項羽(偽)、未来で生きる   作:凧の糸

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バカンスへ行こう

 

「ふむ、海という物は知識にしか無いが、存外見るだけでも楽しいものだな」

 

 

「私も内陸出身ですし、初めてですよ……」

 二人はユーラシア大陸では無く、日本の旧沖縄県の海岸に佇んでいた。何故彼らがいるのかというと、数ヶ月後に展開される沖縄侵略の工作の為だった。こんな風に時間が余れば、マリンブルーの海に行ってみようと思うくらいには興味を持ち合わせていた。戦闘で消滅もあり得るのだから、行くに越した事はない。

 

 

「しかし、軍施設は堅牢ですね。設備面も充実していましたし。情報面も工作員から「動けない」と報告を貰っています」

 

 

盡人事待天命(人事を尽くして天命を待つ)ーー我々も力を尽くしている。彼らも職務を果たしている。問題はない、成り行きに任せるのみだ」

 

 

「そうですかね?不安で不安で……夜しか眠れません」

 

「汝は夜型人間なのだったな。バイオリズムを戻す事を推奨する」

 

「癖になっちゃいましてね」

 

 

「そうかーー」

 しばらく海水を眺めた後、拠点に帰還した。海水の匂いは汽水とは全く違った。これはこれで気に入ったが、直ぐに硝煙と血の臭いに塗れると思うと……思うと……何も思わなかった。

 

 

「私は睡眠状態に入る。何かあれは起こせ」

 

「了解です。こちらもこちらで外出は楽しかったです」

 

「お休み」

 

「お休みです」

 会稽弐式はスリープモードに入った。機械人間である彼は殆ど人間と相違無いので、ある程度人間と似たリズムで生活を送っている。摂取したエネルギーを無駄に消費しない為やデータの整理の為に機能の大半を落としているのだ。

 

 

「ううん、難しいな……測量できたと思ったが、偽装が掛かっていたのか」

 コンピュータを用いて、彼自身の持つ魔法資質により目視で測量された軍施設が細部まですみずみ描かれていく。しかし、彼の言葉の通り偽装が掛かっていたようで、所々にミスが生じたりしているようだった。

 

 

 

「工作員達からのデータも少ないし……うーん、そりゃあそうだけどねぇ……」

 大亜細亜連合に今最も狙われている日本の国土は沖縄や諸島の一帯だ。大陸に近く、本土からも遠い。良い具合の距離に沖縄は位置していた。

 

 

 それ故に、日本は沖縄の防衛に力を入れている……らしい。工作員がウロウロ出来るくらいザルな環境にも関わらずだ。その割に施設の情報漏洩に関してはしっかりとしているので彼は『どうなってるんだ?』と頭を捻っていた。尤もその思考を五秒で放棄したが。

 

 

 

「やっぱ、うめーわ、エナジードリンク。日本製はサイコーだ。大亜製は味の種類がしょっぱいし」

 テンションがハイになり、独り言をぼやぼやと喋っている。

 

 

 

 

「おい、周。もう朝だぞ」

 

「あえ?」

 カーテンをシャッと開ければ、朝日が水平線の先から顔を覗かせていた。

 

 

「そろそろ汝のバイオリズムから、睡眠を取るのが好ましい。タオルで顔を拭く事を推奨する」

 

 

「ありがとうでっす」

 ほんのりと湯気が出ているタオルは周の眠気を誘った。

 

 

「じゃ、そっちのターンですね。頑張って下さい」

 

「応」

 周は硬いベッドの上にマットレスを敷き、タオルケットを被るとそのまますーすーと寝息を立て始めた。

 

 

「……」

 会稽弐式は栄養摂取用サプリメントを枕元に置くと、目的を果たすために外出した。

 

 

 

 

 

「……」

 彼らは屋内で黙々と爆発物を作成していた。名義上は観光産業の会社所有の倉庫となっているが、大亜細亜連合の作ったペーパーカンパニーの一つだ。空っぽの一室ではクーラーがかけられており、複数でチマチマと爆弾を作っていた。

 

 

「昼食買ってきます」

 いち早くノルマを作り終えた会稽弐式は席を立って人数分の昼食を買いに行った。

 

 

(軍人らしき服装に金髪混じり、そしてダークブラウンの目。確か…… 取り残された血統(レフト・ブラッド)だったか?)

 かつての沖縄には在留米軍が居た。日米安全保障条約などで沖縄に基地があり、そこに勤めたアメリカ人軍人の中には現地で子供が出来た者もいた。しかし、第三次世界大戦の勃発やそれに伴う戦争で沖縄から米軍が引き上げた事により、父親が戦死したような子供は日本に取り残された。その後の様々な政治的要因により、国防軍に引き取られて軍人になった彼らは度々、一部の者はその素行の悪さが問題視されている、らしい。

 

 

 

 数人で煙草を吸っている彼らを悟られないように見て、横をそそくさと通り抜ける。こちら側(大亜細亜連合)の協力者となっている者がいると報告されていたが、見分けはつかない。

 

「すいません、いつもの焼きそばを三十ほど下さい」

 

「はいはい、いつものね」

 お金をちょっとした顔見知りになったおばさんに渡し、濃いソースに紅生姜が乗った大盛りの焼きそばをもらった。会稽弐式は大量の焼きそばを抱えて歩き出した。

 

 

 (これは……)

 仮にも軍人の彼らが情けないと会稽弐式は思ったが、気にすることなく彼らの足を跨いで常識的な範囲で走り抜ける。

 

 

「あっ!クソっ!」

 悔しそうな声色を漏らす。彼らが追いかけてくるので近くに焼きそばを置いて話しかける。

 

 

「あの……な、何か……」

 渾身の演技。名作映画、ハリウッド、功夫映画とジャンルは雑多にかなりの本数を観覧した彼に死角は無かった。

 

 

 

「俺らの楽しみを邪魔しやがってよ……デケぇタッパも気に入らねえ……」

 

 

「す、すすみません……」

 

 

 

 

 

 

 

 結果的に言えば、会稽弐式はボコボコにされた。腕や顔は腫れ、服装もすっかりボロボロに変わっていた。幸いにも十分ほどで解放されて助かった。焼きそばには手を出さなかったのは幸いだった。

 

 

「……」

 焼きそばを抱えて歩き出した。

 

 

 

 

 

「あれ、会さん喧嘩? 強かったですよね、相当」

 ボロボロの彼を見て、一人が言った。

 

「厄介ごとを避けるための必要経費だ。それと遅れて済まない、焼きそばだ」

 

 

「おっ、やっぱり美味そうですね」

 ソースに野菜たっぷりの焼きそばはとても食べ応えがある。沖縄特産の豚肉は大陸本土の物とも肩を並べるほどの美味だった。紅生姜はそこにアクセントを加えてくれ、あのチープな食紅の赤みも好ましいものだった。

 

 

「ちょっと腹立たしいな、同志が殴られるなんて」

 

「まあ、仕方ない。とにかく焼きそばが無事でよかった」

 

「取り残された血統なんて問題アリアリですよ、聞いたところによると。こんな感じのとかみたいな暴力沙汰はそこそこあるって住人達から聞いた。アメリカの血が混じってるってのも一部の市民からは嫌われてるらしい」

 

「へぇー、工作員はそこら辺の感情も利用したんですかい」

 

「ま、んな所もあるかもですね」

 焼きそばを食べて、ゴミを片付けた。未だに作業をしている者の分も残してある。

 

 

 

「にしても、そこそこ作れたなあ」

 きちんと管理された爆発物は一山二山を形成していた。緊急時には停止魔法が働く装置もあり、火の気は徹底的に排除されているのでかなりの安心感がある。

 

 

「仕掛けるのも一苦労ですなぁ……」

 一人のぼやきに皆してうんうん、と深く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________

 

 

 

 

 旧新潟県、佐渡島ーー

 

 

 

「シンちゃん、あそぼーぜ」

 

 

「いいよ、蒼羽(あおは)。待ってて」

 吉祥寺真紅郎は友人である関蒼羽と遊ぼうと、親に外出する事をメッセージに入れた。

 

 

「蒼羽と遊んでくる」

 両親は研究に忙しい。それでも心配するだろうから親宛てにボイスメッセージを送信した。

 

 

 

「うし、行こうぜ」

 

「うん」

 真っ赤な靴を履いて、二人は外へと駆け出した。

 

 

 

######

 

 

 

 

「だ、ダメに決まってるだろ!!」

 

 

「いーじゃん、実験はしないって見たし。探検しよーよ」

 

 

「ダメだ!」

 

「……分かったよ、ゲーム、ゲームで勝負しよう」

 

「……いいの?また勝っちゃうけど」

 

「舐めんな、男子3日会わざればマツモクしてみよ!だぜ」

 

「……それ、刮目じゃない?」

 

 

「「……」」

 

 

「ま、まあ……早く行くぞっ!!」

 二人は真紅郎の家に走っていく。

 

 

「はあ……はあ……は、早い……」

 

「そうか? 軽いジョギング程度だったけど」

 

「校内一足の早い奴が……何言ってるのさ……」

 

「ハハハッ、ごめんごめん」

 

「先行っといて準備して……息整えてから行くから……」

 ゼエゼエと肩で息をする真紅郎からお許しが出たので、家に上がり込み、ゲーム機の準備をする。

 

 

「早くやろーべ」

 

「何する?」

 ソフトは沢山、往年の名作からヴィンテージまで。最近のゲームよりも過去のゲームを真紅郎やその両親は好んでいた。蒼羽もその影響で過去のゲーム好きになっている。

 

 

「じゃあ、やるか」

 パッカージに手をかけた瞬間、けたたましいアラームが鳴った。

 

 

 

 

「!?」

 ランプは赤。つまり、侵略を意味する色だった。

 

 

「し、シェルターに行こう」

 

「ああ、急ごう」

 少年たちは銃弾の雨の下をくぐり抜ける。まだ幼い雛鳥達は幸運にも青い鳥が微笑んだらしく、見つからずにシェルターへと到達した。

 

 

 

「……」

 

「……」

 生きるのに必死で、二人は無言。生への道を見出すのに、他のところに力を割けなかった。

 

 

 

 

「……!」

 異様な雰囲気を醸すシェルターに入った蒼羽はすぐさま飛び出した。まるで、見てはいけない何かを見たようなーー

 

 

「……みたのか」

 

「ああ……」

 真紅郎は何があるのか全てを察した。しかし、ここで待っているのは命が危うい。

 

 

 

「隠れよう、早く」

 二人は血の臭いが一杯の部屋を進み、一つの生きている部屋に転がり込んだ。

 

 

「はあ、はあ、はあ……どうする?」

 

 

「待とう、食料なら……あるはずだと思う」

 待った、ひたすら待った、待った。一分待つだけで、それは何時間にも感じられる。ゲームをしていたらあっと言う間に過ぎていた時間も、永遠のようにさえ少年たちには思えた。

 

 

 

Вы здесь(ここには居ないか)

 

 

Почему в таком месте(何でこんなところに)

 二人のロシア人兵隊が居るようだ。

 

 

「どうする、倒すか」

 

「銃なら……ここに一丁あるよ……」

 探していると偶然見つかった、真っ黒な金属塊。

 

「シンちゃんが、使って。俺はこいつを使う」

 蒼羽は鉄パイプを構え、真紅郎は重い拳銃を握る。

 

 

Подожди, это свет(待て、灯りだ)

 

 

「「!!」」

 二人は焦った。こちらに来る。心臓が破裂しそうなくらいに動悸していた。

 

 

 

 ガチャ。

 

 

 開いた瞬間に蒼羽は鉄パイプを上から振り下ろすーー

 

「!」

 前方の男は鉄パイプが命中し、頭蓋骨は破壊されてドロドロの脳液が飛び散った。

 

 

 

Мальчик!?(ガキ!?)

 急いでライフルを構えて蒼羽を狙う。

 

 

 

「マズっ……!」

 一瞬の硬直が生まれ、銃口が蒼羽を捉える。

 

 

パァン!!

 

 

 引き金が引かれ、機能に従い、一発の銃弾が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、人を……」

 カランっ、と物が落ちる。目の前の物言わぬ肉塊は、彼らによってそうなった。人を、殺したのだ。

 

 

「……俺たちは自分の身を守った。それだけ。誰が悪いとか、悪くないとかじゃない。生きるぞ」

 真紅郎では無く、自分に言い聞かせるように、目を伏せてそう言った。

 

「……」

 真紅郎の顔は青ざめたままだった。拳銃の重みで身体も心も潰れるのではないかと蒼羽の目からは思えた。

 

 

 

 

 

 数時間後、救援がようやく来た。名を一条剛毅。十師族の一員だということくらいは二人にも理解できた。

 

 

「大丈夫か、少年たち。本当に、よく……よく生き残ってくれた……」

 一条剛毅と名乗った大人に俺たちは抱きしめられた。ほんの少しだけ、暖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ロシア語はGoogle翻訳なので、あんまりアテにしないでください。


・追記:12/25、3/1
 追憶編を読むのと、用事が立て込んでるのて次話投稿まで少々お待ち下さい。

大亜連合軍はどれ主体で戦う?

  • ハイパワーライフルなど
  • 魔法(古式、現代)
  • 魔法(古式のみ)
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