その芽は虫食まれている   作:ゴミ君

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花言葉は「油断大敵」「信用は大切に」


『キョウチクトウ』

 魔法の森への道中は、葉に販売用の魔除けの札を持たせ、念押しに周囲を強く威圧したおかげで、妖怪の気配こそ絶えなかったが一度の襲撃もない平和なものだった。札を渡したときに申し訳なさそうな顔をされたが、札を何十枚買ってもお釣りが出る量のお賽銭を投じられている身としては、むしろ霊夢の方が申し訳ない思いでいっぱいだった。

 

 強いて話題を挙げるなら、出発前に葉が杖を置いて行ったことだろうか。植物を介した疑似的な視界を持ち、足を悪くしているわけでもない彼女に杖は必要なかった。神社へ向かう途中に出会った女性がくれた物だそうだが、やはり不要だという事で神社に預けてある。また会えたら返しておきますと鼻息荒く言っていたのがやけに印象深い。

 

閑話休題。

 

「見えてきたわね。もうすぐ着くわよ」

 

「おー、やっとか。いつもは歩かないからなんか新鮮だったぜ」

 

「す、すみません。私のせいで歩くことになってしまって」

 

 葉の謝罪を軽く流す。初めは空を飛んで行こうとしていたが、葉が空を飛べず、試しに抱きかかえて飛んでみるとパニックを起こしてしまったので徒歩に切り替えた。飛んだ方が早いのは間違いないが、歩きでも多少時間がかかるだけで着くのに変わりはない。どの道、森の中では歩かざるをえないのだ。

 

「とうっちゃく!ここが魔法の森、私の隠れ家だ!」

 

「おぉ~」

 

「何言ってんのよ」

 

「へへ、一度言ってみたかったんだ」

 

 先人が作った道の前で立ち話。客がいないとはいえ、一応店を構えておいて隠れ家とはよく言ったものだ。葉にそれっぽい事を吹き込んでいる魔理沙には呆れるが、葉の休憩に丁度いいのでそのまま放っておいた。最初よりも口数が減っているし、息も上がっている。高揚感やらで自覚していないようだけど、疲れを残して森へ入るのは危険だ。

 

 魔理沙も気付いているようで、イキイキと語りながらさりげなく低く浮かせた箒に腰掛け、葉にも隣に座るよう促している。自分も威圧のために気を張り続けて気疲れしてるし、そこそこの長歩きで疲れた足もついでに休ませてしまおう。

 

 

「えっ?」

 

「ん、どした?」

 

 そう考えて、よく舌の回る魔理沙の語り口に、思わず耳を傾けてしまったせいだろう。

 

「ーーー!」

 

 一瞬。ほんの一瞬、反応が遅れてしまった。

 

「っ魔理沙!」

 

 鼓膜を震わせる金切り音に反射して注意を喚起すると同時に、妖怪がガサガサと茂みをかき分ける勢いのまま飛び出してきた。

 

 見たままに言い表すなら、口から太いツルのような触手を何本もうねらせる苔むした壺。その妖怪は霊夢に意識を一切向けず、魔理沙達の方を目掛けて突撃していた。

 

「任せろ!」

 

 それに対して、魔理沙の反応は鮮やかだった。勢いよく立ち上がり、同時に箒を急発進させる。不意に高速を体験させられた葉の叫び声が遠ざかっていくのを尻目に、魔理沙は眼前に迫る壺妖怪と対峙した。

 

 結論を言ってしまうと、なんの苦も無く一瞬で迎撃は終わった。愚直な突進をさっとかわし、背に一発レーザーをお見舞いする。それだけで、壺妖怪は見るも無残に砕け散った。破片が辺りに撒き散らされ、飛び散った触手がびたんびたんと跳ねて無駄にグロい。

 

「ふう、急に来るもんだから驚いたぜ。あいつらも賢くなったんだな」

 

「のんきに言ってる暇じゃないわよ、早く葉を拾いに行くわよ!」

 

 後続が来ないのを確認すると、魔理沙は肩の力を抜いて構えを解いた。住んでいる場所なので当然の話だが、魔理沙は今しがた襲ってきた妖怪を知っている。知っているどころか何度も何度も狩っているし、原形を残したまま触手をもぎ取り、薬の材料にしてやった事もある。言っちゃ悪いがザコだ。

 

 ()()()()が来ないのを見計らい、飛ばした箒と葉を回収しに行く。避難させた先に妖怪がいないとも限らなかったが、魔除けの札が効いたのか葉の周囲に妖怪の気配はなかった。箒は茂みに刺さり、葉は地面に転がされてはいるが幸いにもケガはなく、葉がケガをしていたら承知しないと修羅の形相を向けていた霊夢も葉を助け起こしに向かった。

 

「あ、ありがとうございます、助かりました……」

 

「うんにゃ、油断してたせいで荒っぽく飛ばして悪かった。次からは優しく飛ばすぜ」

 

「そもそも飛ばすんじゃないわよ……葉、大丈夫?痛いところはない?」

 

「はい。こう見えて結構丈夫なんですよ!……あの。魔理沙さん」

 

「ん、なんだ?」

 

 霊夢の助けを借りて起き上がった葉は、どこか逡巡した様子を見せた後、意を決したように魔理沙に問いかけた。

 

「同じ妖怪同士だからでしょうか。あの妖怪が叫んだとき、何を言ったのかが伝わってきたんです」

 

「おお、あいつら喋れたんだな。それで、なんて言ってたんだ?」

 

「えぇっと……ま」

 

「ま?」

 

「ま、ま……魔理沙さんが、嫌いだそう、です」

 

 葉の恐る恐るといった態度とは逆に、魔理沙の反応は淡白なものだった。

 

「あー……まぁ、だろうな」

 

「ねぇ、襲ってきたのもアンタが原因じゃないの」

 

「うっ」

 

 霊夢の詰りに魔理沙は思わず言葉が詰まった。そもそも、最初はあの壺妖怪たちは襲ってこなかった。人間に友好的というわけでもないが、壺妖怪の側を通っても無視され、外界からの刺激にのみ反応する、まさに植物のような妖怪だったのだ。

 

 それに味を占めた白黒魔法使いが乱獲したところ、初めは逃げるのみだったが徐々に反撃をするようになり、いつしか見境なく人間を襲う普通の妖怪に成り果ててしまったのだ。

 

 要は、魔理沙のせいである。

 

「よぅし!さっさと本を取りに行こうぜ!」

 

 魔理沙はゴリ押すことに決めた。責めるような霊夢の空気と、不思議そうな葉の視線(見えてはいない)に耐え切れなかった。から元気に肩で風を切って進む魔理沙に霊夢はすっかり呆れ果て、葉は状況を理解出来ずに首を傾げている。

 

(やっぱり魔理沙は置いて行った方がよかったんじゃないかしら)

 

 今更そんなことを思ってしまう霊夢だった。




「人を襲う壺」
魔法の森に出現する道中敵。攻撃手段が通常攻撃のみで、各能力も低い戦闘チュートリアル用キャラ。最初はこちらも通常攻撃しか出来ないので条件は同じと言える。
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