やはり俺がVtuberになるのはまちがっている。   作:人生変化論

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珍しく8000文字超えてました。
後半急いでしまったので、誤字脱字多いかもしれません。何とか無くなるように努力します。



八幡は初配信をする

「みっくす所属、ぼっち系バーチャルライバーの花咲望だ。よろしくな」

 

・よろしく

・よろしく

・声イケボやん登録しました

・ぼっち系?w

 

「騒がれてる通り、俺はぼっちだがなんか文句あんのか」

 

・早口で草

・涙拭けよ

・顔だと陽キャっぽいのにww

 

 

コメントでも言われたように、花咲望は外面だけは陽の者だ。

でも中身が陰だから実質陰だよやったね!

 

 

「ぼっちは孤高であって一匹狼だから群れないんだよ。集団でいない方が二酸化炭素排出量少なくなるから地球に優しい。つまりぼっちはエコ」

 

・屁理屈wwww

・俺は知らないうちに地球を守っていた...?

・結局排出量変わらんやろww

・ぼっちを誇れ

 

 

正直、キャラ作りをしなくていいのかという思いはあった。

人気のVtuberには独特の口調だったりテンションがある人が多い。そっちの方が親しみやすいし、なにより面白い。

でも、俺は決めたのだ。

ありのままの自分でいくと。ぼっち体験だろうが孤独経験だろうがなんでも語ってやると。

 

 

「とまあこんな感じで今後配信してくんで、良ければチャンネル登録トゥウィッターのフォローお願いします」

 

・伸びそう

・既にしました

・古参面しとこ

 

「じゃ、リスナーさんの呼び方とタグ決めてくぞー」

 

 

沢山の人が見ている中で話すというのは、初めての経験だった。

俺の言葉に、動作一つ一つに驚き、笑ってくれる新鮮な反応。

適度な緊張感と高揚感。くせになってしまいそうだ。

 

 

「まずは呼び方...。なんか思いつかないから『愛人』でいいか」

 

・愛人ww

・天才か?

・どっから出てきたwwww

・私たちはただの遊び相手なのね...!

 

「いやだってさ、ぼっち系なのに『◯◯友』とかにしたら矛盾するだろ?」

 

・確かにな

・開始1秒でキャラ崩壊するところだったw

 

 

Vtuberとリスナーとの関係は不思議だ。

家族でも友人でも知り合いでも他人でもない、不思議な関係。

 

社長は俺をスカウトした時言っていた。

『Vtuberという活動ハ、ココロのありのままが出るんデース』と。

 

他人でも知り合いでもないそんな関係だからこそ、リスナーにはありのままの姿をさらけ出せる。

だからVtuberには神回もあるし、炎上もあるのだ。

 

きっと、Vtuberとリスナーとの間の距離感なんぞ、誰も掴めないのだろう。

故に俺は、まるで独り言のようにすらすらと話し、自然に配信ができている。

つまるところ、人との距離感掴めないぼっちにとっては最適なコンテンツだね!

 

 

「えーと配信用タグは...何がいいと思う?」

 

・#のぞ生とか?

・#愛人の家

・#愛人の溜まり場

・#ぼっち集会

 

 

「じゃあ全部まとめて『#愛の巣』にするか。これから俺たちの愛を育んでいこうな」

 

・ヒェ...

・鳥肌たった

・まとめられてなくて草

・しゅき♡あいしてる

・え、ガチ恋勢?ww

 

 

おいそこ、俺にガチ恋勢ができるとでも本当に思ってるのか。

俺のどこにガチ恋する要素があるっていうのだ。

 

割とスムーズに(俺の独断と偏見で)リスナーの名前と配信用タグが決まったので、ここからは事前に決めていた企画を開始する。

企画に関してだが、今回は理沙さんが考えてくれた。その名も質問コーナー。

 

大型の企業系Vtuberともなると、新人はデビュー前にホームページに情報が掲載され、多くのリスナーがそれを見て予習してくるらしい。

 

だが俺たちは知名度なしの極小企業。存在をやさいじゅーすさんの助けを借りようやく知ってもらった程度だ。

社長によると、ホームページの閲覧数も大して増えなかったらしい。つまり今、多くの愛人は俺の姿とぼっちということだけ知っているということになる。

 

つまり今、ほとんどが俺に対して『いい服装してんのにぼっちと主張するヤバいやつ』というイメージをもっているのだ。

だから質問コーナーを行い、設定を知ってもらおうという目的だった。

 

 

「じゃ早速質問コーナーやってくか。このコーナーは、事前にトゥウィッターで募集した愛人たちからの質問に答えていくコーナーです」

 

・ぱちぱちぱち

・棒読みww

・ほんとに愛人呼びにするのかw

・もはや愛人呼びに快感を感じる

・↑すでに開発されてて草

 

【年齢を教えてください】

 

「24歳の社会人二年目、はい次」

 

・24なんや

・もっと上かと...

・てか回答くそ速いw

・淡々としてるなw

 

【かっこいいね...お気に入りの服?】

 

「え、なに会話してない?まぁお気に入りというか唯一無二というか」

 

・確かに唯一無二だないろんな意味で

・てかこの質問の流れ完全に...w

・それ以上はまずいw

 

【MかS、どちらかといえば自分は?】

 

「どちらとも言えないな。相手に合わせる」

 

・閃いた

・閃いた

・閃いたw

・ふーん、えっちじゃん

・もうこれはA◯...

・誰だよ質問この流れにしたやつw

 

【好きな体位は?】

 

「おい社長だろこの流れにしたの」

 

・アウトーw

・社長!?

・社長お茶目だな

 

 

常識人の理沙さんがこんな質問の流れにするわけない。

絶対社長がふざけた。断言できる。

 

だって初手肉まんを使ったナンパから始まった男だぞ?

 

 

「もう飛ばして次の質問行くか」

 

【ぼっちということですがどんな経験しましたか?】

 

「急にいい質問だな。そうだな、あれは中学生のとき」

 

・うん

・嫌な予感がする

・中学生って聞くだけでもう察した

 

「ぼっちの俺にも、偶々話しかけてくれる女子がいたわけだけど」

 

・あ...(察し)

・やめろ古傷がいたむ

・ひぃぃぃ、ぼっち特有のやつだぁぁ

・素敵な恋が始まるのワンチャン...

 

「勘違いして告白してクラス中に広められて無事死んだ、っていうエピソードがあってだな...」

 

・草

・草

・それ以上は俺も死ぬ

・古傷開きましたどうしてくれる

・同じ経験してるやつ多くて草

 

 

中学生の頃、折本という女子がおってな...(遠い目)

あの時の経験は、初めは疑うことから始まるという教訓となって生きてるよ。ありがとう折本ゆるさな

 

ひっひふーと呼吸し心を鎮める。

ちなみにこのラマーズ法、正しくは「ヒッ・ヒッ・フー」らしい。どうでもいい。

 

 

「はい次」

 

【ママのことどう思ってる?】

 

 

ここで言うママは現実の母親のことではなく、やさいじゅーすさんのことだろう。

やさいじゅーすさんから来た人が大半だろうし、答えておくべきだと思っていた。

 

そもそも愛人だけでなく、関係者でもやさいじゅーすさんの声すら聞いたことがないのだ。この話題は誰もが気になっているはず。

やさいじゅーすさんとは事前に話して良い範囲を決めておいたので、口に出すことに特に心配はない。

 

 

「やさいじゅーすさんな。裏でちょっとお話させてもらったけど、ほんとにいい人だったよ。聖人ってこういう人のことを言うんだなって」

 

・そうなんや

・神絵師で聖人、もしかしなくても神

・ ヤサイジュース:⁄(⁄ ⁄>⁄д⁄<⁄ ⁄)⁄かぁぁ

・!?

・!?

・!?

・本物だ!

・やさいさんもようみとる

・かわいいw

・これで男だったら草だなぁ

・夢壊さないでw

 

 

いつの間にかやさいじゅーすさんがコメントしてくれていた。

約束通り初配信見に来てくれたんだな。やっぱり聖人じゃないか惚れちゃうんで勘弁してください。

 

 

【コミュ障ですか?】

 

「もちろんだが」

 

・うせやろw

・今までめっちゃ話せてたじゃんw

 

「なんか、配信って人と話してる感覚ないんだよ。強いて言うなら独り言と同じ」

 

・なん...だと

・俺たちは人と思われていなかったのか

・じゃあ愛人は人じゃない...?

 

 

コメント欄がぎゃーぎゃー騒いでおられる。

コミュ障の極みの俺がここまですらすら配信出来ていたのは、これが1番の理由だろう。

配信は、どうにも人と話しているという感覚にならないのだ。

だからまるで家族と話しているような、独り言を言っているような感覚で話せている。

 

それに、Vtuberの体となるモデルを動かすのが楽しい、というのも一つだ。

モデルに関しては社長たちがこだわってくれたからか、非常に多くの表情がある。

めをくわっと開けば一緒にモデルの目も開かれるし、口を開ければ一緒に開く。

その感覚がなんだか面白くて、夢中になっていた。

 

Vtuberやったら誰もが面白いと思うぞ、これは。

 

 

・ヒェ...

・こわい

・急にどした

・めっちゃ見開いてるw

 

「おっとすまん、目が開いてた」

 

・開いてたww

・え、自動で開くの?w

・目乾燥するぞ

・目が濁ってるから関係ない説

 

「案外面白くてなこれが...って、もう1時間か」

 

・はやい

・あっという間ですた

・あいさつ...どうするっすかね...

 

 

コメントで、まだ挨拶を決めていないことに気付かされた。

Vtuberたるもの、固有の挨拶の一つや二つ持っているべきだろう。

そのVtuberを象徴する言葉になるだろうし、メタいことを言えば初見勢に覚えてもらいやすい。

 

 

「挨拶決めてなかったか。そうだな...名前が望だし、こんのぞ、おつのぞにするか」

 

・りょ

・おけ

・今度は適当じゃなかったなw

 

「じゃ、今後こんなノリで配信してくんで、気に入った人は次回も是非。明日20時からまた配信します」

 

・このやる気ない感じすこ

・次回も来ます!

・笑ったわ1時間

 

「明日という一日が、皆様にとっていい一日となりますように!せーの、おつのぞ!」

 

・wwww

・最後に笑わせんなww

・パクリばっかで草

・おつのぞ!

・おつのぞ〜

・おつのぞ

ヤサイジュース・おつのぞっ

・ママまたおるw

 

こうして、花咲望の初配信は無事終わりを迎えたのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

初配信が終わってから、俺は飛び出るように家を出た。

だってリビングで家族全員が配信見てたなんて聞いてねーわ。

小町に至っては、『ぼっち系...』なんて言ってニヤニヤしてたしな。彼女の存在を家族に知られたリア充になった気分だ、知らんけど。

 

もちろんだがそんな理由だけで外出したのではない。理紗さんに呼ばれていたからである。

呼ばれていた事に気付いたのは、配信が終わった直後のことだ。

『ピザ。いまこい』とだけ送られてきた。

うんなんかピザなんだろう、やっぱり知らんけど。

 

現在時刻は夜8時。人通りも少ないので、俺は自転車で爆走していた。

ここで隣を走る男達でもいれば青春のワンシーンだったんだろうが、あいにく俺には縁がない。

何故高校生は並んで走ったりチャリを走らせるのが好きなんだろうか。高校生はナマケモノの生態よりも謎である。

 

 

「...あっつ」

 

 

風がモロに当たるし、まだ春先。

気温的にも涼しい時間帯だが、俺は無性に熱を感じていた。

...きっと、配信の興奮がまだ冷めないのだろう。

行ったことはないが、アーティストのライブの後はしばらく熱が覚めないと聞く。

同じような状態なのだと、どこかで感じていた。

 

疲れただとか楽しかっただとか、そんな感情は浮かんでこない。

純粋に充実していたと、そう思う。

 

オフィスに着く前に落ち着いておこうと、公園に自転車を停めた。

自販機で買うのはマッ缶。ホットで。

さっきから散々暑いとか言っているのに、ホットを買うという。

 

割とこの感覚は共感性が高いのではなかろうか。

例えば暑い夏の日、アイスコーヒーを求めてコンビニに行ったとする。

向かっている時は散々冷たいのが飲みたいのに、いざ買う時になるとホットを注文してしまうアレ。

コンビニのクーラーのせいなのかどうかは定かではないが、結局後悔するのだアレは。

何でなんだろうな...人間の神秘である。

 

そんなどうでもいいことを考えつつ、ぷしゃごくごくうんうまい。

この暴力的なまでの甘さに慣れると、普通のコーヒーじゃ物足りなくなるよね。わかる。

マッ缶が全国の自販機に完備されるまで俺は千葉から出れないだろう。

旅行に行った時、どこの自販機にもマッ缶が無いことには驚いたものだ。

 

 

『〜♪』

 

「ん...電話か」

 

急に着信音が鳴る。

着信音君もっとびっくりさせない努力してください。お願いしますね。

 

俺のスマホに電話するヤツなんて家族か社長たち、あとなんちゃら調査の人くらいだ。

さぁ誰かと身構えたが、表示されていたのは意外な人物だった。

 

 

『比企谷君、いまだいじょうぶ...?』

 

 

不安そうな声で言ってきたのは、ママことやさいじゅーすさんだった。

 

 

「大丈夫っすよ。今公園で休んでたとこなんで」

 

『わぁ、公園でなんてお洒落だね』

 

「...1人で黄昏てるだけですよ」

 

 

初対面の時から思っていたが、ほんわかとした反応にこちらまでほんわかしてしまう。ほんわかの循環である。

 

 

『あのね、お疲れ様を言いたくて。初配信、すっごくよかったよ』

 

「配信きてくれてましたよね、ありがとうございました」

 

『お礼なんていいよ、わたしが見たかったんだから。でも、さすが比企谷君だね。すっごく面白かった』

 

「そうっすかね?ちっと挑発し過ぎかと思ってたんすけど」

 

 

実際自分の発言を思い返してみると、かなり挑発的だ。

敬語を使っているわけではなかったし、ファンネームに関しては適当。

これがウケるのか、生意気すぎて炎上しないかは1番気にしているところだった。

 

 

『...?もしかして、トゥウィッター見てない?』

 

「はい、エゴサはまだ。今でもいいですか?」

 

『うん』

 

 

断りをいれてから、トゥウィッターでエゴサをしてみる。

試しに#花咲望で検索すると、結構な数のトゥウィートが投稿されていた。

『面白い』だったり『ぼっち系は将来性ある』といったトゥウィートがある中、『初手適当に愛人は草』というつぶやきが多い。

俺の不安とは裏腹に、あの発言は好意的に受け入れられていたようだ。

 

しかし中には、批判的なつぶやきもある。

俺の発言が気に食わなかったものもあれば、そもそも男性Vに攻撃的なつぶやきもあった。

まあアンチ勢はどんなに人気でも湧いてくるものだ。悩むよりも、改善する糸口にした方がいい。

 

アンチもいるとはいえ、ほぼ無名の企業勢としては中々いいスタートではないだろうか。

 

 

「...割と好評ですね。でも大丈夫でした?やさいじゅーすさんに迷惑掛かってませんか」

 

 

俺の心配所はそこだった。

ネット上では神絵師と呼ばれ、書店では見ない日が無いほどの有名な絵師さんだ。

俺が炎上でもすれば確実にやさいじゅーすさんに被害が及ぶだろう。彼女は花咲望の生みの親というだけなのだから、迷惑をかける訳にはいかない。

 

『...あぁもう!かわいいなぁはーくんは!』

 

「え」

 

『わたしに迷惑なんていくらでもかけていいよ!人を気遣えるなんて、ほんとにいい子だなーもう!』

 

 

思わず見違えるほどの変わりようだった。

マシンガンのように一通り話し終えたやさいじゅーすさんは、はっとしたように言った。

 

 

『ご、ごめんね...ひいたよね、こんなわたし』

 

「全くっす、俺もマッ缶への愛なら負けてませんよ」

 

マッ缶についてだったら、半日は語れるぞ覚悟しろ。

70年代のマッ缶と他の缶コーヒーの競争なんて完璧に理解してる。マッ缶検定1級の一次試験突破は余裕だろう。だぶん二次面接でキョドって落ちる。

 

 

『ふふっ。はーくん、ほんとに優しいね』

 

「...あの、ちなみにそのはーくんというのはいったい」

 

『比企谷くんの下の名前と、花咲っていう名字、『は』が共通してるでしょ?だからはーくん。ダメ...かな』

 

「いいえ、大歓迎です」

 

『よかった...。あのね、わたし自分の描いた作品のこと、自分の子どもだとおもってるんだ』

 

 

そういう人はよく居ると聞くから、別に変な話では無いだろう。

ペットを子供のように思う人もいれば、人形を家族として大切にする人もいる。

 

 

『だからその、自分の子どもが動いて、話をしてるのを見たら...なんだか嬉しくなっちゃって。ごめんなさい、ひいたよね』

 

「いいえ、全く。むしろご褒美です」

 

 

年上ゆるふわ系お姉さん(推定)が、ここまで想ってくれるなんてひくわけないじゃないか。

 

『その...ほんとに?嫌じゃない?』

 

「そもそも、やさいじゅーすさんの助けじゃなきゃここまで来れませんでしたよ。いわば恩人なんですから...そんな人を、嫌うわけないじゃないですか」

 

 

やさいじゅーすさんのイラストと発信力がなければ、俺はそもそもデビューすらできていなかったかもしれない。

ここまで俺を、花咲望を引っ張り上げてくれたのは他でもない、やさいじゅーすさんだ。

やさいじゅーすさんが居なければ、俺は今この場に立っていなかっただろう。

 

 

『自分で言うけど、わたしけっこうめんどくさいよ?配信も毎日行っちゃうだろうし、たくさんコメントするよ?それでも...いいの?』

 

「もちろん」

 

というか、Vtuber業界にはそういうリスナーもたくさんいるだろう。

好きなことに遠慮してはいけない。まぁ適度に、常識の範囲内でだけれども。

 

 

『...そっか。君が、はーくん(花咲望)はーくん(比企谷八幡)で、ほんとによかったよ。ありがとう』

 

「こちらこそ。...これから、よろしくお願いします」

 

そう言って俺たちは、静かに電話を終えた。

再び自転車に乗って、夜の町へ漕ぎだしていく。

 

 

◇◇◇

 

 

オフィスには、食欲をそそるチーズの匂いが充満している。

匂いの発生源である会議室に進むと、社長と理紗さんが既に1杯始めている所だった。

 

「よっ!来たな八幡!」

 

「理紗さん...どっからこの金出したんすか」

 

 

会議室のテーブルの上には、6枚のピザだけでなく高そうなワインも置いてある。豪華以前に食べ切れるのかこの量。

 

「安心しろ、これは社長のポケットマネーさ。な?」

 

「ヒュ、ヒュ〜♪」

 

 

理紗さんの言葉に、へったくそな口笛を吹きながら目線をそらす社長。

ダウト。いちいち三下のチンピラみたいな反応しないでいただいきたい、社長なのだし。

 

 

「は?おい、この金どっから出した」

 

「そ、ソノ...私には今後ノ見通しとか、色々な理由があってですネ...」

 

「言え」

 

「会社のお金です」

 

「大手企業だったら犯罪だぞそれ!」

 

 

理紗さんは怯えている社長に、見事な横四方固めを決めた。

最近は、会社員が会社の金を濫用して捕まる例はよく聞く。

俺らが極小企業でよかったな。

 

 

「いたいイタイギブでースギブでース!」

 

「悔い改めろ!」

 

 

技をかけ続ける理紗さんを横目に、俺はてりたまピザを1切れ取った。

結局社長が払うことになるのだ、食べない方がもったいない。

ということで、いただきますはむはむもぐもぐむしゃむしゃごっくんうんうまい。

 

なにか炭酸系の飲み物でも買ってくればよかったなと思いつつ食べていると、社長を〆終わったのか笑顔で理紗さんが俺の向かいに座った。

 

息を整えると同時にワインを一口含んでから、彼女は話し出した。

 

 

「初配信、よかったよ。あんなに自然にリスナーと接せるVtuber、中々いないさ」

 

「...そうですかね」

 

 

理紗さんにそう言って貰えて、安心した。

今まで俺のVtuberデビューに最も真剣だったのは、間違いなく理紗さんだろう。あと社長。

 

 

「私もこいつも、気持ちは同じだよ。八幡の初配信を見た時、心が震えた。八幡なら世界一のVtuberになれる...ってね」

 

「正直、実感ないんすけど」

 

「これからだよ。結果が努力に結びつくのは後からだって相場は決まってるだろ?」

 

 

まだ初配信の段階というのもあるだろうが、チャンネル登録者が劇的に増加した訳ではない。

伸びるのか、変わらないのか。それは現状、誰にも分からないことだ。

 

だから人は、俺はいつか報われることを願い、足掻いていく。

 

 

「...私たちには、目標ができたよ。八幡を世界一のVtuberにするっていうな」

 

「...ありがとうございます」

 

「私たち二人はもう決まった。じゃ、八幡はさ」

 

 

理紗さんは、じっと俺を見つめる。

 

 

「どんなVtuberになりたいんだ?」

 

 

俺は、一ノ瀬花蓮に憧れていた。

憧れて、憧れて。

背中を追うようにVtuberになって、それで。

俺は、何になりたかった?

 

答えは、ひとつしか無かった。

 

 

「最後に、胸張って笑えるVtuberです」

 

「...」

 

「やってて良かったって、そう言ってゲラ笑いして...。それが出来たら、最高じゃないですか」

 

 

後悔が多い人生だ。

そんな人生の中で、これだけはやっててよかったって、笑って終われる本物を。

いつか、疲れ果てたとき。

楽しかったと心から言える、そんなVtuberに。

 

 

「ふーん、いい目標じゃねーか!」

 

 

彼女らしく、ニカッと笑った。

手元に残ったワインをクイッと飲み干した理紗さんは、話を切り替えるように言った。

 

 

「じゃ、そんなVtuberになる為にも大事なのは、明日の配信だ!ネタは思いついたか?」

 

 

初配信を行った今日は土曜日。

最も視聴者が集まりやすい日曜日、つまり明日2回目の配信をする予定になっている。

 

理紗さんと話し合った結果、リスナーをより引きつけるポイントとなる2回目の配信は、企画系で行うことになった。

企画系の例を上げれば、他Vtuberからの電話を待つ凸待ちや、その対義語である逆凸などが存在する。

当然ぼっちの俺には無縁なので関係ないとして。

その企画の内容を、考えて置いてほしいと頼まれていたのだ。

 

「はい、一応」

 

「よかった。どんなのだ?」

 

「道具使うんで、写真かなんかで送りますよ」

 

 

配信のネタは、今日の初配信中の愛人たちの反応を見て思いついた。

道具というかなんというか、個人的に見せづらいものだったから、写真を撮って送ろうとしていたのだが。

 

 

「あー、だったら明日ここに持ってきて貰えるか?」

 

「え、別にいいっすけど...。明日日曜日なのに出勤するんですか」

 

「その、言ってなかったか。実は私たち、ここに住み込んでんだよ」

 

「え」

 

 

衝撃の事実だった。

つまり家が無いだとか食費どうしてるんだとかそういうことよりも、理紗さんと社長が同棲していることの方が衝撃だ。

 

ますますこの二人の関係性が分からない。

 

 

「てか社長はまだのびてるんですか」

 

「...のびてるというか寝てるなこれは。今日色々あったからそっとしといてやってくれ」

 

 

はは...と苦笑いしながら頬をかく理紗さん。謎は深まるばかりである。

 

 

「ま、こいつは置いといて。どんな配信をするつもりなんだ?」

 

「あぁ、それはですね...黒歴史暴露配信です」

 

 

この時の、理紗さんの不思議そうな表情が印象的だった。

 

 

 

 

 




花咲望(みっくす所属)
24歳の社会人2年目。
目が濁っており、小さい頃からぼっちを貫いている。

ファンネーム→愛人
配信用タグ→愛の巣

配信でのぶっ飛んだ発言が人気。


目が乾くネタは某美大生さんのやつです。
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