【悲報】ワイ、転生したら百合の間に挟まる仮面ライダーだった【ゆるして】   作:イナバの書き置き

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※今回と次回にオリジナルフォームが登場します。苦手な方はご注意下さい。


第4話「仮面ライダー禁止令(上)」

「ぐッ!?う、ぅううぅッ!?」

 

 痛い、苦しい──それだけが少年の頭を満たしている感情だった。

 何の前触れもなく襲ってきた頭痛は一切の行動を封じ、その手にCHARMを保持するどころか歩く事すら許さぬ苦痛を以て彼を打ち据えたのである。

 

(ヤバい──ヤバいヤバいヤバい!)

 

 ただその場から動けなくなるだけならまだ良い。

 武器を手放してしまったのも、それだけならばアークワンに変身するか逃げるかすれば良いだけなので、絶対絶命の危機と呼ぶ程でもない。

 ただ、これが同時に襲ってきたならば。

 逃走も、抵抗も──マトモに考える事すら許されない程の攻撃を行う「何か」がいると言うのなら話は別だ。

 

(何処だ──いや、()()()()()()()()!?)

 

 確かにアークワンのセンサーを用いて周囲の掃討は確認した。

 少なくとも半径1キロメートル以内に自分達を攻撃可能な個体は存在しないと、少年が知る限り最も高性能な探査機能を保有するエクリプスアイ(視覚センサー)は判断したのだ。

 しかし現に今、二川アルトは攻撃を受けている。

 姿が見えず、攻撃手法すら隠蔽してみせる「何か」によって五感を狂わされているのである。

 そしてそれは、つい今しがたまでタッグを組んでいた少女すら例外ではなく。

 

「ある、と……っ!しっかりしろ、逃げるぞ……っ」

 

 オレンジブラウンのショートカットを押さえながらよろよろと少年に歩み寄る天宮・ソフィア・聖恋もまた五感を侵略された者の1人だった。

 ただし、少年と比較すれば症状はかなり軽い。

 足元こそ覚束ないものの決して歩けないという程でもなく、少年に肩を貸そうとしているのだから平衡感覚が少しおかしくなった程度だ。

 少なくとも立ち上がる事すら出来ない少年よりは何倍もマシだろう。

 

「すい、ませ……あしで、まといで……」

「気にすんなって!困ったときはお互い様、だからな」

 

 肩を支えられて、と言うより殆ど引っ張りあげられるようにして漸く立ち上がった少年に、聖恋はニッと笑いかけた。

 明らかに負担になっている筈なのに、殆ど初対面の相手なのにそれを微塵も意識させない朗らかな笑み。

 其処から読み取れるのは、裏表のない純粋なまでの優しさであり──これが人の持つ真の強さなのだろう、と激痛の中で少年は思う。

 

 正にリリィ同士は助け合うものだ、という概念の体現者。

 あからさまに異常で怪しい己をただ隣で戦っていたから助けようとする彼女は、少年にとって直視すら出来ない程の憧憬と尊敬を抱かせた。

 そうして一歩、また一歩と亀のような歩みで2人は歩き始めるが───カースゴートは、そのような人間的感情とは一切無縁に少年の背後を漂っていた。

 そもそもからして()()()カースゴートはこのような攻撃手法を取るようなヒュージではない。

 五感を狂わせるのは変わらないが、これ()()()視覚を欺くような能力は無く──況してや幻覚剤の投与すらされていない二川アルト(アークワン)の探査能力を掻い潜るなど絶対に有り得ない話。

 雑な表現をしてしまうならば、どいつもこいつも奇想天外な特型連中の中では「あんまり大したことない」部類の個体なのである。

 しかし、此度のカースゴートは訳が違う。

 

「……聖恋、さん」

「ど、どうした?辛いなら少し休んでから──」

「やられた」

「何を!?」

「変身出来ない。キーが、反応しない」

 

 変身妨害。

 それは極めて古典的で、変身ヒーロー物で相手が取る戦術としてもしばしば見られる行為だった。

 仮面ライダーのシリーズでも古くはV3のマシンガンスネークから、最近でもスーパータイムジャッカーが時間停止と洗脳を用いる形でライダーの変身を中断させる場合は少なくない。

 しかし最も有名なのは、仮面ライダー王蛇こと浅倉威か。

 そう言えば子供の頃の自分も城戸真司を鉄パイプで殴って変身妨害した彼に「何て酷いことをするんだ」と憤りを覚えていたような──そんな場違いな思い出が少年の脳裏に蘇る。

 

 そして今回のカースゴートが会得した力は──アークに関連する機器に限定したジャミング能力と、単純な光学迷彩。

 暴力でもオカルトでもない極めて現実的な手法だが、スターターを押せば誰であっても起動出来るアークワンは確かに何度起動を試みても沈黙するばかりだった。

 

『────ト!──えて──の─い!?』

 

(美鈴様も、ダメか……?)

 

 ジャミングはプログライズキーだけではなくアークドライバーにまで及んでいた。

 川添美鈴の幻影は眼前に立っている事こそ分かるものの全身の輪郭が絶えずブレ続け、ブロックノイズが走る影法師のようになっている。

 言葉も同様にノイズの奔流に掻き消され、少年には届かない。

 打つ手なし、万事休す──思わずそんな言葉が頭を過った。

 だが、それでも。

 

(……どう、する)

 

 諦める事だけは、絶対にしない。

 そんな事は誰からも──百合ヶ丘の皆からも、ヘルヴォルからも、グラン・エプレからも、況してや今日出会ったばかりのルドビコリリィ達からでさえ教わった覚えはないのだ。

 馬鹿みたいに単純で、故にこそ彼の内に宿った認識は鋼より硬く──ほぼ丸腰の自分に何が出来るか、考えを巡らせ始める。

 

(……どう、する?)

 

 CHARMは手放したっきり。

 アークワンには変身出来ない。

 宿した機能は殆どを封印され、誰かに支えられなければ歩く事すら儘ならない。

 それでやれる事は、一体──何だ?

 

「……よし、この辺りなら敵はいなさそうだな。ちょっと休んでから動こう」

「そう、ですね……」

 

 そうこうしている内に、少年と聖恋は小さな公園へと辿り着いていた。

 見晴らしが良く、程々に障害物(遊具)があり、いざというときの逃走経路にも困らない。

 全てに置いて悪くない、2人が考える中では最良の避難場所だろう──既に捕捉されていると知っていなければ。

 

『Error……rise……』

 

 塗装の剥げたベンチによろよろと座る少年少女の背後──茂みの中で、光学迷彩を纏ったままカースゴートが鞭のような触腕を振り上げる。

 完全な奇襲ならば、命中は必至。

 加えて少年が戦闘不能ならば、聖恋1人を始末すれば事は済む。

 勝利の方程式を導き出したカースゴートに、今更躊躇う理由はない。

 

「そう言えばなんですけど、聖恋さん────」

「ん、何────」

 

 少年が胸元を押さえながら少女に話し掛けた、その一瞬。

 聖恋が周囲の警戒から意識を逸らした、その一瞬。

 カースゴートは触腕を振り下ろした。

 

 

 

■■■

    

 

 

 

仮 面 ラ イ ダ ー 禁 止 令

( 上 )

 

 

鋼蝗終焉 Ⅳ

──×──

"正義失格者"

■■■

 

 

 

 

 ヒュージとの戦いで犠牲になったのは、何も人命だけではない。

 争いの巻き添えになった野生動物は徐々に駆逐され、人々が築き上げた優美な建造物は数年の内にただの瓦礫へと成り果てた。

 つまりは、ありとあらゆる存在や概念がヒュージやそれと霊長の座を賭けて戦う人類によって破壊されかかっているのだ。

 勿論、「文化」も例外ではない。

 ただ生きる為に娯楽が、食が、機器が、戦闘に関する事柄以外の全てが少しずつ衰退していったのである。

 

「これは……」

 

 今、一人用ソファーに腰かける川添美鈴の前に鎮座している14インチのテレビデオもその象徴だった。

 箱型テレビとVHSレコーダーが一体化したそれは「この世界」でも機器の高性能化によって1度は淘汰された代物だが、軍需に生産が集中し民間まで最新機器が行き渡らなくなった現在では目にする事も珍しくはない。

 美鈴自身も幼い頃はよくこれでビデオテープを再生したものだ。

 ある時はお気に入りの映画だったり、またある時はバラエティだったり、目が悪くなると思いつつも画面の中で繰り広げられる物語には病みつきになったのも鮮明に覚えている。

 しかしその小さく荒い画面に先程から映し出されている映像は何とも退屈なモノだった。

 

「……」

 

 誰かの、人生なのだろう。

 幼児用のベッドから始まった何者かの視点による映像は早送りとカットを何度も挟み、目まぐるしく移り変わっていくが目新しさはまるで見当たらない。

 優しく絵本を読み聞かせてくれる母と、仕事が忙しく土日以外は滅多に会えないがその分休日は沢山遊んでくれる父。

 連休があれば一家であちこちに遠出する。

 山梨、栃木、静岡──都内から日帰りで行ける範囲とは言え、温泉好きな両親に連れられ様々な地を巡る日々。

 良くも悪くも普通で、ありふれている。

 何に脅かされる事もなく自由に旅行出来るのは、ある意味美鈴達リリィが切望していた未来なのかもしれないが。

 そんな退屈極まりないホームビデオが転換を迎えたのは、彼が4歳になる頃だった。

 

「仮面ライダー……?」

 

 テレビの画面にでかでかと映し出されたのは、「仮面ライダークウガ」のタイトル。

 後に平成ライダーシリーズとして括られる特撮ヒーロードラマの、第一作目だ。

 言葉を喋れるようになり、「物語」についてもある程度理解出来るようになった彼はこの特撮ドラマに瞬く間に引き込まれた。

 現代日本に復活した超古代の怪人達──何かしらの理由からゲームのように殺人を行う異形に立ち向かうは、図らずしも古代の力を身に付けた青年と優秀な警察機構。

 そして毎週のように迫り来る緊迫感と切迫感。

 これまで読んできた絵本なんてまるで話にならない、重厚なストーリーと過激なアクションの虜にされてしまったのだ。

 録画した分を毎日のように見返して、幼稚園に通う間も仮面ライダーだけが楽しみで、友達と格好良さを語り合って──翌年、「仮面ライダーアギト」が始まった。

 

「仮面ライダーが、テレビ、番組……か」

 

 知ってはいた。

 掲示板に書き込める身である以上、「仮面ライダー」がどのような立ち位置だったのか理解していない等とは口が裂けても言えはしない。

 しかし──しかし、これは。

 少なくとも夢結達にとっては現実の概念が空想であるとする事実に開いた口が塞がらない。

 頭では理解していても、やりきれないような複雑な思いは拭えなかった。

 だって、必死に戦ってきた自分達の人生が誰かにとっては消費されるだけの娯楽だったなんてあまりにもやりきれない話だろう。

 だがそれは美鈴の都合であって、画面の向こうの少年には全く関係ない。

 少年は、ひたすらに──昼夜を問わず仮面ライダーに熱中する。

 

『仮面ライダーになりたい!』

 

 まだ現実と空想の区別が完全には付けられない若人特有の夢を持って少年は成長していく。

 身長が伸びるごとに、クラスが変わるごとに仮面ライダーも変わる。

 龍騎、それは怪人ではなく人と人との意志の激突。

 ベルト、戦法、全てがこれまでと異なる目新しさに少年は釘付けとなった。

 まだ人と人が殺し合う理屈は分からなかったが、それでも純粋な願いの為なら命を賭けられる人間の強さを知った。

 555(ファイズ)、それは今まで倒すべき相手でしかなかった怪人との関係に重きを置いた、異色作。

 まだ少年には話の複雑さ、捻れる人間関係はよく判らなかったが、気難しいながらも共存を探るファイズ(乾巧)達の奮闘は相互理解の重要さを彼に知らしめた。

 そして、ブレイド()

 地球の覇権を賭けて戦う不死生物を封印する戦士達の物語。

 相互理解は戦いでしか成し得ないのか、それとも戦わずとも共存は可能なのか。

 悩み、苦しみ、時には仲間割れを起こしても大切な人達を守る為戦う仮面ライダー達を手に汗握って応援した、あの年。

 

 

 少年は、母が不倫をしている事に気付いた。

 

 

 偶々学校から帰ってきた時に玄関先でキスをしている母と見知らぬ男を目撃してしまった、それだけの話である。

 しかし物陰に隠れ息を殺す彼の横を男が通り抜け、母が何食わぬ顔で家の中へと引っ込んで行くのを目撃した時の衝撃と言ったら!

 少年の心は、僅か1分もしない間に滅茶苦茶にされてしまったのだ。

 ああ、何て事を──母さんは父さんと夫婦じゃないのか?

 じゃああの男は何なんだ。

 一体何であの男は母さんとキスなんてしていたんだ。

 そうして思考を纏められぬまま、自分がどのような顔をしているのかすら分からぬまま帰ってきた息子を母は普段と何も変わらぬ笑顔で迎えた。

 それから数日、わざと帰ってくる時間をずらして母を監視してみれば──まぁ、出るわ出るわ。

 見たくもない不貞の現実を、少年はまざまざと見せ付けられる事となった。

 

 ──どうする?

 

 布団の中で頭を抱える少年の脳裏に浮かんだのは、その一言のみ。

 理由は分からない。

 何時からなのかも分からない。

 しかし母さんは不倫をしていて、父さんは何も知らない。

 この状況を、どう打開するのか。

 

 思い上がりだ。

 

 家庭の、それも不倫と言う重大な問題をまだ10にもならない子供が解決出来る等と考えるのは思い上がり以外の何物でもない。

 しかし、そんな思い上がりを指摘出来る人間もいなかったのだ。

 何せ、不倫なんて大事他人に話せる筈も無いのだから。

 悩んで、悩んで、悩み抜いた末──少年は、父に母の行いを告発する事に決めた。

 理由は簡潔。

 

『話せば分かると思ったから』

 

 そう、きっと話せば分かる筈。

 だって、仮面ライダーはそうだった。

 クウガでは警察と、アギトではG3ユニットの面々と、龍騎では蓮達と、555では木場さん達と。

 完全ではないにしろ、話した結果仲違いをしてしまったのだとしても、或いは手遅れでも、最終的には理解し合えたのだ。

 だからきっと、父さんと母さんだって話せば仲直り出来る。

 確かに母さんは悪い事をしたけれど、相手が怪人って訳でもないんだから話せばきっと────

 

『どうして?』

 

 希望を込めた告発の結果は、悲惨の一言に尽きる。

 父は道徳に背く行為を行った母を糾弾し、母は家にすらあまり帰ってこない父を罵倒した。

 言葉での罵り合いはやがて取っ組み合いの喧嘩へと発展し、家の中をありとあらゆる物が飛び交った。

 窓は割れ、壁には穴が空き、父が買ってくれた555のベルトは何かに叩き付けたのか中に収められていた基盤が露出する始末。

 そうしてぐしゃぐしゃになったファイズフォンを握り締めながら、少年は嘆いた。

 

『どうして?』

 

 話せば分かるんじゃなかったのか。

 確かに母さんは悪い事をした。

 でも最後には分かり合える、例え道を別つ事があっても想いは通じるんじゃなかったのか。

 呆然と立ち尽くす彼の眼前に立ちはだかる扉のその向こう、家族団欒の場であったリビングでは今日も父さんと母さんは喧嘩をしている。

 以前なら喧嘩をしても次の日には仲直りしていたのに。

 何で、どうして。

 何故両親は和解出来なかったんだ。

 何故両親を()()()()()()()()()()んだ。

 何故────

 

『僕が、仮面ライダーじゃなかったから?』

 

 絶望にうちひしがれた少年が導きだした答えは、あまりにも歪だった。

 自分が家族を壊してしまった事からの現実逃避と言い換えても良い。

 しかし、彼の中では()()が答えだったのだ。

 自分が仮面ライダーじゃなかったから父さんと母さんは仲直りが出来なかった。

 ただ告発するだけで揉めている最中に割って入る事もせず、怯えて扉を開けられないような人間だから両親も和解出来なかったんだ、と。

 

『仮面ライダーじゃなかったから、駄目だった』

 

 結局、両親は離婚した。

 長い長い裁判の末に親権は父が勝ち取ったらしく、やつれた顔の彼に手を繋がれながら家を出ていく母を少年は見送り──後は、それっきり。

 何年経っても、顔を見る事すら叶わなかった。

 

『仮面ライダーじゃなかったから』

 

 その頃から、少年は仮面ライダーを見る事を止めるようになった。

 見たいかと言えば、勿論見たい。

 しかし画面の中で勇ましく戦い、苦難の中で正しきを為す彼らを見ていると胸が締め付けられるような思いを抱くのだ。

 こうなりたかったのに、こうなるべきだったのに、どうして変身出来なかったんだろう。

 どうして、どうして、どうして。

 そうして少年は自分を信じるのを止めた。

 運命と戦うのを、止めてしまった。

 

 ブレイドの最終回は、未だに見れずにいる。

 

 中学生になっても、高校生になっても、大学生になっても、社会人になっても──転生してからも「仮面ライダーじゃなかったから」は付き纏ってくる。

 寧ろ実際にアークワンとして戦うようになったからこそ、仮面ライダーになる事の難しさが身に染みるようになった。

 正しきを為すのは、悪い奴を倒すのは、大切な人を守るのはこんなに難しいのか。

 漸く仮面ライダーになる機会を手にしたと言うのに、テレビの中の彼らのように振る舞うのはこんなにも過酷なのか。

 一文字少年が託した「正義の味方」を、自分如きが為し遂げられるのか。

 そして──何がどうあってもアークの系譜から離れられない理由を、知った。

 

 

 

『自分を認められないから』

 

 

 

 ぽつりと呟いた美鈴と、彼女の背後で宣う少年の声が重なる。

 

「前々から自分を引換券か何かと勘違しているんじゃないかって思ってたけど、成る程ね」

「……」

「家族を壊した挙げ句に『仮面ライダー』にも成れない自分の存在を認めていないから、頑張るリリィだったら無条件に尊く見えるんだ。だから命を軽率に捨ててでも助けようとする、違うかい?」

「……そう、ですね」

 

 全てを再生し今や砂嵐を写すだけとなったテレビデオを見詰めながら問い掛ける美鈴に、少年は静かに首肯する。

 

「こんな愚図に優しくしてくれる皆が、眩しくて堪らないんです。二水ちゃんも、梨璃ちゃんも、夢結様も、今日初めて話した聖恋さんだって」

「……仮面ライダーみたいだった?」

「……俺とは違って、ですが」

 

 約束をしたのだ、と少年は呟く。

 ルドビコ女学院に向かう電車の中で、ほんの少しだけ緊張の糸が緩んだ、あの時に。

 切り出したのは二水からだった。

 

『今日を乗り越えたら……そうですね、取材旅行なんてどうですか!?アールヴヘイムと共にアルトラ級を討ち果たした柳都女学院の皆さん、1度取材してみたかったんですよー!ですから一緒に行きましょう、ね?約束ですよ?』

 

 取材旅行、それも北陸のガーデンへの。

 防衛構想会議の内容次第では関東からおいそれと離れられなくなるかもしれないし、俺の外出許可が降りるとは思えない。

 加えてG.E.H.E.N.A.やシンクネットみたいな頭のおかしい連中が何をしてくるかも分からないし、先ず不可能だろう。

 ただ──彼女があんまり楽しそうに話すものだから、思わず頷いてしまった。

 まぁ、約束の中身も面白そうだし、二水ちゃんのアシスタント業はやり甲斐を感じてるから別に構わないけど。

 二水ちゃんとの二人旅に思わず心が踊ったりは、断じてしていないけれど──なんて一瞬でも考えてしまった己を、恥じた。

 

「俺にそんな資格は無い。こんな……父さんと母さんを滅茶苦茶にした屑にある訳ないんだ」

 

 五代雄介のような涙を仮面の下に隠しておける強さを持たず。

 津上翔一のような自分の生き方を自分で決める強さを持たず。

 城戸真司のような悩みながらも確かな答えを見つけ出す強さを持たず。

 乾巧のような手を繋ぐ術を探し続ける強さを持たず。

 そして剣崎一真のような戦えない人の意思を継ぐ強さを持たない。

 願った目標に何一つとして届かない愚者に、一体何の価値があるのだろうか。

 どうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()等と考えられるだろうか。

 

「掲示板の人から聞きました、『仮面ライダーゼロワン』でどうして或人社長がアークワンに変身してしまったのか」

「……」

「大切な人を……イズさんを目の前で喪ったからなんですって。それで深い絶望に囚われて──自分を否定してしまった。どれだけ過酷な目に遭ってもずっと掲げてきたヒューマギアとの共存を、自ら裏切ってしまった。自分の夢を自分で否定した結果が、アークワンなんです」

 

 だから、二川アルトが特典として手にしたのもアークワンだった。

 全く望んでいない、寧ろ呪いや障害に近い転生特典だと勘違いしていたが、初めから見当違いだったのだ。

 ずっとずっと自己を否定してきた二川アルトは、()()()()()()アークワンの変身者に選ばれたのである。

 その証拠に──美鈴の背後と画面の中で俯く少年の手には、今もアークワンプラグライズキーがしかと握られていた。

 

「アークワンは自己否定の化身だ。俺が僅かでも『仮面ライダー』にならない限り変わる事は無いし、俺は自分を認めないからアークワン以外の何者にも成れはしない」

「……君はそれで良いのかい?」

「良いも悪いもないでしょう。俺の我が儘で俺が死ぬだけなら構わないけど、皆に万が一があったら問題だ」

 

 どうあっても少年は「仮面ライダー」に成れない。

 捻れに捻れた精神が元の形を取り戻す事はなく、自分を信じる事すら出来ず、それでも尚夢見る事だけは止められない。

 何ともなしに「仮面ライダー」か「正義の味方」か選択する時を先延ばしにして──そのツケが回ってきた。

 

「本当に……馬鹿みたいだ。仮面ライダーなんて空想の存在でしかないのに、俺が仮面ライダーだったからって何かが変わる訳ないのに、いざ変身出来るってなったら浮かれて……」

 

 普通の「仮面ライダー」にすらなれない癖に「正義のヒーロー、仮面ライダー」を目指すなんて烏滸がましいにも程がある。

 身の程を知るべきだったのだ。

 自分のポテンシャルなど信じてはならない、託された夢だけに邁進するべきだった、と。

 二足のわらじなんて、馬鹿な事をせずに────

 

「僕は好きだけどね、君みたいな人間は」

「え」

 

 そんな少年の絶望を、川添美鈴はただ一言で切って伏せた。

 

「環境も、そうなるに至った経緯も何もかも反対だけど、僕は君の気持ちが少しだけ分かるんだ。アルトは僕のレアスキルが何だか知っているかい?」

「……ラプラス、じゃないんですか?」

「違うんだなぁ、それが」

 

 わざとらしく指を振って否定した美鈴は、何処までも自嘲に満ちた笑みを浮かべて振り替える。

 暗がりの中で所在なく佇む少年に、自分の捻れを教える──ただそれだけを目的として。

 

「僕はユーバーザインS級の保持者であって、人身掌握がどうこうとか言うのは()()()()()()カリスマが人体実験の結果発現しただけに過ぎない」

「じゃあ、それってつまり」

「まぁ所謂、強化(ブーステッド)リリィと言うヤツさ」

 

 唖然とする少年に向かって、美鈴はあっけらかんと衝撃の事実を言い放つ。

 普通のユーバーザインは超感覚が主な効果なのにね、と苦言まで添えて。

 鶴紗や他のリリィがそうであったように、積極的に明かすような出自ではないのに──気に留める様子すら見られない。

 

「他人の記憶を好き勝手に書き換えられるなんてバレてしまったら幾ら百合ヶ丘でも何をされるかなんて分からない──なんて疑心暗鬼になっていたから、皆の記憶を弄って誤魔化してたんだ。馬鹿馬鹿しい話だけどね」

「……」

「でもね、そうやって自分にとって都合の悪い記憶を消しているとふと思う時があるんだ。『あれ?ひょっとして今向けられている好意も自分が記憶を操作したからなんじゃないか?』ってね」

「それは……」

「1度そう思うようになってからは辛かったなぁ。何せ夢結の……僕を純粋に慕ってくれる大切なシルトでさえ、慕うように記憶を作り替えたんじゃないかって考えなければいけなかった訳だから」

 

 そう、少女は何も出来なかったから自分を認められなかったのではない。

 なまじ人の意思や記憶を自分の都合の良いように改変出来るからこそ、ごくありふれた好意とそれを受け取ろうとする自分を信じられなくなってしまったのだ。

 何もかもが少年と正反対で、しかし「自分を信じられない」と言う一点は間違いなく共通している。

 

「だから僕は君を救うよ、これ以上同じ轍を踏ませない為に」

「……勝手な事を、言うじゃないですか」

「勿論勝手だとも。夢結から聞かなかったかな?」

「……救われるような人間じゃないし、仮に救うのだとして方法は無いですよ」

「それはこれから考えるさ」

 

 他人に話をせず物事を進めようとする姿勢なら美鈴は少年にも全く劣らない。

 だから此度も同じ事。

 少年がどれだけ意固地になろうと、自分の存在そのものを否定しようが関係無いのだ。

 美鈴は勝手に少年を救って、少年は否応なしに救われる。

 ただそれだけの話。

 それだけの為に──美鈴はアークワンプログライズキーを握る彼の手を、更にその上から両手で包み込む。

 

「どうしてもアルトが自分を信じられないって言うなら、今はそれで構わない」

「……」

「ただね、独りで悩んでたって何も変わらないんだよ」

「何も……」

「そう、何も。君は消耗して無駄死にするだけだし、遅かれ早かれあの娘──聖恋って言ったかな?もやられるだけだ。君はそれで良いのかい?」

「良くない」

 

 即答。

 そう、良くないのだ。

 自分がどれだけ苦しもうが、無惨に野垂れ死のうがそれは別に構わない。

 仮面ライダーになろうとしてなれない自分になど存在価値

 はないと少年は確かに思っている。

 

 だが──今は駄目だ。

 

 今死んだら、聖恋の献身が全て無駄になる。

 武器1つ握れないお荷物を引き摺って、決して見捨てなかった優しい少女の想いを何もかも無駄にしてしまう。

 それだけは、絶対に容認出来ない。

 

「それに……まぁ、その、なんだい?」

「いや、なんだい?って言われましても……」

「あ、あんまりこう言う事を言う機会が無かったから恥ずかしいんだよ、察してくれ……」

 

 呆れる位大雑把(一旦後回し)で、呆れる位無神経な解決策(思考放棄)、そして突然もじもじし始める奇行振り。

 とても夢結が敬愛するシュッツエンゲルとは思えない行為の連発に、さしもの少年も困惑を隠せなかった。

 

「よし……よし、言うぞ!さぁ言うぞ!」

「ど、どうぞ……?」

 

 と言うか──そもそも、こんなキャラじゃなかっただろうに。

 

「愚痴位なら何時でも聞くからさ、『自分を認めない』なんてそんな悲しい事言わないでくれよ」

「────」

「僕は夢結の友達に悲しい顔をして欲しくないだけさ。でも、それで君に力を貸すのは本当にいけない事なのかい?君が仮面ライダーじゃないから救われてはいけないなんて、一体誰が決めたんだい?」

 

 しかし──ほんの一瞬だけ、それで良いのかもしれないと考えた。

 どうあっても話せない、二水ちゃんにすら聞かせられない、己の心の内側。

 覗かれたんだが見せてしまったのかは知らないが、それを他人に知られて──救うとさえ言ってくれたのだ。

 

 

 

 

 ──不思議なまでに、気分が良い。

 

 

 

 

 重ねた指が同時にライズスターターを押し込んだその瞬間、屈折しきった少年は珍しくそんな感想を覚えていた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「────フラッシュバン、投げます」

「────!」

 

 底冷えするような声で少年が告げた瞬間、天宮・ソフィア・聖恋は反射的に目を閉じて姿勢を低くしていた。

 そして宣言通り少年はブレザーのボタンをむしり、真上に向けて投擲し──炸裂する。

 

「──っ、ぐ」

 

 視界を塗り潰すのは、目を焼いてしまいそうな程の白い閃光。

 十分な高度を得られないまま炸裂した閃光弾は、瞬間的にヒュージからの攻撃以上のダメージを聖恋の五感に与えたが──それ相応の対価は、既に得られていた。

 

「……みーつけた」

 

 見えた。

 見えていた。

 殆ど停止しかかっているアークドライバーの中で数少ない正常に動作していた機能──即ち視覚の保護、強化によって、閃光弾の暴力的な光の中でも少年だけは視覚を失わずにいられた。

 つまり、誰もが動きを止めたこの瞬間彼だけが通常通りに物体を捉えられていたのだ。

 そう、強烈な光源に照らし出されたカースゴートの影でさえ。

 

()()、真後ろ」

「!」

「一気に振り抜いて」

 

 ずぶり、と。

 変わった声音に気付かぬまま振り抜いたシュガールの刃が、何もない空間──否、触腕を振り上げたまま固まっていたカースゴートの側頭部に突き刺さる。

 だが、足りない。

 防御型CHARMであるシュガールは使用者の命を守る機構に特化しており、強靭な生命力を持つヒュージ相手に単なる刺突では致命傷に至らない。

 鎌の半ばまでめり込んでいても、カースゴートを殺すには今一歩及ばないのだ。

 故に、聖恋が取れるのは「攻め」一択。

 

「随分好き勝手やってくれたなあああああッ!」

 

 筋力に任せた、背負い投げ。

 グリップが2ヶ所存在する特異な構造と己の肩を利用し、梃子の原理で技を掛けられたカースゴートが宙を舞う。

 とは言え、この悪魔は元々浮遊するタイプのヒュージだ。

 幾ら頭の半分まで刃を通されようと、背負い投げされようと、その程度では撃破出来る筈もない。

 空中で1回転するや姿勢を安定させたカースゴートは聖恋に背を向け、脇目も振らずに逃走を図り──その背中に再びシュガールが突き刺さる。

 

「逃げんなッ!」

 

 CHARMの投擲。

 それはマギをコントロールする事で初めて超人的な身体能力を得られるリリィにとって、己の優位性を一切合切かなぐり捨てる無謀な行為である。

 教練でもやってはならない行為として教わっており、CHARMを荒々しく使う事で有名な百合ヶ丘の六角汐里ですらこればっかりは余程の事がない限り実行しないと言えばその重要さが分かるだろうか。

 付け加えるならばそうならない為に第2世代以降のCHARMには射撃形態が標準装備されているのであって、本来ならば代替機の補給が得られる戦場か余程緊迫した状況でなければ必要もない、その程度の戦法なのだ。

 

 ──しかし今がその時なのだとしたら。

 

 ぐっと身を屈めてから思い切り跳躍した聖恋の五指がグリップを掴み、ふらつくカースゴートを地上に引き摺り下ろす。

 こうなってしまえば、最早逃走など望むべくもない。

 浮遊していると言う最大の強みを失った今、カースゴートには正面から聖恋と戦う以外の選択肢は残されておらず──間髪入れずに大上段から振り下ろされたシュガールが山羊の様な顔面を2つに裂いた。

 

「ぶっ潰れろぉぉぉぉぉぉッ!!!」

『■■■■■■────!』

 

 血霞と身の毛もよだつ程の叫びが噴き出す中、青黒い返り血に塗れた少女もまた叫び返す。

 こんな奴は認めない、と。

 罪なき人々を殺し、仲間を苦しめるヒュージなど誰が許してもオレが許さない。

 況してもしこれがルドビコのラボから逃走した個体だと言うのなら、身内の恥に他ならない。

 勿論強化手術によって何人ものリリィ達を使い捨ててきた研究者を庇い立てするつもりなど毛頭ないが──「逃走を許してしまった」ルドビコの罪を償う為にも、この特型を逃す訳にはいかないのだ。

 そんな鬼気迫る聖恋の猛攻に、小賢しい知恵を身に付けた程度のヒュージ風情が敵う筈もなく。

 

「ぐ、ぐぬ……ッ!」

 

 人間で言えば頭にゆっくりとナイフが刺さっていくような感覚なのだろう。

 ずぶり、と巻き付いた触腕ごとシュガールの鋒がカースゴートの頭蓋を穿孔し始める。

 だが、足りない。

 それでもまだ、時間が足りない。

 強烈な閃光を目撃して寄ってくるヒュージに対応するには、今一歩及ばなかった。

 

「う……!」

 

 ちら、と目線を上げれば砂塵を巻き上げ迫り来る小型ヒュージの集団が視界に入る。

 聖恋は──動けない。

 此処で動けば手負いのカースゴートを逃してしまう。

 そして先程のように策が通用する保証はもう無いのだ。

 よって、刺し違えてでもこの特型を始末する必要に彼女は迫られていた。

 

 

 

 

 ────しかし

 

 

 

 

『待った』

 

 

 

 バチバチと空気を走った赤黒い雷が聖恋の背を舐め、ヒュージの一団に殺到する。

 

「何だ……!?」

 

 チラリと視界の隅に捉えただけでも怖じ気が走るようなおぞましい放電現象は、しかし聖恋の素肌には触れもしない。

 悉くヒュージの外殻へと着弾するや否や、全身を覆い尽くす程の小さな爆発を無数に撒き散らして彼らを押し出していく。

 これまでアークワンが放っていたとされる無秩序な放電とはまるで異なる、細やかに制御され尽くした電撃に聖恋は瞠目し────

 

 

 

『ARK-ONE EXTERMINATION』

 

 

 

 少年(二川アルト)少女(川添美鈴)を掛け合わせた機械音声を放つ■■■■■■アークワンが、彼女の背後に立っていた。




◯二川アルト
思考の根本が

①(精神的な面で)仮面ライダーになりたい!仮面ライダーじゃない自分に存在価値なんて無い!
②でも親の離婚の引き金引いたのは自分なんだよね…仮面ライダーどころか塵以下なんだ
③でもやっぱり仮面ライダーになりたい…

な仮面ライダーでも正義の味方でもない、「弱気をポイ出来ない」ただの人。
哀れ。
前々から自己評価が最低で頑張るリリィならほぼ無条件に尊敬しているのは散々描写していたが、原因は(ヒュージとの死闘で切羽詰まってるアサリリ世界では)割と下らない理由だった。
勿論こんな前世だから「目立った事は何もない」としか言わないし、掲示板の者共に相談出来る筈もないし、況してやリリィに話せる訳もない。
めんどくささではメンタル終ってる時の夢結様とどっこいどっこいまである上に普段は何事もない風に装ってるので質が悪い。
解決には話が飛び込んでくるのを待つ掲示板ではなく「勝手に覗き込んできて」勝手に言いたい放題言ってくれる人間が必要だった。

◯川添美鈴
夢結様大好き自由人。
夢結様の友達なら助けて~ってなるし自分と同じ轍踏みそうな奴がいたらストップかけてくれる滅茶苦茶良い人。
でも実際舞台とか見てる限りではアニメで言ってたような「自分と自分以外の全てを憎む」ような感じではなさそうなので解釈としては間違っていないと信じたい。

◯■■■■■■アークワン エクスターミネーション
仮面ライダーではない。
正義の味方にも及ばない。
しかし夢に向かって羽ばたこうとするのだけはどうしても止められない馬鹿の末路。
或いは独りではどうにもならないといい加減に納得した結果生まれた「超協力プレー」前提のアークワン。
通常のアークワンで機能していた最低限の生命維持装置すら停止させた上で全ての出力を攻撃に用いている自殺同然の形態であり、美鈴が負担を全身に振り分ける事でギリギリ何とか活動可能になっている。
ゼロワンで言う所のリアライジングホッパーに相当する。
ゼロツーまでの繋ぎ

正直に言って戦闘無しで考えたら誰との絡みが見たい?(あくまで参考である事をご了承下さい)

  • 二水
  • 結梨&梨璃&夢結
  • ぐろっぴ&百由様
  • 一葉
  • 恋花&瑶
  • 千香瑠&藍
  • 灯莉
  • ひめひめ&灯莉&紅巴
  • 叶星&高嶺
  • その他一柳隊メンバーなど
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