やはり俺がVtuberになるのはまちがっている。   作:人生変化論

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遅くなりました。
実際のスパチャシステムとは違う点がございます。ご了承ください。


沙希はスカウトされる

【収益化記念】ぼっち、やっと会社に貢献する。

 

 

「今日も元気に超広大遠距離爆殺魔法、どうも花咲望です」

 

・こんのぞ

・こんのぞ〜

・安定の挨拶で草

・いっしょに地形破壊、しよ?

 

「今日も山ひとつ吹き飛ばしたということで、本題に入るわ」

 

・w

・次は海か...

・大魔法使いニキちっすちっす

・ついに...

・おめめめめ!

 

「ついに収益化解禁されたんだよな。いえーい」

 

・テンション低っ

・相変わらずやる気なさそうな目だなぁ!

・それはデフォ

・目の濁り、今日も異常なし!

 

「うるせぇ社会に疲れたんだよ文句あるか」

 

 

社会じゃなくて人間関係にだけどな。

あ、まともな人間関係築いてないか。

 

 

「収益化解禁されて一番嬉しいのは会社に貢献できることなんだよな。今まで稼ぎゼロと言っても過言じゃなかった訳で」

 

・まぁそだよな

・新人Vの最初なんてそんなもんよ

・絵描き然り作家然り、能力系の仕事は最初が峠だからね

 

「一般的な職業とは違って、個人の収益が目に見えて分かるっていうのが大変な所だよな」

 

 

完全なる実力主義の世界というのもあり、生き残っていくのは非常に難しい世界だろう。

社長達のバックアップがあって活動を保てているくらいなのだから、個人として活動している人は本当に尊敬する。

 

 

例えば数日前のアリスとのコラボだってそうだ。

異なる企業間でコラボするとなれば、色々と調節しなければならない問題が発生するのは必然のこと。

それらの処理を社長と理沙さんが行ってくれたおかげで、俺はただコラボをするだけで良かったのだ。

しかしVtuberの個人勢は違う。それらの調節からコラボまで、全て一人で行わなければならない。

 

だからこそ、俺を全力でバックアップしてくれる二人には感謝しているのだ。

どんな思惑が混ざっていようとも。特に社長。

 

 

「サムネも任せっきりだから、ようやく貢献できたわ」

 

・えらい

・それを自覚してるの偉い

・傲慢にならないの大事よな

 

 

俺の配信のサムネ...サムネイルの略称で、動画の表紙のようなものは全て理沙さんに作ってもらっている。

理沙さんは何故かは分からないがコンピュータ関連の知識がピカイチで、ネット分野にかなり強い。

配信内容を伝えれば直ぐに作ってくれるし、ホームページのレイアウトから文章まで全て一人で行っている。

 

社長はネット関連以外のことを全て行ってくれているようである。

欲しい機材を頼めば大体揃えてくれる。領収書を覗くとかなり値引きされているようで、どんな魔法を使ったのか聞きたくなるレベル。

お得意の交友関係なんだろうが、それにしても広い友好関係だ。

 

というように二人とも個人の仕事量ではないのだが、極小企業なので仕方ない。

社長自ら雑務をする、ホワイトな企業です。従業員は二人。どう考えても人手不足である。

しかし稼ぎがなく雇えないのも事実。俺が稼いでこなければ、ってシングルマザーか俺は。

 

...こうして見ると、ずいぶんと社畜脳になってしまったものだ。

社会人という設定だから、思考が社畜方面に引っ張られたのだろうか。なんとも恐ろしい話である。

専業主夫志望の俺は何処へ。いや、まだ諦めては...っ!

 

 

「あぁ...専業主夫になりたい」

 

 

・!?

・草

・草

・えぇ...

・唐突な話題転換w

・ようやく貢献できたってのは何処へ

・ヤサイジュース:!?

・アリスオミソルシル:!?

 

 

思っていたことがそのまま口に出てしまった。

...見知った名前が二人いるけど気にしないことにしよう。

 

 

・ヤサイジュース:はーくんっ!わたしの専業主夫枠、空いてるよ?

・アリスオミソルシル:花咲っ!私の専業主夫にならないかしらっ!?今なら三食マ〇カ付きよっ!

 

 

いや三食マ〇カ付きってなんだよゲームだろマ〇カ。

せめてもう少しバラエティー性が含まれていたら揺れていたかもしれん。冷静に考えるとやっぱりないな。

なんだよ三食マ〇カって。何度でも言おう、なんだよ三食マ〇カって。

 

 

・草

・姉御w

・さすアリ

・アリスもよう見とる

・流石ガチ恋勢、言うことが違う

・流石歴戦ぼっち、言うことが違う

・ガチ恋勢VSガチライバルとか熱っw

 

 

「熱さの欠片すら見えないんだがそれは」

 

 

というかアリスお前俺の配信来てたのか。もしかして暇なのありがとう。

 

 

「専業主夫になりたいと言うのは間違いなく事実だ。認めよう」

 

・認めたぞw

・認めてて草

 

「ぼっちを極めしエリートぼっちは専業主夫を希望する。当然の流れだろ」

 

・#開き直るな花咲

・#涙吹けよ花咲

・分かってしまう俺もぼっち...

・ぼっちニキ涙拭いて

 

 

どっかに俺を養ってくれる美人お姉さんでもいないかしら...。と言おうとしたが、思い当たる方が一人居たので止めておく。

お父さん兼社長によるちゃぶ台返しは怖い。

 

アリスお前はダメだ。二人してぼっちだから一生家から出ない自信がある。たぶんずっとマ〇カしてる。

あれ、割と天国だったりする?

 

 

「...まぁ、専業主夫は将来的な話だ。今はコレがあるしな」

 

 

体を左右に揺らす。

花咲も一緒に、ゆっくりと揺れた。

 

 

「そろそろ三十分、か。では解禁とします」

 

・わくわく

・わくわく

・赤スパ待機

・ヤサイジュース:わくわく

・アリスオミソルシル:わくわく

 

 

「さーんにーいち、はい超広大遠距離爆殺魔法」

 

・草

・草

・くさ

・やばい出遅れたw

 

 

その言葉に合わせて、設定を弄り収益化される状態にする。

これで配信に広告が付いたり、スパチャを投げることが可能になる訳だ。めでたい。

 

 

・ヤサイジュース:はーくんの初スパっ! ¥10000

・アリスオミソルシル:花咲っ!初スパよっ! ¥10000

・はやっ

・手元どうなってんだ?w

・姉御の優勝

 

 

俺の初スパ争奪戦...いつから開催されていたのかは分からないが、勝者はやさいじゅーすさんだった。

俺の配信に来てくれるだけでありがたい話である。二人には今度何かしら礼をしなければ。

アリスにはスパチャ返しでもしに行こう。収益が安定したらな。これ大事。

 

 

・収益化おめでとう!

・めでてぇ

・収益化おめ!愛してるぜ花咲! ¥5000

・最近一番推してるV! ¥200

・姉御とのコラボまだですか? ¥10000

・愛人はいつも応援してる!

・眷属から愛人に浮気しました! ¥2000

・お嬢リスナーだったけどいつの間にか花咲リスナーになってた

・超広大遠距離爆殺魔法まだですか? ¥700

・アリスオミソルシル:!?

 

「悪いな、眷属寝取ってた」

 

 

俺は無自覚天然ジゴロ系ラノベ主人公だったのか...。

いつの間にか眷属を愛人に転生させていたようである。

 

それにしても、なんだか感慨深い。

先日の対決配信でのスパチャは、どこか自分には無縁なものなのだと思いながら見ていたが。

こうやって今、コメントやスパチャという目に見える形で応援を貰い、改めてVtuberの世界というものを実感した。

中学生時代の俺にこの状況を伝えても、きっと信じないだろう。特にガチ恋勢とライバルができたなんて話は。

 

 

「......ありがとな、今まで。最初の頃は、ここまで面白い世界だとは思わなかった。それに気付いたのは愛人たちのおかげってことで...まぁ、感謝してる」

 

 

俺の、心からの言葉。

一ノ瀬花蓮でVの世界を知った。しかしそこで経験したのはあくまで『リスナーとしての』面白さ。

観て、追って、泣いて、笑って。リスナーはVの一挙一動に注目し、楽しむ。

そして今、俺は提供する側になった。

 

 

『でもさ、変えられるんだなーこれが。何十、何百、何万という人が毎日同じ時間に同じ場所に集まって、一緒に泣いたり笑ったりする』

 

『Vtuberという存在は、実際に変えてるんだよ世界を。1人でも2人でも、どんなに少なくても誰かしらの心を動かしてる』

 

 

理沙さんの言葉であり、俺が一ノ瀬花蓮に抱いた感情。

確かに俺は一ノ瀬花蓮に出会い、新たな道を見つけられた。

きっと、アリスも。そして俺も、誰かの心を動かしているのだろう。

でも、それだけでは無いのだ。

 

配信を、Vtuberを通じて心が動かされるのはリスナーだけじゃない。

Vtuber自身も、心が動いている。

デビュー前のあの時では、以前の俺では気付けなかったこと。

ほんの少しかもしれない。けれど確かに、比企谷八幡という人間は、別のカタチに変わっている。

 

 

・急にどしたw

・素直ね/////

・もっと感謝していいのよ

 

 

社長はこれを、成長と呼んだ。

その言葉に、何処まで確実性があるかは分からない。

そもそも俺は、成長という言葉が嫌いだ。

社会は心境の変化だとか隠れた趣味だとか性格だとか、個性を直ぐに『成長』という言葉に押し固める。

成長の裏に隠されている意味を捉えようとせず、字面だけで変化と捉えられてしまう。

いつ成長するのか、いつの間に成長したのか。その定義すらも曖昧なのに、社会は成長という言葉を好む。

 

変化は成長ではない。成長はまた、変化でもない。

成長という言葉の意味を疑い続ける限り、俺は成長を理解できないのだろう。

でも。それでも今、自分の中で何かが変化しているのだということは、容易に理解出来た。

 

 

「と、言う事で。一つ目標は達成したし、次はハリウッドデビューに向けて頑張ることにする」

 

 

・なんでだよw

・海外進出?w

・アクション出来るのか花咲ィ!

・そのやる気ない顔でカーチェイスして欲しい

・カーチェイス似合いそうw

・やる気なさそうに仕事をこなす殺し屋花咲

・ミッションをポッシブルしてそうだな

 

「カーチェイスもどきはこの前やったんだよなぁ...」

 

・!?

・!?

・日本で!?

 

 

結果として高級車が破損したけどな。

 

 

・ヤサイジュース:ぼっちのはーくんが沢山の人に応援してもらえてママ嬉しい......

・アリスオミソルシル:ぼっちの花咲が沢山の人に応援してもらえてライバルの私は嬉しいわ......

 

「え、君達息ぴったり過ぎない?」

 

 

ぼっちぼっち言うけど、あんたら二人ともぼっちなの知ってるかんな。

あれ、もしかしてこの配信ぼっち率高かったりする?

 

 

・草

・草

・いつか三人のコラボ配信みたいw

・三人コラボ求む

・#コラボしろ花咲

 

 

それ大変なことになるから。ぼっちでコミュ障しかいない配信とか地獄絵図になるから。

そもそも、やさいじゅーすさんは声出しをしていないのだ。三人でコラボすることは無いだろう。

 

.....ない、よね?

 

 

◇◇◇

 

 

祝日である。

もう一度言おう、祝日である。

祝日なんて言ったらそれはもう二度寝しかない。

 

友達いるやつは大変だな。祝日になればやれカラオケだのやれショッピングだの出かけなければならない。

その点、二度寝の幸せさを知れるぼっちは最強だ。

ということで今から至福の二度寝タイム。

 

すやぁ......。

 

 

「ごみいちゃん!」

 

ばたーんと勢いよくドアが開けられた。

どうした妹よ、兄をゴミ呼ばわりとは情けない。

 

 

「どしたの小町、カマクラが突然変異で巨大な向日葵にでもなったのか」

 

「それ冬から夏に変わっちゃってるから、っていうかジャンルすら変わっちゃってるから」

 

 

渾身のボケは華麗にツッコまれた。

仕方なく上体を起こして小町を見ると、春らしい暖色のワンピースに身を包んでいた。

うちの小町がいちばん可愛い。異論は認めない。

 

 

「お兄ちゃん、二度寝で忙しいんだ。隕石が降ってきたら教えてくれ」

 

「それ死んじゃうやつだから...。じゃなくて、ららぽ行こららぽっ!」

 

「...祝日のららぽは地獄だと言うことを知らないのか。右を見れば人左を見ればカップル、360度人に囲まれるんだぞ?」

 

 

千葉県民としてららぽの熱烈なファンではあるが、祝日だけは話が違う。

めちゃくちゃ混んでる。それはもう混んでる。

祝日のららぽに行った暁には、インドア派でリア充アンチな俺には大ダメージである。

 

 

「お兄ちゃん、小町という相手がいるじゃないですかぁ〜」

 

「小町がデートしたいと言うなら何時でも付き合うぞ」

 

「うわぁ...」

 

 

ゴミを見るような目で見つめてくる小町。

しかしそんな眼差しも絆レベルMAXの俺には効かない、むしろ快感である。ぞくぞくしちゃう。

ちなみにマッ缶との絆もMAXだ。どうでもよくない。

 

 

「そもそも、なんでららぽなんだ?」

 

「ふふん、よくぞお聞きになられましたっ!それはですね...」

 

 

くるっと回っててへぺろピース。あざとさと可愛さが混在して渋滞してしまっている。

こら!はやく誘導して解消しなさい!

 

 

「お兄ちゃんに、小町の水着を選んで欲しいからなのですよ!」

 

「え早くない?まだ五月だぞ」

 

「乙女の夏は命懸けの水着争奪戦から始まるのですっ!それにほら、早く買わないと柄被りとかめんどくさいし...」

 

 

女性は水着でも色々あるのだろう。

小町の言う通り、友達同士で水着の柄が被ることほどめんどくさいことは無い。全く同じ柄だった時の気まずさといったらもう、第五次聖杯戦争に発展するレベルである。知らんけど。

そのために、早めに買って他の女子を牽制しておくわけだ。私はこんな水着買ったんだ〜、とかいう具合に。

 

 

「だったら尚更友達と行った方が良くないか?」

 

「女の子もいろいろあるんだよ...体型とかバレちゃうし、謎のバスト自慢やら身長マウントとられるし...」

 

 

どよーんとした表情で小町は言った。

なるほど、大体察した。小町が無事にぼっち精神を受け継いでいるようで何より。

まあ俺はそもそも会話すらしないんですけどね!泣いてないよ!

 

 

「だから、お兄ちゃんには荷物持ち...じゃなかった、水着をみてもらおうと思って」

 

 

今荷物持ちって言ったよね。俺は聞き逃さなかったぞその言葉。

まあ、彼氏と一緒に行かれるよりはずっといい。小町が彼氏と水着を買いに行くのであればどうなっていたか分からない。俺が。

 

 

「お兄ちゃんもついでに水着買えば?」

 

「いらんだろ、誰とも行かないし」

 

「ほら、あのひととか!この前楽しそうにゲームしてたアリスさんっ!」

 

「行かねぇわ」

 

 

どんな地獄だ。常にテンションがアレなやつだぞ。

そもそも、いかにもロリな奴と海なんぞ行ったら職質されるまである。

 

 

「てか小町、俺の配信ぜんぶ見てるのか?」

 

「もっちろん!ぜんぶリアタイで見てるよ!」

 

 

にやにや、にやにや。

何が面白いのか、こちらを見て笑ってくる。

 

アーカイブならまだしも、リアタイで見られているとなるとめちゃくちゃ恥ずかしい。

同じ家で配信と視聴が行われてるってそれなんて状況?

 

 

「お兄ちゃんとアリスさんの絡み、小町超好き。アリのぞてぇてえアリのぞてぇてえ」

 

 

壊れた機械人形のように、やさいじゅーす化してしまった小町。

さっきからアリのぞてぇてえしか言ってないぞおい。

 

 

「それ恥ずいから。言われてるのが自分ってのがもっと恥ずいから...」

 

「だって、あのごみいちゃんがだよ!?金髪の美少女と話しながらゲームするなんて、これはもう人類の進歩だよ!」

 

「言い過ぎじゃない?」

 

 

小町が言うのもまあ、あながち間違ってはいない。

この前の収益化記念配信でもそうだが、たった一回のコラボにもかかわらず軽口を叩き合える仲まで進展した。

コミュ障の俺には前代未聞の進歩である。

その理由は、アリスの性格だったり性質があるのだろう。

そう考えてみれば、俺とアリスには共通点が多い。

ぼっちなところ、コミュ障なところ、厨二病拗らせているところ。それら全て含めて、どこか波長の合う相手だと感じている。

 

それに、ああいう純粋な奴は嫌いじゃない。

 

 

「たとえ海に行く予定が無かろうとも、お兄ちゃんは小町とららぽに行く義務があるのです!」

 

「それはいったい」

 

「服だよ服っ、アリスさんと次コラボして恥ずかしくないように、お洒落な格好しなきゃ。お兄ちゃん目を除けば素材は良いんだし、きっとかっこよくなれるよ!あ、いまの小町的にポイント高い!」

 

 

最後のがなければ感激して終わったのになあ...。

まぁいい、たまの祝日だ。素直に荷物持ちになるとしよう。

 

 

◇◇◇

 

 

駅までの道を二人で歩く。

いくら同じ千葉といえど徒歩で行こうとすれば二時間はかかる。バスよりめんどくさいが、今日は速さを追い求めて電車で行くことにした。

 

「お兄ちゃんの職場もここら辺だったよね」

 

「職場じゃなくてオフィスな」

 

「細かいなあもう...」

 

「お洒落だろ、そっちの方が」

 

 

みかんよりオレンジと言った方が映えるし、MAXコーヒーと言うよりマッ缶と言った方が可愛いだろう。それと同じだ。

 

 

「それはともかく、気をつけろよ小町」

 

「なにを?」

 

「この辺には金髪の変態が現れるからな。肉まんでナンパされるかもしれん」

 

 

そう、今歩いている辺りは以前社長にスカウトされた場所である。

オフィスも近いし、変態がいる可能性は十分にある。

 

 

「肉まんでナンパする変態って...アニメの見すぎでおかしくなっちゃった?」

 

「経験談だ」

 

「お兄ちゃんがナンパされたとか考えられないよ...」

 

 

どうやら信じられていない様である。

小町には社長の存在を伝えていないし、そんな奴がいるとは誰も信じないだろう。てか俺も信じたくない。

 

 

「だいたい、そんな目立つ格好の人がこの辺にいるなんて聞いたことな、い...」

 

 

急にカタコトになる小町。

どうしたのかしらんと歩みを止めて彼女を見ると、驚いたような表情を浮かべていた。

 

 

「へ、へんたいっ」

 

「...俺が?急に心にくるからそれ」

 

 

キモがられることは慣れている、しかし変態と言われることは慣れていないゆえ。

 

 

「そうじゃなくて!き、金髪の...」

 

「金髪の?」

 

「変態がほんとにいる!」

 

 

はは、休日なのに社長がここにいる訳...ってバリバリいたわ。ちょっと先で仁王立ちしてるわ。

っべー。変態マジでいたっべー。

 

数秒程の現実逃避の末、社長達はオフィスに住んでいたという事実を思い出した。

社長がいる訳ないと思っての冗談が、まさか事実になってしまうとは。俺は異能力者だったのかもしれん。『空想を現実にする程度の能力』、何それかっこいい。

 

 

「...実在しただろ、金髪の変態」

 

「したけど!したけどさ!」

 

 

本気の方でナンパをしているのか分からないが、社長に見つかったらめんどくさい事になるのは確か。

ただでさえ、俺は小町とのららぽ行きで忙しいのだ。見つからないように迂回していくとしよう。

 

 

「ここは通らない方がいい、迂回するぞ」

 

「う、うん...!」

 

 

小町は珍しく怖がっているようだった。道の真ん中に、いかにもな人が立っていたら怖いに決まっている。

台詞だけ聞けば終末世界を旅する兄妹なんだけどなぁ...現実は残酷である。実際は社長から逃げる兄弟だというのに。

 

 

「お、お兄ちゃん!?あのひと全力で走って来てるんだけどっ」

 

「うっそだろ...」

 

 

この距離でロックオンされたというのか。すぐに逃げなければ。

驚く小町を走るように促し、俺も後ろから走ってついて行く。

幸い社長との距離は離れているし、撒くことができ...って足速っ!?

 

 

「はちまーん!なんで逃げるんですカー!?」

 

「ひぃ!?なんか言ってるよっ!?」

 

「気にするな逃げろ!」

 

 

わんちーむの社長とかわんちーむの社長とかわんちーむの社長とか、多くの厄介事の元凶であり首謀者。

休日中の社長など、どんな事件が起こるか分からない。平和な休日を謳歌するためにも、捕まる訳にはいかんのだ。

 

とか思ってみたはいいものの、疲れて減速している。俺が。

 

 

「お兄ちゃん遅い!」

 

「ぼっちには...きつい...っ!」

 

「それぼっち何も関係ないから!ただの運動不足だから!」

 

 

鋭いツッコミである。ぐうの音も出ない。

そうこう言っている間にも、社長との距離はかなり縮んでしまった。

アニメのように路地裏やらでかっこよくチェイスしようにも、まずその路地裏がない。ただ一直線の歩道を走るだけではどうしようも無い。

これはもう、迎え撃つしかないのか...?くっ、あの技は...。超広大遠距離爆殺魔法だけは...っ!

 

 

「はーちーまーん」

 

がしっ、と。

肩を掴まれ、走る足が止まってしまう。

震えながらゆっくりと振り向くと、満面の笑みを浮かべた社長がすぐ後ろに。

 

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

「奇遇ですネ、八幡」

 

「通報していいっすか?」

 

「ダメですヨ!?」

 

 

俺は短距離の全力ダッシュで呼吸を乱し、肩を上下させているというのに、社長は顔色ひとつ変わらない。

以前のカーチェイスもどきの時も感じたが、とんだアクティブ野郎である。頭も身体も。

 

 

「ナゼ逃げるんですカ...」

 

「ちょっと反射的に」

 

「反射的にっテ...あのですネ八幡、反射は脳を通さずに身体が動くことを言うんですヨ」

 

 

......?

 

 

「それなんか関係あります?」

 

「関係ないでス」

 

 

ふわふわしてんな。脳死で会話してるぞ社長。

 

小町がいつの間にか居なくなっていたので、辺りを見渡して探すと、少し離れた電柱の影に隠れていた。

じーっという効果音がつきそうな表情で、電柱の影から少しだけ顔を出している。

視線で「大丈夫だ」と伝えたのだが、小町はそれに気付いていないようである。やはり視線で会話するというのは創作の中だけなのだろう。

 

 

「それは置いておくとしてですネ...八幡は、もしかしてデート...ですカ?」

 

 

にやにや、にやにや。

電柱に隠れている小町を遠目から見ながら、社長は言った。

どうやら小町を彼女かなにかと勘違いしているらしい。

小町といい社長といい、今日はにやにやするのが流行っているのだろうか。今年の流行語はにやにやで間違いなしである。

 

 

「妹と買い物に行くだけっすよ」

 

「妹...確か理沙が『可愛い妹さんがいた』と言っていましタ。なるほド、それは邪魔をしてしまいましたネ」

 

 

社長はどこか申し訳なさそうに言った。

逆にそこまで罪悪感を感じられると、こっちが困ってしまう。

ま、まぁ小町が世界一可愛いってことで。これで世界は平和になったな。

 

 

「社長は何故ここに...って、大体想像出来ましたけど」

 

 

社長。オフィスの近く。道のど真ん中。仁王立ち。

これだけわかり易いワードが揃っているというのに、理解出来ない俺ではない。

社長がここにいる理由は、間違いなくナンパ...じゃなくてスカウトだろう。

 

 

「ふっふっフ...アナタの思っている通りでス。ワタシはいま、八幡の同期となるVTuberをスカウトしているのですヨ!」

 

「同期?後輩の間違いじゃないんすか」

 

「一般的に見れば後輩になりますガ、悪く言えば同期コラボは視聴が稼げますカラ。八幡にはまだ話していませんでしたけレド、当初は三人を同時にデビューさせるつもりだったのでス」

 

 

予算の関係でできませんでしたけどネ、と社長は残念そうに言った。

収益化が解禁されて直ぐの段階でスカウトするのは気が早い気もするが、VTuberにはどうしても旬がある。俺達のような新人は特に。

俺たちの最終的な目標は「世界を変えるVTuberになること」だが、まずは安定した収益がなくてはどうしようも無い。厳しい世の中である。

 

 

「じゃあ、二人同時にスカウトって感じで?」

 

「いやー、そうしようと思ったのですガ...まだ依頼する絵師さんも決まっていないので、さすがに一人にしようかト」

 

「今回はやさいじゅーすさんに頼まないんすね」

 

「二度もツテを使うのは気が引けますシ。それに、正式に依頼しようとしたラ、物凄く高くてですネ...」

 

 

連日の暴走っぷりで忘れがちだが、やさいじゅーすさんは誰もが口を揃えるほどの神絵師である。

ラノベからゲームまで引っ張りだこで、依頼を見てもらうことすら困難だと言われるほど多忙な彼女。

その中でどうやって俺の配信見てるんだとは思うが、多分頑張っているのだろう。配信に来るために全力で絵を描くやさいじゅーすさんが容易に想像出来た。

 

そんな神絵師であれば、必然的に依頼金額は高くなる。それこそ、向こうの父親に頼まなければ依頼できないほどに。

 

 

「そこの辺りハ理沙と考えるつもりですのデ...八幡は同期コラボ、楽しみに待っていてくだサーイ」

 

「...最近、ぼっちという言葉の意味が薄れてきてる気が」

 

「友達がいない限りぼっちは守られるので大丈夫デス」

 

「おい」

 

 

俺に友達がいないというのか。まぁいないけど。

僕は友達が少ない。むしろいない。

 

 

「デハ、ワタシはスカウトに戻りマース!ビビっとくる人が待っているかも知れまセーン!」

 

 

社長はそこで話を切って、走り去ってしまった。

またあの仁王立ちナンパを再開するのか。いつか通報されると思う。

 

それにしても、同期か。

ぼっちかどうかは別として、憧れなくもない。

俺はわんちーむで同期コラボが頻繁に行われているのを見てきた。それらがとても楽しそうであることも。

そもそも一般的に言えば、同期は同時期にデビューした者のことを言う。同期なのだから敬語はいらないし、仲良くなることは必然であると言える。

だからこそ同期コラボは頻繁に行われるし、リスナー側のウケもいいのだ。

そのため運営が相性を判断し、あえてデビュー時期を被せることもあるそうだ。それらを「運営に組まされた」と言うが、どれも面白いので何ら問題はない。

 

要するに同期コラボは人気という話になるのだが、俺に同期ができたところで絡める気がしない。一時間「ッスねー...」で会話する配信となるだろう。地獄か。

相手がぼっちであればまた別の話だが、ぼっちだったらお互い何も干渉しない。こっちも地獄か。

 

 

「お兄ちゃん、男の人に好かれるからってそう気に病まないでよ」

 

「病んでねぇわ」

 

 

社長がいなくなったのを見計らい出てきた小町は、それはもう盛大に勘違いしているようである。

 

 

◇◇◇

 

 

ららぽに着いたら開口一番、「じゃあね〜」と一人で水着を買いに行ってしまった。

俺が小町の水着姿を拝めないのは知っていましたとも、ええ。

晴れてただの荷物持ちとなった訳だが、さてここからどうするか。

といっても行くところは本屋しかない。俺がカフェで時間を潰せるとでも思うか?

サイゼだったら余裕だが、今日は祝日。昼過ぎのサイゼなど激混みに決まっている。順番待ちの時点で五時間かかる。ごめんちょっと誇張し過ぎた。

 

 

「人が......」

 

 

思わずそう呟いてしまうのも無理はない。

流石ららぽーと、見渡す限りの人、人、人。あとリア充。

これは俺たちの楽園、本屋に逃げ込まなければ。緊急離脱!

 

固有能力ステルスヒッキーを発動させて、人の間をすらすらと通り抜けていく。ステルスヒッキー発動中は、認識阻害だけでなく移動速度上昇の効果も付与されるため、誰にも衝突せず移動することは容易である。なんだ俺最強かよ。

気分はまるで、発生した闇の軍勢を倒しに向かう秘密結社のよう。やはり俺が秘密結社の序列入りするのはまちがっている。序列入りしちゃうのかよ。

 

ステルスヒッキーを発動しながらの移動を経て、ようやく本屋に辿り着いた。

入ると同時に、嗅ぎ慣れた本の香りが。本屋にいるとトイレに行きたくなる理由、これだと思います。

今日本屋に来た目的は特に無く、小町の買い物が終わるまでの時間潰しのつもりだった。しかしバッチリ新刊をチェックしに行ってしまっている。これが本屋の魔力か。

 

 

「...お、ちゃ〇六月号か」

 

 

誰もが知る国民的少女漫画雑誌、ちゃ〇。

小町も幼い頃よく買っており、ついでに俺も見ていたのだがこれが意外にも面白い。

小学校高学年の漫画大好き八幡くんは、所詮少女漫画だと思って見たのだが見事にハマってしまった。

絵の美麗さも去ることながら、何よりも話の構成が上手い。

ちゃ〇は基本的に読み切りの作品が多いが、一話で基本の起承転結がしっかりと組み込まれており、終わりも非常に綺麗な作品が多いのだ。

尚且つ女子ウケが良いような展開も両立させていて、売れる理由の一端が垣間見えたと当時の俺は一人納得していた。

 

小町はもう買わなくなったが、今でも目を惹かれてしまうのには変わりない。最近は漫画すら読む時間が無いけれども。

 

 

「八幡?」

 

「...理沙さん」

 

 

不意に、後ろから声をかけられた。

この声は間違いなく理沙さん。というか俺に声をかける人など数人しかいない。

 

声に釣られて振り向くと、そこには初めて見る私服姿の理沙さんがいた。

茶髪をポニーテールにしているのはいつも通りだが、黒いシュシュで束ねている。

白いシャツに藍色のジーンズ。すらっとした足が強調され、モデル体型の彼女にはよく似合っていた。

そして驚いたのは、眼鏡を掛けていることだった。薄い縁の丸眼鏡で、購入したのだろうか、本を抱える姿には文学的な女性というイメージを抱かせられた。

めちゃくちゃ美人。実際本屋の方々の視線を集めている。

このひと、朝まで酒飲んでるって信じられないだろ。俺は黒歴史を笑われた恨み、まだ忘れてないですからね。

 

 

「よう、八幡は買い物か?」

 

「妹の荷物持ち役で連行されました」

 

「この前いた子だよな?仲良いじゃんか」

 

「千葉の兄妹なんで当然ですね」

 

「それなんか関係あるか...?」

 

 

理沙さんは小町の存在を知っている。

というのも、最初俺の家に挨拶に来た時に会っているからだ。

楽しげに話してたから、相性はいいのだろう。どちらも人を笑って楽しむタイプだし。

それにしても、今日は知り合いによく会う日だ。

 

 

「そういえばさっき、社長に会いましたよ。あれいつか捕まるんじゃないすかね」

 

「あー、あのナンパな。あのクソ社長、夜中の二時からアレやってんだよ。『びびっとくる人はいつ居るかわかりまセーン!』とか言って」

 

 

マジかよ社長狂ってんな。

それを言っている様子が容易に想像出来てしまうから怖い。

 

 

「通報される日も近い気が...」

 

「な。その時は全力で他人のフリしないと」

 

 

決意を固めたように、理沙さんはぐっと拳を握った。

助けを求める社長が容易に想像出来てしまうから本当に怖い。いつか現実になりそうだ。

 

 

「理沙さんは今日休みなんすか?」

 

「そうそう。趣味は酒と煙草と読書くらいしかないからな。こうして買いに来てるってワケ」

 

 

そう言って、抱えていた数冊の本を見せてくれた。

タイトルを見るに、ジャンルはバラバラである。哲学書に経営学、心理学やら小説やら。どうやら食わず嫌いはしないタイプらしい。

 

 

「そうだ、これやるよ」

 

 

そう言って理沙さんは、一冊の本を俺に渡してきた。

 

 

「え、いいんすか」

 

「おう。実はこの本、もう一冊持ってるんだよ。好きだから保管用に買ったんだけど...まあ、布教ってやつ?持ってないやつに読んでもらった方が、本も嬉しいだろうしな」

 

 

何この人イケメンか?

俺が女だったら告白して振られちゃうレベル。って振られちゃうのかよ。そもそも理沙さん女性だし。

 

 

「...ありがとうございます」

 

「いいってことよ。それじゃあ私はそろそろ行くわ。流石にクソ社長止めねーと」

 

 

夜の配信忘れんなよー、と言って理沙さんは去っていった。

それを見届けてから、貰った本の表紙を眺める。

 

本のタイトルは『優しい大人』。帯にはただ一言だけ、『きっと、僕は僕のまま 』と書かれていた。

白い表紙に黒い文字。今どき珍しいシンプルなデザイン。

俺は不思議と、その本から目が離せなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ン?」

 

 

ジョンは、目をくわっと見開いた。

 

 

「びびっと!びびっときましたヨーっ!」

 

 

短距離走の選手もびっくりなスピードで駆け出した。

恐るべき執念。恐るべき社長。

 

 

「そこのアナタっ!」

 

「...なに、ナンパ?悪いけどそういうのお断り」

 

「早いっ!?ワタシまだ何も言ってませんヨ!?」

 

 

ジョンが声をかけたのは、一人の女性だった。

特徴的な青みがかった髪。どこかやんちゃそうな印象を持つ女性。

 

 

「ナンパじゃないなら何?今忙しいんだけど」

 

「た、端的に言いまショウ!ワタシはアナタをVTuberにスカウトしマース!」

 

「ぶい、ちゅーばー?」

 

 

彼女はVTuberを知らないようであった。

それもそうである。いくらVTuberの存在が広まってきたと言っても、完全に認知されているとは言い難い。

 

 

「VTuberというのはええト...theytubeは知っていますカ?」

 

「それは知ってる、けど」

 

「ならば話は早イ!これを見てくだサーイ!」

 

 

そう言ってジョンは、彼女にスマホを渡した。

画面には、花咲の配信のアーカイブが再生されている。

 

 

「こんな感じデ配信を行う職業のことでース!それヲ、ぜひアナタに配信して欲しいのデース!ちゃんとお給料も出ますカラ!」

 

「...ふーん。それって、お給料いい?」

 

「もちろン!固定給に加えて収益を割合で渡しますヨ!」

 

 

必死である。

 

 

「もう一つ、聞きたいんだけど」

 

「え、エエ!何でも聞いてくだサーイ!」

 

「その、ぶいちゅーばー?家じゃなくても配信ってできるの?」

 

「家じゃなくても、ですカ?可能ですヨ、オフィスから配信してもいいですシ」

 

 

ジョンは不思議に思った。

基本的にオフィスから配信するというのは手間である。

頻繁に配信するVTuberという職業上、自宅で配信したいと考えるのが普通なはずだ。

しかし家庭的な事情だったり、近所迷惑を考えてオフィスやスタジオで配信するというのもよくある話だし、何ら問題はない。

 

 

「...そう」

 

「どうですカ?VTuberに、なってみませんカ?」

 

「ちょっと、考える。詳しい話聞かせてもらっていい?」

 

「も、もちろんデース!それでハオフィスに行きまショウ!」

 

「それはちょっと。まだ信用してないんだけど?」

 

「な、なんですト...。分かりまシタ、今から女性社員を呼びマース」

 

 

次からスカウトの方法を変えましょうカ...と肩を落とすジョンは、理沙を呼ぼうとスマホを操作する。

その間に、ジョンは重要なことを思い出した。

 

 

「おっト、自己紹介がまだでしたネ。ワタシはジョン・ルーンと申しまス」

 

「...川崎、川崎沙希」

 

「川崎川崎沙希さん?ユニークな名前ですネ」

 

「あのさ、川崎ひとつ多いんだけど」

 

「これは失礼」

 

 

 

 

 

 




サブタイトルでネタバレしていく系作品です対戦ありがとうございました。
という訳でサキサキの登場。
「サキサキがバイト探すにしては早くね...?」みたいな疑問はあると思いますが、そこはまたおいおい明かすつもりです。

更新遅れてホントすみませんでした。三月まで忙しいので更新は遅れますが頑張ります。

..,あれ、この作品ぼっち率高い気が......
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