【悲報】ワイ、転生したら百合の間に挟まる仮面ライダーだった【ゆるして】   作:イナバの書き置き

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第5話「仮面ライダー禁止令(下)」

 止まっている。

 聖恋さんが、ヒュージが、落ちる木の葉が、真っ直ぐ突き出した自分の右腕すら、セメントに漬け込まれたかのように動かない。

 肉体はそのまま、思考だけがアークワンによって加速させられているのだ。

 そんな1秒を限界まで引き延ばした世界に──声が響く。

 

『やぁやぁ、聞こえてるね?』

 

 川添美鈴様。

 夢結様のシュッツエンゲルで、初代アールヴヘイムに名を連ねる歴戦のリリィで、俺の心を赦してくれた人。

 或いは驚く程愉快で自分勝手なマイペースリリィが、ノイズ混じりの幻影となって肩に手を置いてきた。

 気安いながら、優雅な仕草で視界の隅にしか映らないとしても、恐ろしい位絵になっている。

 まぁ──今は実際にそれをやっている余裕があるのだが。

 

『確認しておこう。アルト、君の目的は?』

「眼前のヒュージをぶっ飛ばして聖恋さんを助けてから、夢結様達の援護をする。後────」

『──アークワンとの決別、だね』

 

 アークワンは、自己否定の化身だ。

 俺が自分を否定し続ける限り必ず復活するし、アークワンが存在する限り必ず自分を認められなくなってしまう。

 それは1度粉々になった筈のキーが巡り巡って再び手の内に収まっていた事からも明白だ。

 だから、捨てる。

 始まりは形からでも、今度こそ完全に。

 

 とは言え、今がその時でないのもまた事実。

 眼前には短い時間ながら散々此方をいたぶってくれた羊頭のヒュージがいるし、フラッシュバンに引き寄せられた小型が殺到している。

 先ずはこれを潰し、夢結様達が相手をしている特型集団を退けてからにするべきだろう。

 しかし────

 

『うん、良い機会だし()()()()()()()()()()()

「バカですかアンタ」

 

 美鈴様はその整った顔を「良い事を思い付いた!」とでも言わんばかりの表情に変えてトンでもない事を呟く。

 いや、無理だろう普通に考えて。

 アークワンを制御しながら戦うなんて殆ど不可能に近いし、全力で戦いながらこの関係に始末を付けるなんてもっと不可能だ。

 だが──美鈴様はそうでもないよ、と堂々と言い切った。

 

『いやいや、アルトが制御する必要なんか無いさ』

「……?」

『だって今からアークワンの全リミッターを解除してキーの出力を暴走させるんだもの』

「……死ねと仰る?」

『勿論制御は僕がやるよ。アルトが集中すべきなのは戦う事だけだ』

 

 成る程──出来るには、出来る。

 全部のリミッターを外した上で美鈴様がアークワンの機構を制御してくれると言うのなら、都内のヒュージを一匹残らずぶちのめしたってまだ時間が余る。

 俺単独では全く活かせなかっただけで、少なくともそれを確信出来るだけの力が本来のアークワンには秘められていたのだ。

 で、あれば。

 彼女はこう言いたい訳だ。

 

「つまりキーが自壊するまでの299.75秒間で滅茶苦茶暴れて、滅茶苦茶活躍しろって事ですか?」

『そうとも言うね。でもアークワンとスッキリ決別するにはこれ位が丁度良いだろう?』

 

 全く悪びれもせず、ふてぶてしい笑みを浮かべながら美鈴様は再び言い切った。

 俺なら──いや、二川アルトと川添美鈴なら苦もなく為し遂げられると、当然のように考えているのだ。

 

「────」

 

 ほんの一瞬、怖じ気付いてしまった。

 だってそれはあまりにも自信過剰で、以前の自分なら即座に戒める程に危なっかしい思考だったから。

 無理なんじゃないかって、そんな強いヒーローになんかなれっこないって思いは根強く残っていたから。

 でも────

 

『大丈夫さ、()()()()()()()()

 

 誰より人を想う優しさを持つ彼女の励ましが風に流れ──時が動き出すと同時に、キーが手を離れ宙を舞う。

 フラッシュバンを使用した一瞬で聖恋さんの反撃を受け、羊頭は逃走を余儀無くされていたのだ。

 逃げるのに手一杯で俺への妨害などしている余裕は無いだろう。

 

「───げんなっ!」

 

 そして今、一瞬の内に逃走劇も完結する。

 羊頭はCHARMの投擲と引き摺り下ろしに為す術なく打ちのめされ、激昂した聖恋さんが押し込むシュガールとの鍔迫り合いに縺れ込み──迫るヒュージの一団が、遠くに映った。

 そう、今やるべきは奴らの始末だ。

 ピンポイントで対策をしてきた羊頭に思う所はあるが──ガチリ、と自動で展開したプログライズキーがドライバーに突き刺さった。

 

『INITIALIZE』

 

 最早変身、と宣言する必要もなく。

 決壊するようにドライバーから溢れ出た流体金属が全身を覆う。

 

『破壊』

『破滅』

『絶望』

 

 金属が固着し、砕き、整え、黒白の装甲服を形成する。

 正真正銘、最後の変身。

 一点の曇りも無き完全無欠の正義を遂げる為の、最悪で最強の一手に己の全てが変化し──センサーと視覚を兼ねる血走った左目が、汚泥の中から姿を現す。

 

『滅亡せよ』

 

 これが。

 この捻れに捻れた歪な仮面こそが、人々の営みから悪意の尖兵(ヒュージ)を滅亡させる希望の先駆け。

 二水ちゃんに励まされ、リリィの皆に支えられ、美鈴様に救われた末に辿り着いたアークワンの()()

 即ち────

 

『ARK-ONE EXTERMINATION』

『An additional conclusion turns to take off toward a dream』

 

 アークワン エクスターミネーション。

 それこそ幼い頃から伸ばし続けた手が遂に掴んだ、夢の最果て。

 仮面ライダーではなく、ただのアークワンだ。

 

 

 

■■■

{ 第  話 }

 

仮 面 ラ イ ダ ー 禁 止 令

( 下 )

 

 

鋼蝗終焉Ⅴ

──×──

"An additional conclusion turns to take off toward a dream."

■■■

 

 

 

『……さて』

 

 美鈴の手によってあらゆるリミッターを解除され、生命維持の一切合切すら停止させる事によって全ての枷を外されたアークワンプログライズキーは、際限無く出力を上げ続けるだろう──例えキーそのものが自壊してしまうのだとしても。

 しかし求められるのは圧倒的なまでの掃討。

 美鈴が補助をして尚破滅的な負荷を強いるアークワンが自壊した時に、周囲に自身を脅かすものがあってはならない。

 負けない、死なない、独りにならないを全て達成するには、当然己の安全確保も含まれ──故にこそ、アークワンは一歩踏み出す。

 

「──アルト!?」

『今は目の前の相手に集中して』

 

 ただ一歩、軽く踏み出しただけ。

 しかし霞のように消え失せたアークワンは、カースゴートと鍔迫り合いを繰り広げる聖恋の隣に現出していた。

 次いでグリップを握る彼女の手に、装甲に覆われた指が軽く触れ────

 

『えい』

「えっ」

 

 シュガールの刃が勢い良く燃え上がるや否やカースゴートの頭部をバターのように溶断する。

 手応えすらなく、何ならアークワンの腕力も借りて押し込むつもりだった聖恋自身がすっ転びかねない程の呆気なさ。

 突如聖恋の内側から爆発的に湧き上がった大量のマギがクリスタルコアのキャパシティを超え、部品の隙間から青白い焔となって噴出しているのだ。

 

「わわ……っ!?な、何だこれぇ!?」

『今の()はアークワンをどうにかするので手一杯だけど、ちょっとだけリリィとしての手助けも、ね?』

「お、おぉ……?ありがとう……?……いやこんなになってるCHARM初めて見たんだけど……

 

 実際、大した話ではない。

 美鈴はアークワンが少年にかける負荷を分散させる片手間で、聖恋にマギを譲渡しただけだ。

 だが、マギの生成量すらアークワンによって無理矢理ブーストされている今、少年が保有するマギの総量は正しく桁違いの領域に突入している。

 それが例え果実を搾りカスになるまで圧搾し続けるような人体への暴挙だとしても、或いは美鈴の「ちょっと後輩を応援しちゃおうかな」みたいな適当極まりない片手間だとしても、少しずつ枯渇に向かっていた聖恋のマギを漲らせるには過剰過ぎる程だった。

 そうしておっかなびっくりと言った様子でシュガールを構え直す聖恋を横目に、アークワンは虚空を見詰め──ぽつりと呟く。

 

『聖恋さん』

「今度は何だよ」

『先に夢結様達の所に戻っても大丈夫ですか』

「どうした?まさか皆に何か────」

『なるかもしれないですね、このままだと』

 

 機械音を響かせて細かく収縮と拡大を繰り返すアークワンの視覚センサーは、既に都の上空を通過する軍事衛星の偵察カメラと完全な一体を果たしていた。

 つまり都内は彼にとって庭同然。

 俯瞰視点から市街に蔓延るヒュージと奮戦するリリィ達の様相は勿論、無数の特型に囲まれながらも死に物狂いで抵抗を続ける合同レギオンの面々もハッキリと捉えている。

 だが、その戦況はあまり思わしくない。

 攻撃すればする程分裂する小型ヒュージと2体のギガント級をノインヴェルト戦術すら始動出来ぬまま相手取る技量は流石の一言だが、持久戦に持ち込まれればジリ貧になるのは確実。

 少しずつ追い込まれていく彼女達の動きには、衛星のカメラでも判別出来る位に苦境の様子が見て取れ──そんな様子を伝えれば、聖恋は直ぐ様頷いた。

 

「……成る程。よぉし、此処はオレに任せとけ!」

『……すいません』

「いいっていいって!オレだってアイアンサイドの一員なんだから、やってやるさ!」

 

 リリィは信頼。

 そんな単純な考えに基づいて聖恋は少年に全幅の信頼を置く。

 何せ二川アルトは1度リリィを庇って死にすらしたのだ。

 仮面ライダーだとかアークワンだとか、何やらかつて葬られた技術云々について殆ど理解はしていないが、仲間を守ろうとする覚悟と決意には僅かな疑いすら抱く余地は無かった。

 

 そして少年が聖恋に向けたのもまた信頼。

 仲間との共闘こそすれど「誰かに任せて別の戦場に行く」なんてほぼしない彼がこの場を任せると申し出た事は、それだけ重い意味を持つ。

 少しだけ自分を信じるようになったと言うべきか、或いは自分を信じてくれる他者を信じるようになったと言うべきか。

 兎にも角にも、二川アルトは「仲間に任せる」を今度こそ習得したのである。

 勿論聖恋はそんな事を知る由もないが、彼女は自信満々に進み出て──握った拳で、アークワンの胸板をトンと小突く。

 

「お前のカッコいい所、皆に見せてやれ!」

『……はい!』

 

 信頼には、信頼で。

 謂わば聖恋流の「ご武運を祈る」が、拳を通じて装甲服の内に潜む少年に流れ込む。

 そう、何時の時代、どんな場所だってヒーローたらんとするものを者を勇気付けるのは誰かの応援に他ならない。

 仮面ライダーだろうが、戦隊ヒーローだろうが、ウルトラマンだろうが。

 何処にでもいる普通の人だって変わらないのだ。

 故にこそ、彼は無敵になった。

 

「代わりに幸恵様と来夢を頼む!特に来夢は危なっかしいから心配なんだ!」

『分かりました……では、()()()()!』

「ああ、()()()()!」

 

 聖恋の返答をしかと刻み込んだアークワンが、砂煙を伴って青空へと浮上する。

 重力を操作してビルよりも高く飛び上がった彼は一瞬の内に方向を見定め──一筋の光線となった。

 

「……はっや」

 

 速い。

 ただ純粋に、この世界を脅かすどんな悪よりも圧倒的に速い。

 音すら置き去りにするあのスピードならば、よもや手遅れとはならないだろう。

 そうして都心へと流れ落ちる流星を見届けた聖恋は、シュガールの燃える刃で地面に線を引いた。

 街路を横断するように、大きく1本。

 その一方前に踏み出て、聖恋は前方を睥睨する。

 

「さぁて────」

 

 再び迫るは小型ヒュージの一団。

 消耗しているならいざ知らず、今の聖恋に敗北する要素は1つとして存在しない。

 油断や慢心もまた同様。

 情に厚く、使命に燃える彼女が手を抜かないのは当然の事だが──今回は、加えて戦友(とも)の信頼がある。

 信頼に応えるべく、聖恋の闘志は未だかつてない昂りを見せているのだ。

 つまり、彼女が引いた線は決死線。

「此処から1歩も下がらない」と言う彼女の決意の表れ。

 其処に生半可な覚悟で踏み込もうものなら、無法者が辿る末路などただ1つ。

 

「お前達如きが通れると思うなよ」

 

 血潮、心、武器。

 自身の全てを燃やす熱血少女の刃が、飛び掛かってきたヒュージを真横に引き裂いた。

 

 

 

■■■

 

 

 

 やはり、焦っていたのかもしれない。

 少なくとも、白井夢結(わたし)は激情に駆られる事が多いタイプだと自覚していたし、それを承知していながら周囲に迷惑を掛けたのも1度や2度では済まされない。

 ルナティックトランサー等と言う精神的に不安定になりやすいレアスキルを保持しているのも爆発の頻度に拍車を掛け、「百合ヶ丘のエース」と呼ばれる一方で「死神」と揶揄されていたのも知っている。

 けれど、その上で尚焦燥を露にせざるを得ない程に追い詰められていた。

 特型ギガント級ヒュージ「イビルアイ」。

 全体としてはヤドカリを思わせるバスター種に相似しているが、二枚貝に4つの足をくっ付けたような奇怪極まりないヒュージに私達は苦戦を強いられているのだ。

 

「……やはり何発撃っても通らない。厄介ね、マギリフレクター」

「でも、注意を引けてはいるみたいですよ?」

 

 ぼそりと呟く私に、先程から残弾を気にしてセミオートでの射撃へと切り替えた梨璃が返事を返す。

 そう、私達が苦戦している原因はイビルアイの強固な防御能力にある。

 元よりギガント級に対してノインヴェルト戦術以外の攻撃はあまり有効でないとされているが、だからと言って通常の射撃や白兵戦が無意味かと問われればそうでもない──致命傷は与えられないが、ある程度の突破力があれば手傷は負わせられる筈だ。

 

「動きが鈍重なのは不幸中の幸いだけれど……」

 

 ところが、思わずぼやきが口を衝いてしまう程にイビルアイの防御は桁違いだった。

 本体そのものの堅さに加え、マギリフレクターを展開する二重の防御で攻撃を一切合切無力化してしまう。

 撃とうが、斬ろうが、歯牙にも掛けない。

 加えて取り巻きの刺々しいエイ(スプリット)は倒せば倒す程分裂するのだから、もう堪ったものではない。

 終わりの見えないディフェンスを強要された私と梨璃は、ひたすら牽制を繰り返しながら後退していた。

 だが──それは後退した先で戦う彼女達もまた同じ。

 触腕の何本かを切断されたギガント級(メイルストロム)と向き合っていた叶星さんと紅巴さんは、直ぐに駆け寄ってくる私達に気付く。

 ただし──叶星さんはぐったりと脱力した結梨を小脇に抱えていたが。

 

「叶星様、紅巴さん……と結梨ちゃん!?」

「叶星さん、これは一体どういう事……なのかしら」

「大丈夫よ、張り切ってマギを使いすぎただけみたいだから命に別状は無いわ」

「す、凄かったです……!CHARMからマギの光刃を作り出して片っ端から撫で斬りにしていくなんて……!」

 

 困惑と感嘆が混じる2人の語り口に、あの子ならやりかねないと私と梨璃は揃って頭を抱えてしまった。

 いや、実際結梨は獅子奮迅の活躍を見せたのだろう。

 かつてノインヴェルト模倣型のヒュージに止めを刺そうとした時に発現させた光刃を現出させ、圧倒的なマギの奔流でスプリットを悉く討ち果たした。

 そればかりか叶星さんと紅巴さんのサポートありきとは言え、ギガント級と正面から対決して深手を負わせすらした。

 その結果が死んでいるのかと勘違いしそうな程深い気絶だが、これではとても責められない。

 寧ろ責められるべきは私だろう。

 

「でも……ごめんなさい。折角結梨ちゃんが作ってくれたチャンスを活かし切れなかった」

「と、土岐がもっと動けていればこんな事には……!」

「それを言うならお互い様……だと思います!だってほら、私達も無傷の特型を連れてきてしまいましたし……」

 

 梨璃も、叶星さんも、紅巴さんも、結梨でさえ自分の責任を果たそうと最善を尽くしている。

 翻って、私はどうなのか。

 ルナティックトランサーならリフレクターを突破出来るのではと思い付きながら、暴走への恐怖で実行しなかったのが私。

 傷1つ付けられなくともその場で遅滞戦術を取る位は不可能ではなかっただろうに、早期の決着を求めて後退を提案したのも私。

 皆が責任を痛感している中で1人沈黙しているのが私。

 私だけが、リリィの責任と使命を果たしていない。

 

(そんなにアルトが信じられないの?私……)

 

 ぎり、とCHARMを握る手に力が入る。

 私はきっと、はぐれてしまったアルトの事が気になるあまり目先の危機にすら集中出来なくなってしまっているのだろう。

 初めて会った時からずっとそう。

 1度CHARMで斬りかかられたにも関わらず私を「夢結様」と慕い、私の前で二水さんと堂々と菓子を貪るあの胆力。

 二水さんや百合ヶ丘に何かあったその瞬間にはもう飛び出していて、自分の命なんて全く考えずに戦う行動力。

 自殺同然の変身や人体実験としての扱いを当然のように受け入れてしまう自分に対する無頓着さ。

 梨璃や結梨と同じ位無鉄砲でそれ以上に異質なこの感覚を、私は知っている。

 

(お姉様……)

 

 川添美鈴。

 私の、たった一人のシュッツエンゲル。

 甲州撤退戦で亡くなって、今何故かアルトの脳内に宿ったと言うあの方とそっくりだ。

 マイペースな所も、妙に詩的で回りくどい表現を好む所も、自分の命に対する考えが常人とはまるで異なる所も。

 そしてだから、お姉様に抱いたものと同じ危惧を抱いている──()()戦いの中で死んでしまうのではないか、と。

 

 アルトは1度死んで、生き返った。

 けれどそんなものは数多の偶然が重なった末の奇跡に過ぎず、2度目は絶対に有り得ないのだ。

 なのにまだ彼は死に向かうのを止めようとしない。

 もう戦わなくたって良いのに、折角拾った命なのに、空想の中の「正義の味方」に囚われて脱け出そうともがきすらしない。

 挙げ句の果てに、アークが復活させた美鈴様が宿った?

 だと言うのに私とは会話すらしようとしない?

 特型の攻撃で離れ離れ?

 

(──冗談じゃないわ)

 

 まだ何も知らない。

 美鈴様がアルトの中で蘇った理由も、最早特殊とは言い難い程に特型が頻出するようになった理由も、何もかも。

 それに、アルトの人生はまだこれからだ。

 もう十分過ぎる位に戦って、もう戦う必要はない位に苦しみ抜いた。

 だから。

 だから────

 

「こんな所で躓く、そんな自分に腹が立つ……!」

 

 抑えきれずに溢れ出した激情を声に乗せて呟けば、振り向いた3人が思わずぎょっとするのが見て取れた。

 そうでしょうとも。

 今、私はそれだけの事をしようとしているし、驚かれても当然の状態へと変化している。

 ある意味で梨璃からの信頼を裏切ってまで、単独で状況を打開する手を打とうとしているのだから。

 

「ルナティックトランサー……!?」

 

 叫ぶ紅巴さんを遮るように、白化した前髪が垂れてくる。

 それはCHARMと私のマギが共鳴した証。

 通常のルナティックトランサーでは有り得ない、制御を離れ暴走したマギに髪が侵食された結果。

 知っている、理解している。

 今、私はこれまでのどんな時よりも冷静に──暴走しているのだ。

 

「お姉様……!」

「メイルストロムは私が片を付けるわ。梨璃、あなたは叶星達と連携してイビルアイを足止めして頂戴」

「え……?あ、はい!」

 

 ひよっとして、一人で飛び出して全部片付けるとでも思ったのだろうか。

 生憎、それが出来るのはアルトか……或いは、自棄になっている時の鶴紗さん位でしょう。

 理性的に自殺寸前の戦いが出来るあの子達に許された戦いであって、どれだけ冷静であろうとしても直ぐ感情になる私では到底不可能な戦い方だ。

 私は私のやり方で──ルナティックトランサーの狂気に身を置いて己のベストを尽くすしかない。

 

「……夢結さん、本当に大丈夫なの?」

「……どうでしょうね」

「どうでしょうね、って……」

「でもね、叶星さん。これ位軽々とやり遂げなければ私はアルトを救えない。あの子の無茶苦茶に追い付けないのよ」

 

 アルトに救われたのは1度や2度ではない。

 百合ヶ丘を直接攻撃されそうになった時も、新宿での戦いの時も、それ以外でも何度もどうにもならない窮地を打開してもらった。

 正にヒーロー。

 彼は自分が望んだ理想を、誰よりも忠実に実行していた。

 けれど、そんなアルトを誰が救うのだろう。

 最も救われるべきあの子を、私達が救わなくてどうするのだろう。

 況してやヒーローが他者の助けを受けてはいけないなんて道理はないでしょうし。

 

「心配しないで、私はアルトに成れるだなんて思い上がったりはしない。ただあの子が逸れた事で空いた穴を埋めるだけ」

「……信じるわ。でも、くれぐれも無茶はしないで。あなたがいなくなったら悲しむ人は沢山いるのよ」

「……ありがとう」

 

 彼方より迫るイビルアイに向けて駆け出す3人(と抱えられた1人)を見送った私も己のCHARMを構える。

 刃を水平に、重心は低くして。

 お姉様から教わった、受けて流すあの構え。

 

(──似ても似つかないわね)

 

 お姉様未満で、アルトとはまるで異なる構え方に我ながら苦笑してしまう。

 そう、私はアルトにはなれないしお姉様のように気高くある事も出来ない。

 けれど、ほんの僅かでも在り方を真似る位は出来る筈。

 

『■■■■■────!』

「────……」

 

 深く、深く息を吸う。

 思い起こすは、あの言葉。

 過酷な戦場で、恐ろしい強敵に彼が挑む時に必ず宣言していた、あの一言。

 

 

 

「お前を止められるのはただ1人──」

『古いよ、それ』

 

 

 

 ────え

 

 

 

 私だ、と続けようとした瞬間に差し込まれた苦言が完全に思考から言葉を奪い去った。

 でも──当然でしょう。

 だって、そんな。

 有り得ない。

 こんな事が、こんな奇跡が2度も起きる筈が無い。

 

『誰かの為に頑張れるのは勿論素晴らしいけど』

『自分1人が全ての苦しみを背負う、とか』

『この命と引き換えにしても、とか』

『そう言うのは止めようって話になってね』

 

 けれど、確かにあの声だ。

 声質そのものはまるで違うけれど、わざとらしい位に低く作った変声期前の男の子が出した声だけれど。

 この語り口は、優しく諭すような喋り方は。

 

『だから今後は────』

 

 ざぁっ、と。

 上空から雨のように無数のCHARMが降り注ぐ。

 メイルストロムと周囲のスプリットを針山にしていくそれらは、全てが見覚えのある形状──グングニル、ブリューナク、ジョワユーズ、マソレリック、アステリオン、タンキエム、ニョルニール、ティルフィング、グングニル・カービン。

 一柳隊が使っている愛機達。

 そして────

 

 

『お前を止められるのは()達だ』

 

 

 最後に、ダインスレイフ。

 光輝く黄金の剣が悶えるメイルストロムをその場に縫い止め、次いで降ってきた黒い流れ星が地に沈める。

 ルナティックトランサーを用いて尚倒すのは絶望的にも思えた強大な敵が、ただの質量攻撃によって叩きのめされている。

 有り得ない、絶対に有り得ない。

 混乱する思考と心はただのその一言を壊れたように吐き出し続けるが。

 

 

 

『──って事で宜しく頼むよ、夢結?』

 

 

 

 無数に積み重なった「有り得ない」は、いとも容易くアークワン(お姉様)によって打ち砕かれていた。

 

 

 

■■■

 

 

 

334:??????? ID:MSZ0703AB

 僕たち、参上!

 

335:ご機嫌よう名無し様 ID:H/pPqvaBl

 今のでCHARMのデータ全部飛んだみたいなんスけど……良いんスかこれ……

 

336:ご機嫌よう名無し様 ID:mEM718yzj

 アタッシュウェポン含めた全ての武器が生成出来なくなってる……

 

337:一般転生悪意(浄化) ID:aRKs01+???5

 あの、美鈴様?

 今から相手するの特型ギガント級なんですけど?

 

338:??????? ID:MSZ0703AB

 いや……

 うん……

 その……何だい?

 

 

 

 

 

 

 テンション上がり過ぎてついやっちゃった!

 ごめんね!

 

339 : 一般転生悪意(浄化) ID:aRKs01+???

(絶句)

 




◯■■■■■■アークワン エクスターミネーション
概ねリアライジングホッパーに相当する形態なので変身音声も一部準じたモノになった。
加えてリアライジングホッパーの特徴であった「リアライズ」も同様に行っているので出力はアークドライバーの限界を超えるが、ゼロワンと異なりプログライズキーに負担を掛けて自壊させるよう美鈴がシステムを組んでいる。
その為リアライジングホッパー以上に稼働時間の制限が厳しく、稼働限界が近付けば近付く程機能が破損していくと言う深刻な欠陥を抱えている。
ただしキーの出力は(自壊するまで)際限なく上昇するので戦闘能力そのものに支障は発生しないが──あらゆる意味で1人では話にならない形態。
Be the oneして漸くマトモに戦えるレベルなので変身している事実そのものに意味がある。
時間制限がとてつもなく厳しいのでまだ何とか余裕がありそうなルドビコ・ヘルヴォル組より百合ヶ丘・グランエプレ組を優先しているが…





美鈴様が調子に乗った結果残り時間187秒の現在既に本来壊れるのはもっと後の筈の「スパイトネガの照射機能」、「引力、斥力の操作による飛行機能」、「武器生成機能」が破損した。
百■■■■■■合はキレた。

◯二川アルト
アルト は まかせる を おぼえた!
実際番外編を含めて65話以上連載してそこそこの頻度で戦闘シーンがあるにも関わらず「ここは任せた」や「後は任せた」をやるシーンはかなり少ない(「オレがリリィで仮面ライダー(前編)」「君の手を離さない」「戦士 正義 そして夢」「ビターエンドⅠ:古き青空より祈りを込めて」の4回のみ)
兎に角自分がやらねば、守らなければと強迫観念に突き動かされていたが漸くちゃんと他人に任せられるようになった。


※尚、当人の自意識は仮面ライダー未満なので本来は百■■■■■■合と表記するのが正しいような気もしますが単純にめんどくさいのでこれからも後書きでは「百仮面ライダー合」で統一します。

◯川添美鈴
一生懸命頑張る夢結可愛いね♡
でも自己犠牲は良くないから大盤振る舞いしちゃうぞ☆
ハイテンションお姉様。
アークワン制御して残りの稼働時間把握してついでに夢結様の前で格好付けるのもこなす狂気のワンオペ具合だが当人が嬉々としてやってるからそれで良いのだ。

◯白井夢結
幼い子供を守るのは年長者として、リリィとして当然なのに逆に守られてる上に自分は何も出来ないなんて…で激憤した結果暴走してるようで暴走してない、でもやっぱりちょっと暴走してる滅茶苦茶めんどくさいフォームを手に入れた。
でも夢結様は夢結様として戦ってる時の方が明らかに強いし「美鈴様が何故か私とだけ会話してくれない…」で心がよわよわになってるので弱体化と呼んだ方が良いのかもしれない。

◯一柳結梨
既に気絶している。
でも自分がやるべきだと思った事を精一杯やった結果なので誰も責めたりしない。
偉い子。

◯天宮・ソフィア・聖恋
任されて任した人。
具体的には「他人も自分も守れて自分の行動に対する確固たる決意を持っている人」なので会話は少なくとも百仮面ライダー合は滅茶苦茶尊敬している人。
多分これが終わったら「聖恋先輩」とか「聖恋の姉御」とか言い出して滅茶苦茶舎弟ムーブを始めるし、姉を自称しようとしていた千香瑠様はショックを受ける。

◯メイルストロム、スプリット
「双璧の戦乙女」「鋼鉄の意志、未来への翼」完!

嘘です、まだ生きてます

正直に言って戦闘無しで考えたら誰との絡みが見たい?(あくまで参考である事をご了承下さい)

  • 二水
  • 結梨&梨璃&夢結
  • ぐろっぴ&百由様
  • 一葉
  • 恋花&瑶
  • 千香瑠&藍
  • 灯莉
  • ひめひめ&灯莉&紅巴
  • 叶星&高嶺
  • その他一柳隊メンバーなど
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