やはり俺がVtuberになるのはまちがっている。 作:人生変化論
【クリスマス】ぼっちども、お前らの想いを聞かせろッ!
「今日も元気に超広大遠距離爆殺魔法、どうも花咲望だ」
・こん
・こんのぞ
・こんのぞ
・クリスマスも配信です、か……
・ユニコーンを安心させるムーブ
・いないだろユニコーン
・今集まってる俺らも大概
「そうだぞ、この配信見てる時点で仲間だからなお前ら」
時は二十四日、多くの人々が待ちに待ったクリスマスイブ。
街はデートするカップルで溢れ、家族は楽しげにパーティーをする、そんな中でひとりパソコンに向かってぶつぶつ呟く異常者がひとり。
・リスナーは配信者に似るってことか
・花咲置いてかないでくれ
・正直需要しかない、ぼっちなので
・一緒にケーキ食おうぞ
仕事を休み、家族やら恋人やらと楽しむ日であるとされるクリスマスだが、生憎Vtuberにとっては稼ぎ時。配信業は賑わいを見せ、数々のVtuberが独自のコンテンツでイブを盛り上げていた。
・一緒に配信してくれる人おらんかったんか?
・お嬢とか姉御とか嬉々として来ると思ったのに
・お嬢は公式配信だよ。姉御は知らん
・どうせ彼氏と過ごしてんだろ
・し、ね
・男はいません彼女らに、そうに決まってる
・ユニコーンピキピキで草
「アリスは三期生でクリスマス女子会。やさいじゅーすさんは、年内までの仕事がピンチだとかで泣きながらやってるっぽいぞ」
・草
・人気絵師さんェ......
・なんか現実的やw
・お嬢よくそんな配信行ったなw
ぼっち皇女ことアリス。どうやらクリスマスはアリのぞで配信する気満々だったようだが、社長からの圧には耐えられず、公式配信へとドナドナされていった。
それでも同期との関わりを拒否しないあたり、アリス自身がコミュ障を克服しつつあるのか、他の三期生とのわだかまりが溶けつつあるのか。
まあ、恐らく後者だろう。配信の様子を覗き見る限り、会話下手なのは変わってないしな。ただ、コラボへの抵抗が減っているのは、企業としては喜ばしいに違いない。
そしてやさいじゅーすさんこと黒奈さん。
先日のコラボカフェに行った時から、しきりに『クリスマス一緒に配信しよっ!』と誘ってきていたが、莫大な仕事量を前に敗北。あの速筆の仕事人がやられるのだから、相当切羽詰まっていたことが伺える。
川崎は当然、けーちゃんら家族と過ごすために配信は休み。
ということで、唯一コラボできそうな択が潰えたので、ぼっち系らしくひとりでクリスマス配信をしているというワケです。全く誇れません。
・相変わらずぼっちで安心したよ
・お前最近抜け駆けしとるからな
・姉御とデート行きやがって
・花咲のはじめては俺のだったのに......
・羨ましいぞ花咲
・リアル姉御どうだったんだよ
今日はいつも見に来てくれる眷属らが、アリスらの公式配信に流れているため、愛人の割合が高い。のでコメントの空気感も刺々しい。嫉妬しやがってこいつら、ぼっち仲間だろーが。
黒奈さんが、デートと言う名の爆弾をSNSに投下してからというもの、花咲界隈は荒れに荒れた。
その筆頭がアリス・オミソルシル。あいつこの一件以降、毎日DMににっこりとした笑顔の顔文字を送ってきやがる。何の意図があるんだよそれ。
俺と黒奈さんからしても、あの一件は男女のあれこれというより純粋な外出、母子のじゃれ合いに近しいものではあった。ただ如何せん黒奈さんの言い方が悪すぎるだろ。
「......だから、スイーツ食べただけだっての。普通に解散したわ」
・ふーん
・へー
・ほー
・感情のない反応
・そういうことにしておこう
勝手に勘ぐっている愛人どもには悪いが、本当に食事以上のことは何もなかった。
色々あったせいで過保護になってる白鷺社長が、目的以上のことを許すはずもなく。食事を終えて外に出ると、都合の良すぎるタイミングで彼の運転する車が現れた。絶対見てただろどっかで。
ちなみに俺は、偶然暇だった理沙さんの迎えで帰りました。こっちが本当の花咲ママンだったのかもしれん。
・はよ本題いけ
・待ちきれないんだこちとら
・採用されてほしい
・はよ
「まあ待て、クリスマスは長いんだ。まずはこれ」
そわそわしている愛人を横目に、PC上の画面をいじる。
配信画面の端から取り出すのは、フリー素材のサンタ帽。少しだけ拡大しつつ、花咲望の頭にちょこんと被せた。
「メリークリスマス」
・なんで今日に限って新衣装の方にしたんだよ
・季節感終わってる
・初期衣装がどう考えてもベストマッチだろ
・いたけども年中半袖の小学生
「お前らやさいじゅーすさんの衣装バカにすんなよ」
・してねぇよ
・濡れ衣やめろやww
・ふざけんなw
いつも通りプロレスを繰り広げながら、用意していたもう一つの素材を取り出す。
今日の配信のために用意した、企画名のロゴだ。
「そろそろ本題行くぞ。今日やってくのは『花咲望とお前らのエピソード』だ」
・うおおお
・うおおおお
・わくわく
・きたああ
・うおおお
「SNSじゃ告知もして募集したから、大体は知ってるだろうけど、一応説明しとくぞ」
クリスマスの日に用意した企画は、『花咲望とお前らのエピソード』と名付けたおたより企画。
花咲望である俺と、愛人たちに関連するエピソードを文章として送ってもらい、厳選した何通かを配信で晒すという企画。俺と愛人、両名に関連する内容であれば、事実でも妄想でもどちらでも良いとし、比較的自由なレギュレーションで行う。
「とまあ、大雑把だがそんな感じ。良いおたよりがあれば、ボイス台本の参考にでもさせてもらおうかなと」
・まじ?
・それ知らんかった
・うわ送ればよかった俺も
・はよ言えよそれ
前提としておたより系の企画、特に妄想アリは前々から配信でやりたかったのはある。
また活動半年記念の際、ボイスを出す旨を伝えたのだが、台本に関しては未だ決定していないのが現状だった。外部に託するか自分で考えるか迷っていたため、愛人たちの需要を把握する目的でもいい機会になるだろう。
「おたよりは社長とマネージャーに選んでもらったから、俺も一緒に初見で読んでくぞ。じゃ、さっそく一通目」
・うおおお
・どきどき
・楽しみ
・きたああ
・・・
可愛いおにゃのこのためにVtuber見始めたのに、腐った目の野郎ばかり追っている件について。
楽しいんだよなぁw男友達と喋ってるみたいでw
花咲望様、益々のご活躍をお祈り申し上げます。
・・・
「うーんこの温度感」
・急な賢者タイム
・人変わったんか最後の一文
・冷静になるなよ
・気持ちはわからんでもないw
・同じく最初は女性Vから入ったな
・右に同じ
・こういう流れで好きになってる人多そうよね、愛人は
「まぁ、割と愛人の正規ルート説あるか」
花咲望チャンネルの視聴者は男性が大半で、当然Vtuberを見る層も男性が多い。
最初から俺を目的として界隈に来る人はほぼいない。アリスら他女性Vを見る過程で花咲望を知った、という流れが定番だろうからな。
「こんな感じのが無限に続くからな今日は」
・自分語りデー?
・出だしから絶妙すぎる一旦
・やはりVリスはネットミームしか喋らない地獄
・リアルだと腫れ物です
・事実語んな自分に返ってくる
・壮大な自虐
「よし。どんどん行くぞ」
・・・
百合の間に挟まる男は死ね。
平成の美少女アニメによって隔離されながら育った私は、コンテンツにおける男性要素、男が絡む部分を悉く排除して生きてきました。
アニメに続く次世代ジャンルとして流行し始めたVtuberも例外ではありません。男性Vtuberは死ね、男性の影が見えた女性Vtuberは到底許せない。そんな偏った価値観を、リスナーの総意であると認識していました。
過激ユニコーンである私が花咲さんと出会ったのは、アリスちゃんが初のコラボをした、という情報が界隈で話題になった時です。
わんちーむの中でも孤高の花として扱われていたアリスちゃんですから、そんな彼女が初コラボをした、しかも相手がどこの馬の骨かもわからない男であると知った時、はらわたが煮え繰り返りそうな気分でした。
抱いた感情は、花咲さんの配信を見ても変わりません。どうせぼっち系なんてファッションなんだろ、出会いを求めて近づいたに違いない。私はコラボ配信にそっと低評価を付け、その場を去りました。
それからというもの、花咲さんはわんちーむの箱推しファンの中でも、度々話題になりました。
曰く、アリスちゃんとの相性が良く、アリスちゃん側からコラボを求めている。
曰く、絵師であるやさいじゅーすさんとも仲がいい。
自衛していても私の前に現れる貴方を、花園の中に紛れ込む貴方を、受け入れることはできませんでした。
女性である蕾さんが同期としてデビューしたと聞いた際は、本気で大丈夫かと心配もしました。
周囲のファンが、花咲望という男性Vtuberに肯定的な視線を向ける中、私だけは否定的な姿勢で、時は過ぎていきます。
そんなある日のこと。私のおすすめ欄に、ライブ中のある配信が映りました。
【緊急歌枠】俺の初歌、聞いてってよ。
普段は開くことすらしない花咲さんの配信。
けれど何の気まぐれか、やけに賑わっていることに惹かれたのか、偶然配信を開きました。
その先で起きていた光景に、私は驚愕したのです。
驚くほどに下手な歌。下手なギター。
爆笑し揶揄うコメント欄。必死に弾き語る花咲さん。
Vtuberの歌というのはパフォーマンスであり、武器です。質の高いものを提供し、自身のコンテンツとして確立する。そういうものであると認識していたからこそ、誰が聞いても下手であろう花咲さんの歌には驚きました。
___同時に、今まででいちばん「生」を感じたのです。
声を震わせ、絞り出した言葉を紡ぐ花咲さん。
嘲笑すら追い風に盛り上がっていく配信。
私が見てきたVtuberの中で、最も「生きている」と感じました。
思えば私は、Vtuberというコンテンツを、ある種二次元的に捉えていたのかもしれません。
だから、男性の影が見えるだけで怒り狂っていたし、解釈不一致な側面があれば否定してしまっていたのです。心の隅では、男女の関わりが全く無い人間なんていないと、そう理解していながら。
その日から、私はユニコーンを卒業しました。
勿論まだ異性愛的な要素には苦手意識がありますが、他人に強要することはしません。それが生きるということであり、Vtuberは二次元の存在では無いと、花咲さんから教わったのですから。
長文失礼いたしました。
元ユニコーン、Vtuber界隈によくいる処女厨の生態のひとつとして捉えていただければ幸いです。これからも応援しています。
・・・
・めんどくさいなこいつw
・野生の文豪
・拗らせすぎだろ
・花咲と学ぶユニコーン学
・処女厨卒業生からの言葉
「……急に重過ぎだろ、内容が」
ユニコーン部門からのおたより。
どこか棘のある内容ではあったが、Vtuberリスナーのあるあるではないだろうか。わんちーむなんて特に女子校、百合アニメみたいな雰囲気だし、こいつのような思想の持ち主はそうマイノリティでも無いはずだ。
「こういうのだよ、こういうの。自分語りとか妄想とか、こういうのでいいんだよ」
・こういうのだよおじさん
・自分語りが許される稀な環境
・面倒くささが良いな
・人間らしくていい
・正直こいつみたいなマインドのやつ多いだろ愛人に
・否定できんのがなぁ
・実際処女厨ばっかだしね
・お嬢のとこの眷属が特別だっただけね
・お嬢とか麗華お嬢様はだいぶ特殊
こういう視聴者が出てくるのは、アリスと絡み始めた時点で覚悟してたしな。
俺も元はといえばいち視聴者。女性Vtuberだけの箱の空気感も、見る側の温度感も、ある程度は理解しているつもりだ。
その上でデビューしたし、元々はぼっち系を貫くつもりだったから、女性だけでなく他のVtuberとも絡むつもりはなかったんだけどな。アリスや黒奈さんとのあれこれは、数字的にも嬉しい誤算だった。
「これからもユニコーンを調教してく予定なのでよろしく」
・あらやだ♡
・調教師花咲
・ズバズバ言えるVtuberは貴重だしな
・男だからこそ男に対して好き放題言えるのはある
・女性Vtuberの救世主なってけ
調教師としての道を明確にしてから、次のおたよりを読み上げる。
「ここからは妄想パートらしい」
・・・
花咲望とうつ病アラサーニートワイ。
『よう。元気してたか……って、湿気っぽいぞこの部屋。偶には外出ろよ』
おお、花咲。
悪いな。けど、部屋着ってのも一定の需要あるだろ?
『野郎にはねぇよ。……邪魔するわ』
はは、遠慮すんなって。
しっかしお前、くたびれた社会人みたいな格好だな。
『みたいなってか事実な、事実。最近残業続きでな』
花咲が残業とは、変わっちまったなお前。
学生の頃は、誰よりも働きたくない働きたくない、って煩かったのに。
『学生の頃どころか、今でも働きたくないぞ』
そういうとこ、やっぱ変わってねぇわ。
……不思議だよな。
専業主夫なんてふざけてたお前が、誰よりもバリバリ働いてさ。
金持ちになりたかったはずの俺が、引きこもって。
『……なぁ。好きイセの三期見たか?相当作画良かったぞ』
お、そうなのか。それは気になるな。
最近さ、新しいアニメ追う気力が無くなっちゃって。
『オタク失格だぞ。何見てんだよ、じゃあ』
SAOとか、リゼロとか。
昔ハマってたやつを、ぐるぐる、ぐるぐる。
『教室で語ってたやつばっかじゃねぇか』
はは、そうだよ。
ラノベ持ち寄ってさ、ビビリだから挿絵は隠しながら読んだっけ。
『懐かしいな……お、そうだ。これ差し入れ』
さんきゅ……って、まだマッ缶飲んでんのかよ。好きだなぁ花咲。
『千葉県民のガソリンだからな』
一括りにすんなよな。
けど、変わってなくて安心したわ。
……なぁ、花咲。
『……どうした』
俺さ、あの頃に戻りてぇよ。
隠キャぼっちだったけど、お前っていう親友がいて。
端っこでアニメ談義して、女の子との関わりはなかったけど、楽しかった。
放課後はゲーセン行って、アイス食って帰ってさ。
それだけで、良かったんだよ。
『……』
鬱になるくらいなら、金なんて要らなかった。
必死こいて働くより、お前と駄弁る時間のほうが、ずっと大切だった。
『カーテンくらい、開けろよな』
……眩し。
って、マッ缶投げてくんなよ!危ないだろーが!
『おい。マッ缶の最高に美味い飲み方、知ってるか?』
は?
暑い日とかに一気飲み、とか。
『は、甘いな。マッ缶より甘い。正解は、山頂で飲むマッ缶だ』
山頂、って。
『山登って体動かして、景色見ながらカップラーメンを食う。そこで飲むマッ缶ほど美味いものはない』
『そういうワケで、山登るぞ。来週』
どういうワケだよ、それ。
来週って急すぎるだろ。全く外出てないぞ俺。
『どうもこうもねぇよ。……お前の気持ちは、正直わかる。確かにあの頃は楽しかったし、そこそこ満足してたからな』
……おう。
『けど。それが今楽しくない理由には、ならんだろ。時間と金はあるんだ。帰りに温泉入ったって、焼肉食ったっていい。何歳でも、くだらない話で笑えんだから』
そう、か。
花咲、お前は。
『……とにかく、来週だから忘れんな。風呂くらいは入っとけよ』
お、おい。
……ったく、もう出てったのか。慌ただしいヤツ。
やはり、花咲はあの頃から変わっていない。
口下手なのも、ひねくれてるのも。それでいて、誰よりも考え屋なのも。
ありがとな、花咲。
ひとりの鬱病ニートは、お前に救われてるよ。
・・・
「なんだこれ福祉?」
・福祉は草
・おおう......
・二次創作かな
・花咲望アルファすぎる
・花咲が同級生なのちょっと解像度高い
・クソデカ感情すぎるだろ
・正直花咲ってそういうとこあるからな、刺さる層には抜けなくなる
・わかってしまう俺がいる
二通目に送られてきたのは、壮絶な自分語り......というか妄想。好き放題書いてくれてやがる。
社会人になっても会うような同級生なんぞいないし、マッ缶口実ってどんな口下手だよ。
・正直花咲らしいムーブではあるけどな
・直接救おうとしたりしないのがぽい
・この不器用さが花咲らしい
・作者相当花咲好きだな
・花咲は救ってくれるヒーローでは無いけど、時々会って馬鹿やってくれそうなのがいいよ
「......こんな感じなのかよ、俺」
盛んな妄想だと笑いつつも、コメ欄の反応は上々。
彼らに言わせれば解釈一致らしい。どこがだよ。
「うつ病って接し方ムズそうだしな。実際に目の前にしたら、おたよりみたいな関わり方しか出来ないかもしれん」
SNS社会である現代、年々増えていると聞くうつ病。
確か黒奈さんも、引きこもりになった際にはうつ病と診断された、と言っていた。俺が彼女を前にしても不器用な言葉しか吐けなかった辺り、実際当人を前にすれば、なんと声を掛けなければいいのか分からないのだろう。
・正味わかる
・うつ病ワイ、親の言葉も脳内で悪口に変換してまう
・なった時はとにかく散歩と風呂入ってたな
・うつ病って重いとがちで行動出来んくなる
・当人もムズいけど周りも大概よね
「……ま、そういうヤツらに何かしら与えられてんなら、悪い気はしない」
教訓だろうが勇気だろうが、いい影響を少しでも与えられているならば、配信者冥利に尽きるというものだ。一ノ瀬花蓮に影響を与えられて活動を始めた俺が、また誰かに影響を与える。物事ってのはそういう流転で、相互に価値を与えながら成り立っているのだから。
愛人らとしばしの感傷に浸った後、話を切り上げ四通目を読み上げた。
・・・
【悲報】花咲望、彼女バレ。
花咲望に彼女ができた。
発覚した理由は、配信上に女性の声が乗ったこと。最初は妹だのなんだの誤魔化していたけれど、これ以上は無理だと悟ったのか、自ら発表した。
『彼女がいようが、俺っていう存在は変わらんだろ』
違う。違うんだよ、花咲。
二次元の美少女を求めて見始めたVtuber。男の時点でアウェーな世界で、ぼっちを高らかに謳うお前は、現実では出会えなかった友人かのように思えた。
お前の語るぼっちエピソードは笑えたし、共感もした。口下手なとこあって、オタクで、好きなコンテンツには熱心に語って。
背伸びして弾き語りなんてし始めた時には笑ったけどさ、結構くらったんだぜ、あれ。
そんでさ。花咲に彼女が居るって知って、俺悔しくなっちゃったんだよ。
花咲は優しいから。人に興味ないようで、実際は誰よりもうだうだ考えているその優しさを、彼女にたくさん注いでやるんだろう。
きっと、今までと同じように配信に、愛人たちに目を向ける機会は少なくなる。
……女々しい男の嫉妬、独占欲だ。
でもな、花咲。
俺たちは愛人。お前にカタチを与えられた時から、いちばんに成れないことが決まっていた存在。だって愛人の前には、必ず正妻がいるだろう?
俺は選ぶぞ。
彼女ができようが、結婚しようが、子供が産まれようが。俺は愛人として、後ろからお前の生み出すコンテンツを全力で楽しむ。応援する。
答えは得た。
大丈夫だよ花咲。俺もこれから、頑張っていくから。
・・・
・野生のアーチャー
・応援されてて草
・何様だよwww
・激重おたよりしかないやんけ
・最後かっこいいのやめろ
・ユニコーンのアーチャーやめろ
・だとしたら遠坂のこと許さんだろww
「何故にこんな尖ったおたよりしか選ばないんだよ」
社長と理沙さんの選考基準が謎。面白がってるだろあの二人。
「……俺の彼女バレってそんな悲観することか」
・?!
・それってそういう
・いるんですか
・はい炎上
・は???
「いやいないけどな。例えばの話だよ、例えば」
花咲望はガチ恋路線で売っているワケでもないし、女性人気が高いワケでもない。
同性から好かれているのはまた別の嬉しさがあるが、愛人側はどんな感情なのか。
・それこそ隠キャ仲間に先越された的な
・許せなくはあるよね一旦
・専業主夫とかほざいてる奴が彼女持ちなのムカつく
・彼女持ちがぬくぬくVで稼いでんの許せん
「私怨じゃねーか」
酷過ぎる言い様である。拗らせてるヤツしか集まらんのかここには。
まあ、女性Vtuberが大半の世界で俺に流れ着いてくるような視聴者は、そりゃ拗らせてますわ。お前らの中に彼女持ち一人でもいたらブチギレるからな普通に。当然の権利。
・その点おたより送った主はピュアだな
・ピュアか?
・うーんこれは純愛
・純愛も随分と多様になったな
・多様性社会が生んだバケモノ
「最終的には受け入れてるだけ純愛なのか?」
言ってて俺もわからなくなってきた。純愛ではないだろ普通に。
野生のアーチャーひとりに時間を稼がれすぎたので、さっさと次のおたよりへ行くとする。
・・・
花咲が引退発表した後の一日。
有給とって散歩をする。
保存だけしてた歌手の新曲を聴く。
どこまで行こうか。
知らない土地の道の駅とかいいな。
自販機でマッ缶でも買おうか。
誰か俺を殺してくれないかな。
救ってくれ
・・・
「これは素晴らしい。この短文での纏まりが素晴らしいな」
・評論家?
・哀愁漂うな
・www
・花咲望の穴がデカすぎる
・まあ正直、花咲が引退するなら泣くよりも先に感情無くなる
・ぼっち仲間が転校する的な気分なるな
「どうしようもなさが伝わるのがツボ」
このおたよりは結構刺さる。
引退配信で泣き喚き、悲しみに包まれて見送られるのもひとつの花形ではあるが、こうして後々喪失感が湧いて出てくるタイプは、独特なエモがあった。
多分晴れなんだろうな、この日。いいや絶対に晴れだ。だからこそエモい。
沸き立つエモさを共有できるヤツはきっと同志に違いない。
・花咲は引退する時泣いて欲しい?
「……泣くだとかの配信は得意じゃないな。悲しいエモより、笑ってエモになりたい。伝わるかこの感情」
・なんとなく
・お前には最後までバカやって爆散して欲しいよ
・配信終わるまでは泣けないような最後にしてくれ
・後からじわじわくるのが美しいよな、わかる
エモ、エモーショナルの美学とでも言おうか。
俺がひねくれているからだろうが、涙で終わる最後はそう望まない。涙ってのは感情の消化で、泣くのはその発露だ。俺が築いてきた配信は、本物であるVtuberとしての人生は、その程度で消化できるものだと思いたくないから。
だったら、最後までバカなことを言って、いつも通りの配信で終わる。そうして後々引きずるくらいの方がエモいと、本物であると、そう思うから。
・いや前提として辞めんなよお前
・死ぬまでVtuberやれお前は
・じじいになっても見るよ
・お前がいなくなったら他に見るVいねぇよ
・花咲が消えたら男性Vの地位下がるだろ
「……少なくとも、夢叶えるまでは辞めねぇよ」
確証はない。人生は長く、この一年で大きすぎる変化があった。
けれど、俺たちの夢___「世界を変えるVtuber」は、一生を賭けられない程度の覚悟で叶えられるものではない。途中で諦めるほど、甘い覚悟でもない。
「俺は専業主夫になって暮らしたいんだよ、スパチャで養ってくれ俺を。一生配信するから」
・この流れで乞食すなw
・企業勢の発言ではなくて草
・誰か石油王が配信マシーンにしてくれ
・一生配信してくれよ
空気が湿っぽくなってしまったため、気を取り直して次のおたよりに切り替える。
と、次のおたよりには注釈が付けられていることに気づいた。
「次の二通で終わりらしいが……ってそういうことかよクソ」
・なんだ?
・暴言
・何がクソなの
「読めばわかる」
・・・
はーくんが風邪ひいたわたしを看病してくれるボイス!
『……大丈夫っすか。風邪ひいた、って聞いて慌てて来ちゃいました』
『ほー、三十八度。結構重症っすね』
『いろいろ買って来ましたよ、お粥とかゼリーとか……え?近くに寄らないで欲しい、お風呂に入れてないから?』
『可愛いとこあるんですね。……ほら、食べさせてあげるんで、顔上げてください』
『動くな、じっとして。はい、あーん』
『……熱、上がりました?顔真っ赤っすよ』
『俺のせい?……はは、悪い子はどっちだか』
『毎日でもお見舞い来るんで、覚悟しといてください』
・・・
「誰だよこいつ」
・草
・少女漫画の花咲すぎるw
・バレバレじゃねーか作者が
・姉御確定で草
・はーくん呼びはバラしてるようなもんなんよw
・フィルター五枚くらい通した花咲
・なんか綺麗すぎてキモいぞ
「言動が俺じゃなさすぎるだろ」
おたよりというかボイス台本直接送りつけてるなこれ。
確かにいつぞやの記念配信で、台本書かせてとか言ってたっけか。だとしても依頼すらしてないのに書くのなんなんだよ。
・途中急に命令口調になるのツボ
「『動くな』ってヤツな。そこだけだと異能力バトルのセリフすぎる」
・ラブコメという戦闘
・絶対やさいじゅーすさんの性癖だろこれ
・そもそも花咲のビジュの時点でなぁ……
・隠れSな上司すぎる
・ちょっと強気なくらいが姉御のタイプと……
・夏服といいこういう男好きなんだろうな
・黙ってれば花咲も割とタイプに合ってる
「一旦看病ボイスは無しで」
・おい
・ここまで来たらボイスとして出せよ
・さっきみたいな棒読みじゃなくて感情込めてな
「感情なんて込めたらもっと地獄だろ」
誰に需要があるんだよ。黒奈さんしか買わんわこんなボイス。
客層がほぼ男なんだから、恋人目線は除外で。知り合いに聞かれたく無いので禁止カード行き。
「……ってことは、最後の一通は」
・うん、まあ
・姐御が来たらそういうことだよね
・愛されてんね花咲
・果たしてこれは愛されてる判定なのか
・お嬢、お願いしますかましてください
・・・
『無駄な足掻きよ、花咲。私はあなたの理想、敵う筈などないと理解しているでしょう』
重い、重い剣。
金属がぶつかり合う音だけが、無限の荒野に響き渡る。
『あなたの理想はただの借り物。一ノ瀬先輩がなりたかったもの、その景色を真似ているだけにすぎないわ』
『それ、は』
揺らぎそうになる心を必死に支える。
違う。否定する言葉、けれど受け入れてしまう心。
『男性Vtuber?笑わせないで。この業界には誰が求められているのか、どれだけの屍の上に成り立った存在なのか!借り物の願いで世界を変えるなんて、思い上がりも甚だしいわ___!」
叩きつけられる衝撃。
彼女は本気だ。本気で俺を、男性Vtuberを消そうとしてる。
抗わなければならない。俺が、俺が勝たなければならない、のに。
体は既に限界。指は曲がり、足は削れ、眼はもはや機能していない。
けれど。
僅かに残った視界には、まだ彼女の姿を映していて。
『そうよ。綺麗だったから憧れた!顔も名前も知らない人と通じ合う、愚かしい行為を綺麗だと思った!』
アリスの握る双剣が、否定のカタチで俺を襲う。
諦めたい。辞めたい、逃げ出したい。
『___その理想は破綻しているわ。Vtuberが世界を変える、誰とでも通じ合えるなんて、空想のおとぎ話。そんな夢を抱いてしか生きられないのであれば、抱いたまま溺死しなさい』
Vtuberだけじゃない、俺自身を否定される。
これは、食らった。完璧に、一つ残らず俺を否定され。
___それでも、残るモノはある。
『
『あなた、まだっ』
死にかけの体で、呟いた。
既に体は限界、何度切り刻まれたかわからない。
けれど、限界なんてとうの昔に超えているのだから___!
『くっ!止まりなさい!』
走る。走る走る走る。
アリスの剣を受ける力などない。回避は最小限、生き残るだけのカタチさえあればいい。
ただ、今は彼女の元へ。
『間違いなんかじゃ、ない』
Vtuberへの憧れは。
今は亡き社長たちから託された夢は。
確かに偽物だ、借り物にすぎない。
それでも。美しいと感じたんだ。
『この夢は!間違いなんかじゃないんだからッ!』
一振りの剣を、彼女の胸へ。
決着は一瞬だった。Vtuber同士の戦い、想いの張り合いが、終わる。
『俺の勝ちだ、アリス』
『……ええ。そして私の敗北よ』
どさり。
恐怖すら感じるほどに美しい彼女は、微笑を浮かべて倒れて。
『……そうね。こういうVtuberが、いたんだったわ』
・・・
「パクリじゃねぇか」
・まさかのアーチャー二体目
・何だこれマジでwww
・全パクリで草
・厨二病拗らせすぎるとこうなるのか……
・怒られろ普通に
・どんな理想のぶつかり合いだよw
・正義の味方(Vtuberの姿)
・いいシーン台無しで笑う
アリス、まさかの妄想が全部パクリだった件。
設定が謎すぎるだろ。Vtuberの固有結界ならもうちょい電子的であれよ。
・お嬢最近Fateハマってるからなぁ
・同時視聴めっちゃしているしね
・何なら移植版のゲームの方もしてたぞ
・自分の中の流行に影響受けるタイプだからなお嬢
「だとしてもだろ、人の配信に送りつけんな」
白鷺社長ー!おたくのVtuberがまた粗相してますー!
最後が台無しだったとはいえ、無事に企画は終わった……のか?
「……やさいじゅーすさんとアリスには、台本頼まないことにする」
・草
・妥当w
・看病ボイス出せよ
・姉御の方はギリセーフじゃね?w
・花咲的にはどれが良かった?
「ユニコーンとニートのヤツは、愛人の生態調査みがあって悪くなかったな。あとは殺して構文」
ボイス台本のあれこれが混ざったから企画自体の芯はブレてしまったが、おたより企画自体は悪くなかった。高評価数もそこそこ稼げているし、今後も恒例企画にしていこうとは思う。今度はもっと具体的にテーマ決めてな。
「ってことで、いい時間なんで終わるわ。明後日から予定あるんで……ま、年内はあと一回くらい配信しようかなと。おつ」
・おつ
・おつのぞ
・おつのぞー
・おもろかったぞ
・年内配信感謝
・また待ってる
・おつー
・・・
長かったクリスマス配信を終え、部屋を出る。
今日はリアクションが忙しかったせいかやけに疲れた。クリスマスだってのになんで疲れなきゃならんのだ、もはや気持ちはプレゼントを配るサンタさんである。
サンタさんにも労基とかあるんだろうか。数時間ごとに休憩とかしてんのかな。
階段を降りようとすると、ふてぶてしくカマクラが占拠していた。寒くないのかよここ。
嫌がるカマクラを抱えてリビングへ。ふへへ、暴れるな暴れるな……。俺は癒しが欲しいんじゃ。
「お疲れ様ー、お兄ちゃん」
「……帰ってたのか」
こたつでぐでーっとだらけているのはマイスイートシスター。
みかんを片手に、スマホで俺の配信を開いている。見てたのかよ。
小町は今日、友達とクリスマス会だか何だかに行っていたはずだ。小町が帰ってくる前には配信を終わろうと思っていたのに、案外長く配信してしまったらしい。
「悪い、声うるさかっただろ」
「んーん?今日はもう勉強する気なかったしだいじょーぶ」
Vtuberを始めてから、部屋の防音にはこだわっているものの、吸音材など切り貼りしてできる程度に留まっている。来年は小町も受験生だし、防音室の導入かスタジオでの配信を真剣に検討しなければならない。
けど防音室高いんだよなぁ……デカいし、高校卒業以降も実家にいる確証はないから悩む。
カマクラをどすりとこたつの上に乗せると、何だこいつという視線で俺を見てから、小町の元へすたこらさっさ。小町にはゴロニャンゴロニャンするあたり、太々しいヌコ様である。
「配信賑やかだったね。お兄ちゃんに友達がいっぱいいて妹は嬉しいですよ!」
「友達か、あれ」
愛人どもを友達と定義していいかは謎だけどな。拗らせ集団だし。
クリスマス効果か、にこにこと楽しそうな小町は冷蔵庫へ走り、小さな箱を持ってきた。
「そんな初めて充実してるお兄ちゃんにプレゼントだよ!」
「初めては余計だ」
「うん、だって……もう、ね?」
察しろみたいな表情すな。
わかってんだよ俺が灰色の青春を送っていることはァ!
「じゃーん、クリスマスケーキ!帰りに買ってきたんだ〜、一緒に食べよ。ほらほら、好きな方選んでいーよ」
白い箱の中には、美味そうなショートケーキとチョコケーキがひとつずつ。
奇遇だな、やはり千葉の兄弟は世界最強ですわ〜!
「……考えることは同じだったな」
「……もー、買ってきてるなら言ってよっ」
冷蔵庫の奥深くに隠しておいたケーキ。俺が朝早く、小町にバレないよう買ってきたモノだ。
兄比企谷八幡、小町のためならVtuberで貢がれた金を費やす所存。
それから、それぞれが買ってきたケーキをひとつずつ食べ、残りは明日にとっておくことにした。
ケーキの種類まで被っていたものだから、思わず笑ってしまったこともいい思い出である。
大天使コマチエルとのひとときによって、カオスだったおたより企画の記憶は吹っ飛んでいくのだった。
八幡と愛人との関係性を書きたかった回でした。
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