やはり俺がVtuberになるのはまちがっている。 作:人生変化論
ある日の放課後。
今後の企画やら方針やらの会議をしたい、と理沙さんに招集された俺は、電車に乗って事務所へと向かっていた。
事務所は俺の生活圏からそこそこ離れた場所に位置するが、電車を使えば数十分で到着するのでそう苦ではない。タイミングが合えば、社長が車で学校や家まで迎えに来てくれるしな。前みたく、学校の前に停めやがるのはやめて欲しいけども。
帰宅ラッシュに巻き込まれ、混み合う反対側の電車を優雅に眺めながら、ガラガラの車内から降りる。事務所のあるオフィス街は千葉の中でもそこそこ都会で、最寄り駅を利用するのは企業戦士ばかりだ。夕方はオフィス街から他の駅へ帰る人が多いため、向かう側の電車はそう混むことが無い。圧倒的!優越感ンン!
駅を降りると、死んだ目で歩く社会人、社会人、社会人。うへぇ、社会の荒波に揉まれてるよぉ......出来る限り無縁な人生を生きたいものではあるが、刻一刻とその未来に近づいている自分に戦慄する。意地でもVtuberとかいう職業にしがみついていく覚悟です、はい。
部相応なオフィス街を歩くのも、この半年で随分と慣れた。
周りがスーツ姿の中、一人制服で歩くのはやはり浮いてしまう。けど社畜の皆様は他人なんぞ気にしてる余裕ないからな。養ってくれる社畜代表のパパンとママンに感謝である。
吹いてくる秋風に、そろそろマフラーでも用意しようかしらん......と思っていると、視界の先に見知った金髪の姿が。目立ちすぎだろあの金髪赤ジャケット。
「なにしてんすか社長......」
声が届くほど近づいてから、ようやく彼がひとりではないことに気付く。
ここまで認知できなかったのは、そのもうひとりが俺たちよりも遥かに小さい背丈だから。
この犯罪者、小学生にも満たないであろう少女と手を繋いでいたのである。はい逮捕。
「詳しくは署で聞きます」
「やあ八幡、って痛ァ?!健全なコミュニケーション中なの二何故?!」
下心無い奴はあんま健全だとかいう指標で考えないんだよ。
「冗談はいいとして、迷子かなんかっすか?」
「シャレにならない冗談をデカい声で言わないでくださイ......」
変態に手を繋がれている幼女に目を向ける。
青色の髪を後ろで二つにまとめているのが特徴的な彼女は、俺をきょとんとした瞳で見つめていた。
「おにーちゃん、誰ー?」
「ん、おお。俺は比企谷八幡って言うんだ」
あなたト○ロって言うのねー!とか何とか口走りそうな心を抑えて自己紹介。
死んだ目の男なんぞ怖がりそうなものだが、この子は才能しか感じないなうん。
「はち、まちま……はーちゃん!はーちゃんだねっ」
初対面であだ名とはとんでもないコミュ力だぞこの子。保護者はさぞ陽キャなんだろう。
「けーちゃんは、川崎京華って言います!」
「京華ね、自己紹介できて偉いな」
「けーちゃん、って呼んで!」
「けーちゃん」
幼児とのパーフェクトコミュニケーション(けーちゃん主導)をこなしていると、横で様子を見ていた変態が驚いたように言った。
「驚きましタ、八幡にそんなコミュ力あるとハ」
「普通に悪口っすからねそれ」
こいつやっぱり通報したろうかな。
「で?けーちゃんは誰の子供なんすか。隠し子?」
「今更隠しませんよいたラ。六花チャンの妹さんですヨ、今事務所にいます」
「おお」
年齢的には社長にも子供がいても違和感無いんだけどな。実際に、学生時代からの友人であるという白鷺社長には黒奈さんがいるし。あそこは大分若くして産んだ様子だったけれど。
というか、蕾の妹だったのか。本名の苗字は聞かなかったことにしよう。
「というカ、八幡こそ何故ここに?」
「何故って、打ち合わせっすよ」
なんで社長が知らないんだよウチの社長だろ。
「たしか二、理沙が時間差で二人やるって言っていた気が……すみませン、どうやら蕾チャンとの打ち合わせが長引いているようデ。本当は、彼女が帰った後に八幡を呼ぶ予定だったのでしょウ」
まあそれが真実だろうな。理沙さんが予定をブッキングさせるとは思えないし、俺は学校が終わってから比較的時間が経ってからの招集だったから。
「待っている間、けーちゃんが暇そうだったのデ。こうして外に出てきたわけでス」
「はーちゃんもサイゼいくー?」
「サイゼなんて無限だぞけーちゃん。共に行こう」
「やったー!」
その歳でサイゼの魅力の気づいているとは、なかなかやるなけーちゃん。名誉千葉県民の称号を授与します。これは全国千葉検定二級と同等の資格を有しますので悪しからず。
「では、軽食でも頼んで休憩しましょうカ」
「いこっ、はーちゃん」
社長の手を解いてから、俺の手を握りぐいぐいと引っ張ってくる。魔性の女の素質がありますよこの子、末恐ろしい……。
「あ、ちょっとだけお待ちヲ。もうすぐ同行者がもうひとり来るのデ」
「同行者?」
同行者と聞いて嫌な予感しかしない。
理沙さんと蕾は打ち合わせ中、だとすれば可能性が高いのは。
「お待たせん、けーちゃん〜!相変わらずキュートでせくしーねん、私のデザイナー欲が、ファッション欲がウズウズするわぁん!……ん、その隣のクールな男はまさかっ!八幡くんじゃない!元気してたかしらん〜?」
筋肉と変態と腐り目の勇者パーティ、再結成。
・・・
事務所から徒歩圏内にあるサイゼに到着。
俺たち変態組はドリンクバー、けーちゃんはチョコレートケーキとジェラートのセットを注文した。んもんもと美味しそうに頬張るけーちゃんを眺めながら、にんにくらーめんさんが不思議そうに呟いた。
「さっきからやけにチラチラ見られるわねん。そんなに私の美貌が羨ましいのかしらん」
「兄さんではなく私の美貌じゃないですかネ」
「どう考えても二人の容姿だと思うんすけど」
悪い方のな。金髪マッチョワンピースに金髪赤ジャケット、死んだ目をした制服の男子高校生。その三人に囲まれる天使のような幼女なんてどこからどう見ても事案である。
「良い意味でよねん?はーちゃん」
「……もちろんっす」
怖えよあんた、圧が。しれっとはーちゃん呼びすな。
「八幡くん。活動半年おめでとう、随分と盛り上がってたみたいねん」
「ありがとうございます。配信、見てくれたんですね」
「私の最推しは六花ちゃんだけどぉ、みっくすっていう箱自体も応援してるもの。不名誉だけど、弟の企業でもあるしねん」
「不名誉要素ありましタ?刺してくる必要ないですよネ」
この兄弟不仲なのか仲良いのかわからんな。
イラストレーターとして協力はしてるんだし、そこまで悪いワケでもないんだろうが。
「蕾も、相当調子いいっぽいじゃないですか」
「ね!ウチの子最強!だからん〜」
「新衣装の配信切り抜き、界隈ではかなりバズっていましたかラ」
活動半年にしてようやく新衣装を出した花咲望だが、蕾六花もそれに続いて新衣装を発表した。
蕾のデフォルト衣装は、制服を着た妖精である。新衣装ではどこか硬派だったイメージを一変させ、露出多めの私服姿となった。
まあ、端的に言えば最高、端的に言わなくても最高。今時のJKが着るような白いチュニックワンピースと、太ももに深いスリットの入ったジーンズ。流行を取り入れつつ、にんにくらーめんさんのデザイナー力が組み合わさった新衣装はそれはもう素晴らしい出来だった。
最高であるからして、当然切り抜き動画も世に上がり、当然バズる。
主にわんちーむを普段見ているような男性視聴者に刺さり、登録者も急上昇。みるみるうちに三万人を超え、ついに俺と同じ大台へ並ぶこととなった。
……いや、悔しいなんて思ってないですよ?バズってる動画見て悔しいとか思ってないですよ?
「アレはやはり、女性Vtuberにしか出来ないバズり方と言いますカ。わんちーむの視聴者層を引っ張ってこれたのは、八幡のお陰でもありますけどネ」
アリスとの絡みや、先日のベストパートナー選手権も相待って、花咲望もといみっくすという箱の認知は、わんちーむの視聴者にそこそこ広まっている状態だ。
そこに男ウケの良すぎる蕾の新衣装の動画が流れてくれば、当然興味を持つ人も増えるだろう。
「勿論、八幡くんの新衣装も最高だったけどねん。黒奈ちゃんの手癖……というか性癖ね、アレは。けど、Vtuber業界のターゲット層が男性である、という事実は変わらないわん。貴方が不遇な立場なのは、自分自身が一番わかってるんでしょうけどねん」
「……この業界に入るときに、覚悟はしてました」
元々、俺自身もVtuberのリスナーだ。
一ノ瀬花蓮から知ったVtuberという世界。男性を対象としたわんちーむのマーケティングも、男の影がチラつくと不安になるファンの空気感も、ある程度は理解があるつもりでいる。
そんな中で飛び込んだ、男性Vtuberという立場。
成功しているのは片手で数えられるほど。そのひとりである橘さんも、視聴者層はわんちーむの面々とほとんど被っている。それほど、男性Vtuberが人気を獲得するのは難しい環境で。
「今日、理沙さんに相談しようとしてたことがあります」
「今後の方針ですよネ」
「はい」
活動半年を迎えてから、ずっと悩んでいたこと。
俺たちの夢を、「世界を変えるVtuber」を叶えるために、何が必要なのか。
再生回数がいる。同時接続者数がいる。チャンネル登録者数がいる。知名度がいる。
なんとなくでやっているVtuberでも、金が稼ぎたいだけでやっているVtuberでもないから。だからこそ、花咲望には、数字という目に見える形での結果が足りなかった。
「これから俺が、もっと伸びていくために何が必要なのか。何が、足りないのか」
アリスが人気になっていくのを見るたび、蕾が登録者を増やすたびに考える。
男性Vtuberは、花咲望は。何を武器に戦えばいいのかを。
「……難しい話よねん。私は、今のまま自由に活動する方が、絶対に幸せだと思うんだけど」
「仕方ありませんヨ」
社長は、窓の外を眺めながら呟いた。
「本物を求めた人。星に願った人。誰かの夢を、受け継いだ人。熱く焦がれた初期衝動は、誰にも変えられませんかラ」
「貴方が言うと、文句も言えないわねん」
社長の夢。世界を変えるVtuber。
俺に語った社長の夢を、その兄は虚構だと吐き捨てた。
本当の夢は。社長の初期衝動とは、何だったのだろうか。
「六花ちゃんが飛び込んだ世界だからねん、私も素人なりにある程度知っているつもりだけど……やっぱり、男の子が売れるには厳しい世界だわぁ」
「そんな環境でも、八幡は驚くほど結果を出してくれましタ。ぼっちという個性を生かし、身を削り、他人とのコミュニケーションをコンテンツとして提供すル。私では、そんなやり方思いつきませんでしタ」
社長の言う通り、自分事ながらもそこそこ上手くやれてきた自負はある。
男性Vtuberで、チャンネル登録者三万人。Vtuberの中でも上澄み、個人であれば食うのにも困らない再生回数。
だからこそ、だ。
デビューから上手くやれてきた、とんとん拍子でここまで来た。だからこそ、ここからどう伸ばすのか。その方法がわからなかった。
「……八幡。言うべきか迷っていたことですガ」
社長はこちらを見つめ、真剣な眼差しで語る。
「貴方がもし、自由なVtuber活動をやりたいと言うのなラ、活動方針は全て任せるつもりでしタ。気ままに配信をして、時折コラボをして、ファンと共にコンテンツを創る。そう言う未来も、きっと幸せだったでしょウ。___けれど」
けれど、違う。
そんな生活はきっと楽しい。正しいって訴える俺がいる。
でも、俺が憧れたのは。本物だと思ったのは。
「世界を変えるVtuber。貴方が本気で目指すなら」
二本の指を、ぴんと立てる。
「八幡にはふたつ、選択肢がありまス」
目の前にいる社長は、いつものような親しみやすい表情ではない。真剣に未来を見据える、ひとりの経営者がいた。
「白哉と……白鷺社長と話しましタ。これから先の未来、Vtuber業界はどう変化するのか。どんなVtuberが、頂点に立つのか」
Vtuber業界のトップをひた走る企業の社長と、変革を起こそうと奮闘する新興企業の社長。
古くからの友人であるという二人が出した、Vtuberという存在への結論。
「ひとつは、アイドルという可能性。今の傾向とは変わらず、市場が成長し続けたカタチ。3Dライブ、ARライブ、リアルライブ。場所や技術は変わっても、その対象は変わりませン」
「Vtuberにアイドル性を求めてファンは応援し、規模も大きくなル。そのアイドル性はきっと、男性Vtuberにだって適応できるでしょウ。実際、三次元のアイドルでも利益率がいいのは女性ファンだ、というデータもありますシ」
少しずつ陽が落ちて、社長の顔に影が差す。
けれど彼の瞳は、決意で輝いていた。
「そして、もうひとつ。ストリーマーとしての可能性」
それは奇しくも、橘さんが言っていた言葉と同じだった。
「女性人気を狙うアイドルと違い、ストリーマーは性別が関係ありませン。ゲーム、即ちeスポーツに特化すル。現在のVtuberのように、リアクションだけが大事なゲームではありませン」
「本気で、勝つためにゲームをすル。今よりももっと多くの、Vtuberだけに留まらない関係性を築く。配信者と絡み、プロゲーマーと絡み、独自のファン層を獲得していく必要がありまス」
提示された、ふたつの未来。
どちらが正解で、どちらを選べば。俺は、本物になれるのだろう。
「アイドルか、ストリーマーか。どちらを選びますか」
・・・
アイドルか、ストリーマーか。
分岐点だ。ここで、俺のVtuber人生は大きく変わる。確信めいた予感がした。
サイゼからの帰り道。ご機嫌に歩くけーちゃんと手を繋ぎ、事務所に向かいながら、その大きすぎる選択に頭を悩ませていた。
俺がここから伸びていくために必要な選択。
思えば、社長はスカウトしてから今に至るまで、無理やり俺の方向性を定めることはなかった。好きなように活動すればいいのスタンスで、常に一歩後ろから見守ってくれた。
そんな彼が、初めて提示した選択肢。
選ばなければならない。夢を叶え、本物になるために。
「どーしたもんかねぇ......」
簡単に選べるほど、強気な性格だったら良かったんだが。
まずはアイドル、これは分かりやすい。今の活動からベースは変えず、歌やライブの方向性を強化していけばいいから。
それに、身近にアイドル売りをしているやつらがいるのは大きい。アリスらわんちーむを見習いつつ、彼女らが築いてきたアイドルとしての軌跡を辿っていけばいいのだから。
けれど、本当にできるのか?
アイドルとして必要なのは女性人気。こちとらコミュ障拗らせ十七年、彼女いない歴イコール年齢の男だぞ?甘い言葉とか囁ける自信ないわ、むしろキモがられるまである。
ストリーマーだって簡単では無い。
まず第一に、ここまで築いてきた人脈が殆ど使えない。知り合いのVTuberで、ゲームをガチでやってるヤツなんざひとりもいないし、俺自身FPSやMOBAの経験もゼロに等しい。今の活動形態を捨てて零から始める決意がなけりゃ、活動自体続けていけるのか怪しくもある。
簡単に決めることができる選択でもない、俺はドパガキではないので。
Vtuber活動で逆デジタルデトックス、しよ?
「ねね、はーちゃん」
「どしたけーちゃん」
隣をとてとてと歩くけーちゃんが、服の袖をくいくいと引っ張ってくる。
「……さーちゃんは、ムリしてない?げんきかな?」
「さーちゃん、ってのはお姉ちゃんのことか」
「うん、そーなの。さーちゃん、いっつもご飯とか作ってくれるのに、しゃちょーさんたちとお仕事もしてるんでしょ?だから、ムリしてないかなーって」
さーちゃん、つまり蕾を心配している様子を見せるけーちゃん。
背丈からして園児ほどの年齢だろうに、随分と利口で姉妹想いな子だ。その健気な様子に、小町を重ねてしまう。親が共働きで殆ど家にいない中、寂しがりながらも健気な様子を見せ、時折感情が爆発することもあった小町。寄り添うことしかできない自分。
蕾の家庭環境は知らないが、事務所にまで妹を連れて来なければならなかった事情を考えるに、何となく察せてしまう。そんな状況が、あまりにも俺と似ているものだから、つい自分事のように思えて。
不安そうなけーちゃんの頭に、そっと手を添えた。
「心配すんな。お姉ちゃんはそこそこ楽しそうにやってるぞ。それに、社長たちなら絶対にムリさせない、って自信がある」
「ほんと?」
「おう。はーちゃんが保証しようぞ」
常に見守ってくれる社長なら、俺の親にも活動を熱弁してくれた理沙さんなら。
俺たちの人生を預けても、きっと守ってくれるという確証があるから。
「……そっか!ならあんしん、だねっ」
「安心だな」
蕾自身も、配信はだいぶ楽しそうな様子でやってるしな。
配信時間こそ短いが、ファン共々貴重な時間を過ごしていることには間違いがない。
それから事務所に着くまでの短い間、けーちゃんとたわいもない話をして過ごした。
後ろから微笑ましそうに見守る、社長とにんにくらーめんさんの変態コンビの視線がうざったかったけども。
「……でも、本当にいいんすか?事前連絡なしで蕾と会っても」
「オフで会うのハ、ウチでVtuberを続ける以上避けては通れない道ですからネ」
「まぁ、早いか遅いかの違いよねん」
悲報、俺と蕾の初遭遇が決定する。
本当はサイゼに行ってる間に蕾らの話し合いが終わり、けーちゃんはにんにくらーめんさんに任せて、綺麗にすれ違う予定だったのにな。まだ終わっていないようで、どうせならもう会っちまえyo!という社長のゴミ判断。
必死に脳内会話デッキを構築中。ドロー!チャージアンドドロー!
「ドキドキ、ドキドキ」
「心臓の音勝手に鳴らさないでください」
「あらバレた」
こっそり顔を俺の背中に近づけるにんにくらーめんさん。その巨体なら誰でも気付くんだわ。
事務所のあるビルに入り、四人でエレベーターへと向かう。
普通に緊張してきたな。思えばVtuberとリアルで会うのは仕事という名目あってのことばかりだったから、完全にオフの時間に会うのはアリスややさいじゅーすさん以外では初めてだ。いや意外と会ってるわ。
たった数秒に感じた昇降タイムも終わり、目的の階へと到着する。
扉が開くと、打ち合わせが終わったのであろう理沙さんの姿が目に入る。そして、その後ろに隠れるようにしてもうひとり。
「おかえり……って、八幡も来ちゃったか。ごめんな、意外と打ち合わせ長引いちまって。ま、どうせならオフコラボだなっ!」
たははと笑う理沙さん。冷笑はNGですよ!
後ろにいた女性が、恐る恐ると姿を現す。けーちゃんによく似た青髪に、女性の割に高い身長で……って。
「あんた確か、前学校ですれ違った……」
「……世界って案外狭いんだな、蕾」
「っ!やっぱり、そうなんだ」
蕾六花。
Vtuberであり、同期として活動する仲間である彼女は、まさかの同じ総武高校に通う生徒だった。何なんだこのラノベ的展開は。
あれだ、つい数日前に肩パン(誤解)されたヤンキー。今思えばけーちゃんと髪色と雰囲気は似ているが、それにしたってハードモードな連想ゲームすぎるだろ。ストリーマーも放棄ですよコリ。
ってか社長と理沙さんは知ってただろ、履歴書書いてんだから一応。
「うーわ、そういやそんなことクソ社長と話した気が」
「……知らない方が面白いからと、見て見ぬふりをして忘れていた記憶ガ」
「貴方たちのプレミじゃないのかしらん」
「さーちゃん、おともだちだったのー?」
ボソボソと顔を寄せ合う社長と理沙さんに、揃って冷ややかな目を向ける。
最初に言うか最後まで隠せよその情報。
「……ま、会っちゃったもんは仕方ないだろ。花咲望、本名は比企谷八幡」
「あっ、ええと。蕾六花、本名は川崎沙希。……あんた、高校生だったんだ。年上かと思ってた」
「前も同じこと言われたな。ピッチピッチの高校二年生」
「同い歳じゃん」
「どんな偶然だよ、ほんとに」
川崎なんとかさん……随分と語呂がいい名前である。
同じ学校かつ同級生というデカい事件はあったものの、いざ話してみるといつものコラボとそう変わらない。緊張するのは最初だけ、ってやつだな。
「さーちゃんっ!」
「けーちゃん。サイゼ連れてってもらったんでしょ、いい子にしてた?」
「うんっ!はーちゃんともおともだちになったんだよっ」
「はーちゃん……八幡だから、ってことね。ありがと、京華の面倒見てくれて」
「面倒でもない。ただ楽しく喋ってただけだしな」
けーちゃんと共に、ねーっと顔を見合わせる。ビバ天使。天使は世界を救う。
そんな俺を見て、蕾……川崎はふわりと微笑んだ。
「あんた、偏屈そうな見た目してそういうとこあるの、こっちでも変わってないんだね」
「どちらにも異議を提唱したいが」
そういうとこって何だよ、偏屈そうって何だよ。
そんなに冷笑系偏屈ジジイぼっち見えるか?見える?そうかぁ。
「……でも、安心した」
「安心」
「配信で見る花咲……比企谷、同期なのに遠く感じたから。人脈も、面白さも。雑談の八割意味わかんないし」
「最後の言葉必要だった?」
「ふふっ……そういうとこだよ」
誰がインターネット老人会だ。愛人に伝わりゃいいんだよ伝われば。
でもなんかこう、ギャルに「比企谷またなんかイミフな話してる!ウケる!」と言われるシュチュエーション、悪くないな。我々はダウナーギャルラノベを応援しております。
「歳上じゃなくて、同級生が頑張ってんだって思ったら……」
「ん」
良いところで言葉が詰まった川崎。なんぞやと視線を向けると、川崎はじとりと俺の後ろ、全員で固まってこそこそニヤニヤとする社長らを睨んでいた。
「見ましタ?あれが天然記念物のクーデレギャルでス」
「普段はクールな沙希ちゃんがデレる瞬間、それはもう素晴らしいわねん。保護よ、保護!」
「いいか、けーちゃん。こういう時にピッタリな言葉を教えてやる。てえてえ、と……」
「てぇてー?」
「てえてえ」
「こら、そこっ!けーちゃんに変な言葉教えないっ!」
何やってんだあの大人たち。
けーちゃんを取り返しに行く川崎と、追いかけっこだと思ったのかピャーと逃げるけーちゃん。追いかける川崎。逃げるけーちゃん。いつもは静かな事務所が、たちまち騒がしくなる。
「みっくすのVtuberプロジェクトも、賑やかになりましたネ」
「……最初は俺たち三人だけだったっすもんね」
「その前なんて私と社長のふたりっきりだぜ?それはもう毎日お通夜でさぁ」
社長に理沙さん、にんにくらーめんさんに川崎。あとはやさいじゅーすさんが揃えば全員か。
スカウトされた時は、まさかこんな光景を目にすることになるとは夢にも思わなんだ。
「まだまだこれからですヨ!当初の目的通り、同期三人が揃ってからが本当のスタートですかラ」
「あとひとりスカウトするとかなんとか」
「そうそう。できれば来年の春までには揃えたいでス」
「同期って言えるか怪しいっすけどねそれ」
怪しいどころかもはや後輩だろ。
真剣に考えてるのか楽観的なのか、よくわからない社長を眺めていると、けーちゃんを抱えた川崎が戻ってきた。
「お疲れ様、沙希ちゃん。仲良いわねん」
「なかよしだよねっ、さーちゃん!」
「はぁ、はぁ……そうだね」
疲れた様子を見せる川崎。幼児の体力は無尽蔵だからな。
「そうだ、ママ。今日理沙さんと話し合って、決めたんだ。グッズを出すって」
「っ!」
グッズか。
今日の打ち合わせが長引いていた原因はそれだったみたいだな。
「……ついに決めたのねん、沙希ちゃん」
「迷ったけどね。こういう形でお金を貰う、っていうのも。あたしはまだ、自分のコンテンツ?っていうのに、価値があるとは信じてない。けど、少しでも自信を持って最後を迎えられるVtuberでいたいって、そう思ったから」
「いい、いいわよん!貴女はそれでいいの、沙希ちゃん!価値っていうのは他者が決めるもの。けれどね、自分の中にある自信っていう揺るぎない気持ちだけは、絶対に無くしちゃいけないの。価値なんて、これから幾らでも高めていけるんだから」
決意を新たにした様子の川崎と、嬉しそうに笑うにんにくらーめんさん。
たかがグッズ、されどグッズ。俺が今後の方向性にウジウジ悩んでいる間に、川崎は別の悩みを持っていた。悩みってのは千差万別、同じ仕事でも違うのは当然だ。
俺の知らないところで、川崎とにんにくらーめんさんは共に悩み、異なるストーリーを歩んだのだろう。
___そして、俺は。
「八幡。今日来た理由、クソ社長から概要は聞いてる」
「……理沙さんはどう思いますか」
「難しい選択だな。他人が決めるのは重すぎるほどに。どれだけ時間がかかっても良い、結論を急いでまちがったって、それはそれで良い。後悔しない選択なんてないさ。だから___」
本物になるために、どちらの道を選ぶべきか。
「自分で選べ、
俺もまた、自分のストーリーを歩む。
アイドルか、ストリーマーか。
この選択が、今後のストーリーに大きな影響を与えます。
現時点での皆様の選択もお聞きしたいので、よろしければアンケートにポチッとご協力をば!
プロットと展開は既に決まっているので、本編には何の影響も与えませんが悪しからず。私が知りたいだけです(笑)
いつも感想・評価などなど大変励みになっております!
八幡の選択は?(結果は本編に影響ありません)
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アイドル
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ストリーマー