羽丘の元囚人   作:火の車

100 / 200
好きかもしれない

環那「はぁ、はぁ......!」

 

 日が傾き始め、少し暗くなった街

 

 その中を全力で走る

 

 足の筋肉が張って、息が切れる

 

 けど、足を止められない

 

環那(こっちを右で、1㎞真っ直ぐ。)

 

 肺が破裂しそうだ

 

 正直、電車で行った方がいいとは思う

 

 けど、そうじゃない

 

 何となく、走らないといけない気がする

 

蓮(......らしくないな。この俺が、効率度外視なんて......!)

 

 俺はそう自分自身に悪態をつきながら

 

 イヴちゃんの家に向かって走った

 

 ......てか、今、家にいるの?

__________________

 

 “イヴ”

 

イヴ「__ありがとうございました。」

 

 お仕事が終わって、家に帰ってきました

 

 もう暗いからとマネージャーさんが車で送ってくれて

 

 とっても助かりました

 

「今日もお疲れさまー。もう気温も下がってきてるし、暖かくして寝てくださいねー。」

イヴ「はい!お疲れ様でした!」

「はーい。それじゃあ、また明日ー。」

 

 そんな会話の後、マネージャーさんの車が発信しました

 

 それを少しだけお見送りして

 

 ふぅ、と私は息をつきました

 

イヴ(もう、1週間ですか......)

 

 あの日を思い出す度に胸が痛くなります

 

 一度も振り向いてくれませんでした

 

 あの時の様な優しい言葉もかけてくれませんでした

 

イヴ「......っ」

 

 フラれる事は覚悟の上でした

 

 けれど、そう分かってても、簡単には割り切れません

 

 それくらい、好きだったんです......

 

イヴ「カンナ、さん......っ、ひぐっ、うう......っ」

 

 ポタポタと地面に涙が落ちました

 

 いつか、忘れられる日が来るとは思います

 

 けれど、忘れるまでは、ずっと辛いです

 

 これが、失恋なんですね......

 

イヴ「......せめてもう一度、抱きしめて欲しかった、です......」

 

 あと一度だけで良いので

 

 カンナさんの温もりを感じたいです

 

 いや、ダメですよね

 

 そうしたらきっと、諦められなく__

 

環那「__イヴちゃん、今、帰り......?」

イヴ「っ!!」

 

 そんな言葉を呟くと

 

 背後から、死ぬほど会いたかった

 

 愛しい人の声が聞こえました

 

イヴ「か、カンナ、さん......?」

環那「うん、俺だよ......」

イヴ「あ、あの、大丈夫ですか......?すごく、息切れしてますが......・」

環那「大丈夫......羽丘から全力で走って来ただけだから。」

イヴ「えぇ......!?」

 

 ここから羽丘まではかなりの距離があります

 

 それこそ、電車が必須と言われるくらい

 

 そんな距離を走って来たんですか?何のために?

 

環那「悪いけど、少し俺の話聞いてくれない?嫌って言われても勝手に喋るけど。」

イヴ「い、嫌じゃないです。でも、その、取り合えず入ってください。飲み物をお出しするので。」

環那「ありがとう。」

 

 私はそう言って、カンナさんに家に入って貰いました

 

 これから、どんな話をされるんでしょうか......

__________________

 

 カンナさんにお家に入って貰って

 

 私は飲み物を準備して、部屋に行きました

 

 正直、もう心臓が止まりそうです

 

 あの日がフラッシュバックしてしまって......

 

イヴ「お待たせしました、飲み物です。」

環那「うん、ありがとう。助かるよ。」

 

 そう言って、カンナさんはお茶に口をつけました

 

 やはり、かなり体力を消耗してたようです

 

環那「__ふぅ、流石に少しばかり死ぬかと思ったよ。」

イヴ「それで、あの、お話とは......?」

環那「っと、そうだったね。」

 

 待ちきれずに私が尋ねると

 

 カンナさんはコップをテーブルに置き

 

 ゆっくりと瞳を閉じました

 

イヴ(カンナ、さん......)

 

 カンナさんの姿を見ると、心臓の鼓動が激しくなります

 

 この鼓動は決して、怖がっているわけではありません

 

 むしろ逆で

 

 まだ、カンナさんが好きだから、ドキドキしているんです

 

環那「......俺は、恋愛について何も理解してない。」

イヴ「え?」

環那「俺は人の心にも自分の心にも疎い。けど、今回は理解してなかった半分、眼を背けてた部分もあった。」

イヴ「えっと、どういう事ですか?」

環那「そうだなぁ......」

 

 カンナさんが悩まし気にそう言いました

 

 私に向ける感情、ですか......

 

 それは、好きじゃない、では......?

 

環那「じゃあ、俺がイヴちゃんに思ってること正直に吐き出すよ。」

イヴ「え?」

環那「じゃあ、行くよ。」

 

 そう言い、すぅっと空気を吸い込みました

 

 え、何をする気なんですか?

 

 そう私が困惑してるうちに、カンナさんは口を開きました

 

環那「正直、イヴちゃんはすっごい可愛い。笑顔を見てるとこっちまで元気になるし、大人っぽい見た目とのギャップもいいと思う。ていうか優しい。俺に優しい人間なんてそういないのに、ただ店の客なだけの俺に優しすぎ。正直、ビジュアルも性格もいいし、良い匂いもするし、すっごい完璧な女の子だと思う。」

イヴ「!?///」

 

 いきなり、褒められました

 

 それで、顔が一気に熱くなってしまいます

 

 けど、なんでいきなり......?

 

環那「ふぅ......」

イヴ「あ、あの、どういう事ですか......?///」

環那「ん?俺がイヴちゃんに思ってる事だけど。」

イヴ「私に、ですか......?///」

 

 あんな風に、思っていてくれたなんて......

 

 すごく、嬉しいです

 

 でも、ならなぜ、あの日はフられたんでしょうか......

 

環那「まぁ、こんなこと言っても分からないよね。」

 

 カンナさんはふぅ、と軽く息を付き

 

 私の前で正座をしました

 

環那「俺は、自分の勝手な事情でイヴちゃんを傷つけた。申し訳ない。」

イヴ「か、カンナさん!?」

 

 カンナさんはいきなり、私の前で頭を下げました

 

 本当にいきなりで驚き過ぎて

 

 カンナさんを止めるのに少しだけ時間が空いてしまいました

 

環那「俺は無意識のうちに保身に走ってた。好きな人に失望されたくないからと、これ以上誰かを好きになるからを回避しようとしてた。」

イヴ「......え?」

環那「と言っても、気付いたのはさっきなんだけど。」

イヴ「え?今、なんと......?」

 

 好き、そういいましたか?

 

 カンナさんが?誰を?

 

 いや、これは状況的に......

 

環那「じゃあ、改めて言葉にするよ。俺は、イヴちゃんも好きかもしれない。」

イヴ「......!///」

 

 その言葉に、大きく心臓が跳ねました

 

 かもしれない、とまだ曖昧ですが

 

 カンナさんが、私の事を好きと言いました

 

環那「俺は人を好きになると言う事を理解しきってない。けど、そう言う感覚があるんだ。」

イヴ「そう、なんですね......///」

環那「リサや燐子ちゃん、琴ちゃんとは違う。けど、全く違うわけじゃない。きっと、核となる部分は一緒なんだ。だから、好きかもしれないって感覚があるんだと思う。」

イヴ「......///」

 

 これは、困りました

 

 嬉しすぎておかしくなってしまいそうです

 

 地獄から天国に昇った気分です 

 

 こんなに好き(かもしれない)といってくれるなんて

 

 今、すごく幸せです

 

環那「自分の気持ちについてはまだ勉強中だからさ、もう少しだけ待っていて欲しいんだ。」

イヴ「は、はい!もちろん、ずっと待ってます!///」

環那「ありがとう。絶対に後悔させないから。どんな形になっても、幸せにする。」

イヴ「分かってます///カンナさんのことを、信じてますから///」

環那「......うん。」

 

 そう言うと、カンナさんは嬉しそうに小さく笑いました

 

 その姿を見て、胸の中が温かくなりました

 

 やっぱり、私はこの人が大好きです

 

環那「それじゃあ、俺はそろそろ帰るよ。」

イヴ「え、もうですか?」

環那「今日はこの話をしに来ただけだから、あまり長居するつもりはないんだ。」

 

 そう言って、カンナさんは立ち上がり

 

 身だしなみを整えました

 

環那「......イヴちゃん。」

イヴ「どうかしましたか?」

環那「明日、バイト?」

イヴ「はい!17時からです!」

環那「じゃ、その時間に羽沢珈琲店に行くよ。」

イヴ「え?///」

 

 また、顔が熱くなりました

 

 明日も、カンナさんに会えるんですか?

 

 しかも、カンナさんの方から会いに来てくれるなんて......

 

環那「じゃあ、帰るね。」

イヴ「は、はい///また、明日......///」

環那「うん。」

 

 そんな会話の後、私はカンナさんをお見送りしました

 

 玄関で最後にカンナさんに頭を撫でて貰って

 

 家に1人になってしばらく、幸せな気持ちで一杯でした

 

 




ヒロインはこれ以上増えないです。
あと、このシリーズはオムニバス方式っぽくなります。(100話便乗報告)
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