本郷猛のがっこうぐらし!   作:日高昆布

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お陰様で一瞬だけですが、ルーキーランキングに乗る事が出来ました!

もっと評価してもらえる様な話を作っていきますので、これからもよろしくお願いします!


その4

 自炊ができない事が幸いし、茶箪笥の中には大量の缶詰めと瓶詰めの食料があった。と言うより生物は一切なく、乾麺やレトルトと言った即席のものしかなかった。悠里に野菜もきちんと摂らないと、と、瑠璃からは好き嫌いはダメだよ、と小言を貰ってしまう。意外な短所に皆笑っていた。出来合いで済ましている慈は自分に飛び火しないようにとじっと壁の染みになっていた。

 家の中にあった食料の一切合切と布団や生活雑貨を持ち出し、車に詰め込む。

 その途中、シートに包まれた滅多に乗らなくなったかつての愛車に視線が向く。置いていく事への嘆惜ではない。もし今後機動力のある敵が出た際の事を考えてだ。しかし音の事を考えると、少なくともこの場で並走すれば彼女らを危険に晒す事になる。そのタイミングがあるかは分からないが、別の機会にするしかないだろう。

 皆がシートベルトをした事を確認すると、ゆっくりと発進させた。

 

 ・

 

 道中でのトラブルはなく、恙無く学校に到着した。問題は校舎内である。もしかしたら、アレ(・・)がいるかもしれない。安全が確保出来ていない状況で連れて歩く事は出来ない。

 

「そう言えばそのズボンとブーツってライダースーツ?」

 

「昔使っていた戦闘服です。耐久性は折り紙付きですから、引っ張り出して来たんですよ」

 

 外見は貴依が言った通り、ライダースーツにしか見えない。しかしショッカーの技術により作られたスーツは、非常に軽く、高い伸縮性を持ちながら凡ゆる衝撃への高い耐性を持っている。通常個体の奴らでは文字通りが歯が立たない。

 

「私が先に見て来ます。皆さんは車内で待ってて下さい。いざとなったら動かせるようにしておいて下さい」

 

 車を降り慈に言う。頼りきりになってしまう事に心苦しさを感じるが、それの解消のために我が儘を言う者はいない。

 

「気をつけて下さい」

 

 代わりに安全を祈る。

 

「通常個体の姿が見えますから、たぶん校舎内にアレはいないと思います」

 

 そう言い残し、欠片程の緊張も見せずに何ら変わりない足取りで入って行く。

 

 ・

 

 30分程経っただろうか。猛が姿を表した。走り寄ってくる彼の姿に、無傷である事に皆安堵する。

 

「もう大丈夫です。校舎内は安全です」

 

 車までの移動時間の短縮と簡易的なバリケードを兼ね、入り口の前に車を横付けする。

 荷物を持ち、生徒会室へ向かう。道中の安全が完全に確保された事で、貴恵は辺りを見回す余裕が出来てしまった。あちらこちらに破壊と血の痕跡が見て取れる。それが悲しいのではない。それを見ても然程動揺しなくなっている事が、少しだけ悲しかったのだ。確かにここで自分は他愛のない日常を謳歌していたはずなのに。それがもう随分と昔のように思えてしまう。

 

 ・

 

 生徒会室に辿り着いた一行は、一息だけ吐くとすぐに動き始めた。1階の玄関や窓のほぼ全てが破壊されている以上、奴らの侵入を防ぐ事は不可能だ。そのため3階への侵入を防ぐ事を防ぐためには堅牢なバリケードを築く必要があった。教室から机を持ち出し、園芸用の針金と購買部から持って来たガムテープで固定。更にそれを同様の方法で窓枠に固定。

 それが終わると、次は悠里を中心に手持ちの食糧の把握。猛の家と購買部で調達した分を加えれば、そこそこの量にはなった。しかし当然長期間の籠城が可能な程ではない。余裕のあるタイミングで外に調達に向かわなければならないだろう。今のうちに目星をつけておく必要があった。ただ幸いな事に電気と水は学校の設備のおかげで目処が立っている。この2つが確保されている事は非常に大きなアドバンテージである。

 主婦顔負けの手際を見せる悠里。満場一致で家計簿係に任命される。また瑠璃から家事全般に精通していると言う申告もあり、彼女を中心に日々の家事を行っていく事になった。年下の女子生徒が見せた圧倒的な家庭力に、慈は戦慄し、またしても壁の染みと一体化を図っていた。

 次に生活雑貨の把握。どれだけの期間籠城するか分からない現状、食料の摂取と同様に大切な事が清潔さの維持である。衣服用の洗剤、替の衣服、洗髪や洗身用の洗剤。購買部にあったのは衣服用の洗剤と替の衣服と石鹸。下着類とシャンプーはなかったが、それ以上に問題であったのが瑠璃が着衣できる物がなかった事だ。アウターは最小サイズを裾上げなどで対応できるが、下着はそうはいかない。

 生活基盤をある程度整えてから、と考えていたが早急に外部への調達が必要になった。とは言え無計画と言う訳にはいかない。特に場所の選定には時間を要する。変異個体の存在が確認されている今、最悪の事態を想定した移動計画を立てなければならない。猛が敗北、もしくは死亡した際の逃走経路と逃走先の確保である。

 

「負けるつもりは毛頭ありませんが、変異個体があのまま(・・・・)でいるとは限りませんから」

 

「どういう事です?」

 

「更なる変化、もしくは進化する可能性があると言う事です」

 

 アレが更に強くなる。それ以上の存在と戦い続けた猛でなければ考えもしなかった事。しかしそれを妄想と切って捨てる事ができるはずはない。

 

「この事態に、その、ショッカーが関わってる可能性はあるんでしょうか」

 

「こうなってしまった以上、残党の可能性は否定できません。ただ、奴らがやるにしてはその目的から乖離しすぎてるんです。奴らの目的は世界の支配ですから。それに通常個体にしろ変異種にしろ、ショッカーが創り出すにはあまりにレベルが低いんです」

 

 人生を狂わされ、そして長きに渡り戦い続けた猛だからこそ出来るショッカーと言う組織への理解。7年前ですら自分のような存在を生み出せる組織が今更制御も出来ない兵器を作る訳がない。逆に言えば、ショッカーの持つ技術ならばこの事態を引き起こせると言う事でもある。

 

「話を戻しましょう。後は生徒の皆さんにも、生活必需品以外で欲しい物がないかを確認しましょう。もしかしたらそれが必需品の可能性もありますし」

 

「そうですね。紙に起こしておきます。終わったら呼んできますね」

 

 ・

 

 一方の生徒達は猛の指示で慣れない裁縫作業をしていた。要らない布を幾重にも重ねた、簡易的なプロテクターを作っているのだ。僅かな傷が致命傷となってしまう以上、肌の露出は可能な限り少なくしなければならない。特に噛みつかれる可能性が最も高い椀部に関しては肩から指先までを覆ってほしいのが本音であるが、可動域と防御性能を両立は難しかった。そのため関節を除いた前腕部と上腕部、大腿部と下腿部を完全に覆うプロテクターを作る事にした。

 個々人でサイズが異なる事や、重ねる毎に大きくなる布の調整など求められる技術力が高く、作業は順調とはいかなかった。上手くいかない事や、難しすぎる事に不平不満を口にしているが、自分達を思っての指示と言う事は分かっており、所謂息抜きの愚痴であった。

 丁度小休止をしているタイミングで慈が声を掛け、生徒会室に入ってくる。

 

「みんな、ちょっといいかしら」

 

「あ、裁縫が出来なさそうなめぐねえだ」

 

 入室早々に貴依の茶化しが飛んでくる。

 

「めぐねえバカにするなよ。雑巾くらいは縫えるだろ」

 

 胡桃のフォローのようでいて、ただの追撃が飛んでくる。

 年上で教員、しかも世界が崩壊するような状況になっているのに、何故か一向に改善する兆しのない自分への対応。確かに猛と比較すると、少し、いやかなり、いや比較できない程に活躍に差があるが、同じ教員なんだから少しは敬意を持ってくれても、と胸の内でシクシクと涙を流す。

 

「ぼ、ボタンつけぐらい出来るからっ」

 

「五十歩五十歩って言うんだっけ」

 

「五十歩百歩よ」

 

 味方と思っていた由紀に背後から止めを刺される。

 

「お、オホン! 瑠璃ちゃんの着替えの事も含めて、近い内にどこかに買い出しに行こうって本郷先生と話してたの。そこでみんなに、ここに書いてある物以外で欲しいものがあるかを聞きたいの」

 

 差し出されたA4の裏紙に視線を落とす。下着類や生理用品も記載されており、猛が同席していない理由が分かった。

 黙読し終え、各々が考え込む。

 初めに挙手したのは悠里だった。

 

「るーちゃん用の勉強道具が欲しいです。こんな状況だからこそ、疎かにしちゃいけないと思うので」

 

「そうね。その通りね。と言うより、皆もそうね。教えられるのは現国と生物だけになっちゃうけど」

 

「はい! 勉強が大事ならそれと同じくらい娯楽も大事だと思う!」

 

 と由紀が力強く言う。含むところを感じないでもないが、内容自体は至極真っ当な事だ。ストレスを溜める事にメリットは何一つない。病は気からと言うし、コミュニティの崩壊に繋がる可能性だってある。

 

「となると、本とかボードゲームがいいかしら」

 

 電力の確保ができるているとは言え、ゲームに興じれる程潤沢にある訳ではない。生徒もその事は重々承知しているため、慈の提案に異論はなかった。

 

「甘味も欲しいかな」

 

「運動器具が欲しい」

 

「そう言うのでもいいなら、料理本も欲しいかしら」

 

 と矢継ぎはやに出る生徒達の意見をふむふむと頷きながらメモる慈。その遣り取りを見ていた瑠璃が控え目に手を挙げた。

 

「お兄ちゃんはいいのかな」

 

 何気ない一言。しかし自分達が彼に甘えていたのだと自覚させる痛烈な一言だった。女性への気遣いがあった事は確かだが、それをよしとして何も聞かないのはあまりに不義理過ぎる。少しはしゃぎ過ぎていた事と、それを戒める事ができていなかった事に羞恥を覚える。

 

「……本郷先生も呼んできますね」

 

 ・

 

 リバーシティ・トロン。ここで揃わない物はないと言われる程のテナント数を誇る大型の商業施設だ。少々距離はあるが、車であればそう時間は掛からず、道中の障害物も猛がいれば問題ない。明日に向かうと言う事で満場一致になった。

 そして再開するプロテクター作り。明日に間に合わせるため、汗と血を染み込ませ、慈と猛も動員し急ピッチで進められていく。夕方になり、ようやく猛を除いた全員分が完成。燃え尽きたように机に突っ伏している者、天井を仰ぎ見る者、肩凝りに唸る者。

 

「皆さんお疲れ様です」

 

 唯一元気な猛が皆を労う。

 

「センセ〜少しで良いから肩揉んで〜」

 

 と強請る胡桃。歳が大きく離れているとは言え女性。断ろうと思ったが、しつこく粘られ、折れる。

 断りを入れ、肩に触れる。軽く押し、強張っている箇所を探し、力を込める。

 

「お」

 

 改造された当初こそ力の制御ができず物を壊す事があったが、今では指1本単位で強弱を付けられる微細なコントロールができるようになっていた。

 

「おおっ」

 

 孤独な戦いの中で会得せざるを得なかった、メンテナンスのための身体構造の把握。その中には当然体の動作と連動する筋肉の知識も含まれている。

 

「あ゛……あ゛ぁ゛〜」

 

 猛の知識と技術はその道のプロに匹敵するものとなっていた。凝った箇所への絶妙な力加減による指圧は、胡桃を親父にした。彼女の弛み切った顔を見た全員に詰め寄られ、結局全員に指圧を施す事になった。

 

 ・

 

 翌朝。

 時刻は9時過ぎ。平日であったなら既に遅刻している時間。しかしそれを責める事はできない。こんな状況で、熟睡しろと言うのが無理な話である。静かになればなるほどこれからの事を考えてしまう。そこに占められる感情は大半が不安である。寝付けたのは結局日を跨いでからになった。それは慈も例外ではなく、寧ろ大人である分、考えられる範囲が広くより大きな不安を感じていた。

 天気は雨。節電のため、部屋の電気は消している。

 

『いただきます』

 

 悠里謹製の朝食に舌鼓を打つ。美味な食事を活力を与えてくれる。リバーシティ・トロンでどんな買い物をしようか、と少しずつ口数が増えていく。朝食を終えた頃には元気を取り戻していた。

 女性陣は身支度に移る。その間に猛は校内の巡回に出る。昨日の時点で校内にいた通常個体は全て処理したが、夜間に入り込んでいる可能性もあった。だがいたとしても多くはないだろう、と言うのが猛の予想であった。夜通し行っていた監視で、少なくとも正門から入り込んだ通常個体はいなかった。そこ以外の箇所は分からないが、そもそも夜間に道路を歩いていた個体はほとんどいなかった。

 しかしその予想は悪い意味で裏切られる事となる。

 

 ・

 

 姦しい身支度は慌ただしい足音によって中断された。

 ノックもなく開けられるドア。

 

「急いで屋上に上がって下さい!」

 

 有無を言わせぬ強い口調に、只事ではないと教室を出る。

 

「何があったんですか?!」

 

「大量の奴らが入り込んで来ました」

 

「そんな……何でいきなり?!」

 

「分かりません……」

 

 屋上に出る。縁に走り寄り、校庭を見下ろすと、そこには目眩のするような光景が広がっていた。地獄のような登校風景。血を滴らせ、肉を落としながら、誰も彼もが校舎へと一直線に向かっている。見知った顔を認識した瞬間、慈は強い吐き気を覚え蹲ってしまう。それを介抱しようとすらできない程、皆自失状態に陥っていた。

 そんな彼女らを引き戻したのは、大きな金属音だった。振り向くと同時にドアが閉められた。そこに猛の姿はない。

 慌ててドアを叩く。

 

「本郷先生何をするつもりですか?!」

 

「奴らを全員始末します。ここで待ってて下さい」

 

「1人でなんてダメだ!」

 

 胡桃が何とかドアを開けようとしているが、ノブそのものが動かなくなっていた。バリケードを作る時に使用した針金で、ノブと階段の手すりを結びつけ、中から開けられないようにしていた。

 

「開けてくれ! 何で1人でやろうとするんだ! それじゃあ先生が……!」

 

「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です。慣れてますから(・・・・・・・)

 

 ・

 

 胡桃が何を心配しているのか、言われずとも分かっていた。憧れの人を殺してしまった彼女だからこそ、奴らを殺す事の辛苦が分かるのだ。

 だからこそ1人でやろうとする猛を止めようとしたのだ。

 だからこそ猛は1人でやろうとしているのだ。

 

「……」

 

 相澤茂は生物の授業を選択した生徒だ。由紀の次に準備室に訪れていた。

 加納昭一は力自慢の生徒だ。腕相撲で猛に負けて以降、顔を合わせれば勝負を挑んできた。

 佐野愛は地域のボランティアに精を出していた生徒だ。休日に出くわし飛び入り参加させられた事がある。

 神山昭子は面倒見の良い教師だった。赴任したてから今までもよく世話になった。

 

「……」

 

 皆、覚えている。どんな性格だったか。どんな事を話したか。鮮明に思い出せる。

 

「……」

 

 クラッシャーを装着。ベルトと接続された内部機構が戦闘出力へと上昇する。

 

「……」

 

 隠す涙はない。しかし血の付いた仮面は涙を流しているようだった。

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