やはり俺がVtuberになるのはまちがっている。 作:人生変化論
長かったベストパートナー選手権もついに終盤。
初対面の印象クイズを終えてからも何度か問題が続き、第一部において開いていた得点差は縮まるどころか、むしろ逆転し差が開くこととなった。
ぶっちぎりで一位だったはずの一ノ瀬花蓮、神楽ルナナのペアは最下位へと墜落。幼馴染の絆を見せつけた北条麗華と橘がトップを走り、二位の俺とアリス、三位の王子ルカと姫宮ひなのペアが後を追いかける結果となっていた。
「やっぱりわたくしたち、最っ強ですわ~!橘ァ、このまま駆け抜けますわよ!」
「はぁ、はぁ......そ、そうだね麗華」
テンション最高潮のお嬢様に振り回される執事モドキ。暴れるお嬢様を乗りこなすどころか綱で振り回されているまであるな。どこのペアのお嬢様も暴れん坊ばっかで困る。
「王子様っ!絶対に勝つからねっ!王子様を年間売上ナンバーワンにさせるんだからっ!シャンパン、シャンパンをっ」
「ひ、ひな?ここホストクラブじゃないからさその」
「花咲ィ!絶対に勝つわよっ!アリのぞ馬鹿にしてる奴らの顔面ぶん殴ってやるんだから!」
「別に馬鹿にしてる奴そんないないと思うぞ」
お嬢様方に振り回される男性(?)陣。
おい姫宮、風営法改正されたんだからナンバーとか言うなよ。数字じゃなく人情です、歌舞伎町は。裕典君、利他的な行動だよ利他的なァ!
イマジナリー軍神マインドを身に宿していると、カオスな状況を見かねた、司会を担うメロルンが声を張り上げた。
「黙れぇぇぇぇぇ!」
アイデンティティの語尾は何処へ。
「ああうるさい、うるさいメロな~。盛り上がるのはわかるけど、限度ってもんがあるメロ。ほらお前ら、しなしなの花蓮を見習うメロよ」
「ザコ......私はザコです......」
「逆にやりにくいんじゃが」
第一部では絶好調だった一ノ瀬花蓮だが、第二部のパートナー度検査によってフルボッコにされ、既にしなしな状態だ。しかも不正解の内容は、神楽ルナナは正解しているが、一ノ瀬花蓮側が不正解であるという結果ばかり。不甲斐ない結果と、ロリからの冷徹な視線によって感情はぐっちゃぐちゃである。
「気を取り直してっ!さぁさぁ、白熱した勝負もこれで最後メロ!!最終問題の特別ルール、順位が低いペアほど正解したときの倍率が高いメロ、諦めずに行くメロよ~」
「おっしゃあ絶対正解しますよルナナちゃん!」
「おぬし声でっか!!」
クイズ番組ではお決まりの特殊ルール。配信を盛り上げるための予定調和だ。ここを乗り越えれば長かった企画も終わりだと、もう一度気合を入れなおす。
「最後の問題は~、『パートナーとしたい企画は?』メロ!」
・むずいな
・企画かぁ
・配信か動画かによるな
・イベント系でも行けそうか
・どれだけ雑談してるかやな、パートナーと
「今コメントでもあったメロが、企画は配信でも動画でも、なんならリアルイベントでもおーけーメロ。言い換えるなら、『パートナーと一緒に、Vtuberとして一緒にしたいことは?』メロ」
最後こそくだらないクイズかと思ったのに、想像以上に真面目な内容だ。
手元の端末に向き直るが、俺もアリスも揃って手が動かない。雑談か、それとも前に流れてしまったホラゲー配信?回答はアリスに寄せるべきか?
正解が出ず辺りを見渡す。最終問題に頭を悩ませているのは俺たちだけではない。王子と姫宮、一ノ瀬花蓮と神楽ルナナも揃って手を止めていた。
しかし、そんな空気の中でも飄々と微笑むお嬢様がひとり。もう回答を終えたのだろう、自信たっぷりな表情で佇んでいる。横の橘さんでさえ、苦笑いしながらも既に手からペンは離れていた。
「おーほっほ!これはもう、わたくしたちの完全勝利!!橘、凱旋っ!凱旋ですわ~」
「たはは......」
「何故あんなに勝ち誇ってんだ」
「知らないわよ」
高笑いする北条麗華。噓だろ、幾ら最終問題が点数倍増するとはいえ、あいつらが正解したら勝ち目無いぞ。
「花咲。きっと私たちなら大丈夫」
「その心は?」
「アリのぞは、こんなとこで終わるパートナーじゃないわ!Vtuberの世界を制覇するんだからっ。私と、あなたでね!」
眩しかった。
俺だって、相当の熱量を持ってこの世界に挑んでいるはずだ。結果が出ない未来も、高校時代を無駄にする後悔も、常に心のどこかにちらついて。理想を抱き、漠然とした期待のままひとつのコンテンツに人生を賭ける。俺らしくない、利益も覚悟も、何ひとつ見合っていない行動。
けれど、一度やると決めたんだ。相応の覚悟を持って挑んでいるはずだった。
それでも、彼女は。アリス・オミソルシルは。
「俺も、自信はある。この問題は、きっと合ってる」
「そうよ!」
最高にカッコいい、年下の先輩だ。
回答を送信し終わると、メロルンが終了の合図を呼びかけた。どうやら俺たちが最後だったらしい。
「泣いても笑ってもこれが最後!さあ、まずはこの変態ペアメロ!」
「おいわらわを一緒にするなっ、変態で括るんじゃない!」
「ゼッタイニ勝つ」
「賢者タイムなるんじゃないわ」
最初の解答者はカレナナのふたり。まあ、ここまでの結果から正直察してはいるけれども。
「同時にイキますよ?せーのっ」
「裁判リアルタイム配信」
「ドキドキ!デートプランを考える配信っ」
そらそう。
・知 っ て た
・あまりにも予定調和
・合うわけがないんだよなぁ
・現行犯逮捕です
「ルナナちゃああああああん!」
「叫ぶな叫ぶな、わらわにおぬしが合わせればいいじゃろう。あれれ~、自認清楚系JK(笑)には無理か~。ざーこざーこ」
「きっ、気持ちいい......」
・酷い絵面
・おおよそ公式配信でやっていい言動じゃない
・こんな嬉しくない美少女の絶頂があるか
・ギリ引くが勝つ
勝敗には全く興味がなかったのであろう、色んな意味で勝ち誇る神楽ルナナと、悔しいやら罵倒が嬉しいやらで表情を歪ませる一ノ瀬花蓮。これもう特殊プレイだろ。
まあ、これでアリスを賭けた勝負(?)には勝ったわけだが、企画における敵はまだ残っている。折角ここまで来たんだ、最後まで見届けよう。
「雑魚メロ、雑魚メロな~。それじゃあ次は、ルカひなのふたりメロ」
「行くよっ、王子様!」
「うん。ボクとひななら余裕さ。せーのっ」
「
「
うーんこれは......?
生誕祭、という大枠自体は同じだが、肝心の対象が異なっている。正解と言えば正解だし、これはダメだと言われればそれまでな気はする。ここまで回答が似るのは素直に凄いけども。
「まぁ、ちょっとギリギリの回答ではあるメロが......今回はふたりの絆に応じて正解にするメロ!下位からの下剋上、こんな盛り上がる展開はないメロ!」
「やっぱり私と王子様がさいきょ~っ!生誕祭の時はお写真いっぱい並べて、ケーキ特注して、高級ホテル予約して飾り付けて」
「ひな?それ同業者っていうより熱心なファンの子がやってくれるやつだから。あんまり配信ではやらないかもだからっ!」
・押される王子ルカが見れるのはルカひなだけ
・姫宮さんの方がやばいんかww
・そのギャップが良いからな
・実はルカ様、押しに弱い性格してるからな
・可愛く見えてきたぞなんか
得点三位であったルカひながまさかの下克上。ここに来て一位に躍り出た。
話が変わってくるぞこれは。元々一位の北条麗華と橘ペアとは差があったから、互いに正解したとしても、俺たちだけ不正解でも二位には入れる計算だった。
けれどルカひなの結果により、二位以上に入るには最終問題の正解が必須になってしまった。
「さあ、次は麗華と橘メロ!随分と自信がありそうメロが、どうなることやら」
「ふっ、わたくしと橘の歴を舐めないでいただきたい!有象無象のパートナーより、遥かに長い時間を過ごしているのです!こんな問題なんて余裕ですわ~!」
「あんまりフラグ立てないでね」
・ここのパートナーって結局どういう関係なん?
・幼馴染だよ
・恋人とかではないんか
・初期にめっちゃ疑われたけど、明確に否定してるっぽい
・最初はユニコーンもいたからな。嚙みつかれてめんどくさそうやったわ
・今や絶滅させたからなw
調子に乗りまくってるな。これはガチの自信があるのか、フラグなのか。
「いきますわー!せーのっ」
「最強お嬢様Tier表づくり!ですわ!」
「お嬢様と執事による、Vtuber格付けチェックだね」
いや間違うのかよその威勢で。
てかなんだよTier表に格付けチェックって。パクリだけど普通に面白そうだなおい。
「橘ァ!なんですのそのき、かく......ハッ!まさか!」
「絶対忘れてると思ったよ、もう。ついこの間の配信で、キミが格付けチェック一緒にやってみたいって言ったんだろう?」
「わっ、忘れていましたわー?!」
・なんやねんww
・お前が忘れるんかい
・じゃあ何の根拠もない自信だったじゃんw
・なんだこれwww
・橘さん可哀想だろ!!!
「気持ちいいメロ~!調子乗ってるやつが足挫くほど気持ちいいものはないメロ!」
流石にワールドチェンジ、話が変わってくる。
これでルカひなは二位以上確定。最終問題に入る前までの得点は俺たちが勝っていたから、ここで正解できれば総合一位すら見えてきた。
静かに隣のアリスを見る。
考えることは同じだったのだろう、彼女も俺の方を強い視線で見上げていた。
「さあさあさあ!いよいよ最後、運命の時間メロ!正解すれば勝ち、ダメなら敗北!そんなアリのぞの回答は〜?」
「……行くぞ」
「勝つわよ」
互いに頷き合い、前を向く。
「「せーのっ」」
・・・
「以上で企画終了になりまーす!演者の皆様、スタッフの皆様、ご協力ありがとうございましたー!」
わんちーむのスタッフさんがそう呼びかけ、長かった「Vtuberベストパートナー選手権」もついに終わりを迎えた。
待機場所に戻った俺たちの前では、スタッフさんたちが慌ただしく動き、スタジオのセットを撤去している。やり切ったという達成感と、心地いい疲労感に身を任せながらぼーっと眺めていると、隣から楽しそうな声が聞こえた。
「ふふっ」
魔界の皇女様は、選手権の優勝賞品として貰ったトロフィーを抱えて、嬉しそうな笑顔を見せている。
俺の手にもあるこれ。大袈裟な金ピカで、配信では写真でしか映らないからって作りはチープだ。それでもアリスは、トロフィーを宝物のように抱きしめて微笑んでいた。
「……良かったな、無事勝てて」
「ふんっ、当然よ!私とあなただもの、最強のパートナーに決まってるわ」
ぶいっ。とVサインを俺へ向け、勝ち誇るアリス。勝ったことがさぞ嬉しいらしい。
今回の企画は俺にとって大きすぎる一歩だった。Vtuber界隈と繋がりを持つという意味でも、数倍どころではないリスナーを前に配信するという意味でも。
けれどそれは、アリスにとっても同じだ。
コミュ障が故に箱内企画にほとんど参加せず、独自のリスナー層で人気を築く彼女。いつの間にか異性とコラボして、先輩同期との繋がりを得て。それを進歩と言わずして何と呼ぼうか。
人によってはそれを、退化と呼ぶんだろう。「変わっちまったな……」なんて厄介面してくるリスナーも現れるんだろう。けれど、今日で確信した。
アリス・オミソルシルは強い。不安も失望も全部吹き飛ばして、前へと進んでいく強さがある。
「……なによ、人を見て笑っちゃって」
「いや、別に」
感情を隠すため、強引にアリスの頭を撫でる。
げしげしと膝を蹴られるが気にしない。通話上だと普通なんだが、小町と背丈が似ているからだろうか、対応も気が付いたら似てしまうんだよなあ。
「花咲くん、アリスさん。企画お疲れ様」
待機場所を訪ねてきたのは、共演者の橘さんだった。
「お疲れ様っす」
「……デス」
Deathじゃねえよ殺すな。
「優勝おめでとう。いやあ、本当に今回は美味しい展開だったね。下剋上からの大逆転続き、だいぶ面白かったんじゃないかな」
「正直、最終問題を橘さんたちが外してくれて助かりました。正解だったら、もう結果見えてたんで」
「一応打ち合わせはしてなくて、偶然だったんだけどね。麗華のエンタメ力というか天然というか……持ってるでしょ、彼女」
「はい」
まあ、良くも悪くも女性陣が強すぎるな。
今回の企画に限らず、今のVtuber界隈全体に言えることではあるが。
「無事に終えれて良かった、本当に。花咲くんっていう、数少ない仲間に出会えたのもラッキーだしね。今度何か一緒にやろう、後でDM送っておくからさ」
男子禁制のみっくすと絡みながら生き残っているだけあって、やはり橘さんは立ち回りが上手い。配信上では出しゃばることなく基本受け身、求められた部分だけ自我を出し笑いをとる。
今後、アリスを含めたみっくすの面々と関わるのであれば、俺が参考にすべきは彼だろう。
「ね、花咲くん。きみは今後のVtuber、特に男性Vtuberはどうなっていくと思う?」
僅かに俺へと顔を近づけ、真剣な表情で問いかけた。
「……今の視聴者層なら、男が台頭するのは難しいんじゃないすかね。勢力図を書き換えるなら、それこそ、Vtuberそのもののターゲット層を変える必要がある」
「そうだね。その通り、きみの考えは正しい。______けどね」
「僕はそう遠くない未来、男性Vtuberの時代が来ると思っている」
夢物語だ。
Vtuberは女性一強、箱だってみっくすがぶっちぎっている。
俺がここまで伸びたのも、やさいじゅーすさんやアリスの力ありきだし、同期の蕾にだっていつ追い抜かれるかわからない。
けれど、橘さんは本気だった。心からの言葉だと、瞳が語っている。
「ゲーム配信の需要、eスポーツの台頭。最近だとストリーマーなんて言葉も出てきてる。それに、Vtuberのマネタイズのモデルは、アイドル業なんかとそう変わらない。もし彼らの視線が、一斉にVtuber業界へと向いたら」
「それはきっと、男女の勢力図を書き換える大きな流れになる。そうは思わない?」
男性Vtuberの時代。
女性Vが活躍し、男オタクがそれを応援する。俺が通ってきたのはそんなVtuber界隈。それが俺にとっての当たり前だったし、自分自身がVtuberになることに最初は抵抗も不安もあった。だからこそ、黒歴史暴露やぼっち系での売り出しなど、多少強引な手を使っても俺という存在をアピールした。男性Vtuberは、未だにイロモノとして扱われるから。
橘さんの思想は、そんな固定観念に囚われていない。
リスキーだと思う。男Vの時代なんぞ来ないとも思う。それでも、一概に否定できない、したくない俺がいて。
「もし未来が正しく実現したら、先頭に立つのは誰になる?______僕たちだ。不遇の時代を生き抜いて、性別なんて関係ないエンタメを提供する。それをやり遂げたらきっと、僕たちは唯一無二の地位を得る」
俺から身を離し、柔らかな笑顔を見せた。
「花咲くん。きみには、それだけの存在になる可能性があると思うんだ。だって、きみは本気だろう?趣味だとかお金だとかの為にVtuberをやってない。夢があるから」
『世界を変えるVtuberになる』。社長と理沙さんから受け継いだ、無謀な夢。
拗らせたただの男子高校生が憧れてしまった、Vtuberの到達点。
そうやって走り続けてきたからこそ、橘さんの言葉はやけに心に残った。
「敗北も立派な勲章!楽しければ万事おーけー!ですわ!それでは皆様ごきげんよう〜!橘ァ、行きますわよ〜!」
「はいはい。ごめんね、ウチのお嬢様がお呼びだから。じゃあね、花咲くん。またどこかで」
呆れたような表情を浮かべて、橘さんは北条麗華と共にスタジオを去った。
俺よりも長く、男という難しい立場でこの世界に挑む人。柔らかな表情の裏に、底なしの野心を抱える男。彼とはまたどこかで必ず会う、そんな予感がした。
……なんか、変に緊張したな。やはり人と話すのは疲れる。ぼっち最強ですわ〜!
イマジナリー北条麗華を身に宿して遊んでいると、次はみっくす三期生組が訪ねてきた。
「アリスちゃん、花咲くんっ!お疲れ様だよ〜」
「優勝おめでとう。負けたのは癪だけど、キミたちのエンタメパワーは尊敬するさ」
「配信前は挨拶できなくてすまんかったのじゃ、花咲望。あの変態がいおってからに……」
まーた騒がしくなりやがった。
疲れたのかぺしょぺしょの姫宮に、謎に上から目線の王子。ようやく一ノ瀬花蓮から解放された神楽ルナナの三人だった。
「あれ?ルナナちゃん、花蓮ちゃん先輩はどこ行ったの?」
「絶望しながら帰ったのじゃ。『花咲望さん、次は負けません……』って捨て台詞を残して」
「さながらライバルキャラのようだね……」
なんで次がある前提なんだよ。結局和解できなかったしで無限ループじゃねぇか。
アリスぅ!早く一ノ瀬花蓮と仲良くなってくれぇ!
「それにしても最終問題は痺れたよ。花咲くん、あれは事前に打ち合わせでもしてたのかい?」
「いや、全くの偶然だな。俺もアリスも、お互いに相手の回答に寄せたらああなってた」
「見せつけてくれるじゃないか、このこの。落ち着いた顔して案外プレイボーイだな」
うりうりと肘でアタックしてくる王子。
王子様ムーブとはいえ、容姿はクール系の美少女なので普通に恥ずい。てかアリスも含めて顔面偏差値高すぎだろ、俺を除いて。Vtuberなんて中の顔に左右されないのがメリットなのに、普通に顔整いなのなんだよ。
「アリスちゃんも、優勝おめでとうだよ〜」
「……ありがと」
厚底を履いているからか、アリスよりも僅かに背が高い姫宮が膝を曲げ、ハイタッチをした。
アリスも顔は俯いているが、恥ずかしそうに手を合わせている。うーんやはり百合、百合は全てを解決する……。
遠かった三期生の距離も、今日リアルで会ったことで少しは近づけただろうか。
「ありがとうなのじゃ、花咲」
「ん?」
「わらわたち同期は、初コラボ以外一回も集まっておらんかった。今後も集まる機会なんてないじゃろうと、正直諦めていた」
神楽は、目の前の光景を見て目を細める。
楽しそうにジャレつく姫宮に、恥ずかしがりながらも拒絶はしないアリス。ふたりを茶化して笑う王子。
彼女ら三期生からすれば、考えても見なかった景色だ。
「それを変えてくれたのは、おぬしじゃ。おぬしがアリスを外の世界へ連れ出してくれた。その一歩は、わらわたちの誰にもできなかったから」
「……俺は流されてただけだ。全部、アリスの勇気だろ」
俺たちの事務所に突撃してきたのも、アリのぞが生まれたのも。この大きな企画に足を踏み出したのも、全部アリスの決断だ。
結局のところ、アリスに助けなんて要らなかったんだ。だって彼女は。
「同期なら、もっとアリスを信じてやれ。お前らが思っている以上に、あいつは強いから」
「……そう、じゃな」
全く、困ってしまう。
アリスだって、やさいじゅーすさんだってそうだ。俺の出会う女は皆強い。周囲の人間が、彼女には立ち上がる力なんて残っていないのだと、そう勘違いしているだけだ。
彼女たちはもう、前を見ている。前に進んでいる。俺なんて部外者は要らないくらい、彼女たちは強いから。
ただ、踏み出すきっかけが___進んでいいのだと、横で歩みを見てくれる誰かが必要なだけ。
ならば、俺は幾らでも
「アリスがおぬしに惹かれた理由、少しわかった気がするぞ」
ばーか、こんなもん視聴者なら誰だってできるわ。
「兎も角じゃ、わらわたちはおぬしに恩ができた。カラダ程度でいいなら恩返しするぞ?」
流し目でこちらを見てくる神楽だが、あまりにちんまりしているため効かない。
のじゃロリと腐り目ぼっちなんぞ逮捕されるわそんなん。同人誌でも許されませんわ〜!
「いらんいらん、別に何も……あ、あったわ」
「お?なんじゃ」
「サインくれよ。三期生のじゃなくて神楽の」
危ない危ない、小町からの頼みを忘れるところだった。
あの時は冗談混じりだったし、Vtuberとしてどうなるか何も分からなかったからな。まさかこんなに早く機会が訪れるとは思わなんだ。
「ほーう。もしかしておぬし、わらわのファンかえ?」
「俺じゃなくて妹がな。女子中学生界隈で流行ってるらしいぞ、お前」
「それはなんと。同性人気ほど嬉しいものはないのじゃ」
神楽は快く頼みを受け入れ、スタッフさんに色紙を貰い、スラスラとサインを書き始めた。
「サイン上手いな」
「グッズとかで出す機会が度々あるからのう。デビュー前に練習させられたのじゃ」
グッズか。
そういえば、理沙さんがそろそろ花咲望のグッズを出したいとか言っていた気がする。マッ缶コラボTシャツとか作れないかな。日頃から配信でマッ缶好きアピールしてるからワンチャンないか。協賛、待ってます。
「ほい。妹君によろしく伝えておいてくれ」
「おお、サンキュ」
ぐへへ、小町が喜ぶぞ……。
心の中でぐへぐへしていると、じゃれ終わったのか三人もこちらへ向かってきた。
「あーっ、ルナナちゃんのサイン貰ってる!」
「花咲?あなたルナナのファンだったの?」
謎に糾弾してくるアリス。なんでちょっと責め気味なんだよ。
「だから妹用な、妹」
「そーいえば妹さんいるって言ってたわね」
「うわ、なんか解釈一致じゃないか花咲くん」
「面倒見良さそうだもんねぇ」
また騒がしくなってきた。
アリスも少しずつ馴染んでいるのか、いつも通りの口調を取り戻しているせいで余計に騒がしい。配信は終わったんだよ、オフなんだよもう!
「そーだ、最後に記念写真撮ろうよっ!三期生の集合記念にさ」
「お、じゃあ俺カメラマンやるぞ」
「何言ってるんだい、きみも写るんだよ」
三期生って言葉は何処行った。
「花咲も実質三期生ってことね」
「TSしないと駄目だなそれ」
「別に男のままでもいいじゃろ。今日から三期生は五人になるのじゃ」
駄目なのじゃ駄目なのじゃ。わんちーむは男子禁制なのじゃ。
俺がお前らのリスナーに殺されるわ。まだ死にたくありませんので!
「誰に撮ってもらお〜……あっ、社長ー!写真撮って〜!」
「ん、私かい?」
姫宮が声をかけたのは、丁度アリスを迎えにきていた白鷺社長だった。ふざけんな。
どこに社長にカメラマンやらせる従業員がいるんだよ。
「もっと中央に寄ってくれるかな。あ、ルカくん。腕が見切れてるから内側に」
意外と乗り気なのかよ。
イカれたVtuberたちを従えるには、これくらいの柔軟性が必要なのかもしれん。
真ん中に俺とアリス、挟むように王子と姫宮、神楽が並ぶ。
両側からする女性らしい匂いから意識を逸らして、表情を試行錯誤していると、隣のアリスが俺を見つめていた。
「ねぇ、花咲」
「ん」
「楽しいわねっ」
「……おう」
照れたように微笑んで、トロフィーをこつんとぶつけ合う。
シャッター音が鳴ると同時に、長かった『Vtuberベストパートナー選手権』も幕を閉じた。
ベストパートナー選手権もようやく終わり、次回からちょっとずつ原作に向かっていきます。