やはり俺がVtuberになるのはまちがっている。   作:人生変化論

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八幡はVTuberたちと出会う

 

 

好き勝手言い合いながら台本を見ていた俺とアリスは、呆れ顔で呼びに来た理沙さんと共に配信スタジオへと向かった。

散々読んだものの、内容は全く頭に入らない。なんだこの企画、誰が提案したんだよ。

 

相変わらず綺麗な廊下を進むと、「第一スタジオ」と書かれた標識と共に大きな扉が目に入った。入り口にはスタッフさんであろう大人たちが待っており、俺たちの名札を見るや否や、揃って挨拶をしてくる。

 

 

「お疲れ様です、みっくすのお二人と……あ、アリスさん?!本当に来てくれたんですか、当日逃げずにっっ」

 

「……お前、そんな迷惑系配信者みたいなことしてんのか」

 

「し、してないっ。ちょっと収録とか休んじゃっただけじゃない……直前に連絡したケド」

 

 

リアルアリスが珍しいのか、興奮した様子の女性スタッフを横目に、俺の後ろにピッタリと隠れるアリス。アリスが話しかけられているというのに、こいつは一度も目を合わせないどころかこうやってビビっている。コミュ障の極みだな、人のこと言えないけれども。

理沙さんに倣って簡単な挨拶をした後、スタッフさんに導かれスタジオへと入った。

 

 

「……デカいな」

 

「でしょう?これがウチの財力よっ」

 

 

アリスの金ではないだろ少なくとも、という言葉が上手く出ないほど、俺はスタジオの存在に圧倒されていた。

まず、想像以上に大きい。壁側や天井には、機材や光源が所狭しと並べられているが、それでも圧迫感がないほど部屋は広い。また何よりも目が惹かれるのは、スタジオの中央にある雛壇だ。テレビ番組のセットでよく見るあれ、と言えば分かりやすいだろうか。

 

俺たちはVtuberであって、実際にスタジオの様子が映る訳ではないから、ここまでセットに凝る必要性はないはずだ。俺も最初、台本に書かれたスタジオの様子を見た時、アリスに同じ疑問を投げかけていた。

 

 

『ふふん、まだまだね花咲。大人数の企画って、発言中に別の席から野次が飛んだりとか、ツッコミがあったりとかするでしょう?声と声の距離、音の方向。全部を配信画面上の構図と違和感がないようにするために、セットも配信画面と同じように作るのよ」

 

 

得意げに語るアリスも、自社の技術に誇りを持っている様子だった。

企画ひとつにここまでこだわる事ができる、それが業界トップたる所以なのかもしれない。スタジオにいるスタッフさんたちだって、丁寧にセットや機材の調整をしている。豊富な財力と人材を駆使しながら、よりクオリティの高いエンターテインメントを創出する。これは、現状のVtuber業界ではわんちーむしか実現することはできないだろう。

 

 

「よーく見とけよはちま……花咲。これが頂点の景色で、いつか追い越さなきゃならん壁だから」

 

「うす」

 

 

社長と理沙さん、三人でここまで歩んできた俺にとっては、沢山の大人が関わっているこの光景は新鮮で、驚くことばかりだ。Vtuberの企業を、これほど大きな存在へ押し上げたわんちーむの社長は、どんな人物なのだろうか。ふと、疑問に思った時だった。

 

 

「君が、花咲望くんだね?」

 

 

重厚な、低い男性の声。

そこにいたのは、真面目な雰囲気を漂わせる男性だった。眼光は鋭く、きっちりとした七三分け。皺ひとつないスーツは性格を表しているかのようで、どこか冷たい雰囲気すら感じさせる。

 

俺は彼を、よく知っていた。

 

 

「……お会いできて光栄です、白鷺社長」

 

 

白鷺白哉(しらさぎはくや)。名前から分かるように、やさいじゅーすさん……黒奈さんの父親であると同時に、Vtuber企業であるわんちーむの社長を務める人物だ。

多少なりともVtuberに触れていれば、彼の名前や容姿はどこかしらで見た事があるだろう。業界を牽引する重要人物として、ネット記事や動画に出演する姿は頻繁に見かける。それほどまでの人物を前にして、俺の口は自然と乾いていた。

 

 

「まずはひとつ、言わなければならない事がある」

 

 

畏まった様子で言った白鷺社長は、ツカツカとこちらに向かって歩いてきた。いや、俺というよりも後ろに隠れるアリスの方へ、だろうか。

なんやなんやと警戒していると、急にアリスの頭を鷲掴みにし、共に頭を下げてきた。

 

は?

 

 

「ちょ痛ぁ!!いたいいたいっ!」

 

「アリスのこれまでの非礼を、責任者として心からお詫びする。本当に、ほんっとうに申し訳ないっ!」

 

「なぁにやってんのよ社長!花咲は私のライバルだから、アリのぞコンビなんだからぁ!謝る必要なんてどこにもな痛ぁ?!」

 

「君が言っていい台詞じゃないだろう?!ほら、謝りなさいっ」

 

「何をよ、具体的に!」

 

「急に他企業様へ突撃したかと思えば、相談も無くコラボ配信をしただろう!それに、初手からオフコラボなどっ……ジョンの会社だから良かったものの、私やスタッフ達がどれほど胃を痛めたと」

 

 

「なぁ、花咲。何を見せられてんだこれ」

 

「俺が聞きたいっすよ」

 

 

謝罪かと思いきや、大声でレスバを始めた白鷺社長とアリス。先程までの厳格な雰囲気が台無しである。

騒ぎ散らしてはいるが、周りのスタッフさん達は気にも止めず、いつものことかと微笑んでいた。この会社怖い。

 

てかアリス、白鷺社長にはコミュ障発揮しないんだな。スタッフさんにはガチガチだったのに、今では解き放たれた闘牛のような騒がしさだ。

 

 

「驚きますよね、アリスさんはあまり心を開いてくれませんから」

 

 

呆然と眺めている俺たちに声をかけたのは、先程入り口で会話した女性のスタッフさんだった。機材を運んでいた途中で足を止め、苦笑いしながら言った。

 

 

「実は白鷺社長が、アリスさんのマネージャー業務を兼任しているんです」

 

「白鷺さんが?あの皇女様、専属マネージャーがいないんですか?」

 

「いた、が正しいですね。わんちーむはタレントに一人づつマネージャーが割り当てられる決まりなのですが、その。アリスさんはコミュニケーションを取るのが苦手で、あまり関係性の構築が上手くいかず……」

 

 

全部あいつのせいじゃねぇか。

 

 

「……白鷺社長がわざわざあいつのマネージャーしてるのって、なんか理由あるんすか」

 

「理由と言いますか、純粋に社内でアリスさんとまともに会話が成立するのが、白鷺社長だけだったと言いますか。ほら、同期の方々とも距離があるのは有名ですし」

 

 

結構辛辣だなこの人も。どれだけアウェイなんだよアリス。

まあでも、社長と話せるだけマシ……なのか?面接の際、白鷺社長にやりたいことを熱弁したってアリスのエピソードは有名だしな。白鷺社長とはかなり自然に会話している様子だし、完全な孤立ではなさそうだ。

 

 

「は、花咲っ!たすけてたすけて」

 

 

拘束から脱出したアリスは、慌てた様子で定位置へ戻り、俺の上着の裾をぎゅっと握った。おい一般オタクにその動作は刺さるからやめろ。眷属達に殺されんぞ、主に俺が。

 

 

「はぁ……花咲君、いつもすまない。アリスが実力あるVtuberなのは事実だが、どうにもコミュニケーションに問題があってね。こんな企画の場にいるのも、奇跡みたいなものだ。可能性を広げてくれた君には、本当に感謝しているんだよ」

 

「まぁ、迷惑はしてるっすけど」

 

「花咲ィ!」

 

 

暴れる闘牛をどうどうと宥める。殴るな俺の腰を、配信業には腰辛いんだわ。

 

 

「……それと、もうひとつ」

 

 

白鷺社長は俺にそっと近づき、小さな声で呟いた。

 

 

「黒奈の件、心から感謝している。花咲君に頼ってばかりで、情けない父親だが……黒奈もアリスも、君にしか救えなかったと思う。また改めて、理沙ちゃんを通じて何か謝礼を贈るよ」

 

「……いえ。黒奈さんには、恩がありますから」

 

 

ここでマッ缶一年分とかほざく勇気は無かった。いや要らないもの貰うくらいならマッ缶欲しいけども。

それに、黒奈さんに恩があるのは紛れもない事実だ。彼女ほどの知名度を持つイラストレーターが、無名の俺や企業の味方となってくれること。それがVtuberの世界において如何に貴重か、分からない俺ではない。

 

 

「では、今日の企画を楽しみにしているよ。アリス、台本は読んだね?コミュニケーションが苦手なのは分かるけれど、君の魅力はその隠れた大胆さだ。花咲君の手を借りて、十分に生かせるように願っているよ」

 

「わ、わかったわよ……」

 

 

アリスの目をまっすぐに見て、真剣な表情で伝える白鷺社長。その姿勢からは、社長としてタレントを想う気持ちがひしひしと伝わってきた。アリスも真剣な空気に当てられたのか、茶化すことなく聞いている。難しい立場とはいえ、人格者なのは間違いないようだった。

 

配信中もスタジオにいるから、と付け加えた白鷺社長は、後方で俺達を見守っていた理沙さんの元へ向かった。

 

 

「……理沙ちゃん。久しぶりだね」

 

「っ……お久しぶりです、白鷺さん。お元気そうで良かった」

 

「君はっ、本当に……いや、すまない。それはこちらの台詞だよ」

 

 

白鷺社長とウチの社長は学生時代からの友人で、理沙さんも含め長い付き合いがあるらしい。にしてはどこかぎこちない様子というか、白鷺社長が苦い顔をしているような印象を受ける。スタジオの端に向かっていく二人を見つめていると、アリスが服の裾をぐいぐいと引っ張ってきた。

 

 

「ねぇ、花咲」

 

「どした」

 

「……待機場所、行かなきゃダメかしら」

 

「……や、俺も行きたくないな」

 

 

待機場所とは、雛壇の前に整えられたテーブルと椅子があるスペースのこと。ケータリングとしてお菓子や飲み物が置かれており、配信が始まるまで参加者はそこで待機する予定となっていた。

既に待機場所にいるのは二人。恐らく今回のパートナーだろう。企画に参加するのは四グループだから、俺たちを含めて半分が集まったことになる。

 

ぼっち二人にはキツいだろ、初対面なのに一緒にいなきゃいけないの。クラス替えの際、初対面の隣と強制的に話さなきゃいけない時間を思い出したわ。女子だったらより地獄な、いや別に男女変わらねぇわ。男女差別はNGですよ!

 

 

「アリスさんと花咲望さんですね?後ほどお呼びいたしますので、時間まであちらで待機をお願いします」

 

「ハイ」

 

 

二人して棒立ちしていると、忙しなく動くスタッフさんに声をかけられてしまった。これは邪魔だから纏まってろと言っているようなもの。顔を見合わせた俺たちは覚悟を決め、決戦の場所へと向かった。

 

テーブルに近付いていくと、先にいたVtuberたちも気付いたようだ。驚いたような表情を浮かべてから、やけに高いテンションで声を上げた。

 

 

「おや!そこにいるのは麗しの皇女様じゃないかぁ!リアルで会うのは何ヶ月ぶりだい?相変わらず美しい、完璧な女性だぁ。同期なんだからもっとボクに甘えてくれたまえよぉ」

 

「王子様っ、なんで別の女にそんなことゆーの!王子様はひなだけの王子様なのにっ!……殺すよ?」

 

「ははっ、面白いことを言うじゃないかひなぁ。君はボクを殺せないさ、なんたってボクのことが大好きなお姫様なんだからねぇ」

 

「……だいすき」

 

 

帰ろうかな。

 

 

「もう。んん、アリスちゃん!久しぶりだねっ」

 

「……ぶり」

 

 

ぶりってんじゃねぇよ。切り抜き方次第でギリセンシティブだろ。

知り合いらしい二人を前にしても、アリスは相変わらず俺の後ろに隠れている。コミュ障極まってんな。

 

 

「皇女様がそこまで懐いているところを見るに、君は噂の花咲くんだねぇ。自己紹介をしよう!ボクは___」

 

「……知ってますよ。わんちーむ三期生の、王子ルカ(おうじルカ)

 

「……おや。ボクの輝きがそこまで広がっていたとはね、嬉しい限りだよぉ」

 

 

短く切り揃えられた髪をかき上げながら、キザな表情を浮かべる黒髪高身長のイケメン。

このウザったい口調やナルシストな発言。わんちーむという箱が好きなリスナーであれば、大体はこいつのことを知っているだろう。

 

___王子ルカ。

女性Vtuberしかいない箱でありながら、イケメンムーブをかます珍しい立ち回りを、デビュー当初から担っている人物だ。お察しの通り王子ルカも女性である。だからこそ、同じ企業のVtuberを配信中にナンパしたり口説いたり、ある種特異的な行動が許されているVtuberだ。

そんなムーブをしたら、男性リスナーに嫌われそうなものではあるが。彼女の中性的なルックスや時折見せる可愛らしさが支持され、曲者揃いの三期生の中でも確固たる地位を築いているのが、王子ルカという人間だった。

 

容姿といい口調といい、Vtuberの姿とほとんど変わらないな。

 

 

「あのぉ、初めましてですよね。いつもアリスちゃんがお世話になってます。わんちーむ三期生の、姫宮ひなと申します」

 

「ご丁寧にどーも。花咲望です」

 

 

続けて丁寧に挨拶をしたのは、王子ルカと夫婦漫才を繰り広げていた少女だった。

第一印象は「The地雷系」だろうか。ピンクと白を貴重としたふわふわの服に、濃いめのメイク。けれど元の顔が相当整っているのだろう、メイクや服装にも負けていない顔の良さがあった。王子ルカと同じく、Vの姿とほぼ変わらない。

 

 

「ふーん、腐ってはいるけど中々いい目をしているねぇ。王子ポイントあげちゃおう」

 

「王子様、また浮気?殺すよ」

 

「ははっ、面白い冗談だねぇ」

 

 

唐突にピリつくのやめろよ、てか腐ってるは悪口な普通に。

ほら、アリスだってこんなにビビって……いやこいつずっと隠れているだけか。

 

この夫婦漫才というか、ジェットコースターのようなやり取りこそが彼女たち、ルカひなと呼ばれるコンビの特徴だ。一見すると常識人の姫宮ひな、イカれ枠の王子ルカであるが、二人だけの会話になると途端に逆転する。静かにブチギレるお姫様と、スレスレで回避するも馬鹿さが透けて見える王子様という関係性のスリルが、リスナーには大いにウケているようだ。この企画に向けてめちゃめちゃ調べました。

 

 

「いやあ、こんなところで三期生が集まるなんてね。あの子(・・・)も参加するから、ようやく三期生全員集合だ」

 

「嬉しいなっ。特に、その。アリスちゃんが来ることなんてほとんど無いし」

 

 

そういや、アリスがコミュ障すぎるせいで三期生全員のコラボは開催されないんだっけか。いつぞやの配信で眷属に教えて貰った記憶がある。現に今も、同期たちと話す素振りすら無いし。

 

 

「……お前、もっと話してやれよ」

 

「……むり」

 

 

白鷺社長と話してた時の威勢はどうした、しおらしくなっちゃってもう。

俺の影に隠れて会話しようとしないアリスに、流石の同期も苦笑いだ。

 

 

「しかし、花咲くんはどうやって皇女様を手懐けたんだい?ボクの王子様オーラも効かない素敵な女性を口説いたきみの手法、是非後学のためにお聞きしたいところだねぇ」

 

「……後学?ねぇ、王子様」

 

「皇女様と打ち解けるのは、ボクら三期生の全員が願ってることでねぇ。中々上手くいかなくて困っている時に、きみという光が突如現れたものだから、それはそれは驚かされたよぉ」

 

「無視?ひなを無視してる、ねぇ」

 

 

可愛らしい顔を歪ませながらキレる姫宮ひなと、気付いているのか気付いていないのか、スカした顔で話を続ける王子ルカ。

おお、リアルでもこのやり取りするのか。眼福眼福。

 

 

「……さあ、相性良かったんじゃないっすかね。俺もぼっちだし」

 

「類は友を呼ぶ、ってやつかなぁ。あ、そうだ。皇女様の友人なんだ、ボクたちにもタメ口でいいよ。ね、ひな」

 

「えっ、ああもちろんっ!私たちも仲良くなりたいな、花咲くんと」

 

 

なんだこの距離の詰め方、陽キャじゃねーか。

二人とも時折見せる異常性を除けば、人当たりはいいし明るいしでいいところ尽くめだ。しかも、本人たちに「仕事だから」とか「数字のため」だとか、計算高い気持ちを感じられない辺り、アリスも二人の扱いが難しいのだろう。良い意味でも悪い意味でも、アリスに同情してしまう。

 

まあただ、ここで申し出を断るほどの狂人ではないので。

 

 

「おう、よろしく。姫宮、王子」

 

「うん、よろしくねっ」

 

「今後とも仲良くしようじゃないか。まずは今日、最高の企画にしよう」

 

 

おお、俺にしては珍しくスムーズに会話できている気がする。これがっ、Vtuberで獲得したスキル……!私がビーターとしてこの世界をクリアします、遊びでは無いので。インテリキリトさんに需要はあるのかよ。

 

それからしばらく、俺たちは簡単な雑談で時間を潰した。雑談とは言っても、相も変わらずのコントを繰り広げるルカひなと、それらを眺めるアリのぞという構図ではあったが。俺とアリスに至っては、ぶつくさ呟きながら二人して冷笑しているだけだったし。いや隠キャすぎるだろ。

 

 

スタッフさんの数が増え、スタジオも賑やかになってくる。いよいよ本番が近づいてきたという緊張感に包まれていると、スタジオが一瞬ざわめいた。

 

 

「なんだ?」

 

「・・・・・・来たわね」

 

 

挨拶に応えながらスタジオに入ってきたのは、車椅子に座る女性と、車椅子を押す男性の姿。

特徴的とも言えるその光景を見て、俺だけでなくこの場にいる全員が、彼女らが誰であるのかすぐに理解した。

 

 

「あら皆様お揃いで。ご機嫌ようですわ〜!」

 

「こらこら、お屋敷じゃないんだから声抑えて。遅くなってすみません、共演者の皆さん」

 

 

車椅子、お嬢様。

その特徴に該当するVTuberは、界隈全体を見渡してもたったひとりだ。わんちーむ二期生、アリスや王子たちの先輩であるVTuber。

 

 

「そちらにいる殿方は初めましてですわね!わたくしは九条麗華(くじょうれいか)ですわ、もちろんわたくしの名前はご存知ですよね!ねえ!」

 

「こら、無理に迫るのは止めろとあれほど・・・・・・ごめんね、麗華は強引なところがあって」

 

 

九条麗華。

わんちーむの二期生という実力派揃いの面々の中でも、一際濃いキャラクター性を持つ人物。熱血というかなんというか、行動的な性格の彼女だが、特に有名なのは車椅子ユーザーである、という点だ。

 

幼い頃から身体的な問題で車椅子を使う必要があって、長年足が不自由な生活を送ってきたらしい。それはVTuberとしての姿にも現れていて、白に近い銀髪縦ロールの美少女が、車椅子に乗っている姿が印象的だった。

とはいえ、九条麗華のあまりに行動的すぎるエピソードの数々や、その強気な言動も相まって、ファンの中でも本当に車椅子を用いているのかは意見が割れている様子だったが。

 

 

「・・・・・・車椅子なの、本当だったんだな」

 

「ん、知らなかった?色々言われてるけど、九条先輩の話すことは全部本当よ、たぶん」

 

 

アリスにこっそり伝えると、当然のような顔をして答えた。

九条麗華については、社内で有名な話なんだろうな。容姿も銀髪が黒髪に変わっただけで大きな違いはないし。

 

それで。九条麗華の隣にぴったりと仕えながら、俺に謝罪をしてくれた男性。茶髪に緩いパーマをかけた、いかにも大学生の優男といった雰囲気だ。

 

 

「ええと、アリスさんのパートナーの花咲望さんだよね?初めまして、僕は個人勢でVTuberやってる、橘って言います。ごめんね、麗華はちょっと強引なだけで、悪い子じゃないんだ」

 

「・・・・・・ご丁寧にどーも。お二人のことは知ってます、有名なんで。みっくす所属の、花咲望です」

 

「花咲っ!いい名前ですわ〜!貴方にそのお名前を付けた人は、さぞいい感性をお持ちなのでしょう!」

 

 

でへへ、実は僕が付けたんです。キモイか。

 

この場にしては珍しく個人として参加しているのが、橘と名乗った彼だ。確か北条麗華の幼なじみで、昔から足が不自由だった彼女の身の回りの世話していた、執事的なポジションだった記憶がある。

正直、俺が詳しいのはわんちーむのVTuberだけだから、彼についてはあまり知らない。女性Vである北条麗華に、そこまで距離が近い男性なんて炎上しそうなものだが、俺が知らないエピソードでもあるんだろうな。

 

 

「この企画に参加する男性、僕と花咲さんだけだからね。正直肩身が狭かったから、花咲さんがいてくれて嬉しいよ」

 

「それは本当にわかるっす。助かりました、本当に」

 

 

それあるー!と内なるギャルが身を乗り出すほどの共感だった。台本に記載された参加者一覧を眺めた時に驚愕したものだ。あれれ、ベストパートナーとか言いつつ男ほぼいないやん、と。

女性限定箱のわんちーむとコラボできる男、という時点で限られるのは明白だし、俺自身VTuber界隈の中でもマイノリティ側であることは自覚しているが。こうして外部の企画で実感させられると、より気まずいというか。

 

 

「わかってくれて嬉しいよ。VTuber、オトコ、ツライ」

 

「橘さん」

 

 

涙ぐむ橘さんと、強く漢の握手をした。

大企業の企画に呼ばれる程の成功者とはいえ、やはり男性に厳しいVTuber界隈。この人も相当の苦労をしてきたようだ。わかる、わかるよ。

 

どれだけエンタメ性に富んでいても、男性Vと女性Vでは伸びやすさが雲泥の差だからな。ウチの蕾とかやさいじゅーすさんの数字を見ても明白だろう。

涙を流しながら通じ合う俺たちに対して、アリスや北条麗華はシラケた視線を向けている。君たちには分からないんだ、この感情がァ!

 

 

「わたくしは席のセッティングがありますので、お先に失礼しますわ。橘、お願いしますわ〜!」

 

「はいはい、お嬢様。企画頑張ろうね、花咲さん。・・・・・・炎上しないように」

 

「頑張りましょう、まじで」

 

 

俺たちの目的は、盛り上げるよりも無事に配信を終えることだからな。男性Vにとってこの企画は地雷です。いくらアリのぞが恋愛的な目線で見られていないコンビとはいえ、男女関係の炎上はよく燃える。

 

 

「相変わらず北条先輩は、嵐のようなお嬢様だねぇ」

 

「でも、すっごく面白いよねっ。ひなたちも頑張らないとっ」

 

 

闘志を燃やす王子と姫宮。この二人も、企画に対するモチベーションは高いようだ。

 

 

「・・・・・・帰りたいわ」

 

 

俺のパートナー様は低いわ。それでこそアリス・オミソルシル。居心地が良すぎるなこいつの隣、これがぼっちシンパシーか。

 

王子たちの様子を見るに、やはり三期生にとって二期生という存在は偉大なようだ。俺からすればこいつらも十分イカれ枠というか、個性が強すぎるメンツが集まっているように感じるが。

 

 

「なあ。アリスは二期生のVたちと面識あるのか?そこまで驚かれて無さそうだったが」

 

「活動初めてすぐに、ちょっとね。ウチの会社って、デビューして一ヶ月目くらいで公式の配信に参加する流れがあるのよ」

 

「新人紹介的な?」

 

「そうよ。インタビューして、先輩と話してみるとかの企画。その時に北条先輩も、他の二期生にもリアルで会ってるの」

 

 

人数が多いと、初対面でそういう企画も組めるのか。

みっくすは謎のマルイクラコラボが、蕾との初対面だったからな。意味わからんわ今思うと。

 

 

「・・・・・・それ、ちゃんと会話できたのか」

 

「・・・・・・できると思う?」

 

 

余計なこと聞いたわ。会話できるワケが無かった。

流石箱内コラボでミュートして眷属と話し始めた女だ、面構えが違う。

 

 

「懐かしいなぁ、すっごく緊張したもん。ね、王子様っ」

 

「流石のボクでもハードル高かったからねぇ。二期生はヤバいぞ、わんちーむのVtuberはヤバくなきゃ、っていう認識があったから」

 

 

俺とアリスの話を聞いていた二人も、しみじみと頷いた。

大型の企業特有の悩みではあるだろう。なまじ先輩達が成功者として活躍しているからこそ、並ばなければというハードルは確かに存在する。

 

そう考えると、リスナーが簡単に使う「ヤバい」っていう褒め言葉は、Vtuberの首を絞めてしまうのかもな。これほどまでに他者依存で、無責任なレッテルは中々存在しないのかもしれない。

 

 

「ちなみに、配信はどんな感じだったんだ?」

 

「えっ。そのぉ、ちょっとというかだいぶトラウマではあるかな〜、なんて」

 

「君のパートナー様が、ちょっとね。これ以上はやめておこうかぁ」

 

「アリスお前何やらかした」

 

「知らない知らない」

 

 

イヤイヤと首を横に振るアリス。百兆年っぽい歌詞再現するなよ。皇女様じゃなくて忌み子だったのかもしれん。

 

検索してやろうとスマホを取り出すも、アリスが俺の体に絡み付いて必死に止めてくる。こら、皇女様がそんなはしたないことするのはやめなさい!男子高校生には刺激が強いですわ〜!

イナジマリー北条麗華を宿しながらアリスを揶揄っていると、甲高い声がどこからか聞こえてきた。

 

 

「おおっ、お主らではないか!!早く、早くわらわを助けるのじゃあ〜!」

 

「あ!ルナナちゃんだ」

 

「これで三期生全員集合だね」

 

 

慌てた様子で駆け寄ってきたのは、アリスとほとんど変わらない背丈の少女。暗い紫色の髪を丁寧に編み込んでる姿と、特徴的な口調から誰かなのかはすぐにわかった。

三期生最後のひとり、神楽ルナナ。小町が推してるとかで、しきりにサインをねだっていたVTuberである。

 

 

「なにを呑気なことを言っておる!今わらわは命の危機に瀕して・・・・・・ひいっ?!」

 

 

咄嗟に、身長の高い王子の後ろに隠れた神楽ルナナ。俺たち四人は顔を見合せて、何にそこまで怯えているのかと不思議がったのも束の間。

 

 

「なぜ逃げるのですか、ルナナちゃん。わたしと貴女は今日、ベストな!パートナーなのですから逃げる必要はないでしょう?ふふ、怯えなくていいですよ。可愛い可愛いロリはわたしが保護してあげますからね」

 

「ひいいいい!何故わらわがこやつとパートナーなのじゃ?!意味わからんじゃろ企画したやつ!」

 

 

「・・・・・・一ノ瀬、華蓮」

 

 

彼女が誰かなんてすぐに分かった。

ずっと見てきた。VTuberという存在を知ったのも、この世界に憧れたのも。俺にとっては貴女が全ての始まりで。

憧れのVTuberが、目の前にいた。

 

____随分とその、キマった目をしながら。

 

 

「むっ、そこにいるのはアリスちゃん?!かっ、かわいい!やっぱりロリっていいなぁ・・・・・・あっ、隠れなくても大丈夫ですよ。男性の影に隠れ・・・・・・男性?」

 

 

ロリばかりを追いかけていた視線が、俺へと向かってくる。

一ノ瀬華蓮の目が合った。あの、一ノ瀬華蓮と。

 

 

「・・・・・・ども」

 

「アリスちゃんが、そこまで近寄る男性ということは。もしかして、貴方が」

 

 

ずい、と距離を縮めてきた一ノ瀬華蓮。リアルでもその美しさは変わらず、彫刻のように顔が整っている。そんな彼女に真正面から視線を向けられては、直視することができず逸らしてしまった。

 

 

「花咲望さん。わたしは貴方を、許すことができません」

 

「は?」

 

「貴方は、敵です」

 

 

憧れのVTuberは、俺を睨みつけてから去っていった。

そうだ、アリスの初体験(語弊しかない)を奪ったとかで、一ノ瀬華蓮に恨まれているんだった。現実逃避しすぎて忘れてたわ。

 

 

「帰るか」

 

「うん。帰りましょ花咲」

 

 

普通に理沙さんに止められました。まる。

こうして、ややこしい因縁や関係性しかない地獄の選手権が幕を開けた。

 

 




大量にオリキャラ投入の回でした。VTuberをテーマにした二次創作となると、どうしてもこうなっちゃいますね、、、

たくさんの感想ありがとうございます!待ってくれていた方がいらっしゃったことにまず感動しました!全部大切に読んでおります。

頑張って、早く更新したいンゴ〜
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