英雄となる執事の物語   作:古地刃海星

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5話

 凍える寒さで意識が覚醒する。気付けば轟くんと姫がそばにいて心配そうな顔をしていた。姫が何か口をパクパクとしている。なんで何も聞こえないのかと思ったら鼓膜が内側から破けていることに気付いた。すぐに体の修復を始める。焼けていた部分は垢となって皮膚から剥がれていく。

「カケル! ...ケル!」

 やっと鼓膜が治ったようだ。

「う、うぁぇ」

 だがまだ声帯が治っていない。

「チーユーー」

 突然遅々として進まなかった体内組織の再生が加速する。

「翔!翔!」

「姫もみんな、怪我は......」

 あの爆心地にいたんだ。姫であっても怪我をしているはずだ。

「平気よ、クラスの子達も無事よ」

「良かった......」

 冷静になって周りを見ると少し離れた位置からこちらを心配している皆が見えた。

「たく、何したら全身を内側から火傷するんだい」

 姫に隠れて見えなかったがリカバリーガールいた。

「一応聴くけどアンタは血城のボール投げで衝撃波が来ることを予想して何らかの個性を使用、それのデメリット等で火傷したってことでいいのかい?」

「はい、相澤先生の個性だと姫自身の肉体で投げていた場合止められないと思ったので凍獄で姫の周りに絶対零度の空気で壁を作って衝撃の物理エネルギーを奪いました」

 凍獄は半径10メートル圏内の物体からエネルギーを奪える。これを応用し空気の一部から持続的にエネルギーを奪うことで音や衝撃波を遮断することができる。だが欠点として奪うことしか出来ない。つまり瞬時に消費しない限り熱が体内にたまるのだ。空気を全く動かなくするのは簡単なのだが常に大気圧による移動や熱による移動、今回のように大規模な衝撃のエネルギーを全て受け止めるとすぐに体の耐熱性を上回って火傷してしまう。今回は紫矢を起動後すぐに凍獄を起動したからその後に熱を天照で処理することも出来なかった。

「とりあえず応急処置は済んだからあたしゃ戻るよ。アンタもあんま無理しないようにね」

 そう言ってリカバリーガールは杖を突きながら戻っていった。

「あれ、でも想起くんの個性って最初の50メートル走で使ってた炎を出す個性じゃないの? それに黒髪だったのがさっき倒れたときは髪が水色になってたし」

 起き上がって体を解しているところに緑谷くんが質問してきた。

「確かに先程は掌から炎をブースターのようにして加速されていましたね」

 八百万さんまで聴いてきて皆興味津々でこちらを見ているため答えたほうが良さそうだ。

「俺の個性は”想像”、自分で考えた個性が使える個性だよ。髪色が変わるのは個性が切り替わると自然とそうなるからだよ」

「「はぁぁぁ!?」」

「チートじゃねぇかよぉ!」

「そんなのありかよ!」

 ぶどう頭くんと金髪チャラ男くんが嘆いている。嘆きはせずとも全員驚いているようだ。

「HAHAHAHA!!! いいだろ!」

「じゃあ、他にも個性が!」

 みんなからの質問攻めに遭いそうなところで相澤先生が声をかけてきた。

「次、想起だがいけるか?」

 ついに俺の番だ。

「あんまり無理するなよ。無理しようとしてたら無痛消すからな」

「了解」

 ゆっくりと深呼吸をする。少しずつ思考がクリアになっていく。

「紫矢、起動」

「髪が紫色になった?」

 自分にかかっている力のベクトル全てが脳に直接叩き込まれる。風の向き、風速、空気抵抗、重力、威力を計算。ゆっくりとボールを持ち上げて振りかぶる。計算完了。

「オラアアアア!!!!」

 手に離れる瞬間ボールに掛かっている力学ベクトルを全て進行方向へ変化させる。放たれたボールは風にのって重力に逆らうようにぐんぐんと上昇していく。

「雲の中に入っちゃった......」

 ボールは遥か彼方へ飛んでいった。どれだけ飛んだのかみんな気になって相澤先生の方を見る。

「どうやら二回目の最高記録だ」

 スマホ画面には「∞」と表示されていた。

「どうして!?」

 ピンク髪の女の子が相澤先生を問い詰める。

「想起、説明してやれ」

 ものすごくめんどくさそうな顔をしてこちらに振る。

「紫の髪のときは紫矢という個性を発動したんだ」

 すかさず緑谷くんが質問する。

「どんな個性なの?」

「この個性は手に触れているものの運動ベクトルの向きだけ変えることができるんだ。今のは地球を周回し続けるような軌道を計算してそこにベクトルを合わせて投げただけだよ」

「えぇぇ......」

 え、なんか引かれちゃった。

 

 

 

「私の記録を超えるなんてね」

「姫の記録はいくつだったの?」

 ゆっくりと視線が横にずれていく。

「姫?」

「んー?」

「いくつー?(^U^)」

 苦い顔をしてそっぽを向こうとしているがそちらに回り込む。

「ねぇ、いくつ?(^^)」

「くっ......ゅう..メートル」

「なぁんてぇ???^^」

 小さな声過ぎて聞こえないなぁ!

「30メートル!」

「あれ? 俺が止めた時は1000メートル行きそう勢いだったのに?」

 衝撃波の威力から考えてそのぐらいは行ってる勢いだと思ってたのだが。

「一回目のやつは翔が止めてくれたけど空気にボールが負けてぺしゃんこになっちゃって」

「ブフォ」

「二回目は先生に個性消されてる状態で変に緊張してたら......」

「あひゃひゃひゃひゃひひひひひひひWWW」

 姫がか弱い女の子レベルというのも面白いが本来異形型でもある吸血鬼は力を込めればしっかりパワーが出せるのに......俺がボロボロになったからか。そうであればこれは彼女にとって悲しい記憶ではなく恥ずかしい記憶であってほしい。

「もー! 笑わないでよ!」

 

 

 

***緑谷

「あひゃひゃひゃひゃひひひひひひひWWW」

 変な鳴き声だと思いたいけどもしかしたら幻聴が聞こえるぐらい僕がおかしくなってしまったのかも知れない。

「次」

 途中想起くんが負傷したことで止まっていたボール投げが再開してしまった。せっかく憧れの人に個性を貰ったのに、せっかく夢への一歩を踏み出し始めたのに、ここで除籍されてしまうかもしれないなら。

『いいかい、あんまり無茶を続けているとそのうちアンタの手は歪んで二度とヒーローを目指せない体になるよ』

 試験で0pヴィランを倒して気絶した後、リカバリーガールが診察時に言っていたのを思い出す。けれど、ここで除籍にされてしまったら......

 

 

 

「次」

 遂に僕の番が来てしまった。あれから最高記録を出す人は増えなかったがかなりの人が個性を使って高記録を出している。こうなったらこの後の持久走は考えず、今この場でワンフォーオールを使う!

「スマァァァァッシュッッッッッ!!!!」

 ひゅーんぽす、と乾いた音が響く。

「31メートル」

「え、どうして!?」

 ロボを殴り飛ばしたときのような感覚は確かにあった。なのに。

「悪いが俺の個性で消させてもらったよ」

 先程の冴えない目とは打って変わって蛇が睨んできているかのような鋭い視線で相澤先生がこちら見ている。

「消すってどういう......」

 そのときやっと気付いた。

「まさか抹消ヒーローイレイザー・ヘッド!?」

「......知ってるのか」

「抹消ヒーローイレイザー・ヘッド、かなりストイックかつ仕事人なためヒーローが有名になってヴィランが対抗しやすくなることを嫌った為他のヒーローに比べてメディア露出は少ないけどヴィラン捕縛率は驚異の68%! 逃してしまう場合もあるけどそれは他のヒーローが応援に来てくれたことと被害者の安全を優先している為実質的にはヴィラン捕縛率は100%であるだろうと言われているヒーロー、個性は抹消という増強型と特殊型の個性を消すことができるという強個性!」

「あんまり使わせんな。俺はドライアイなんだ」

(((もったいない......)))

「おい緑谷、お前実技試験で使ったやつを使おうとしただろ」

 やばいバレてる。

「こういうやつが受かるからあの試験は非効率的なんだ。確かにお前の片腕を代償にスーパーパワーが引き出せるのはたしかに強いかも知れない。だが、お前はそれを放った時点で右腕は使い物にならず他のヒーローに尻拭いさせるしかない」

 確かにそうだ。今の僕はワンフォーオールを使えば痛みで再起不能になってしまう。

「そんなヒーローは現場にいらない。それならヒーローなんてやめちまえ」

 舞い上がっていた。ぐうの音も出なかった。ナンバーワンヒーローから個性を託されて特別な気持ちになっていた。確かに今の僕ではヒーローだなんて言えない。でも、僕は。

「......後一回だけチャンスはある。よく考えて使えよ」

 

 

 

 

***

 

「......よく考えて使えよ」

 相澤先生は緑谷くんに何か言った後だった。

(緑谷くんの表情が変わった)

 先程は何か追い詰められているのと不安と悩み、そして変な奢りがチラチラとしていたのに今は明鏡止水という言葉が似合うほど澄んだ目をしていた。

「スゥーーーーーーー」

 ゆっくりと構え、投げた。

「!!!」

 俺が投げたときのように指から離れる瞬間、不自然に加速するボール。遠く、遠くへ飛んでいく。

「先生、まだ動けますっ!!!」

 緑谷くんが拳を握りしめて相澤先生にガッツポーズをする。彼の指先は内出血して痛々しそうではあるが彼は満足そうな顔だった。

「705.4メートル」

「なんでェ......」

 そのとき先程からも緑谷くんにだる絡みしていた爆豪くんが掌で爆発を起こしながら近づいていく。先程まで緑谷くんにだけ聞こえるように文句を言っていたのに。緑谷くんが危ない。

「なんで、テメェが個性を使えんだよォ!!!」

「おい爆豪なにしようとしてんだ。仲間に手挙げるようなヒーローを目指してるんなら除籍にするぞ」

 その時あと一歩のところで捕縛布で拘束される。

「チッ」

 拘束を解かれ、渋々とは言った様子ではあるが一応襲う気は無くなったようだった。

「とりあえず緑谷くんは応急処置を知らないようだからテーピングだけやっとくね」

 八百万さんに頼んでテープを出してもらい、緑谷くんの指がこれ以上変に曲がってしまわないようにテーピングし、空気中の水分の熱を奪って氷にして表面にくっつけて固定する。

「とりあえずこれで持久走中はなんとか持つと思うよ」

「ありがとう想起くん、なんかごめんね」

「全然気にしなくていいよ。あと俺のことは翔でいいよ」

「僕のこともデクとか出久とかなんでもいいよ」

「ならよろしくなデク」

「うん、まぁ、僕除籍されちゃうかも知れないし」

 テーピングを終えて立たせたら弱気な言葉が飛び出してきた。

「そんな弱気じゃ駄目だ!」

 あの人の言葉を思い出して彼に言ってみる。

「何故私が笑ってヒーローをしているのか。「それはどんなにピンチの時でも笑顔の君たちを助けるためさ」」

 え、途中からハモってきた。

「すごい! それってアラビア朝日のテレビムジョルニアでアナウンサーがどうしてオールマイトは笑顔で人々を助けるのでしょうかという問いに対して3.42秒考えた後に絞り出した答えだろ! でそのあとに『もし不安そうな顔で助けようとしても助けられる人は本当に助かるのかと不安を感じてしまう。だったら笑顔でもう大丈夫と安心させてあげればいいじゃないか』あれ知ってる人いたんだ! あの番組日本の有名なヒーロー全員やったから番組終了しますって10年前に終わっちゃったから僕の同世代だとよっぽどコアなファンしか知らないからこのセリフを言っても反応してくれる人がいなくて......」

 え、あぁー緑谷くんヒーローヲタクだったのか。俺がこれを知ってるのは姫のお陰なんだけどなんか悪い事したかもな。

 

***

 

 持久走も終わり遂に結果発表となった。相変わらず姫が地面を割るほど力強くスタートダッシュしたり八百万さんはローラースケートとジェットエンジンで姫について行ったりと持久走もなかなかだった。

「遂に結果発表か......」

「私と翔はどっちが勝ったのかしらね」

「よく言うよ」

 唯一ボール投げが最下位なだけで後は軒並み一位や二位を取っている姫に勝てるわけがない。

「これが今回の運動能力テストの結果だ」

 ホログラムで先生のスマホから順位が映される。

 

〜〜〜

一位  血城 姫

二位  想起 翔

三位  八百万 百

四位  轟 焦凍

五位  爆豪 勝己

六位  飯田 天哉

七位  常闇 踏陰

八位  障子 目蔵

九位  尾白 猿夫

十位  切島 鋭児朗

十一位 芦戸 三奈

十二位 麗日 お茶子

十三位 口田 甲司

十四位 砂糖 力道

十五位蛙吹 梅雨

十六位青山 優雅

十七位瀬呂 範太

十八位上鳴 電気

十九位耳朗 響香

二十位葉隠 透

二十一位峰田 実

二十二位緑谷 出久

〜〜〜

 

「私の勝ちね」

 フフンとドヤ顔をしてこちらを見る姫。それよりもデクが最下位である。案の定デクは結果を見て肩を落としている。

「ちなみにだが最下位の奴が除籍処分というのは嘘だ」

「「「えぇぇぇぇ!!??」」」

「お前らが本気になるように言った合理的虚偽だ」

「それはそうでしょう、一教師にそんな自由に処分を下せるような権力は与えないなんて考えれば分かります」

 いや、相澤先生は本当は除籍にしようと思っていたんだろう。だけどそれを考え直せるようなことがあったのだろう。恐らくだけど体を犠牲にして強大なパワーを手に入れるデクくんの個性が彼には許せなかったのだろう。彼は自己犠牲が一番嫌いだから。

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