2月26日雄英高校ヒーロー科入学試験試験日当日。
「割と暖かかったな」
「向こうが寒いからなのかもね」
すでに試験会場である雄英高校の門が見えるところまで来た。前日はホテルに泊まったのだが近くのホテルは全部埋まっていた為ここまでバスを乗り継ぐことになってしまった。
「あ、おぉ」
「どうしたの?」
「いや、こんな時に転けそうになってる子がいたけど他の子に助けてもらってたっていうだけ」
あの助けられていた子の体はものすごくボロボロで今にも壊れそうだ。緊張も含めてあの状態だと倒れても仕方ない。恐らく一年もない期間で仕上げてきたのだろう。まあ、今は他人にかまっている場合ではない。集中して全力を尽くすんだ。
燃え尽きたぜ。真っ白にな。
「ほら実技試験の説明が始まるよ」
「今日は俺のライブにようこそー!!!」
筆記試験後に案内された会場で待機しているとプレゼント・マイクが入ってきた。どうやら実技試験の説明はボイスヒーローの彼が務めてくれるようだ。彼のラジオは様々なヒーローがゲストとして出演したときぐらいから聞いているファンだ。
「エブリバディセーイ??」
「ようこそー!!!」
あ、やべオレ一人だけ、かと思ったけど後ろからも小さく聞こえていたから同じラジオリスナーがいたのかもしれない。
「こいつはシヴィー!! だが多少の受験生のリスナー諸君ありがとう! これから実技試験の概要をサクッとプレゼンしていくぜ!」
「入試要項通りでリスナーにはこの後10分間の『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ! 持ち込みは自由! ここに入る時に渡したファイルの中に指定の演習会場と構内地図が入っているから各自向かってくれよな!」
自分の資料には演習会場Cと書かれていた。姫の場所を見ると演習会場Aとある。なるべく個性の見知った同級生同士で徒党を組むのを避けるためなのだろうか。
「演習場には三種の”仮想敵”を多数配置してあり、それぞれの攻略難易度別にポイントが設けてある! 各々の個性で”仮想敵”を行動不能にするとそいつにポイントが入るって仕組みだ。勿論他人への故意的な攻撃等アンチヒーローな行為はご法度だぜ!」
三種の敵を多数と強調していっていたということはもう一個残っているこいつは少ないのだろうか。
「質問よろしいでしょうか!?」
メガネを掛けた学生が挙手している。
「はいドーゾ?」
「プリントには四種の敵が記載されております。誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずすべき痴態! 我々受験生は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!」
痴態とまで言う必要はない気がするが。勢いに任せて言っている気もするが失礼なやつだ。
「ついでにそこの縮れ毛の君! 先程からボソボソと……気が散る!! 物見遊山のつもりなら即刻雄英から去りたまえ!」
すごいな。なんで周りの奴らは笑ってるんだ? 今朝にも見たボロボロ少年は割と通る声で多少は気になったと言えば気になったがあれだけ体をいじめ抜いた奴が物見遊山な訳はないだろう。だが周りの人間の笑いを見てメガネ君は顔をしかめていた。
「オーケーオーケー、受験番号7111君ナイスなお便りサンキューな! その用紙に書かれている四種目の敵は戦闘不能にしても0ポイント! そいつは言わばお邪魔虫! スーパーマリオブラザーズやったことある?」
「あれのブラックパックン……って言ってもレトロゲーだし伝わらないか、まあとにかくそいつは各会場に一体! 所狭しと大暴れしている”ギミック”よ!」
用紙を見ると写真郡の右下にコンクリの壁の前で上半身が人形、下半身は四脚かつキャタピラのロボットが写っていた。どうやらこいつが0pヴィランなのだろう。
「有難う御座います失礼致しました!」
自分が失礼なことを言ったということが分かっているのだろう。だがボロボロ少年の自信が揺らいで無いかが心配だ。
「俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校の”校則”をプレゼントしよう!」
多少の質疑応答の後にプレゼント・マイクが話し始める。
「かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! ”真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者”と」
「それでは皆良い受難を!!」
***
Cの会場受付はエクトプラズマが担当していた。受験生は会場の一定の場所に集められている。皆自身のベストを尽くそうと様々なルーティーンをしている。
「ピーーーーー」
突然電子音が会場に響く。天照を起動して受験者をマークする。
「何をしているんだ。本当の事件だったら開始の合図なんて突然だ。試験はすでに始まっている」
とりあえずこの場で突っ立っていた全員マークできた。この天照は温度、光度、性質までも変更自由な火焔を操れる。今回は対象者の心拍を周りのエネルギーを使って弱く燃えるようにしている為マーキングにちょうどよいのだが天照は本来の火から離れるほどエネルギー消費が多くなり疲れやすくなってしまう。
「とりあえず人がいないところを」
区間を設定して。
「天照”光芒”」
区間内で動きがあったものを融かす。それでいて区間内に他の受験生が入ってきたときには攻撃を中止する。かなり奥でやったがそこで待機していたロボットが多いためかかなり破壊できたようだ。
「君、体調が悪いのか?」
エクトプラズマが試験開始しても全く動かなかった俺に声をかけてきた。
「平気ですよ。今15体ぐらい破壊したので。あ、奥で融けてるやつらは俺がやったんでそこのところ考慮しておいてください」
ふと、今思ったが直接戦闘不能にしないとポイントが入らないかもしれない。急いで他の受験者の近くに行って行動不能にしなくては。
「それでは!」
派手に倒すと周りの敵が集まってくるのであれから20体ほど倒したが周りから素早くやってくる1p敵ばかりであまりポイントになっていない。
「もう少し効率がいい方法か」
現在奥のやつも含めて42体倒した。他の受験者が轢き殺されそうな奴を壊すことでここまで破壊できたがやりすぎたのか皆取られると思って離れてしまった。
「音に反応してきているみたいだからこれ以上を狙うなら紫矢で戦う方がいいか」
そう思って天照を解除しようとしたとき、突然後ろでビル二個分以上の物体が動き始めた。それの見た目は事前に配られていた0p敵ではあったがなにゆえコンクリ部屋で撮られていたのかが分かる。
「で、でかすぎんだろ」
周囲のビルを押しのけて立とうとしている姿は圧倒的な質量の差をまじまじと見せつけるようだった。
「に、にげろー!!!!!」
誰が言い出したのかは分からないが逃げろと聞いた瞬間皆”敵”から離れる方へと逃げていく。
だけど……
「仮想だとしてもあれは”ヴィラン”だ。そんなのを野放しにして逃げられるほどの人間じゃないんだよっ!」
天照起動、エネルギーチャージ、とその時崩れかけているビルの下に何人かの受験生が見えた。どうやら前にいるやつらが押しのけて逃げようとしたようで運悪く転けて運悪くビルに潰されて……
天照”花火草”起動一時停止、推進ブーストとして手を後ろに構え、爆発し加速する。
***
ああもうダメだ。そう日豹海美は覚悟した。ただ運動能力とセンスがあがるというだけの個性の自分でも夢を見たいと思って親に無理を言って雄英を受けさせてもらったのに。合格できないどころか命を落としてしまうなんて。個性が解除してしまったときにどうして端によらなかったのだろう。どうして周りの安全を確かめる前に一旦休憩しようと思ってしまったのだろう。
「ごめんなさい」
思わず出てきた言葉は親に向けてだった。あぁ、まだ生きたかった。
……もう潰されてもいいはずなのに全く衝撃が来ない。
「もう、大丈夫。君を助けに来た!!!」
***
本当にギリギリ間に合った。慣れないような勢いで炎を出したことで早く来れたが手はやけどだらけだ。転けていた人は俺を中心に空気に対して凍獄を起動して空気の層を絶対零度にすることで守ったがものすごい質量だったからか熱がかなり溜まっている。凍獄は自身から半径10mまでの熱量を奪うことができるのだが、奪った熱は全て体に溜まる。つまり、
「あ、ありがt、あつっ!!!!」
一番近くにいた子はお礼を言おうとしていたが今の表面体温は50度近くまで上がっている。
「うるさい、おれいはいいから、はやく、はなれろ」
やばい焼けた舌が上顎とくっつき始めた。排熱どうしよう。
「GAAAAAAAAAAA」
そういえばこいつがいたな。巨大ロボはこちらに向いて腕を振りかぶる。
「天照起動、火力集中」
右手を銃のように向けて指先に体内の熱を集める。一撃で終わらせる。
「”向日葵”」
溜めた熱も使って1600度近いビームを撃つ。黄色の光が巨大ロボの頭を消し飛ばす。巨大ロボは振りかぶったままの姿で後ろに倒れていった。
「試験終了!!!」
巨大ロボを倒してからどれくらい時間が経ったのだろう。茹だった頭では時間間隔もよく分かっていない。周りに気配を感じるが野次馬たちが集まってきているのだろうか。調子に乗って自分の操作限界まで熱を貯めたのが良くなかった。焼肉の匂いがする。
「はい! どきなどきな! やけどした子がいるって聞いて来たよ!」
何人かのナース服の人を連れて受験者の人垣から出てきたのは人がいた。
「あの人誰?」
「知らないの!? リカバリーガールだよ! 雄英は看護教諭で彼女がいるからこそこんな過激な実技試験が許されているって噂もあるぐらいだよ!?」
そうなのか……てかやばい全然再生が始まらない。あ、表面が融けて固まったのか。
「ひどい傷だねぇ」
チカヅク。ダレカ。意識、
「チユーーー」
強制的に皮膚の入れ替わりが早くなった、のか……
***
両腕が赤黒くなった少年に治癒を行ったが平気だろうかと修善寺治与は思う。リカバリーガールとして毎年この時期には雄英入学試験の実技試験の救護班の中でも重傷者が発生した試験場所を担当している。救護として受験生と対面する身としてはもう少し試験内容を優しく出来ないものかと思ってしまう。というのも国立というプレッシャーからかこの日のために詰め込んできたためか毎年何人か自分の個性を普段よりも発揮させすぎてしまう子が毎年何人かいる。つまり無茶をしすぎて自爆する受験生が後を絶たないのだ。私の個性である癒しは人体の修復機能の活性化のみだから彼の体力がなければこの応急処置も意味がない。とりあえずストレッチャーの用意と緊急救護室への運搬を指示しながら個性を使う。
「チユーーーーーーーー」
脈拍等を測りながらストレッチャーを待つが脈拍が早くなった。癒しによって活性化すると血流が速くなるのでこれは問題がない。だが目の前で起こっている現象は見たことがない。
少年の皮膚が盛り上がり割れ始めたのだ。その時気付いた。私がここに来た時点で彼の腕の皮膚が赤黒くなっていたのだ。火傷にはその傷の深さによってレベル付けがされる。i度であれば皮膚が赤い状態で数字が高くなるほど状態が悪いということになる。つまり彼の皮膚はすでに重症レベルであったのに皮膚は再生していたのだ。そうこうしているうちにストレッチャーを乗せた運搬ロボットがやってきた。再生しているにしても傷口から菌の侵入があるかもしれない。
「集中治療室まで」
とりあえず待機している他の救護班に先程のことを留意させて治療させなくては。
「リカバリーガール、両足骨折かつ右手から右前腕の骨折の恐れのある生徒が1名別会場に」
「今いくよ」
全く、これで未来ある子たちの未来が失われなければいいけどね。
***
「ストレッチャーからベッドに移動! 3、2、1、」
なんだここどこだ。背中からの衝撃で目を覚ます。確か巨大ロボを消し飛ばそうとして自分の限界火力を出して……と考えながら起き上がろうとすると固定されていることに気付いた。
「意識戻りました!」
「動かないで! 君は前側が火傷で腕はもっと酷いんだよ」
そう言いながら看護師に押さえつけられる。
「いや、もう治るんで」
押さえつけている手を払いながら起き上がる。他に二人看護師がいる。
「患者は!?」
「先生! 意識が戻ったみたいで起き上がろうとして!」
どうやらここは緊急治療室のようなもののようだ。意識が無くなる前までの記憶を遡る。確か、巨大ロボが出てきて……
「試験は!」
試験終了の合図を聞いたか聞いてないかぐらいでもう記憶がない。
「試験はとりあえず終了して大火傷で君はここに運ばれて来たんだ」
「でももう治ってますし」
そう言いながら腕のかさぶたを剥がす。いくらか体液が漏れ出て「ヒッ」と誰かが悲鳴を上げるがとりあえず腕のかさぶたを剥がし終わる。
「こらなにやってんだい!」
杖をついた小さいおばあちゃんが扉から入ってきた。
「リカバリーガールこの子が突然火傷の瘡蓋を剥がし始めて!」
「患者のカルテを読んでから入れと日頃から言ってるだろ!」
台に置かれている俺のカルテらしきもので先生と呼ばれた人物の頭を叩く。
「この子は再生系の個性持ちだと思うけど」
そういいながらリカバリーガールがカルテを見ている。放って置かれているが隣でぽかんとしている男の看護師に包帯をくれるように頼む。
「個性……想起、天照?……再生ありました!」
「まったく……今後はもっと厳しくしないとかね」
なんだかよく分からないが話は終わったようだ。
「帰ってもいいですか?」
「あぁ。でも私の個性受けてから帰りな」
そう言いながら近づいてきて俺の腕を持った。
「チユーーーーーーーー」
「えぇぇぇぇ!?」
俺の腕にキスした!? なんで!? ……!再生が速くなった!?
「私の個性癒しは人の細胞に働きかけて治癒能力を高めるんだ。だからその人に体力がないとよくないんだけどあんたは再生持ちだからね。強めにかけといたからもう平気だと思うよ」
そう言われてから腕の動作を確認すると確かに試験前と何ら変わりないレベルまで回復していた。
「ありがとうございました」
「お友達も待ってるから早く行ってやりな。あと一応これ必要ないかもしれないけど親御さんに渡しなさい」
先程とは打って変わって学校の保健室らしいところでリカバリーガールからA4サイズの封筒を渡された。
「これは?」
「実技試験にて負った傷とその治療費、原因説明とかまあいろいろ入ってるからそのまんま親御さんに渡して」
不意に扉が開き、前に見た看護師とは違う人が入ってきた。
「あの……想起さんのご友人らしき人物が来ていらしてるのですが……」
「あぁ、この子にも言って今資料渡したところだから帰れる」
「いえ、でも様子がおかしかったので一応隣の待機室まで来てもらってるんですが」
もしかしてエネルギー切れしたのか?
「すぐに連れてきてもらっていいですか。あとここで多少血を出しても大丈夫ですよね」
「何をするんだい?」
「まぁ、一種のエネルギー補給です」
***
「それでここでやっていいの?」
看護師の人に連れてきてもらいつつ姫はつらそうに言っている。多少セーブするのかと思ってたけどどうやら全力を尽くしたようだ。
「一応ここに残るのはリカバリーガールだけでお願いします」
姫を補助してくださっているのに申し訳ないがなんて言われるか分からないからできる限り知ってる人は減らしたい。
「いいよ、でも一応外で待機させるのは承知してもらっていいかい?」
「勿論です」
とりあえず出てもらってから上半身裸になる。
「じゃあ、吸うよ」
「おう」
***
「だからこの子は再生なんて持ってるのかい」
「そうですね」
血が抜けてぼーっとするが何か話しているようだ。てか今何時なんだ。
「あーひめー、いまなんじー」
「あ、やっと起きたの?」
ベッドから起き上がって姫たちの方を見る。そこには片手にせんべいを持ってる姫とお茶を啜るリカバリーガールの姿があった。
「今、午後三時半過ぎたところよ」
「もう平気?」
「うん、もう大丈夫」
「じゃあそろそろ帰ろうか。リカバリーガールありがとうございました」
***
とりあえずホテルに戻ってきたが明日の朝には帰ることになっている為先に荷物をまとめておく。
「ピンポーン」
「?」
ルームサービスは呼んでないはずなのだが。
「翔部屋にいる?」
姫が来てたのか。でも何の用事でここに来たのだろう。
「今日の反省会とかしない? なんか落ち着かなくてさ」
ドアから覗いたその姿に思わず赤面してしまう。いつもは凛としているのにたまに見せるこの弱気な一面に揺らがない訳がない。
けれど彼女には。
試験から帰ってきて暫くした後、ついに結果が帰ってきた。