***緑谷
「デクくん! なんだか緊張するね」
ヤバイヤバイヤバイ! 戦闘訓練の一番手に僕が出るのもヤバいし、ましてや相手はかっちゃんだ。
『訓練だろうとなんであろうとお前をぶちのめす』
かっちゃんは耳元で宣言して建物内に入っていった。
「五分の準備時間があるけど何をすればいいんだろうね。この見取り図とか覚えればいいのかな?」
かっちゃんはやるといったらやる男だ。きっと僕なんかだったら瞬殺されてしまうだろう。そう、今までの僕なら。けど、僕は、なんとかして勝ちたい。勝ってあの人の個性を受け継いだヒーローとして活躍したい。
「...クくん、デ...く...、デクくん!!!」
「う、うわぁ!? な、なにお茶子さん?」
「大丈夫? 肩揺らすまで全然話し聞こえてなかったみたいだけど」
そうだ、きっとかっちゃんは......
「麗日さん、勝とう!」
「う、うん! もちろん!」
「しっかしデクくん気合十分......デククゥン!? 洗濯機みたいになってるよ!?」
麗日さんに言われてから僕の体が震えていたことに気付いた。頬を叩いて気合を入れる。
「飯田くんもそうだけどかっちゃ、爆豪くんと戦うのに緊張しちゃって」
落ち着け。
「かっちゃんは凄いやつなんだ。口も悪いし凄く嫌な奴だけど」
深呼吸しろ。
「目標も自信も体力も個性も僕より何倍も上なんだ」
覚悟を決めろ。
「でも、負けたくない」
「だから、麗日さん、負けないように作戦考えるから個性、教えてくれますか!」
「オトコのインネンって奴だね! いいよ! 二人で勝とう!」
「うん!」
***
メガネくん達が建物に入った後デクたちを残して他の人達は地下管理施設に移動した。何画面もあり、それぞれに階段や部屋の中、建物の外側などが映し出されている。
「みんなにはここで四人の行動を役割に合った行動か、考えながら見てもらう。そして...」
オールマイトがマイクを持って再び話し始める。
「あーあー現場の四人は聞こえているかな? 聞こえていたら頷いてくれ」
画面の中で頷くのが見える。
「他の子達も含めて君たちの行動は見ているから頑張って戦ってくれ。あとリカバリーガールが待機しているからある程度は気にせずに戦ってくれ」
「それでは、屋内想定戦闘訓練を開始する!」
五分間の準備タイムの後、ヒーローが入ることで戦闘がスタートする。みんなが固唾をのんで見守る中、デクが床に何かを書き始める。
「なるほどね」
姫や八百万さん、後何人かは作戦が分かったようだ。
「おい、爆豪が動き出したぞ」
そうこうしている間に五分経ったのか? ヴィランは作戦を立て終えて早速行動開始し....てい...る...の、か?
「あれは明らかに爆豪くんが独断で動いてるね」
「「リカバリーガール!」」
扉から入ってきてモニター前の司令塔のような席に座る。
「リカバリーガール、この子達をお願いします」
「はい、分かったよ。何かあれば連絡飛ばすから来なね」
どうやらオールマイトは市街地近くで待機するようだ。
「5分が立ったね。それじゃあ市街地屋内対人戦闘訓練を始めるよ」
リカバリーガールが手元のボタンを押すとブザーが鳴り、ヒーローたちが動き始めた。
***緑谷
「それじゃあ作戦通りに」
「うん頑張ろー!」
まずは建物の中に入る。一階は玄関を入って受付を想定しているのかかなり見通しがいい。ヴィラン側がいくらでも監視できるため麗日さんの個性を使って二階の窓から侵入する。
「よし、侵入成功!」
周囲の警戒を怠るな。二階からは死角が増える。死角からかっちゃんが出てきて近距離爆発を食らったらひとたまりもない。更に飯田くんと協力して核兵器のある部屋の扉前で待ち伏せされたら継続的な突破力がない僕らでは勝ち目がない。だけど僕には確信に近い自信があった。
「死ねぇぇ!!!」
僕を狙った右手つかみ爆発。叫びを聞いた瞬間頭を下げる。派手な爆発音と共に壁が一部壊れる。
「オイコラ! デクのくせして何避けてんだ」
「きっと単純な君なら僕をいつものように頭を掴んで押し付けると思ってたからさ!」
大丈夫、落ち着け、こうなったらかっちゃんがする行動は一つ。
「ぁんだぁとこのクソナードォ!!!!!」
来た、右での大振りつかみ。ワンフォーオールを使わずに床に叩きつけるっ!
「ッ...ガハ...」
「いつも君は反応が速い右の大振りからやってた!」
考えろ。
「凄いヒーローのことは全部研究してノートにまとめてる! 君が爆破して捨てたノートに!」
動け、考えろ。
「僕はいつまでも出来損ないのデクじゃない! 頑張れって感じのデクだっ!!!」
震える。動け、考えろ。
「麗日さん!」
「はい!」
「こいつは僕が足止めするから早く核兵器のところに」
麗日さんはこくりと頷くと三階へ行こうとする。
「コイツだぁ......?」
「行っ......」
後ろ手で爆発加速、麗日さんの方に向かおうとしてる。麗日さんを追わせちゃ駄目だ!
「余所見とは随分と余裕だな」
そのままの速度で左膝キック。そのまま左でつかみ爆破、騙し討かよッ! 躱せないふりをする。捕縛用テープは1.5メートル、かっちゃんの体格を捉えるのには余裕がかなりある。だからこのまま足から捕まえる!
「チッ」
焦ってる。多分右、大振り!
「クソがぁ!」
かっちゃんが僕を蹴りながら一旦距離を取った。互いに射程範囲から離れたことで一呼吸が入る。やはり一筋縄では行かない。かっちゃんの体の扱いはセンスによるものだから咄嗟の動きでも超反応を見せてくる。落ち着け、作戦を実行するために、かっちゃんに勝つために、考えろ。
「コラ、デクがぁ」
なにか言おうとしてる?
「なァ、おい俺を騙してたのか! 楽しかったか? 本当の自分の力を隠して俺に媚び諂って俺が調子に乗ってるって思うのはよぉ!」
「な、ち、ちがっ!」
「随分と派手な個性だよなぁ!!!!」
怒りで汗の分泌が早くなったのか、手の平で既に爆発している。
「使ってこいや!!! 俺の方が上だからよぉ!!!! お前を叩きのめして証明してやる!!!」
あんな威力のもの、人には向けられない。ましてやこの状況で個性を使ったら建物が崩壊しかねない。
「チッ......使わねぇなら使わざるを得なくしてやるよ!!!」
こっちに走り始めた。右を後ろに引いた! なら!!!
「バーカ」
「クハッ......」
かっちゃんが消え......視界が突然逆さまになる。あれ、今僕はどうなっ背中が痛い!!!
「クソナードが、なんだ俺に個性無しで本当に勝てると思ってたのか?」
クソッ、右手で爆発を起こして方向転換をして後ろに回り込んだのか!? あの土壇場で思いついて、それを実行して、成功させたのか!?
「ハハッ......」
「何が可笑しい!!!」
「君に勝つために作戦を考えてた。君を行動不能にさせるために考えてた。でもやっぱり君は最高のヒーローだ」
「ッッ!!!!!! クソナァァァァドガァァァ!!!!!!」
そんな君だから、こんな僕はどうしようもなく。
「君に憧れてたんだ」
ごめん、麗日さん。
***メガネ
「メガネじゃないっ!! ......僕は誰に向かって言っているんだ!?」
僕、飯田天哉はやるせなさを感じていた。
「全く。作戦を聴いているのかと思っていたのに聞いてすらいなかったのか?」
僕は五分前を思い出した。
「まず相手の確認から始めよう。麗日さんは触れたものを重力から解き放つもの個性。これがどの範囲まで浮かばせられるのか分からないけどこれを使えば一定の階数は無視して進めるだろう。ただ運動能力テストの幅跳びで自分を浮かせてはいなかったことから緑谷くんがある程度引っ張れる階数...恐らく二階から侵入してくるんじゃないかな?」
確か待機時間の始まりはそう言った。
「そして緑谷君の個性は恐らく体が耐えられないほどの超パワーを引き出す増強型個性なんだろう。これは使われたら勝てないが建物が崩壊して核兵器がここで爆破してしまうリスクがあるから容易に使えないだろう」
僕がそう言ったとき若干俯いていた爆豪くんが顔を上げた。
「デク......は、個性持ちなんだよなぁ......」
「そうじゃないのか? 君だって昨日のボール投げを見ただろう?」
昨日の話が本当ならデクと言っている彼は緑谷君が言ったいじめっ子の......黙ってしまった為時間を無駄にしないように本題に戻る。
「作戦会議を続けるぞ。向こうは安易に個性を使えないとなるとなるべく隠密行動でここに来るはずだ。つまりこの核兵器の前で待っている事が最も相手に有効な手段だ。もし情報の取得のために斥候を出すにしても素早く戦線から離脱できる僕の方が適しているから君はここで待機、僕がこの扉前で出待ちが作戦として最もいいと思うのだがどうかね」
「.........」
「他にあるとしたら奇襲を避けるために僕ら二人でこの部屋に待っているというのもいいと思うのだが」
「........................」
話しかけても全く答えずに二分ほど経過してしまった。
「残り一分もない。さぁ、早く決めてくれ」
突然動き出したかと思えば扉に手を掛けて部屋から出ようとしている。
「何をしているんだ!? 作戦はどうするんだ」
「っぅるせよ。作戦なんていらねえんだよ」
「だが緑谷くんの超パワーはかなり警戒するべきだ。それにどのように攻められたとしても二人で守っていたほうがヒーローを防ぎやす......待て! まだ話は終わってないぞ」
こうしてさっさと部屋から出てしまった。こうなったらいつ外から侵入されても守れるようにここに残らざるを得ない。かすかにではあるが爆発音が聞こえる為既に敵と接触しているのだろう。出来れば何階で接敵したかを教えてもらいたかったが。
「インカムも切られてしまったし、どうするべきか」
「ガチャ」
突然目の前の扉が開いた。
「あ、お邪魔します......」
ススーっと核兵器の方に。
「いや、行かせないぞ!?」
***
遂に戦闘が始まった。爆豪くんの勝手な行動によって緑谷くんだけ足止めして麗日さんを核兵器のもとに向かわせてしまったのだ。
「こいつ、アホなのかしら」
「なんでこんなにデクに対して敵意丸出しなんだろうな」
しかも対策しきっているデクに対して自身のセンスのみの爆豪くんは明らかに不利である。
「あ」「うわ」
だが、ここまでセンスでのし上がってきたことは事実なのだろう。五十メートル走で使っていた爆発の推進力で自身を移動させるというのをこの場でやってのけた。デクは爆発の推進力で後ろに回られることを想定していなかったのか、腕を掴まれ意趣返しのように床に叩きつけられた。
「ぶっつけ本番でやったことが仇となったわね」
「どうしてですか?」
姫が鼻で笑いながらつぶやくと八百万さんが聞き返してくる。
「爆豪達はなんか喋ってるじゃない? 多分だけど急で雑な方向転換で彼の三半規管が一時的にやられてるから喋りで時間を稼いでいるんじゃないかしら。頭が揺れてるし」
確かに若干だけどフラフラとしている。
「だけど緑谷君の方も投げられたことで左肩が勢いよく伸びたのと床に勢いよく叩きつけられたのが合わさって激痛でしょうね」
「なんで緑谷は個性使わねんだよーあんなに強いのによー」
突然ぶどう頭のちびな男の子が姫に質問を投げかける。
「あなたは?」
「あ、俺は峰田実(ミネタミノル)だ。よろしくなお嬢さん」
「そういうノリなら......」
「うおぁ!」
ネクタイが引っ張られて......
「ごめんなさい、カレシいるの」
またしても唇を奪われた。そして目の前で突然始まったことに困惑しているのか峰田くんは目を丸くしたまま固まっている。ちゃっかり血液も奪われたし。
「あと多分だけど彼が個性を使わないのは彼が優しいのと使いこなせていないこと、そして状況設定が厳しいことが原因ね」
「それらはどういうことですの?」
「まず入試で見せたって言われてる0pの仮想敵をワンパンした威力を人にぶつけたらその人はどうなるでしょうか!」
姫は指を立てながら選択肢を出す。
「1、ミンチになる、2、ぺしゃんこ、3、良くて全身複雑骨折、さてどれでしょーか?」
にっこりと笑顔な姫に対してみんな引いている。
「それにここであんなのを使ってどこにあるか分からない核兵器を破壊したらそれこそヒーロー失格でしょ」
***緑谷
少しだけど痛みも減ってきた。
「おい、どうしたんだよクソナードがァ! さっさと個性、使ってこいよ」
流石のかっちゃんもぶっつけ本番で急な移動方法をやったからか少しふらついている。このまま押せれば良かったんだけどな。右手で頭をつかもうとしてくる。
「ッッッ!」
素早くかっちゃんと僕の間に左足を捻り込ませて押し蹴りながら起き上がる。かっちゃんとの距離は二歩半ほど。さっきのような加速をされるとしたらこの距離はまずい。少し離れる。
『デク君ごめん見つかっちゃった!』
麗日さんから通信が入る。
「いいよ、大丈夫、場所は?」
『五階の中央フロア、うぉあ!?』
この戦闘訓練、制限時間は十分ほど、登るのに三、四分掛かったから、もうそんなに、時間もないはずだ。タイムアップは、ヴィラン側の勝利、かといってこのままかっちゃんの相手をしていても。
「オラどこ見てんだデクゥ!」
クッソ、かっちゃんがここに来て機動力が増したから次の一手が読みづらい。
「ウッ!!!」
「あの個性は使わねぇのかよ!」
深く腹に入った。どうすればこの状況を打開できる、どうすれば.........! そうだこれだけ個性に意識を振ってるんだ。フリでもいいからこれで隙を突ければ! 右手を引いて溜める振りを。
「ッッッッッ!!!!」
派手に避けた! よしこのまま距離を離
「舐めてんのかデク」
突然かっちゃんの足が止まった。
「楽しかったかぁ? ......俺をバカにするのはよぉ!」
しっかりと構えてこちらにかっちゃんの最終兵器を向ける。
『爆豪少年!!! 駄目だ!!!』
「全力のテメェを捻じ伏せる」
*
爆豪勝己、個性「爆発」掌の汗腺からニトロのような汗を出すことができる。さらに汗は溜まれば溜まるほど、威力が増す。これを利用し、装備のガントレットは汗を溜め込み引き金を引くことで貯めていた汗を爆発させることが出来る。