やはり俺がVtuberになるのはまちがっている。   作:人生変化論

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とてもお久しぶりです。



花蓮はゆるせない

【マルイクラ】ぼっちがぼっちのみく鯖を探検する。

 

 

「今日も元気に超広大遠距離爆殺魔法。どうも、花咲望だ」

 

・こんのぞ

・こんのぞ〜

・こん

・こんのぞ!

 

「今日はサムネにある通り、ついにみっくすのサーバーができたらしいからやっていくわ」

 

・え鯖1人?

・サーバー立ててるのもったいなくて草

・これがほんとのぼっちか...

・いつものサバイバルかと思ったらまさかのサーバー

 

「うるせえ俺だってあのわちゃわちゃ感を味わいたいんだよ、1人だけど」

 

 

世界中で人気を博したゲーム『マルイクラフト』。

四角いブロックで構成された世界を冒険し、その自由度の高さと奥深いシステムからVTuber界でも一大コンテンツとなっているこのゲーム。

全然丸くねーじゃんというツッコミは千葉の海に捨てることにしよう。こら、千葉の海を勝手に汚さないで!多方面から怒られるわよ!

 

千葉の海は他の方に任せるとして。このマルイクラフトだが、他のオンラインゲームと同様にマルチプレイが存在する。

マルチプレイは大きく分けて二種類。他のプレイヤーのゲームに参加するか、管理されてるサーバーに参加するかである。

サーバーを立てるにはある程度の知識、場合によっては外部ツールを初めとした初期投資が必要になってくるので、簡単に出来るものかと言われればそうではない。

 

とまあ一見するとデメリットしかないようだが、もちろんそんなことはない。例えば他プレイヤーの世界に参加する場合、当たり前だがそのプレイヤーがマルイクラフトを起動していなければならない訳だ。

一方それがサーバーであれば問題ない。サーバーを立てていればいつでも参加することができる。

 

 

・噂のおひとりサーバーはここですか...

・シングルプレイしてるのと同じなんだよなぁ

・そんなに落ち込むなよ、ひとりだからって

・ぼっちなのは知ってるから元気だして

 

 

そう、もう勘づいていると思うがこのサーバー、ひとりでは全く意味が無いのである。

大人数で遊ぶのであれば非常に便利なシステムだ。例えば大手VTuber企業のわんちーむも、『わん鯖』と呼称されているサーバーを持っている。

わんちーむ内のほとんどがこのサーバーに参加していることもあり、ゲーム内での突発コラボや企画も相まってわんちーむの中でも人気のコンテンツになっているのは間違いない。

 

でもぼっちにはなんの意味もないけどな。

そもそも1人しかいないサーバーでは突発コラボなんぞ起きっこないし、マルイクラフトでのコラボ企画もまた然り。

しかし愛人たちは気付いていない。全てが計画されたことであり、愛人達の反応も予想済みだと言うことを。

 

「ふっ、甘いな」

 

・甘い...?

・お、俺たちの何が甘いんだッ!

・ぼっちだからって嘘つかなくていいんだよ

 

「そう、例えるならマッ缶に練乳ぶっこむくらいには甘い...」

 

・分かりづらい例えやめてもろて

・まあとにかく甘いことは分かったw

 

 

やつらは俺の仕掛けた罠にまんまと引っかかっているよう。哀れなり。

 

 

「そもそもだ、俺が友達多い気分を味わうためにサーバー立てると思うか?」

 

・思う

・当たり前だろ

・花咲ならやりかねん

・思ってた

・思ったよ

 

「即答なの君たち?もうちょっと考えてくれてもよくない?」

 

 

即答は予想できねえだろもうちょっと思考しろ。

思考しろってなんだよ俺でも分からないわ。

 

とか言いつつもサーバー関連諸々の作業をしてくれたのは社長たちなんだけどな。やりたいことは全部任せられる、素晴らしい企業です。従業員は0人だけどね!ホワイトだよホワイト!

 

 

「気を取り直して...、みっくすサーバーが出来た理由、それは!」

 

 

その言葉に合わせて、俺は画面を1枚のスライドに切り替えた。

白の背景に、謎の黒いシルエットが映し出されている。もちろん黒いので何なのかは分からないが、輪郭から女性の姿である事は容易に理解出来るはず。

 

 

・お?

・なんだなんだ

・まさかついにw

・なるほどなw

 

 

愛人たちの反応をニヤつきながら見つつ、用意していた2枚目のスライドを出す。すると画面には、『遂にみっくすから新たなVTuberがデビュー!』と言う文字か浮かび上がってきた。

 

そう。みっくすサーバーが出来た理由、それが新人のデビューが決まったからである。

社長が以前言っていた『本当は3人で同時デビューする』という計画の一端だ。俺の収益化から少し経ち、登録者も少しずつながら安定して伸びているということで新人の起用を決めたらしい。

企業系のVTuberは個々の実力も大切だが、何よりも勢いが重要だ。1人が伸びれば箱全体が伸びていくというのは、企業Vでは鉄板の流れである。

 

ただ、今回の新人については知らない部分が多い。

分かることと言えば、精々女性であることと社長がいつものナンパをしてきたということのみ。

まぁでも社長がスカウトしてたということは、たぶん只者ではないのだろう。社長のスカウトする人間はきっと変態しかいないはずである。あれこれブーメラン刺さってる?

 

 

「ということで、今週の土曜に初配信があるらしいので是非。応援してやってくれ」

 

・優しい

・絶対見に行きます

・楽しみ

・のぞみんとの絡み見たいなw

・ロリ系だったらお味噌汁ちゃんと対立しそう

 

 

他人とはいえ、これからは同じ箱の仲間である。応援してあげるのが当然だろう。

それに経験談だが、初配信は物凄く緊張する。俺も精々数ヶ月先にデビューしただけなので大した声がけは出来ないが、応援してやることくらいはできるのだし。

 

 

・これで直ぐ登録者抜かれたらおもろい

・確かにw

・愛人全員で引っ越すか

・残された姉貴とお味噌汁

 

「割と真面目に有り得そうなんだよなぁ...」

 

 

もしかしてこれ盛大なフラグだったりする?

 

 

・・・

 

 

・遅くなったけど2万人おめ! ¥10000

 

「お、スパチャせんきゅー。2万人とか実感ないわほんと」

 

・ないすぱ

・ナイスパぁ!

・もう2万人かー

・いつの間にかでっかくなっちまったな花咲ィ...

・花咲のおかげで一瞬だったよこの数ヶ月

 

 

7月下旬になった今より数日前、俺のチャンネルは晴れて登録者2万人を突破した。

活動を始めたのが4月の下旬なので、大体1ヶ月半に1万人ペースで増えていることになる。駆け出しの企業勢としては決して悪くない、むしろ順調な方だと言えるだろう。

 

俺がこのペースで登録者を伸ばすことが出来たのは、アリスによる影響が大きい。というのも、アリスとコラボしてからtheytube上に俺の切り抜きが多く上がるようになったのだ。

今や眷属だけでなく、元々わんちーむのリスナーだった人たちも俺の配信に来てくれるようになった。あくまで自主的に切り抜き動画を上げてくれる方々には頭が上がらない。ほんとうに。

 

 

・これからやりたいこととかあるの?

 

「おう。生粋のぼっちゲーマーとしては配信したいゲームがありすぎて困る」

 

・参加型でマルチできるからなw

・涙拭けよ

・友達いなくても愛人がいるからね...

 

 

別にマルチプレイ要素出来ずに積んでたゲームとかある訳じゃないんだからね!勘違いしないでよね!

誰得なツンデレは置いておくとして。活動が始めたての頃ほど緊張感がないこともあってか、現状配信のネタには困っていなかった。

始めたての頃はリスナーを楽しませなければいけないというプレッシャーで、好き勝手に配信することが出来ていなかったのだ。

 

 

・歌枠まだですか?

・そうだぞ花咲

・チューリングラブ全裸待機

・はよチューリングラブれ

・お歌ききたい

 

「歌はまあ...きっと歌うと思うようん」

 

・感情がこもってないんよな

・あと1年かかると予想

・花咲が!歌うまで!スパチャを!やめない!

 

「スパチャ野郎は破産するからな、程々に」

 

・やさしい

・やさいせいかつ

・スパチャニキ頑張ってスパチャして

 

 

理沙さんがギターを弾けることを知ってから、毎週金曜の会議に行くついでに教えてもらうことにしている。

基本週一のレッスンな上に配信と勉強も並行しているので、とてもじゃないが上達が早いとは言えない。が、理沙さんのおかげで知識はついてきていると思う。

コードや指を置く位置、弦を弾くリズムやタイミング。それに加えてやれピックがどうのチューニングがどうの、覚えなければならない知識は沢山あった。

でも不思議と、その大変さを楽しく感じる。

これがいわゆる趣味が出来たというやつであろうか。俺のギターはお世辞にも上手いとは言えないけれど、たとえ下手でもギターをかき鳴らす瞬間が最高に気持ちいい。

 

 

「近々に...とは言えんが、いつか必ず歌うぞ俺は」

 

・言ったな?

・それまで全裸待機延長で

・花咲の歌目標に仕事がんばる

・待ってるからゆっくりでええんやで

 

 

俺のギターの技術が上達して、配信で弾き語れるようになるまでにどれくらいかかるかは分からない。

意外と1ヶ月後くらいかもしれないし、年単位でかかってしまうかもしれない。それでも、どれくらいかかってもいいから聞きたいと言ってくれるリスナー達の願いを叶えないVTuberがいるだろうか。

 

以前俺はスパチャの話になった時、『VTuberは無償でも推せる』と言った。面白い配信を見せてくれることに、未来に向けて投資するのだと。

スパチャをする愛人達は、俺という存在に1円以上の価値を見出したからこそ投資をしている。

配信のアーカイブを見る時に発生する広告収入だってそう。

人生において金に変えられない、時間という大切なものをかけるだけの価値を俺に見出したからこそ、俺の配信を見ているのだ。

じゃあ俺は、俺たちVTuberはその価値に、期待にどう応えればいい?

 

その答えが多様だからこそVTuberにも個人差がある。アリスのように歌ってみたを投稿するVもいれば、オリジナルソングを投稿するVだっている。

そして、俺は。比企谷八幡(花咲望)は、弾き語るという形で愛人達の期待に答える。これがこの1ヶ月で得た、ギターを練習する大きな理由だった。

 

 

「誰か話題をくれ話題を。トークデッキが切れたせいで木こりの音のASMR配信みたいになってしまう」

 

・ASMR聞きたいから花咲だまって

・あ〜癒されるなー木こり音

・このまま寝落ちしたいから2時間そのままで

 

「なんでそんな木こり肯定派が多いんだよ...。もしかしてこの2万人の登録者皆木こり目的だったりする?」

 

 

マルイクラの木こり作業は画面が単調になることが多く、リスナーを飽きさせないためにVTuberのトーク力が問われるシーンである。

マルイクラなどの自由度が高いゲームは配信映えし易いが、同時に作業ゲーとしての側面もあるためなかなかに難しい。

作業要素が多くなってしまうと配信のマンネリ化も起こりうるため、やりたいゲームがあっても事前に確認しなければならないというのは、配信者にとっての永遠の課題だろう。

 

 

・花咲はなんでVTuberになったの?

 

「あれ、まだ話してなかったっけか。みっくすのVTuberって、オーディションじゃなくてスカウト制なんだよ」

 

・スカウトなんか

・珍しいな

・だいたいオーディションで選ぶよね

・なんかアイドル事務所みたいだなw

 

 

みっくすがアイドル事務所だったら、俺はプロデューサーに秋葉原で魔女っ子アイドルのポスター見てたらスカウトされるかもしれん。どこの冬優子だよそれ。

 

 

「街歩いてたら急に『VTuberに興味ありませんか』って言われてな。しかもスカウトしてきたのが社長だったっていう」

 

・社長直々にw

・すごい社長だなそのひと

・噂の変態だっていうやつか

・スカウトで選ぶってなかなかに大胆な...

 

 

実際は肉まんナンパだった訳だが、たまたまあのスカウトを見ていた人がいるかもしれないので多少濁しておく。

愛人が言うように、スカウトでVTuberを選ぶというのはかなり大きな危険性を孕んでいると思う。

オーディションで選ぶということは、VTuberになりたいという意欲のある人を起用するということになる。一方スカウトは意欲以前にVTuberの存在を知っているかどうかから始まるのだ。どちらの方が質の高い活動になるかと言われれば、圧倒的に前者だろう。

 

 

『時々思うんだ。花咲望()が、ここでVやってていいのかって』

 

 

だからだろうか。心のどこかで、そう思ってしまう自分がいる。

 

もしあの日、あの道を通っていなかったら。社長と出会うことが無かったら。

それとも既に3人のVTuberが集まっていて、スカウトする枠などそもそも存在していなかったら。

もっと違う結果になっていたのかもしれない。もっと人気で、もっと違う魅力があって、もっと大きく世界を変えられるくらいの。

 

VTuberになって、今までとは違う与える立場となって初めてこの世界は俺にとって眩しすぎる(・・・・・・・・・・・・・・・)と気づいた。

 

初めて一ノ瀬花蓮を見た時に抱いたのは憧れだった。少女が魔法少女に憧れるような、男女が恋愛に憧れるような、夢見がちな期待。

時には雑談、時にはゲームをして、見る人全てを笑顔にさせながら自分も全力で楽しむ。そんな姿に、どうしようもなく憧れた。

スカウトされ、最初はVTuberになったという非日常に心を躍らせた。しかし現実にあったのは彼女たちとの絶望的なまでの差だったのだ。

VTuberになった今だから分かる。彼女たちはそういう星の下に生まれてきて、途方もない努力の上に成り立っているのだと。

 

それに気づいた時、俺は本当の意味で非日常の中にいるのだと理解した。

もしVTuberになっていなかったら、俺はぼっちとして変わらない3年間を送っていたのだろう。もしかしたら部活に入って、多くの人を巻き込んだ青春ラブコメが始まっていたのかもしれない。

どんな形であれ、それが本来正しい日常だったと思う。

 

別にVTuberになったことを後悔している訳では無い。

ただどうしても、ぼっちの男子高校生としての生活が、青春ラブコメが本来あったはずの日常として脳裏にチラつくのだ。

 

 

「ま、要するに人生なにがあるか分からないってことだな。ぼっちがVTuberになることもあれば、俺がハリウッドデビューすることだってある」

 

・それはない

・前のネタまだ引きずってんのかw

・収益化記念のときのやつで草

・まずはコミュ障を直すところからだな!

・ぜったい無理なんだよなぁ...

 

「そこまで言う?少しくらい希望持たせてくれてもよくない?」

 

 

それでも、今の俺にはこいつらがいる。

面白いと、楽しいと笑ってくれる視聴者がいる。

花咲望だからいいんだと言って、付いてきてくれる愛人たちがいる。

彼らが傍で見てくれている限り、俺はVTuberの活動を続けるのだろう。

 

『もしも』という葛藤を心に秘めながら、ずっと。

 

 

◇◇◇

 

 

「あぁ....眠い」

 

 

マルイクラフトの配信を終えた俺は、自室でひとり大きな欠伸をした。

1時間ちょっとの配信とはいえ、普段口を動かさない奴がそれだけ長い間喋り続けるのだ。疲れないわけが無い。

 

デビューからそれなりの数配信をこなしてきたが、喋りが上達する兆しは見えない。ただ話すだけだったら簡単であろうが、それに加えコメント読みだったり炎上しないように気を配らなければならない。

今改めて他のVTuberの雑談配信を見てみると、驚かされることばかりだ。何気なく会話しているわけではないと痛感させられる。

 

 

「ん?」

 

 

ふと時計を見ると、約束している時間まであと30分もあった。

約束と言っても別に外に出るだとかそういう話ではなく、数日後に初配信を控える同期の配信練習にアドバイスをするというものだ。

これは理沙さんの助言により企画されたものらしい。なんでも、その同期はどうやら機械が得意な方ではないとのことで、一度配信の練習をしてみたいんだそう。

 

人には得意不得意がある故に俺からアドバイスできるのかとも思うが、理沙さんが言うには聞いているだけでもいいとのこと。

確かに『画面の先の誰かに見られてる』という感覚は配信特有なもので、見る人がいると言うだけでも価値があるのだろう。知らんけど。

 

何はともあれ、今はそれよりもこの30分をどう過ごすかが重要である。

45秒で好きを伝えられるのだから、たぶん何でもできるのだろう。

某大佐が3分間待つのを10回繰り返すのだから、たぶん結婚とか出来ちゃうのだろう。例え下手くそか俺は。

ここで浅はかな少年少女愛人眷属とか諸々はきっと「アニメ見ればええんやで...」と笑みを浮かべていることだろう。

確かにアニメは基本的30分未満だし、待ち時間を娯楽に変えることが出来る。

ただよく考えて欲しい。アニメって、一話見たら次の話も見たくならね...?

 

これが世界の真理である。ここから数々の創造神が誕生し、我々の住む地球が誕生するのだ。

つまりプリキュアは偉大。そういうことですよ。

 

 

「...花蓮ちゃんの配信でも見るか」

 

 

俺が初めてVTuberを知ることになったきっかけであり、憧れである彼女。

最近は忙しく配信には行けていないけれど、切り抜きで定期的に追うようにはしている。ホラゲーをハイペースでプレイするスタイルは、相変わらず変わっていないようだ。

 

使い慣れたスマホを弄り、一ノ瀬花蓮のチャンネルへと移動する。

ふと登録者数のところに目を向けると、二ヶ月前までは15万人だった登録者が20万人まで増えているではないか。

別に他のVTuberと登録者数を比べて落ち込んだりマウントをとったりする趣味は俺にはないが、職業病というやつだろうか、どうしても目が行ってしまう。

 

こう見ると、彼女の伸びは同じ箱のVTuberと比べてもやはり異質だ。

わんちーむがいくらV業界でもっとも勢いがあり、最大手でもある企業だと言っても、theytubeでのVTuberの知名度が上がったのは最近のことである。

「10万人行けば大成功」と言われる今、その目標を年単位で目指すVが多いことを考えると、一ノ瀬花蓮の伸びがどれだけ異質なのかはよく分かるだろう。

 

 

お、今は雑談配信してるのか。

 

 

『この前事務所でルナナちゃんに会ったんですけどっ、ちっちゃくてほんとに可愛かったんですよ!かわいーって言って抱き着いたら「はなすのじゃはなすのじゃー!」ってじたばたしてて!あーもう、ルナナちゃんしか勝たん!』

 

・草

・カレナナてぇてぇ...

・その百合はくっそ効いてしまう

・アリスちゃんが泣いとるぞ

・前浮気されたら地の底までとか言ってなかった?w

 

『や、違うんで。ロリとホラゲーはみんなわたしの嫁なんで。異論は認めませんご了承ください』

 

・お巡りさんここです

・ロリとホラーとかここまで不健全な組み合わせないよ...

 

 

絶賛配信中だった雑談枠では、花蓮ちゃんの性癖について話されていた。

そう、俺も切り抜きで知ったことだが、彼女は重度のロリコンだったのである。

特に後輩である神楽ルナナは性癖にぶっ刺さっているようで、『一ノ瀬花蓮、新衣装のルナナ様に限界化する』という切り抜きまであがっていたほどだ。

 

 

・結局花蓮ちゃんはどんなロリが好きなの?ww

 

『花蓮ちゃんはどんなロリが好きなのって?甘いですね、その考えは。まずまず、ロリには色々な種類があるわけですよ。のじゃロリ無垢ロリあざとロリ、実は歳を重ねているロリだっています』

 

・のじゃロリを最初に出すところに意味を感じる

・ろりってたくさんあるなぁ(すっとぼけ)

 

 

ロリの種類ありすぎだろ、林檎か。もしくは梨。千葉人としては落花生を推していきたいまである。

 

 

『でもこれはあくまでわたしたちが勝手に分けているだけなのです!つまりロリに境界線などない!年齢が低かろうが高かろうがロリはロリ!全てのロリをわたしは愛しているのです!』

 

・草

・草

・草

・なんかの宗教の教祖だったりする?

・ここがロリコン教ですか...

・この見た目から放たれる言葉とは思えないw

 

『わたしの目標はただひとつ、ロリとホラゲーをすることですから』

 

・いや草

・急に目標語らないでもろて

・おいわんちーむそれでいいのかww

 

『わたしの隣に可愛いロリが座ってて、一緒にホラゲーをやっているわけですよ。で、2人でびくびくしながら見てたら血を流した人が急に画面に出てくるんですよね。その子はそれにびっくりして「ひゃあっ!?」ってわたしの腕にしがみついてきたんですよ。あぁ、ロリっていいなぁ...っ』

 

・唐突な妄想は笑う

・えぇ...

・ロリっていいなぁ...(脳死)

・実際にあったことのように語るな

・まだロリとホラゲーコラボできてないだろw

・これが清楚(声と見た目)

 

 

俺も最初はめちゃくちゃ清楚だと思ってたんだよなぁ...。

まさかホラゲー好きでサイコパスでロリコンっていうとんでもないVTuberだとは思ってもみなかった。いっそう推すようになったけど。

 

 

『ということで、質問ありがとうでした〜』

 

・急に清楚になるの草

・綺麗にまとめるな

 

『そうそう、ロリ関連で思い出したんですけど』

 

・ロリ関連で思い出すってなにwww

・初めて聞いたぞそんな言葉

 

『アリスちゃんがコラボするようになったじゃないですか、最近』

 

 

どきり、と心臓が跳ねた。

花蓮ちゃんが言っているのは十中八九、わんちーむ三期生中二病少女ことアリス・オミソルシルだろう。

アリスは未だ俺以外とコラボしていないようだし、もしかしたら花蓮ちゃんの口から俺の話が出てくるかもしれない。こら愛人たち!花蓮ちゃんが見てるでしょもっとお行儀良くしなさい!

 

うわなんか緊張してきたな。この緊張はサイゼでエスカルゴのオーブン焼きを頼んだらプチフォッカを頼み忘れたのと同等...!いや、サイゼの方が僅かに上...っ!

 

 

『アリスちゃんがよくコラボする方...ええと、花咲望さんでしたっけ。あの人...』

 

・初めて知った

・最近よく切り抜き見るよね

・花咲さん面白いよ

・アリのぞコラボだっけ?くそ笑ったわ

 

『あの人...あのひとはっ...!』

 

 

急にわなわなと震え出す花蓮ちゃん。

すごいデジャブってるが気のせいだと信じたい。

 

 

『ゆるせないですっっ!!』

 

・え

・えぇ...

・草

・草

・草

・予想外w

 

『アリスちゃんの初コラボ(ハジメテ)はわたしが貰うつもりだったのに...!強要しちゃうと怖がられるかなーとか思ってそっと見守ってるうちに、何処の馬の骨とも知らない男性に奪われてしまうなんてっ。そんなの、そんなのゆるせないです!』

 

・初コラボをハジメテって読むのやめない?

・理不尽で草

・ロリのためならここまで染まってしまうのか...

 

 

そうか、アリスってよく考えたらロリだったわ。花蓮ちゃんがここまで言うのも頷けるって言ってる場合じゃねぇ!

ゆるせないって言われてしまった。憧れであり最推しの花蓮ちゃんに。

ゆるせないということはつまり嫌われていると同等のことだと俺のぼっちフィルターが嘆いていた。

 

俺っていま息してる?してないよね多分。

 

アリスぅぅぅぅ!一刻も早く花蓮ちゃんと仲良くなってくれぇぇぇ!そして花蓮ちゃんの俺への好感度を回復させてくれ頼む、切実に。

 

 

「お兄ちゃん、配信おつかれさまーってどしたの、浜辺に打ち上げられたエビみたいな格好して」

 

「小町...俺はもうダメだ...不信の徒ではなかったというのに...」

 

「なに走り疲れたメロスみたいなこと言ってるの。それより、仕事用のスマホリビングに置き忘れてたでしょ。ずっと鳴ってるよこれ」

 

 

急に部屋に入ってきた小町の言葉に気を取られたせいだろうか、俺は花蓮ちゃんのその先の言葉を聞かずにいてしまった。

 

 

『なーんて、今のは冗談ですよ。アリスちゃんとコラボしたいのは本音ですけど、花咲さんをうらんでなんかいませんっ。むしろ逆で、感謝してるんです。わたしだけじゃない、わんちーむの皆が花咲さんに同じことをおもってますから』

 

『...わたしたちは、アリスちゃんの良さを引き出してあげることが出来なかった。こんなにも、不甲斐ないことはありません』

 

 

その言葉を聞いていれば、また何か違ったのかもしれない。

生憎花蓮ちゃんが俺を恨んでいないという事実を知るのは、今から半年ほど後のことだった。

 

 

◇◇◇

 

 

『ハ、八幡...?もしかしテワタシの声聞こえてませんカ?』

 

「聞こえてますよ。ちょっと魂とさよならしてました」

 

『そんな往生堂の店主みたいなこト言わないでくださいヨ』

 

 

社長よく往生堂の店主なんて言葉知ってるな。もしかしたら社長もヒルチャールのお兄さんと戯れているのかもしれん。

 

小町に礼を言ってから電話に出た俺は、魂を失いながらも社長にそう答えた。

スマホの時間を見ると、既に約束の時間を過ぎていた。時間になったら俺から電話するという手筈だったのだが、時間を過ぎたことで心配した社長がかけてくれたのだろう。

 

 

「すみません、スマホ置き忘れてました」

 

『いやいヤ、数分間なので全く問題ないデース。それ二、こっちもちょっとばかり時間がかかりそうでしテ...』

 

 

はは、と社長は苦笑いしながら言った。そう言え先程から、社長の後ろがガヤガヤと騒がしい。

 

 

「新人さん今そっちにいるんすか?」

 

『ええ、理沙が今配信のレクチャーヲ。ちょっとばかり教えることが多くてデスネ』

 

「機械が苦手だとか言ってましたもんね」

 

『この様子だト、しばらくは雑談配信が主ですかネー。OBSとかモ使えるようにしなければなりませんシ...。まあ、基本はここで配信をするのデそこまで心配はしていませんガ』

 

ということは、その同期はオフィスから配信をするということか。

間違いなくそっちの方が安心できるだろう。理沙さんは言わずもがな、社長もいざという時は頼りになる。

 

 

『それよりも八幡、先程は何か悩んでいるようでシタが...本当に大丈夫デスカ?』

 

「あぁ...心配かけてすいません。いやまあ俺にとっては大事なんですが」

 

 

今の俺は推しに名前を言われた喜びとゆるされなかった悲しみでバーサーク状態である。この状態の八幡は12回殺さないと死なないので逃げた方がいい。ちなみにモルカーには負ける。

 

俺が花蓮ちゃんの配信であったことを話すと、少しの間黙り込んだ後にゲラゲラと笑い始めた。

 

 

『だっはっはっ!八幡、やっぱりアナタは天才デース!ゴスロリ美少女とライバルになったらロリコン清楚系美少女にうらまれるぼっちってそれ何のラノベですカ!』

 

 

うるせえ俺だってなんでこんな状況になってるか謎だわ。

やはりこの会社には悪魔しかいない。いいもん、悲しいもん。わんちーむに美少女VTuber八幡ちゃんとして転職してやる。

 

 

『いやー面白イ...まあ、そこまで気にしなくて大丈夫ですヨ。真面目な話、本当に共演NGレベルで嫌われているのであれバ配信で話したりしないはずデース』

 

 

そう言われればそれまでだろうが...花蓮ちゃんが俺をうらんでいるという事実に変わりはない。

こうなったらもうアリスのコミュ障を解消させるしかない。そうすればアリスと花蓮ちゃんが仲良くなり、必然的に俺へのうらみが消え去っている...とか都合よくいかないかな。よしアリス、俺の為に犠牲になってくれ。

 

 

『やっぱり八幡はすごいですネ』

 

「...何がっすか」

 

『デビューしてからまだ二ヶ月なの二、わんちーむの中でも人気な2人から認知されているのですカラ。その内ひとりはライバルですしネ』

 

 

確かに、その言葉に間違いはない。

今考えると、あの時社長が俺にアリスとコラボさせた意味が分かる。アリスとの出会いは、その存在は今や俺の中で大きなものとなっているのだから。

 

 

『やはり、ワタシの目に狂いはなかっタ』

 

アナタだから(・・・・・・)今ここにいるのでス、八幡』

 

「俺だから...?」

 

『ワタシがあの時出会えたのがアナタだから、アナタだったから今ワタシたちはここにいる。他の誰でもなイ、比企谷八幡だったからここまで来れタ』

 

 

VTuber(花咲望)になってくれテ、ありがとう』

 

 

俺の心を、悩みを、葛藤を全て見透かしているようなその言葉。

そう言った社長は今きっと、いつものように自信満々な笑みを浮かべているのだろう。画面越しだとしても、その姿が簡単に想像出来る。

 

...まったく、こういう時の社長は無駄に格好良いから困る。

普段あんなにもクソクソ罵られているというのに。

 

 

『...さ、雑談はこれくらいにシテ。準備ができたようですのデ、ここからは事前に連絡した通りにお願いしまス』

 

 

準備が出来たという社長に短く「了解っす」と答えてから、俺は通話を切った。

...いつか、この恩を返さなきゃいけないな。

 




ヤンデレ(たぶん)美少女過保護系お姉さん
ツンデレゴスロリライバル系美少女
ロリコンホラー好き清楚系美少女←new!

ということで、憧れの花蓮ちゃんが登場しました。

前回の投稿から数ヶ月以上も空いた挙句、まさかのサキサキが登場しないという。ほんとすみません。
次回は早く投稿出来ると思いますので、それまでお待ちいただけると幸いです。

次回はようやく...っ!ようやくサキサキメインのお話になります...!
感想評価などなど、本当に感謝感激です。
ちなみにサイゼのエスカルゴはめちゃくちゃ美味しいのでおすすめ。

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