村を埋め尽くす白い灰。啜り泣く幼馴染。
何もできなかった、無力な自分。
だから俺は魔術師になった。二度とアレを繰り返さないために。もう二度と彼女の手を汚させないために。
もう二度と、彼女の笑顔を奪わないように。
* * *
__ピンポーン、というインターホンの音で浅い眠りの中から現実に引き戻される。
学生寮の固いベッドから起き上がり、寝ぼけ眼を擦りながらドアの前まで歩き、鍵を開ける。
幼馴染の姫神秋沙がスーパーの袋をぶら下げて立っていた。
「……おはよう。ご飯作りにきた」
「ん。いつも悪いだろ」
現在7:00。毎朝毎朝わざわざ自分の寮から料理を作りに来てくれるのだ。
友人曰く「どう見ても通い妻です本当にありがとうございましたにゃー」。うん、義妹を家に通わせてイチャイチャしまくってるお前が言うな。後できるなら通い妻じゃなく同居したいよこんちくしょう。
「出来たよ。食べよう?」
「おう。いただきます」
「いただきます」
ご飯と味噌汁と焼き鮭が出てきたのでとりあえず食べる。相変わらず和食が美味い。今夜天ぷらでも一緒に揚げようか。
「「ごちそうさまでした」」
……うん、食べ終わるまで何の会話もなかった。こいつ基本無口だし俺も口数多い方じゃないし仕方ないっちゃ仕方ないが。
「放課後ちょっと付き合ってもらえる?色々買いたいものがある」
「オッケーだろ。どうせ家にいても積みゲー消化くらいしかすることないし……どこ行くかは道中で聞くからとりあえず学校行くだろ」
ちなみに平静を装ってはいるものの今すぐガッツポーズしたい。たった今決まった。今日はいい日だ。
鼻歌を歌いながら学生鞄を持ち、ドアを思い切り開けると
「へぶおっ!?」
バーン、という派手な音と共に何かにぶつかった。
「……あー。すまん上条。不注意だっただろ」
「朝から。ご愁傷様」
「不幸だ……」
隣人かつ友人の不幸なウニ頭、上条当麻だった。最早ギャグとしか思えない不幸補正を持ち、昨日もこけて特売で買ったらしい卵を割っていた。幸運をABCDEでランク付けしたら間違いなくEだろう。
「……考えてたら可哀想になってきたな。今度麻婆豆腐奢ってやるから元気出すだろ」
「唐突に友人から憐れみの目で見られた!?それに麻婆豆腐ってもしかしなくても例のアレだろ!?死ぬよ!上条さん死んでしまいますのことよ!?」
「……あれは。麻婆豆腐とは呼べない。物体Xと呼ぶべき」
「?麻婆はあれくらいの辛さに限るだろ、常識的に考えて……」
「あのラー油と唐辛子を百年間ぐらい煮込んで合体事故のあげくオレ外道マーボー今後トモヨロシクみたいなのが!?」
「普通の料理もおいしそうに食べるのに。何故あの麻婆を食べられるのか。解せぬ」
普通の麻婆よりは辛いけどそこまで言うことか?
「おー、上やんに藤のんに姫神。朝っぱらから人んちの前でなに騒いでんだにゃー?」
何時の間にか二つ隣の住人も顔を出していた。相変わらずサングラスに金髪というスキルアウトみたいな格好である。
「おう土御門」
「おはようだろ。後藤のん言うな」
「おはよう。土御門君」
土御門元春。同級生にして
「それにしても姫神は相変わらず藤のんの通い妻かにゃー。全くリア充は羨ましいぜよ」
うん。リア充なことは否定しないがこいつに言われるとムカつくな。意趣返しくらいしてやろう。
「……さくやは おたのしみでしたね(ボソッ)」
「!?ななななななななんのことかにゃー。土御門さんは舞夏に手を出したりなんかしてないぜい!?」
「舞夏ちゃんのこととは一言も言ってないのに墓穴掘りやがった……つーか義妹に手を出すとか人間として終わってるだろ、常識的に考えて」
「他人の義妹を気安く名前で呼ぶんじゃねーぜよ!」
「あーはいはいシスコン乙。さっさと学校行くぞ」
鞄を肩に掛け、四人で並んで学校へと歩く。
__これが、この俺『藤野春樹』の『表の世界』における日常である。
補足しておくと時系列は夏休み前、禁書本編が始まるより前です。なのに姫神がいる理由などについては後日過去編にて。
それでは失礼。