英雄となる執事の物語   作:古地刃海星

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2021/12/28 主人公名の修正


4話

 入学日当日。

「姫〜まだ〜?」

 俺は玄関にて靴を履きながらある人を待っていた。

「翔もうちょっとだけ待って! 後三秒だけでいいから!」

「さん、に、いt」

「ハイセーフ!」

 ドタバタとネクタイを締めながら降りてきた銀髪の女子。彼女は血城姫、血城財閥の一人娘でもありダークヒーローのトップと言われているヴァンプ伯爵の娘だ。

「じゃあ、行こうか」

「うん」

 

***

 

 国内屈指のヒーローの名門校「国立雄英高校」。

「ドアでっか」

「きっと背丈の高い異形型でも問題ないようにされてるんでしょ」

 かなり背丈のでかいスライドドアを開け、教室に入るとすでにほとんどの席に他生徒が座っていた。自分たちの席はどこかと前の黒板に張ってある座席表で確認すると姫と隣だった。少しの安心を覚えながら、周りの奴らを確認する。俺の後ろには半分赤い髪と半分白い髪の少年、俺の左隣にはぶどうのような見た目の髪をしている男の子、その前ではつんつん頭のやんちゃくんがメガネを掛けた真面目そうな青年に足を机から下ろすように注意されていた。着席後、何故かぶどう頭から姫に向かってゲスな気配を感じた。横目に観察したが特に何もなさそうにも見える。

 

(一応、要注意人物としておくか......)

 

 席について暫くすると試験日に体がボロボロだったボサボサの緑髪君とその子を入試で助けていた女の子が入ってきた。少年は緊張しているようだが入試の時に見た程の疲労はなさそうに見える。女の子となにやら話しているようだが少年の声が小さすぎて聞こえない。

「お前ら、ここに遊びに来たんなら帰れ」

 突然渋い声が聞こえたと思うと寝袋に包まれて芋虫のようになっている相澤が入ってきた。

「ここはヒーローになりたいやつを蹴散らしてでもヒーローになりたいやつが集まる雄英高校ヒーロー科だ。そんな遠足気分な奴らは置いていく......」

 あ、目が合った。

「とにかく俺は非合理的なことが嫌いなんだ。態々入ったんだからそれなりの思いを持ってやれ」

「あの、あなたは一体……」

 緑髪のポニーテイルの少女が質問する。確かに今入ってきているのは全身黒コーデで小汚そうに見えるおっさんで明らかな不審者だ。

「あー自己紹介を忘れていたな。お前らの担任相澤消太だ」

 

「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」」

「煩い」

「「「シーン」」」

 全員が黙ったところで先生が喋り始める。

「さっそくだがお前ら体育着は持ってるよな」

 全員が頷いたのを見る。

「なら着替えて運動場β(ベータ)に集合だ」

「えー? 入学式は?」

「入学者オリエンテーションとかないのかよ」

 桃色肌の女子生徒と金髪に黒メッシュが入った少年が相澤先生に向かって不満を言う。

「あんな時間の無駄なことをやるぐらいだったらさっさとヒーローになるための訓練を行う。分かったらさっさと準備しろ」

 そう言って相澤先生は早々と教室から出ていってしまった。

 

***

 

「更衣室が見つかってよかったな」

「そうだね☆」

 俺は更衣室の場所を聞きに行こうと相澤先生を追おうとしたがさっさと運動場βに行ってしまったため見失ってしまった。どうしようかと思っていたところで青山くんという出席番号一番で金髪に腰に補助器具をつけた彼が一緒に他の先生のところに行って教えてもらおうと提案してくれた。そのおかげでなんとかガリガリの骨みたいな金髪の先生を捕まえて更衣室の使用等を聞き出すことが出来た。

 

 

 こうしてやっとの思いでみな着替え終わり、運動場βにまでこれた。運動場βは屋根と壁があるため運動場というよりかは外靴を使う体育館のような感じだった。

「お前ら遅いぞ、どうしたんだ」

 当然行くのに時間がかかり何が起きたのかを聞かれる。先生が更衣室の場所若しくは全体地図を教えてくれなかったとは言いづらいのか、他のみんなは萎縮して少し俯いている。

「実は更衣室の利用に関して場所も利用許可もよく分からなかったので青山くんと共に他の先生のところに行って遅れました」

 真実をにっこりと笑顔で伝えるとクラスのほとんどの顔が少し青くなる。

「お前......」

 そして相澤先生が......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは説明していなかった俺のミスだ。すまない、ありがとう。勘違いするところだった」

「いえいえ」

 皆の顔に血の気が戻ってきた。唯一姫だけは終始めんどくさそうな顔をしていたが。

 

***

 

「それではこれから運動能力テストを始める」

 改めて相澤先生が話始める。

「運動能力テストって中学校とかでもやってたやつなのかな」

「でもあれって個性使えないから異形型の独壇場なんだよな」

 教室で不満を言った二人組がまた相澤先生の話の途中に割り込む。個性には大きく分けて三種類ある。まず話に出てきた異形型。これは体自体に何らかの個性が発現して常に個性を発動しているような状態だ。個性の常時発動状態だから弱いわけがない。そしてもう一つが増強型。これは自身の能力を上げる。つまるところ人体を巨大化させたり何かをトリガーにしてパワーを上げたりする個性だ。これは自身の身体能力に限らず、再生能力や思考能力など人体の能力自体が上昇する形だ。あらゆる自己能力が対象のため個性の中で最も一般的だ。そして最後に特殊型。これは他の個性と違い他人や他の物体に関して作用できる個性のことを指す。俺の紫矢はこれに当てはまり、触れているものに関して掛かっている力のベクトルを変更できる。割とこの特殊型は強い個性が多いため最強個性種などと揶揄されることもある。

「個性を使わずに測定をする運動能力テストなんてのは文科省が惰性的にやってる非合理的なものだ。今の時代個性を使ってヒーローやるんだ、ヒーロー科が個性を使わないで測定してどうする」

 みんな察しが悪いのかよく分かっていない顔をしている。

「つまり個性を使って運動能力を測ることで自分の能力の限界を知るのに丁度いいってことでしょ」

 皆の顔を察してか姫が助け舟を出す。

「へーおもしろそう」

「やったことないからどんな風に個性を使うのかも考えないとだな」

「でも遊びみたいだな」

 姫のフォローでようやく分かったのかかなり楽観的で......あ、相澤先生の目元がピクピクしている。

「ほう、そうか。さっき言ったことも覚えてないようなぐらいお前らがたるんでいることはよく分かった。ならこのテストで最下位だったやつは俺の権限で除籍処分にしてやるよ」

 突然の除籍という単語にどよめくクラス。せっかく受かったのにも関わらず除籍されてはかなわない。

「それじゃあ、最初は50m走だ。二人一組で番号順にやるからまずは青山と芦戸準備しろ」

 

***

 

 第一競技である50m走。最初の二人が位置につく。ロボットが始めと終わりにいるが何に使うのだろう。

「イチニツイテ」

 なるほど、開始合図用のロボットか。じゃあ、向こうのやつはゴール時の記録を取るのかな。

「ヨーイ、ドン」

 まずは芦戸さんが飛び出す。足裏から何かを出しながら滑るようにして進んでいく。と、ここで青山くんが後ろを向いて補助器具からビームを出した。レンズのようなところから青白い光が出て、その反動を使ってかなりの勢いで進んでいく。だが、途中で放出をやめて転び、芦戸さんに抜かれたところで起き上がってまた発射し始めた。

「記録、アシドミナ5秒98。アオヤマユウガ6秒38」

 途中で転ばなければ青山くんも6秒を切れていたかもしれない。相澤先生がスマホを取り出してなにか操作をした後、「次」との合図で次の二人が並ぶ。メガネをかけている青年とカエルのような動きをしている女の子だ。

「イチニツイテ、ヨーイドン」

 最初に飛び出したのはメガネ君、車のようなスピードで走る。一方、かえるちゃんは跳躍して進んでいく。

「記録、イイダテンヤ3秒88。アスイツユ6秒98」

 4秒以下が出てきた。流石雄英高校だ。

「終わったやつからそっちで長座体前屈と上体起こしを測っていてくれ。説明はそこのロボットがしてくれるから」

「ゴアンナイイタシマス」

 先生が再びスマホを操作しながら説明しているとロボットが走り終えた四人の元にやってきた。そのまま端の方に連れられ、説明用ホログラムの再生が始まる。

「ほらどんどん行くぞ」

 

***

 

「次」

 次は姫と大柄な男がスタートラインに立つ。彼はどのような個性なのだろう。

「イチニツイテ、ヨーイドン」

 合図の瞬間、地面が割れるほどの勢いで踏み込みながら姫が翼を出して急加速をする。当然周りに旋風が巻き起こり隣の男は少しよろけてしまう。結局姫は2、3回羽ばたいただけでほぼ地面に足をつかずにゴールした。よろけた彼は始めふらつきながらもなんとか転ばずにゴールした。どうやら身体能力を高める個性ではないようだ。

「ケツジョウヒメ3秒07コウダコウジ8秒08」

 ロボットの音声が終わると同時に姫が受け身も取らずに倒れる。

「ヒャァ!? あ、足が!」

 口田くん、そんなに高い声だったのか。

「心配しなくても大丈夫だよ」

 俺は姫に駆け寄りながら騒然としているクラスメイトに言い放った。これぐらいなら多少時間はかかるけど治るだろう。

「ですが! あ、足が折れて骨が見えてます! は、早くリカバリーガールを」

「呼ばなくて大丈夫よ」

「本当に大丈夫なんですか?」

 どこからか取り出したメガホンを持ってまだ心配している緑髪のポニーテイルの女の子が上体起こしの方を見ていることを装う相澤先生を呼び出そうとしている。

「平気よ平気。私強いから」

 姫は他人から心配されていることで少し嬉しそうである。

「なんでそんなに嬉しそうなんですか。リカバリーガールが嫌にしても応急処置としてガーゼで押さえますから早く座ってください」

 あ、これガチの心配じゃん。姫はこの状況をどうするのかと思っていると目を瞑り集中し始めた。

「こ、これは?」

 ゆっくりと白い突起が内側に戻っていき肉が増えて傷口がふさがっていく。

「私、吸血鬼だから再生するの」

「吸血鬼? それっておとぎ話の中だけの存在ではないのですか? それよりもどういうことですの? なんで傷口が?」

「まぁまぁ一旦落ち着いて?」

 俺は少しパニック状態の彼女を落ち着かせる。

「落ち着いていますわ。血城さんが吸血鬼......吸血鬼なんですか!?」

 本当に微々たる差だが姫の顔が曇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーまあ正確に言うとそのまんまって訳ではないんだよね」

「と、いいますと?」

 少し興味があるのか順番の生徒以外は話に耳を傾けている。

「確かに吸血すると栄養になるし全体的な身体能力も一時的に上昇して一応相手の能力を一時的に借りることも可能で、再生能力もあるし、日焼けしやすいことは合ってるの」

「でも何故吸血鬼ではないと?」

「でも物語に出てくるみたいににんにくが嫌いだったり聖十字架を掲げられても嫌がらなかったりして......」

 少しずつ尻すぼみのように声が小さくなっていくのと姫の手が震えているのを見て思い出す。小学生の低学年のときには日中に出ることも出来なかったり小学生のときには吸血鬼だのバケモノだの言って十字架見せてくるやつがいたり......あー思い出したら腹たってきた。ここでもそんなことが始まってしまうのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもすごい個性だね!」

 緑谷くんが口を開く。

「本当にそうですわ。しかも個性をうまく使いこなしておりますし」

 続いてみなが口々にすごいと言ってくれている。どうやら俺の杞憂ですんだようだ。

「おい、お前ら話してる暇があったらさっさとやれ」

 先程まで床の血を処理するふりをしてこちらの様子をうかがっていたくせに一旦落ち着いたのが分かると後片付けはすべてロボットに任せてこちらに来た。除籍にするような過激な人になったのかと思ったがどうやら生徒を一番に考えている先生のようだった。

「俺も頑張らなきゃだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次」

 ついに俺の番が来た。隣には赤白くんがいる。

「よろしくな」

「…………」

 ちらりと一瞥しただけで終わった。無視か。まるで周りのことなど眼中にないというようなこの反応。だが姫を時折見ているのは恐らく自分よりも優秀な人間に対する嫉妬か。いや、でも何かが違う気が......

「イチニツイテヨーイ」

「(ヤッバ、天照起動)」

「ドン」

 一番早く起動できる天照で背中や掌から炎を出して推進力にする。姫のように踏み込みスタートダッシュしたかったが仕方がない。

「ソウキカケル3秒87、トドロキショウト4秒83」

 残念ながら姫には負けてしまった。ふと後ろを見るとこちらのレーンは焼け焦げているのに対して隣のレーンには氷が残っていた。トドロキ君の個性によるのものなのだろう。鋭い視線を感じる。

「…………」

 だが振り向いたときには測定を終えた人たちの元へ歩くトドロキくんの姿しかなかった。

 

 

 

 

 

***緑谷

 

 

 

 

 

 

「次はボール投げだ。最初にデモで爆豪が見せたように各自の個性をうまく使って記録を出してくれ」

 グラウンドβ(体育場βの外がグラウンドのようになっていた。どんだけ広いんだこの学校)で相澤先生が説明をする。先生に言われてデモとしてかっちゃんが投げた。デモでは離す瞬間に掌から爆発する物質を出せる個性で爆風をボールの勢いに乗せて705.1という記録を出した。

「(僕はどうすればいいんだ)」

 ここまでの記録ではすべて一位を取っている血城さん、二位か三位を取っている想起くん、そして創造という臨機応変に道具を作り出すことで続いている八百万さん、優秀な個性で良い成績の轟君、持ち前のセンスで上位組の成績を勝ち取っているかっちゃん、この五人がトップだ。けど僕はほとんどの競技でビリを取っていた。

「(このままじゃ除籍処分される……でもワンフォーオールは諸刃の剣、けどこのままじゃ除籍処分)」

 頭の中はすでに除籍を受けるかそれともワンフォーオールを使って腕の怪我を負うかの2つでいっぱいだった。

「「「おぉぉぉ!!!」」」

 そのとき突如として歓声が上がる。

「な、なにがあったの?」

 隣りにいた想起くんに声をかけると彼は静かに指を指した。その先には「∞」と表示されたスマホをこちらに見せる相澤先生と嬉しそうな麗日さんの姿だった。

「個性の効果範囲はわからないが、麗日が意識していなくても落ちる気配がない為とりあえずの記録は無限だ」

 またしてもだ。またしても僕は高記録を取れずに次の種目になってしまうのか。あと2種目これなら……いっそ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

「次、血城」

 ついに問題児が来た。先程最高記録が出たけどきっとフルパワーは抑えてやってくれることだろう。たぶん、おそらく、可能性としては小さいかも知れないけど。

「じゃあいきます」

 そういって円内で思いっ切り上体をそらしながら振りかぶって……

「みんな伏せろっ!!!!!!」

 

 紫矢起動、威力計算開始、終了、紫矢から凍獄への切り替えによって封じ込めが可能と判断、紫矢による演算終了。

 凍獄起動。

 姫が振りかぶって投げた。ただそれだけなのだが極限まで引き絞られた筋肉の開放によるボールの発射は衝撃波となった。姫の周囲を捕捉して凍獄で囲む。

「AAAアァア亜ア亜亞ああああああああああああああああああああああああああああああついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあつい

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