その芽は虫食まれている   作:ゴミ君

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花言葉は「お節介」「情熱」


『ルコウソウ』

「おっし、話は纏まったな?じゃ、早速行こうぜ!」

 

 しみったれた空気を払拭するように、魔理沙は立ち上がって出発を促した。居合せただけなのにどさくさで場を仕切ってるのはむかつくが、確かに異変はのんびりお茶をすすっていれば勝手に解決するものじゃない。怪しそうな場所に行って、手がかりを探らないといけない。

 そして、葉の話を聞くと、葉の故郷がそれはもう怪しい。

 

「そうね。じゃあとりあえず、紅魔館にでも行きましょうか」

 

「おう!……って、えぇ?ど、どうしてだ?」

 

「私も魔理沙も、植物のことなんてさっぱりでしょ。パチュリーに知恵を借りるのよ。あいつなら私たちよりは詳しいはずだし」

 

 葉は植物の妖怪で、植物の声を聞くことが出来ると言っていた。そんな彼女でも植物が元気を失った理由は分からないのに、植物について全く知らない私と、茸に詳しいだけの魔理沙とだけで葉の故郷に行ったところで、何も分からずに立ち往生するのが目に見えている。

 

 だったら、事前に知識の面で頼りになる人物に声をかけておいた方がいい。その人物に該当するのが、紅魔館の大図書館の主、パチュリー・ノーレッジというわけだ。

 

 

 それに、もうひとつ。

 

 なんだかんだ異変が起こる度に役立っている勘が、今回はまるで働かないのだ。もちろん、自分の勘が絶対だと考えてるわけではない。ないが、いつもならなんとなく怪しいと思う方向ぐらいは見当がつくのに、今回はそれすらない。あからさまに怪しい葉の故郷を知っているにも関わらず、だ。

 

 といっても、所詮は勘。わざわざ話す事でもないだろう。

 

 

 

「うーん…あっ。あいつに聞くのはどうだ?植物ならあいつが一番詳しいだろ」

 

 魔理沙はしばらくうんうんと唸ってから、今思いついたというのを隠そうともせずに、代案として別の人物に頼ろうと提案してきた。あいつ、というのが誰を指しているのかはすぐに分かった。というか、霊夢自身も、その人物に頼ることを少しだけ考えていた。

 

「あいつか……」

 

 幻想郷で、パチュリーよりも何かに詳しい人物というのは限られる。だが、その分野が植物であるなら話は変わる。

 

 花を愛でる。ただそれだけのために、飢えた妖怪がうろつく幻想郷の各地を放浪する妖怪がいる。あいつなら、植物に関して言えば間違いなくパチュリー以上に詳しいだろう。なんなら、葉の故郷で起きている異変についても既に何か知っているかもしれない。あいつはそう思わせる愛執を植物に向けている。

 

「パスで」

 

 だが、その意見を切って捨てた。

 

「何でだ?あいつなら目の色変えて解決しようとするだろ」

 

「まず、協力を求めるとして、あいつがどこにいるか分かるの?」

 

「んっ。あれだ、花がある場所に行けばいると思う、ぜ?」

 

「幻想郷全体じゃないの」

 

 バカみたいなフットワークの軽さに思わず溜め息が出る。あいつに帰る場所があるかは知らないが、常にあちこちに動き回るせいで今どこにいるのかも分かったもんじゃない。会いに行くには相当な時間と手間がかかるのが目に見えている。

 それなら、居所が割れているパチュリーに頼った方が確実に早い。図星を刺された顔の魔理沙に追撃を加える。

 

「それに、あいつのことだし、葉の故郷で起きてる異変にも気付いてて、解決のために色々調べてると思うわ。そんな時にのこのこ手を貸せって言われても、横槍にしか思われないんじゃないかしら」

 

「あぁー、確かにあいつならありうるぜ。最悪敵視されるかもなぁ」

 

 あいつは植物には優しい反面、人や妖怪には全然優しくない。会えたとしても相手にされない可能性が高いし、最悪邪魔に思われて戦う羽目になるかもしれない。そうなると本当にめんどくさい。幻想郷の住人の中でも屈指の実力者の一人のあいつと争えば、お互い無事に済まないのが目に見えている。ならば最初から関わらなければいい。触らぬ神に祟りなしだ。

 

「んー、それはそうだよなぁ。でも、紅魔館かぁ」

 

 魔理沙はあいつに頼ることは諦めたみたいだけど、妙にパチュリーに頼ること、というか紅魔館に行くことに抵抗があるようだった。あんまりにも嫌そうなので、なんとなく理由を聞いてみた。

 

「しょっちゅう入り浸ってるじゃない。今更頼み事をするのに困る事も……って、魔理沙。あんたひょっとして」

 

「うっ。……あぁ。つい先日にな?ちょっと気になる本を見かけたんで、その、手癖で」

 

「またなの……」

 

 白状してそっぽを向きながら口笛を吹く泥棒に白い目を向ける。忘れていた。魔理沙はしょっちゅう紅魔館に足を運んではいるけど、その用件と言ったら大図書館の本を借りる、もとい盗む事。

 そんなことを幾度も繰り返せばパチュリーやその使い魔の司書役に目の敵にされるのも当然のことで、今では立ち入ろうとしただけで紅魔館の住人のほぼ全員に襲い掛かられるそうだ。自業自得である。

 

「はぁ……だからそんなに嫌がってたのね。あんたと一緒に行ったら絶対手伝ってもらえないじゃない。私一人で行くにしたって、あんたと関わりがあると思われたら私まで目の敵にされそうだし」

 

「紅魔館以外に頼ればいいだろ!?阿求はどうだ!永琳とか紫とか、解決できそうなやつはたくさんいる!」

 

「あんたに合わせる意味がないわ。じゃあこうしましょう。私が紅魔館に行ってパチュリーに植物について調べてもらうように頼むから、あなたはその手土産ってことでお縄につきなさい」

 

「それは死んでもごめんだぜ!魔女に捕まったら生贄って相場が決まってるんだ」

 

「そう、じゃあ捻じ伏せたあとで手土産になってもらうしかないわね」

 

「お、やるのか?よーしいいぜ、やるからには全力で抵抗してやるぜ「あ、あの!」……ん?」

 

 

 

(ど、どうしよう!?)

 

 葉は、今の状況がよく分かっていなかった。事情の説明を終えて、異変解決のためのお話が始まったみたいだから黙ってお茶をすすっていたら、いつのまにか霊夢さんと魔理沙さんが不穏な雰囲気と威圧感を放っていた。

 

 このままじゃ霊夢さんのお家が戦場になる。そう思って咄嗟に会話に割り込んだけど、しっかりと話した相手なんてお姉ちゃんと植物と、家から少し歩いたところにいた木ぐらいだったせいで何を言えばいいか分かりようもない。

 

「葉、大丈夫よ。異変なんか、この泥棒をシメてパチュリーに押し付けたあとに、すぐ解決するから」

 

 かける言葉が思いつかないでオロオロしていると、何かを誤解したのか霊夢さんが優しい声をかけてくれた。さっきはその気遣いが本当に嬉しかったけど、今はその優しさを魔理沙さんに向けてあげてほしいと思ってしまう。

 

「魔理沙、表へ出なさい。葉と神社は巻き込みたくない」

 

「いいぜ。私だって客と人ん家に迷惑かける程落ちちゃいないからな」

 

「泥棒がよく言うわ」

 

 必死に言葉を探している間にも、口撃の応酬をしながら霊夢さんと魔理沙さんは外へ出ようとしている。このまま何もしないでいたら、霊夢さんは魔理沙さんを()()()()にするために戦いを始めるだろう。魔理沙さんの実力は分からないけど、博麗の巫女の霊夢さんは幻想郷でも相当強いらしいからぼろぼろにされちゃうかもしれない。

 

(それは止めないと!でもどうすればいいんでしょうか……?)

 

 力づくで止めようにも、葉は貧弱だ。自分でもそれは分かっているので絶対無理だと早々に思考を切り替えた。

 

(じゃあ、魔理沙さんの代わりになるアイデアを…!)

 

 そもそも、魔理沙さんを紅魔館という場所に行きたがらないのは、魔理沙さんが図書館から本を借りっぱなしにしていて、司書さんがそれに怒っているからだ。

 

 魔理沙さん曰く、司書さんは魔女で、捕まると何か恐ろしいことをされてしまうらしい。そんなリスクを背負ってもなお本を返そうとしないのは、恐らく本をたくさん借りてるからだろう。

 

「魔理沙さん!!!」

 

 その発想に至った時点で、葉は魔理沙の背中に向けて叫んだ。

 

「ん、なんだ、心配してくれるのか?安心しろ、私はこれでも「本を返しましょう!」……は?」

 

 熱の篭った葉の声に、魔理沙は自分の身を案じたのかと振り向いたが、予想とは全く異なる二の句に思わず硬直する。それに構わず、葉は行かせてなるものかとたたみ掛ける。

 

「返すのが億劫なのは分かりますっ。でも、借りたものはちゃんと返さないと、誰も魔理沙さんにものを貸してくれなくなっちゃうと思うんです!」

 

(もう遅いわね)

 

 一息に言い切る葉に、霊夢は心の中で突っ込む。事実、借りられないならと言わんばかりに盗みを繰り返した挙句、いつ本を返すのかと聞かれたときに死んだら返すとほざいた魔理沙への信用は既に地底まで落ちている。

 

「いやぁ。たくさん借りてるし、どこにやったかも覚えてないからなぁ。全部を見つけるのは、私ひとりじゃ無理だぜ」

 

 そして、今回も一切悪びれずに葉の忠告を受け流した。一切の迷いのない後ろ向きな返事に葉が戸惑っているのを尻目に、話は終わったとばかりに魔理沙は再び出口に向かおうとする。

 

「そ、それなら本探しを手伝います!私、こう見えてももの探しには自信があるんですよ!」

 

「えっ!?」

 

 だが、外に出る寸前に発せられた言葉に、魔理沙は思わず葉の方を振り向いた。今まで魔理沙に本を返したほうがいいと言う人たちはみんな口を出すだけで、手伝うと言われたのが初めてだったから感動した……というわけではない。

 

「えぇーっと……葉は目が見えないんだよな?手伝うって言っても、その、どうするんだ?」

 

 葉は目が見えない。それは、目に包帯を巻く彼女を見れば誰もが分かる。どうするのかとおずおず魔理沙が尋ねるのに、葉はこう答えた。

 

「確かに私は何も見る事は出来ません。その代わりに、植物が失くなった物の場所を教えてくれます」

 

「ああ、植物の声が聞こえるってやつね」

 

 葉の言葉に霊夢が相槌を打った。たとえば、森の中に物を落としてしまえば、それを運良く見付けるのはもはや不可能と言っていい。しかし、葉が森の植物に落とし物がないかと聞けば、該当する地点を教えてくれるのだ。

 当然、森での落とし物は一件や二件では済まないが、落とし物という曖昧な条件でなく、品物の特徴まで話せば絞り込みまでしてくれるそうだ。

 

「ここに着くまでに、何度か人里の宿を借りたんです。そこで失くし物を探したりしたら、お礼だって言ってお金をくれました」

 

 葉の言葉に、高額な賽銭の源はそれだったのかと霊夢は納得した。物探しのお礼にしてはやけに多かった気もするが、大方金持ちの大事な物を見つけたりしたんだろう。自分の中でそうまとめた霊夢を他所に、魔理沙は思案げな顔を上げて口を開いた。

 

「その能力は便利そうだけど、家の中でも使えるのか?私でもさすがに本を外に放り出したりはしないぜ?」

 

「それは……分からないです。この葉っぱが目の代わりになってくれますが、家の中に観葉植物も鉢植えもないとなると……」

 

 指をさされた帽子の飾り葉を見て、てっきりそれが作り物だと思っていた霊夢は内心で驚いた。同時に、何故目が見えないはずの葉が、迷わずに歩いたり、湯のみを手に取ったり出来ていたのかも理解した。

 

 葉は自分達と話しながら、同時に植物の声を聞いて視覚を補っているのだ。境内では芝やら雑草やら木やらが、居間では帽子の飾り葉や紫の置いて行った盆栽が、人知れず彼女の手助けをしていたのだ。植物が必要というのも、そこに植物が無ければその場所について聞けないからだろう。

 

「第一、自分で言うのもなんだが、私が住んでる森は危ないぜ?ヤバい胞子とか野良妖怪とか出るぞ?」

 

「胞子はへっちゃらです。妖怪は……なんとか頑張ります!」

 

「頑張るってお前……まぁいいか。それで、私の家には鉢植えも何も無いぜ?代わりと言っちゃなんだが……実験用のキノコならあるけどどうだ?」

 

 忠告に対する返事に魔理沙は微妙に不安になったが、忠告はしたと諦め、能力の応用が出来るか尋ねてみた。魔理沙の提案に葉は難しい顔になり、うーんと唸ってからこう言った。

 

「キノコさんと話した事はないですね。もしかしたら話せるかもしれないですが……自信はそんなにないです」

 

「苔はどう?どうせろくに掃除もしていないだろうから、多少は生えてると思うけど」

 

 明らかに失敗しそうな雰囲気に二人で頭を悩ませているところに、霊夢が口を挟んだ。あまりにもあんまりな発言に魔理沙はツッコミを入れようとしたが、それより早く葉が反応を見せた。

 

「あっ、苔さんとは話せますよ!少ししか生えていなくても、植物は人をよく見てるから大丈夫だと思います!」

 

「なら大丈夫ね」

 

「おいおい、まるで私がものぐさみたいに言ってくれるじゃないか。私だってたまには掃除くらいするぜ」

 

「じゃあ、最後に掃除したのはいつか覚えてるの?」

 

 苔なら行けると希望を見出した葉を尻目に、言外に苔が生えるぐらい掃除をサボってるとからかわれた魔理沙は失礼だと抗議したが、霊夢の問いに言い返せずぐぬっと返答に詰まる。霊夢はそれで議論を打ち切ると、葉に声をかけた。

 

「結局、魔法の森に行くってことでいいのよね?私もついていくわ。魔理沙だけだと不安だしね」

 

「いいんですか!?ありがとうございます!」

 

「私はまだ返すって決めたわけじゃ……いや、ついてくるのはいいけど、足手まといになるなよー?」

 

「誰にものを言ってんのよ。さ、行き先も決まったんだから、さっさと出発するわよ」




幻想コソコソ噂話
残ってる話があと2話しかない
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