす様は社会の歯車と呼ぶのが適切だろう。

 精々苦心したのは気分屋な上司の御機嫌取り位なもので、挫折も成功もない人生はまぁ面白味皆無の凡人野郎と断言出来る。

 だが。

 だが──その代償が今更やってくるとは、思いもしなかった。

 

「……」

『……』

 

 空気が、重い。

 もう果てしなく、尋常ではない位車内の空気が重苦しい。

 しかし和気藹々としているのが特徴みたいな一柳隊が、幾らクロスシートで前後の座席に座っている相手とは話し辛いにしても会話の1つすら無いともなればこの状態は致し方無しだ。

 現に前の座席からこっそり此方を窺う神琳さん雨嘉さんの百合コンビも、後ろの座席でルナトラ暴走一歩手前みたいな雰囲気を醸し出してる夢結様と珍しく表情に何の色も見せず腕を組んで黙り込む楓さんの凸凹コンビも。

 他の面々や隣で俯いている梨璃ちゃんでさえ、何も言えずにいる。

 

「……」

『……これはかなり、重傷だね』

 

 吊革に掴まってそう呟く美鈴様の幻影もまた、負けず劣らず重傷に思える。

 不思議な──やけに達観したと言うか周囲を煙に捲くような雰囲気はすっかり消え失せ、年齢相応と言うか外見そのままの、華奢で吹けば消えてしまいそうな花弁のような少女がただ所在なさげに突っ立っている。

 どうやら自身(と会議の後に何でか死んでしまう俺)がこの様な状況を招いた原因を招いた事に深く傷付いているらしかった。

 覚悟していたとは言え、というヤツなのだろう。

 

(……とすると、1番元気なのは俺か)

 

 まぁそれは転生者なのだから当然だ。

 これまでアークワンの戦闘力以外恩恵らしき恩恵はあまり感じていなかったが、少なくとも2度死んだ事と掲示板に相談して内心を整理する事で生まれる余裕があるのは転生による恩恵と言う他ない。

 通路を挟んで向かい側の二水ちゃん辺りに「アルトくんまだ反省してないんですか」と言われかねないが、自分の生死を一旦脇に置いておく事によって解決すべき課題が半分になるのはガチのマジで偉大なのだ。

 ただ本当に問題なのは、余裕が生まれても其処から先に全く繋がらない阿呆な自分自身なのだが。

 

(この際アーク本人でも誰でも良いから助けてくれぇ……)

 

 いや、悪意の化身である上に直接話したくないからと美鈴様を寄越してくるアーク(コミュ力ゼロ)に助けを請うている場合ではない。

 況してや窓際席で廃墟を眺めてノスタルジックを感じるなど以ての外。

 そう、何か言わねばならない。

 場を和ませるにしろ失笑させるにしろ呆れさせるにしろ、針の筵が刺さりすぎて全身をブチ抜いている現状を言葉だけでどうにかして脱する必要があるのだ。

 で、あれば────隣の彼女に頼るしかあるまい。

 

「梨璃ちゃん、大丈夫?」

「え?」

「いや、元気無さそうに見えるから緊張してるのかなって」

「ううん、大丈夫だよ。ちょっと考え事しちゃってて」

 

 顔を上げて微笑む梨璃ちゃんの表情は、やはりどこか引き攣っているように見える。

 それどころか夜更かしも殆どしない彼女にしては珍しい事に隈まで作って──無理をしているのだ、と直ぐに分かった。

 そうさせたのは勿論俺だ。

 夢結様との対話を拒否する美鈴様を説き伏せられず、どうも後数時間から数日の内に死んでしまうらしい俺が梨璃ちゃんを曇らせてしまったのだ。

 しかし、それでも。

 梨璃ちゃんには空元気を出してもらわねばならない。

 

 そもそも、一柳隊はその名の通り梨璃ちゃんを中心として結成されたレギオンだ。

 一葉さん達以前のヘルヴォルのような性格を無視した精鋭の寄せ集めと言う訳でもなければ、グラン・エプレのように2年生と1年生のバランスが取れた編成でもない。

 2年生2人1年生8人(と仮面ライダー1人)、かつ構成メンバー内でも実力差がある歪な編成が成立したのは偏に梨璃ちゃんの人徳によるものなのだ。

 つまりは──滅茶苦茶悪い言い方をしてしまうならば、梨璃ちゃんという強力な旗印があって初めて最大限のパフォーマンスを発揮出来る、ある種の梨璃ちゃん依存集団。

 勿論彼女の調子が悪いからと言って戦闘力が落ちるようなリリィはいないが、それでも梨璃ちゃんが皆の士気に大きな影響を及ぼしているのは事実。

 だったら、自分なりに元気付けてみる価値だってある筈だ。

 

「しかし会議ったって今更何を話すんだろうね。変なヒュージ出る、皆団結する、後はG.E.H.E.N.A.が支援を打ち切ったせいで陸の孤島状態のルドビコも応援する。それだけなんでしょ?」

「うん。でも、それをしっかりと示すのが大事なんだって。今はガーデン同士で揉めたり主義主張で仲違いしている場合じゃないって内外に表明する事で、東京圏の人たちを安心させられるから」

「……成る程ねぇ。梨璃ちゃんも中々隊長が板に付いてきたんじゃない?」

「そ、そんな事ないよぅ。私なんてお姉様からすればまだまだで……!」

 

 梨璃ちゃんは顔を真っ赤にして首をぶんぶんと振っているが、これに関して嘘を言ったつもりはない。

 初めて出会った頃から梨璃ちゃんは明るく人懐こいところが魅力的な少女ではあったが、きっと百合ヶ丘のリリィとして経験を積む内により柔軟な思考や鋭い観察眼等が身に付いたのだ。

 今やただ純真無垢なだけの彼女は其処に居らず、戦いの中で研磨された事によって眩いばかりの光を放つ宝石──それが隊長としての一柳梨璃。

 単純な戦闘能力のみならず、指揮でも他の隊長に見劣りはしないだろう。

 そう言う意味では、俺が周囲の成長を過小評価しているのはほぼ確実だった。

 

「その夢結様だってさ、失礼な話だけど今回の事話した本当に壊れるんじゃないかって思ってたんだ」

「えっ……」

「滅茶苦茶強いけど、その分脆くて繊細だから──美鈴様が俺の頭の中にいて、しかも夢結様とは話したくないなんて聞かされたら一体どうなるんだって」

「……」

「俺もう申し訳なくって、兎に角バレないように隠す事しか考えてなかったんだよね。でも、実際はそうならなかった。元からそうだったのか、それとも成長したのかは知らないけどさ。皆思ってたよりずっと強いんだよね」

「そうなの、かな」

「そうだよ、きっと」

 

 純然たる事実に、梨摛ちゃんは再び黙り込む。

 やはりと言うべきか、自己評価の低さは筋金入りだ。

 そもそもリリィになった動機が夢結様への憧れだからか、百合ヶ丘がエリート揃いだからか、それとも生来のものなのか、自分の「凄さ」をまるで認識していないのである。

 加えてエリアディフェンス崩壊からの一連の戦いでは途中で気絶したまま終結を迎えてしまった事を余程悔いているらしく、自責の念に苛まれ続けているように見える。

 

(二水ちゃんもびっくりの自己評価だな……)

 

 大体、新宿の件はヒュージの撃滅で死ぬ程忙しい時に奇襲を仕掛けてきたエデンか対応出来なかった俺が悪いのであって、梨璃ちゃんが気負う必要など1ミリだって無いのだ。

 誰だって不意を突かれれば動揺もするし、卑劣な攻撃を受けての気絶なのだから仕方ない事──と、納得出来ないのが彼女の魅力でもあるが。

 まぁでもやっぱり、暗い顔をしているよりは元気一杯を体現したかのような満面の笑みをしている梨璃ちゃんの方が好きなので。

 

「大丈夫だって、今回もどうにかなるよ。だって梨璃ちゃん達が守ってくれるんだろ?」

「う、うん。付きっきりで守っちゃうぞー、なんて」

「やったぜ。梨璃ちゃんみたいな超絶美少女に付きっきりで守って貰えるなんて夢結様嫉妬するんじゃないの?」

「え、えぇっ!?そんな美少女だなんて、アルトくん揶揄わないでよぉ!」

 

 どうにかなる──いや、どうにか()()

 この期に及んで天に、神様になんて祈ったりなんてしてやるものか。

 一柳隊の皆程ではないにしろ、美鈴様の力を借りているにしろ、俺だって転生した当初よりは幾分か強くなっている筈なのだ。

 だから、自らの手で死を跳ね除ける事だって出来ると──そう信じたい。

 

「アルト……後で話があるわ」

「お姉様も!天然なのか巫山戯てるのか分からないですけどコントをやってる場合じゃないんですよ!って言うか思ったより元気ですね!?」

「ほら言った通りだ。やっぱ夢結様強いって」

「ええ、まぁ。辛い、とは思うけれど……貴方達の前であまり格好悪い所ばかり見せるのはシルトとして情けないもの。せめて会議の最中くらいシャキッとしなくては、ね?」

「お姉様……!」

 

 それに、今日は一柳隊が全員集結している。

 誰かが分断される事もなく、自分含めて11人全員揃ってこの電車に乗っている。

 それも、精神に傷こそ負えど決定的な打撃を受けた訳でもない壮健な状態で。

 なら、負けない。

 俺1人だったらどうにもならない敵が相手でも、一柳隊が力を合わせれば必ず打ち勝てるのだ。

 会議の後に訪れるらしい「死」なんて吹っ飛ばせる、筈だ。

 そう、信じて────

 

 

 

『強くなったね、夢結。いや、僕だけ2年前から何も変わってないのかな。皆僕よりずっと先にいる』

 

 

 

 やいのやいのと騒ぎ出した少年達を見詰めながら、少女はぽつりと呟いた。

 声を荒げるでもなく、うちひしがれるでもなく、況してや驚嘆するでもなく。

 ただ淡々と、吊革を掴んで電車の振動に揺られながら。

 琥珀色の瞳を、アークと接続した証左である緋に染めながら。

 

『──これでもまだ結論は変わらないのかい、アーク?』

 

 絶望を、紡ぐ。

 

 

 

■■■

    

 

 

 

誓 い の 証 明 を

 

 

 

鋼蝗終焉 Ⅲ

──×──

"キボウノカケラ"

■■■

 

 

 

501:一般転生悪意(浄化) ID:aRKs01+???

 あの……会議恙無く終わっちゃったんスけど……良いんすかこれ……

 

502:ご機嫌よう名無し様 ID:ApqLrvSy0

 しゃあけど……元々結束の確認が目的だから会議は踊らんわ!

 

503:ご機嫌よう名無し様 ID:MzH70MKvE

 いやサクっと終わったなりに重要な事話してたと思うんですけど

 さては百仮面ライダー合よく分かってないな?

 

504:ご機嫌よう名無し様 ID:t1auDyA42

 国定守備範囲外への外征許可の緩和とかルドビコから逃走した実験体ヒュージの討伐とかあるだろうがよえーっ

 てか恙無くも何もエレンスゲが話題に上がった瞬間クソ程雰囲気悪くなっただろうがよえーっ

 

505:ご機嫌よう名無し様 ID:jsQ0d4zD4

 現ヘルヴォルの皆は何も悪くないのに滅茶苦茶悪評背負ってて悲しいんですけど……

 

506:ご機嫌よう名無し様 ID:XDAXCDW9R

 無許可外征とか親ゲヘナとか歴代ヘルヴォルとか問題要素が多すぎるのがね……

 

507:ご機嫌よう名無し様 ID:n7QXu8kY3

 でも擁護してくれた高飛車風味なおっぱいデカイお姉さんと優しそうなおっぱいデカイお姉さんのお陰で事なきを得てホッとしましたよあたしゃ

 

508:一般転生悪意(浄化) ID:aRKs01+???

 胸しか見てないじゃん……いや俺もそうだけど……

 

509:情報ニキ ID:nGM0WRjAT

 お台場女学校の「船田純(ふなだ きいと)」様とルド女の「福山(ふくやま)・ジャンヌ・幸恵(さちえ)」様だろうがーっ!

 どこ見とんじゃお前らーっ!

 

510:ご機嫌よう名無し様 ID:ULplY0bnN

 いやだって名前長過ぎるもん幸恵様

 ジャンヌって何だよジャンヌって、姉を名乗る不審者か?

 

511:ご機嫌よう名無し様 ID:/CbF9Ago2

 ルドビコはミッション系のガーデンだからね、洗礼名が付くから仕方ないね

 それにルドビコにも百合ヶ丘みたいな疑似姉妹制度が存在するから不審者じゃなくて姉そのものなんだ

 

512:ご機嫌よう名無し様 ID:mEkxNdMjr

 天宮(あまみや)・ソフィア・聖恋(せれん)さん

 岸本(きしもと)・ルチア・来夢(らいむ)さん

 黒木(くろき)・フランシスカ・百合亜(ゆりあ)

 松永(まつなが)・ブリジッタ・佳世(かよ)

 

 うーん、覚えられる気がせん……

 オレっ娘が聖恋さんでリリィオタクが佳世様だっけ?

 

513:ご機嫌よう名無し様 ID:nbyq7mcFV

 待てよ御台場の

 

 月岡 椛(つきおか もみじ)

 船田 初(ふなだ うい)

 川村 楪(かわむら ゆずりは)

 藤田 槿(ふじた あさがお)

 

 も共に戦う仲間として忘れちゃいけないんだぜ

 

514:ご機嫌よう名無し様 ID:PlmP11tyy

 多い……多くない?

 

515:ご機嫌よう名無し様 ID:nGfJHjUNI

 都内が特型動物園と化している可能性がある以上仲間はどれだけ多くても問題ないと考えられる

 

516:ご機嫌よう名無し様 ID:hn/8suMEP

 みんなで共闘するから尊いんだ 絆が深まるんだ

 

517:ご機嫌よう名無し様 ID:91GbtSGb+

 >>510

 姉を名乗る不審者なら今日の千香瑠様の方が適切じゃないですかね

 百仮面ライダー合が視界に入った瞬間抱き締めに行ってて思わず笑っちゃったんスよね

 

518:ご機嫌よう名無し様 ID:htUTYJ0BD

 〔添付:千香瑠が百仮面ライダー合をハグしている画像〕

 

519:ご機嫌よう名無し様 ID:H85ZAJUK+

 かーっ!

 かーっ!

 

520:ご機嫌よう名無し様 ID:uyaqOgTKE

 卑しか……卑しか……いやこれ違うわ

 多分扱いが藍ちゃんと同レベルになっただけだわ

 

521:ご機嫌よう名無し様 ID:P4QhXYEL2

 つまり百仮面ライダー合は幼女……ってコト!?

 

522:ご機嫌よう名無し様 ID:whxs0lL9i

 きっしょ

 

523:ご機嫌よう名無し様 ID:qtjl3y0ml

 佐々木藍にはまったく似ていません!

 仮面ライダーにありがちな根性だけ鍛えてるヤバい転生者です。

 

524:一般転生悪意(浄化) ID:aRKs01+???

 褒めてるのか貶してるのか分からないやん

 

525:ご機嫌よう名無し様 ID:tXzLftBkQ

 素直に褒めたくないけどガッツだけはマジでスゴいぞ

 チートに頼りきりの転生者達もこれは見習って良い

 

526:ご機嫌よう名無し様 ID:CeuRApM5+

 でもコイツ百合の間に挟まるじゃん

 

527:ご機嫌よう名無し様 ID:PYHMB4bxU

 やっぱダメだな

 皆コイツだけは見習うなよ

 

528:ご機嫌よう名無し様 ID:VhHEK3xul

 見習うも何も全身挽き肉になったり蒸発したり丸焼きになったりする覚悟なんてある訳ないんだよなぁ

 

529:ご機嫌よう名無し様 ID:r4OYC0dBG

 普段うだうだ言ってる癖にリリィに危害が及びそうになったらノータイムで覚悟ガン決まりで突っ込んでくのは最早正気とは思えないんよ

 俺達とは何か違うものが見えてるんじゃないのあれ

 

530:ご機嫌よう名無し様 ID:p9mlB3I/J

 大体の転生者は1度死んだからもう2度とあんな目に遭いたくないって奴らばかりなのに百仮面ライダー合だけ何かおかしいんだが……

 

531:ご機嫌よう名無し様 ID:iZzzH2Lb3

 百仮面ライダー合の特攻(1回目)の時コイツ死ぬからもう次はないなって、天国では幸せにやれよって思ってたんよ

 蘇生後も頻繁に特攻仕掛けてるんよ……

 

532:ご機嫌よう名無し様 ID:8+BvAbVty

 リリィに覚醒して最近漸く落ち着いてきたと思ったんだけどなぁ……美鈴様の予言がなぁ……

 

533:ご機嫌よう名無し様 ID:/neutwNZx

 まぁどっちにしろ合同演習には不参加で良かったんじゃないの?

 流石に百仮面ライダー合のへっぽこ具合だと皆に恥を晒すだけだろうし

 

534:ご機嫌よう名無し様 ID:EhsVxL3QK

(百合ヶ丘の品位)落ちろ!

 

535:ご機嫌よう名無し様 ID:98p9t1Jj0

 >>534

 落ちません!

 

536:ご機嫌よう名無し様 ID:PT+nDQYHm

 演習中はルドビコの人達に預かってもらってるっぽいから暫くは大丈夫そうだな

 今回来てる面子夢結様の知り合いとか強者ばっかみたいだしいきなりギガント級とか特型とかが来ない限り何とでもなる

 

537:一般転生悪意(浄化) ID:aRKs01+???

 フラグ建築ありがとう

 回収まで10秒かからなかったよ

 〔添付:大量のヒュージの画像〕

 

538:ご機嫌よう名無し様 ID:7oDyvLzfg

 え

 

539:ご機嫌よう名無し様 ID:P/gHD4puN

 あー

 えー

 これひょっとして俺のせい?

 

540:ご機嫌よう名無し様 ID:9uOwLPxjZ

 成る程今度はこういうパターンか……

 

 

 

■■■

 

 

 タンタンタン、と乾いた銃声が住宅街に響く。

 グングニル・カービンから放たれた3発の銃弾は球状のミドル級ヒュージを射抜き、マギで構成された仮初めの肉体が地に沈んだ。

 射撃姿勢を崩さぬままそれを確認した黒髪の少年は、異様な光を灯す紅の瞳を左右に走らせた。

 

「──沈黙確認。聖恋さん、次の通りから3体来ます。3カウント後、右の個体に牽制射撃を行うのでその間に中央と左の2体をお願いします」

「あぁ、分かった!」

 

 これで8体目。

 強い弱いではなく、援護が巧いと言うのが二川アルトに対する率直な感想だった。

 彼は聖恋の理解を完全に超えているアークワンの能力を上手い具合に使いこなせるのか、目視で確認出来ない位置で待ち伏せしているヒュージを完璧に把握し、一瞬の内に撃破までの最短経路を導きだす。

 初めてコンビを組む──況して今日初めて出会ったばかりでキチンとした自己紹介すらしないまま戦いに赴いた、1年生と特別生のコンビにしては出来すぎな位だ。

 

「3、2、1……てっ!」

「────!」

 

 射撃にしても、中々筋は悪くないように思える。

 弾かれるように飛び出した聖恋の横を通り過ぎた銃弾は住宅街を隔てるコンクリートブロックを貫通し、その陰に潜んでいたヒュージに着弾して火花を散らす。

 宣言した通りに絶命までは至らない、牽制射撃。

 しかしフルバーストでばらまかれた弾丸の何発かは確かにヒュージの丸い体を支える3本の足を弾き、その体勢を崩していた。

 幸恵や百合亜には到底及ばぬ精度だが、それでも目的を確実に達成出来るだけの命中率はある。

 とてもリリィとしての対ヒュージ戦が初めてとは思えない程、実戦に対応しているのだ。

 故にこそ、聖恋も背後を気にせず自分の目的に注力出来る。

 

「どぉりゃあああああぁッ!」

 

 振りかぶった勢いそのまま、ダインスレイフ・カービンの銀色の刀身に弾き飛ばされたヒュージ達はコンクリに沈んでいく。

 次いで掲げられた剣が2度振り下ろされれば、哀れな2体のミドル級ヒュージは何の成果も挙げられずに死体へと変わっていた。

 そしてそれは──一旦放置していた、右側の個体も。

 

「ふんッ!」

 

 べぎゃり、と体殻のひしゃげる音。

 聖恋が振り返った時、アルトが渾身の力で振り下ろしたグングニル・カービンは既にヒュージの外殻を砕き内部構造を深々と抉っていた。

 その深さたるや、自動車程の大きさのミドル級は殆ど真っ二つになり砕けた体表からは噴水のように青黒い体液が噴き出す始末。

 特型ならまだしも、通常個体が此処までされて生きているなど先ず有り得ないだろう。

 それでも少年はアークと接続した瞳で素早く左右を睥睨し──一先ず周囲に目立った個体がいない事を確認してから、ほっと一息吐いた。

 

「……お疲れ様でした、聖恋さん。流石ですね」

「アルトこそやるじゃないか!凄い良い感じの援護射撃でホント助かったよ」

「結構大雑把な評価ですね……」

「なぁんだよぉ!褒めてるんだから素直に受け取れって!」

 

 突き出した拳同士コツンとぶつけて、少年少女は僅かに笑う。

 あれ、思った以上に悪くないぞ──聖恋はそう考えずにはいられなかった。

 このぴったり息が合う感じはまるでバディみたい、と言うか相棒そのものだ。

 戦術は簡易ながらルドビコのリリィと連携している時にも劣らぬ、謂わば「実家のような安心感」を彼女は得るに至っていたのだ。

 しかし──そうのんびりとしているのは事情が許さない。

 

「この辺りは片付いたみたいですし、皆の所に戻りましょう」

「ああ、斬っても斬ってもどんどん増えるだなんて訳の分からないヤツ、放っておけないからな……!」

 

 つい先刻都内を急襲したのは「攻撃を受ける度に分裂する」という特性を持つ小型ヒュージの群れであった。

 撃退の為に一柳隊、ヘルヴォル、グラン・エプレ、アイアンサイド、そして御台場女学校の面々は出撃したもののあまりの物量に分散を余儀なくされてしまう。

 特に若輩者のアルトと聖恋が切り離されて──そんな事情から2人は神奈川との県境付近で通常ヒュージとの交戦を強いられていたのである。

 しかしそんな守勢はもう終わり。

 近辺の敵を撃滅した今、義憤に燃える2人のリリィは本来の戦場へと帰還しようとしている──とまぁ、そんな感じの事を聖恋は考えている訳だ。

 

「あぁ、後さ。もっと気楽にしてくれて全然良いからな」

「えっ……いやでも、失礼じゃないですかね……?」

「気にするなって。オレ達もう戦友だろ?」

「戦友……!」

 

 バシバシと背中を叩きながら聖恋と少年は歩を進める。

 彼は頬を赤く染めていて、本当に照れ臭そうで──或いは、本物の「戦友」は初めてなのだろう。

 記憶を失った少年にとって一柳隊や百合ヶ丘のリリィは家族であり、他校のリリィは等しく尊敬の対象。

 そんな中で初めて対等の目線に立てた相手が、対等だと明確に言葉に出して言ってくれたリリィが聖恋なのだ。

 少年はその喜びを、心の底から噛み締める。

 実力はまだまだだけど、漸くリリィとしての第一歩を踏み出せたのだと胸の前で拳を握って────

 

「────!?」

 

 勝手に起動したアークワンのセンサーが、全力の警戒を彼に促す。

 

「聖恋さん!」

「どうした!?」

「何か──何か来る!」

 

 少年の叫びに、聖恋も即座にCHARMを構え直す。

 彼女の視界にはまだ何も映っていない。

 アークワンのセンサーにも何も反応はない。

 しかしアークが彼に断りなくその機能を発揮したということは、それ相応の脅威が迫っている何よりの証左。

 

(──どうする?)

 

 変身すべきか、否か。

 ほんの一瞬、少年は迷った。

 リリィとしての実力では未だ三流であるが故に、アークの能力を過信し過ぎていないが故に、どちらの選択を取るかほんの一瞬だけ迷ってしまった。

 それが──彼の命運を別ける。

 

「いっ!?ぎ、ぐうぅうううっ!?」

「アルト、どうし──何、だこれ!?上手く歩けない……!」

 

 始めに彼を襲ったのは、猛烈な頭痛。

 文字通り頭が割れてしまうような痛みに襲われた少年は、CHARMを取り落としてその場に踞ってしまう。

 そんな彼に聖恋は駆け寄ろうとするが──彼女もまた、突如として平衡感覚を奪われていた。

 そして────「それ」は其処にいた。

 音も立てず、攻撃も仕掛けず、まるで其処にいるのが自然とばかりに、彼らの背後でじっと浮遊していた。

 

 

 

『ERROR……RISE……』

 

 

 

 それは腕を組んだ山羊、或いは人が思い描く「悪魔」像を忠実に再現したような異形の化身。

 不気味なまでに「いるだけ」の特型ヒュージ(カースゴート)が、二川アルトにこれまでのアプローチとは全く異なる奇襲を仕掛けていた。




◯二川アルト
美鈴様の戦闘経験インストールでリリィとしても多少はマシになった系百仮面ライダー合。
ぶっちゃけこれまでは下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるを地で行く位生身での射撃はヘタクソだったが、今はちゃんと狙う余裕があれば無駄弾を使わずに済む程度になったので大分強くなった方である。
ただ、咄嗟の判断や不意打ちへの耐性の無さは相変わらずなので百合ヶ丘基準ではダメダメなのはこれまで通り。

◯天宮・ソフィア・聖恋
幼馴染み思いで努力家で元気一杯なオレっ娘とか完璧か?

正直に言って戦闘無しで考えたら誰との絡みが見たい?(あくまで参考である事をご了承下さい)

  • 二水
  • 結梨&梨璃&夢結
  • ぐろっぴ&百由様
  • 一葉
  • 恋花&瑶
  • 千香瑠&藍
  • 灯莉
  • ひめひめ&灯莉&紅巴
  • 叶星&高嶺
  • その他一柳隊メンバーなど

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