やはり俺がVtuberになるのはまちがっている。   作:人生変化論

17 / 20
僕と君のベストプレイス
八幡は同期コラボをする


 

 

【準備】おいお前ら、ちょっと集合

 

 

「今日も元気に超広大遠距離爆殺魔法、どうも花咲望だ」

 

・こんのぞ

・こんのぞ

・こん

・こんのぞ

・こんのぞ

・まだコラボの時間には早くねえか?

・なんの配信だこれ

・告知されてなかったよな

 

「お前らの言う通り、コラボまではまだ一時間ある。それまでに」

 

「会話デッキ作るの手伝ってくれ」

 

 

とある日の配信。

高校生にとっては救済だった夏休みも終わり、ようやく涼しくなってきた夕方に、俺は愛人たちに懇願した。

 

 

「冷静に考えて話すの無理だろ、普通に。ほぼ初対面だぞ初対面、しかも女の子。会話デッキがないと秒で無言配信になるわ」

 

・ぼっち出てるって

・もうちょい六花ちゃんのこと信じてやれよw

・同期だろお前ら

・お嬢とは初対面でも平気だったのに

 

「アリスは例外な、あいつと一般配信者を同一視されても困る。むしろ蕾に失礼だろ」

 

・アリスオミソルシル:お!!!!!!!!!い!!!!!!!!!

・やべえバレたwww

・なんかいて草

・草

・おるやんw

・これは花咲が悪いw

 

 

相変わらずコメント欄で暴れているアリスが気にならないほど、俺の思考はこの後にある配信に割かれていた。

今日の夜8時から予定されているのが、俺の同期である『蕾六花』との、初めてのコラボだった。

 

彼女がデビューしてから一ヶ月と少し。視聴者層もある程度固定化され、登録者の伸びも落ち着いてきた彼女に対して社長が提案したのが、俺とのコラボ配信だった。

元々コラボ自体は予定されていたのだが、やさいじゅーすさんとのあれこれや、学校が始まってしまったこともあり、中々行うことができなかったのだ。

 

 

「まあ、ってことで。会話できるようなテーマを募集するから、どんどんコメントしてくれ」

 

・か、会話……

・会話ってなんやろなあ

・おい誰か先いけよ

・女の子と会話、かあ

・お前が行け

 

 

まずい募集する層間違えた。

 

 

「Vtuberかつ俺のリスナーに聞く話題じゃなかったか」

 

・おい

・それ俺たちがぼっちって言ってるだろ

・ぼっちじゃないが???

・ピキってるやついて草

・正直図星

・会話って難しいな

 

 

ぼっち系Vtuberであるからこそ、リスナーも自然と似通ってくる。

普段の配信ではぼっちネタを披露することが多いから、当然それを面白がるのは同じ人種なワケで。

 

 

「まじなんでも良いんだよ、話のきっかけになれば。マルイクラを一緒に遊びながら雑談するから、ある程度会話が軌道に乗れればそれでいい」

 

・なるほどね

・今日の天気は

・おすすめの晩御飯

・健康的なルーティーン

・明日の予定

 

「アレ○サとかに聞くやつだろそれ」

 

 

良い値段するのに結局使わなくなるやつな。最終的に音楽を流す用のスピーカーと化して、部屋の片隅で寂しそうにこっち見てるやつ。人工知能の反逆とかあったら真っ先に殺されるまである。

 

 

・配信の機材とか

・Vtuberになった理由

・配信の悩み

 

「配信関係はあり、共通の話題だし。空気重くなりそうだけど」

 

 

共通点があると仲良くなれるって誰かが言ってたしな。ヨーロッパの哲学者か誰かが言ってるだろきっと。大体ソースはその辺なんだから。それかオールナイト何某。

 

 

・六花ちゃんもすっかり配信者よなあ

・手慣れてきたよね

・一ヶ月も経てばそりゃね

 

「蕾、ついにゲーム配信にも手出し始めたからな。最初はあんなに初々しかったのに……」

 

・きも

・後方彼氏面やめろ

・こーれコラボ中止です

・六花ちゃん逃げて

 

「ふざけんな同期なら許されるだろうが」

 

・ギリ犯罪

・許されません

・死んだ目で言われてもなあ……

・目の腐り治して出直してこい

 

 

ボロクソに言われているけれど、デビュー前の、不安そうな様子で配信練習をしていた様子から考えれば、今の彼女に感動すら覚えてしまうのは当然だろう。同期愛と言ってほしい。まだまともに話したことないけど。

 

デビューして数週間は雑談ばかりだった蕾は、ここ最近になって別のコンテンツにも手を出し始めた。RPGにホラゲーと、様々なジャンルに挑戦している彼女だが、最も人気なのは意外にもバカゲーだった。普段からクールな蕾の冷静なツッコミと、時折見せる花のような笑顔のギャップにやられてしまうリスナーは多いのだろう。

 

 

・てか六花ちゃんの配信もよく見てるのな

 

「……まあな。俺がもっといい配信するためにも、見るのは当然だろ」

 

・とか言ってこいつ純粋に見たいだけだぞ

・お嬢の配信も何だかんだ毎回いるしな

・身内は大事にするタイプか

・どうせ姉御の配信も追ってるだろ

・ぼっちが仲間思いとかいう究極の矛盾

 

「お前らのためを思って配信ハシゴしてんだぞ」

 

・はいはいありがとうありがとう

・これは上質なツンデレ

・ニチャア……

・男のツンデレでニチャれる日が来るとは

 

 

やさいじゅーすさんの配信は見たいだろ、普通に。

あの天に昇るような声で、シナリオゲーのセリフ読みとかしてくれるんだぞ?囁きASMR期待してます。

 

ぼっち系Vtuberという二つ名でデビューした俺だが、アリスにやさいじゅーすさん、それに今日の蕾と、もはやぼっちとは言えなくなっている気がする。これはもうリア充系Vtuberと改名してもいいのでは……とか思ったが、よくよく考えれば同じぼっちの奴らとしか絡んでねえわ。あの二人は言わずもがな、蕾にもなんだが同じ匂いを感じるし。ぼっち継続ですありがとうございます。

 

 

愛人たちと適当に駄弁りながら策を練っていると、気付かぬうちにコラボ配信の時間が迫っていた。理沙さんからも配信を終えるようにメッセージが送られていたため、俺は慌てて話を切り上げた。

 

 

「じゃ、この枠はもう終わるわ。沢山案くれてサンキューな、助かった」

 

・うい

・コラボがんば

・楽しみ

・上手に会話しろよ

・がんばれ

 

「コラボの枠はもう立ってるから、移動お願いします。おつ」

 

・おつかれ

・おつー

・おつ

・おつ

 

 

配信を終え、凝った体をほぐすように伸びをする。

体力も話題も十分、あとは上手く会話するだけ。それが最難関だが……ま、なんとかなるだろ。

 

 

・・・

 

 

【初同期コラボ】マルイクラでゆるく雑談する。

 

 

「……」

 

「ッスー……」

 

 

・お通夜?

・無言すぎる

・花咲お前……

・花咲俺苦しいよ……

・なんか寒くねここ

 

 

「……まあ、とりあえず木切る、ますか」

 

「そう、だね」

 

 

・切るますか

・言語崩壊

・もう終わりだよこれ

・安心した、お前やっぱりぼっちだったんだな

 

 

木を切る音だけが虚しく響く。

マウスを操作する、カチカチという音がやけに大きい。

 

 

「あー、お、おすすめの晩御飯って何だ?」

 

「えっ、ああ……里芋の煮っころがし、とか」

 

「……いいな」

 

・まさかの話題行ったwww

・確かにさっきあったけどw

・ガチで草

・見てる分にはおもろすぎる

・そしてめっちゃ家庭的だなw

・絶妙に反応が難しい回答すぎる

・お前もいいなじゃねえよww

・話広げろwww

 

 

コメント欄が見れない。怖すぎて。

思わなかったんだ会話がこんなに難しいなんて。配信始めれば何とかなるだろとか思っていた俺が愚かだった。そうだ、俺はぼっちでコミュ障。どうして忘れていた、何故気付かなかったこんな単純なことに!

勘違いしていた。Vtuberの活動が軌道に乗って、何だかんだ絡む奴が増えて、自分自身を勘違いしていたんだ。蕾との会話が上手くできないのも、配信が通夜状態なのも全部、俺のせいだ!!

 

脳内でライナーごっこをして現実逃避をする間にも、無慈悲に時間は流れていく。

やっべまじでどうしよう……と頭を抱えていると、今まで殆ど言葉を発しなかった蕾が、恐る恐るといった様子で話し始めた。

 

 

「……ごめん。あたし、こういう時上手く話せなくて」

 

 

素直な言葉だった。

それは、喋ることが仕事のVtuberにとって致命的であることは、俺がいちばん理解している。俺もアリスも、「上手く話せない」という呪いに苦しめられてきた。互いとしかコラボできず、傷の舐め合いだと蔑まれても、仕方が無いと見ないふりをして。

だから、蕾の気持ちはよくわかる。

 

上手く話せないのは俺の方だ。勝手に関わるハードルを高くして、会話の準備までしたけれど、まちがっていたのも俺だった。蕾は同期のVtuberである以前に、仕事を始めて一ヶ月しか経っていない、ひとりの女の子なのだから。

 

 

「それは。俺だって同じだ」

 

 

大きく息を吐く。曇っていた感情をリセットし、もう一度PCへ向き直る。

配信の画面上に表示されているのは、ゲームの様子と、愛人と共に作った会話デッキの文字列。俺は会話デッキをドラッグし、全てを削除した。

 

 

「正直言って、俺も緊張してた。だってそうだろ、同期っつってもデビュー時期違うし、ほぼ初対面だし。ま、蕾サンは俺のこと、前から知ってたみたいだけどな」

 

・そうなの?

・初耳

・花咲のリスナーだったとか?

・貴重な女性ファンかこれ

・リアル知り合いだったとかじゃない?

・リア友ならこんな無言ならんやろw

 

「や、ちが……。面識があった訳じゃなくて、デビューする前に偶然……」

 

 

よし、食いついた。

以前から関わりがあった、的な匂わせをすれば、視聴者は大抵食いつく。他の活動者から出る情報は、あれこれ知りたがるのがリスナーだからな。動画投稿サイトでも、『〇〇について語る△△』みたいな動画は伸びやすい。

 

俺が狙ったのは、リスナーも会話に巻き込むことだった。

二人きりだと気まずい会話でも、コメントを含めば複数人で会話しているのと同じだ。生配信という活動形態を持つVtuberの特権とも言える。コメント欄が疑問で盛り上がれば、蕾は返事せざるを得ないだろう。そうなれば、普段の配信と何ら変わらない。コメントを読んでそれに答えるというサイクルは、この一ヶ月で散々行ってきただろうから。

 

 

「みっくすにスカウトされて、それきっかけで見てたってだけで。……たまにコメントは、してたけど」

 

「それもう愛人じゃねーの」

 

「やめて」

 

「ハイ」

 

・愛人キャンセルは草

・冷徹なやめてww

・おい花咲同期怒らせんな!

・俺たちと一緒は嫌だってよ

・花咲と愛人どっちも刺されたのおもろいw

・花咲も若干ビビってて草

 

 

俺と愛人の反応を見て、蕾はハッとしたように言った。

 

 

「ご、ごめんあたし、こんな失礼なこと」

 

「……いや、失礼じゃねえよ。それくらい強く罵ってくれた方が気持ち良いからな。素の蕾で来てくれ」

 

・ギリ犯罪通り越して犯罪

・セクハラですアウト

・準備配信の言動超えてくんなw

・六花ちゃんにげて

・朗報、花咲望ドM発覚

 

「ドMって書いた奴から順に開示請求な」

 

・?!

・ドMニキ終了のお知らせ

・ただのMならセーフだったのに…

・罪重すぎるだろ

 

 

俺の言い方には語弊があったが、目的に違いはない。

目的はただ一つ、素の蕾を引き出すこと。彼女は自然とツッコミ役になることが多く、コメントに翻弄されつつ冷徹に捌いていくのが面白い。それは、初配信から見ていた俺が十分に理解している。

会話ではすっかり隠れてしまっていたその良さを引き出すために、コメントを利用したのだ。

 

 

「……ありがとね」

 

「何がだ」

 

「また、借りができたなって」

 

 

いつぞやの蕾と同じ台詞。あれは確か、配信練習の時だったか。

 

 

「借りなんぞに数えられることはしてない。それに、利害とか損得とか関係なしに、適当に集まって適当に駄弁れる。それが同期ってもんだろ」

 

 

少なくとも、俺が好きになったVtuberの同期っていうのは、そういう関係だったはずだ。

本物と言えるほど心は通じ合わないし、他人と言えるほど隔離されていない。それでも、ここでしか見ることのできない「エモさ」がある。それが、同期であるはずだから。

 

 

「……あんたって、案外情熱的だよね」

 

「クールな社会人男性を自負してるぞ」

 

「だいぶ手遅れじゃない?」

 

 

見た目は完全にシゴデキサラリーマンなんだけどな。腐り目じゃなければ。

 

 

「クールというより、ひねくれの方な気がするけど」

 

「俺の印象どこでまちがった?」

 

 

違うんです、愛人たちが悪いんです。あいつらが俺を馬鹿にするからぁ!

蕾の俺に対する印象が歪んでいることに頭を抱え、草を生やし続けるコメント欄を睨みつつため息を吐いた。

 

 

「……木はもう良いだろ、家作るぞ家」

 

「家とか作れるの、このゲーム。そもそも、木を素手で取れるとかどんな世界観?」

 

「えそこから?」

 

 

機械音痴でゲームにあまり触れてこなかった、とは聞いていたが、どうやら本当らしい。

そこからは、初めてのマルイクラだという彼女に基礎知識を教えつつ、各々の家を作り見せ合ってから、配信を終了した。

 

配信では無言になることも多く、Vtuberのコラボ配信としては珍しかっただろう。しかし俺たちはもう、無言の時間を苦しいとは感じなかった。そんなマイペースなところが、互いに素を出している証拠だと気づいたから。

 

 

・新鮮な花咲だな

・お嬢とのコラボはずっと騒いでるからこれはこれで良き

・チルい配信だった

・いいねこの二人

・なんかもう熟年夫婦感出てておもろい

・おもろかった

・六花ちゃん初めて見たけどめっちゃ可愛い

・同期コラボ、好きだ……

・ファンアート描きたいから同期の名前決めてくれたのむ

・六花ちゃんファンだけど新しい一面見れてよかった

・次のコラボも期待!

 

 

◇◇◇

 

 

蕾とのコラボの翌日、理沙さんと今後の配信予定などを話し合うため事務所へ向かっていた。

学校帰り、そのままの足で太陽の下を歩く。九月中旬とはいえ、昨今の地球温暖化が故かまだまだ暑い。汗でシャツが肌に張り付くのを感じながら、日光から逃げるように日陰を進む。

 

Vtuberを始めてからというもの、以前にも増して体力が低下しているのを感じる。もちろん会話だったり、集中力だったりといった配信的な体力はむしろ成長しているのだが、運動するとすぐにバテてしまう。ただでさえ日中は真面目な男子高校生として机に齧り付いているのだから、デスクワークが基本のVtuberとして当然の傾向なのだろうが。

これで3D化でもしたら変わるんだろうか。まあ、俺は歌って踊るアイドルではないし、大して変化はないはずだ。

 

足早で事務所のあるビルに逃げ込み、エレベーターまで向かう。

夕方だとは言っても、働く企業戦士からすればまだまだ勤務時間の真っ只中だ。忙しくエントランスを行き来する大人たちに心で敬礼しつつ、働きたくないからVtuberとして金を稼ごうと心に誓う。これでも社会人系Vtuberという矛盾。

 

今日も千葉の片隅で立派に社畜している父上に思いを馳せていると、いつの間にか事務所のある階に到着していた。エレベーターから降り、事務所の扉を開けて、一旦絶句。

 

 

「あら〜ん?」

 

「失礼しました」

 

 

俺史上いちばんの力で扉を閉めた。

見なかったことにしよう。金髪お嬢様(ガチムチ)なんて居なかった。

 

待てよ、金髪お嬢様だからアリスだった可能性あるか。いやだとしてもだな。アリスが事務所に来るなんて厄介ごとで確定である。戦略的撤退ですよこれは。

 

 

「花咲くぅん、はじめましてえ〜」

 

 

うおおおおおお扉無理矢理突破して来やがったこの筋肉!

人気のないオフィスで遭遇するとかホラゲーですよもう……。ホラゲー担当は俺じゃないんで、同期の方に行ってやってくださいお願いします。

 

当然アリスでは無かった訳だが、近くで見ると迫力が凄い。実物はテレビでしか見たことが無いため、有名人に会えたようで少しだけ心が高揚した。

 

 

「……初めまして、にんにくらーめんさん。事務所には、蕾関係で?」

 

 

にんにくらーめん。海外で有名なファッションデザイナーかつ、最近話題のオカマタレント。そして何より、同期である蕾の担当イラストレーターであるという、属性モリモリの人物である。

 

彼?は扉を塞ぐように仁王立ちをして、俺に笑いかけた。

 

 

「それもあるわね〜ん。頑張ってるあの子を、いーっぱい褒めてあげたかったし。でも、いちばんの目的はん」

 

 

猛烈に嫌な予感がする。こういう時の予感って大抵当たるから困るな。

ズカズカと俺に近づき、肩を強く掴むにんにくらーめんさん。あの、痛いっす肩。

 

 

「アナタとね〜ん、お・は・な・し、したくてねん。ちょっとイキましょうか〜ん」

 

 

どこに??

別に健全な話だよな?ボコボコにされるとかよりそっち方面の方が心配だぞ。

目がキマっているにんにくらーめんさんは、圧倒的な力で俺の体の向きを変え、エレベーターに向かって歩き始めた。

怖い、怖いってこれ。Vtuberになったことより非日常だよ。

 

エレベーターに到着したその時、上がってきた数字が、丁度俺たちのいる階層で止まった。

 

 

「あちーよもう……こんな日に外に出る用事入れんなよなー」

 

「放っておくト、理沙はお酒を飲んデ寝ているだけですからネ。見かけによらずインドアなんですかラ」

 

「クーラー効いてる部屋で飲む酒がいちばん美味い……ん?」

 

 

降りて来たのは、暑そうに脱力するスーツ姿の理沙さんと、夏仕様の真っ赤スタイルである社長だった。いや半袖の赤革ジャンとかどこに売ってんだよ。

 

 

「八幡と、にんにくらーめんさん?もう到着してたんですね」

 

「理沙ちゃん、お久しぶり〜ん。今日も相変わらず、クールで可愛いわねん!」

 

「たはは、可愛いって言われるとムズムズするっすけどね……。八幡も、事務所留守で悪かったな」

 

「そ、それは大丈夫っすけど……」

 

 

いや社交辞令はどうでも良いんだよ。俺の方に乗ってるムキムキの手とか、明らかに誘拐されようとしてる現状に対して言及してくれ。

 

 

「丁度良いわん、ジョン、アナタも一緒に来なさい〜?」

 

「ン、ワタシもですカ?」

 

「ええ、三人で漢の語り合いをしましょん。理沙ちゃん、悪いけど留守番お願いねん」

 

「はいよ、楽しんで」

 

 

漢でいいんかい。

にんにくらーめんさんは俺を伴ってエレベーターに乗り、後から社長も乗り込んできた。

穏やかな顔でこちらに手を振る理沙さんに目線で助けを訴えるも、無慈悲に扉は閉まっていく。

 

俺、理沙さんと留守番がしたいです……。

 

 

・・・

 

 

「スペシャルセットを三ついただけるかしら〜ん」

 

「かしこまりました。セットのドリンクはいかがなさいますか?」

 

「ダージリンのストレート、アイスでお願いしたいわぁ。アナタたちはどうするん?」

 

「アイスカフェラテがいいですネ〜」

 

「……オナジモノデ」

 

 

人通りの多い場所にある喫茶店。

若者向けのマーケティングなのだろう、白を貴重とした店内には動物のオリジナルキャラクターがいくつも飾られており、キラキラとした装飾も相まってメルヘンな空間を形成している。

その証拠に、客層は女子高生やカップルがほとんどだ。楽しげな会話で溢れ、穏やかな時が流れる筈の店内だが、お客さんの視線は一点に注がれていた。そう、俺たちである。

 

 

「最近流行ってるから、一度来てみたかったのよ〜ここ。でも、ひとりで来るにはちょっと恥ずかしいでしょん?だから、アナタたちと一緒に行こうと思ってねん」

 

「驚きましタ、恥じらいという概念があるとハ」

 

「あら失礼ねん。私にも常識くらいあるわよ〜ん」

 

 

金髪赤ジャケット、金髪ロングのマッチョお嬢様、腐り目ぼっち。

あまりにもメルヘンとかけ離れているメンバーだった。そりゃ女子高生もこっち見るよ。やばい集団がいるとSNSで拡散されるまである。

 

特に金髪二人だ。俺の隣に座る金髪と、向かいの席でねんねん言ってる金髪。街中ですら目立つビジュアルの二人だ、お洒落な喫茶店で浮いてしまうのも当然だろう。俺?俺は一般ぼっちなんで。ステルスヒッキー発動してるから女子高生は俺を認識することができない。かかったな!

 

 

「……で、俺をここに誘った理由は何なんですか」

 

 

会話の間を縫って問いかけると、にんにくらーめんさんは表情を崩さずにこちらを見た。

 

 

「やだ、疑われてるかしらん。ここに来たかったのは本当よん、乙女だからスイーツには目がないの〜ん。……でも、そうねえ。あとは〜」

 

 

彼は机に頬杖をつき、優しく微笑んだ。

 

 

「アナタにお礼をしたかったのよん、六花ちゃんのことでねん」

 

「蕾のことで?」

 

「昨日、二人で一緒に配信したでしょぉ。私ったら、始まる前から心配で心配でねん。ほらあ、あの子って意外と、シャイで内向的なところがあるからん」

 

「兄さんは、心配しすぎて事務所まで来やがったんですヨ。会議室にぴったり張り付いテ、配信中ずっと監視していましテ。六花チャンも、とんだ厄介リスナーを持ってしまったものデース」

 

「娘を心配するのは当然でしょ〜が」

 

 

社長の話を聞くに、にんにくらーめんさんの蕾に対する熱の入りようは相当だな。

俺とやさいじゅーすさんの関係もそうだが、みっくすのVtuberは、各々の担当絵師と良好な関係を築けているようだ。俺たちの間で色々なことがあったように、彼女たち二人にもなにか、関係を深めるようなことがあったのかもしれない。

 

……衝撃的すぎて目を逸らしていたけれど、触れたほうがいいんだろうか。

 

 

「……あ、兄って何すか。兄って」

 

「ン?そのままの意味ですヨ」

 

「でねん、心配してたんだけどぉ、配信を見て」

 

「すみません話なんも入ってこないっす」

 

 

兄弟ってことか、この変態二人が?

顔をじっと見比べる。そこまで似ているわけではない、共通点は金髪ということくらいか?

特徴的な喋り方だって、間延びした語尾とエセ日本語では別物だ。そりゃあ変態ってことは共通しているだろうけど、逆に言えばそれだけだった。

 

 

「ちょっと、もしかして私たちが兄弟ってことぉ、彼には言っていないんじゃないのん?」

 

「理沙が説明していた記憶ガ……いヤ、あれは六花チャンに対してでしたカ。では改めテ、八幡。アナタには明かしていなかった、重要な秘密がありまス。そう!ワタシとにんにくらーめん先生は、血を分けた兄弟だったのでース!」

 

 

な、なんだってー!とはならねえよもう。少し前にバラして欲しかったわ。

しかしまあ、本当に兄弟だったとは。社長の周りの人間、各方面で成功しすぎだろ。

 

 

「何というか、二人はあんまり似てないっすね」

 

「よく言われるのよねん、それ。血は確かに繋がっているんだけど〜」

 

「学生時代にはもう別々の国に暮らしていましたかラ、あまり一緒にいなかったのも原因かもですネ」

 

「住んでた国が違ったんですか?」

 

「両親が離婚してぇ、私はパリの方に、ジョンは日本に残ったのよねん」

 

 

にんにくらーめん先生がパリでデザイナーとして成功していたり、社長が日本でみっくすを起業したのもそれが理由か。

 

 

「だから、ジョンと別れた後のことはそんなに知らないのよねん。せいぜい理沙ちゃんとか、娘さん……黒奈ちゃんのことくらいかしらん」

 

「……ご存知だったんすか」

 

 

予想外の名前が登場し、思わず彼の方を凝視した。

 

 

「面識はないわよん?ただ、黒奈ちゃんのことはジョンから少しだけ聞いていたし。……八幡くんが、何をやったのかも知ってるわん。今日は、その話をしに来たのん。六花ちゃんのことも含めてねん」

 

 

思い出すのは一ヶ月前。

いい意味でも悪い意味でも話題を呼んだ、俺の弾き語り配信だった。

 

 

「最初に、ジョンからアナタをスカウトしたって聞いて、初配信を見た時ねん。正直、上手くいかないなって思ったのよん。そもそも、私はVtuber事務所を立ち上げること自体反対だったからぁ」

 

 

厳しい言葉だが、決して間違っていない。

俺がここまで活動を続けられたのは、周囲の力によるものが大きい。やさいじゅーすさんが絵師でなければ、あそこまで初配信に人を集めることは不可能だっただろう。初配信の時点では、俺自身の個性には注目が集まっていなかったから。

 

 

「でもねん、黒奈ちゃんのためだけに歌うアナタを見て、それは間違いだったって気づいたわん。八幡くんは不器用でクールに見えるけれど、ちゃんと……アツいものを持ってる男の子よん」

 

 

そう言ったにんにくらーめんさんの表情は、嬉しそうに緩んでいて。一歩後ろから見守ってくれる、大人の顔だった。

 

 

「それに。自分を犠牲にしちゃうところとかぁ、あの子(・・・)に似ているとは思わない?ねえ、ジョン」

 

「……ええ、本当に。本当に、よく似ていまス」

 

 

いつもと違う、何かを押し留めるような社長の声。

隣を見ると、社長は少しだけ俯いていた。まるで、どこか遠い昔を思うかのように。

似ているとはどういうことか、あの子とは誰なのか。すぐにでも問いかけたかったけれど、言葉が喉を通ることは無かった。

 

にんにくらーめんさんは、ごめんなさいねと小さく呟いてから、話を切り替えるためか一度手を叩いた。

 

 

「アナタが初めてのコラボ相手だったこと、すごく安心してたのよん。心配だったのは〜、六花ちゃんが上手く話せるかってだけ。ま、その心配も杞憂だったけどねん」

 

「二人の配信は、数字だけ見ても大成功ですからネ」

 

 

実際に俺自身も、今回の配信がいかに成功したかを実感している。社長の言う通り、登録者は二人とも増加したし、アーカイブの高評価数も普段の配信と比べ目に見えて多い。

しかし俺にとって最も大きかったのは、蕾との精神的な壁というか、話す際のハードルが下がったことだろう。最初は愛人たちにも心配されるほどだったにも関わらず、次のコラボを望まれるにまで至ったことは、間違いのない進歩である。

 

 

「だから、感謝を伝えたくてねん。あの子のペースに合わせてくれてありがとう。……六花ちゃんの気持ちに、寄り添ってくれてありがとうねん」

 

「いや、そんな大層なことは……こちらこそ、ありがとうございました」

 

 

感謝されるようなことはしていない。俺としても配信が円滑に行われないと困るし、素で話せるようにしたかった。そこまで言いかけたが、にんにくらーめんさんの表情を見て、やめた。

この人はきっと、どこまでも真剣なのだろう。面白可笑しい口調でも、飄々とした態度でも。誰よりも蕾六花という人間と向き合い、見守っている。恐らくその感情は、社長よりも強い。

蕾はどうやら、相当に面倒くさい人間を仲間に引き入れてしまったらしい。同時に、これほど真剣に自分を見てくれる人を見つけた蕾に、尊敬の念さえ覚えた。

 

 

「それで?六花ちゃんと話してみてどうだったのん?」

 

「どうって言われても、良い人だったとしか。ツッコミ役なのにポンコツ属性あるのは、キャラ立ってて良いとは思いましたけど」

 

「そう!そうなのよんよく分かってるじゃない!普段は頼れるお母さんよん、でもね?ちょっと予想外のこととかがあるとすぐに慌てて、子供みたいになってそれが可愛いのよね〜ん!八幡くんはもちろん見たわよねん、一週間前の脱出ゲーム配信っ。ただの謎解きかと思ってたら、ちょっとずつホラー要素が出てきて困惑するのがもう……」

 

 

いやそこまでは言ってねえよ。

どこのママも、子供への愛情がちょっぴり強めなのは共通しているらしい。

 

俺と社長が菩薩のような顔で聞いていた蕾褒めまくりタイムだったが、店員さんがスイーツを持ってくることで終わりを迎えた。

おお、見た目だけでもすごいクリームの量。いくら甘党とはいえ、これは食べ切るのが辛そうだ。

 

 

「お待たせしました、ぶりぶりクリームのケーキ、秋の栗ぶりぶり仕様です」

 

 

ふざけんななんだそのカスみたいなネーミング。小学生か。

全く理解が追いつかないが、目をキラキラさせているにんにくらーめんさんを見るに、注文は間違っていないのだろう。

 

見た目はショートケーキの上にモンブランのクリームを載せましたぜ兄貴!と言わんばかりの豪快な逸品。恐らくこれが秋要素だろうが、致死量のクリームのせいで原型を留めていない。

まあ確かにこのクリームの量はぶりぶり……だとしたって別の表現ってもんがあるだろ。日本語が誇るオノマトペも涙目ですよ。

 

ちょっと待て、ってことは周りの女子高生やカップルたちは、このぶりぶり目当てでここに。

慌てて周囲を見ると、俺の目の前にあるぶりぶりと同じぶりぶりを、映えがどうのインスタがどうのと言いながら写真に収めていた。俺だけか、このぶりぶりに一ミリも魅力を感じないのは俺だけか?

 

 

「んー、これこれん!一度は食べてみたかったのよねん」

 

「暴力的に甘そうですネ、理沙が甘党であれば連れてきたのですガ」

 

 

そう言って、何も違和感を抱くことなく食べ始めた二人。

一瞬だけ躊躇うも、俺は意を決して嵐を呼ぶ五歳児も真っ青なスイーツに食らいつくのだった。

 

結論、味は星五。

 

 

・・・

 

 

「それでハ、ワタシは車を停めてきますのデ。兄さんは本当にここまでで良いんですカ?」

 

「ええ、大丈夫よん。ありがとねん」

 

 

社長は駐車場に車を停めてくると、俺たち二人を事務所の前で降ろした。

にんにくらーめんさんはこの近くのホテルに滞在しているらしく、しばらくしたら活動拠点の東京に帰るとのこと。千葉の魅力にどっぷりと浸かって、帰れなくなることを願うのみである。

 

事務所に戻る俺とホテルに帰る彼とは、ここでお別れだ。一応今日は褒めてもらった気もするし、ぶりぶりも奢ってくれたため、短く感謝を伝えた。

 

 

「ありがとうございました。にんにくらーめんさんも、お元気で」

 

「ええ、アナタもねん。……そうだわぁ、最後に聞きたいことがあってねん」

 

 

別れ方が分からず、不器用な物言いになってしまった俺にも、彼は憤ることなく微笑んだ。

出会った時は威圧感のあったその巨体だが、今では恐ろしさのかけらも無い。

 

 

「ジョンはアナタをスカウトした時、何か言ってたかしらん?目標とか……夢、とか」

 

「……世界を変えるVtuberになる、ですかね」

 

 

全てが始まったあの日、事務所で聞いた理沙さんの言葉。

『世界を変えるVtuberになる』。これが二人の夢であり、会社の夢でもあると。

そんな妄想じみた、現実味のない言葉がどうしてか俺の胸には刺さって。そこから、花咲望が生まれた。

 

 

「……そう」

 

 

にんにくらーめんさんはその言葉を聞いて、表情を変えることはなかった。ただ、何かを悟ったように頷くだけ。

 

 

「八幡くん、アナタは一つ勘違いしているわ」

 

「勘違い?」

 

「『世界を変えるVtuberになる』。その夢は本当よん。少なくとも、理沙ちゃんにとってはねん。けれど、ジョンは違う」

 

 

俺たちの間に、冷たい秋の空気が流れる。

日が落ち始め、彼の背後には長く黒い影が落ちた。

 

 

「ジョンがこの会社を立ち上げたのも、アナタをスカウトしたのも。別の理由があったからよん。ジョンはきっと……そんなに立派な理由なんて持ってないわ」

 

「っ、それは______」

 

 

予想外の言葉に、その理由を聞き返そうとする。

そんな俺を見て、にんにくらーめんさんは人差し指を自分の口元に当てた。

 

 

「そんなに不安そうな顔しないで?アナタが理沙ちゃんと同じ夢を持ち続ける限りは、そう悪い結果にはならないわん。だからぁ、その理由はアナタが探すの。私は、ただのイラストレーター。部外者にすぎないからねん」

 

 

頑なに口を閉ざす彼を見て、自然と社長を思い出す。こういう秘密主義で胡散臭いところは、無駄によく似ている。

 

 

「でも、そうねん。ここまで言って何もしないのは乙女じゃないし……はい、私の連絡先よん。アナタの力ではどうにもならないことがあったら連絡して〜?同期のママとして、ね」

 

 

俺に連絡先が書かれた名刺を渡してから、にんにくらーめんさんは別れを告げて歩き出した。

夕陽に照らされて歩く乙女の背中は、大きいけれどどこか寂しくて。

 

 

「そうだわん、ついでに……自己犠牲はほどほどにねん。アナタを大切にしてくれる人の気持ちを、ちゃんと考えること。お姉さんからのお小言だと思って受け取って?」

 

 

俺は彼の姿が見えなくなるまで、その言葉の意味をずっと考えていた。

 

 

 

 

 




同期組を取り上げてみた回でした。
やっと社長まわりのお話を動かせた感じがあって嬉しいです。年数かかり過ぎました。

前回は区切りのお話ということもあり、たくさんの評価や感想本当にありがとうございました!毎回の反応が心から励みになっています!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。