英雄となる執事の物語   作:古地刃海星

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10話

「今日は珍しく準備完了していらっしゃるのですね」

「まあね......」

「じゃあ、行きましょうか」

 

***

 

「まさか轟くんのお母さんに似ていたなんてね」

「いや、昨日も言いましたけどたまたまですよ。凍獄のときは水色に髪の毛がなりますし」

 昨日吸血を終えた後眠ってしまった姫を抱えながら轟くんにどうしてまた見せて欲しいって言ったのか聞いてみたのだ。すると「母親に似てたから」とだけ返ってきた。もちろん彼の母親は知らないので結局他人の空似だろうということで話は終わった。

(昨日はエライ目にあったな)

 

〜〜〜***

 

 あの後クラスに戻ると異様な雰囲気になっていた。

「あの、なんで空気が重いのかな」

 俺がそう言うと瀬呂くんがこっそりと教えてくれる。

「いや、訓練の最後に映った女は誰なのかって一瞬騒いだらしい。で、姫がそこで私の彼氏よって言ったもんだから想起のことだと分かった男子はため息したりや落胆したりで女子は自分よりもスタイルが良くてかっこかわいい男子?がいることで自信を無くしかけたらしい」

 あーなるほど。大体わかってきたぞ。

「それでお前がその姿で教室に戻ってきたもんだからざわついてるんだよ。てか本当に女になってるのか? あと今抱えてるちびっこは?」

「本当に体全部女だぞ。あとこれは血城」

「!? ......その女体化も、もしかして個性か?」

 コクリと頷く。

「そう、なのか」

 

〜〜〜***

 

 結局あの後女子に詰め寄られて肌がきれいな理由とかどうやってその体型を維持しているのか、意識して女の動き方になっているのか、などなどこの体をどうやってきれいにしているのかという質問が多かったが個性で綺麗な体を作ってるというと大体落胆して帰っていったのだった。

(あれで収まってくれればいいのだけど)

「あれ? なんで校門前にマスゴミが集まっているのかしら」

「あれ? 本当だ」

 姫と坂道を登っていると途端にカメラやらマイクやら持った集団がいる。

「ご、ごめんなさい、僕この後保健室行かなきゃで......」

 あ、デクがいたが何か言って躱していった。

「どうしますか、姫様」

「はぁ、仕方ないから通りましょう。一応言うけど言葉遣い、分かってるのよね」

「承知しております」

「じゃあ、行くわよ」

 

「すいません、ヒーロー科の子ですよね。オールマイトの授業はどのような感じでしょうか」

 アナウンサーらしき人物が姫に寄ってくる。

「申し訳ありません、こちら撮影は禁止されていますので撮影しないでください。あと通行の邪魔になりますので退いてください」

「どうしt......ぐぇ、なんですか先輩急に襟を引っ張って」

「もういいから」

「いやでも、オールマイトの授業について聞かないと」

 層が厚いからか離れようとする記者とインタビューしようとする記者で余計に混雑してきた。

「血城財閥に喧嘩売る気か! 自分たちのスポンサーの娘の顔ぐらい覚えとけ」

「夕方新聞です、オールマイトの授業についてどうでしょうか」

 先程のインタビュアーと入れ違いで別の局がまた来る。

「撮影を止めてください。撮影許可を取ってからにしてください」

「オールマイトの」「オールマイト」「平和の象徴が」「ナンバーワンが教師という」

 

 

「これ以上足止めをする場合警護人の安全を考慮し、貴方達全員の刑事告訴を視野に入れます。また力や人数で抑えているこの状況を一方的な危険と判断し個性使用も視野に入れます。全員の顔と局名は覚えましたので以上二項目のことを踏まえて行動してください」

 それっぽいこと言っとけば離れるでしょ。

「他の子のところに行くぞ」「なんかヤバそうだから離れるか」「てか令嬢の隣の子って......」

「姫様行きましょうか」

「えぇ」

 

 

 

 

「血城財閥の娘......」

 

***

 

「昨日の戦闘訓練はお疲れ。全員の映像は録画で見させてもらった。が」

 デク達の方を向く。

「爆豪、お前なら分かってたはずだ。もうガキじゃないんだそれなりの行動をしろ」

「......」

「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して解決か。いつまでも個性の制御をしなくてもいいとは考えるなよ」

「はい」

 すこしクラス内を見渡す。

「俺は『出来ないから仕方ない』で済ませる気はない。同じことを何度も言うのは嫌いだ。今回は一番酷い奴らを指名して言ったが他の奴らがしっかり出来ていたとは思ってないからそこら辺しっかり考えろ」

 各々思うところがあるのだろう。俺もある。だがここで下を向くようなものはいなかった。

「あー長くなったがとりあえずこの後の時間はとあることをしてもらう」

「「「とあること......」」」

 思わず喉が鳴ってしまう。

「急になるが『学級委員長』を決めてもらう」

「「「いきなり学校っぽいことキターーー!!!」」」

「煩い黙れ」

「「「......」」」

 あの人個性発動させながら脅してきたぞ。

「他にも決めることはあるが後のことは全部委員長にやってもらう。で......やりたい奴は」

「ハイハイハイ!!! 委員長やりたいですオレ!」「リーダーやるやる!」「私もやりたいです」「おいらのマニフェストは女子と想起のスカート丈膝上30センチ!」「ボクのためにあるヤツ☆」「我が覇道。曇り無し」

 デクも小さくではあるが上げている。俺以外の人たちが上げているようだ。

「みんなッッッ!! 静粛にしたまえ!」

 一斉にメガネくんに集まる視線。

「これは多を牽引する責任重大な仕事、やりたいからと言ってやりたい者がやれるモノではないだろう。これは周囲の信頼があってこそ務まる聖務! だからこそ、ここは民主主義に乗っ取り真のリーダーを決めるべきでは無かろうかっ!!!」

「いや、右手そびえ立ってるじゃねーか!! 前半の皮肉自分にも刺さってるよ!?」

「なんでもいいから決めろ」

 飯田くんの発案はとてもいい。けれど。

「その意見は素晴らしいと思うけれど日も浅い中で信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

 歯に衣着せぬ物言いをしているのは一番右の前から三番目の......蛙吹さんだ。

「だからこそ、この二日間で複数票を取った人物は素晴らしいのではないだろうか」

「ですがほとんどの人は自分に投票するのではないでしょうか」

 八百万さんも追撃する。

「そこは一つ不確定要素がある。まず先程想起くんは上げていなかった。つまり自分よりも誰かふさわしい人がいるという事なのだろう?」

 ほう、そこに気がつくとは。

「あぁ、もしそうなれば俺は姫に投票するだろうな」

「そして、発案者としてボクは自分に投票しないと宣言しよう」

「「!?!?」」

 これで分からなくなってきた。もし全員が自分に投票すれば確実に二票入る姫と飯田くんの票を取れた人が最も学級委員長に相応しいということになる。だがそもそも俺らが本当に他へ投票するのかも不確定だ。

「じゃあ、三分後に投票を開始しよう」

「ちょっと待った。俺も自分には入れない。だが飯田くんと相談して彼と同じところに入れようかなと思う」

 夜闇君が獰猛に笑う。ここで更に場を掻き回していく。

「後はいいかな? それじゃあ、夜闇君誰に投票するか話し合おうか」

 一気に面白くなった。先程までは優勝レースは姫と飯田くんに選ばれた人の独断だった。だがそこに二票入る飯田と夜闇ジャックポットが現れた。確実に行くなら自分だ。だがそれだと絶対に委員長の座は取れない。しかし他人に入れても誰かが三票入ったらその時点でこのレースに乗る馬はいなくなる。

「じゃあ、投票スタートだ」

 

〜〜〜〜〜〜

青山  1

芦戸  1

蛙吹  1

飯田  0

麗日  0

エリー 0

尾白  1

上鳴  1

切島  1

血城  2

口田  1

砂糖  1

障子  1

耳郎  1

瀬呂  1

想起  0

轟   1

常闇  1

葉隠  1

爆豪  1

緑谷  3

峰田  1

八百万 2

夜闇  1

〜〜〜〜〜〜

 

「緑谷くんが委員長、副委員長が血城さんか、八百万さん......これってどうするんだ」

「てか、夜闇は自分に入れたのか!?」

 プリン頭の......上鳴くんが抗議とばかりに言い放つ。

「あれは私の票よ」

 どうやらエリーさんが入れたようだ。

「だったら飯田は緑谷に入れたのか?」

「いや、俺は飯田くんと一緒じゃないよ」

「「えぇ!?」」

「いや、だってしようかなーって思っただけだから別に変えても問題はないでしょ?」

 クラス内では早速推理が始まってしまっている。

「みんな、それよりも血城さんと八百万さんのどちらが副委員長になるべきだと思っているんだ」

 ナイスタイミングで飯田くんがざわつきの方向を変える。

「それなら私が辞退するわ」

「血城さんはそれでいいんですの?」

「うん、なんかよくよく考えたら仕事全部翔に投げちゃいそうだしいいかな〜って」

「それじゃあ、委員長は緑谷くんが副委員長は八百万さんに行ってもらおう」

「やっと決まったか?」

 先程まで芋虫だった相澤先生が起き上がって前に来たデクに紙を渡した。

「それじゃあ、委員長共後はよろしくな。俺はもう一眠りする」

 こうして一年A組の委員長らが決まったのであった。

 

***

 

「ついに明日から授業が始まるのか〜」

「デクくんは楽しみなの?」

「うん。なんだかワクワクしてる」

「偉いわね」

「姫はもうちょっと早く起きようね」

「なっそれ今関係ないでしょ!?」

 午前中の授業が終わり、食堂に来た。前回の無計画に料理を取ったことを反省し今回は飯田君と夜闇くんが席を、残りは二人の分を含めて取りに来た。

「ヤサイマシマシアブラオオメメンカタメの豚骨、チャーシュー追加のメガ盛りチャーシュー麺、後餃子二皿、半炒飯一つください」

 エリーさんは相変わらずだった。

 

 

「それにしてもデクが委員長かー」

「まだ何もしてないけどもう辞めたい......緊張でお腹痛くなってくるよ」

「もぐもぐもぐもぐ」

 エリーさんがなにか言ってるが分からない。

「え? なんて?」

「私は姫ちゃんになると思ってただってさ」

 夜闇くんが箸で炒飯を食いながら通訳してくれる。

「そういえば皆は誰に投票したー? 私はデクくんに投票したよ」

「ぼ、俺も緑谷くんに投票させてもらったよ」

 成程。だからデクに票が集まったのか。

「それよりもちょっと思ったんだけど、もしかして飯田くんって坊っちゃん?」

「ぼっ坊っちゃん!? そんな雰囲気出してたか!?」

「いや、俺って言うのを何回もボクって言い間違えないだろうし」

「それに聡明中って私立の中でもかなりいいところだろ。金持ちじゃないわけがない」

 デクと夜闇くんが追撃していく。

「そう言われるのが嫌だから一人称を頑張ったのが仇になったか......」

 オムライスに刺したスプーンを戻しながら喋り始める。

「実は俺の家は代々ヒーローをやっているんだ。俺はそこの次男なんだ」

「へーすご」

「そうなんだ」

「ターボヒーローインゲニウムって知ってるか?」

 あ、デクの顔が急に明るくなった。

「勿論知っているよ! 東京で六十五人ものサイドキッカーを雇っている大人気ヒーローじゃないか! 一階層だったヒーロー事務所がインゲニウムの人柄に惚れて段々とヒーローが集まり、現時点では一棟の事務所ビルを構えて事件解決率は68%、そのうちで逃走を試みた人は96%も捕まえている素晴らしいヒーローじゃないか! さらにその残りの4%も人質を取られて動けない中でアイサインだけでサイドキッカー達に指示を出して人質に少しも傷をつけずに全て犯人を捕まえたじゃないか!」

「く、詳しいな......」

 オールマイトヲタクではなく、ヒーローヲタクだったか。

「ま、まぁ緑谷くんが言ってくれたように正義感が強く、規律を重んじ、人を導ける愛すべきヒーローなんだ。俺はそんな兄の姿に憧れたからこそヒーローを目指している」

 一息付くように水を飲む。

「人を導く立場はまだ俺には早いと思っている。だからこそ周りをよく見ている緑谷くんが委員長に就任するのが正しい」

「飯田くん......」

 確かにデクは周りをよく見ている。この前個性のことを話していた時にヒーローノートを見せてもらったが既に全員の個性の長短の考察がされていた。

「でも、やっぱり委員長は......」

ウウゥーーーーーー

「なんだ!?」

「警報!? なんの!?」

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは落ち着いて速やかに屋外へ避難してください。セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは落ち着いて速やかに屋外へ避難してください』

「セ、セキュリティ3?」

「すいません、セキュリティ3って何なのでしょうか」

 飯田くんが近くの先輩に尋ねてくれる。

「校舎内に誰かが侵入してきたってことだよ! 三年間でこんなの初めてだ!! 君らも早く!!!」

 慌ただしく駆けていく人々。恐らく二、三年生は避難訓練等で慣れているのかも知れない、だが。

「いてぇ!」「押すな! 押すな!」「ウギャッ」「危ない、倒れる!」

 一年生がいることで早く逃げようと前に詰めていき、今にも将棋倒しになりそうだった。

「姫、どうします?」

「みんな行ってしまったけど窓を見れば分かるわ」

 デク達は波に呑まれて見えなくなったが確かに窓の外に見えるのはマスコミだ。

「ああ、マスゴミでしたか。あれってもはや不法侵入でしょ」

「まぁ、とりあえず出口の混雑が解消されたら行きましょうか」

 と、出口を見ると飯田くんが浮いていた。

「あれは何を?」

みなさーん、大丈ー夫! ただのマスコミです! 何もパニックになることはありません!

 成程。このパニックを鎮静化させようとしているのか。だが目線は集められても何を言っているのかが伝わりきっていない。

「翔」

「今やります」

 凍獄起動、パニックの音を消す。次いで天照並行起動............イイ田クンの粉エをオヲきくする。

実ナサーン、ダイジョー武! 多田の枡コミDEATH! 菜ニモパニっくに名ルこトはあ理真セん! 粉こハユウエイ、サイコ宇保のニンゲン二房わしいコウ同を鳥まSYO!

 人、立つ、止まる、見る、何、イイダ、任務、了。

「翔、並行起動を停止して」

 姫、声、依頼、了承。

 

 

 

「っ!!!!......はぁはぁはぁ!!」

 やあb、時間、経った? どれだけ。素数を数えろ。2,3,5,7,11,13,17,29、いや、23か。

「落ち着いた?」

 姫を背中に擦ってくれます。

「分かることはない。言語不能、多少」

 姫はまだ背中を擦ってくれている。

「ありがとう私のやりたいことをやってくれて」

「......いや、俺もやるべきだと思ってたからいいんだ」

「落ち着いたみたいね」

 出口を見ると既に流れは緩やかになっている。

「ふー、流れも落ち着いたのでそろそろ行きましょうか」

 御手を取ってエスコートを始める。

「そういえば貴方って落ち着く時に素数を数えてるけどなんか理由とかあるの?」

「......昔に見た漫画の影響ですかね」




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