英雄となる執事の物語   作:古地刃海星

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2021/12/10 一部表示を修正
これは始まりの始まり。


1話

 山梨のとある中学校、10月になり寒さで凍え始める頃のこと。

 

 

 

 

「なーなーモブ澤」

「んだよモブ山」

「第一志望どこにしたの?」

「なんで今聞くんだよ」

「だって願書提出とかあるからこの前三者面談やって決めただろ」

「あーまぁ、決めたな」

「それでどこにした? 雄英とか士傑って二年の時は言ってたけど」

「あーあれは辞めたよ」

「辞めさせられたの?」

「いや、まあ、正確に言うと二年のときにはもう辞めといたほうがいいって」

「それで諦めたの?」

「あーいや、うちのとーちゃんが腰やっちゃったけど八人兄妹だから収入がないとキツいんで俺がバイトしてとーちゃんの復帰まで耐えることになったっていうのもあって辞めた」

「じゃあ進学は……」

「いや、行くよ。なるべく金の掛からない夜間で」

「そっか……あ、そういえば雄英と言えばあいつら受けるんかな?」

「どうだろうなーうちのとこは士傑の推薦枠あるけどそれを使うのかもな、てか使わないんだったら俺らが使いたいな」

「まぁ、あれだけ優秀な3人いたら推薦受けられても無理だろうけどなー」

「本当に」

 その時教室の扉が開き、女子をエスコートしながら男子が入ってくる。女子の方はホリゾンブルーの煌めきがあるシルバーヘアのいかにもお淑やかな子とエスコートしている方は他の人と同じ制服を着ているとは思えないほど気品の漂う黒髪の男子だ。

「血城さん、想起君おはよう」

 クラスのイケメンの線引が話しかけている。金髪に白人のような見た目でモデル雑誌にでも載ってそうなぐらいだ。

「皆様お早うございます」

「おはよー」

 血城と呼ばれた女子はカバンを机の横に掛けて座る。その際想起と呼ばれた男子はそっと椅子を引いて座るのをエスコートするが誰も何も言わず挨拶を返した後自分たちの会話に戻る。そして想起も自分の席に戻って座ろうとした時のことだった。

「血城さんと想起君いる?」

 ドアが開き、今度はメガネを着けたボブの女の子が入ってくる。

「いるぞー委員長ー」

 想起が返事をすると続けて委員長が眼鏡の位置を直しながら喋り始める。

「なんか箸棚先生が2人に聞きたいことがあるから呼んでって言われたの。だから今行ってきてくれる?」

 

 

***

 

 

「2人は前回の志望で雄英高校と出していたけど本当にいいのかい?」

 担任の箸棚先生が自分の翼腕を撫でながら質問してくる。

「はい、大丈夫です」

「問題ありません」

 そう言うと少し残念そうな顔をしながらも了承してくれた。

「うちとしては推薦枠があるから2人にも行ってもらいたかったんだけどね。夜嵐は自分の実力を試すために様々な機会があった方がいいと言ったら了承してくれたんだが本当にいいのか?」

 自分の嘴を撫でながら再度確認として聞いてくるが俺たちの意見は変わらない。

「はい」

「大丈夫です」

「まぁ、それだけだ。だけど2人とも雄英の判定はAだからこのまま頑張れば行けるぞ。頑張れ!」

「「ありがとうございます」」

「二人を呼んだのはそれだけだ」

「「では失礼いたします」」

 そう言って2人とも職員室から出ていった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝に先生に呼び出された事以外は特に何も無く放課後まで過ぎていった。

「想起、今朝の呼び出しはなんだったんだい?」

「今更か?」

 線引が話しかけてくる。幼稚園、小学、中学全く同じクラスだったり何故か毎回席替えで前か後ろには絶対なっていたりと腐れ縁ではなく、親友と言って差し支えない存在だ。

「まぁ、進路のことだな」

「あーやっぱりそうだよね。なんて言われたの?」

「士傑の推薦受けないかって」

「おおーそれで願書貰ったの?」

「いや、雄英受けるって言って断ってきた」

「おお、すごいなあ」

「何が?」

「だって、ランキングには載せないで欲しいということでランキングから除外してもらったヴァンパイアヒーローのヴァンプ伯爵とあの血城財閥の跡取りの方と結婚して生まれた1人娘があの血城けつじょうひめさん、さらに成績優秀、個性はいくつもの風を操る旋風で細かいコントロールも出来る天才夜嵐よあらしイサナ、そしてなんでも出来る2番の想起そうきかける!」

「2番言うな、あとオレだけ紹介文薄くない?」

「なんで個性強くて成績優秀だから士傑高校でも雄英高校でもどこでも行けるような人達ががここに集結してるのさ」

「それは知らん」

 この早口にいつも驚かされるがこの線引せんびきわたるはこの顔からは予想できない程の重度のヒーローヲタクで前に彼女が出来た時にはデートプランとして一日中ヒーローを追っかけさせたらしい。まぁ、本人に別れた後から聞いただけなのだが。

「想起、帰りましょう」

 ここで周りの友達と会話しながら準備していた姫が声をかけてくる。

「護衛兼説明係お疲れ様」

「本当に護衛だけだったらどれだけ良かったことか」

 説明係なんて呼ばれている理由である姫を見てため息を付いてしまう。

「なに私のアームカバーとつば広帽見てため息なんかついて」

「いや、とても似合っているなと」

「勿論でしょ。……だってあなたが」

「え? なんか言った?」

「……何も言ってないわ。それよりも帰りましょ」

 明らかに機嫌が悪くなったのに。まぁ逆にここで刺激するよりかはあとで教えてもらえることを祈るほうがいいだろう。

「じゃあな」

「それでは皆さんまた明日」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 家まで後少しの公園前で信号に捕まってしまった。まあ後少しと言っても姫の家は大豪邸でその有り余った土地を遊ばせるのは今の時代に勿体ない、とご両親が言ったため屋敷の前の土地は個性も使って良い人気のある公園となっている。

「ここの信号引っかかると長いのよねぇ」

 隣のマスクにつば広帽、サングラスに指まで覆い隠す白いアームカバー、終いに日傘を持って全身真っ黒な不審者が気だるそうになにか喋っている。

「あの、すいませんお話よろしいですか?」

 若そうな警察官が声をかけてくる。

「あ、すいませんその子まだ学生で個性の影響で日光に弱くてこのように全身覆わなければならないんです」

 いつものように長々と説明してると一々質問が飛んでくるので一気に喋り切る。

「こら、秋山君一人でかってに聴取始めようとしようとしない。ごめんね、想起くん」

「いえいえ、これが紛らわしい見た目してるのが悪いんですよ」

 そう言いながら手で扇いで風を得ようとしている不審者モドキを一瞥する。親しい山田さんがいてくれたから余計な説明はしなくても良さそうだ。今声をかけてきた警察は新人なのだろう。普段はもうみんな見慣れて職質をかけられることなんてほぼなくなっていたから久しぶりに警察に声をかけられた気がする。

「ちょっともう信号青になるわよ」

 そういいながら前を見ている姫につられて俺も前見る。

「いやーごめんね、じゃあ気をつけて帰るんだよ」

「アスカーごめん!」

 その時子供の声が大きく聞こえた。どうやらボールを高く打ち上げてしまったらしい。ゆっくりとボールの下に向かう。ボールは高く高く上がっていたがやがて降りてくると車道の方へ……

 

 

 

 

 

    「危ないっ」

 

 

 

 

 

 

 

 左からは乗用車が来ている。運転手は驚いた顔をしている。姫が飛び出して子供を引き寄せながらうずくまった。激突まであと2、3秒もない。

「くそがっ」

 紫矢を起動して自分の空気摩擦と空気抵抗をなくし、重力のベクトルを下から前に変更。なんとか体を車線まで持っていく。重力のベクトル変化停止、車と接触しやすいように腕を前に構え、紫矢を再起動、

接触まで

2、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0、

 

 

 

 

 

接触、衝撃到達、全衝撃地面にベクトル変更、衝撃吸収用に触れている左腕粉砕骨折を確認、再生、乗用車の速度も同じく変更、加速度の大幅変更による運転者への衝撃を計算、運転者の横Gを下に変更、乗用車に接触している部分の動摩擦を増加、

 

 

 

 

 

 

「止まった……のか」

「良かった」

 警官二人が話し始めたことでやっと緊張が解ける。被害は車の方が凹んだくらいだ。

「アスカ!!」

「お母さん!」

 どうやら助けた子の母親が来たようだ。姫に抱えられていた子は姫の足元から離れて母親のもとに駆け寄る。母親も駆け寄ってきた我が子を抱きしめる。

「うちの子を助けていただいてありがとうございます、どうお礼したらいいのか……」

 子供の親が地面にのめり込みそうな勢いで何度も頭を下げてくる。

「いえいえ、平気ですよ。それよりもお嬢ちゃんはどこも怪我してない?」

「うん紫色のおにいちゃん平気だよ」

 すると女の子は母親から離れて姫の目の前にやってくる。

「厚着のおねえちゃん、ありがとー」

「どういたしまして、それよりもお友達が待ってるわよ」

 そういって自分の近くに落ちているボールを渡しながら公園の方を指差した。

「ボールもありがとー、またねー」

 そう言って公園に駆けていった。母親はまたお礼を言った後、改めてお礼をしに行きたいから名前を教えてほしいと言われたが特にこちらには被害がないので大丈夫だと伝え、その代わりに車の持ち主と話し合ってそちらの補填をしてもらいたいと告げつつ自分の名刺を渡しておいた。

 

「大丈夫ですか、お嬢様」

 そう言いながら姫に近づく。

「勿論よ」

「嘘つけ、肩と手は震えているし腰は抜けてるじゃねえかよ」

 女の子を抱えた時の姿勢で手が震えている姫をお姫様抱っこして歩道に向かう。

「別に自分で歩ける」

 立とうと力を入れるが腰が抜けている為立てそうにない。

「大丈夫かね」

 山田さん達が青になった信号を渡ってこちらにやってくる。

「公共での無許可個性使用の罪で現行犯逮捕する!」

 そう言って走ってきていた秋山と呼ばれていた警官が俺の手を掴み組み伏せる。あまりの早業に気づいたときには背中に乗られながらうつ伏せにさせられ後ろ手で両手を組んだ状態で手錠をかけられていた。

「ちょっと秋山君!」

「先輩といえども法律違反の現行犯の庇護は立派な重罪ですよ」

 なんかよく分からないがこの新人は警察辞めたほうがいいのでは。

「つまり許可があればいいんですよね」

 そう言いながら鞄からいつも所持している特例状を出そうと動こうとする。

「コラ! 逃げ出そうとするな、更に罪を重ねるきか!」

「いや違いますって鞄からちょっとモノ出そうとしただけですって」

 警戒してるからなのか押さえつける力がより一層強くなる。その時、姫が俺の鞄から特例状を出してくれた。

「特殊許可令状、血城姫は血城財閥の跡取りで有ることと本来夜間でしか行動できない個性によるやむを得ない事情を考慮し、義務教育の中学卒業までは認定された特例個性使用許可申請が降りた者または、個性使用許可が正式に降りている者に個性で保護をしてもらうことが可能である。これは特例中の特例であり、県を超えて個性使用の許可は降りていない。そのため別県で個性使用する場合は別途許可が必要である」

 さらに姫は俺の財布から特例個性使用許可免許証を出す。

「ほらここ見なさい、特例個性使用許可免許証、血城姫の登下校及び平日の授業内であるとき突発的な血城姫に危険が及ぶと判断した場合個性仕様を許可する。尚、個性を使用したときにその使用は適切であったかということに対しての判断は個性使用後の報告を踏まえて県教育委員会、県警察、裁判所がそれぞれ認定した人物が必要不必要を判定するとあります。つまり貴方が現行犯で逮捕できるわけはなく、これは誤認逮捕です」

 そう締めくくると山田さんが口を開いた。

「それで僕は今姫さんが言ってた県警察から認定された人物なんだよ。だから彼らの事情は知っていたから君を止めようとしたんだよ」

 秋山は唖然としている。てか事情はわかったなら早くどいてもらいたい。全体重をかけて肺のところを地面に押さえつけられていてかなりキツい。

「そんな、俺が誤認逮捕だなんて」

「まあ、山田さんの説明が遅かったのも原因だから早く外してくれれば誤認逮捕にはならないんじゃないですか」

 文句を言っていたら謝りながら外してくれる。

「私の早とちりで捕まえようとしてすまなかった」

「いえいえ、誤認逮捕ですから気にしないでください」

 にっこりと主張しておく。

「じゃあ山田さん後片付けよろしくおねがいしますね」

 道路にはブレーキ痕や俺の血、車のボンネットの破片などが散らばっている。

「たくっしょうがないなぁ、やっといてあげるから帰ったら一番始めに報告書を作るようにしてね」

「ありがとうございました、それじゃあ」

 もうすでに腰が抜けていたのが治った姫と公園内を歩く。

「帽子脱げたけど焼けてない? 大丈夫?」

「多少なら日中でも動けるから平気よ」

 そう言いながら歩いていた時不意に姫の足が止まる。

「ありがとうね」

「なにが?」

「いや、私を守ってくれて」

 どうやら俺が怪我をしたのを気にしているようだ。

「いいんだよ俺は怪我しても直るし」

 それに、君がまたいなくなることの方が……と出かけた言葉をそっと飲み込む。

「そういう問題じゃないんだけどね」

「えぇ?」

 止まっていたかと思えば今度は走り出した。

「じゃあ屋敷まで競争ね」

「な!」

「ほら早くしないとおいていくよ」

 なんだかよく分からないが自分の中で何か決意したようだ。

 

***

 

「私が一着ね」

「くっそ負けた」

 ハンデと言って個性を封じられた為に割と真面目に走った。最初は並走できていたが途中から姫が自分の個性の身体能力をフルに発揮して最後は大差をつけてゴールされてしまった。

「それじゃあ私着替えてくるから貴方も着替え終わったら勉強見てよね。負けたんだから」

「はい、了解です姫様」

 

 

 執事服に着替え終わった後に当主様の執務室に向かう。扉をノックすると直ぐに入ってきなさいと言われる。

「失礼いたします」

「おかえり」

「只今戻りました。それでご報告が有りまして」

「ああ、交通事故のことなら姫が今しがた来て説明してくれたからもう一度説明しなくていい」

 流石だなと心の中で思う。

「それより姫と約束しているのだろう? 早く行ってあげなさい」

「分かりました。では失礼いたしました」

「あ、ちょっと待って大事な要件があったんだ」

 当主様から大事な要件と言われて何が来るのかと身構える。

「今日は晩餐会だから想起家のみんなにも参加してもらいたいんだ。だからみんな呼んできてくれるかい翔くん」

「分かりました」

 

***

 

「というわけだから母さん行くよ」

「それなら少しおめかしするからちょっと待ってて」

 報告書も書き終わって姫としばらく勉強していた時に先輩使用人がそろそろ準備ができるから想起家を呼んでほしいと言われたので勉強会を一度解散し自分の家に戻ったのだ。

「もうすぐ準備できるらしいから早めにね」

 

 

 しばらくして準備ができた母さんと共に屋敷まで行く。

「翔おかえり」

「父さんただいま」

 偶然玄関ロビーで任務帰りの父さんと会う。

「もう用意出来てるそうだから食堂で待ってろだと」

 どうやら偶然ではなかったようだ。

 

 

 

 

 

「食事の前に少しいいかい」

 他の従者が食事の用意をしている間に姫と姫のお父様であり血城家のご当主様である血城照様、姫のお母様の鈴華様、そしてうちの父の想起楓塡、母の秤華と俺の全員が揃った時に照叔父さんか話し始める。

「二人とも士傑ではなく雄英を選んだのはなんでだい?」

 照叔父さんが俺たちに問いかける。

「雄英では雄英体育祭がデビューのきっかけになると言われるほど全国区で知れ渡っている事が出来る場所です。そこでなら全ヒーローの頂点を取る一歩にするためにいい一歩を踏み出せると考えたからです」

 姫の答えに成程と納得したように頷く4人。俺は嘘が得意ではないからありのままの本心で行く。

「オールマイトの出身校だからです」

 その一言に振り返るのは姫が一番初めだった。

「え! 翔がそう言うなら私も言いたい!」

「姫も本当はそうなのかい?」

「勿論! あのオールマイト様の出身校として有名な為更に教師陣もどんどん成長して当時よりも素晴らしい学校になったと中学生向け高校紹介雑誌オールスクールにてオールマイト様が語られていた学校に行かないだなんてそんなのコアファンとしては残念すぎるわ」

 早口でオールマイトヲタクが捲し立てている。そう言えば線引と仲良くなったきっかけが200人限定のオールマイトデザインのプチフィギュアを姫がカバンに着けて登校してきたのを限定なんだからしっかりと保管しろと変なやつに絡まれたのを貰った人の自由じゃないかと言って論破してたな。まぁ、後で姫に聞いたら写真を撮らせて欲しいと言ってたから本当にそう思って言ったのかどうかは闇の中だが。

「ま、まぁ、理由はどうであれ2人の中に目指す根源があることは確かみたいだね」

 うちの父がそう纏める。

「雄英の試験はかなり厳しいが卒業生の俺らが教えれば合格できるだろう」

「「えぇぇぇぇぇ!?!?」」

 照叔父さんが唐突に衝撃情報を出した。

「あれ? 言ってなかったか?」

「私の知るところでは言ってないと思いますね」

 鈴華さんが言う通りで姫からも聞いていないのでおそらく一回も言ってないのだろう。

「でも照叔父さんとても忙しいのでは?」

「それは何も問題ない。実は後輩のヒーローが諸事情でうちのところを担当してくれることになったから臨時で休暇が取れたんだ」

「だから2月の試験までの期間は俺と照でみっちり修行つけるからお前らちゃんと着いてこいよ」

「もしかして父さんも……」

「雄英だぞ」

 もはや言葉にならない。

「私と鈴華は士傑出身よ」

 家族も幼馴染の家族も全員すごい高校出身者だった。しかもそれをここで初めて知るなんて。

 

 

「まあ、そんな訳でじゃあ二人ともしっかりと志望目指して頑張りなさい」

 

     「「はい!」」

 

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