やはり俺がVtuberになるのはまちがっている。 作:人生変化論
前回、アリスの容姿が知りたいという方がいらっしゃいましたので紹介します。
アリス・オミソルシル(りあるのすがた)
金髪に蒼い瞳、真っ白な肌の美少女。
身長が低く、歩いていると小学生に間違えられる。実年齢は秘密。ちなみにジェットコースターには乗れる。
黒いゴスロリをよく着ている。街中で着ても、その容姿故によく似合っていてなんかそういう組織の人っぽい。
アリス・オミソルシル(ばーちゃるのすがた)
容姿は現実とほとんど変わらない。が、色々な理由でバレることは無い。作中で話されますたぶん。
現実とは違い、赤いゴスロリ姿。ハートの女王をモチーフにしたゴスロリで、頭には王冠(?)を付けている。
【断罪】私が奴を“断罪”するわ...ッッ!
「ごきげんよう眷属たち。わんちーむライバーにして魔界の皇女、アリスっ!オミソルシルっ!よっ!」
・お嬢うわぁぁぁぁぁぁ ¥10000
・ぴえぇぇぇぇぇぇぇ! ¥7500
・ぐぇぇぷぁぁぁぁぁぁぁ ¥10000
・おめでぶぇぇぇぁぇ! ¥9000
・え、何どういう状況?
・アリスリスナーってこんな感じなのかw
「ちょ、どうしたのよ眷属!言葉になってないじゃないっ」
始まったコラボ配信...じゃなかった、対決配信は混乱の極みにいた。
俺とアリス・オミソルシルが配信を初めてすぐ、この惨状である。
お陰で画面の中のアリスは困り顔である。何その顔俺もやりたい。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさい!」
・落ち着くうわぁぁぁぁぁ ¥8500
・これアリスリスナーからのサイバー攻撃だったりする?
・愛人全員困惑してて草
・ぶぇぇぇぇえぇぇぇ! ¥10000
ちなみに何が何だか分かっていないのが愛人達で、奇声を上げているのがアリスリスナーこと眷属たちである。
奇声を上げるアリスリスナーは皆、高額のスパチャを飛ばしていた。
スパチャというのはスーパーチャットの略で、要するに投げ銭である。
配信者に好きな金額を送ることが出来るシステムで、Vtuberにとっては一つの収入源だ。今回はアリスのチャンネルで配信しているし、俺は収益化解禁されてないから実質収入ゼロなんだけどな!すみません社長頑張ります。
とにかく、配信に来た途端高額スパチャが飛び交っているのだから、愛人はそりゃ混乱するだろう。
「あんたのリスナーって、いつもこんな感じなのか?」
「違うわよ!いつもは私に忠実な眷属たちなのに...」
じゃあこれ全員俺に怒ってるとかない?アリス側のガチ恋勢がブチ切れて嫌がらせの為にスパチャしてるとかではなくて?『おめーこんな高額スパチャ見た事ねーだろ』的な。
・今北、これどういう状況?
・断罪ってどゆこと花咲w
・のぞみん断罪されるのかw
・ぴええええぇええぇ! ¥10000
「そ、そうよね分からないわよね...。とりあえず自己紹介お願いできるかしら」
「......みっくす所属、ぼっち系バーチャルライバーの花咲望だ。愛人のみんな安心してくれ、俺も困惑してる」
なんならアリスでさえ困惑している。
・はじめましてぇぇえぇぇええ ¥10000
・のぞみんも遂にぼっち系卒業か...
・1週間で卒業は草
・お前...コラボ童貞捨てちまったのか...?
・こら!初めては姉御っていつも言ってるでしょ!
「言ってねぇよ、つかあの人声出ししないだろ」
・ヤサイジュース:はーくんがいいなら...いいよ?
・姉御!
・姉御きちゃ!
・姉御もようみとる
・流石花咲ガチ恋勢、花咲のことはなんでも受け入れる
・うえええ本物だぁぁぁぁ!? ¥10000
・ナンデェェェェ!?¥7000
姉御ことやさいじゅーすさんの登場により、配信はどんどん混乱を極めていく。
困惑する俺VS焦るアリスVS困惑する愛人VS高額スパチャを送り続けるアリスリスナーVSガチ恋勢姉御という地獄絵図が、ここに誕生した。
「さあ本題に入るわよ!私はいま、すっっごく憤ってるのよ!」
「怒っているで良いのでは」
「......怒っているわ!」
厨二病なのか天然なのか分からない。
「花咲のリスナーは記憶に新しいと思うのだけれど...彼は先日の配信で、大罪を犯したのよ」
「何故...」
「とにかくっ、貴方は犯したのよ!あれほど素晴らしい物語を『黒歴史』と呼んだ大罪をね!」
・あっ...(察し)
・魔界の皇女ってそういう意味か...
・つまり中の二の病という...
・やめろ皆まで言うな
その言い方だと俺だけでなく愛人共にもダメージが行くけどよろしいか?
絵師もVtuberも素晴らしいと口を揃える、つまりは俺の小説は神作品だったりするのだろうか。いやそれはない。
主人公を二回転生させた理由が『名前に飽きたから』とかいう作品が神作品なのはまちがっている。
「...恐らく何も知らないであろう眷属の皆様に説明すると、俺が先日配信の中で、中学校時代に書いた黒歴史小説を晒したんだが」
「また黒歴史って!」
「神作品を!晒したんだが」
・なるほど ¥10000
・それは傷が深そう ¥8000
・花咲さん初めて知ったけど面白そうだな ¥8500
うん、眷属の皆さんがまともに会話出来るのは分かったから、高額スパチャで会話するの止めてくれない?怖いんだけど。
コメント欄は高額スパチャで真っ赤である。震えちゃう。
「それを知った皇女様が事務所に凸ってきた。以上」
「人聞きが悪いわね、現界と言いなさい現界と」
「いつから神になったの...」
「さっきからよ!」
彼女はふふんと薄いむ...体を反らす。
その様子に対応し、画面内のアバターは得意げな笑みを浮かべた。
「貴方には今から、私と対決をしてもらうわっ!私が負けたら一つだけ言うことを聞いてあげる......でも、私が勝った暁には『黒歴史』という発言を撤回するの!」
嫌だけどぶっちゃけそこまでではない。
「それと、貴方の挨拶はこれから『今日も元気に超広大遠距離爆殺魔法!どーも花咲望です』になるわ、一生ね!」
それは嫌だわ。
どこに自分の書いた小説の最終奥義を挨拶にするVtuberがいるのだ。あ、いた俺の目の前に。
テーブルを挟んで反対に座るアリス・オミソルシルは、俺に向けてビシッと指を指した。
「勝たねばならん...」
「うん、意気込みは大丈夫そうね!」
・花咲完全に巻き込まれてて草
・なんだかんだ面倒見のいいのぞみんであった
(恐らく)年下の扱いには小町で慣れているからな。
年下と接する時のコツは、行動に見返りを求めないことである。見返りなんぞほぼない。というか十割ない。
「どうやって勝負するんだ、味噌汁の早飲みか?」
「それはいいわね勝つ自信があるわ、ってちっがーう!」
・華麗なまでのノリツッコミ
・うぇええぇぇんお嬢ぉぉぉ ¥9000
・ついにこの日がぴえぇぇぇぇん! ¥10000
「貴方まで味噌汁味噌汁味噌汁味噌汁って...!私は!アリス!オミソルシル!魔界の皇女なのよ!?」
とか言いながら絶対味噌汁好きだな、間違いない。
ぷんすか怒るアリスを横目にスパチャを投げ続ける眷属達。喜んでるのか悲しんでるのか分からないがブルジョワなリスナー達である。もしかして全員石油王だったりする?
「まあいいわ、私が勝ったらその発言も取り消してもらいましょう...。私が勝つことは確定しているのだし、これくらいは当然よね」
「ずいぶんと自信をお持ちのようで...」
「ふふん、私はレート対戦とタイムアタックで育ったと言っても過言じゃないのよね」
すごくデジャブ。
アリスはそう言って、キャリーバッグの中から2台のゲーム機を取り出した。コントローラーの色が黒にカスタムされた、某スイッチ系ゲーム機である。
空中に投げ出される1台のゲーム機。アリスが放り投げたそれは、弧を描きながら俺の元に飛んでくる。
何それかっこいいから後で練習しよう、いや壊れたくないから止めておく。安全第一。
「キノコでドーピングし、甲羅で破壊する地獄の競技っ!マリ〇カートよっ!」
◇◇◇
「おかしいっ!キャラのせいよキャラのせい!なんでこんな重量なのよっ!?」
「『お互いランダムで行きましょう』とか言ったの誰だろうな」
「い、言ってないわ!......言ってないわ」
レースを始める前に『フェアに戦う為にキャラはランダムで』と言われた結果がこれである。
綺麗なまでの連勝。アリスはレートが高いだけあって強かったが、俺の方が1枚上手だった。
そして何よりもうるさい。甲羅が当たっただけで「いやぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ」と絶叫していた。向かいにいる俺でも五十枚は鼓膜が破れたくらい。
「...ちょっと、飲み物買ってくるわね」
「了解」
「花咲、何か飲みたいものはある?」
「え、いいのか」
「突然押しかけた謝罪の意を込めてね。...これでも、悪くは思っているのよ。DMでも送っておけば良かった、ってね」
もしかしてこいつ、いいやつか?
陰キャにも優しいタイプの陽キャ確定演出かもしれない。
「ここで何かしら返さないと、後に引きずると思うの。安い謝罪だけれど、受け取ってくれると幸いだわ」
「...どうも。じゃあマッ缶を頼む」
「あの黄色いヤツよね?分かったわ、三分くらいで戻るわね」
手をヒラヒラと振りながら、ちいさな彼女は会議室を出ていった。
思わず配信中ということを忘れそうになったが、流れるコメントを見てなんとか思い出す。
言っておいてあれだが、マッ缶が通じて一安心。最近はマッ缶の存在を知らない若者も多いからな。崇めよ練乳を、崇めよ甘々コーヒーを。
「...もしかしなくても、いいやつだな」
・お嬢は基本いいひと
・なんだかんだ優しいんだよお嬢は
・罵倒はするけど最後には謝るからね
「お、普通に喋れてるな」
・失礼、先程は感情が昂りました
・失礼、感情に任せてスパチャをしてました
・失礼、思わず号泣しておりました
「もしかしてなんだが、コラボに対する怒り的な意味だったりするか?コラボ相手のリスナーに聞くのもおかしな話だが」
・ちがいます
・眷属は皆喜んでるんだよ
・コラボであんなに生き生きしてるお嬢は初めてです
・お嬢が事務所に凸ったって聞いた時はびびった
「...ん?つまりはどういう意味で?」
・お嬢は超が付くほどのコミュ障でぼっちです
・同期コラボで話せなくて二回目から呼ばれなくなる
・↑というか気まずくて三期生全員のコラボが開催されない
・箱内の大型コラボでミュートして眷属と話し出した伝説のVtuber
ぼっち...だと。あの猪突猛進を地でゆくような少女がぼっち?にわかには信じ難い。
と思ったが、アリスからレートの話をされたことを思い出す。あの時感じたデジャブはコレだったのかもしれない、と。
急いでスマホを取りだし、『アリス・オミソルシル 切り抜き』と検索すると、人気のVtuberらしく何本もの動画がヒットした。
他のVtuberにもあるような発狂まとめや迷言集もあるにはあるが、再生回数が数十万を超えるのは総じてぼっち関連のワードが入っている。
中でも飛び抜けて人気なのが『【悲報】お嬢、二時間のコラボで一言も話さない』という動画だった。
これがコメントで言われている、ミュートして眷属と話し出した事件らしい。
「ぼっちなのは理解したんだが...。なんで俺に対しては物怖じしなかったのかが分からん」
俺だけではない。社長と理沙さんも同様である。
最初にオフィスに来た時は、理沙さんと威勢よく怒鳴りあっていたし、その後来た社長にも態度を変える様子は無かった。
・お嬢は割とそういうとこある
・自分の好きなことには周り見えなくなるタイプ
・オーディションの時も社長にやりたいこと熱弁したらしいからね
それはまあ、分からなくもない。
厨二病やオタクは特にそうだ。普段はおどおどしているけれど、好きなことになると異常なほどの度胸を発揮する。それこそ、まるで性格が変わったのかの如く。
・だから、眷属たちはみんな嬉しいんだよ
・ソロ配信の時のお嬢も好きだけど、コラボではしゃいでいるお嬢も見たかった
・男であれ女であれ、お嬢がありのままでいることが嬉しい
・本当にありがとう花咲
・俺たち眷属はお嬢のおかんみたいなもんだからな
・お嬢とコラボしてくれてありがとう
アリス・オミソルシルというVtuberは、本当にリスナーに愛されているのだと。
コメント欄に流れる、溢れんばかりの感謝の言葉を見てそう思った。
配信開始直後から押し寄せてきたスパチャの数々も、そんな信頼の一環だったのであろう。
Vtuberは、言ってしまえば無償でも推せるのだ。金額で愛の大きさは変わらないし、他のリスナーに対してマウントがとれるわけでもない。
そんな中でもスパチャをする理由は、未来への投資なのだと思う。
これからもっともっと人気になって、もっともっとビッグなVtuberになったとき。彼女はきっと、もっともっと面白い配信をリスナーに見せてくれるだろう。
そんな未来に期待して、頑張って欲しいとスパチャを送る。
勿論、その期待が叶えられるかは分からない。だからこその信頼関係だ。
眷属はアリスを愛し、期待し、信頼する。
アリスは眷属を時に笑わせ、楽しませ、感動させる。
アリスと眷属達の間には、目に見えない強固な信頼関係があった。
そして今、その信頼が愛という目に見える形で表れている。
この広いVtuber界を探しても、ここまで愛されているVtuberを見つけることはできないだろう。
「アリスと眷属たちが凄いのは、めちゃくちゃ伝わった。...色々ありすぎてまともな感想言えないが、とにかく凄いやつで、とにかくいいやつなことは伝わった」
配信でもきっと、アリス・オミソルシルというVtuberはいいやつなのだろう。
俺のようにぼっちだし厨二病だし、常にイキっているのだろう。
けれどスパチャはちゃんと読むし、決して相手が傷つくようなことは言わない。そんな光景が、付き合いの短い俺でも容易に想像できた。
その時、コメントの流れが変わった。
眷属一色だったコメント欄に、愛人たちが混ざってきたのだ。
・俺たちのことも忘れんなよ花咲ィ!
・はやく収益化解禁しろよな花咲ィ!
・愛人は愛人らしく禁断の愛育むぜ花咲ィ!
・はやく小説出版しろよ花咲ィ!
・ヤサイジュース:挿絵の準備できてるよはーくん!
・1人だけ異質で草
・流石っす姉御!
・流石姉御、仕事がはやい!
・よし後は出版だぁ!
「......ふっ」
エモい空気感の中でも平常運転な愛人たちに、思わず笑みが零れた。
・え、何その笑い声惚れた
・のぞみん可愛すぎん?ヒロインだったりする?
・初めて聞いたぞ花咲の笑い
・もっと笑ってほちい
・ヤサイジュース:可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い
・今日の配信でやさいじゅーすさんのイメージ変わったわw
・こんな面白かったとはw
・花咲の配信中じゃ平常運転ぞ
・姉御は花咲絡みだといつもこんな感じやぞ
「可愛いとか初めて言われたわ。身内はキモイしか言ってくれないからな」
眷属とアリス。愛人と俺。
リスナーとVtuberの関係を、ひとつ知ることができた気がした。
「戻ったわよー...。はい、これがマックスなんちゃら」
「......」
「な、なによその生暖かい眼差し」
「......」
「なんだか恥ずかしいから止めてくれるかしらっ!?」
◇◇◇
戸惑いながらも俺の向かいに戻ったアリスは、開口一番に言った。
「き、気を取り直して...。花咲、貴方のところの社長が呼んでいたわよ」
社長が呼び出し?しかも配信中にとはどういうことだろう。
社長が俺を呼び出すことなどほとんど無かった。となれば、かなり緊急性の高い案件なのかもしれない。
...アリスの表情が、にっこにこである。
この後何か仕組まれているであろうことは容易に想像できた。
しかし、このまま行かないという訳にもいくまい。こういう時は度胸が大切である。
「ちょっとだけ、行ってくる」
立ち絵が眠っているように見える位置に調整してから、そそくさと会議室を出る。
相変わらず無駄に広いオフィス。見渡すがどうやら理沙さんは居ないようで、デスクの一角で社長が何やら作業していた。
学校終わりの夕方に配信を始めたはずだが、既に外は薄暗い。
オフィスは電気がついておらず、会議室の光だけが微かに漏れている。
その中でただ1つ、社長の使うパソコンだけが爛々と光っていた。
「目、悪くなるっすよ」
目が腐っている俺が言えることではないのだけれども。
「......ん、八幡ですカ」
しばらく同じ姿勢だったようで、社長は疲れているようにひとつ伸びをした。
車で爆走した時とは違い、人格が変わったかのように大人しい。
「どうかしましタ?もう配信は終わったのですカネ?」
「...え?社長が俺の事を呼んだのでは」
「ハハ、そんなことする訳ないデース。大切な配信中なのですからネ」
社長が俺の事を呼んだわけではないのか?
そうなると、アリスが俺に対して嘘をついたということになる。嘘をついたと言っても理由が分からないが。
......まぁ、戻れば分かるだろう。きっと。
会議室に戻ろうとした時、社長は丁度いいと前置きしてから俺に尋ねた。
「何か、彼女から得たものはありましたカ?」
「......まぁ、それなりには」
「それなら良かったデース」
いつも、社長はどこか一歩うしろにいる。
それは心の余裕だとか精神的な話だとかではなくて。
大人として、協力者として。みっくすの社長として、一歩うしろで見守ってくれている。
今もそうだ。
得たものの内容を聞き出す訳でもなく、「何かを得た」という情報だけで満足げな笑みを浮かべている。
「...聞かないんすね」
「聞いてほしかったデスカ?」
「いや、そういう訳でもなく。純粋に、聞かないんだなと」
「『一万人の人が、花咲望という一人のVtuberに何を求めているのか』そのヒントを得ることができると、ワタシは貴方に言いましタ」
くるっと椅子を回転させて、大袈裟に手を動かしながら話す社長。
金髪で赤ジャケな男が行うその仕草は、最高にキマっていた。
「それハ、いわばVtuberとリスナーとの間の話。八幡と愛人との間の話」
ドン、と俺の胸が叩かれた。
「ですからその得たものは、貴方の心の中にさえあればいいんデース」
こういうところだ。
普段はどこか抜けているし、お調子者だし、性格は悪い。
けれどちゃんと見守ってくれていて、振り返ればいつもそこにいる。
こういうのが真のかっこいい大人なのだと実感させられた。
「...ですね、心の中に秘めることにします」
「おヤ、今日はやけに素直ですねネ。おっと今感動ガ...」
やはり、今日も社長は一歩うしろで見守っている。
◇◇◇
「分かる、分かるわ貴方の言いたいことは。けれどあと少しだけ待ってくれないかしら」
会議室に戻った俺を待っていたのは、アリスのそんな言葉だった。
何故かは分からないが、艶やかな金髪は先程よりも潤っていて、蒼い瞳は四割増でキラキラしているように感じる。
何があったのだこの数分間で。
「時間的にも次が最後、よって最終試合での勝者が今回の対決の勝者とするのはどう?」
「異論はない」
「決まりね」
若干というか明らかに俺が不利なルールだが、クイズ番組等ではお約束だ。
最後の問題で一億点与えられ逆転勝利、というのはよく聞く話である。
「それと、相手のキャラは相手が選ぶというのはどうかしら」
「なるほど...問題ないぞ」
「それも決まりねっ」
笑みを浮かべるアリスに違和感を覚えつつも、最終試合のルールを決めた。
色々と追加はされたが、要するに勝てばいい話である。
なんて強キャラムーブをかましてみたが、俺には絶望的に似合っていない。もうやりませんゆるして。
「ふっふっふっふっ...まんまと乗ったわね花咲ィ!」
・な、なんだってー
・まだ策があったなんてー(棒)
・うわー花咲ぴんちだー
「警戒心の薄さを反省しなさい!貴方にはこれから、
その言葉とコメントの様子で大体察した。
アリスは俺をこの場から追い出し、その間に俺の苦手なキャラをリスナーに聞き出すつもりだったのだろう。
そのために社長が俺を呼んでいるという嘘をついた。
しかしその作戦は失敗に終わる。
恐らく、苦手キャラを聞かれた愛人たちはあえて
理由は面白そうだから。なんともノリのいい愛人たちである。
「さあ、私が使うキャラを言いなさいっ」
「ランダムで頼む」
「ランダム...つまりは運次第ってことよね...。まぁ!私は!魔界の皇女!負けるつもりはないわ!」
「ウワーコワイドウシヨウー」
・めちゃくちゃ棒読みで草
・まじで気づかないのかお嬢w
・これがアリ虐か...いいぞもっとやれ
・花咲リスナーの団結力強いなww
◇◇◇
現在二週目。アリス・オミソルシルは窮地に陥っていた。
「なんでよぉぉぉぉ!なんでそんなに速いのよぉぉぉぉっ!?」
絶叫である。
実際に目の前にいるせいでかなりの迫力だ。うるさい。
長い金髪を振り乱しながら慌てる彼女は、それはもう滑稽だった。
「どうしてよ、ロゼ〇タは貴方の苦手キャラじゃないの!?」
「おいおい、俺は自分で苦手なんて一言も言ってないぞ」
「でも、貴方のリスナーが確かに...ハッ!」
配信だと伝わっていないが、実際は衝撃の事実に気づいたかのような表情を作っている。
コントローラーを持つ手がわなわなと震え出す。レースをしながらとは器用だな。
「騙したわねっ...花咲ィ!」
俺は何も悪くない。
それに勝てそうである。騙される方が悪いし、ありがたくゴールさせて頂こう。
さて、どんな願いを叶えてもらおうか。
◇◇◇
比企谷八幡は窮地に陥っていた。
「はーやく!はーやくっ!」
待て待て、ひとつ言い訳をさせて欲しい。
確かに二週目までは圧倒的に勝っていた。でも三週目になって急に加速アイテムがアリスに集中するとか聞いてない。
それにコース上の敵が何故か俺ばかり狙ってくる。お前らコンピュータだろ平等に狙えふざけんな。
・これは...w
・やったなw
・得意キャラで負けるVがいると聞いて
・切り抜き確定で草
・花咲!厨二の沼に落ちようぜ!
「超広大遠距離爆殺魔法!超広大遠距離爆殺魔法!」
「こらそこうるさいよ」
「これが勝者の特権なのよっ!」
ぐぬぬ、こちらも得意キャラで戦ったせいで後戻りができない。
これは言うしかないのか...?俺のVtuber人生で、挨拶はこれに固定化されてしまうというのか。
ええい、ままよ!
「今日も元気に超広大遠距離爆殺魔法!どうも、花咲望だ」
「うんうん、完璧ね!あなたの誠意が伝わってくる挨拶だったわ!」
・草
・草
・これは草
・神回だほんとにww
・アリス参戦からの流れが全部完璧だったw
・新挨拶おめでとうございます ¥10000
くっ...こんなにも恥ずかしいことがあるとは。自分で書いた小説の技名ほど恥ずかしいものは無い。くっころ。
「さて、そろそろ終わりかしら」
「...だな」
「早いのね、時が過ぎるのって...」
どこか寂しそうに顔を伏せながら、アリスは言った。
「その...最後にひとつだけ。感謝するわ、花咲。私に付き合ってくれて、ありがとう」
「俺も、いい経験になった」
「え、えっとね...もうひとつだけ、言わせて?」
ゆっくりと、アリスは伏せていた顔を上げる。
雪のように白い肌。金色と黒いゴスロリが良く映えていて、まるで異世界から来たかのよう。
そんな美しい少女は、頬を少しだけ赤く染めながら、緊張した様子で言った。
「こういうとき、なんて言えばいいか分からないのだけど...その、再戦よ!私と貴方はお互い全力だったとは言えないわ!」
慌てて言うアリスの心の中が、俺には良く理解出来た。
同じぼっちで、コミュ障だからこそ分かること。
コラボに誘いたくて、でも誘い方が分からなくて。どこか素直になれないから、遠回しに言うことしかできない。
ぼっちとはそういうめんどくさい生き物なのである。
不器用だな、アリスも俺も。
「一回戦ったらそれはもうライバルだろ。ライバルは強くなって再戦するのがセオリーって知らないのか?」
ちょっとだけ、馬鹿にするような口調で。
俺たちは本当に似たもの同士だ。望むことが同じである。
それは即ち、今後もコラボを続けること。
少し前の俺なら考えもしなかったこと。忙しいだとか体調が悪いだとかで避けようとすることは明白だ。
でも、今は違う。
ぼっちで、コミュ障で、厨二でどこか抜けてて、実は純粋にいいやつで。
ちいさな先輩と話してゲームをして、適当な時間を過ごすことを楽しいと感じている。
嗚呼、全くもって俺らしくない。比企谷八幡らしくない。
他者との馴れ合いの中に喜びを見出す...本当に、俺らしくもない。
けれど、それでも。それでもいいと思えた。
『世界を変えるVtuber』。社長と理沙さんの目標であり、俺が目指そうと決意した場所。
世界を変えるのだから、まずは自分すら変えられなくてどうする。
これは比企谷八幡という形を、自身の望みに変える第一歩なのだろう。だから、大丈夫。
「そっ...そうよねっ!」
嬉しそうに、その答えを噛み締めるようにアリスは続けた。
「そう、私と貴方は
ふっふっふと気味の悪い笑い声を上げている。
気持ちは分かる。あれな、マッ缶のストックが切れて泣く泣く自販機で買って帰ったら、ママンがダース単位でマッ缶買ってきた時の気持ちな。家にストックがあるという安心感といったらもう天に昇る程である。え、分からない?
「これからよろしくね、花咲っ」
厨二キャラはどこいっただとか言いたいことは沢山あったが、今は余計だろう。
今は初めてのコラボあい...じゃなく、ライバルができたことだけで十分だ。
「あぁ、よろしく頼む」
ここで握手をしないのが、ぼっちコミュ障くおりてぃ。
・え、俺ら忘れられてね?
・てぇてぇからよし!
・これはてぇてぇ
・何この空間すき
・アリのぞてぇてぇ...
・急にエモくなったw
・ヤサイジュース:ずるい。そこの空気になりたい
・......?
・相変わらず姉御狂ってて草
・花咲ガチ恋勢が火を噴くぞー
・尊い代 ¥10000
・ないすぱ
・尊いニキないす
◇◇◇
すっかり日が沈んだ街の大通り。
仕事終わりの社畜さんたちは帰路に着き、段々と夜の街に活気が溢れてくる。
その中で、一際目を引く少女がいた。
闇に紛れるような、黒いゴスロリ。
金髪で、顔立ちも整っている。誰が見ても美少女と口を揃えるだろう。
それほど美少女であればナンパのひとつでもされそうではあるが、一度もされることはない。
彼女は身長が低いため、ナンパでもしたら周りにそういう性癖だと思われそう、というのが主な理由である。
「ふんふんふ〜んっ」
少女...アリスは、機嫌が良かった。
まともに友達がいた事のない人生で、初めて対等に話してくれる人を見つけたのだ。機嫌が悪いわけが無い。
「あら、花咲のチャンネル登録していなかったのね」
赤い文字を一回ぽち。
チャンネル登録済みという文字に、少しだけ頬が緩む。
少しだけ。ほんの少しだけ。
空には、昨日より少しだけ大きくなった月が見える。
これも、少しだけ。ほんの少しだけ。
うっすらと光る月に手をかざした。
月に手が届くなんて、そんなことはない。でも、いつもよりも高く、月に近づけた気がする。
これもまた、少しだけ。ほんの少しだけ。
「これから、楽しくなりそうっ!」
アリスが主役と見せかけて八幡が主役と見せかけて社長が主役の回でした。
ということで、アリスは実はぼっち系少女だったんですよね。なので花咲のぼっち設定は守られてます。ぼっち同士なので問題は無いと信じています。
アリス・オミソルシル
魔界からやってきた16歳。魔界の第一皇女で、これでも妹達には慕われている。地球侵略の最初の活動として、部下である眷属を増やすためにVtuberの活動を始めた。お母様のスパルタ花嫁修業を受けたため、家事は一通り行える。
ちょっぴり人付き合いが苦手。