本郷猛のがっこうぐらし!   作:日高昆布

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待ってる人がいるか定かではありませんが、大変長らくお待たせしました(小声)
ちまちまちまちま書いてる間に色々ありましたね。ゼロワンのVシネで呆然となったり、オーズの新作に小躍りしたり。
なにはともあれ、最新話です。感想・批評よろしくお願いします!


その12

 話は慈達が大学に身を寄せる事となった当日へと戻る。

 心身の疲労が限界を超えていた一行は、車内で食事を摂り終えると、意思とは無関係に気絶するように眠りについていた。慈だけは何とか意識を保ち、琴美と情報共有を行なっていた。

 

「やっぱりそちらも大勢の犠牲者が出たんですね……」

 

「普通の奴らだけなら大丈夫だったんだけどな。よりによって校舎内の討ち漏らしが、佐倉さんの言う変異体になったのがマズかったし、見縊ってたってのもマズかったし、中途半端な警戒心で大人数で討伐に向かったのもマズかった。それで肉体労働の要の男がほぼ全滅したし、バリケードを突破されたせいで待機してた方にも大きな被害が出た」

 

「その変異体はどうなったんですか?」

 

 ああ、それなら、とゴスロリ衣装の女性──桐谷燈子──が答える。

 

「理由は分からないが撤退したよ。討伐組に手傷を負わされていたのか、はたまた別の要因かは定かではないがね。で、その後本郷氏が倒したよ。食料調達の時に戦闘中の彼に遭遇して、そのまま同行して、この目でしかと見たからね。しかし、あの変異体より強い個体がいるって言うのは、ゾッとしない話だね」

 

「……」

 

 その言葉を聞いて琴美は何かを考え込むように黙り込んだ。より強力な変異体への警戒心や恐怖心によるものではない事は表情を見れば分かる。少なくともポジティブな考え事でない事は確かだが、その奇妙な反応に燈子と慈は目を合わせ首を傾げる。

 高校生の頃に猛の戦いを目撃している彼女は、より強力な変異体を含め彼の強さを超えているとはどうしても思えなかった。憧憬や信頼による贔屓目がないとは言えないが、苦戦を強いられる理由があるのでは、と考える。もしかすれば心身の不調などがあるのかもしれない。

 

「琴美。何を考え込んでるのかは知らないが、壁に寄ってるよ」

 

「おっと悪い」

 

 根拠のない予想で不安を煽るつもりのない琴美は、それは自分の胸の中に留めておく事にした。また燈子も彼女の様子から言うつもりのない事を察し、それを聞き出そうとは思わなかった。

 

「そうだ。我らの拠点に到着する前にメンバーについてある程度話しておくよ。まずはリーダーの菊間琴美。1人目の副リーダー出口桐子、もう1人が青襲椎子。後は追々でいいけど、1人だけ要注意人物がいる。神持朱夏。彼女は、まあ一言で言ってしまえば精神崩壊を起こしてしまってる。変異体の待機組襲撃後にそうなってる所を発見された。外傷はなかったけど、殺戮の現場を見てしまったのであればそれも仕方のない事ではあるね。害はないように見えるけど、専門家なんていないからね。無闇に近づかないようにね」

 

 彼女らに拾われなければ、自分達もそうなっていたかもしれない。それだけ本郷猛と言う存在に依存していたと言う証だ。その彼が安否不明な今、皆を支えられるのは自分だけだ。大人として教師として、折れる訳にはいかない。

 

「さあ拠点、と言うには些か以上にみずぼらしいが、我らの拠点にようこそ」

 

 ・

 

「菊間」

 

 城下を説教していた琴美に、外に偵察に出ていた3人組のリーダーが声を掛けた。

 

「頭護。高上と右原も無事で何よりだ。で、外はどうだった?」

 

 多くはないが、リュックサックから食料品を取り出した。お、と琴美が声を上げるが、当の本人達の表情はどうにも暗いものだった。彼女がそれを尋ねる前に頭護が口を重たげに開いた。

 

「通常個体の数が明らかに少なくなってる。変異体による攻撃の可能性もなくはないが、それらしき血痕は見当たらなかった。考えられる可能性としては、どこかに集団で移動したか」

 

「もしくは変異体になったか」

 

「青襲……」

 

 そんな事は露とも考えていなかったのか、高上と右原が表情をギョッと強張らせた。考えすぎだ、と言いたいが、楽観がどれだけ危険な行為であるかを身をもって承知している彼らは何も言えなかった。そしてその可能性を頭護が補強する。

 

「その可能性は大いにある。2日前に確認してた、ここから最も近い地点にいた奴が、今日の偵察の終点以降まで行くには移動速度を鑑みれば時間が足りない。移動速度だけが上がったと言う可能性もない訳ではないが、変異体になったと仮定した方がいいだろう」

 

「でもよ、一度はあんなに腐敗したってのに、どうやって元に戻るどころか進化しちまうんだよ」

 

 疑問は至極真っ当なものである。真面な常識を持っている者であれば、変異体は理解できない存在だ。損傷部位の治療だけならば百歩譲り納得はできるが、本来存在しなかった器官や部位が発生するとなれば理解も納得もできなくなる。

 

「それなんだがね」

 

 と些か勿体ぶった言い方で青襲が話を引き継いだ。皆の視線を集めるが、特に臆した様子もなく話し始めた。

 

「皆に回収してもらった奴らの死体を何体も調べて漸く見付けたんだけどね、血液の中に何か(・・)があった」

 

「何かってのは……」

 

「残念ながら正体までは分からなかった。ただ少なくとも、人が元来持っているものではない。ナノサイズの何か、としか今のところは分からない」

 

「正体不明のウィルスって事か」

 

「いやウィルスではないかもしれない。少なくとも今回見付けたそれには、ウィルスの特徴がなかった。だからナノサイズの何か、としか言えないの」

 

「何だそりゃ。SF御用達のナノマシンてか」

 

 茶化した言い方だが、顔は引き攣っていた。そしてそれに反論しない彼女の様子に焦りを見せる。

 

「お、おい冗談だよな」

 

「君もさっき言ってただろう。一度腐敗したはずの体がどうやったら進化するんだ、と。二段階の変異を起こすウィルスよりは、プログラムされたナノマシンの方が余程真実味があるよ」

 

「か、仮にそんなもんが実際にあるなら、何で誰も知らないんだよ?!」

 

 敵意があって食い下がっているのではない。もしそれが本当ならばこのパンデミックは、事故や災害ではなく、人の悪意によって起こされたものになってしまうからだ。頭を過ったそれを否定したくて、自分より頭の良い青襲に否定して欲しいのだ。

 

「隠す理由なんて考えればいくらでもある。開発理由が平和目的ではない、とか」

 

「……」

 

「どこならそんな物を開発できる」

 

 言葉を失った城下の代わりに頭護が尋ねた。口調こそ平静ではあるものの、顔色は決して良くはなかった。

 

「さて。私程度では予算と人員を費やせば良いのか全く想像が付かない。付かないが……ランダルなら出来てしまうのでは、と思う」

 

 何故、とは誰も根拠を尋ねなかった。製薬会社の膝下で起きたパンデミック。状況証拠すらない。しかしそれでも、無関係だと言い切る事ができない事も事実である。そしてそれを確かめる術はない。

 

「そう言えば」

 

 重苦しい沈黙の中で口を開いた慈に視線が集まる。

 

「私たちの学校に来たヘリコプター。あれを調べれば、何処から来たのか分かりませんか。それに出発した機体が戻って来ないって結構な大事だと思いますし、もしかしたら誰かと接触できるかもしれませんし。あと、回収できる物資もあるかもしれません」

 

「どうする学長」

 

 頭護に判断を仰がれた琴美は瞠目し考え込む。

 

「よし行こう」

 

「マジかよ?!」

 

「マジだよ。これだけ待っても政府からの発表は何もなし。だったら私らで解決するぐらいの気概を持たなきゃ状況は悪くなる一方だ。それに先生に渡せる情報は少しでも多い方が良い。よしすぐに人員決めするぞ」

 

 琴美は猛の生存を信じて疑わない。彼を知らない者からすれば、彼女のそれは盲信のようにも映るし、そもそも存在自体を信じられない者さえいる。しかし一方で彼が生存への一縷の希望となり得ると言う事も理解している。だから、彼女の決定に違を唱える者はいなかった。

 

「琴美は先生が本当に好きなようだねえ」

 

 茶化す者はいたが。

 

「悪いかよ。先生は大恩人なんだよ」

 

 ストレートな物言いに、さしもの燈子も呻き声しか返せなかった。琴美がどのような形で猛と出会い、絆を深めたのかは誰も知らないため、彼女がそこまで入れ込んでいる事に皆も驚いていた。

 一方の高校生組は意外な恋バナの予感に年相応の姦しさでコソコソと話し込んでいた。歳の近い教師からのアプローチに全く答えなかった彼が、成熟した嘗ての教え子に想いを告げられたどんな反応をするのだろうか、と各々の妄想を披露していた。

 キャイキャイと楽しそうに猛の事を話す彼女らの様子を見て、琴美は慕われている事に安堵した。

 

 

 

 ・

 

 

 

「学長を疑ってた訳ではないが、実際に目にすると言葉を失うな」

 

 頭護が言うように、巡ヶ丘学園の正門付近の惨状は、初めて目にする者に小さくない衝撃を与えていた。大量の変異体の死体。乾き、黒くなった血痕。陥没した地面、抉れた壁、大穴の開いた校舎。あらゆるものが、そこで死闘が繰り広げられた事を示している。

 そんな中、青襲だけは恐れる事なく淡々と死体から肉片を採取していた。

 流石にこの惨状で探索しようとする猛者はいなかったようで、校舎内が物色された様子はなかった。だからと言って完全な安全が確保されている訳ではなく、長居の必要はない。一直線にヘリの残骸まで向かう。

 近づくと、僅かに異臭が漂っていた。念のために口と鼻を湿らせた布で覆い、壁が崩れ一部屋となった嘗ての生徒会室と準備室に入る。天井、床、壁の全てが黒く変色し、そこから漂う異臭が火災の規模の大きさを物語っていた。そんな惨状の中にあって尚異彩を放つ、火元のヘリコプター。

 ビニールを近付け、高温でない事を確認するとサイドハッチから内部に入る。目当ての物はすぐに見付かった。ジェラルミンケースだ。無事とは言い難いが、内部に達している破損はなく、成果に期待できた。しかし簡単には開かず、男衆が力づくでこじ開けようと奮闘している間、慈らは使える物資が残っていないかを確認していた。

 絶望的な状況でありながらも、皆の心の拠り所になっていた場所。炎と共に全てが消え去ってしまったそこは、既視感を覚えつつも悲しみを抱かせた。生徒達をここに連れて来なくて正解だった、と慈は思った。

 

「猛、先生はどんな先生だった?」

 

 慈の心理状態を鑑みたのか、琴美は努めて明るく話しかけた。

 

「……本当にどんな生徒にも分け隔てなく接してました。だから由紀ちゃんも凄く懐いてて。それにやんちゃな生徒にも、全く怯まず接してました。先生の経験を考えると、やんちゃな生徒なんて可愛いだけだったんでしょうね。後スポーツも万能だったので、先生なのに運動部にしょっちゅう助っ人要請されてましたよ。だから女子生徒からの人気も凄くて。先生と歳が近いからなのか、良く恋愛相談を受けましたよ。卒業してから、って何度説得した事か」

 

「アタシの母校じゃ舐められっぱなしだったからなぁ。ここで教師やれて楽しかっただろうな。アタシもしっかり猛に教えてもらいたかったな。……アタシさ、先生に憧れたから同じ教師になろうと思ってるんだよね。世界が元に戻ったら、成長した姿を見てもらいたいな」

 

「琴美さんなら、私よりずっと早く生徒に信頼されますよ」

 

「おーい、やっと開いたぞ!」

 

 護頭の疲弊を滲ませた声。ケースを取り囲むように皆が陣取る。固唾を呑み見守る中、軋み音を上げながらケースが開かれた。

 

「これは……!」

 

 真っ先に飛び込んだのは、拳銃だった。凡その人間が生涯を通じて触れる事は疎か、見る事さえないであろう代物。一番上に鎮座しており、どかさなければ下の物を確認できないのだが、誰もそれに手を伸ばせずにいた。

 奇妙な静寂。しかしそれ故に、すぐそこにまで迫っていた足音に気が付いた。咄嗟の判断だった。琴美は握り方さえ分からない拳銃を持ち、廊下へと向けたのだ。野盗か、奴らか。

 震える指がトリガーに掛けられようとした瞬間

 

「敵じゃない! 撃たないでくれ!」

 

 そう言って手を上げながら1組の男女が姿を現した。綺麗なスーツ(・・・・・・)を身に纏った闖入者は、皆に動揺と安堵を与えた。

 

「我々はランダルコーポレーションの者です」

 

 そしてその言葉は皆に強い危機感と警戒心を与えた。

 

「この学校の生徒か教員の方はいませんか?」

 

 少しでも警戒を解かせるためか、女性が話し続ける。

 

「本郷猛と言う人物を知りませんか」

 

「……その人が何だって言うんだ」

 

 敵愾心を抑えきれていない琴美が唸るように言う。

 幸か不幸か、女性はそれに気付いていない。それどころか、真面な返答を貰えたからなのか、捲し立てるように言葉を紡ぎ出す。

 

「彼がこのパンデミックを引き起こしている存在を打倒し得る、唯一の存在なのです! ご存知ないですか?!」

 

「ちょっと待ちたまえ。その言い方では、まるで黒幕がいるようじゃないか」

 

 青襲により挟まれた指摘に、女性は言葉を詰まらせた。

 

「……そうです。この事態を意図して起こした存在がいるのです。それが我々が呼び起こしてしまったイワン・タワノビッチ。『死神博士』と呼ばれる悪魔なのです」

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